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No.4090の一覧
[0] Struggle for Supremacy 【MMORPG系、デスゲーム】【更新予定についてのみ】[Dice Dragon](2009/02/01 05:22)
[1] Prologue of First Stage[Dice Dragon](2008/11/01 22:13)
[2] Mission 001 ― The ranch is built ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:17)
[3]  Intermission ― Uneasiness ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:18)
[4] Mission 002 ― Ranch defense ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:19)
[5]  Intermission ― Interrogation ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:20)
[6] Mission 003 ― Searches for whereabouts I ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:20)
[7] Mission 004 ― Searches for whereabouts II ―[Dice Dragon](2008/11/01 22:21)
[8] Epilouge of First Stage[Dice Dragon](2008/11/01 22:22)
[9] Prologue of Second Stage[Dice Dragon](2008/12/04 01:43)
[10] Mission 001 ― It is me that revenge ―[Dice Dragon](2008/12/24 21:40)
[11]  Intermission ― Mine exploration ―[Dice Dragon](2008/12/24 21:41)
[12] Mission 002 ― VS Gate Guardian : Protection Bull ―[Dice Dragon](2009/01/09 05:27)
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[4090] Prologue of First Stage
Name: Dice Dragon◆122ca858 ID:a7467134 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/01 22:13

「何が広大無辺なファンタジーの世界を堪能してみませんか、だよ。
 誰がマジモンの命を賭けてまで、殺し合いをやりたがるかってんだ。こんなのサギ以外の何モンでもねぇじゃねぇか……」

 腰ほどまで生い茂った緑へとショートソードを擦りつけ、こびり付いたドス黒く腐敗した血液と肉を拭いさりながら、宮間耕太(みやま こうた)は、心の内に積もった不満を誰に聞かせるでもなく吐き棄てる。

「そりゃ、俺だって冒険がしたいから、このゲームにログインしたさ。
 だけどな、誰が、血まみれになりながら戦うことに憧れるかってんだ。誰が、腹に喰らった一撃で気が狂いそうな痛みに耐えながら、それでも戦わなきゃ殺されるような世界を望んだってんだよ!
 俺達が望んでたのは、普通じゃ行けない世界への旅行や観光、ゲームで敵をスタイリッシュに倒したときの爽快感だってんだよ!
 誰が、こんな血で血を洗うような地獄を望んだってんだよぉぉっ!!
 くそがっ、くそがっ、くそたっれがぁぁっ!!」

 気が付けば、赤く染められた緑は薙ぎ倒され、その命を散らしている。
 だが、緑を愛でる心などは、衣食住――いや、命の心配をしなくてすむだけの余裕を持ちえなければ生まれないものなのだろう。
 昏い翳を顔に映しながら、ぶつぶつと呟いて始まりの街へと向かう耕太は今、二週間という短くも長い時間を生き抜き、それに見合うだけの強さを手に入れながらも、精神の危機に瀕していた。



 ※  ※  ※



「大丈夫なのか、宮間君?」

 自治会本部として使用されているホテルのエントランスに顔を出した耕太を、自治会会長を勤める酒田克己(さかた かつき)の心配そうな声が出迎えた。

「大丈夫じゃないけど、大丈夫だよ。大丈夫じゃないとまずいから、大丈夫だってことにしといてほしい」
「分かった。悪いとは思うが、その言葉に乗らせてもらうぞ」
「ああ……」

 エントランスに集まった十数名は皆、仮想現実体感型RPG――「Struggle for Supremacy」に参加しているプレイヤーであり、GM(Game Master)すらもログインできない異常事態に際して、克己が音頭をとって組織した自治会で主要な役職を担う者達だ。
 そして、厳しい状況にあるが故、集った皆の顔には、耕太と同様の翳りが貼りついている。
 耕太一人だけが、精神的な危機を迎えているわけでは決してなかった。

「全員、揃ったな。
 この二週間、自分達の置かれたこの状況に、戸惑いを覚えなかった者はいないだろう。この理不尽に怒りを覚えない者はいないだろう。
 だが、そんな感情は、今一時の間は忘れて欲しい。
 我々の生存の可能性を探るためにも、無理矢理に呑みこんでもらわなければならない」

