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No.41526の一覧
[0] 難攻不落の不問ビル ~チートな彼女とダンジョン攻略~ 【都市内ローグ】[数札霜月](2019/06/11 18:29)
[1] 0:プロローグ[数札霜月](2017/07/21 06:46)
[2] 1:問われないビル[数札霜月](2015/09/02 22:19)
[3] 2:罠の中の選択肢[数札霜月](2015/09/02 22:20)
[4] 3:選択必須の六十階[数札霜月](2015/09/02 22:25)
[5] 4:最初の遭遇[数札霜月](2015/09/02 22:24)
[6] 5:ファーストリザルト[数札霜月](2016/09/09 20:37)
[7] 6:銀光の演舞[数札霜月](2015/09/04 10:39)
[8] 7:情報交換[数札霜月](2015/09/07 08:33)
[9] 8:ビルドエラーの打開策[数札霜月](2015/09/08 23:47)
[11] 9:時代劇の襲撃者[数札霜月](2015/09/10 22:31)
[12] 10:驚異の才覚[数札霜月](2015/09/12 23:55)
[13] 11:戦力会議[数札霜月](2015/09/14 23:45)
[14] 12:出発前の[数札霜月](2015/09/17 22:39)
[15] 13:静雷撃(サイレントボルト)[数札霜月](2015/09/21 23:43)
[16] 14:読めない彼女[数札霜月](2015/09/27 09:10)
[17] 15:ジオラマの街の追走劇[数札霜月](2015/10/07 13:27)
[18] 16:有り得なかったはずの光景[数札霜月](2015/10/14 17:42)
[19] 17:怪物的な[数札霜月](2015/10/16 18:32)
[20] 18:纏力スキル[数札霜月](2015/10/21 18:57)
[21] 19:戦国乱戦[数札霜月](2015/10/28 18:24)
[22] 20:手に入れた新武装[数札霜月](2015/11/04 10:26)
[24] 21:刀の扱い[数札霜月](2015/11/11 19:29)
[25] 22:待ち伏せ[数札霜月](2015/11/18 19:22)
[26] 23:足手まとい[数札霜月](2015/11/25 12:43)
[27] 24:実力差[数札霜月](2015/11/26 22:48)
[28] 25:異端者の葛藤[数札霜月](2015/12/09 12:30)
[30] 26:思念符[数札霜月](2015/12/11 09:50)
[31] 27:ボス部屋[数札霜月](2015/12/13 00:00)
[32] 28:半骨のマンモス[数札霜月](2015/12/13 23:17)
[34] 29:諦観[数札霜月](2015/12/16 11:28)
[35] 30:言い返すべきだった[数札霜月](2015/12/21 23:47)
[36] 31:見せるべき意地[数札霜月](2015/12/24 22:59)
[37] 32:記憶の糸[数札霜月](2015/12/27 23:33)
[39] 33:とどめの一撃[数札霜月](2016/01/03 23:39)
[40] 34:先へと進むその前に[数札霜月](2016/01/06 18:46)
[41] 35:次なる階層[数札霜月](2016/03/11 19:59)
[42] 36:近づく距離[数札霜月](2016/04/13 22:19)
[43] 37:数字の意味[数札霜月](2016/05/06 13:03)
[44] 38:知識“だけ”という意味[数札霜月](2016/05/13 17:03)
[45] 39:神造物[数札霜月](2016/05/20 20:18)
[46] 40:夜は明けない[数札霜月](2016/05/24 18:23)
[47] 41:トイレの花紙さん[数札霜月](2016/06/02 20:10)
[48] 42:目指すべき場所[数札霜月](2016/06/15 20:26)
[49] 43:俊敏なる人食いピアノ[数札霜月](2016/06/23 01:04)
[50] 44:立て続けの襲撃[数札霜月](2016/06/24 19:57)
[51] 45:命を預ける判断[数札霜月](2016/07/02 22:49)
[52] 46:共に格上の敵[数札霜月](2016/07/15 19:38)
[53] 47:譲れない一線[数札霜月](2016/07/22 19:36)
[54] 48:鬼火繰る二宮金次郎像 [数札霜月](2016/07/26 20:07)
[55] 49:骨振るい駆ける人体模型[数札霜月](2016/07/29 10:13)
[56] 50:光芒雷撃 [数札霜月](2016/08/10 20:03)
[57] 51:敵は己の中にあり[数札霜月](2016/08/12 09:29)
[58] 52:魔本スキル[数札霜月](2016/08/16 12:24)
