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No.4090の一覧
[0] Struggle for Supremacy 【MMORPG系、デスゲーム】【更新予定についてのみ】[Dice Dragon](2009/02/01 05:22)
[1] Prologue of First Stage[Dice Dragon](2008/11/01 22:13)
[2] Mission 001 ― The ranch is built ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:17)
[3]  Intermission ― Uneasiness ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:18)
[4] Mission 002 ― Ranch defense ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:19)
[5]  Intermission ― Interrogation ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:20)
[6] Mission 003 ― Searches for whereabouts I ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:20)
[7] Mission 004 ― Searches for whereabouts II ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:21)
[8] Epilouge of First Stage[Dice Dragon](2008/11/01 22:22)
[9] Prologue of Second Stage[Dice Dragon](2008/12/04 01:43)
[10] Mission 001 ― It is me that revenge ―[Dice Dragon](2008/12/24 21:40)
[11]  Intermission ― Mine exploration ―[Dice Dragon](2008/12/24 21:41)
[12] Mission 002 ― VS Gate Guardian : Protection Bull ―[Dice Dragon](2009/01/09 05:27)
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[4090] Mission 004 ― Searches for whereabouts II ―
Name: Dice Dragon◆122ca858 ID:a7467134 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/01 22:21



 ウシャスに跨(またが)ること十数分。鞍(くら)や鐙(あぶみ)などの馬具がないために手間取りつつも、何とか落ちずにすむようになった耕太は、当然の如く【騎乗】スキルを手に入れている。
 勿論、まだまだ思うがままに乗りこなせているわけではない。ウシャスの走るに任せ、しがみついているだけの不恰好な騎乗ではあるものの、それでもウシャスの駆け行く速度は、耕太自身が全力で疾走する速度すら足元に及ばぬほどに速い。
 景色は飛ぶように後ろへと流れ去り、掻き乱された空気が渦を巻く。
 しかし、それだけの速さで移動しながらも、耕太は息苦しさを感じることがなかった。はじめは感じていたバイクに乗ったときのような風圧を、いつの間にか受けなくなっていたのだ。
 そのことに気が付き、耕太は【騎乗】スキルの持つ効果に考えを巡らせた。
 実際、他の【剣術】や【槍術】といったスキルにおいても、スキルレベルが上がるたびに素人の動きのまま動作自体は俊敏になっていくことが確認されたことから、取得したスキル関連の反復行動については、数値的な上昇や最適化などといった何らかの補正が行われているのではないかという推論が、夕子達によって纏められている。
 ただ、その推論からすれば、風圧を受けなくなるというのは、些か【騎乗】スキルからは外れ過ぎではないかとも思える。
 今は検証のしようのない思考に没頭していた耕太は、ウシャスが速度を落として振り落とされることのないよう気を遣ってくれていることに、ふと気が付き、思わず破顔してしまう。
 克己に頼まれ、自治会にとって重要な任務を遂行している最中とはいえ、今は一人と一頭しかいないのだ。何も顰め面して、任務一辺倒になる必要はない。
 夕子と会えないがために溜め込んでいた心の疲れを癒すことに、移動の時間を当てて何が悪いのかと、どこまでも地平を駆けていく解放間の中で、耕太は思い直したのだった。
 時折り、見えるモンスターは、耕太達に照準を合わせる前に遠くなり、何の攻撃を受けることもない。稀に飛んでくるサッカーボール大の火の玉ですら、フレアマスタングの纏う炎が呆気なく呑み込み、何の痛痒を感じることもないのだ。
 耕太は目を細めて笑みを浮かべ、唯々、一直線に駆けていくという煩わしさの全てを忘れさせてくれる爽快感に身を任せていた。
 そして、眠気が耕太の瞼を重くし始めた頃、地平線の中にポツリと影が映りこむ。

「城塞都市か。倉知の言っていた場所は、ここで間違いないんだろうな」

 束の間の安寧に緩んでいた心を引き締め、耕太は城門へとウシャスを誘導するのだった。



 ※  ※  ※



「フレアマスタング?
 随分とレアなモンスターに乗ってるじゃないか、すごいな」
「ああ、すげぇよ。
 騎乗動物にできるって話だけは聞いてたけど、出現条件までは廻ってこなかったからな。マジすげぇ!」

 緊張していた耕太にしてみれば、随分と気の抜ける態度で、門の脇に立っていた見張り役のプレイヤー二人が声を掛けてくる。

(考えてみれば、他のゲームじゃ引き抜きなんかはプレイの範囲内か。
 もし、そう考えてるんなら、本格的に敵対してるつもりはないのかもな……。
 倉知にしても、話を通すことを忘れてただけってこともあるか……)

