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No.3654の一覧
[0] 中世な日々[あべゆき](2008/07/30 02:20)
[1] 王国暦229年~234年[あべゆき](2008/11/19 02:59)
[2] 王国暦234年~豊穣の季節①~[あべゆき](2008/11/19 03:21)
[3] 王国暦234年~豊穣の季節②~[あべゆき](2008/12/04 01:38)
[4] 王国暦234年~秋のとある一日~[あべゆき](2010/06/24 16:27)
[7] 王国暦234年 Ⅰ[あべゆき](2010/06/24 16:34)
[8] 王国暦234年 Ⅱ[あべゆき](2010/06/24 16:30)
[9] 王国暦 234年 ―兄妹の付き人―[あべゆき](2010/09/19 00:22)
[10] 王国歴 234年 ―『武』には『文』で―[あべゆき](2010/09/22 05:00)
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[3654] 王国暦234年~豊穣の季節②~
Name: あべゆき◆43aa77d9 ID:b76e6f71 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/04 01:38
 森林が街周辺を生い茂りそこを切り開いたのであろう、道と呼ぶにはあまりにも粗末で踏みしめられただけの獣道が遥か遠い地平線まで届き、近辺には区分けされた田畑が都市を中心にグルリと広がっている。
 だが、簡素ながらもしっかりとした城壁内の家屋に比べ、外にある家々は酷く質素で老朽が激しい。そんな、家に寄り添うように大して広くもない畑が2~3、時には1つしか無い家もある。その中で一際目を引く、柵で囲まれた巨大な畑が我が家所有の、荘園である。
 荘園の収穫の為に集められた人手は70人程、それでも一日仕事になるそうだ。
 親父殿は嬉々として人々に指示を出しているが、親父殿の表情とは対照的に集められた、頬がこけ疲れた様子の男達の表情はどうにも晴れない。
 当然であろう、耕す所から始め、種蒔きから雑草取り、果ては収穫まで。一から十全て自分達がしたのに、全て荘園の持ち主が麦を持っていく。
 そんな重労働を無償で一年中しなくてはならないのだ、更には家の分の畑も同じことをしなければならないのだ。やる気が無くて当然だろう。
 だが、断ることは出来ない、断ると待っているのは良くて鞭打ちの上、強制労働…悪ければ見せしめの為にも命が無くなるかもしれない。
 親父殿も悪い人ではないのだ、生まれてこの方、ずっと背中を見ているのだから断言できる。
 しかし、誰かがやらなくてはならない、やらなければ治世上必要な事が出来ない。
 そして俺が、俺達がこの生活を維持できているのは彼らのお陰なのだ。
 助けてやりたくても、できない。
 俺には、そんな力も才能も無い…自分の器は自分が一番知っている。
 だからせめて、感謝だけは…彼らのお陰だというのは忘れない。

 それでも、何時の日か、必ず…――


中世な日々 王国暦234年~豊穣の季節②~


「どうだクラウ! この実りに実ったこの小麦を、これほどの豊作はそうそう無いぞ!」
 自慢げに、誇らしげに、俺に言うのだが現代の農業技術が無い、古来よりの農業は教科書に載っているようなモノではなく、真に貧相なものであった。
 水田は馴染み深いものだが、麦畑は稲作程、作物が密集しておらず、様々な条件下の下で収穫量が決まるのだ。
 そして親父殿が言う、実りに実ったとはこの麦穂の事なのか?
 俺には密度が薄く、まばらに生えた麦穂、たわわに実ったとは思えない貧相な実、実の数も多くも無く、とてもではないが豊作とは思えない。
 現代では例年以下、むしろ不作や凶作と言った所だろう。
「…そう? 所で、去年はどうだった?」
「そうだな、これより、少なかったな。うむ、例年通りだ」
 いや、あの、ソウデスカ…。
 色々と諦めた俺は畑で刈り入れ作業がどんなモノなのかいい機会なので見ておこうと、眼を向けると稲刈りに使う直線的な鎌ではなく、大きく曲がった大鎌のようなもので麦穂をガサリと集めて切っていた。
 やはり、作物密度が違う為か大きくなりがちなのであろうが、使うほうは溜まったものではないだろう。
 いや、稲刈りは稲刈りで腰とかに結構クルけどね?