[59] 53:二つの道[数札霜月](2016/08/19 23:33)
[60] 54:背後の気配[数札霜月](2016/08/26 20:14)
[61] 55:屍電体[数札霜月](2016/09/02 11:52)
[62] 56:フォーメーション[数札霜月](2016/09/06 20:07)
[64] 57:人面犬[数札霜月](2016/09/09 12:03)
[65] 58:足求め死体率いる骨格標本 [数札霜月](2016/09/13 10:51)
[66] 59:人馬一体の敵 [数札霜月](2016/09/16 21:51)
[67] 60:それは無謀にあらず [数札霜月](2016/09/21 08:52)
[68] 61:九枚の皿 [数札霜月](2016/09/23 19:57)
[69] 62:下肢換装の脅威 [数札霜月](2016/10/07 19:53)
[70] 63:志気の根源 [数札霜月](2016/10/10 21:37)
[71] 64:誰かの声[数札霜月](2016/10/21 11:13)
[73] 65:食卓の報告会[数札霜月](2016/10/25 14:54)
[74] 66:始祖の石刃[数札霜月](2016/10/29 16:31)
[75] 67:光って踊れるデッサン人形[数札霜月](2016/11/04 17:56)
[77] 68:購買の痕跡 [数札霜月](2016/11/12 23:08)
[78] 69:悲鳴の手紙 [数札霜月](2016/11/16 12:29)
[79] 70:パートナー[数札霜月](2016/11/19 23:07)
[81] 71:学校の七不思議[数札霜月](2016/12/11 23:22)
[82] 72:闇に包まれし体育館 [数札霜月](2016/12/23 09:17)
[83] 73:六亡の光明[数札霜月](2016/12/25 09:12)
[84] 74:黒雲を穿つ [数札霜月](2017/01/13 17:24)
[85] 75:二人の道行き[数札霜月](2017/02/17 23:40)
[86] 76:送られてきた『くえすと』 [数札霜月](2017/02/17 23:54)
[87] 77:純粋なる戦士[数札霜月](2017/02/21 22:10)
[88] 78:変幻自在の鎖武器[数札霜月](2017/02/26 08:45)
[90] 79:鎖の森 [数札霜月](2017/03/02 20:20)
[91] 80:見えない領域[数札霜月](2017/03/06 19:57)
[92] 81:不可解な感情 [数札霜月](2017/03/09 18:32)
[93] 82:逃走の連鎖[数札霜月](2017/03/14 18:32)
[94] 83:強行追撃[数札霜月](2017/05/22 23:53)
[95] 84:消耗のままの始まり[数札霜月](2017/03/25 21:54)
[96] 85:扉の中身 [数札霜月](2017/04/02 09:25)
[97] 86:父の葛藤[数札霜月](2017/04/09 00:15)
[98] 87:囚人の博物館 [数札霜月](2017/04/16 22:38)
[99] 88:処刑場の乱戦 [数札霜月](2017/04/23 13:51)
[100] 89:応法の断罪剣 [数札霜月](2017/04/28 21:19)
[101] 90:囚われていた少女[数札霜月](2017/04/30 20:12)
[102] 91:独房にて着替え中[数札霜月](2017/05/04 12:50)
[103] 92:聞いていた少女[数札霜月](2017/05/11 17:08)
[104] 93:愛娘の行方 [数札霜月](2017/05/16 15:10)
[105] 94:進むべき道 [数札霜月](2017/05/25 16:31)
[106] 95:いくつもの壁 [数札霜月](2017/06/02 00:12)
[107] 96:開かれる動乱[数札霜月](2017/06/09 23:31)
[108] 97:監獄の攻略法[数札霜月](2017/06/20 14:05)
[109] 98:混戦突破 [数札霜月](2017/07/17 09:41)
[110] 99:囚人を束ねし者[数札霜月](2017/07/23 23:57)
[112] 100:投入される戦力[数札霜月](2017/08/07 23:00)
[113] 101:盾スキル[数札霜月](2017/08/19 23:46)
[114] 102:迫撃スキル[数札霜月](2017/08/21 19:03)
[115] 103:異様な囚人 [数札霜月](2017/08/23 23:00)
[116] 104:最凶悪の囚人[数札霜月](2017/09/11 18:43)
[117] 105:殺刃犯[数札霜月](2017/09/23 18:00)
[118] 106:逃亡犯[数札霜月](2017/09/28 19:55)
[119] 107:聞こえる者音[数札霜月](2017/10/14 21:08)
[120] 108:犯罪歴 [数札霜月](2017/10/26 20:15)
