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No.33140の一覧
[0] 【試作】背教者の兄(歴史物・ローマ帝国)[カルロ・ゼン](2012/05/15 20:08)
[1] 第一話 ガルス、大地に立つ![カルロ・ゼン](2012/06/24 00:30)
[2] 第二話 巨星落つ![カルロ・ゼン](2012/11/03 13:07)
[3] 第三話 帝都、血に染まる![カルロ・ゼン](2013/01/19 06:33)
[4] 第四話 皇帝陛下の仕送り[カルロ・ゼン](2013/06/09 15:20)
[5] 第五話 ガルス、ニコメディア離宮に立つ![カルロ・ゼン](2013/06/23 22:54)
[6] 第六話 ガルス、犯罪を裁く!(冤罪)[カルロ・ゼン](2013/06/23 22:57)
[7] 第七話 イリニとガルス[カルロ・ゼン](2013/06/23 23:00)
[8] 第八話 ガルス、悩める若者になる![カルロ・ゼン](2013/08/01 17:49)
[9] 第九話 ガルス、バレル![カルロ・ゼン](2013/11/01 21:56)
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[33140] 第八話 ガルス、悩める若者になる!
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/01 17:49
お出かけの時、鉄道が時刻表通りに来ない国は非文明国だと海外で罵った経験はありませんか?
高度に文明的であると歴史上世界中から称賛を集めたはずの古代ローマ帝国。
ですが、時刻表と鉄道が見当たりません。

というか、軍隊は時間区切で4交代制を採用している癖に軍隊以外は割とルーズなんですか、そうですか。

お客様の中に、蒸気機関と製鉄と鉄道インフラの整備に造詣が深い技術者はいらっしゃいませんか?
もしくは、一足とびにガソリンエンジンを専門とされる方でも結構です。
妥協してゴムで車輪をカバーできる場合でもおっけーなのですが…それも駄目ですか?

申し遅れました。
フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルスです。
ニート生活を満喫していると思えば、いつの間にか従兄弟の家業でこき使われていたっぽい中途半端な高等遊民でもあります。
取りあえず、ニコメディア離宮で面倒かつ煩雑な社交をお断りしてニコメディアの街へ脱出しました。
あれだね、離宮に居なければ『地方から勉学にやってきた』単なる学生だもん。
親愛を込めてプリーズ、コールミー、ガルス。




「…お久しぶりです、司教様。」

「殿下もご立派になられましたな。また、語らうことが叶うのは喜びとするところであります。」


…でも誰か、時々注意してくれると嬉しいです。



すくすくと健やかに育ち14歳となったガルス。
誕生日祝いに街にある一軒家を皇帝陛下から下賜されたガルスは離宮から躊躇なく逃げ出していた。

宴会に殺されかける!
嘆願の処理は勘弁!
あと、イリニにいじられるのはなんか苦手だ!
ついでにルシウス。お前一発殴らせろ!

そんなガルスの本音をオブラートに包み、修辞的に表現するのであれば離宮から身を引いた、というべきだろうか。
ニコメディア離宮の滞在許可を与えられた身ながら、社交はちょっと…と渋った従兄弟の殊勝さを皇帝陛下が認めてくれたともいう。

物事は言い様だという典型例だろう。
まあ、世間的にみればガルスは飼い殺しにされている皇族というところ。
なのだが…ガルスに不満がない。

というか、両者にしてみればある意味理想的ですらあった。

皇帝にしてみれば、安全管理ができるという意味で。
ガルスにしてみれば、責任を負わずに身軽になれるという意味で。

そんなわけでローマ世界にて初めての一人暮らし、とやらを行うガルス。
もちろん、初めの頃は新生活への期待で胸を膨らませたもののだ。
が、現在のテンションは実のところ甚だしく微妙であった。

なにしろ本人は電化製品に囲まれるか、使用人がいる生活かのどちらかしか経験していない古代ローマ基準でのボンボンである。
後世でいうところのビザンツ皇族そのものなのだから無理もない。
パンの買い方ひとつ、ニヤニヤ笑っているルシウスの前でイリニに頭を下げて教えを請わねば何もできない始末。

結局、ガルスの一人暮らしは意気込みこそ良いものの盛大に空回りしていた。
お陰様で、『一人では何もできないの貴方?』と自分の精神年齢の半分以下の少女に笑われながら使用人を手配する羽目になるほどだ。
彼女の助言もあり解放奴隷で公職から引退した老夫婦を雇うことで家事を任せられるまではガルスの生活は散々だった。

が、漸く生活が成り立った、と安堵したのもつかの間のこと。
日々の雑事に追われていたガルスが、解放感に浸りながら日々の生活を送り始めたとき、彼はコロリと大事なことを忘れてしまう。
被後見人が眼の行き届いた離宮から出て行った、と知らされた後見人の立場まで忘れていたのだ。


その日、私塾で大いに議論を戦わせゼミ帰りの学生というべき陽気な気分で家に帰ったガルス。
彼を待ち受けていたのは旅装のまま、しかめっ面を浮かべて待ち構えていたエウセビオス司教だった。

初めて迎えた客人は半分くらい棺桶に足を突っ込んでいるのではないか、というぐらい顔面が蒼白。
しかも、自分の神学上の師であり近況報告の手紙をそういえば最近出していない相手でもある。

