真名とは、つまりは誠の名のことである。それらはこの世界に産まれおちた瞬間に誰かしらから捧げられるものであり、名には力があり魂の具現化とも呼べるだろう。
そしてこの世の全てには真名が宿っており、それらを己の意思で操ることを魔法という。
例えば、炎の真名を知っていれば炎を操れる。そして生き物であれば相手の真名さえ分かれば魂を拘束し奴隷として扱うことさえ可能である。
だから人間はそれらを隠し、“偽りの名”と呼ばれる名前で生活を送っているのだ。
ここは、何処であろうか....。まだ発展すらしていない小さな村であり、とある村の一角がやけに騒がしい。
「ああ!?、金が払えないだとッ!」
「で、ですから.....私は何も・・・・・」
そこは村の端にある家の物陰。そんなところに大の男が数人がかりで寄ってたかって一人の村娘へと怒号を浴びせていた。
「さっきお前ぶつかってきた時に俺の仲間がお前に手首折れたって言うんだよ! どう落とし前つける気なんだ!?」
「ですから.....、ですから私は何も・・・・・・」
______バンッ!
少女の左頬を一人の男の一撃が掠めて家の外壁に当たる。少女は引きつったような声と青ざめた表情で複数の男達を見つめる。
すると数でも個の力量でも劣る自分に一体何が出来るとでも悟ったかのように虚ろな目となり視線は下へと落とした状態で男達へこう問いかけた。
「どうすれば......、私を解放してくるんですか....?」
するとここで、男達は待ってましたとばかりにニタリと笑みを浮かべると少女へこう語りかけてくる。
「まぁ....、お嬢ちゃんが俺達と一晩のお相手をしてくれるなら許してやらなくもないがな」
そう言って周囲からはドッと笑いが起き、結局はこうなるのが分かっていたとばかりに少女は小さくて力の無い溜め息を漏らしたのであった。
すると男の一人が少女の肩辺りまで伸びた綺麗な金髪に触れてきた。ここで身を退こうとするも背後が壁なのも合わさり抵抗する様子は見せず静かにそれを受け入れる。
(・・・・・・誰か私を、助けて下さい......)
「そんじゃお嬢ちゃん、立ち話もなんだし場所を移すとでも・・・・・・」
「あの~、少し道を尋ねたいのですが宜しいでしょうか?」
突然の背後からの見知らぬ声に男達は思わず後ろを向いていて身を固めてしまう。
そしてそこにいたのは男達より一回りも体格の大きな青年であり、ニコリとその場の全員に微笑みを向けつつその青年は話を続けた。
「あの僕、この村にいるって噂の魔法使いを訪ねに此処を訪れた者なんですけど誰か知ってる人って居ませんかね?」
突然の問いかけに反応が出来ずにいる男達をさしおいてこの場にいた少女が震える声で名乗りを挙げた。
「あの私....、その人知ってます....」
「そうなの!?、それは良かった良かった! 早速だけど案内頼めるかな?」
そう言って少女をこの場からかっさらおうとする青年、しかし男達も黙ってはいなかった。
「ちょいと待てアンタ! 何処の誰かも知れねぇガキが、なに人の女ぶん盗ろうとしてんだよ!」
「私ッ!、あなた方の女じゃありませんからね!?」
「まぁまあ両者ともあんまり感情的にならず、ここは一旦俺の方に任させてもらいますよ」
そう言って少女と男達の間に割って入る青年、すると次の瞬間には男達の怒号が響いてくる。
「なに勝手な事ほざいてんだよガキが!」
「そうだぜ!、詫び入れろ詫びッ!」
すると青年はこの様子につい軽い溜め息を漏らすと視線を男達へと戻し、懐から何かを取り出す。
「じゃあ幾ら払えばいいですか?、お金なら幾らでも持っているので」
そう言って青年の懐から現れたのは小袋一杯に詰まった金貨の塊であり、男達は思わず固唾を飲んでその青年の持つ小袋を見つめる。
「あれ?、金額言わなくて良いんですか? なら皆さんで仲良くどうぞ」
その瞬間、青年は片手を小袋へと突っ込むと無造作に掴んだ金貨の塊を頭上高く放り投げたのであった。
その時舞っている金貨はまさに金の雨であり、男達はプライドという殻をぬぐい捨てて地面へと転がり落ちてくる金貨に我先へと飛び付いていく。
「それじゃあ、案内お願い致しますします」
「えっ? あっ、はい!」
今見ていた光景に圧されてか数瞬の間、思考の止まってしまっていた少々。そして青年に促されるまま目当ての人物の所へと雄叫びを挙げる男達を置いて去って行ったのであった。