……
………
 額に汗水垂らして大鎌を振っている農民達を親父殿とその部下であろう武装した兵士が監視し、早一時間程。
 依然として終わりそうに無いので、俺にも出来る事が有るなら手伝うか、と腰を上げた所で護衛さんに止められたのが10分程前。
 いい加減暇だ。
「なあ、子供のお守りなんぞして、楽しいか?」
「いえ、楽しいという問題ではないので」
 少しばかり頑固で無愛想なこの護衛さんの兵士は真に残念ながら職務に忠実であった。
 話しかけようとも、一言二言答えるだけで、暇を潰せそうにない。
「おいおい、もう少し表情をさ、向こうで収穫している一家みたいに……ん?」
 余りの鉄仮面に呆れた俺は荘園の近くにある田畑の麦を収穫している農民の家族を指差し、彼らの笑顔を見習えと、言いたかったのだがどうにも解せないことが。
 嬉しそうに笑いながら収穫している彼らとやる気無さそうにダラダラと収穫している彼ら。
 明らかに前者のほうが働き者なのだが、先程までは同程度だった刈り入れ後の苗が、今では自分達の荘園と比べ、随分と少ない。
「どうされましたか?」
「いや、向こうにいる、彼らの速さが我が家と違わないか?」
少しばかり考え込むと、質問の意図を理解したのか、淡々と
「農具が違うのでしょう」
 と、相変わらず一言。
 大鎌も小鎌も形状は似通っているのだが、どこかに違いでもあるのだろうか?
 両者共に見比べるが、やはり、農具の違い等わからない。
 強いて言うなら…切る時間が長いような…切れ味が悪いのか?
「クラウディア様、違いはわかりましたか?」
 珍しくも問いかけてくれるのは無愛想な護衛さん。
 残念だが、クイズの答えはわかりそうにない。
「切れ味が違うのだろうと思うが、それ以外はわからないね」
 きちんと研いでいるのか、と言いたいね。
「それはそうでしょう、切れ味が違うのは仕方ありません。
彼らは――鉄鎌ではなく木鎌なのですから」
――なんと前提が違っていた。

