レイシア等を乗せた装甲列車は、機械軍の侵攻を妨げるようにバスキア南部戦線の手前に沿った形で建設された、高さ約200mにも及ぶ多重層装甲壁が連なった対機械軍バスキア迎撃城塞に近づいていた。
列車はトンネルを抜けると同時に、車外からの連続した轟音が車両に鳴り響き凄まじいその振動を車内に伝導させる。
「なっ、なんだ!?戦闘か......!?」
レオはその突然起きたあまりの事柄に平静を崩す、また傍にいたレフティアもその轟音に驚いたのか窓の外を急いで確認するも閃光で目が眩む。
そして視界が回復した頃にもう一度その目で外を確認する。
「えっ、うそでしょ......?」
窓の外に広がる景色に、レオとレフティアは釘付けになる。
「迎撃城塞が、稼働しているの......?えっえっ待って、これどういう事?機械軍がそこまで攻めてきてるの!?」
レフティア達からは離れた車両のレイシア隊の面々も同様に、車窓に唖然と釘付けとなっていた。
その数多の轟音の正体は、迎撃城塞から放たれているものだった。
凡そ無数に可能な限り搭載された対空、対地、迫撃砲等のあらゆる武装が施されたこの迎撃城塞は圧倒的な防御力を誇り、この広大な南部戦線全体を機械軍の侵攻から防衛している。
この迎撃城塞が大戦時に建設されて以来、機械軍による共和国領の侵攻を許した事例は過去存在しない。
「迎撃城塞が稼働しているところなんて初めて見たぞ......、機械軍の活動は大人しいって聞いてたんだが......、マジで俺達これからあの迎撃城塞の向こう側に行くのかよマギさん!?」
レオは力が抜けたかのように席に腰を落としてマギの方に目をやる。
「そうだよ?」
マギは首を傾げて不思議そうな表情でそう返す。
「いや「そうだよ?」じゃないっすよこれ!南部戦線が今こんな事になってるなんて言わなかったでしょ!」
「そうよそうよ!それにこんな状況セントラルでも聞かなかったけど!」
レオとレフティアは必死な様子でマギに訴えるが、その訴えはマギには微塵も届いてはいない。
「うーん、まぁそれはタイミングが悪かったとしか言えないかな?だって機械軍の攻勢が激化したのはつい最近の話なんだから。正確には帝国との戦争終盤辺りだったかな?その内共和国中で話題になるよ、それにこんな軍勢はここ数百年の間で一番の規模だろうしね......、南部統合方面軍の臨時編成も完全でない今、中央への情報伝達も軍閥が連帯してないせいでかなり遅滞しているし仕方がないんじゃないかな?」
マギはそう説明するが、レオとレフティアから怪訝な表情は晴れない。
「いや!!!仕方ないにしても今行く必要ないでしょ今!?現在もっぱら戦線は大戦争中なんですよ!?」
レオはそう軽く声を張る。
「ふーむ、まぁ悪いけど君たちがいくら文句を言った所で意味ないからさ。今は大人しく無事にここを抜けられることを祈ろうよ?」
マギはそう冷静沈着に笑顔で返答し、レオとレフティアはその返答に何とも言えなぬ恐怖感を心の底に抱いた。
((ま、まじかこの人......、正気じゃない))
装甲列車はやがて迎撃城塞の列車通過用の出入り口を通ってそのまま城塞内を通過、遂に現在進行形で火砲が飛び交う城塞の外側へと出た。
「―――この度は共和国軍民間装甲列車第301便をご利用いただきありがとうございます。当列車はまもなく火力支援指定エリアを通過いたします、戦闘自体プロトコルに従い当列車は独自走行に可変後、列車火砲を側面展開致します、列車火砲の反動によって車内が大きく揺れる可能性がありますので座席にお座りになり、手すり等に捕まって衝撃に備えていただくようお願い申し上げます。繰り込しお伝えします―――」
車内アナウンスが数回繰り込えされると、装甲列車は独自走行する為の変形を部分的に行う。