 苦渋を滲ませた言葉と共に、克己は集った一堂を見回し、一拍の間を取って、言葉を続ける。

「これまでの二週間、基礎的な情報の収拾に各自が終始してきた。
 それを纏めることで、より正確な現状の把握と共通認識を促し、今後の行動指針を改めて定めたいと思う。
 まずは、リアルとこの世界について分かったことを報告してもらう。
 美馬君、頼む」
「はい、分かりました」

 克巳の視線に頷きを返し、環境調査班長の美馬夕子(みま ゆうこ)が立ち上がった。

「仲裁等の対処用として用意されていたリアルでのパソコンから直接コールされるGMとの個人会話、これを流用して確認できたこと。また、ゲーム内のシステムについて、確認のとれたことを報告させていただきます」

 精神的に辛いものを押さえつけているためなのだろう。
 ただでさえ硬質的な響きを持つ夕子の声は、冷たさを感じるほどに事務的な口調となっている。

「まず、容姿については、設定されたもの全てが無効となり、リアルでのものが再現されています。ですが、能力などについては、変化が如実に表れやすい戦闘班の宮間君他数人のデータに照準を絞って確認を取ったところ、世界観に合わせたものになっていることが証明されました。
 同時に、攻略に役立つ情報――つまりは、用意されているジョブや成長後の上級職に必須となるパラメータやフラグ、モンスターの配置やアイテムのドロップなどの直接的な情報については、会話から全てが欠落してしまうため、確認がとれていません。
 私見ですが、このことから鑑みるに、今の状況は声を流した何者かによって引き起こされた恣意的な事件だといえるのではないでしょうか」
「美馬君、悪いが今は遠慮して欲しい。現状把握に努めてもらえないか?」
「――申しわけありません。
 報告を続けさせていただきます」

 熱を帯びようとしていた夕子の口調を、克巳の言葉が遮った。
 そのことにより、無自覚のうちに感情が暴走しかけていたことを夕子は悟り、大きく息をつくと、元の硬質な口調を取り戻す。

「先ほども申しました通り、重要と考えられていた情報について、その幾つかの取得に期待できないのが現状です。
 ですので、確認できた事項についてだけ述べさせていただきます。
 まず、物資購入の最大供給元であるNPC(Non Player Charactor)ですが、一ヶ月の制限が設けられている事実が判明しました」

 夕子の言葉に、どよめきが広がる。
 モンスターを倒すのではなく殺すといってもよい行為――返り血を浴び、むせ返るような血の匂いを嗅ぐという現実さながらの殺傷行為に忌避感を覚え、安全な街に篭りがちな人間は、ただでさえ多い。
 その上、冒険に必要な装備の販売数には上限が設けられていたため、他のゲームでの経験を活かしてスタートダッシュを果たしたプレイヤーによって装備が買い占められており、そんな彼らだからこそ、ある種の平等性を確保しようと組織された自治会に所属するはずもない。
 そのため、現時点では自治会に所属する少数の戦闘可能者が取得する金を掻き集め、最低限の食糧の供給を自治会メンバー全員に行うことで、ギリギリの平静を保っている。
 だが、あと二週間で、それが行えなくなるとなれば、どれだけのパニックが起こることになるのか。
 そのことを想像し、誰もが更に顔色を失っていた。

「この件に関して、まだ希望を見出せるとすれば、装備の類と同様の販売数制限が設けられていないことでしょう。
 リアルとは違い、アイテム扱いの食べ物ですから腐るということはありません。現状で確保できるだけ確保しておくという手段が通用します。
 また、販売上限を迎えて武器販売のNPCが消失した一昨日以来、店舗跡に『For Sale』の札が掛けられていることから類推した不動産の販売について、確認が取れました。
 銀行の窓口に、不動産部門が開設されています。
 販売内容は、始まりの街にある全ての物件が対象となっており、その中には倉庫もありました。この倉庫を十分に利用すれば、アイテム保持上限や公正な管理について頭を悩ませる必要は、なくなっていくものと思われます。
 ただ、多額の購入費用が掛かるため、食料の供給を第一に考える必要がある今しばらくの間は、個人保有で凌ぐべきだと思われます。
 如何でしょうか?」
「……美馬君の言う通りだろうな。
 反対意見か代替案を持つ者はいるか?」