「あ…っ! あの…何か…っ、私達に、何か御用でしょうか…っ!」
 別段、俺が威圧した訳でも護衛さんが剣を抜いている訳でもない。
 鎌を見せてもらおうと、それだけだったのに。
 ただ、近づいただけで旦那さんが上擦った声で尋ねてきた。
「あ、いや、いいよ、そんな緊張しなくても。ちょっと鎌を見せて貰えないかな?」
 恐々と俺に鎌を差し出すと、旦那さんは少し離れて様子を見ている。
 邪魔して悪いね、ほんと。
 しかし、恐ろしそうに俺を見ている一家の視線に心が痛い。
「…これが木鎌か」
 鋭く削った刃の部分には焼きを入れて強度を上げているのだが、長年使っているのか、どうにも凹んでしまったり刃の部分が潰れていたり…これでは余程の力を入れないと切れまい。
 しかし、だからといってボロボロな訳ではなく、大切に扱っているようだ。
 それに木製とは言え、俺には少々重い。
「なあ、他の農具も皆、木製なのか?」
「鉄製の農具を使っているのは極一部の方だけです。鉄製は…彼らには届かない物です…」
 何かしらあったのだろう、少しだけ感情が出ている護衛さんの声だが、表情はやはり変わらない。
「…旦那、重ね重ね済まないが、鋤も見せてくれないか?」
 自分に言っている、と気づいた旦那さんは大慌てで小さい家から鋤を持ってきてくれた。
 これも鎌と同じく先端部分に焼きを入れているが、こちらは鎌とは違い所々欠けてあったり、割れていたりとボロボロである。
 こんなものでは、満足に耕せない。
 その証拠に我が家の麦と比べ、こちらの麦は少々貧相である。
「所で、家畜はいないのかい?」
「あ、いえ、私め達は飼っておりませんので…」
 居心地悪そうな旦那さんはそう言うのだが、成程、皆が皆、家畜に犂を引かせていると思っていたのだがどうやら違うらしい。
 確かに辺りを良く見れば、豚や牛を引き連れている農民は一部だけだ。
「家畜を飼えるのも余裕のある農民だけです、家畜そのものもそうですが、森にある木の実を食べさせる権利を買えませんので」
「はあ? 森の権利?」
 権利と言われても土地の所有権ぐらいしか思いつかない俺が居る。
 これだけ森が生い茂っているから気にせず、木の実を食わせりゃいいものを…。
「はい、クラウディア様。お父上様が森に関する権利を全て持っておられます」
「具体的にどんな権利を?」
「全てです」
………(;´Д`)
「…そんな父さんみたいなノリは要らないからさ、もっとこう…何々の権利がありますとかさ、列挙をしてくれ、列挙を」
 その言葉に少しばかり困った顔をする護衛は何と言えばいいのか困っているようだ。
「そうは言われましても…その…本当に全てですので、伯爵様に教えてもらったほうがお早いかと…」
 ゴニョゴニョと段々小言になっていく護衛。つまり、結論から言うと 知 ら な い 訳ですね。
 これは護衛も言ったとおり後で親父殿に教えて貰うほうが良さそうだ。
 だが、当面の疑問だけでも知りたいね。
「じゃあ、木の実を食べさせる権利っていうのは?」
「豚が食べる餌は木の実というのはご存知ですか?」
 牛や豚、鶏が何を食べるのかは知っているのでコクリと頷く。
 それ以外は多分、肉。そんな程度ではあるが。
「流石です、クラウディア様。その御歳で知っているとは…誰に聞いたのですか?」
「乳母」
 勿論、乳母がそんな事を教えてくれる訳がない。
 奴はただ礼儀関係とか貴族の心得とかそんな事しか言わないお局様なのだ。
「そうですか…では、木の実でしたね。豚の餌が木の実ですので、森に入らないといけません。
しかし、伯爵様の森に無断で入る訳にはいきませんので、伯爵様から森に入って木の実を貰う権利を買わなければいけません。
買う、と言っても彼らにそんなお金はありませんので家畜そのものを代金として支払っているのです」
 成程、それで我が家に豚肉が多いのか。
「ああ、そういえば牛は?」
 豚肉で思い出したが、牛肉を生まれてこの方食べていない事に今更ながら気づく。
 食事は肉より野菜だよ、兄貴。
「牛は冬場に回す牧草が有りませんのでこの地域一帯ではあまり見かけません」
 あー確かに。冬場は雪が降ってそのままだからねー。
 近畿地方南部生まれの俺には雪が残ったままなんてどれだけ遊べるんだと思うね、今はまったく嬉しくないけど。
 温帯と冷帯の間ぐらいかな? 海外旅行所か国内旅行すら余りしてないのが悔やまれる。
「なにより、領内には馬が多いものでして冬季意外に取れた牧草は全て馬に使われております」
「ということは、馬に犂を引かせているの?」
「いえ、馬は全て伯爵様や騎士階級の方々、後は商用にお使いになられておりますので。
そうですね…老いた馬程度ならば彼らにも分け与える事はありますが、管理もできず、またそう長生きもしないので…」
 馬は全て軍用か…勿体無い。少しは農業に回せばいいものを。
「…じゃあ全部、手で?」
「勿論です。…ご心配なさらず、クラウディア様の荘園は馬も使っておりますので」
 心配する所違うから…俺等ではなく彼等の心配しようぜ?
「…やっぱり木製が主流?」
「木製が殆どです。」
…おーいおい、どうする俺。まさか農法云々の前に農具が既に駄目とは。
 この世紀末で南斗の海の字を頂いている俺でも見通せなかったよ。
「鉄、なんとかならない?」
「はぁ…? なんとか…と申されましても、どうにもこうにも…」
 鉄製農具にしたい…彼らは金どころか明日の食料に困る有様で買えない・交換する品が無い=生産力の停滞
 金作るには作物売るしかない…小さい畑+木製農具+馬の労働力・肥料になる馬糞が無い=生産力の停滞
 今回の豊作…領主達が分捕る→僅かしか残らない→馬飼えない・鉄農具買えない=生産力の停滞
――投了じゃね?
 何か突破口無いかなー…。
 もう、荘園をさ農民に渡して、利益の一部を取る方向でいくね?
 駄目か、親父殿に何て言われるか…。
 結局の所、まずすべきは鉄農具の普及…鉄か…。
 鉄が高いっていう事はそれ程生産がされていないのか、もしくはできないのか。
「…鉄の生産不足、か」
「クラウディア様?」
 ポツリと呟いただけなのに、側に居る護衛さんには聞こえたようだ。
「いや、そんな鎧や剣に鉄を使うなら、農具に鉄を使えばいいのにな?」
「…そうは、いかないのでしょう。周辺の情勢も良いとは言えませんので」
 座り込んで考え込みたくなるが旦那さん一家が緊張した面持ちで立ちつくし、俺が去るまで農作業もできそうに無いだろう。
 とりあえずは戻って親父殿から森の権利とかを聞きださないと。
「行こうか。旦那、これ有難う」
「…っあ、いえ、そんな…っ!」
 鍬を手渡し、小さく頭を下げると彼等は呆然とした後、急に平伏をした。
 貴族が農民に頭を下げる等、思いもしなかったのだろう、どうすればいいのかわからなかったようだ。
 あー…親父殿にばれたら怒られるだろうなあ、ばれると何故奴らに頭を下げたと怒られるからなー。
 どうにも、頭を下げるなとは、俺には馴染まないね。
「…どうした?」
「……あっ、はい、失礼しました」

