僕は.....小さい頃はヒーローになりたかった....。
困っている人を助けられる最強のヒーローに・・・・・・。
この世界は一風変わっているように思える.....。だってこの世には怪人症候群というものが存在し、ある特定の条件を満たしてしまうと人は怪人と化してしまう。
それは僕、幾田澪(いくた みお)も例外じゃなかったらしく、それが僕にとって人生の足枷になっていたのかもしれない......。
「ご、ごめんなさい!」
_____ドンッ!
そう言って怯んでいるミオの胸部を誰か思いっきり押したことで体育館裏の壁に彼の背がぶつかる。
「だからよぉミオ、俺らは今金がねぇんだよ、なっ? その意味が分かってるのかどうか聞いてんだよ!」
「そそ、それは勿論分かってます.....けど、急に万単位のお金を僕に払えと言われても・・・・・・」
するとミオの目の前にいる男の一人が彼の制服の襟を掴むと拳を振り上げて呟く。
「お前の都合なんか知るかよボケ! お前は今すぐここにいる3人に必死で媚びながら金を渡せば済むんだよ!」
「わわわ分かりました!、でも猶予を下さい!」
ボサボサとした頭に丸眼鏡、それに小柄な体格のミオは不良達からしたら良いカモである。
「あぁ?、猶予?........嘗めてんのオラァッ!!」
「ご、ごめんなさい! 生意気言ってすみませんでした!」
そう言って土下座するミオ、すると次の瞬間には彼の後頭部へと思いっきり踵が振り落とされ呻き声を挙げて地面へと押し潰された彼の耳には自分を嘲笑う者達の声が聞こえてくる。
