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No.3654の一覧
[0] 中世な日々[あべゆき](2008/07/30 02:20)
[1] 王国暦229年~234年[あべゆき](2008/11/19 02:59)
[2] 王国暦234年~豊穣の季節①~[あべゆき](2008/11/19 03:21)
[3] 王国暦234年~豊穣の季節②~[あべゆき](2008/12/04 01:38)
[4] 王国暦234年~秋のとある一日~[あべゆき](2010/06/24 16:27)
[7] 王国暦234年 Ⅰ[あべゆき](2010/06/24 16:34)
[8] 王国暦234年 Ⅱ[あべゆき](2010/06/24 16:30)
[9] 王国暦 234年 ―兄妹の付き人―[あべゆき](2010/09/19 00:22)
[10] 王国歴 234年 ―『武』には『文』で―[あべゆき](2010/09/22 05:00)
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[3654] 王国暦 234年 ―兄妹の付き人―
Name: あべゆき◆d43f95d3 ID:e14cd408 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/19 00:22
――妹、大爆発。
 失礼、勘違いする言い方であった。何も妹がボンバーマンとかそういう事ではない。子供によくある癇癪の事である。
 勿論、今まで癇癪を起こさなかったと言えば嘘では無いのだが、唯でさえ遊びたい盛りの5歳児…そう、ぶりぶりザエモンとかやっちゃう幼稚園児と同い年だというのに、外出は許されず、関わる人物は皆全て大人――精神的には俺も含まれる――という、とてもではないが教育的にどうよ、と言いたい具合。
 今まで我慢できていたのはひとえに稽古というストレス発散の場があったに他ならないのだが、俺が親父殿と共に外出の回数が増えたことを受け、妹の持ち前の好奇心がムクムクと鎌首を上げたのである。
 無論、両親とてその気持ちは痛い程分かっている…分かっているのだが立ち塞がる疫病という悪意。町は色々と不衛生の極みである、規模に関わらず疫病が起きるのは夏の恒例行事と言っても良い。
 子供の願いは叶えたい、けど、もし…という葛藤の末に7年間軟禁された俺である。妹も俺に倣うなら@2年程自宅警備訓練を受けねばならないのだが…。
「よし、わかった! 明日、出掛けるから楽しみにしておけ!」
 両親も子育ての経験を積んだのか、それとも疫病の治まる季節に入ったお陰とも言うべきなのか。
 かくして、妹の初めての外出が差し迫った今日この頃である。俺が二年間大目に軟禁されたのは愛故にであろう、当時、暇すぎて奇行が多かった事については関係ないと俺は信じている。
 

中世な日々 234年 Ⅲ 


「フェリクス・トューダーです。以後よろしくお願いします」
 さて、少しばかりの説明をしよう。このトューダー家、爵位は男爵、領内荘園は最大級・仕えた年数=建国時、という我がシュバルツ伯爵家の重臣中の重臣であり、目の前の少年は快活そうな面持ちが魅力的なフェリクス君、御年9歳。その父にあたるエーベルハルト男爵は親父殿の幼少の頃からの付き人であったらしく、俺自身も何度か顔を合わせているぐらいである。
「えっと…ローラ・トューダーです。おねがいしますっ!」
 そして妹の対面に座っているローラちゃん、御年5歳。ちなみにローラちゃんの母であるオレリア男爵夫人は母の幼少の頃からの付き人という、これまた歴史的にも付き合い的に見ても親密な間柄。
 家柄は申し分なく忠誠心も抜群、更に両親が良く知っている相手ときたものだから、遊び相手兼将来の側近とでも親父殿は考えているのだろうか。
「じゃあクラウ達は向こうで遊んできなさい。父さん達は積もる話がある」
 と、言われ、親父殿の『所で最近、三人目考えてるんだが、そっちは?』なんていう、まるで積もってない会話を後に部屋を出たのは良い。好きなだけ雑談でも猥談でもしてくれ。
 広めのこれみよがしに玩具が置いてある部屋に通されたのも良い。許そうじゃないか。
 問題は、いきなり初対面で『友達同士になったから、後は迷惑を掛けない程度で遊べ』とか言われても困るっていう話ですよ。
「……」
 妹は始めてみる同年代のローラちゃんに対して怖気づいているのか俺の服を掴んで離さないし、ローラちゃんもフェリクス君の背中に隠れてるし…。