 そんな訳で荘園に戻ってきたのはいいのだが、農民達が汗水垂らして鎌を振っているにも関わらず、広々とした畑には手の付けていない場所が多々あり、刈り入れだけでもまだまだ時間が掛かりそうだ。
 脱穀等の作業は恐らく明日になるであろう。
「父さん、まだ終わらない?」
「まだまだ終わらんな…さては飽きたな?」
作業の様子を逐一眺めていた親父殿に話しかけると、俺が暇そうにしているのがわかっていたのかずばりと言い放つ。
 そして、強ち嘘ではないのだ。
「父さんも昔はすぐに飽きたものだ。だが大人になればわかるぞ、この楽しさが」
 収穫が楽しいのではなく収穫による金銭収入が楽しいのだろう、恐らくは。
「ところでさ、森の権利って何があるの?」
「森の権利? またクラウの知りたがりがでたか」
 呆れ顔の親父殿だがそう言わないでほしい。
 この世界を知る事は俺の数少ない娯楽の一つなのだから。
「護衛さんに聞いたよ、木の実を取る権利と他にもあるってね」
「はぁ…やれやれ…長くなるが、いいか?」
「勿論」
「だろうな…」
 以前まで簡単にサラサラと概要を説明されるだけだったのだが、そんな事では俺は満足できないのでとことん食いついていくと、いい加減親父殿も学んだのか最近はきちんと1から教えてくれる。
 親父殿は面倒そうだが、いつかは教えなければならない事なのだ、多少早くても問題あるまい。
「まず、森の権利は具体的には森の恵みに関する事だな。
例えば木を切って薪にする事だが、これは木こりが木々を伐採して、薪として売り、その売上金の一部を森の利用料として父さんは受け取っている…現物での、つまり切った薪を納める者もいるな。
家もそうだな、父さんの森から木を切らないといけないから父さんから権利を買わないといけない。
他にはお前が言っていた木の実だな、豚の餌にするために木の実を食わすのだが、それの代金として家畜を捌いたのを納めたりしている。
中には、代金となるべくものが無く…奉公に出たり、だな…まあ、なんだ、母さんが来てから縁が無いが…うん、お前にはまだ早い。
とにかく、それ以外にも狩猟や肥料としての森の土もある。
中でも狩猟はクラウ、お前がもう少し大きくなったら父さんと一緒にでっかい獲物を狩るぞ、楽しみにしておけ」
 確かに、森に関すること全てだったな…。
 森の土というのは腐葉土の事だろう、そういえばこれも一応肥料にはなる。
 しかし、狩猟なんて全然楽しみじゃありません。猪とか槍で仕留めるのか、それとも弓矢で仕留めるのか…できることなら後者をお願いしたい。更に言うなれば俺は家で朗報を待ちたい。
 所で親父殿、奉公云々の所をもう少しkwskお願いしたいところなのだが。
「結構、森って生活の一部になってるね」
「一部所か、殆どと言っても構わないだろうよ、ちなみに昔は小さい村が一つあっただけで殆ど森だったらしいぞ。
それを初代デーリッツ様が建国時の王家より領地を下賜されて以来、我が家が代々築いてきた街だからな、奴らなんぞに負ける訳にはいかん」
 鼻息荒い親父殿だが、一体全体、奴らってのはいつも言っている宿敵だろうか?
「奴らっていつも父さんが言っているフェルなんちゃら家?」
「そうだ、あの北の蛮族共め…いいかクラウ、奴ら…フェル=フラゴナール家はな、父さんの父さんと母さん、つまりお前の祖父と祖母の仇なのだ、祖父母だけではない、歴史を遡っていくともっとやられている。
更に仇だけじゃ止まらん…奴らには120年前にライン川以北を取られている。
何としても奪い返し、奴らだけは、シュバルツ家の名にかけて滅ぼさなければならない」
 というか親父殿がここまで言うとは、根が深そうだ…。
 俺に期待しないでよ? 俺多分、ムリだと思うよ?
「お前は誇り高きシュバルツ家を継ぐ身だ、父さんが戦場で倒れた時には…お前が 我が家の悲願を受け継げ…お前ならできると、信じているぞ」
「そんな…それじゃ、父さんではできないの?」
「それこそまさか、だ、それに父さんはまだまだ倒れる気がしないぞ、王家より授かった武勲の剣は伊達ではない。
だが、この世に絶対は無い…万が一が、あるのでな」
 何時にも無い真剣な親父殿…今まで考えたことも無かったが、このご時勢、戦場で朽ち果てる等珍しくも無いのだろう。
 我ながらどうして、平和ボケとやらが抜けていないらしい。
 それに俺には…そんな大それた事できないよ…。
「…せめて、いい貴族にはなるよ」
 できない、なんてそんな事は言えない…できる、とも…。
「今は、それでいい…」
 親父殿もわかってくれているのだろうか、頭を撫でてくれるその手は優しく、頼もしい。
 秋も深まり、肌寒い筈なのに、俺には暖かく感じるよ…父さん…。