[121] 109:忍び寄る者[数札霜月](2017/12/07 18:03)
[122] 110:見えない襲撃者[数札霜月](2017/12/18 20:35)
[123] 111:追跡不能[数札霜月](2018/02/14 19:15)
[124] 112:覚悟の提案[数札霜月](2018/02/21 19:29)
[125] 113:誘導と挑発[数札霜月](2018/03/02 18:49)
[126] 114:マッチング[数札霜月](2018/03/09 20:04)
[127] 115:盾の警官VS刃の囚人 [数札霜月](2018/03/25 19:22)
[128] 116:共鳴する感覚[数札霜月](2018/04/11 20:06)
[129] 117:苦も無く増える[数札霜月](2018/04/30 14:54)
[130] 118:隠れる者と隠し事[数札霜月](2018/05/04 21:18)
[131] 119:叫び[数札霜月](2018/05/18 19:57)
[132] 120:剣舞師 [数札霜月](2018/05/25 18:55)
[134] 121:立ち上がる者達[数札霜月](2018/05/30 17:22)
[135] 122:急天直下 [数札霜月](2018/06/03 20:02)
[137] 123:監獄の怨霊[数札霜月](2018/06/10 20:33)
[138] 124:敵意の裏側[数札霜月](2018/06/21 19:43)
[139] 125:行き着いた服装[数札霜月](2018/07/02 19:50)
[140] 126:思わぬ遭遇[数札霜月](2018/07/17 18:02)
[141] 127:足りない人数[数札霜月](2018/08/02 19:26)
[142] 128:最初の会談[数札霜月](2018/08/16 23:00)
[143] 129:探索道中[数札霜月](2018/08/26 18:50)
[144] 130:仕掛けられた感情 [数札霜月](2018/09/02 20:21)
[145] 131:何もいない階層 [数札霜月](2018/10/02 20:32)
[146] 132:魔聴の告白[数札霜月](2018/10/09 19:54)
[147] 133:盗人の処遇[数札霜月](2018/10/23 20:53)
[148] 134:情報交換[数札霜月](2018/11/12 21:07)
[149] 135:進化する影 [数札霜月](2018/12/06 20:21)
[150] 136:敵の敵は誰だ[数札霜月](2018/12/25 02:30)
[151] 137:平穏の水面下[数札霜月](2019/01/21 20:14)
[152] 138:安寧強授[数札霜月](2019/02/27 19:50)
[153] 139:緊急会議[数札霜月](2019/03/05 18:50)
[154] 140:剣獣捜査[数札霜月](2019/03/20 21:46)
[155] 141:彼らとの齟齬[数札霜月](2019/04/08 23:28)
[156] 142:安寧の階層[数札霜月](2019/04/18 23:26)
[157] 143:特異なる存在[数札霜月](2019/05/18 23:55)
[158] 144:たどり着いた真実[数札霜月](2019/05/29 20:07)
[159] 145:秘密への対応[数札霜月](2019/06/09 19:50)
[161] 146:話せぬ懊悩[数札霜月](2019/07/04 20:07)
[162] 147:似通った二人[数札霜月](2019/07/20 21:12)
[163] 148:後手の焦燥 [数札霜月](2019/08/07 20:13)
[164] 149:遅すぎた始まり[数札霜月](2019/08/25 21:03)
[165] 150:現れた標的[数札霜月](2019/10/15 21:08)
[166] 151:傷ついた強敵[数札霜月](2019/10/16 21:13)
[167] 152:力の戦い[数札霜月](2019/10/17 21:07)
[169] 153:殺意の重量[数札霜月](2019/10/18 20:58)
[170] 154:最悪のタイミング[数札霜月](2019/10/19 21:25)
[171] 155:二件目[数札霜月](2019/10/20 20:29)
[172] 156:求める答え[数札霜月](2019/10/21 21:15)
[174] 157:信頼の天秤[数札霜月](2019/10/22 20:58)
[175] 158:避けられぬ問題[数札霜月](2019/10/23 22:03)
[178] 159:彼らが主役の物語[数札霜月](2019/10/25 20:45)
[179] 160:失墜の物語[数札霜月](2019/10/26 21:18)
[180] 161:迫られる決断[数札霜月](2019/10/27 20:22)
[182] 162:予想の外へ[数札霜月](2019/10/28 21:06)
