フィオナはお昼を食べると王城を後にした。彼女は学院の制服で王城に行っていたのだが、せっかく街に出て買い食いするのだから私服のほうがいい、と優斗を除く全員に断言されたからだ。 「ただいま戻りました」 玄関を通り広間に向かうと、母親であるエリスがフィオナを出迎えた。 「あら、今日は帰りが早いのね」 「今日はこのあと街に出ますので、着替えに戻っただけです」 「そうなのね。お友達と行くの?」 「はい。ユウトさんと一緒に買い食い、というものをすることになりまして」 フィオナが淡々と言うと、エリスが嬉しそうな笑みを浮かべた。 「ユウトさんと……ねぇ。もしかしてデート?」 「……デート、ですか?」 フィオナはオウム返しのように母親が発した言葉を繰り返した瞬間、意味に気付いたのか僅かに狼狽える。 「ち、違います。ユウトさんが一緒に行こうと言ってくださっただけです」 フィオナは否定するものの、彼女の様子に母親であるエリスは微笑ましく思う。 ここ最近における娘の変化には本当に目覚ましく、同じ公爵の子息令嬢どころか王女とも友達になった。そして異世界から来た方々とも友達になったらしい。 中でも特に会話に出てくるのが“ユウト”という人物。 あまり表情を変えないフィオナが一番、感情を発露させるのが彼のことだ。 母親であるエリスが気にならないわけがない。 「フィオナと一緒に行動してくれるなんて、ユウトさんは優しい御方なのね」 「それはもう。ユウトさんの家庭教師で本当によかったと思います」 「だったら今日は買い食いが終わったら、うちに連れてきちゃいなさい」 「……えっ?」 フィオナが母の予想外な発言に固まる。けれどエリスは念を押すように、 「聞こえなかったかしら? 街で買い食いが終わったら、フィオナはユウトさんを家まで連れてきなさい。夕飯に招待しましょう」 「……お、お母様? いきなり何を仰っているのですか?」 母親の突然すぎる発案に、フィオナは一切要領を得ない。 「私が気になるのよ。貴女から話を聞いているんですもの」 どんな人物なのか、母としては優斗に対して興味が尽きない。 「……で、でも急に家にお連れするというのは、失礼に値しないでしょうか?」 「私が言い出したことだから、フィオナが失礼というわけじゃないわよ」 母の言葉にいまいちフィオナは納得しきれないが、結局のところ押し切られて優斗を招待することを了承してしまった。 そして待ち合わせの時間もあるので、部屋へ戻ったフィオナは気を取り直して着替えようとしたのだが、そこで困ったことが一つあった。 「お友達と出かける際、服装はどのようにすればいいのでしょうか?」 何を着ればいいのか悩んでしまった。あれでもないこれでもないと服を出しては考え、自分の姿に合わせては鏡を覗く。 途中からはなぜか家政婦長と母親が参加して、試着を繰り返してしまった。 着ていく服がようやく決まり、フィオナは家を出る。予定より家を出るのが遅れてしまったため、できる限り駆け足で、かつ服装や髪が乱れないように走る。 そうして優斗との待ち合わせ場所に着いたのが約束の三分前。フィオナが約束の場所に近付くと、すでに優斗が待っていた。彼の視線がフィオナと合う。 「すみません、ユウトさん。お待たせしてしまいました」 「いえ。約束の時間前ですし、全然待っていませんよ」 優斗は笑みを浮かべると、フィオナを促しながら商店街通りへ歩き出す。 「では、行きましょうか」 二人で並びながら、けれど決して相手へ触れないように歩く優斗とフィオナ。 「……あの、ユウトさん。買い食いをするのですが、何を食べるのか決まっているのでしょうか?」 「いいえ。歩いているうちに見つかった物を食べるのが、醍醐味だと思ってますから」 「えっと……クリスさんもそう仰っていましたが、そうなのですか?」 「ええ。予期せぬものに出会って美味しい、という感動を味わえるのも買い食いの魅力の一つです」 物凄くオーバーに言っている感はあるが、これも間違いではないはず。 ──とはいえ、本当に困るよね。 優斗はちらりとフィオナの姿を視界に入れる。 