 特に喋る訳でもなく親子二人、石の上に座り込み収穫を眺めていると城門のある方角より馬に乗った男と武装した兵士が数人、そして鎌をもった農民達が我が家の荘園に向かってきた。
 誰だろうと眼をこらすと、親父殿も気づいたようで目を細めている。
「あれは…ヴォルフか?」
ボソリと自分に確認するかのように呟くと、立ち上がりその男に向かい、俺はその後に続く。
「父さんの部下?」
「ああ、あいつはヴォルフという正騎士だ、奴の荘園は違う方角なのだが…今年も、か?」
 やれやれ、またか。と呟いている親父殿だが、詳しく聞く前に既に正騎士ヴォルフ御一行は既に近く、馬を降りていた。
「ご機嫌麗しく、オスヴァルド伯爵様、ご迷惑かと思われますが収穫の手伝いに来ました。
どうぞ、今年も奴らをお使いください」
 馬から折りて礼儀正しく腰を折る軽装の鎧に身を包んだ男はなんというか…
「いや、助かる。ああ…息子のクラウディアだ」
「お初にお眼にかかります、クラウディア様。私、正騎士の爵士を頂いておりますヴォルフ・ハイネマンと申します」
 そう…腰巾着のようだ。

 一言二言、親父殿と話した後、ヴォルフさんは数人の兵士と数十人の農民に指示を出しているのだが、どうにも農民のほうはガッシリとした体格の若い男が鉄製の農具を持っているだけで、他は木製であり、持ち手が年若かったり、年老いたりと多彩である。
 そうしてバラバラと行動している皆を見届けた後、親父殿と俺に対してヴォルフ宅に招待されたが、親父殿は責任者を連れてくるということで、先に俺だけ向かうことに。
「ヴォルフさん、爵位というのはわかるけど爵士って何?」
 道すがら、先導されるのはいいのだが特に話題もあるわけでもなく、ヴォルフさんからの益も何もないおべっかを貰うのにもいい加減嫌気が差してきたので、こちらから話題を振ることにした。
「爵士ですか、爵士には大騎士爵・正騎士爵の大きく二つに分かれます。
大騎士は戦場での大功を挙げた者が任命され、大体ですが農奴50人とそれに見合った土地が下賜されます。最も武功高い地位なので時には伯爵様に代わり指揮を執られることもあります。
正騎士とは、戦場で功を上げた者が領主様や大騎士より任命され、農奴20人以下と同じくそれに見合った土地が下賜されます。
彼等は規定の軍役に従い、戦の時には伯爵様の軍勢に参陣致します」
 ということはヴォルフさんの連れてきた農民は十数人…わざわざ全員連れてきたのか、律儀なこって…。
「ということは、ヴォルフさんは戦で武功を上げたのか…凄いね」
 俺には真似できないだろうな…。
「いえ、私は八年前に父が亡くなった際に受け継ぎまして…」
「あ…そうだったか、すまない」
「いえ、お気になさらず、戦の折にはクラウディア様の為に粉骨砕身、貢献致しますので」
 多少失敗した俺だったがヴォルフさんは表情も変わらずに笑顔のままである。
「はは…ありがとう」
 そんな雑談を交わしている内に城壁内の南東区画にやってくると、民家の中で一回り大きい屋敷が遠目に見える。
「あちらに見える建物が我が家です」
 指差す先にはやはり先程の一回り大きい屋敷で、近づいて見ると我が家と比べると小さいながらも庭と堀、馬小屋が完備されガッシリとした威厳を感じられる。
「クラウディア様は蜂蜜入りの果実水はお好きですか?」
 ん、あの甘ったるい水か、まあどちらかといえば好きかな…
「うん、好きだよでも、少し寒くなってきたからね暖かい物がいいな」
「では、そちらを申し付けましょう、それと胡桃入りのパンは如何ですか?」
「何から何まで有難う、ありがたく頂くよ」
 しかし、言葉で言うのは簡単だが、どれも中々値が張る物ばかりで、それだけでも俺への歓待ぶりがわかるな。
 これで親父殿が来たらどうなるんだ…。
「では、ようこそ我が家へ。歓迎致します」
 ヴォルフさんはそう言い、玄関のドアに向かうのだが護衛は立ち止まり、門の側に突っ立ったまま中に入ってこない。
「…あれ? どうした護衛さん、入らないのか?」
「えっ、あ、いや、私は…」
 話しかけられるとは思わなかったのだろう、護衛は急に狼狽し返答に困っているようだ。
「クラウディア様、兵士如きに過分なお言葉は勿体のうございます。どうか気になさらず」
ヴォルフさんは優しく諭すように言うのだが、こちらとしては無いわーという感じである。
 確かにそういう場面は何度も見てきたけど未だに慣れないし、招待されたのが俺と親父殿だけでも周りの護衛ぐらい一緒でいいじゃないか…。
「…そうか」