 夕子の言葉を受けた克巳の質問に、誰もが沈黙をもって答えを返した。

「どうやら、意見はないようだな。
 続けてくれ」
「はい、分かりました。
 では、気になされる方もいるでしょうから、食べ物について、もう少しばかり触れておきます。
 リアル同様、お腹がすくために必要とされてきた食べ物ですが、その摂取が現実に反映されているらしいことが判明しています。
 これは、ログインしていた者、ログインせずに外出していた者に係わらず、オープンβに当選していた人間全てが、ゲーム開始時に自室で気絶していたという理解し難い件の情報の続きにもなります。
 発見された人物から順次、病院に収容されていますが、そこで行われた血液検査から、初期段階で手持ちの金を節約しようと食事を抜いた人物のみ栄養の低下が見られるとのことでした。また、軽い脱水症状が見られるとの連絡もあります。
 ただ、リアルの一日が八日となるように、体感時間が引き延ばされているため、どこまでリアルにフィードバックされるのかという検証は取れていません。しかし、最低限とはいえ、八日分の食事を一日に摂取して過栄養状態になってはいないことから、こちらで食べることがリアルでの適正摂取量に変換されて充当される関係が構築されているのであろう、という見解が示されています。
 また、栄養の低下が見られた該当者に対して、リアル側で点滴が行われましたが、回復は認められず、またこちらでの飢餓感が解消されたという事実もないことから、強引ですが、先の見解の傍証が成り立っているともいえるでしょう。
 なお、この件に付随して、運動量などその他の事象のフィードバックについて、今後も経過観察していくことになるそうです。
 そして、この件に関してもう一つ取り上げておくべき点となりますが、こちらの世界での死んだ時刻をデータから解析した結果、リアルでの死亡時刻との一致が確認されました……」

 言葉を濁すかのように声を小さくした夕子の視線を受け、克巳は一つ頷くと立ち上がり、集う皆を見回した。

「なるほど。やはり、我々を取り巻く状況は厳しいことが、事実として突きつけられたということだな。
 だが、この世界に囚われた当初、世界に鳴り響いた声の正しさを証明するものでもあるだろう。
 その点で、以前にも話題になった危惧が具体化する可能性が、いよいよ高まってきたわけだが、それについては後ほど触れたいと思う。
 美馬君、続きを頼む」
「はい」

 問題一つ一つに対して、思索に耽る時間を設けるわけにはいかないため、夕子は皆の注意を喚起するかのように声の調子を強めて話を続ける。

「では、続けて生産関連について、報告していきたいと思います。
 ある意味で安全圏にいることができ、また必須となっていく生産職への就業を望む意見が増えています。
 しかし、どのようなジョブが用意されているかは、やはり分かっていませんので、現在は回答を保留している形になっています。ですが、そろそろ具体的な目標を指し示す必要があります。内に溜めた不満を解消できなければ、暴発する可能性が高くなっていますので。
 この件について、甚だ不確定ではありますが、NPCで売られていた道具と他のMMORPGに用意されたジョブから類推し、予想したのが、次の三つになります。
 武器・防具の作成を担当する鍛冶職、食べ物を調理する料理人、回復薬などの薬を調合する薬剤師です。
 これらの職について、この一週間、検証を行ってきました」

 夕子は視線を巡らせ、皆の理解を確認する。
 克巳を始めとする何人かの頷きが見られ、また首を捻る様子を見られないことから理解の及ばない者もいないらしい、と判断できた。そのことに安心し、彼女は再び口を開いた。

「まず、鍛冶職についてですが、NPC武器商人によって、木刀、ナイフ、ショートソード、弓、杖が武器として、麻服、帽子、靴、レザーアーマー、レザーヘルム、レザーシューズ、ウッドシールド、ローブ、マントが防具として販売されていました。
 この内、外見の特色から何の変哲もない木製の木刀についての試験が容易だと判断し、検証を行ったわけです。
 まず、宮間君の協力を得て、フィールドに生えている枝を木刀代わりにして、モンスターに攻撃を仕掛けてもらったところ、素手の攻撃によるダメージと変わらず、装備ステータスにも表示が行われませんでした。
 ですよね、宮間君?」
「ああ、その通りだ」

