イエラートの異世界人達がいる部屋の前にたどり着く。 ノックをして優斗、卓也、クリス、ルミカが中に入る。 すると椅子に座っている二人の姿が確認できた。 おそらく彼らがイエラートに召喚された者達なのだろうが……。 右には黒をベースにしたゴスロリ調の服を着て、なぜか医療用の眼帯をしている黒髪ロングの少女。 左にいる少年は右腕に包帯をしており、前髪が目にかかるほどに長い。 優斗と卓也は嫌な予感しかしないが、とりあえず正面にある椅子に座る。 「皆さん、こちらも貴方達より早くこの世界に召喚されたリライトの異世界者の方々です」 ルミカが優斗達を紹介する。 「宮川優斗。去年の三月に召喚された高校二年生だよ」 「同じく佐々木卓也。オレも一緒に召喚された。優斗と同じで高二だな」 「自分は違うのですが、彼らの親友でクリスと申します」 それぞれが自己紹介した。 「名前を訊いてもいい?」 優斗が尋ねると左にいた少年が右手を僅かに広げ、額に当てる。 「俺の真名は零雅院刹那だ」 「れいがいんせつな?」 「始まりにして虚無の『零』を持つ俺の真名を迂闊に紡ぐな。貴様らも奴らに追われることになる」 一瞬、時が止まった。 「……ああ」 「……やっぱりか」 「……これがそうなのですね」 思わず優斗達は立ち上がって部屋の隅で相談。 「ユウト、タクヤ。前にイズミから教えてもらったのですが、厨二病というものに当てはまるのでは?」 「その通り。こっちの世界の人じゃ手に負えないのもしょうがないよ」 「厨二病がリアルに異世界に来るとか厄介だな」 妄想が現実になるとか。 まさしく自分が特別だと勘違いすること間違いない。 「余計に拗れただけだよね」 「妄想が強固になってしまった、というわけですね」 「だったらどうする?」 卓也がクリスと優斗と相談する。 「ユウトは多少囓っているので飛び込んでいけるのでは?」 「悪いけど詠唱だけだから。一般生活まで犠牲にしてないから」 「優斗のは表面を触っただけの“にわか”だしな。ただ、いつの間にやら『契約者』とか『大魔法士』とか呼ばれて、優斗自身が厨二病の妄想みたいな存在になっているわけだけど、こいつの場合は事実なもんでしょうがない」 一応、優斗自身は否定しているが諦めろとしか言えない。 「諭せそうですか?」 「無理だろうね。突貫していくしかないんじゃない?」 「しょうがないけど、それが一番だろうな」 相談終了。 卓也達は再び椅子に戻って早速訊いてみる。 「お前、真名じゃなくて名前は?」 「告げる必要がない。俺は零雅院刹那が本当の名なのだから」 「名前は?」 「さっきから言っている。告げる必要が――」 「名前は?」 「だから――」 「日本語が分かる日本人なら、名前ぐらい言えるんじゃないか?」 卓也が一歩も引かないで何度も訊く。 すると、なぜか刹那は右腕を左手で押さえた。 「くっ! 闇の眷属である俺は何にも屈しない!」 「……なんていうかさ、闇の眷属って明言されるとコウモリと勘違いするよな」 「深海魚じゃないの?」 「キノコみたいですね」 格好良いよりもジメジメしている感じ。 「なんだとっ!?」 「いやいや、文句じゃない。お前らの歳だと闇とかそういうの好きだし」 卓也だって当時は心惹かれるものがあった。 「とりあえずお前がどんなのかは分かったから。名前を無理矢理に聞き出そうとはしない」 続いては右にいる少女。 優斗がやんわりと質問する。 「名前を訊いてもいい?」 「私の名前は林朋子」 あまりにも一般的な名前に優斗は少し驚く。 「普通だね」 「けれど私にはもう一つ、人格があるの。彼女の名前は羅刹。堕天使ルシファー様の眷属にして氷を司り、世界の終焉を護る巫女よ」 「……普通じゃないね」 色々と設定を積み込みすぎだ。 堕天使の配下なのに終焉を護るとかどういう設定だ。 しかしクリスが首を捻る。 「ユウト、堕天使ルシファーとは何ですか?」 「……? ああ、そっか。こっちの世界じゃ神様は龍神だもんね。龍神を守護してるのは精霊だし、天使とか堕天使とかいるわけないか」 クリスの疑問も当然。 セリアールだと通用しない設定だ、これは。 「羅刹は言っているわ。この世界は終焉に近付く可能性がある。