[183] 163:難題の先に見るもの[数札霜月](2019/10/29 21:12)
[185] 164:前哨交渉[数札霜月](2019/10/30 20:39)
[188] 165:理解阻む障害[数札霜月](2019/10/31 20:14)
[191] 166:システムの外にあるもの[数札霜月](2019/11/01 20:59)
[192] 167:神のつくりし芸術[数札霜月](2019/11/02 21:08)
[193] 168:二つの検査[数札霜月](2019/11/03 21:14)
[194] 169:見えてきたもの[数札霜月](2019/11/04 21:08)
[195] 170:始まりの彼女[数札霜月](2019/11/05 20:28)
[196] 171:予期されていた事態[数札霜月](2019/11/06 20:13)
[197] 172:立ちはだかる理由[数札霜月](2019/11/07 20:55)
[198] 173:既知の関係[数札霜月](2019/11/08 21:09)
[199] 174:彼女の罪科[数札霜月](2019/11/09 20:52)
[200] 175:身勝手な戦い[数札霜月](2019/11/10 21:04)
[201] 176:似て非なる二人[数札霜月](2019/11/11 21:08)
[202] 177:斬光スキル[数札霜月](2019/11/12 21:03)
[203] 178:先なき選択[数札霜月](2019/11/13 19:59)
[204] 179:揺るがぬ在りよう[数札霜月](2019/11/15 22:05)
[205] 180:自覚なき視点[数札霜月](2019/11/16 20:59)
[206] 181:歩まなかった道筋[数札霜月](2019/11/17 22:03)
[207] 182:憤りの根源[数札霜月](2019/11/18 21:03)
[208] 183:逸らした目には映らない[数札霜月](2019/11/19 21:00)
[209] 184:何度でも[数札霜月](2019/11/20 23:05)
[210] 185:度重なる最悪[数札霜月](2019/11/21 21:05)
[211] 186:累積する悪条件[数札霜月](2019/11/22 21:02)
[212] 187:彼女たちの集結[数札霜月](2019/11/23 22:15)
[213] 188:男たちの放散[数札霜月](2019/11/24 21:04)
[215] 189:舞台上の人形劇[数札霜月](2019/11/25 21:05)
[216] 190:取りこぼした希望[数札霜月](2019/11/26 21:13)
[217] 191:取り出される絶望[数札霜月](2019/11/27 19:08)
[218] 192:記憶の栞[数札霜月](2019/11/28 21:12)
[219] 193:強者参集[数札霜月](2019/11/29 22:04)
[220] 194:最後の――[数札霜月](2019/12/01 22:11)
[221] 195:襲い来る最適解[数札霜月](2019/12/02 23:55)
[222] 196:投じられる一石[数札霜月](2019/12/03 21:02)
[223] 197:牙をむく大水怪[数札霜月](2019/12/05 22:08)
[224] 198:強敵の争奪戦[数札霜月](2019/12/09 21:20)
[225] 199:従える者の戦い[数札霜月](2019/12/12 21:21)
[228] 200:覆る戦況[数札霜月](2019/12/21 21:01)
[229] 201:そびえる水樹[数札霜月](2019/12/29 18:54)
[230] 202:ハンナ・オーリック[数札霜月](2020/01/02 21:04)
[231] 203:アーメリア[数札霜月](2020/01/10 20:52)
[232] 204:極限技巧者の力技[数札霜月](2020/01/13 21:02)
[233] 205:戦場の論理[数札霜月](2020/01/19 22:28)
[234] 206:集積比較[数札霜月](2020/01/26 21:09)
[235] 207:殲却万雷[数札霜月](2020/01/28 21:04)
[236] 208:試練よりの生存者 [数札霜月](2020/02/07 21:07)
[237] 209:勇気ある決断[数札霜月](2020/02/24 21:04)
[238] 210:望まぬ前進[数札霜月](2020/04/18 19:58)
[239] 211:流れ着いた階層[数札霜月](2020/04/28 20:09)
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[41526] 17:怪物的な
Name: 数札霜月◆0cb3e27c ID:d0be26ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/10/16 18:32
 幼いころから、小原静は周りと比べてもどこかずれた子供だった。