すると________。
「ねぇ、私のミオから離れてもらえないかしら?」
「なっ!?、ハルヒ.....ッ!?」
男達は一瞬たじろく様子を見せた。だがそれもその筈、彼女....真野瀬春緋(まのせ はるひ)は男相手の喧嘩で圧勝してしまう程に強いのだから.......。
男に劣らずの高身長に加えて生まれ持っての目力で睨まれた時には臆さない人間などいないだろう。
「な、何でこの女が此処に!?」
「今後.....一切ミオに手を出さないことよ。いいわね?」
「何だとこのアマ!?、その口を塞いでやろうか!」
「おい待て!、先週こいつとボクシング部の奴らが喧嘩になってボコボコにされてたんだぞ!?」
「・・・・・・チッ!、覚えてろよ....!」
「ザコ相手にそこまで気を使いたくないわ」
去っていく3人の不良の目にはハルヒへの憎悪が宿っているのだが、それを意に介さない様子でミオに手を差し出す。
「あ、ありがとハルヒ.....お陰で助かったよ」
「あっ、そっ.....」
そう彼女は言った直後、ミオの顔面に向けて拳が放たれミオはそれに堪らず目を瞑ってしまう。
______コツン.....!
「もお、ホントだらしないんだから......」
彼女の放った拳はミオの額を軽く小突いただけで終わった。だが内心彼は恐怖のあまり気絶する一歩手前で踏み留まっている状況であり、ミオは気を落ち着かそうと無理に笑ってみせたがひきつった笑みにしかならず彼女は思わず苦笑を見せた。
「次はちゃんと避けるか防ぐかしてよね?」
「そ、それは僕にとって無理があるような・・・・・・」
「まあいいわ、......一緒に帰ろ♪」
「あっ、待ってください!」
「時間は有限なのよ! 今を楽しまなくちゃ!」
夕暮れの空のもと、二人は帰り道を歩いていた。ここには河川が流れており遠くの方では三角州が見受けられる。
「っでさ、友達がね!・・・・・・・どうかしたの?」
「いえ! えーと、その.....はい」
「何々?、もしかして恋の悩みとか?」
「ち、違いますよ! その.....そのですね」
そう焦りつつも言葉を濁すミオ、そんな彼に対してハルヒは彼の整理がつくまでひたすら帰り道を歩いていた。
「その.....ハルヒさんは!、怪人症候群についてどう思いますかッ!?」
「へっ?、怪人症候群ってあの突然変異で起こる症状のことよね?」
「そそ、そうです! その事について一度聞いてみたいと思っていまして・・・・・・」
「....??、・・・・・・まぁ一言で言えば“怖い”....かな..」
「そ..、そうですか..........」
「だけど.....、逆に憧れるッ!」
「・・・・・・・・え...?」
キョトンとした様子で彼女を見つめるミオ、そして彼女の方もミオの顔を見返し笑った。
「だってさ!、言い方を変えればスーパーパワーとか言うやつでしょ? それで人を助けられたら私はそれを格好いいと思うわ」
「よ、良かったです.....ハルヒさんが良い人で.....」
「何よ?、その一生会えなくなるみたいな言い草? あっ、そうだ.....あんたにコレ渡しとくわ」
そう言ってミオに放り渡したのはミニサイズのチョコレートであり、ミオは訳が分からず目をしばたかせた。
「“義理”よ義理、友達分が余っただけだから本命とかそう言うんじゃ・・・・・・・」
そう言ってミオから顔を反らした彼女であったが、直後に彼女の足取りが止まり次の一瞬にはミオを道の端へと突き飛ばす。
「いててててて........んっ?」
ミオの目にはハルヒに迫り来る一人の男の姿が見え、彼女の方は少し腰を落としつつ男がぶつかってくる直前に首元へと回し蹴りを食らわしたのであった。
「ちょっと今私、話の途中なんだけ......ど?」
ハルヒの予想とは違い崩れさっている筈の男は首元に叩き込まれている彼女の足を片腕で掴むと、男からして真横へと彼女ごと投げ飛ばしたのである。
「ハルヒさん!!?」
「痛...っ.....!?」
彼女の体は電柱へと叩きつられ頭部からは血が流れていて命の危険がある。
それに男の様子が変だ.....。そうミオが直感的に感じていると次の瞬間には男の肉体が大きく肥大し、肉風船とも呼べる状態へと急激に変化する。
「か、怪人症候群っ!?」
「ア“ア“ア“ア“ア“ァ“ァ“ァ“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ーーーーッ!!!」
「うっ!、耳がッ!」
両耳が今の男の雄叫びで激しく痺れる。それと同時にミオの体は男から放たれた拳により吹き飛ばされ、それと同時に鈍い音が辺りに響きわたる。
「ガハッ!?、骨が・・・・・・・!!?」
全身の骨のいたるところが粉砕され加えて片足の向きがおかしいのも分かった。すると彼は吐血した口に最後の力を振り絞り何かを放り入れる....、それは先程ハルヒに貰ったチョコレートである。
(これだけは絶対に使いたくなかった.....、だけど)
そう心で呟き暗くなる視界の端で一瞬ハルヒを見たミオ、そして彼は本題の男へと視線を向け直すと意識はそこで途切れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!ハ!」
気絶した筈のミオが突然笑い出した、それも常軌を逸した程に狂気的なものである。そして意識の無いまま不意に立ち上がった彼の体からは茶色いヘドロのような流動の物体が噴き出し、彼の全てを覆い尽くした。
「ギャアァァアーーーーーーーーーッ!!!」
ヘドロモンスターのような人型の物体、それから発せられた声は先程の男が放った雄叫びの比ではなかった。
______ドパァーンッ!!
斜線上に一閃、男の顔面をモンスターが殴り飛ばした。この勝負にもはや大きさの大小は関係ないのだろう、あるとすれば相手を殺しても満たされぬ程の“狂気”のデカさであろう。
「ギャアァァアーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「ア“ア“ア“ア“ア”ア“ア“ア“アア“ア“ア“ア“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ーーーーッ!!!!」
雄叫びを挙げる二匹のモンスター、その様子はもはや人の織り出せるそれではなかった。
「おっ!、あっちに面白そうな奴がいるわね♪」
そう何者かは呟き、姿を消していった。そしてこれから起こることは天国地獄のどちらやら?、それはもう誰にも分からないことだ.......。