だから私が遣わされたのだと」 たった今、設定が代わったらしい。 臨機応変もここまで来ると凄い。 卓也はもう一人の彼にも再度、訊いてみる。 「刹那は? お前はどうしてこの世界に来たと思ってるんだ?」 「元の世界では『世界』に対する俺の影響力が強すぎる。それを奴らに悟られた俺は逃げるため、『世界』に影響を与えないため、この世界へと渡った。無論、この世界でも影響は強いようだがな」 「……とんでもないな、おい」 卓也は刹那の設定を聞き終えると、状況をまとめる。 「確かに暗号だ。俺らじゃないと分からない」 「設定がセリアール準拠じゃないからね。こっちの人達が意味分からないのも同意」 しかも知識の守備範囲がオタク寄りだから性質が悪い。 「マサキさんはどうなのですか? 分からなかったようですが」 「あの人は真っ当だからね。サブカルチャーには弱いんだよ」 世間一般的に呼ばれているリア充という人間だ。 するとルミカがちょっと期待の眼差しで優斗達を見た。 「えっと……もしかして意味が理解できるんですか?」 「意味っていうか、どういう人達なのかは分かったよ」 「厨二病といって一種の病気だ。自分達には特別な力があるって妄想してる」 気持ちは分からなくもない。 幼い頃など、誰もが通った道だ。 ただ、さすがに年齢重ねているのだし、少しは落ち着いたほうがいいんじゃないか……とは思う。 実際に力は得たのは僥倖だろうが、彼らの妄想だと大人になれば黒歴史にしたくなるほど恥ずかしいものでもある。 すると刹那が優斗達の話を聞いて、右腕の包帯を外した。 「聞き捨てならないな」 朋子も眼帯を外す。 「見せてやろう。魂に刻まれた、俺の力を!!」 「終焉の巫女の力、見せてあげるわ」 そして刹那は左手を前に出し、朋子は両手を下にかざした。 「我が特異の力は世界の理を破壊する――」 「私が願うことで全ては救われる――」 さらに言葉を紡ぐ。 クリスと卓也が少し目を細めた。 「独自詠唱ですか?」 「あんな馬鹿げたこと、優斗以外にできるのか気になるな」 「どうだろ?」 優斗としては判断が難しい。 自分以外が独自詠唱を紡いでいる姿を見たことはないが、できないと断定できるわけでもない。 けれど少しして優斗は気付く。 『暗黒なる世界の支配者よ。克也の名において願う』 『永遠なる凍結の覇者よ。朋子の名において願う』 「エレスッ!!」 「ファーレンハイト!」 色々と詠唱っぽいものを口にしていたが、結局は普通に大精霊を召喚する精霊術だ。 「これが奴らに狙われている俺の力だ」 「ルシファー様の眷属にして黄昏の巫女と呼ばれる私の力がこれ」 勝ち誇った顔の二人。 けれど優斗、卓也、クリスは平常心そのもの。 「この国は宗教国らしいし、チートも精霊術方面なんだ」 「精霊術とは驚きましたが……詠唱はやはり独自詠唱ですか?」 優斗に確認を取るクリス。 「違うよ。最後、普通に大精霊を呼ぶ詠唱だったから最初のは全くいらない。それに独自詠唱で大精霊を呼ぶって、かなり無理矢理なんだよね。呼び出す道をこじ開けるように作り出すからパラケルススにも怒られる」 「言いたいだけなんだろうけど……刹那のやつ、さっきの『克也』っていうのが名前だろ? 朋子も羅刹じゃなかったし」 「さすがに自分の名前じゃないと応じてくれないんだよ」 つまりは刹那とか羅刹とかは本当の名前じゃないということだ。 「しかし大精霊で攻撃されたら危ないですね」 「うん。だから没収」 優斗は大精霊二体の名前を呼ぶ。 「エレス、ファーレンハイト」 使うべきは契約者の利点。 「悪いんだけど……」 強制徴収。 「来い」 優斗が告げた瞬間だった。 「なっ!?」 「えっ?」 いきなり供給している魔力のラインを断たれて驚く二人。 闇の大精霊と氷の大精霊は刹那と朋子の後ろから、困ったように優斗のところへと向かう。 「エ、エレス!?」 「ファーレンハイト?」 「こんな部屋で大精霊を召喚されても危なっかしいから、強制的に従ってもらった」 事情を説明する優斗。 だが刹那と朋子は彼を睨み、 「貴様! まさか奴ら――零機関の……ッ!」 「貴方が世界を終焉へと導く者なのね」 もの凄い方向へ優斗の設定を創りだした。 