 それは周囲の評価という以上に静自身の実感で、幼いころから静には、周りの子供と話していてどうしても理解できない感覚があったのだ。
 相手が何を考えているのかわからない、というわけではない。自慢ではないが、幼少期から静の頭はそれなりにいい方だったし、相手の態度や周囲の状況などで、むしろそのあたりの予想を付けるのは得意な方だった。

 わからないのは、だから心。あるいは気持ちとでも言えばいいのだろうか。
 これだけ聞くと、小原静という少女が無神経な人間のように聞こえるが、しかし静の場合はそれとも少し状況が違う。
 ある程度予想はつくのだが、その感情にどうにも理解できないのだ。共感できない、と言った方が適切かもしれない。
 たとえば、顔にボールが飛んできたときも、静は恐れることなくそれを受け止めることができてしまった。
 ゴキブリが出てきても他の子どもが騒ぐ中で冷静にそれを叩き潰すことができたし、理科の実験で初めてマッチを使った時も静は特にそれを恐れるような感情を感じなかった。工作の時間に同級生の少女がカッターで手を切った時も、平然と血を止めさせて、そのまま保健室へと連れて行った。
 それらはむしろ静にとってメリットと感じられるものだったわけだが、当然逆に困ったことも多々あった。ぬいぐるみを友達だと言い張るクラスメイトの気持ちをどうしても理解できなかったし、飼育小屋のウサギが死んだときも、仲の良かったクラスメイトが転校したときも、その事実を静は淡々と受け止めた。
 あまりにも平然と受け止めてしまったせいで他のクラスメイトの顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまったが、本音を言うならばその時でさえ静は周りの反応の理由をいまいち理解できていなかった。ただ周りに合わせるという、そうした行為の重要性を学んだだけである。

