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No.43367の一覧
[0] 無敵不死鳥おじいちゃん[宮本仁](2019/09/15 23:04)
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[43367] 無敵不死鳥おじいちゃん
Name: 宮本仁◆e9bd7a34 ID:84954ba9 次を表示する
Date: 2019/09/15 23:04
無敵不死鳥おじいちゃん


空手を習って五年半。
私には、ひとつ謎があった。

左手を、引きーーー。
足から、脚へ。
脚から、腰へ。
腰から、背(せな)へ。
背から、腕(かいな)へ。
そして、螺旋のエネルギーが、空へほとばしる。
これが空手の基本、正拳突きである。
ーーーだが、なぜ、手を引く必要があるのか?

「おい、としひろ」

私の名を呼ぶ男がいた。
兄弟子の、佐藤ーーー。

ボゴッ。

佐藤の右拳が、私の鼻っ柱を折った。

「ぐうっ!」

「はは、隙だらけだな!」

佐藤は、道場の床へ転がる私を見て、笑っている。

「お前のようにうだうだ考えてる奴は、一生強くなれやしねぇ!! そこで這いつくばってろ!!」

佐藤は、高笑いしながら道場を後にした。



空手を習って五年半、私には、一向に強くなる兆しが見えなかった。
そんな私は、ついに先生の元を訪ねることにした。

「先生」

「なんだ、としひろ」

「‥‥‥」

「どうした、さっさと言わんか」

「‥‥‥どうして、引き手を取るのでしょうか」

「‥‥‥はて?」

先生は、首を傾げた。

「すみません、私には、どうしても引き手の意味がわからんのです」

「‥‥‥いいか、としひろ」

「はい」

「そんなことを考える間があれば、稽古をせんかっっ!!」

ボグァッ。

先生の正拳突きが、私のみぞおちに突き刺さった。

「ぐあっ‥‥‥」

私の五体は、畳の上に投げ出された。

「‥‥‥出直してこい!!」

先生は、自室の襖を閉めた。

「‥‥‥先生」



その帰り道、じんじんと痛む腹をさすりながら、先生の正拳突きを思い出していた。
流石、というべきか、先生の正拳突きは、佐藤のそれと比べ、恐ろしいまでに正確無比だった。
もし、あの突きを顔に食らっていたならーーー。
私は、死んでいたかもしれない。

しかし、先生の突きは、私に次なる疑問を投げかけた。
何故、先生の突きは、あれほどまでに、「型通り」なのかーーー。
私は、夜も眠れなかった。



翌日、道場に、佐藤と私が呼び出された。

「‥‥‥‥佐藤!!」

「押忍!」

佐藤が、道場の中央へ出た。
そのまま佐藤は、先生の前で、見事な正拳突きを披露してみせた。

「‥‥‥‥次、宮本!」

「‥‥‥‥押忍!」

私も、先生の声が聞こえると同時に、道場の中央へと、足を踏み出した。

左手を、引きーーー。
足から、脚へ。
脚から、腰へ。
腰から、背(せな)へ。
背から、腕(かいな)へ‥‥‥。

「‥‥‥」

二人の突きが終わると、先生が、私たちの側へ来た。

「‥‥‥‥‥うむ、佐藤、お前の突きは力強い、このまま精進するように」

「‥‥‥押忍!」

「‥‥‥宮本」

「‥‥‥押忍」

「‥‥‥お前は、何もできとらん!!」

先生が、私の肩を叩いた。

「‥‥‥押忍」

「‥‥‥‥くだらん事を考えている間があれば、突きをせい!!」

先生が、私の脇を叩いた。

「‥‥‥‥押忍」

「‥‥‥‥返事は!!」

「‥‥‥‥押忍!!」

「よし、もう一度やってみろ」

「‥‥‥‥え?」

「おい、先生!」

佐藤が、口を出した。

「黙れ! ほら、はようせんか!」

「は、はい‥‥‥!」

私は、先生に言われるがまま、再び道場の中央へ出た。

先程先生に叩かれたところが、痛む。
こんな状態で、突きなど繰り出せるのだろうか。

「突け! としひろ!」

先生の声が、私の背中を押すようにーーー。
私は、正拳突きを繰り出した。

私の突き手は、まっすぐ空を切り裂いた。
初めての感覚だった。


「‥‥‥‥‥ほれみろ、できておる」

先生が、私を見て、そう言った。

その日、先生は、私に免許皆伝を言い渡した。




その翌日から、私は何も考えずに突きを打ってみた。
すると、私の突きの姿が、先生の突きの姿とそっくりになっていた。
この五年半は、私の中に「正拳突き」をもたらしてくれたのだ。
しかし、依然として疑問が残った。
なぜ、引き手を取るのかーーー。


道場と、外とを繋ぐ橋の向こうに、佐藤の姿が見えた。

「おい、としひろ」

「‥‥‥」

「先生がお前に免許皆伝を下さったそうだが‥‥‥まさか、真に受けてはいないよな?」

佐藤が、拳を握った。

私は、佐藤に一礼すると、その場を通り過ぎようとした。
すると、佐藤は去り行く私の左腕を掴み、突きを放ってきた。

私は、佐藤に掴まれた左腕を、自分へ引き寄せた。
それはそのまま、引き手となりーーー。
奇しくも、私の身体は、正拳突きの型をなぞっていた。
私の右手が突き出され、空を手にするころ、佐藤の身体は道場の入り口に吹き飛んでいた。
佐藤の腹は、螺旋状にねじくれていた。





それから、50年が経ちーーー。


「おい、お前今、肩当たったろ」

路上にて、因縁をつける強面の男達が3人。
その老人は、道端いっぱいに歩く男達の肩に接触してしまった。
入れ墨の男達が、1人の老人を取り囲んでいた。

「おいジジイ、何とか言ったらどうなんだ!」

男達のうち1人が、一向に口を開こうとしない老人に食ってかかった。


「お前ら喧嘩売る相手まちごうとるぞ」

男たちは、老人の口から出た予想外の返答に怯んだ。
その老人は、とくに怖がっている様子も見せず、逆に男たちにくってかかったのだ。

「おいジジイ、ちょっとこっちこんかい!」

老人に食ってかかった男が、老人の肩を掴んだ。
すると、老人はその男の股関を蹴り上げた。
蹴られた男の顔が、どんどん青ざめていく。
老人は、股を抑え、うずくまる男を、構わず殴り続けた。

その様子を見た他の二人は、老人に殴りかかった。
しかし、その老人は二人に殴られようと、股を蹴った男を殴り続けた。
男の顔の形が大きく変わり、赤い泡を吹くころ、二人は老人を殴るのをやめた。
二人は、今もなお殴られ続ける男を見捨て、その場を退散した。
警察を呼びに行ったのだ。

「おい、あいつら行ってもうたぞ、ええんか?」

老人は、男を殴り続けながら、聞いた。
しかし、何時までたっても返事が帰って来ないとみると、老人は、やっと男を解放した。

「ほな、行くわな」

老人は、男を壁に寝かせた後、サイレンの音が聞こえる前に、その場を去った。


空手家、宮本俊弘が道場を発ち、50年の月日が流れた。
今や孫を持つ身となった俊弘は、トラック事業に失敗し、1000万円もの借金に追われていた。
今や、俊弘は、その身に凶器を宿す街の怪物と化していた。


これは、私の祖父、宮本俊弘の奇譚である。




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