「違うから」 零機関とか何だそれは。 優斗は世界の終焉を導くどころか神様を絶賛育てている最中。 間違っても彼らの設定みたいな存在じゃない。 「ふと疑問になったのですが、彼の説明からしてレイとゼロって同じ意味ではありませんか?」 ちょいちょい、とクリスが卓也の肩を叩く。 「文字的にも一緒だろうな。オレらの世界じゃ一つの文字で二つの読み方がある漢字って文字があるんだけど、それが『零』って書くんだ。名字に零があって、追ってくるのも零機関ってことは『零』みたいな漢字が好きなんだろ」 優斗の琴線にも触れそうな漢字だ。 頼んだら『零』を使って意気揚々と神話魔法をぶっ放すだろう。 「貴様! 俺の闇を顕現させたエレスをどうするつもりだ!?」 「彼女は私の化身。返しなさい」 刹那と朋子が興奮した面持ちで優斗に問い詰める。 「はいはい、ちょっと落ち着こうか。エレスもファーレンハイトも君達が考えてる存在じゃないから」 優斗は大精霊を還しながら彼らをいなす。 「まずは二人とも、セリアールについて知っとかないと駄目だよ」 ◇ ◇ お城で教室のような一室を借りて、お勉強タイム。 数名が刹那達の前に立っている。 まずはルミカから教鞭を振るう。 「貴方達を召喚したイエラートという国ですが、セリアールの中でも二番目に龍神様に傾倒している国です。というのも我が国が一番初めに龍神様を育てたという文献と、初代大魔法士様が魔物に襲われていたところを救って下さったことが発端です」 合間合間に分からないであろう単語の説明を挟みながらの授業。 「また王城の後ろにある精霊山――アルカンスト山は今なおマティス様が使った精霊術と神話魔法の爪痕が残っており、龍神様やマティス様を崇拝している方々にとって巡礼地となっています。イエラートに召喚された異世界人が精霊術に長けているのも、やはりアルカンスト山が何らかの影響を及ぼしているものと思われます」 「……ふっ。違うな、俺の魂に刻まれ――あがっ!」 刹那が演技っぽいことをしようとした瞬間、チョークが額に直撃した。 「そこ、ちゃんと聞く」 優斗が何本かのチョークを手で弄びながら注意する。 「な、何をする!!」 「黙ってちゃんと勉強しなさい。さすがに現状が続くと放り出される可能性だって無きにしも非ずなんだから」 いくら異世界人を求めるイエラートとはいえ、妄想垂れ流してうっかり龍神でも批判したらアウトだ。 「放り出すなどありえないな。俺の力を――」 「残念ながら『力』があるだけじゃ意味が無いんだ。メリット以上のデメリットになったら邪魔なだけだし」 「終焉の護る巫女の私が――」 「……あのね。ルミカやイエラートの人達の話を全く聞かない問題児の君達はセリアールについて知らないでしょ? この世界のことを知らない君達がどうして『イエラートに残れる』なんて分かるの? 無意味な根拠を振りかざすんじゃなくて、異世界人が召喚される理由と意味を知らないと駄目だよ。現状を把握してから妄想を振るいなさい」 優斗は理屈立てて反論を撃破すると、卓也にタッチする。 「チョーク投げ、やってみたかったんだろ?」 「地味にね」 実際に見たことはないが、興味がなかったといえば嘘になる。 「次はオレとクリスから説明しよう」 卓也は刹那と朋子の前に立つと、異世界人と召喚について話し始めた。 「召喚された理由についてお前ら知らないだろうけど、自力で来たとか遣わされたとかじゃなくて死にかけた直前に召喚されるのが基本だ。ちなみに帰り道はない。一方通行の召喚ってことだな」 日本には戻れないということ。 「ちなみに召喚されたら軒並みチート能力が付いてて、えげつない奴になると『勇者の刻印』とかありえない物を持ってる。オレ的には勇者として召喚されたら貰えるものだと思ってたけど正樹さんは持ってないらしいから、これはリライト特有の特典って考えていい。お前らの特典は精霊術だな。実際、異世界人でも精霊術を使えるのはほとんどいない」 優斗も龍神の指輪がない頃は扱えていなかった。 続いてはクリスが喋る。 「この世界は異世界人の皆さんにとってはファンタジーのようなものらしいですね。