 これが普通の学生とかなら『何処に住んでるのよ』とか『あの女子おっぱいでかくね?』だの、まぁやりようが有るんだが…、生憎と餓鬼同士の頃はどうだったか、などまるで覚えていないのが現状である。ぶっちゃけ、その辺走り回っとけと言いたい。
「とりあえず、俺はフェリクスって呼び捨てにするからそっちもクラウディアなりクラウなり好きに呼んでくれていいよ」
「いえ、そう言う訳にはいきません。父上からもそう言われておりますので」
「そんな事気にするなよ。俺達友達じゃん?」
 こまけぇこたぁ良いんだよ。子供がそんな事気にする必要性はないのだ。
「ですが、節度は守らねばなりません」
「……」
「……」
 会話、終了。しかも、性質が悪い事に本気でそう思っているらしく、表情がピクリともしない。
「…あー、ローラちゃんも気軽にクラウお兄ちゃんとでも呼んでくれても、いいんだぜ?」
 もうスマイル大放出。フェイスランゲージで子供心を掴むんだ、とでも思っていたのに、
「…ぁ……」
 視線が合った瞬間にサッとフェリクス君の後ろに隠れてしまった。
 だがしかし、ここは押しの一手である。内気な子は引っ張っていけば笑顔になるのが漫画の定石なのだ。
「仲良くしよう?」
 ぐるりと回ってフェリクス君に隠れているローラちゃんにむかってエンジェルスマイル。自分で言うのもなんだけど、間違いなくスマイル0円の所よりいい笑顔…の筈なんだが、
「…ひっく…ぐす…」
 笑顔を向けたら泣かれたでござるの巻。
「あー、大丈夫だよ、痛いことも怖い事もしないからね、ほら泣き止んで…」
 こんな時に飴の一個でもあれば…と思わずにはいられない。全般的に甘みとは果実か野菜か蜂蜜かというのが相場である。
 しかも砂糖は、超々高級品であり、なんと薬品扱いである。俺ですら生まれてこの方食った事が無いと言えばわかってくれるだろうか。
「すみません、クラウディア様、内気な妹でして…」
「こっちもちょっと性急すぎたみたいだ…ごめんね、俺は怖くないからね?」
 とまあ、なんとかフェリクス君に助けもあり、泣き止みました、めでたしめでたし…とはいかない。
「――で、何かしたい事ある?」
「クラウディア様がしたい事があれば、僕は従いますよ」
「……従います…」
 うおーい、何か案出せよ。これだから主体性が無いとか言われるんだよ。
「モニカは?」
「お稽古がしたい!」
 やがて緊張も解れてきたのか何時もの調子に戻った妹の提案は稽古…勿論、生け花だとかお琴だとか雅なモノではない。
「駄目」
 何が悲しくてこんな時までチャンバラをしなきゃならんのか、しかも相手は大人じゃなくて子供だぞ…。
「…じゃあ、おままごと」
「駄目」
 一見、女の子らしい遊び代表のおままごとではあるが、駄目だしをしたのには理由がある。
 内容はよくある、『お帰りなさい→ご飯できてるわよ(泥団子)→いただきます』なのだが、文字通り泥団子を口に入れるまで退席は許さないという、鬼畜仕様。無理といえば泣く・暴れる・拗ねるの3HITコンボ。口に入れれば今度は噛めと仰り、噛めば今度は飲み込めという始末。俺はあの泥団子の味と噛んだ時のジャリジャリ感を生涯忘れないだろう。後、勿論飲み込んでませんから。
 …いや、少し待てよ、落ち着いて考えれば泥じゃなくて果物なり菓子なりで代用すれば―何も無いというのは妹的にNGらしい―問題ないじゃないか。
 ということで今まで見守っていた初老の男性に小さい菓子か果物を用意できるか聞いてみると、用意できるとの事で、餅は餅屋、幼女には幼女、妹とローラちゃんはおままごとをさせておくことにしよう。
「よし、じゃモニカとローラちゃんはあっちのほうでおままごとをしてきなさい。やり方は教えるんだぞ?」
「わかったー…いこ?」
「…うん」
 俺と視線が会うと怖がるローラちゃんだが、どうやら妹なら大丈夫らしい。
「…俺ってそんなに怖いかな?」
 フェリクス君に同意を求めてみるも、
「…僕にはわかりかねます」
 むぅ…。まぁ何時かは慣れてくれるかね…。

 妹達は小さいテーブルの上にこれまた小さい食器と着々とおままごとの準備をすすめる中、俺とフェリクス君はこの後どうするかを語り合っていた。
「ですから、外出は少々考え直して頂きませんか?」
「よしわかった、今回は諦めよう。機会があれば二人で脱走しようぜ」
「…その機会が来ないことを祈ってます」
 と、ある程度の会話をこなして面識を深めた後は何をしようか、と辺りを見回し、目についたチェス盤…いや、俺はチェスと呼んでいるが正式には『チェッツランジェ』というチェスに似たゲームである。違いは一部の駒の移動が違ったり、クイーンが無かったりする程度。
「とりあえず、これやらないか?」
「チェッツランジェですか…嗜み程度の腕前ですが」
「俺の家じゃ誰も相手してくれないんだよな」
