「気を失いましたか」
ダグネス・ザラはレオに近寄ると、伏せていた上体を上向きになるように蹴り上げる。
「我が同胞に銃口を向けておきながら良くそんな風に気を失っていられますよね、はぁまぁそれはさておきファルファの状態は深刻ですがコイツの息の根を止めて撤収する時間は充分にあるはず」
ダグネスは莢に収めていたソレイスを片方だけ引き抜き、正確にレオの喉元を捉える。
「周りに乗せられでもして思い上がったのかは知りませんが、よく調べもせずにこんなところにきてなんて無様なんですかあなたは。来世は慎重な性格に恵まれれると良いですね」
ダグネスがその切っ先でレオの喉元が貫こうとした、しかしダグネスはある違和感に気づく。ダグネスは先ほど自らの剣で貫いたレオの胸部に注視する。
「......?コイツ。出血をしていない......?そんな馬鹿な、人工ソレイスの切っ先から放たれている熱量で臓器の二つや三つは既に潰れ、あたり一面が既に血の海になっていてもおかしくはないはずです......コイツ人間ではないのか!?」
危機を察したダグネスは速やかにレオから十分な距離を取る、するとその後玄関口からある重い足音が響いてくる。振り向くとそこには見覚えのある男が立っていた。
「やぁー!ザラちゃんひっさしぶりぃー!大きくなったねぇ」
そこにはレイシス教会屈指のオールドであるアイザック大佐が居た、ダグネスにとって彼は特に思い入れのある仲柄ではない為、フレンドリーな接し方に嫌悪感を抱く。
「あなたは、たしかオールドの。最近話題になっていましたね、教会を裏切ったんでしたっけ?すると、そこの彼もあなたと関係がありそうですね?彼が使っていたソレイスは確かあなたのでしたよね」
アイザックは『さぁ?』と言わんばかりに両手を横に広げる。
「おぉ、おぉ。一応そこまでは知っていてはくれたんだねぇ?おじさん嬉しいなぁ。だけどさぁ?君みたいな女の子を相手に力を振るうのは気が引けちゃうんだよなぁ、大人しくそこで倒れてる重症のファルファくん連れて今は引いてくれない?」
とぼけた発言をするアイザックに対しダグネスは憤怒にも似たような感情を抱く。
「あまり調子のいいことばっかり言わない方が身のためですよアイザック大佐、現に私は仲間を一人やられていて気が狂いそうな想いなんですよ、それにアイザック大佐?あなたこそレイロードと事を交えるのが怖いんじゃないんですか?」
挑発じみた発言をアイザックに言い放つ。
「お、威勢がいいねぇ。オールドだからって舐めれちゃこまるよぉ?お嬢さん。しょうがないねぇ、ここは少し分からせるしかありませんな」
アイザックはそういうと直ぐに片手を上げる、上方ダクトでアイザックの合図を待っていたクライネがダグネスに向かってAEスナイパーライフル弾で斉射する。
「これは!?上方にスナイパー!?」
狙撃に気づいたダグネスは後方に高速で後退して狙撃をかわすと、再び武器を両手に携え構える。
「君の能力は知っているよ~ザラちゃん。君は近接空間防壁と絶対知覚を小柄な体を使って自由自在に動き回り使いこなす刺突剣士だ。それに俺のソレイスの防壁破壊能力も知っていれば今の狙撃も防壁には任せられずによけるしかないよねぇ?」
本来であればソレイスは他人には使えず、本人のみが使えるものがこうして第三者の手に渡っている辺り、ダグネスは上方に居た狙撃手もまたアイザックの武器を使えり可能性も捨てきることはできなかった。
「ちっ、厄介な。ブラフだったとしてもあまりに厄介極まれりな状況です、あのスナイパーが持っている武器があなたのそれと同等の能力を保有しているとしたら戦術的に私が討たれるのも時間の問題と言ったとこでしょうか」
ダグネスは思案を巡らせるが、考える暇も与えられることなくスナイパーからの狙撃の雨を浴びてまともにアイザックに近づけずにいた。
「やはりスナイパーがやっかいですね、先にお前から始末します」
ダグネスはサーバー棚を蹴り上げスナイパーめがけて中高く飛びあげた。
「それはさせないねぇザラちゃん?」
突如空中のダグネスの目の前にアイザックが現れると、アイザックはその拳を振り下ろし対応できなかったダグネスは展開されていた防壁ごと地面に叩きつけられる。
「うぐぅ......、ソレイスも持たずに私に近づいてくるとは、思い切りのいいことをする」
「俺を差し置いておけるとでも思ったのかい?つれないねぇ」
地面に着地したアイザックはつかさずそのままダグネスに目掛けて突っ込む。
構えられていた右手がストレートにダグネスの腹部目掛けて放たれたが、ダグネスはそれを華麗にくぐり抜けてかわすと右手に持ったソレイスで右手を切り下そうと振りおとす。
当然それに気づいたアイザックは手は引っ込めぬまま体ごとダグネスに体当たりをした。
振り下ろすよりも早く体当たりされたダグネスは体制を崩しそのまま吹き飛ばされる。
(ぐっ、まずい!スナイパーの斉射二秒前、体制を戻して回避、そのままアイザックに反撃をする!)