 戯れに見えるそのやりとりは、精神的な安寧を得ようとする夕子の無意識の表れに違いない。そして、多数の視線のある前での行為は、彼女の精神が、危うい均衡を保つ必要を切実に欲しているための表われでもあった。
 だからこそ、話を振られるとは思っておらず、やや慌てた口調で答えを返した耕太に、夕子は微笑を浮かべてみせるのだった。

「ありがとうね、宮間君。
 さて、この試験から分かったことは、やはり武器として使うには、何らかの加工が必要であることです。
 また、木刀の代わりとならなかった枝ですが、アイテムとして取得した場合に木材となることが同時に判明しました。
 数は少ないものの、唯一発見されている食料の野イチゴは、野イチゴとしてアイテム欄に表示されますから、素材として利用できることの傍証でもあると思います。
 そこで追加試験として、宮間君達戦闘班にお願いして木材を集め、武器職の経験があるため武器職を志望していた倉知(くらち)君に譲渡した所、アイテム欄上で木材を選択すると、選択素材のウインドウが新たに表示されました。
 これで木材を木刀に変換できると考えたわけですが、残念なことに、木刀を生産することはできませんでした。
 その際のエラーメッセージは、『加工機材が揃っていません』というものであり、素材だけでは生産ができないことの証となったわけです。
 もっとも、街の調査を進めていた関係で、レンタル工房の存在は確認されていましたので、配置されているNPCに利用を申請し、通された部屋で改めて木刀の作成に挑戦してもらったところ、生産に成功しています。
 また、生産の成功により、スキル欄に【武器作成】が追加されていますので、該当するアクションを行った者が該当するスキルを獲得することも証明された形になります。
 戦闘班からの報告により、【格闘術】【剣術】【射術】【盾防御】が確認されていますので、追加証明もなされています。
 木刀以降の武器生産ですが、モンスターからのドロップアイテムに鉱石が存在しているため、これより金属を精錬して素材に当てることになるかと思いますが、現状での取得数が少ないため、試験については中止しています。
 木刀についても、今後の素材の収集がどうなるか不明のため、現状では生産を中止しています。
 スキルレベルによる成功率の変動が見られる場合には、再開せざるを得ませんが、あくまで今後の方針決定を待ってから判断していきたいとも思っています。
 なお、防具の製作は、倉知君同様に鍛冶職経験のある近森(ちかもり)さんにお願いして、ウッドシールドの生産に成功しており、スキル【盾作成】を確認しています。
 このことから【鎧作成】が別のスキルとして用意されていると考えられますが、現時点ではレザー系のアイテムが発見できていないため、確認できていません。
 これは、靴についても同様です。
 ただ、現状では使用方法が明確になってこそいませんが、おそらくは魔法使用のための装備だと解釈されている杖について疑問点が生じています。
 NPCによって販売されていた杖は、装飾のない木製の物です。ですので、木刀を作成できている以上、同様に作れなければならないはずなのですが……現在は信頼性の全くないような推論しか調査班でも出てきていません。
 推論については……如何します?」
「一応、説明を頼む。
 その後の検討課題として、各人で何か思いついたことがあれば、美馬君に意見を上げてもらって、証明していけばいいだろう」
「分かりました」

 念のためと克己に問い掛けた夕子は頷くと、皆へと視線を向けた。

「現在、調査班内では、他のMMORPGのプレイ経験から、魔力を秘めているアイテムであり、作成になんらかの条件が必要なのではないかという意見が主流を占めています。
 更に仮定を重ねる形になりますが、他のMMORPGに設定されていた錬金術師(アルケミスト)、あるいは魔力付与士(エンチャンター)などのジョブでなければ作成できないのではないかという意見もあります。
 ただ、これらの意見については、何一つ証明を得られていませんので、そこの所を間違えないように注意してほしいと考えます」
「なるほど、ヴァーチャルでありながらリアルとしか感じられないこの世界とはいえ、これまでに得られた情報からは、ゲームシステムに縛られている部分は確実に存在している。
 引いては、公式ページのスクリーンショットで魔法攻撃が上げられていた以上は、魔力という概念が存在し、それが原因になっている事象もあるはず。
 こういう流れになっているわけだな?」
「ええ、その通りです」