一ヶ月ほど経って初めて私服姿を見たが、とても似合っていた。 僅かに色合いの違う白のブラウスとフレアスカートを着こなしているフィオナは、本当にお嬢様然としていて普段の制服よりも一層彼女の魅力を引き立てている。 ――まさしく心臓に悪い。 美少女が美少女っぷりを発揮しないでほしいとさえ優斗は思う。 平然を装っているとはいえ、ただでさえ彼女と二人きりで心臓に悪いのだから。 「……ん?」 と、優斗が周囲を見回して気を落ち着けている時だった。 一つ、気になる店が優斗の目に入った。 「フィオナさん、あれって何ですかね?」 優斗がある方向を指差す。カラフルな色合いのお店に、幾人かの若い男女が並んでいた。 「あれは……何でしょう?」 頭にハテナマークを浮かべるフィオナ。二人とも疑問系のまま目が合った。 ふっ、と笑い声がお互いに零れる。 「では、さっき言った通りに買い食いをしましょうか、フィオナさん」 目当てのお店に二人で向かい、並ぶ。そして看板に抱えている文字を目にすると、優斗は僅かに驚きを見せた。 「えっと、クレープ?」 先に並んでいた男女が通り過ぎる際に持っている食べ物や食べ方を見ても、優斗が元いた世界と何ら変わりはないようだ。けれどフィオナには馴染みがないらしく、 「その……どういうものですか? クレープというのは?」 「僕達がいた世界のものと変わりないのであれば、原材料は卵を使った薄い生地です。その上に甘いものを乗っけて包んだ食べ物、と言えばいいでしょうか。女性に人気があって美味しいんですよ」 「甘いんですか?」 「はい。もしかしてフィオナさんは甘いものが苦手だったりしますか?」 「いえ。甘いものは大好きです」 「ならよかった。きっと気に入ると思いますよ」 列が捌けていき、優斗とフィオナの順番になった。メニュー表を見れば種類も相違なく、優斗は安心してチョコカスタードクリームを、フィオナはイチゴクリームを頼む。 手際よく作る店員にフィオナが少し見惚れていると、あっという間にクレープが出来上がった。そしてお金を払い、初の買い食いによる食べ物をフィオナが恐る恐る手に取る。 優斗は彼女が受け取ったのを確認したあと、次の客の邪魔にならないように歩き出す。 フィオナも優斗の行動に気付いて、すぐに付いていった。 「これがフィオナさんにとって初めての買い食いになりますね」 「そうなのですが……その、質問よろしいですか?」 「何でしょう?」 「フォークやナイフ、スプーンなどはないのでしょうか?」 「……へっ?」 優斗も面を喰らったが、少し考えたら彼女の疑問も納得した。 買い食いをしたことがないのだから、食べ方だって分かるはずもない。 さらには貴族だから、かぶりつくという概念がないのかもしれない。 「物によってはスプーンなどが付く場合もあるんですが、これはこのまま、ぱくっと食べるんです」 「……ほ、本当ですか?」 信じられないようなものを見る目つきで、フィオナが問い返す。 「世の中、こういうものもあるんですよ」 「……ユウトさんが言うなら本当なのでしょうけど」 けれどやったことがないため、フィオナは心なし不安そうだ。 「じゃあ、とりあえず実践してみせましょうね」 優斗は言いながら、クレープにぱくりと食いつく。 元の世界と変わらない、思った通りの美味しさで自然と笑みが浮かんだ。 「こんな感じです。クレープは出来立てが一番美味しいんですよ」 「……頑張ります」 フィオナも優斗の姿を目にして、心を決めた。 少しばかり逡巡したあと、意を決してクレープを口に運ぶ。 「……美味しい」 「でしょう? こういうことがあるから楽しいんです」 次第に食べる速度が上がっていく彼女に優斗は安堵する。 「まあ、買い食いに問題点があるとしたら、食べ過ぎてしまって夕飯が食べられなくなるかもしれない、という点ですね」 などと呑気に言った優斗だが、なぜかフィオナが奇妙な表情になった。 「フィオナさん、どうしました?」 「……あの、ですね。今日、このあとの予定は空いていたりしますか?」 「予定ですか? 