 SfSの世界で生き抜くことの難しさに危機感を感じて、他者に警戒の心を持つのは当然のことだろう。
 だが、だからといって、自治会に属さない周囲の全てが須らく敵だと決まったわけでもない。そのことを忘れ、警戒心ばかりが先行していたことに、耕太はこれまでの余裕のなさをこそ危惧してしまう。
 もっとも、ゲームであるからこそ盗賊行為をプレイとして楽しむ者もいることは知っているし、生命が掛かっているからこそ犯罪に手を染める者がいないとも限らない。
 喧嘩腰にならない程度に軟らかな態度を心掛けながら、それでも警戒を緩め過ぎることのないように、耕太は自分を落ち着かせた。

「ああ、俺も出会えたのは偶然だよ。
 こうして騎乗するのは初めてだけど、乗り心地も最高だしな。
 ところで、俺は自治会から連絡と交渉を任されて、ここに辿り着いたんたんだが、責任者に会わせてもらえないか?」
「ん? ああ、構わんぞ。
 ここに着いた連中を案内するのも門番の仕事だからな。
 そういうわけだ。しばらく任せてもいいよな?」
「いいぜ。ただし、早く戻ってきてくれよ。
 ストライクボアが出ちまったら、一人じゃキツいんだからさ」
「ああ、分かってる」

 耕太の言葉に頷いた門番の男が、少年へと確認した。
 その言葉に、耕太はウシャスの背で見た体高二メートルはありそうな茶色い塊を思い出す。

「ストライクボア? 何か厄介な能力でもあるのか?
 ここは、一応は街の中になるだろう。それでも攻撃してくるのか?
 遠くから確認しただけだから、名前以外は大きいことしか俺には分からなかったんだが……」
「ん、ああ。なるほどな。一人で戦わなかったのは、正解だろうな。
 別にスリーピングフェアリーやファイアスネークみたいな長距離攻撃を持ってるわけじゃないんだが、あの巨体のままで突っ込んでくるんだ。正直、街の中に入り込まれたら仕留め辛くてな。
 そのせいで、もし、ストライクボアが現れたら、城門を閉ざすか、外で引き付けるか、用意してある落とし穴に誘導して落とすのが、俺達の仕事になるわけだ。
 知らなかったのか?」
「ああ……」

 屋外の建物であるとして牧場の襲撃が特別であると除外すれば、グリーンインプなどが街中にいるプレイヤーをターゲットに攻撃を仕掛けてくることはなく、また追いかけていた場合にも街中へ逃げ込んだ時点でターゲットから外れることが、自治会では確認されている。
 しかし、その認識は間違っていたわけではないにしても、随分と甘いものであったらしい。

「始まりの街じゃ、内部にまで攻撃を届かせるようなモンスターは周りにいないからな。
 ま、知らなくても不思議じゃないか……」

 馬鹿にする風ではなく、男は納得顔でしきりと頷いた。

「特殊攻撃が街の中まで届くのには、条件があるのか?
 こっちの検証じゃ、街の中に逃げ込んだ時点でターゲットが外れるって結果になってるんだが」
「まあ、詳しいことは歩きながら話そうか」
「ああ……」

 男に促されるまま、耕太はウシャスを従えて、小城へ向けて歩きだす。
 小城を囲むようにして街や畑、厩舎などがあり、その上で十数メートルの高さの石壁が周りを取り囲んでいる。
 また、石壁には見張り台と足場が併設されてもいる。
 男達の会話や態度からすれば、やはり自治会に対して積極的に敵対しようと考えているわけではないように思える分、対外的な何かと戦うことを想定された城塞都市の造りに、耕太は危機感を覚えずにはいられない。
 だからこそ、モンスターに対する情報には聞き入ってしまう。

「スリーピングフェアリーにしても、ファイアスネークにしても、街の中に居るプレイヤーを狙うことはない。
 それはグリーンインプなんかと同じだな。
 だが、一度、ターゲッティングされると攻撃距離の範囲に居る限り、攻撃が続くことになる。まあ、壁とかで視線を遮れば、ターゲットからは外れるけどな。
 結局、街の中へ入れなくて、近接攻撃が使えないから襲ってこないってことになるんだろう。
 ただ、ストライクボアの場合は少し様子が違っていてな。ターゲットを見失っても、そのまま突っ込んでくる。
 まさに猪突猛進て感じでな。
 だから、下手に街中で暴れられるようなことのないように、門の外で迎え撃つことになってるんだよ」
「なるほどな」