 カチャカチャと木工細工の駒を丁寧に基盤に並べていく。玩具とはいえ、この類の駒や基盤は高価なので扱いには注意が必要である。
「そうなのですか?」
「うん、母さんは元々こういうのはしないし、家令は色々と忙しい。父さんは…これ以上負けるのが悔しいからやらなくなったんだろうな…」
 元々、チェスが大好きだった親父殿が俺に教えたのが5歳の時。で、初っ端の勝負から今に至るまで俺は負けた事が無いのである。いや、俺が上手いという訳ではなく、親父殿が下手の横好きという奴だったのだ。
「はは…ではお手並みを拝見致します」
「こちらこそ」
 遊戯とはいえ、礼で始まるのが貴族クオリティ。この辺り日本と被っている偶然と言うべきか。 
「個人的な意見なんですが」
 しばらくお互い無言で取ったり取られたりをしていると不意にフェリクス君が口を開いた。恐らくは妹がテーブルの上の食器等を避けてから『こんなごはんがたべられるかー』と、テーブルをひっくり返した事だろう。
「あれは『亭主関白』だな…多分次は『カカァ天下』になるけど物は壊さないように躾けてあるし、怪我をさせることも無いから気にするな」
 亜種として『浮気が見つかった』と『襟元にキスマーク』『間男発見(3人用)』等もある。
 おませなモニカは普通のシチュエーションはお気に召さないらしい。
「…違います、いや、それもありますが…。このチェッツランジェはどうもしっくり来ないのですよ」
「しっくりこない…とは?」
「歴史を紐解いて見ると当然のように裏切りや謀略そして中立という立場がある中、この敵・味方だけのチェッツランジェでは自分の視野が狭くなりそうなんです」
 父上や他の人からは教育の一環として進められてるのですが…とルークを進める場所を考えながらそう言うフェリクス君。
「つまり、物足りない、と」
「勿論、クラウディア様との遊戯が物足りないという訳ではないですよ?」
 チェスは現在、フェリクス君が若干優勢という事もあってかそう言ってくる。やはり親父殿と違ってちゃんと考えて駒を動かしている…。親父殿よ、チェスは勝率が高いとか言っていたが、どうみても接待プレイされてる事に気付いてくれ。
「なら、今度、将棋をやろう」
「将棋…ですか、一体如何いったモノでしょう?」
 一応、この世界にも将棋に似たモノがある、正式名称は『マケラン戯盤』と言う、南方発祥の遊戯だが、この世界のチェスの元になっただけあり、俺の知る将棋とは似て非なるモノなのだ。
「基本はキングを倒したら勝ちというのはこれと変わらない、が、取った駒は何回でも使えるのが特徴だ」
「使えるというと、自分の陣地に再配置可能という事ですか?」
「いや、どこにでも置ける。ただし、置くとそれで自分の番は終わる。中々に考えの幅が広がるからオススメしたいんだが、何分相手が居なくて困っていてね」
 相手が居ないのもそうだが。何より将棋盤も駒も無いからどうしようもないのが現状である。
「…良いですね…良い…是非やりましょうっ」
「乗り気になってくれて有り難いね。じゃ、用意はこっちでしておくからまた今度にでも」
 帰りにでもダニエルさんの所で注文出しておくか…。
「今度…ですか? 現物がどのような物か分かれば、用意させますが」
「今は何処にも無いし、誰も知らないさ、将棋なんて」
「…まさかご自身で考案されたとか?」
 んな訳ねーだろ、と言いたい所だがそんな事が言えるはずも無く、そんな所だ、と場を濁を濁しておく。むしろ考案者なんぞこっちが聞きたいぐらいだ。
 そんなトリビア的な事を思いつつ、妹達の様子を見ると『そこは、めぎつねの臭いがプンプンするのよ、どういうことっ。って言うんだよ』なんて妹がローラちゃんに向かって言っていた。ローラちゃんは困った顔をしているし、初老の男性は苦笑い…まぁうまくやっているようだ。
「クラウディア様…いいんですか?」
「良いんだよ。どうせ理解してないだろうしな、そういうフェリクスもそうだろう?」
「…まあ、ある程度の本質は分かりますけどね…」
 むしろ、『夜feat.両親』を教えてない辺り俺の自重っぷりを褒めて貰いたいくらいだよ。
 ちなみに、チェスの勝敗の行方ではあるが…。
「ま、参りましたorz」
「はは…良い勝負でした」
 後一歩の所で負けてしまった。残念。

 トューダー一家との顔合わせも過ぎ、そろそろお暇しようかという刻限になる頃には俺も妹も最早最初の余所余所しさは無く、妹に至っては帰りたくない、お泊りしたいと駄々をこねる始末。
 ローラちゃんも満更では無いようで、エーベルハルト男爵にもっと一緒に居たいと言い出すくらい仲が良くなったようである。俺? 目が会うと怖がられますが、何か?