その理由は、迎撃城塞を通過する際のこの区間にレールが設置されていないためだ。装甲列車はその輸送性能、火力性能の高さなどから非常に火力支援に優れるが、旧来の弱点として線路が破壊されてしまうと走行不可能となってしまっていた。
その為近代の装甲列車は限定的ではあるが自走の出来る仕組みを装甲列車に取り入れて、ある程度の弱点を克服している。
レールのない区間に入ると減速せずにそのまま直線距離から突入し、先頭車両から射出された無限軌道レールを使用して超速度で走行する。
射出されたレールは最後尾の車両に回収され、そのまま先頭車両にレールを戻していく。
この仕組みの利点は線路のない場所でも速度を維持しつつ走行できる事だが、レール運搬の構造上直線移動しか行うことが出来なくなる。
しかし、この走行方法での目的は推定された戦闘地域を如何に安定して鉄道網を構築させるかという一点のみに集約されている為に、無線路状態での走行は画期的だったと言える。
列車が戦線に出ると、迎撃城塞の目前には旧共和国市街が広大に広がっている様子が見えてくる。
街中の至る所で硝煙があがり、列車運行通路の寸前で城塞駐屯軍と機械軍『スプラミュッタ』との攻防戦が繰り広げられている。
装甲列車による火力支援が始まった。
車内は大きく揺れて後続の車両からは戦線の現状を知らない民間人の悲鳴が幾らか聞こえてくる。
バスキア戦線に突入してから数分後、列車の進行方向から見て左方向から機械軍のガンシップ数十機が列車上空を通過して城塞方面に向かっていくが、その内のガンシップ一機が列車の走行速度に合わせて列車直上に列車砲の死角となる位置でホバリングする。
装甲列車に搭載された対空砲はガンシップに狙いを定めるも、ガンシップの護衛機である【ツードローンV】によって無力化される。
「お、おい!機械軍のガンシップが上に張り付いてるぞ!」
外の様子を見ていたレオがそれを伝えると、レフティアは立ち上がりソレイスを顕現させた。
「まさかとは思うけど白兵戦でも仕掛けてくるつもりじゃないでしょうね......」
ソレイスを構えたレフティアは列車の屋根上に注意を向ける。
通常機械軍のガンシップには、飛行タイプの軽武装小型無人機【ツードローン】を四機、重装備タイプ【ツードローンV】二機、そして非殺傷兵器である対人光学拡散砲を搭載したソルジャータイプ【NアサルトⅡ】を二十四体を積載しており、乗り込まれれば非常に厄介な戦力だ。
「まぁまぁ、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
ピリピリした空気感が張り詰める中、ただ一人マギだけは非常に落ち着いた様子で車窓を眺めていた。
マギはこちら側に向かってくる上空の共和国軍主力戦闘機アタックファイターAF-66Aに目を向けていた。
マギがまさにそう言った瞬間、白兵戦を仕掛けようとしていた機械軍のガンシップは寸前で彼方からやってきた共和国軍戦闘機のAEバルカン砲よって撃ち落され、護衛機のツードローンV諸共粉々の残骸となり、列車上を逸れて街中へと墜落していった。
「ほらね、友軍は信頼する者だよ」
マギはレオ達に顔を向けて大袈裟だと言わんばかりに微笑する。
その様子を見たレオとレフティアは顔を見合わせて、大人しく席に着く。
しばらくして装甲列車は直線距離道路から通常軌道のレールへ戻り、激戦区のバスキア戦線を何とか無事に潜り抜けた。
その頃、レオ達は安堵の声を挙げる。
「ふぅ......、激戦区は何とか抜けたか」
レオは額にかいた汗を腕で軽く拭く。
「えぇ、そうね......。今頃ミルちゃん達が阿鼻叫喚してなきゃいいけど......」
一方、その頃のレイシア少佐達は少佐を除いて軽くパニック状態となっていたが、少佐がそれを宥める形で事無きを得ていた。
そして、列車はバスキア戦線を抜けた最初の途中駅であるセクター31管轄領の装甲列車用補給駅に停車した。