ダグネスの読み通りスナイパーのクライネは体制が崩れた瞬間を見逃さなかった。
三発のAE弾が放たれたがその弾道を絶対知覚領域で読み取れるダグネスは狙撃の弾をかわしながらアイザックに接近する。
(未だにアイザックがソレイスを使わないのはやはり複製して持てているわけではないのか、それとも油断させるための罠ですかね)
アイザックに間合いを詰めたダグネスは高度な姿勢を繰り広げながら、アイザックの周りを跳ねまわり斬撃を繰り出す。
アイザックは防壁を展開するも、ダグネスの繰り出す斬撃に圧倒されて生身が傷つけられていく。
アイザックの展開できる空間防壁はダグネスが常時周囲に展開するものとは違い、部位的な物であるため斬撃を受け流すので手詰まりで反撃の余地がなかった。
「うぅ、こりゃきついねー......、クライネちゃんもこれじゃあ援護は難しそうだなぁ。しゃーねぇ、使うしかねぇかこりゃ」
アイザックはついに潜めていたソレイスを片手に生成し、連射射撃で間合いに詰めていたダグネスを追い払う。
「強がり発言ではなかったですか、これは一気に形勢不利になりましたね」
ダグネスはアイザックから距離を取るがすぐさま斬りかかろうとアイザックにめがけて走り込む。
アイザックは走り込んできたダグネスを容赦なく撃ち込もうとするが、ダグネスはアイザックに一撃だけ加えるとそのまま玄関口の方向に走り抜けていった。
「アイザック大佐。あなた方が何を企んでいるか知りませんが、次に見かけるようであれば皆殺しですよ」
ダグネスはそれだけを言い残すと、横たわってたレイシスを速やかに回収しこの場から去っていった。
「はいはい肝に銘じておくよぉ、ったくおっかねぇ。ご老体にはあの手の敵はキツイぜまったく、クライネちゃんも無理言ってごめんねぇありがとねー」
天井から垂らされたロープをつたってクライネはアイザック達の下に降りた。
「いえいえ、騙しの通じる相手がどうかは不安でしたが。上手くいってよかったですよ大佐、しかし本当にソレイスを扱えるんですねレオさんは、一体どうなっているのでしょうか?一定距離以上を離れても消滅せず、再びだせば元の持ち主の元へ新しいものが作られるなんて......前代未聞の出来事でちょっと放心してしまいますね」
クライネは気絶しているレオの元へ駆け寄った。
「この傷で出血なし、さらには眠るように気絶したかと思えば......これは本当に寝ているっぽいですね......、これは今一度レオくんの体を検査する必要がありそうですよ大佐」
「そうだなぁ、レオには大分無理させた。起きたら十分休ませて、それからだな。とりあえず軍警察に目を付けられる前に今日のところはこれで撤収する」
アイザックはレオの体を持ちあげて担ぎ上げると、クライネと共にツァイトベルンを後にした。