 男の言葉に、自分の知るモンスターの行動を重ねながら、耕太は口を開いた。

「なあ、これから先、ストライクボアみたいに街中かどうか関係なしに攻撃してくるようなモンスターが出てくると思うか?」
「……そうだな。正直、俺達が持ってたストライクボアの情報に、街中にまで入り込んでくるなんてのはなかった。
 それを考えれば、街中だからって安心するのはお勧めしないな。
 これは俺の考えなんだが、SfSのシステムと普通の世界の法則とが変に混ざり合っている。それが、今の状態なんじゃないかって思ってる。
 お前さん、フレアマスタングが初めての騎乗みたいに言ってただろ?」
「ああ」

 ちらりと投げかけられた視線に頷き、耕太は短く答えた。

「クローズの情報だと、騎乗動物を手に入れるってのは、テイム系か騎乗系のスキルを持っていないと難しい。ある程度の行動を成功させた時点でスキルを獲得する形になっているから、丸っきりの初心者でも完全に無理ってわけじゃないんだが、それにしたって早々に捕獲できるわけじゃない。
 新たな都市に初めから飼育されてる馬を騎馬にできた奴が、早い者勝ちでスキルを上げて、マスタングを捕まえて頭数を揃えるのが、クローズでの流れだったらしいからな。
 実際、その方が一攫千金のルートになるからな。ゲームの流れとしては、自然なんだろう。
 一番最初に普及するはずの只のマスタングですらそんな状況にあるんだ。
 レアモンスター扱いのフレアマスタングを、ズブの素人がスキルの支援無しに騎乗動物にできるなんていう確率が、どれだけあると思う?
 恐ろしく低いって表現でも追いつかないってのは想像がつくだろう?」
「そうだな……」

 様々なゲームのシステムによって提示される確率。それは、プレイヤーの体感としては、表示を下回ることが多いように思われる。
 また、確率の算出に使用される乱数には、人が作りこんだ乱数表が使用されるために、一定の偏りが出ることもある。
 そして、スキルという概念の元で成功確率が計算されるのであれば、低すぎるスキルレベルにはゼロという確率が割り当てられるのが自然であるに違いない。
 そうと納得した耕太は、男の言葉に相槌を打った。

「だろう? だが、実際には、だ。
 俺達が使ってる馬――マスタングを捕まえるのは難しくない。
 始まりの街で牧場を作っていたのと同じように囲いの中にトレインできれば、それだけで家畜にするのは可能だ。そうなれば、後は乗るだけで騎乗動物になってくれる。
 あるいは陽動した奴の背中に飛び乗って、しばらく振り落とされないように辛抱することができれば、それだけで騎乗動物にすることだってできるんだ。
 どちらにしてもシステム的な結果としては成功してるが、本来のシステムからすれば想定外の運用としか思えない。
 その理由が分かるか?」
「要は、結果を得るための裏技が幾らでも利く辺り、システムに全てが縛られてるってわけじゃない。
 そう言いたいってことだろう?」
「ああ、その通りだ」

 始まりの街で会議場に使われているホテルと同じ程度の大きさの小城を前に、男は真剣な表情で、耕太の言葉を肯定した。

「かなりの確率で、ストライクボアが街の中にまで突っ込んでくるっていう情報があれば、俺達の中の誰かが知っていたはずだ。
 しかし、誰に聞いても、そんな事実はない。
 ここ以外の街のことや、ダンジョンに配置されてるモンスターに罠なんかの攻略情報まであるってのに、だ。
 情報が全くない以上、それはシステムによる制約を受けていないという証だと俺は考えてる。
 そして、ストライクボアという例を考えるなら……」
「突破する奴は、他にも絶対いるってことか」
「だと思う。
 あと、ここからは例えに例えを重ねることになるが、SfSのストーリー設定で、結界に包まれた都市で生活を送る云々って話があっただろう?」
「確かに……あったな」

 未だ一月が経過していないにも関わらず、あまりに遠くなったログイン前の記憶を思い起こしながら、耕太は男の言葉に耳を傾ける。

「グリーンインプやレッドインプが攻撃してこないこと、同じ程度の強さのスリーピングフェアリーが遠距離攻撃に限っては攻撃できること。
 そして、かなり強さが上がって、ストライクボアが街中にまで突っ込んでくることを考慮すれば、結界は一定の強さを持つモンスターには無効になるんじゃないかと思うんだ。
 どう思う?」
「可能性は否定できないな」
「だろう?
 だから、俺としては、手数の足りている自治会に、その辺りの調査を任せられるようになればと考えている。
 まあ、難しいとは思うんだが、正直、ここや他の街に陣取ったプレイヤーの数は、圧倒的に足りてないからな。
 ま、後はうちのギルドマスターと協議して、話を詰めてくれ。
 良い結果が出ることを期待してる」
「分かった……」