「…はぁ、仕方ない奴だ。すまんが頼めるか?」
「光栄です、任せといてください」
 結局、妹に弱い親父殿はお泊り許可を出すのは必然とでも言うべきなのか、それとも、妹の喜ぶ顔を見たいが為に許可を出すのを焦らしたのかは分からない。
「クラウは泊まっていきたいとは言わないのだな」
「それでも構わないけど、用意しなきゃならない物があるから今日は止めとくよ」
 本当か? 仲が余り宜しくないんじゃないのか? という視線を向けてくるのをフェリクス君も気付いたのか、
「伯爵様、本当でございます…では、クラウディア様、期待しておりますよ」
「うん、2~3日ぐらいしたら恐らくは出来ているだろうから、その時にでも」
 と、まるで老人の次の同好会の集まりは何時なのか、とでも言う会話(約束)をしてえっちらおっちらと馬に乗る。
「次は僕がそちらに伺いますので」
「特に用事も無いし、何時でもいけるから好きな時に来てくれ」
 そうして手綱を握った所でローラちゃんと戯れていた妹が、漸く視線をこちら向けて、
「…お母様も帰るの? 一緒に泊まろうよ…?」
 そこはそれ、未だに一人では寝れない妹は寝る時は母と一緒か、俺と一緒というのが日常なのだ。比率としては母が7割、俺3割。親父殿は…鼾がうるさいから嫌らしい。
 親父殿と母は同室で寝ているが、ポジションとしては親父・母・妹の並びで寝ている。無論、俺と寝る時は…わかるよな? 閑話休題。
「あら…困ったわね…」
「どうぞ泊まっていってください。モニカお嬢様の為です」
 と、オレリア男爵夫人がさぁさぁ、降りた降りた、とばかりに馬を捕らえている。
 まあ、母との付き合いも深いようだし、オレリア男爵夫人も結構喜びの表情が顔に出てるし…。
「そう? なら、お邪魔してもよろしいかしら?」
「はい、さ、エマお嬢様どうぞこちらへ」
「…うーむ、まあエマが望むならそれでいいか…。エーデル、頼んだぞ」
 はい、お任せください、とエーデルハイト男爵がそう頷いた所で、今度はローラちゃんが、
「ゎ、…モニカ様…あれって『浮気』の場面なのかなぁ…?」
「違うよーあれって多分だけど、『若い燕』を気にしてるんだよー」
 全然違うし、二人共そんな事をここで言うんじゃないっ!
 見ろっ、男爵と婦人の目が点になっているのを…空気読めとあれ程言ったのに!
「……、ローラちゃん、それは誰か聞いたのかな? おじちゃん聞きたいなー」
「っ!? ぇ…モニカ様…です…」
 あ、やっべ。この流れやっべ。
「…モニカ、誰に聞いた?」
「お兄様から聞いたー」
 クラウディア、撤退しますっ!