あちらでは魔法も精霊術もなく、魔物もいないと窺っています。ですから部屋に閉じ籠もっているのではなく、外に出て見聞を広げるのもよろしいのでは?」 少なくとも一日中、部屋にいるよりは健全だと思う。 そして説明係は一周してルミカに戻った。 「イエラート学院は魔法、精霊術を教えているところです。そこで研鑽を詰めば、イエラートだけではなくセリアールでも名だたる精霊術士になれるんじゃないでしょうか。前回召喚された異世界人の方も現役時代は名がある精霊術士でしたから」 最後に優斗が総括する。 「というわけで、まずやらないといけないことは分かる?」 訊いてみると、予想通りといえば予想通りの返答がされた。 「決まっている。俺が世界に影響を与えないよう――」 「終焉を護る巫女として――」 「違うよ」 優斗はテキストを二人の前に置く。 「これがセリアールの文字。書いて覚えようか」 ◇ ◇ 現在、刹那と朋子がテキストとにらみ合いを始め、正樹とハーレム二人が先生役として教えている。 優斗達は先ほどの客間で相談していた。 「他に教えないといけないことありますか?」 「力の使い方だね。力に溺れたら面倒」 優斗は一番に『力』のことを問題点にする。 「……? 大丈夫じゃないですか?」 刹那と朋子以外の異世界人は総じてちゃんとしているように思える。 当然、厨二病が治ったら普通になるのではないだろうか。 「ルミカは楽観視しすぎ。さっきだって大精霊を召喚して勝ち誇ってたでしょ? 調子乗らせても困るから、使うべき時を教えてあげないといけないんだよ」 下手をすれば6将魔法士のジャルやライカールのナディアのようになる。 「イエラートに副長みたいな人がいたらいいんだけどね」 「いるとは思うけど、とりあえずは異世界人の先輩であるオレらが教えてあげないといけないだろ」 右も左も分からない、来たばかりの異世界人。 先輩として手助けはしてあげるべきだろう。 「だからルミカ、ちょっと質問いいか?」 「何でしょう?」 「あいつらが呼ばれた理由、何だ?」 修のように『リライトの勇者』として召喚されたわけじゃない。 ならば彼らが呼ばれた理由とは一体、何なのだろうか。 「国を守って頂きたい、というのが理由と窺っています」 「必要なのは一人だけか?」 「いえ、リライトのように勇者の認定を行っていない以上、異世界人の方が多いのは喜ばしく感謝すべきこと、と仰っていました」 「魔物の討伐は?」 「あると思います」 素直に頷くルミカに対し、 「……厄介だな」 卓也は思わず呻く。 「魔物に関しては慎重を期する必要があるね」 「どうしてでしょう?」 本当に分からなそうにしているルミカ。 これは仕方がない疑問でもある。 セリアールと異世界の違いなのだから。 「あっち――異世界は魔物もいないし戦いもない。つまり魔物と相対すれば恐怖で身体が竦むんだよ、大抵はね」 「ユウト君達もそうだったんですか?」 経験談なのだろうと思って彼女は質問したのだが、思わず優斗と卓也は顔を見合わせた。 「僕は違った」 「優斗は論外だから普通のカテゴリーに入れちゃいけない。ちなみにオレの場合は、初めて魔物を見たときに友人の一人が『マジでゲームにいる魔物じゃんか! 凄えな!!』って笑いながらオレを巻き込んで戦ったから怖がる暇が無かった」 修も和泉もだが、精神構造が異常な奴ばかりだ。 「正樹さんも優斗達と同系統だろうな」 「最初っからBランクの魔物を相手にしてたらしいから」 要するに優斗も卓也も正樹も“戦いに対する恐怖”を最初に味わえなかった。 「全員、役に立たないですね」 クリスがため息をついた。 「呆れるなよ。少なくともオレは怖がってたはずなんだから」 「なんだかんだでタクヤも出来事に対応するキャパシティが大きいですから、恐怖するなど無理な話だったと思いますよ」 おそらく召喚された時ぐらいではなかろうか。 卓也が驚いたのは。 「僕で練習させようかな?」 「魔物すっ飛ばして魔王相手とかどうするんだよ」 チョイスが最悪だ。 レベル1が何でレベル計測不能を相手にしないといけない。 「……すごく疑問なんだけど、魔王ネタは誰が広めてるの?」 