特に埋まっているわけではないですよ」 「でしたら我が家に来ていただいてもよろしいですか?」 フィオナのとんでも発言に一瞬、二人の間に沈黙が生まれる。 特に優斗は理解不能の極みに陥っていた。 「……せ、説明を要求してもよろしいでしょうか?」 「はい」 フィオナは淡々と理由を話し始める。 全てを聞き終えて、優斗はようやく彼女の発言の意図を理解した。 「つまりお母様が僕に会いたい、ということですか」 「私の友人ということもそうですが、やはり異世界から来たことに興味を持たれたのではないかと思います」 「でしょうね。僕も同じ立場なら興味を持ったと思いますから」 異世界から来た、というだけで格好の話のネタだろう。 けれどフィオナとしては、連れていくことを強制したいわけではないので、 「あの、でも無理にというわけでもありませんから、嫌でしたら断っても……」 「大丈夫ですよ。フィオナさんのお母様なのですから、変に何かをしてくることもないでしょうし。ですから安心して行かせていただきます」 優斗の反応にフィオナもほっとした表情になる。 「そう言っていただけると私も嬉しいです」 安堵したフィオナはクレープを食べ始める。小さい声で「美味しいですね」と呟いて、また一口と食べる。優斗は彼女が僅かに表情を綻ばせる姿を見ながら、一緒に買い食いができてよかったと心の底から思う。 ──たとえ、このあと修達にからかわれるとしてもね。 買い食いのことにしても、フィオナの家に行くことについても。 それでもこの瞬間を得られたのは、本当に良かったと思った。 ◇ ◇ 「ここが私の家です」 フィオナが示したのは……紛う事なき豪邸だった。思わず優斗も呆気に取られる。 「凄いですね。このような家を見たのは初めてです」 城を見た際も思ったが、この豪邸も本当に驚くべき広さだ。リライトに召喚されて一ヶ月は経っているが、改めて異世界に来たことを実感させられる。 庭に花壇は別にいいのだが、海外の上級セレブが住んでいそうな特大の家はテレビの中でしか見たことがない。それが実際、目の前にあるのだから圧倒されてしまう。 門に警備の人がいる、というのがさらに際立たせていた。 「バルトさん、ただいま帰りました」 「お帰りなさいませ、お嬢様」 守衛をしている初老の男性はフィオナの帰りに頭を下げると、隣の優斗に目をやった。 「こちらの男性がミヤガワ様ですか?」 「はい。私のクラスメートでお友達のユウト・ミヤガワさんです。今日はお母様の招待で来て頂いたんです」 フィオナの紹介に合わせて優斗が頭を下げると、バルトも同様に頭を下げた。 「今後とも、お嬢様をよしなにお願いいたします」 「いえ、こちらこそフィオナさんにはお世話になりっぱなしで」 とてもではないが、お願いされる立場じゃない。 「いえいえ。貴方と出会ってからというもの、お嬢様が日に日に輝かれています。私にとっては日々の輝きを見るのがとても嬉しいのですよ。旦那様も奥様も喜んでおられます」 どうやらバルトとトラスティ家は仲が良いらしい。 この世界では珍しいのか珍しくないのかは分からないが、優斗には微笑ましく映る。 するとバルトが何かに気付いたのか、二人を玄関へと促した。 「あちらで奥様がお待ちになっておりますよ」 腕を広げて指し示された先に優斗が視線を送ると、一人の女性が待ち構えていた。 優斗と視線が合うと、女性は颯爽と歩いて向かってくる。 「初めまして、ユウトさん。私がフィオナの母のエリスです」。 黒い髪を短く纏め、フィオナをそのまま年老わせたかのような容姿。 ただ、美しさは鳴りを潜めているわけではなく、年齢とともに円熟していった魅力というものが彼女にはあった。優斗は丁寧に頭を下げる。 「こちらこそ初めまして、エリス様。ご存知とは思いますが私は宮川優斗と申します。この度はご招待していただき、ありがとうございます」 「あら? 畏まらないでいいわよ」 あっけらかんと言うエリス。というか第一声と口調が違い過ぎた。 「申し訳ありませんが、公爵の奥様にそのような言葉遣いは出来ません」 「フィオナには、もうちょっと砕けているのに?」 