 現状を簡潔に把握してみせた克己に、耕太に向けたのとは別種の笑みを夕子は返してみせる。

「なるほど。では、そういった情報を踏まえ、何か考えついた者は、美馬君の方に意見を出してもらいたい。
 現状では、可能性を虱潰(しらみつぶ)しに潰していくしか方法がない。些細な情報がブレイクスルーになる可能性もある。
 そこを理解しておいて欲しい。
 美馬君、鍛冶関係については、武器、盾、鎧といった区分訳で数種のスキルが存在し、現在も生産に直結するスキルの把握を行っているということでいいね?
 あと、他に何か報告しておくことは?」
「付け加えておくならば、ジョブとしては未だ不明のままということでしょう。
 取得したスキルに関連して、一定のプレイヤーレベルでジョブが選択できるようになるのではないかという意見、スキルレベルを上げることによってジョブの選択ができるようになるのではないかという意見などがあり、玉石混交状態となっています。
 鍛冶関連については以上です」
「そうか。
 では、次の報告を頼む」

 克己の促しに、しかし、夕子は表情を翳らせ、首を横に振って答えた。

「続けさせてはいただきますが、現状では鍛冶関連ほどに報告できるだけのものが揃っていません。
 料理人については、アイテム欄から野イチゴを選択して、野イチゴジュースにすることができ、その際に【調理】スキルが表れていますが、それ以上の素材が発見されていない以上、確認できないという状況です。
 おそらくですが、鍛冶関連と同様に、手間のかかる料理には調理器具が必要になるものと思われます。
 これはジュースの精製後に容器が必要となったことからも、類推できます。アイテムとして残されていた薬の空き瓶を偶々所持していたため、判明したのは僥倖でした。
 ですので、現在は未発見のままとなっていますが、レンタル工房のようなキッチンに類する施設を最優先で探しています。
 次に薬剤師については、完全に手詰まりとなっています。
 まず、鍛冶関連や料理と同様に、設備が必要になるかと思われますが、未発見のまま、鋭意調査中です。
 また、戦闘班から提供されているドロップアイテムの中には、生薬や香草などが存在していますが、レシピを探るだけの余裕があまりないというのが実情です」
「……質問ですが、いいですか?」
「どうぞ」

 右手を挙げた食糧管理班長の高津繁人(たかつ しげと)に、夕子は質問を促した。

「アイテムの在庫数は、武智(たけち)さんが管理しているので、どういう風に数が動いたのか知らなかったので質問なんですが、アイテム数って不明のまま、作成できるんですか?」
「あ……失礼しました。
 木刀を作るときに分かったんですが、必要数以上の個数を投入しても成果に影響はなく、必要数に足りないと失敗することが判明しています。
 これから考えると、レシピを割り出す際に、かなりの試料が必要になることになります。
 念のために付け加えておきますと、作りたい物を想像しながらアイテムを選択アイテム欄に移動して、作成を開始することでアイテムは作られます。
 ですので、同じ木材を選択しても、木刀を作りたいか、ウッドシールドを作りたいかで、作成の結果が変わるということになります。
 この際、何を作れるかという情報は表示されません。
 また、スキル取得後に作りたい物を思い浮かべると、必要な材料にマーキングがされるため、調合素材の判定には問題がなく、その配合率が問題となってきます。
 効果の大きい物ほどアイテム数が増えることになると予想されるため、徐々に試料の数が膨大になると予測したわけです。
 よろしいでしょうか?」
「……なるほど。まず初めに、スキルの取得のために簡素なものをイメージすることが優先となるわけですね。
 他の職については、何か試してみたんですか?」
「いえ、そちらに関しては、今のところ、まだ手を着けていません。
 現状で手を広げすぎても、処理しきれるかどうかわかりませんでしたし、正直、そこまでの余裕がありませんでしたから」
「なるほど、了解です」
「他に何か質問はあるでしょうか?
 私の方で見落としていることもあると思いますので」