 まあ、他人の家だし仕方ないか…。
「ええ、ではこちらへ」
 ヴォルフさんが玄関のドアを開けた瞬間である。
「――ようこそ、お越しくださいました、クラウディア様」
…………え?
 使用人だろうと思われる見目麗しい女中さんが玄関口の両脇に2人づつ、続いて初老の男性が二人、一斉に頭を下げ俺に挨拶をしてきた。
 どれだけVIP扱いなんだよ…。
 というか、今日、俺が収穫に来るかもわからなかったのに、わざわざこの為に用意していたのだろうか。
 早馬が走った形跡は見てないので恐らくは我が家の人物に合わせて挨拶するように教育されていたのだあろう。
 成程、腰巾着である。
「客間に案内致します」
 ヴォルフはそんな使用人に気も留めず、俺を案内するのだが、俺はそんな事をされて普通に歩くなんて、できません。
 どうもどうも、と頭を下げながらヴォルフさんの後についていくしか無いのだが、やはり、変な顔をされてしまった。小市民で済みませんね。
 案内された客間は落ち着いた調度品が部屋を飾っており、お座りくださいとヴォルフ家の家令と思わしき男性に言われたとおり部屋にある最も貧相というか、日当たりが悪いというか…そういう椅子に座ろうとするが、家令が最も好条件の椅子をさり気なく引き、どうぞこちらへ、と目線を送ってくる。
 こんな風にされれば仕方ない。指定された椅子に座ると、ヴォルフさんも対面に座り和やかに話しかけてくる。
 暫く、和気藹々とした雑談に興じていると先程、玄関に集まっていた女中さん達が飲み物とパンを持ち静かに部屋に入室してきた。
 部屋が焼きたてのパンの匂いで包まれて、昼には少し早いがこの匂いを嗅ぐと空腹なのが嫌でも実感させられてしまう。
 それをテーブルの上に静かに並べられて、最後にヴォルフさんの前にはワインを置き、俺の前に湯気の立った飲み物を置いた時である。
「あ、――あちっ」
 緊張しているのか、それとも疲れているのか手元から離れたグラスがテーブルに倒れ、中の飲み物を零してしまったのだ。
 相手がメイドだけあって完全無欠もイイけど、これはこれでアリである。
――アリである。
 大事な事なので二回言いました。
「あっ、申し訳ございませんっ! 直にお拭き致しますので…っ!」
 震えながら、忙しなく濡れたズボンを布で拭いてくれるが、こんな事で激怒するような性格でもなく『そんなもん放っておけば乾くからいいよ派』の俺からすればどうでもいい。
 ちなみに怪我をしても『舐めとけば直るよ派』だ。どうでもいいですね、すみません。
「クラウディア様! お怪我はございませんか!?」
「ん、大丈夫大丈夫。あ、いいよいいよ、気にしないで君こそ大丈夫かい?」
 慌てて側に寄るヴォルフさんに返答し、泣きそうな顔で拭いてくれる女中さんに問いかけるが、聞こえていないようだ。
 そうしている間にも周りの使用人達が布を持ちズボンを拭いてくれるのだが…俺の周りに大人が何人も座って拭いているこの状況、第三者から見たらどう思うだろうか…。
「クラウディア様、なんとお詫び申し上げれば…」
 ひたすら低姿勢で接してくるが前述の通り別段俺は気にもしていないのでお詫びも糞もないのが心情である。
「いや、別にいいから…本当に、気にしないで…」
「いえ、大恩ある主筋にそんな事ではハイネマン家の名が廃ります、どうか、何卒…」
 ぇー…もういいじゃないのよ…僕気にしてない、君謝った、じゃお茶再開しようか、でいいじゃないか…。
「どうしても?」
「はい、何かお詫びをしなくては…」
 あー…そうだなあ…人様の家にとやかく言うのは気が乗らないけど…何でもっていうからいいよね?
「お茶を零した彼女は酷く怯えていた…ということは叱責だけではないだろう?」
「当然です、我が家の名誉にも関わる事ですので当然の処罰をすべきでしょう」
はあ…それぐらい、いいんでねぇの? と思わんでもないのだが…。
「では口頭叱責だけにしておけ、手を出す事や賃金等の他の処罰は許さん。いいね?」
「しかし、そんな事では…」
 まだ食い下がるヴォルフさんだが、他には…あ、そうだ。
「じゃあ、外で待っている護衛さんは収穫の時から俺の側にずっと居たから、喉が渇いている筈だ。
そんな忠勤を尽くしてくれている彼に温かいお茶の一杯でも出してやってくれないか? 
この二つを持って俺に対する侘びにしてくれ」
 丁度言い終わる頃には新しいお茶が俺の前にコトリと置かれ、乾いた喉を潤す為に一口。
 うん、美味い…以上、一件落着!
――めでたしめでたしってね