「リルとかアリーとかココだな」 「帰ったらとっちめよう」 「基本はココだぞ」 「ココ、帰ったら覚えてろ」 とりあえずグリグリ――うめぼし攻撃とデコピンは確定。 ◇ ◇ 優斗が相手をする、という以外に代替案も出なかった。 なのでキリの良いところで勉強を終わらせ、王城の外に出た。 そして鍛錬スペースで優斗は刹那と朋子と相対する。 「大精霊に関しては呼べないようにしたけど、中位と下位の精霊は呼べるから」 「何を馬鹿なことを。世界に影響を与える俺を舐めているのか?」 「終焉を護る巫女の力は貴方に耐えられるものではないわ」 と言ってのける刹那と朋子。 だが本当に残念だとしか思えない。 「刹那、朋子。教えておくけど、こいつは厨二病の妄想を具現化した異常な人間だから。お前らがどれだけ頑張ったところで傷一つ負わないから安心しろ」 「ユウトは大魔法士ですからね」 卓也とクリスが注意する。 どうしようもなく相手が悪すぎた。 「ちなみに魔法とかの威力がどれくらいかっていうのも説明しておこうか」 優斗がギャラリーに狙いを定める。 意を汲み取って卓也も一歩、前に出た。 「求めるは――」 「求めるは――」 二人は同時に手を前に掲げる。 「火帝、豪炎の破壊」 「聖衣、絶対の守護」 優斗は火の上級魔法を放つ。 卓也は聖の上級防御魔法を張る。 直径五メートルほどの火弾は守護壁に当たり、周囲に火の粉を巻き散らせながら小さくなっていき……消える。 「まあ、こんな感じで上級魔法になったら人は簡単に殺せる。精霊術でも中位精霊なら少し下ぐらいの威力まで持ってこられる。つまり今の君達でも人を殺せる力を十分に持ってるってことだよ」 優斗は改めて二人と対峙する。 「じゃあ、やろうか」 ショートソードも抜いた。 「ちょ、ちょっと待ってくれ! その剣、本物なのか!?」 刹那が初めて焦った表情を浮かべる。 朋子も同様だ。 「もちろん本物。刺さるし斬れる」 「で、でも……危ないわ」 「けれど君達が召喚された場所っていうのは、こういうこと」 純然たるファンタジーな世界だ。 「そしてエレスとファーレンハイト、君達が僕らに向けたモノはショートソードとは比べものにならないくらい危ない。分かりやすく言うなら、いきなり爆弾を突きつけたようなものだよ」 「――ッ!?」 「…………っ!」 現実を教えられて、思わず絶句する刹那と朋子。 「自分達の力の危険性については理解できたみたいだね」 優斗も先日、副長からしっかりと教わったからこそ伝えられる。『力』の危険性というものを。 「これからは“妄想は妄想”……というわけにはいかないんだよ。妄想を実際にやってかないといけない」 頭の中だけじゃ終わらない。 「怖いかもしれないけど、勝手に召喚したのはお前らだろって怒りたいかもしれないけど」 最初の優斗や卓也みたいに巻き込まれただけで必要とされていないのなら良かっただろう。 しかし片方は巻き込まれたとはいえ、イエラートは刹那も朋子も必要としている。 二人に守り手となって欲しいと願っている。 「君達が来てくれたことをイエラートの人達は喜んでる。イエラート王にも会ったけど、良い人だったよ」 リライト同様、召喚してしまった異世界人に対して引け目があった。 と、優斗は茶目っ気を出して笑う。 「それに二人は精霊術を使えて楽しくない? RPGにしかないと思ってたファンタジーを実際に使えるんだよ?」 ゲーム好きやアニメ好きが高じて厨二病になったのなら、喜びはあったのではなかろうか。 「……楽しい」 「……楽しい、わ」 素直に刹那と朋子は頷いた。 すると卓也が近付いてくる。 「頑張ればお前らが好きな『二つ名』だって貰えるんじゃないか?」 「……?」 「どういうこと?」 首を捻る二人に卓也は笑みを浮かべた。 「本当にRPGっぽいんだぞ。例えば優斗なんかは『大魔法士』とか『マティスの再来』とか呼ばれてるし、正樹さんは『フィンドの勇者』だ」 向こうじゃありえない『二つ名』を与えられている。 「だから力の使い方にしても何にしても、少しずつ慣れて知っていけよ。オレ達が協力するから」 もちろん駄目だったら駄目で、どうにかしてやろう。 それがたぶん、先輩としての役割なのだろうから。