「…んっう゛んっ…クラウよ、少々…っ、待てい!」
 待てと言われて誰が待つのか。時は金なりっ。
 というわけで、俺はすたこらさっさと皆を置いて逃げ出したとさ、まる。
 …
 ……
 ………
「…全く、余計な事を教えおって…っ!」
 拳骨を食らった頭を撫でながら、親父殿の説教を聞きつつ、馬はダニエルさんの居る木材加工所へと足を進める。
「…それで、結局、フェリクスとは上手く行っているのか?」
「割と上手く言ってるよ。年に見合わず中々に落ち着いてるし」
 正直、俺があの年頃の時は勉強よりゲーム、学校より放課後、みたいな感じだったが…それなりに推奨されているチェスで物足りないというのは中々に見所があるじゃないか。
「年…いや、まあいい。力の有る重臣と上手く折り合うのもまた必要だからな…それで、どこにいくんだ?」
「ちょっとした玩具を頼みに」
「また…玩具か。いや、お前が言うならそれでも構わんがな、あまり高いのは駄目だぞ?」
 そろばんの件以来、俺の言う玩具は玩具じゃないと学んだのか、何も言わなくなった親父殿だが、今回は本当に玩具なんだよな…。
 と言う訳で、到着しましたダニエル木工所。日が随分と傾いた刻限故か、片付けが始まっている。
 目に付くのはどうみても、そろばんの部品としか思えない木工細工…ここはそろばんを頼んだ場所じゃないのだが、どうやら、結構な繁盛をしているようだ。
「はい、いらっしゃい…と言いたいんですが、生憎店仕舞いでして…、あ、これはどうも伯爵様。何か御用で?」
「うむ…用があるのはクラウらしい」
 そう言って、俺に視線を向けてくる親父殿。
「若様、私の所では家から包丁の握りまで何でも承っておりますよ?」
 冗談で、ちょっと城建てて来いと言いたくなったが、それなら石工のほうかなと考え、思い直す。
 それはさておき、とりあえず石版セットを借りて説明開始。
「こういう…不均等五角形の、駒を…えーっと……合計40枚、大きさもあるからそれぞれ合わせて欲しい。次は…そうだねぇ、80アンス(30cm程度)程度の正方形の板を1枚用意してもらいたい。とりあえず、駒が9枚並べられる広さが必要かな? 板も駒も無地でいいけど、やすり掛けで磨いて欲しい」
 とりあえず、絵で察してくれとばかりに石版を手渡し、ダニエルさんは、ふーん、ほー等と呟く。
「…先に言っとくけど、これは本当に玩具だから、そろばんみたいに注文は期待しないほうがいいよ」
「えっ、いや、わはっ…わはははは、そんな事は思ってませんよ?」
 間違いなく、金になるか考えてたぞ…こいつ…。
「それで、これは何時ごろ出来そうかな?」
「この程度でしたら、明日か明後日には出来てますよ。完成しだいお届け致しますので」
 遅くても明後日ならフェリクス君が来た時に十分間に合うだろう。
「では、頼んだよ」
「はいはいー、お任せください」

……
………
「――それで、フェリクスはクラウからみて如何だった?」
「んー……」
 帰路の途中、親父殿の質問に俺は少し考え込む。
 如何だった、と聞かれれば落ち着いている少年であった、と答えるだろう。
 だがそれは、親父殿の質問の意図からしたら少し違うかもしれない。
 ならば、能力的な意味か…だが、一度会っただけで分かるほど人間というのは賢くない。
 それでも、たった一度で評価するならば、王道的な人物とでも言うのだろうか――博打を打つのではなく、確立で選ぶというような――ベストではなく、ベターを選ぶというような――優秀と前置きに付く模範的な人物。
 チェスの最中に少しばかり、穿った――抱える領内の問題――にもセオリーの範疇と言えばそれまでだが、それでも自分なりの現実的な回答をしていた。
 そういう意味では、たかだか9歳という年齢を考えれば十分だろうか。彼がこれからも努力するというならば、伸びるのは間違いない。
 だがしかし、もし、であるが、もし、俺がTOPに立った時に彼は、ついてこれるだろうか? 拙い穴だらけの理論とは言え、時代の変革についてこれるのだろうか?
 今は、わからない。だからこそ、
「もし、柔軟に何でも対応できるならば――いい相棒になるんじゃないかな?」
「…フェリクスはお前の噂で持ちきりになる前は、秀才と言われていた。トューダー家の皆が期待しているし、父さんもよく知っているつもりだ、この目で直接見てるだけにな。
だが、父さんから言わせて貰えば、クラウは過程を軽視しすぎている、フェリクスは過程を重視しすぎている」
 ああ、成程、確かにそう言われてみればそうかもしれない。特に俺なんて結果を知っているだけに尚更だろう。
「過程を軽視するという事は、それに関わる人々を無視しうるという事にも成り得る。過程を重視するという事は急がなければならない時に、急げない事にも成り得る。どっちが良いという話でも無ければ、中間ならば良いという事でも無い。
…二人共、急がなくてもいい、ゆっくりと寄り道して経験を積んで見ろ――今まで見えなかったモノが見えてくるぞ?」
 急ぎすぎている…か、そう考えれば、俺はこの世界の住人と自覚していただろうか。
 結局、まだまだ、分かっていないという事だろうか。
「…そんなものかな?」
「…そんなもんだ」
 不意に出会いがある事もあるんだぞ、と親父殿と母の馴れ初めを聞いたり、ローラちゃんに怖がられてる等と相談したり…。
 寄り道というのがどういうモノなのかは、もう忘れたが、偶にならこういう時間も悪くは無いね。
 


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