 小さく頷きを返した耕太はウシャスに道で待つように言い聞かせ、男と共にギルドマスターの待つ城の中へと入っていった。



 ※  ※  ※



「あんたが自治会の遣いか。
 こんな遠くまで、悪かったな」
「いや、こちらこそ、門番の草間(くさま)さんから貴重な話を幾つも聞くことができました。ありがとうございます」
「そうか。まあ、楽にしてくれ。堅苦しいのは、それほど好きじゃないんでな」
「はい」

 謁見の間での話し合いにでもなるのかと心配していた耕太だったが、通されたのは、豪奢な会議テーブルを備えた一室だった。
 U字型の会議テーブル、その左右のカウンターに各々が腰を掛ける。室内には耕太と肉体派中年といった感じのギルドマスターの二人だけとなっている。

「まずは自己紹介といこうか。
 俺は佐川陽司(さがわ ようじ)、ギルド――ブレイブレイドのギルドマスターであり、オルドビス城塞都市の領主でもある男だ」
「自治会戦闘班長の宮間耕太です。そして自治会でスタートダッシュ組と言われているあなた達との対外交渉を任されてもいます。
 ただ、全権を委任されているわけではなく、野外のフィールドを最速で突破するために選ばれました。
 ですので、案件によっては、一度自治会に戻って、確認の決を採る必要があります。全てに即答できるとは限りませんので、ご了承ください」

 門番――草間雄介(くさま ゆうすけ)と話していたときとは違う緊張感が、場に満ちていく。
 楽にしてくれという言葉のままに気を抜くことが、耕太にはできない。克己に教えられた通り、返答に窮するような質問への対策として、自分の立場をまずは明確にした。

「まあ、固くなるのもしゃあねぇか。ま、俺の口調は気にせんでくれよ。
 それで自治会の方から話があるんだって?
 どんな用件だ?」
「この都市にNPC商人が居るかどうかは知りませんが、実は、その配置期限が明々後日(しあさって)に迫っています。
 また、自治会で運営している牧場が、グリーンインプ並びにレッドインプの襲撃を受けるという事態が発生しました。
 そのため現状では、食料の確保が何よりも優先されるのですが、幸い、NPCの武器販売数のような制限はありません。
 情報提供など、ご協力いただければ、自治会から援助することも可能ですので、それをお伝えしに参りました」
「なるほどな」

 顎(あご)を擦(さす)りながら、陽司は考え込むように天井を見上げた。

「まあ、その二つは、俺達も予想してたよ。
 襲撃があるのはストライクボアで実感してるし、ここにだって本来は居るはずの販売系NPCがまるで配置されてないのも、必要以上の保障がないことの証だと思っていたからな」
「では?」

 我知らず腰を浮かせた耕太に、陽司は首を横に振る。

「だがな、それだけの話でもある。
 別に誰とも協力するつもりがないってわけじゃねぇ。
 ただな、自治会のやり方は、どうにも締め付けが厳しすぎるんだよ。
 一々、あれこれ試すのに、アイテム使用の是非を問うなんて手間を掛けてちゃ、結果が出る前にアイデアだって腐っちまう。
 おまけにリソースがどこまで用意されているのかも分からないとくりゃ、普通のゲーム以上に情報と行動力が必要になると俺は考えてる」
「しかし、それでも食料の――」
「まあ、最後まで聞けよ」

 耕太の言葉を封じた陽司は、声を低く抑えて続けた。

「確かに実際の生き死にが関わってくるんだ。ブルっちまって戦えない奴だって大勢居るだろう。
 そういった奴らを保護して、最低限の食料供給を続けている自治会は、それだけで尊敬できる。
 だがな、その動けない、動かない大人数のせいで、自治会の動きは遅すぎるんだ。
 今のところ、GMと連絡ができるのは自治会だけだろう?
 同じやり方で他の人間が連絡を取ろうとしても、個人メールを飛ばせないのと同じ要領で弾かれちまうってのは、倉知の奴から聞いてる。
 これは早い者勝ちってことの証明だろう。
 結局、生き抜いて、勝ち抜くって言葉は、何も直接戦うことだけを示しているだけとは限らないんだよ」
「……」

