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No.43445の一覧
[0] 本のダニ[剛毛遊民](2020/01/08 06:30)
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[43445] 本のダニ
Name: 剛毛遊民◆e9bd7a34 ID:84954ba9
Date: 2020/01/08 06:30
本のダニ


[1]

男は、小説のページをパラパラとめくる。

「ああ、つまんねぇ‥‥‥」

やがて本は投げ捨てられ、無造作な部屋の風景の一部と化した。

部屋の床には、男が読み捨てた本が、足の踏み場もないほどに散らばっている。

男は、散らばった本の上に寝そべり、自分を照らしている蛍光灯を見上げた。

光の眩しさに、右目を手で隠しながら、男は目に涙を浮かべていた。

俺なら、もっと上手く書くーーー



[2]

「タカ君、小説家になりなよ」

「小説家? そんなの、なれるわけないよ」

「なれるさ、だってタカ君の小説、こんなに面白いじゃないか」

「面白い?‥‥‥本当に?」

「うん!」


[3]

「なぁ、高木君。いつも何を書いてるんだ?」

「ああ、これかい。これはね、小説だよ」

「小説? ちょっと読んでもいいかな」

「だめだよ、まだ出来上がってないし」

「ちぇ、いいじゃないか」

「まぁ、出来上がったら見せてやってもいいけどな」

「へぇ、楽しみにしとくわ」

「ああ、待ってな」


[3]

「なぁ、君、趣味とかある?」

「え、‥‥‥趣味? 特にないよ」

「え、じゃあ休みの日とかなにしてるの?」

「‥‥‥本を読んでますかね」

「‥‥‥本? へぇ、そうなんだ」

「‥‥‥」


[4]

「「タカ君、元気?」」

「「超元気」」

「「へぇ、大学、楽しそうだね」」

「「そっちは? 浪人してたよね?」」

「「‥‥‥」」

「「なに、黙ってどうしたの」」

「「‥‥‥俺さ、大学行くやめようと思って」」

「「‥‥‥え?」」

「「‥‥‥ごめんね」」

「「‥‥‥そうなんだ。‥‥‥ま、それもアリだと思うよ!」」

「「‥‥‥ねぇ」」

「「ん、なに?」」

「「まだ、小説書いてる?」」

「「‥‥‥小説? 」」

「「‥‥‥」」

「「あ、ああ、書いてるよ。俺、小説家になろうと、頑張って‥‥‥」」

「「‥‥‥そっか、残念だよ」」

「「‥‥‥え?」」

「「じゃあね」」


[5]

ペンを置いてから、5年程経っていた。

正直言って、小説を書く気はない。

友達に見せるはずだった小説は、今も手付かずだ。

「タカ君、小説家になりなよ」。

俺は、友達が言っていたことを忘れていたわけではなかった。

だが、思い返そうとする気もなかった。

「小説家になりなよ」。

この言葉は、呪いだった。



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