「――――ってことだなぁ」
と、アイザックは目の前にレイシスが存在する経緯について簡易的にレオに語る。
「いやいや、唐突すぎないか!? だいたいそうは言っても本当に信用できるのか!? 」
レオは怒鳴りつけるかのように声を張る。
「あぁ、まぁな。俺たちの計画は奴がもたらしてくれた情報のおかげで殆どの確率で成し遂げられるだろうよ。そんでレオ、お前は保険だ。お前を計画に戦略的に組み込みたいところなのだが......」
アイザックは一息置いてから語った。
「如何せん実力が足らないと見た、あぁーもちろんお前は一般戦力では優秀な人材だが俺たちのような覚醒者同士の戦い。すなわちディスパーダ戦では正直言って雑魚なんだよ」
「ざ、雑魚って......。だがそうは言っても一人はあんたの銃を借りてぶっ倒してただろうが、あれは評価されねぇの?」
「評価はしてるさ、ただお前が倒したのは急襲という限定的状況かつ奴の下っ端であり。その殆どは俺のソレイスのおかげだろう?お前がお前自身で戦略的にレイシス......いーやレイロードクラスは軽くあしらうくらいじゃねぇとこの計画にはついていけん。ただでさえ我々は本軍とは圧倒的に物量差があるんだからよ」
アイザックはそういうとこの場を立ち去ろうと背を向ける。
「ま、せいぜい頑張りぃな。俺はお前に賭ける、力を自覚せよ」
背を向けながら離れていくアイザックは片手を上げて軽い別れの挨拶をすると、巨大な隔壁の外へと姿を消していった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
改めてその場には三人の人影だけが残されていた。しばらくの沈黙後、先に口を開いたのはレイロードの少女、ダグネスだった。
「ご機嫌用、レオ・フレイムス。先日の一件ではお世話になったな。私の部下をよくもまぁあんな重症体にしてくれたものだ」
レオは話しかけられると口先を震わせながら思わず身構える。
「おいおい?そんなに怖がらないでくれたまえよ、こんな子供相手に......さ。別に君を殺そうってわけじゃないんだ、まぁ殺せないらしいんだが。死にはするのか?まぁいいが、確かに私の大事な部下を痛めつけてくれたのは未だ許せずにいるのも事実ではある、しかし君側の事情もこれでも十分把握したつもりだ。しっかしまぁ、拉致から労働と忙しい日々日々を過ごしたものだな......。だからレオ・フレイムス、ここはひとまず一時休戦といこうじゃないか」
ダグネスは片目を閉じ口元に人差し指を当てながら無邪気な表情でそう言った。
「一時......休戦?まぁそれはいいが、俺はお前を倒せるようになれと言われてるんでね、とりあえず手合わせ願うぜ。子供相手に手を出すっつうのも癪だが、レイロードっていうんだから手は抜けねぇな。なんせあんたは俺を一度殺してるんだからなぁ?」
レオの挑発めいた発言に反応してか、ダグネスの隣にいた長身の男が身を一歩前へと出す。
「黙っていれば偉そうにザラ様に話しかけよって......! 口には気を付けるのだな小童が。ザラ様、私が先にアイツのお相手を務めてもよろしいでしょうか?」
「かまわないが......、あまり油断するなよ。あれでも一応ファルファを倒している。ソレイスには十分警戒しろ」
「承知いたしましたザラ様」
その長身の男はダグネスから了解を得ると、レオから3メートルはなれた地点まで近づく、するとすぐ様に前方上の空間から独特の形状をしたソレイスを生成し始める。ダグネスは長身の男を見送ると、戦いを静観するように最も壁に近い後方まで下がった。
「小僧、私は名をベルゴリオと言う。ザラ様と獲物を交える前にまず私を倒せてからゆくがいい。事を構える決心はついたかね? 」
レオは密かにアイザックのソレイスを複製し始めながら答える。
「あぁもちろん、だけどアンタは彼女より弱いんだろ?俺に瞬殺されないように気を付けるこったな」
「口先だけはオールド級の小童だ、その自信に見合うだけの実力を見せてみろ! 」
ベルゴリオはそう言うと、瞬時にレオとの間に距離を詰めながらソレイスを上向きから一太刀振るう。
しかし、レオはそれを見切るように一歩身を引きながらその一太刀を寸前でかわした。