 空は既に夕焼けに染まり、親父殿がそろそろお暇しようか、と腰を上げた刻限。
 ヴォルフさんに庭先まで見送りに来てもらい、護衛が俺の乗っていた馬を連れてくると不思議そうな顔で問いかけてきた。
「クラウディア様が屋敷に入った後、何かあったのでしょうか?」
「何かって?」
 流石に一人ではまだ馬に乗れないので護衛が俺の脇を掴み鐙の上に乗せると、馬は慣れたもので人が乗っても多少身じろぎしただけで大人しいままである。
「いえ、クラウディア様がお屋敷に入って暫くすると、屋敷の中でお茶とパンを馳走されたので」
 護衛さんはこんな事は初めてです、と呟きながら馬の手綱を握り、馬を誘導してくれる。
「まあ、そういう事もあるんじゃないの?」
「…そうでしょうか?」
 未だに思案顔の護衛さんだが、親父殿の側に来たので護衛は口を噤んだようだ。
「うむ、毎年すまんなヴォルフ」
「いえ、好んでしていることですので、お役に立てれば幸いです」
 俺が準備できたと知ると、親父殿は馬を嘶かせ我が家に向け、歩いていく。
「ああ、ヴォルフさん『アレ』はきちんと守ってよね」
「わかっておりますとも、ではお気をつけて…いつでもお越しください、歓迎致します」
 ヴォルフさん以下使用人の皆が深く頭を下げてくれるのをこそばゆく感じながら「ご馳走様、ありがとう」と一言延べヴォルフ宅を出ると、民家の影が長く、月も少しばかり顔を出している、この様子では直に日も沈むであろう。
 暮れなずむ街並みを馬に揺られて進むと一日の疲れが出てきたのか段々と眠くなってくる。
「…疲れたようだな?」
「んー、そうだね。色々あったけど、うん、勉強になったよ」
そりゃよかった、と笑いかける親父殿も護衛も街並みと同じように夕日に照らされて赤くなっている。
「途中で眠ってしまって落馬してはいかんぞ?」
 流石にそれは無いよ、と言い返し我が家に続く坂道を上っていく。
 これを上がれば家にはすぐにでも到着する、そして、家の扉を開けるとどうだろう。
 晩御飯が出来ているだろうか? それともお転婆な妹が待っているのだろうか?
――願わくば、外出できなかったモニカが拗ねていないように。




