「彼女はお友達ですから」 「なら、母親である私も同じことよね?」 遠慮をさらりとかわすエリスに、優斗は内心でツッコミを入れる。 ――どういう理論なんだよ、それは。 少なくとも元々の世界において、一応は一般市民だった自分が公爵夫人に慇懃な言葉を使うなとか、何という無茶振りだろう。 しかもエリスだって、最初の一言だけは優斗に対して丁寧な口調だったはずだ。 すぐにざっくばらんな口調になっているが。 「……でも、しかし──」 「それに位としても、異世界人である貴方のほうがリライトでは高いわ。せめて堅苦しい言葉を改めてくれないと私が困るわよ」 優斗はエリスに言われて、そういえばと思い出す。 この国では王族の次に異世界人の位が高い、と。だとしても、少なくとも年上に対してぞんざいな口調など優斗には出来ない。 「わ、わかり……ました。努力はしますから、今日はある程度で勘弁していただけると嬉しいのですが」 「しょうがないわね。今日はこれくらいで許してあげるから、今度来た時にはもっと柔らかくなって頂戴ね」 「……はい。出来る限り、ご随意に」 なんというか優斗は負けた気分になった。 丁寧な言葉を使ってはいけないって、どういう貴族様なんだろうか、と。 「早く家の中に入るわよ。今日はうちのコックが腕によりをかけて、ご馳走を作ってくれているから」 食事をする広間へと案内される。優斗の眼前にあるテーブルの上には、想像していた以上の料理があって驚かされた。席に座って食事を取ろうとして、ふと優斗は気付く。 「すみません。この世界の料理の作法というものを知らないのですが……大丈夫でしょうか?」 元の世界ならともかく、こっちの世界の作法なんて知っているわけもない。 「あら、気にしないでいいのよ。堅苦しい場でもないから」 エリスがそう言ってくれたので、優斗は安堵の息を吐いた。 「助かります。まだマナー等は習っていなかったので」 あらためて優斗は食事を取る。あまり乱雑にならないよう、丁寧にナイフとフォークを使って綺麗に食事を進めていく。 「今日は来てくれて嬉しいわ。いつもフィオナが話しているものだから、私もユウトさんのことが気になってたのよ」 優斗がサラダや肉料理の美味しさに舌鼓を打っていると、エリスが話し掛けてきた。 優斗は一旦食事を止めて会話に応じる。 「そうですか。僕もエリス様とお話できて──」 「エリス“様”?」 いきなり睨まれた。優斗は内心で勘弁してくれ、と嘆きながらも彼女が所望する通りの言葉遣いで言い直す。 「……エリスさんとお話できて、僕もよかったですよ。貴族の邸宅、という建物の中にも初めて入ることができましたし」 正直、日本国民の誰もがイメージしている通りの邸宅だった。 「貴方がいた国では貴族がないのよね?」 「そうですね。昔は存在しましたが、今はいません」 「じゃあ“華族”は?」 いきなりエリスから問われたことに、優斗の表情は不意に真剣なものになった。 ──どういうことだ? そんなもの、まだ誰にも話したことなどない。 というか話すこともない。日本の昔々の歴史のことなんて。 「……どうして知っているんですか? 友人の誰かが貴女に話しましたか?」 「違うわ。私達は“元々”知っているのよ」 「それは──」 再び問い掛けようとして……優斗は気付いた。 「今までにやって来た勇者からの知恵ということでしょうか?」 「ええ。そういうことよ」 エリスは肯定すると、さらに優斗へ問い掛ける。 「ユウトさんは過去に我が国へ来た勇者の風貌を聞いたことはある?」 「ありません。今まで、そのようなことを聞くこともありませんでしたから」 当然のように首を横に振る優斗。するとエリスは講釈するように指を一本立てた。 「これまで召喚した異世界の人々は、総じて黒髪に黒い瞳を持っていたわ。先代も先々代も同じ」 歴代、リライトに召喚された人物はみな同じ風貌をしていた。 これは召喚の存在が認識されてから、千年に及ぶ歴史で分かっていること。 セリアール全体から見ても同様のことが言える。 「同じということは、どういう意味か分かるかしら?」 「……ふむ。