 とは言え、静は中学に入るころまではそれが大した問題だとは思っていなかった。
 少々自分の神経が太いくらいの自覚はあったが、しかしそうした神経の太さはむしろ役に立つ場面の方が多く、実際静に対する周囲の評価も、物怖じしない堂々とした態度と、トラブルに対しても的確に対処できる勇敢さの“ようなもの”も相まっておおむね良好なものだった。

 静自身、感情表現についてもわからないなりに周囲の真似をするようになっていたことも相まって、特に摩擦を起こすこともなくなり、小学校の卒様式で同級生との別れを惜しむフリだけをしながら、親の勧めで受験した霧岸女学園の中等部へと入学するに至った。

 そんな静の自分に対する認識が変わったのは、中学に入ったその年の秋ごろのこと。

 中高一貫校である霧岸女学園に通うようになり、電車での通学にもすでに馴れきっていたころ、通学途中で静は一つの事件に遭遇した。

 否、事件を起こした、と言った方がよかったかも知れない。

 発端はある日の通学途中、電車の中で一人の女子生徒が痴漢に遭っているのを目撃したことである。
 同じ学校の、恐らくは高等部の先輩だったのではないかと思う。
 静の身長は当時の同学年の中でも平均的と言えるものだったが、年齢ゆえの視線の低さもあって、たまたまではあったがその決定的な現場を目撃してしまった。

 恐怖に顔を歪め、泣き出しそうに瞳を揺らす同じ学校の先輩と、その先輩のスカート越しに体に触れる誰かの手。
 電車内の他の人間の体の隙間からそれらを目の当たりにして、しかし静は恐怖も怒りも抱かなかった。
 それが犯罪行為であることは理解していたが、静にはそんな現場を見ても何一つ心を動かされなかった。
 周りに助けを求めることもなく、かといって手に対して抵抗するわけでもない。こちらが見ていることに気付かず、ただ悲嘆にくれるだけの先輩を見ていても、静は特に同情のようなものは覚えなかった。

 ただ、どうして何もしないのかとだけは思った。それだけ嫌そうにしておいて、なぜこの先輩は何も抵抗せずにいるのかと。
 そんなに嫌ならこうすればいいのにとそう思い、静は気軽に人垣の向うに手を伸ばし、

 痴漢を行っていたその手の小指をやさしくつまんで、一息に逆方向に曲げて圧し折った。

 狭い電車内で、男のものと思しき悲鳴が上がる。
 人の壁の向うで犯人と思しき誰かが蹲り、その反応を見た周囲が反応して、一時車内が騒然となる。

 その場の誰も、痴漢に遭っていた女子生徒でさえも、なにが起きたか理解できてはいないようだった。
 そんな事態が起きることすら、誰も想定すらしていない様子だった。

 痴漢を行っていた男も恐怖に駆られたのだろう。あるいは被害を訴えることで、自分の罪が露見することを予想したのかもしれない。
 次の駅への到着と共に逃げるように外へと飛び出していき、その後その電車の中では二度と姿を見なかった。

 結果だけを見れば、一人の悪質な犯罪者から同じ学校の先輩を救い出せた形になる訳だが、しかし当の静自身でさえ、流石にそこまで楽観的な受け止め方はできなかった。
 いったい何が起きたのかと、騒ぎ、そして恐れる周囲の人々の姿を目の当たりにして、静はようやく自分がとんでもないことをしでかしたのだと気が付いた。
 気が付いて、そして同時に静はようやく理解した。
 自分が、ただずれているのではなく、決定的に“外れている”のだというその事実を。
 小原静という人間が、自分で思っていたよりも、遥かに“ヤバい”人間だったのだということを。

 理解できてしまった。





「まさか――」

 信じられないという思いが口からこぼれる。
 竜昇が見上げるその先で、やられたと思っていた一人の少女が、長い髪をたなびかせ、華麗に優雅に飛び下りる。

(――まさか、あの一瞬で、扉を破壊して駕籠の中に飛び込んでたっていうのか……!?)

 竜昇はとっさに目をつぶってしまったため気付かなかったが、実際に起きた事態は言葉にするだけなら極めて簡単だった。

 駕籠によって殴りつけられたその瞬間、静はシールドを展開して駕籠の扉部分に自らぶつかり、入り口の引き戸を破壊して駕籠の中へと飛び込んだのである。

 大名の振るう駕籠は、振り回し叩き付けても壊れないとんでもない代物だが、それはあくまであの黄色いオーラに包まれているが故の異常な現象だ。
 当り前の話だが、本来の駕籠は武器として使われることなど想定されておらず、それゆえオーラが完全に消えた状態で叩き付けられれば、やはり当然のようにどこかに無理が出る。

 一応静も、駕籠の戸を壊せない可能性を懸念していなかったわけではなかったが、しかし結果だけを言うならば、シールドとぶつかった駕籠の引き戸は、壊れないどころか激突の衝撃であっさりと枠から外れ、振り回される勢いによって静の背後にあったジオラマの方へと猛烈な勢いで吹っ飛んでいってしまった。