以下、NGシーン。 こんなのはいやだあああああああっていう人は見ないでください。



























①くらう君が鬼畜

「あっ、申し訳ございませんっ! 直にお拭き致しますので…っ!」
 震えながら、忙しなく濡れたズボンを布で拭いてくれるが、貴族なのである、俺は。
 そんなガタガタ震えられても、困るのである。
「ああん? 俺は親父殿の息子だぜ? その息子のムスコ♂が火傷したんじゃい、どうしてくれるんだ!」
「お…お許しを…」
 必死に謝りながらズボンを拭くメイドさんに俺は――
しゃぶれよ


②お父さんは疲れてます

 ヴォルフさん以下使用人の皆が深く頭を下げてくれるのをこそばゆく感じながら「ご馳走様、ありがとう」と一言延べヴォルフ宅を出ると、民家の影が長く、月も 少しばかり顔を出している、この様子では直に日も沈むであろう。
 暮れなずむ街並みを馬に揺られて進むと一日の疲れが出てきたのか段々と眠くなってくる。
「…疲れたようだな?」
「んー、そうだね。色々あったけど、うん、勉強になったよ」
 そりゃよかった、と笑いかける親父殿も護衛も夕日に照らされて赤くなっている。
「途中で眠ってしまって落馬してはいかんぞ?」
 流石にそれは無いよ、と言い返し我が家に続く坂道を上っていく。
 これを上がれば家にはすぐにでも到着する、そして、家の扉を開けるとどうだろう。
 晩御飯が出来ているだろうか? それともお転婆な妹が待っているのだろうか?
――願わくば、外出できなかったモニカが拗ねていないように、祈りつつも、居眠りして落馬する親父殿のその表情を俺は見逃さなかった!!!1




すいません、ハイ、就職活動とか色々ともう…働きたくないでござるっ絶対に働きたくないでござるっ!
これは、皆様方、見てもらっても感想欄とかに叩かないで貰いたいです、すみません…本当にすみませんorz


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