 倉知の伝えたという情報は真実だった。
 確かに、最初にGMとの連絡を取る方法を思いつき、それを試した夕子以外のプレイヤーでは、同じ方法を取ったとしても、GMとやりとりを交わすことはできていない。
 そのことを指摘され、論拠にされてしまうと、武器販売の制限やNPCの期限消失にしても、陽司の言葉の正しさを証明する傍証であるように、耕太にも思えてくる。

「なら、自分の行く末は自分達で決めたいだろ?
 だからこそ、だ。動いていない人数の多い自治会と全面的に協力するって話は、ごめん被る。
 生きるのに必要な食料の供給なんかを任せてみろ。俺たちは、自治会の言うことに従うしかなくなっちまう。
 自治会の全員に同じ装備を揃えるために、無茶な納期で材料を集めて来いなんて言われた時に、断れなくなっちまうだろう?」
「そんなこと、会長は考えて――」

 勢いのままに走った言葉を、陽司はまたも遮った。

「ないってか?
 信じられんな。会長ってのが、よしんばお前さんの言う通りの男だったとしてもだ。
 変に平等に振る舞おうとしてるようにしか見えねぇのが、自治会のやり方なんだ。全体の利益を考えて動いて欲しい、と言ってこないとは限らないはずだ。
 話を持って来るんなら、もう少し、全体の生活を自立させてから持ってきて欲しいもんだな。
 もちろん、動いていない奴らを切り捨てろと言ってるわけじゃねぇ。
 だがな、動かす努力はしてみせろ。
 数人で取り囲めば、グリーンインプを相手にするだけなら木製の棒や先を尖らせた簡易槍でも何とかなるんだ。
 だからこそ、その程度のことができてない奴らに組するなんてことを、俺はしたくないって言ってんだよ。
 分かるか?」
「っ……」

 反論しようと動いた口は、しかし、言葉を発することができなかった。
 心の奥底で押さえつけられ、燻っていた不満が、陽司の言葉を全面的に肯定しようとする。だが、それでも耕太は、夕子や克己、陽子達が支える自治会を否定したくはなかった。
 肯定と否定の狭間で、ぐるぐると思考が空回りする。

「まあ、倉知を引き抜いたのは悪かったと思ってる」

 消沈した耕太の様に、バツの悪さを感じたのだろう。
 陽司は声の調子を戻し、話題を変えた。

「自治会がギルドから抜けるのを禁止してないとはいっても、俺もまさか挨拶なしで来るとは思ってなかったからな。
 ここに来て、あいつから話を聞いた時、きつく言ってある。明日にでも筋を通しに、こっちから謝りに行かせようと思っていたんだ。
 その点については本当に悪かった。許してくれ。
 それで、代わりと言っちゃなんだが、マスタングの群生地について情報を提供したい。
 牧場で繁殖させれば、足ができるからな。行動範囲もかなり広がるだろう。交換条件として、問題はないはずだ。
 それに、フレアマスタングを乗騎にしてるんだ。マスタングの群れは、強い奴の指揮に従うからな。お前なら、簡単に群れを傘下に収められるはずだ」
「分かった……」
「あと、これは追い撃ちのつもりじゃねぇ。
 こういう現状だというだけの話なんだが、そこの所を誤解しないでくれよ。
 城塞都市の中には畑や果樹園が用意されててな。
 そこで野菜や果物なんかを生産してる。
 川と海じゃ魚が捕れるし、ストライクボアも仕留めれば肉や毛皮を得ることができる。
 自治会の心配してるような事態には、他のギルドの奴らも陥らないはずだ。それにな、城塞都市だけあって倉庫には兵糧も備蓄されてるんだよ、最初からな。
 だから、心配するなら、あの言葉の通りに生き抜くこと――戦って勝ち抜くことを、まずは考えたほうが良いだろう。
 あとは……そうだな……。
 この他の情報については、それに見合うだけの情報料を貰えるなら、提供してもいいと考えている。別に情報料は、金じゃなくても構わない。物でも、派遣アルバイトみたいに何日か人を貸してくれるってのでもな。
 会長さんには、そう伝えてくれるか?」
「ああ……」
「頼むぞ。ただ、明日になってから帰った方が良いだろう。
 草間にホテルへ案内させるから、今日はもう休んどけ。
 絶対に無理はするなよ。いいな?」

 陽司が部屋を後にすると、残された耕太は肩を落としたまま、沈みこむようにして椅子に寄り掛かった。




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