 いっそ拍子抜けするくらいのあっけなさだったが、静の目的を考えるなら別に問題はない。
 扉と入れ替わるように駕籠の中へと転がり込み、同時に自身を守るシールドを拡大して駕籠の内側にガッチリとハマりこむ。
 まるで絶叫マシーンのように猛烈な勢いで振り回される駕籠の中にそのまま隠れ潜み、大名が駕籠を振り上げるその瞬間を、十手を抱え、息を殺して待ち受ける。
 そして実際にその瞬間がやってくれば、静に後の行動を迷う余地はない。

(―-今ですね)

 絶好のタイミングを看破して、即座に静は自身を駕籠の内側にはめ込んでいたシールドを解除。逆さまになった重力の中で畳を蹴りつけ、一気に真下へと己の体を射出する。
 駕籠の出入り口から零れ落ちるだけでは速度が足りないと、続く二歩目で駕籠の淵を蹴り飛ばし、右手の十手を背後に引き絞って己を一本の矢に変える。

「いけませんよ、殿」

 一声かける。まるで乱心する君主をなだめる姫君のような穏やかな声。
 しかし声に反応し、静の方を見上げてしまった影の大名にとって、それは死神に呼び止められたような、大名自身に自ら弱点を向けさせる致死への誘いに他ならない。

 次の瞬間、自身に向いた赤い核目がけて、静は優しささえ感じる鮮やかさで十手を突き出し、先がとがっているわけでもないその武器によってあっさりと大名の頭部を貫いた。
 突き刺した瞬間仕込まれた電撃が炸裂し、核をまっすぐに貫かれた大名がもはやなす術もなく、その体を薄れさせて空気に溶けるように消えていく。

 後に残されるのは、怪物よりも怪物的な少女がただ一人。

「ダメですよ、殿」

 落下の衝撃の大半を大名への一撃によって相殺し、空中で自由を得た少女は笑みすら浮かべてそんな言葉を口にする。
 自分があっさりと屠って見せた強敵に、まるでその敗因を教えるように。

「駕籠はそのように振り回すものではありません」





 なす術もなく跳ね飛ばされたと思っていた静が駕籠から現れ、真下に飛び下りて大名を討ち取るまでのその流れを、竜昇は呆然としてじっとその目に焼き付けていた。
 なぜそんな状態になったのかというそんな経緯も、自身が見逃した部分も含めて今の現状からどうにか予想を付けていた。

 そしてその上で、竜昇は目の前に舞い降りる少女の姿に己の中の動揺を隠せない。

(……こんな、こんなことって……)

 今まで竜昇は、静が何らかの格闘技や戦闘技術のようなものを習得しながら、それをひた隠しにしているのだろうと予想していた。
 彼女の強さは、何らかの技術的背景があるのだろうと、まるで疑うことなくそう考えていた。

 だがこれは違う。少なくとも振り回される駕籠に飛び乗るような、そんな動きを習得できる格闘技が、この世にあるとは到底思えない。

(こんな、こと……、けど、けど本当にそうだとしたら……)

 だがそうなるとこの動きはなんなのか。スキルでもない、技術でもないとするならば、残る彼女の力の源は、もはや一つしかありえない。
 ただの才能。彼女が生まれつき持ち合わせた、何ら後付されていないむき出しのセンス。

(ありうる、ものなのか……。ただの才能で、ここまでのことができる人間なんて……!?)

 竜昇が内心で抱くそんな疑問に、しかしその場で答えられるものなど一人もいない。
 誰に阻まれることもなく、怪物的な少女が優雅なままに、軽やかな足取りで戦場の床へと着地する。





互情竜昇
スキル
 魔法スキル・雷:8
  雷撃(ショックボルト)
  静雷撃(サイレントボルト)
 護法スキル:4
  守護障壁
  探査波動
装備
 再生育の竹槍


小原静
スキル
 投擲スキル:3
  投擲の心得
装備
 磁引の十手
 武者の結界籠手
 小さなナイフ

保有アイテム
 雷の魔導書




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