「ほう?初撃はかわしたか。だが......!」
ベルゴリオは振り切ったソレイスを今度はそのまま空中で逆手に切り替え、二撃目へと軽やかに繋げた。
その転じた斬撃にレオはそのまま対応できずに胴体を切り裂かれる。
「ぐぅああああ!!!!......ぐぅ。くそぉ......クソいてぇ......」
レオは処置しなければ確実に死に至るような出血をしながら、そのまま自らの血の海へと倒れる。
もがき苦しむ姿のレオをみながらベルゴリオは倒れ込んだレオに近寄る。そしてそのまま苦しむ姿を目から背けるように静かに急所へとソレイスを刺し込む。
「ふむ、一見ここまでは普通の人間が無謀にもレイシスに立ち向かって死んだだけの構図だが......。果たして話は本当か?アイザック」
ダグネスは目の前で繰り広げられた光景に、アイザックから聞かされていた彼の特異性について一瞬懐疑的になるも、その疑いが晴れるのにそう時間はかからなかった。
レオがベルゴリオの手によってとどめを刺されてから数秒後、レオの地に伏していた血肉は異様な光景と変化を徐々にと周りに見せつける。
絶え間なく流れ続けていた血は、時を逆行するかのように体内へと戻りながら注がれていき、レオの肌色はその元の血の通った姿を再びに露わにする。
辺り一帯の血の海がなくなり、傷口が塞がられると再びレオの意識は覚醒する。
「そ、そんな......。あの話が本当だったとは......」
ベルゴリオは声を震わせながら目の前の光景に驚愕する。
「なんと残酷な......、こんなことが起こってしまっていいのか。死んでから初めてやっと生に復帰する事が出来るなど、あまりに残酷すぎる。これは彼の精神がどこまで持つか分からないぞ、アイザック大佐」
レオは意識が覚醒しきると、再びその地に足をつきながら立ち上がる。
「ふぅ、えーと今のが殺された? って感覚であってるのか? なんかめっちゃ苦しかった気がするけど、感覚が遠い昔だったかのようにぼんやりするなぁ~なんか。まぁいいか、じゃ俺がアンタを倒せるまで何度でも付き合ってもらうぜベルゴリオ? さん。期間は一週間しか残されてないんだからな! 」
「お前......本当に分かっているのか......」
ベルゴリオはレオには聞き取りにくい小声で呟く。
「え?なんて?」
レオは聞き取れないその小声に聞き返す。
「お前、お前は本当に今置かれている運命の過酷さに気づいているのか?」
ベルゴリオのその言葉に、場にはしばしの沈黙が残る。
「過酷さ......?そりゃあまぁ何度も死ぬのは大変だが......」
ベルゴリオはレオのあまりにも拍子抜けた様子に絶句する。
「どういう原理でお前がそういう状況になったのかは知らん。ただお前のその状況は言い換えてしまえば、生身の普通の人間でありながら覚醒者と戦いそして死による救済が訪ずれぬまま苦しみを繰り返す。要は私たちに比べて大きなハンデをお前は背負っているといいたいのだ、お前の死をトリガーとする遅効性の再生能力はただ単に死を先延ばしにしているだけとも取れる、お前はヘラクロリアムに恩恵を受けられず生身で我々のような覚醒者と渡りぬかなかればならない。そのことの残酷さを、お前は分かっているのかと私は問いたい」
ベルゴリオのその言葉に、レオは考え込むような仕草でその問いを思考の中で模索する。
「ま、確かにあんたらのように身体能力は人間の限界止まりなのかもしれない。けどこれでも一応はソレイスは使えるんだぜ、数うちゃあそのうちあんたも倒せるかもしれないだろ? 今の俺にはそれだけで十分だ、無限に強くなれる可能性が残されいるなら、最後まで戦い抜く。知りたいことを知るには力がいるんだベルゴリオさん。そんなことあんた達の方がよっぽど分かってるだろ?」
ベルゴリオはその言葉に深く頷くと、再びソレイスを構えた。
「よかろう。貴公がただの蛮勇でこの場にいるのではない事を知った、我々が国を作り替える過程には申し分のない存在だ。存分に挑んでくるがよいレオ・フレイムス。何度でも殺してやる」
またもや間合いを詰めようとするベルゴリオに、レオはついに複製したソレイスを空間に再び顕現させるのだった。