つまり今までの異世界人は僕達と同じ世界どころか、特定の場所からやって来たというお考えで?」 優斗はエリスが考えていることを察して問い返す。 予想が当たったのか、エリスは素直に頷いた。 「そうよ。今まで勇者がどこにいたのか、なんて考える人はいなかったわ。誰もが異世界の人間は総じて“そのようなもの”だと考えている。けれど少し考えれば分かることよね。この世界だけでも様々な容姿を持つ人間がいるのに、どうして異世界人だけは同じように黒髪、黒目なのか不思議に思わないかしら?」 それがエリスにとって疑問の始まりだ。つまり召喚とは、ある特定の世界──特定の場所としか繋がっているのではなかろうか、と。 「だとしたら、どうしてエリスさんは疑問を持たれたのですか?」 優斗の質問にエリスは笑って答える。答えは単純だ。 「我が家は異世界の血を取り込んでいるからよ」 突然の爆弾発言をされて、優斗は思わずエリスとフィオナの容姿を確認してしまった。 ──あ~、確かに否定できる要素はないね。 優斗がフィオナに対して最初に抱いた感想は“大和撫子”のような女の子。 そう感じた自分は間違いではなかったのか、と今更ながらに再認識する。 「先祖に異世界人がいる、ということですね」 「ユウトさんは理解が早くて助かるわ」 エリスさらに話を続ける。 「私より三代前、我が家はリライトにいる『勇者の刻印』を持つ異世界人と結婚をしたわ。そして公爵まで上がっていった。私が産まれた頃にもご健在だったから幼い頃は時折、異世界についての話を聞いていたわ。この世界とは違うことを聞けるのが楽しくってね」 自分達が生きているセリアールとは全くの別世界で、本当に夢物語のようだった。 「では、続きが気になって今日は僕を呼んだのですか?」 「あらあら、違うわよ。私が興味を持ったのは貴方自身。フィオナの会話にあれほど出てきたのは後にも先にも貴方だけだから。母親として興味を持つのは当然じゃない?」 軽やかな口調のエリス。確かに幼い頃は異世界の話に多大な興味を持っていた。 けれど今日は違う。注目すべきは彼がどのような人物なのか、だ。 「というわけで、今日はフィオナとの馴れ初めとか聞かせてもらうわよ?」 ガッツリと話す気満々のエリス。だが、そこでフィオナが口を挟んだ。 「お、お母様。ユウトさんに、その……迷惑ですから」 彼にとっては初対面である友人の母親が、意気揚々として話そうとしているのはフィオナでも不味いと分かる。 なので今日はこれぐらいで終わりにしたいと思ったのだが、エリスは肩を竦めるだけ。 「ユウトさんは迷惑かしら?」 「いえ、問題ありませんよ。エリスさんの性格も少しは把握しましたから」 優斗とエリスが笑い合う。このあと、エリスに尋ねられるがままに優斗はフィオナと出会ってからのことを話し始めた。 ◇ ◇ その頃、王城に残ったメンバーは厨房の一つを使わせてもらって、オムライスパーティーをやりながら駄弁っていた。 「今日、あいつらの仲が進展したと思う奴、挙手」 修がオムライスを頬張りながら採決を取る……が、誰も手を挙げなかった。 「お~い、誰かが手を挙げないと賭けになんねーぞ」 「そんなこと言っても、優斗とフィオナだからな。特に優斗がどうこうしてるなんて、オレは思えないんだけど」 「期待するだけ無駄だ。ギャルゲーのような展開になっているわけがない」 卓也と和泉が手を挙げることを拒否する。けれどアリーが頑張って否定してみた。 「そ、そんなことはありませんわ。フィオナさんとユウトさんだって、二人っきりでデートをすれば少しぐらい意識するはず──」 「じゃあ、アリーは手を挙げんのか? そっちの方が俺的に面白いんだけど」 修がにんまりと笑うと、アリーは途端に自信がなくなったようで、 「それは、その……や、やっぱり手は挙げませんわ」 「んじゃ、進展するほうに賭けるやつがいなかったから、今回の勝負はなし。次回の卓也特製プリンは、じゃんけんで勝ったやつが多く食べれるってことでいいか?」 『賛成!!』 こうして六人のおやつタイムは、優斗とフィオナを会話の肴にして大賑わいした。