 大きく頷きながら席に着いた繁人から視線を外し、夕子は問いかけた。
 だが、繁人の他には誰も手を挙げる素振りはない。

「まあ、何かあれば、その都度確認を取ってくれればいい。
 受けた質問については、今後の会議ででも報告してもらえると助かるが……頼めるか、美馬君」
「ええ、大丈夫です」
「そうか。では、それで頼む。
 次は、宮間君に報告を頼もう」

 克己は夕子へと座るように目で合図を送り、続けて耕太の名を呼んだ。

「分かりました。
 戦闘班からは、先ほど美馬さんが触れたスキルについて、最初に報告しておきます。
 素手で攻撃することで【格闘術】を、木刀などで攻撃すると【剣術】を、弓で攻撃すると【射術】を、盾で攻撃を受けると【盾防御】を、取得することができました。
 【剣術】があるので、おそらくは槍や斧といった攻撃にもスキルがあるとは思いますが、この辺りは、武器の作成が行われてから確かめることになると思います。
 【盾防御】の方は、美馬さんの報告を考えると、他にも防御方法が存在するような気がするので、後で検証していきたいと思います。
 スキル的には、こんなところです。
 次に、街から飛び出してから死亡したらしいプレイヤーの死体が、ロッティングコップズ(腐乱した屍体)として、アクティブなモンスターになってました。
 正直、他のモンスターと違って殺すことの罪悪感は更に半端じゃなくなるので、見つけ次第、俺に回してください。もう一人、殺してるんで……他の人が罪悪感に苦しむよりはマシでしょうから……」

 エントランスに姿を見せた時の翳りの意味を察し、夕子は顔色を失(な)くし、他の皆は顔を伏せた。
 だが、だからといって、誰も自分が代わりにと言い出す雰囲気があるわけではない。
 耕太一人に重荷を背負わせる形にはなるが、それでも代われるだけの余裕があるわけではなかった。
 そんな彼らの態度に、発言前から予想をつけていた耕太は、それでも喚きだしたくなる感情の昂ぶりを無理矢理に押し殺し、次の話題へと移ることにした。

「これは最後になりますけど、少し草原を南下したところ、牛の群れがいることを発見しました。
 連れてくれば、街の周囲にある草原で、牧畜が可能になると思いますし、上手くいけば、牛肉は勿論、乳製品を供給できるようになるかもしれませんので、何とか牧場を作れるように考えてもらえばと思います」
「……そうか。それは朗報だな」

 ようやく示された明るい情報に、皆の昏い雰囲気が、わずかに明るいものとなる。

「宮間君、よくやってくれた。
 牧場の件は、最優先課題とさせてもらおう。
 では、次は高津君からの報告を――」

 自分の報告が済み、耕太は内心で大きな溜息を吐いた。
 戦闘の最前線に立つことで誰よりも耐性ができているとはいっても、仮想とは思えない生命を殺すことへの罪悪感が、何度抑えこんでも、繰り返し沸き起こっては波となって心に押し寄せてくる。
 そして、自らの精神性の危うい均衡を感じ取りながら、それでも進むしかないと、決意を固める中、報告の全ては終わっていた。

「さて、我々はオープンβに参加した五千人の内、三千三百人強もの行く末を預かっている。
 そして、置かれた状況が明らかになるにつれ、我々に対して行われたアナウンスの正しさが立証されつつもある。これは、我々が更なる争いに巻き込まれることを予想させるに十分な情報だろう。
 未だ姿を見せていない敵対者との抗争がそうであり、また、生き抜いた者に与えられるという褒賞という言葉に目が眩んだ者による有形無形の妨害がそうなるに違いない。
 まさに内憂外患という言葉こそが相応しい状況だ。
 だが、だからといって、それに屈するわけにはいかない。何故ならば、我々自身の命と我々に舵取りを任せてくれた者たちの命を、断じて諦めるわけにはいかないからだ。
 皆、疲れているのは分かる。精神的に限界が近いことも分かっている。しかし、それでも尚、一層の奮起を期待するしかない。
 各自、与えられた仕事をこなしていってほしい。会議はこれにて終了とする。以上だ」

 暗澹たる未来にくじけず足掻くことをあらためて決意し、自治会における会議は終わりを告げたのだった。




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