「いらして下さるのであれば、ご連絡いただければお待たせすることもありませんでしたのに。」

「いえ、殿下もここしばらくお忙しそうでしたので、お邪魔したくなかったのですよ。」

「申し訳ない限りなのですが、慣れないことに追われていたのでしょう。不義理を働くつもりは無かったのですが。」

繰り返しになるが、ガルスは安全に管理できる皇族と見なされたが故に…放置されているのである。

まあガルスにしてみれば、管理せんでええから皇族辞めさせてくれと言いたいところなのだが。
如何せん血統上、ガルスの体に流れる血が問題なので辞めたいからと言って辞められるものでもないらしい。

幸か不幸かガルスが知らないことではあるのだが…ちょんぎってしまうという手はある。
まあ、知ったところでガルスと雖もそんな恐ろしい手術を受けたいとは思わない。
何より、宮廷側にしてみれば皇族を宦官とすることへの諸問題も山積しているのだ。

そんなわけで、ガルスは辞めるに辞められない皇族という生まれの問題にぼちぼちと慎重に付き合わざるを得ないのである。
が、初の一人暮らしとある程度の自由気ままな生活で彼はすっかりそんなことを頭から落してしまっていた。

結果が、目の前で泰然と腰かけながらも良く見れば脂汗を額に滲ませた老司教の家庭訪問となるわけである。

「…ああ、御歳なのですから無理を為さらないでください。どうぞ、座ったままで。」

座っていた椅子から立ち上がろうとするエウセビオス。
彼を手で制しつつ、ガルスは久々の客を迎える主人としての心配りを思い出す。

「何もない我が家ではありますが長椅子ぐらいはあります。せめて、横になってください。」

「主の定めたもうた定命。そう気に病んでもどうしようもありませんよ。」

咄嗟に頭を占めたのは目の前の老司教が疲れ果てているという事実だった。
ご年配の方々には丁寧に…という程度の心配り。
横になってもらえれば、少しは楽になるのではないだろうかという心配りは不器用な申し出だった。

だが、不器用にいたわりの声をかけるガルスに対してエウセビオス司教は綺麗な篤信者の笑みで微笑んでみせる。
彼は政治を解するとはいえどこまでも信ずる者なのだ。
ある意味では、ガルスのニート生活に対して対極に位置する信仰の人である。

天に召される前。
せめて、信仰を守らなければ。
信仰の灯を、宮中の介入から。

「…それで、殿下。学問は如何ですかな?」

今は無き大帝がかつて宗教論争を束ねようと手を出したことは渋々ながら、教理の純化のためと彼も耐えた。
が、それはあくまでも教会が分裂し乱れることを嘆けばこそ。

カエサルのものはカエサルに。
それはよい。

が、カエサルが教会をわが家の一部としようとすることまでは彼には許せない。
だからこそ、エウセビオス司教は先帝時代にガルスを聖界入りさせようとする皇帝の意向に慄いたのである。

「自分には神の教えは難しすぎる、というのが率直な印象です。」

「ほう?」

「聖書を読み、教父たちの本を読むのは私の好むところでありますが世俗のこととなるとどうにも書物通りには。」

才気溢れ、真理をつまらない知識であるかのように口にしていた若者。
彼の口からでる言葉は、しかしエウセビオスにとって完全に予想外の一言だった。

世俗のことへの疑問。

それは、世慣れぬ若者が見せる戸惑いのようでもあり、同時に何か未知のものへの恐怖のようでもある。

「どういうことですかな?」

「私は、キリスト教徒を知っているつもりに過ぎなかったのかもしれません。」

しかし、ガルスが口にするのは『知っているつもり』という一言だ。
確かに、かつて宮中で自分がガルスとやりあったときに既にガルスは教理の目指すところを『知っていた』。

三位一体と信ずることへの言葉。

彼は、それを熱意も信心もなく単なる事実として、知識として語れたのだ。

「司教様は、日々どのような信徒をご覧になられているのでしょうか。」

「司教区の人々のことですかな?」

「ああ、いや、私の先入観が不味かった、というべきなのかもしれません。」

だが、紡がれる言葉は独り言の様であり、同時に知識に対する懐疑に満ち溢れた悩めるもの。

「博愛の精神と、信仰を共にする兄弟たち。私は、それを疑わずに『素晴らしい』ものと敬愛していたのでしょう。」

していた・・・と告げる口調はどこか苦々しく、躊躇いが込められた告白だ。
無自覚の中に、ガルスが漂わせているのはある種の失望に近い。
無論、ガルスにしてみれば別段キリスト教徒の教えに魅力を感じていたわけではないのだが。

「そして、信じるものは幸いだ、と。」

それでも、平均的な現代人の感覚として少しばかりの美化された『信仰の人々』という形には敬意を抱いていたのだ。
変な表現になるかもしれないが、世俗主義の塊である日本でさえ、敬虔な人々というのは基本的にはある程度人格が陶冶されたという印象があるものである。

新興宗教はともかくとして、高僧や老司教という人々が社会的にある程度の経緯を集める世界にとって…宗教を他者の信ずるものと割り切ってもその宗旨の目指すところは善であるとあまり疑わない。

だからこそ、だからこそガルスは初めの頃、中世の教会のような世界でがっつりやっていけるのではないかと考えたのである。
が、その失礼な金で聖職を買おうという発想をひっこめる程度にはエウセビオス司教の敬虔さが眩しかったのだ。

「殿下、失礼ながら私には殿下の仰り様が少しばかり…。」

「失礼を。私はここニコメディアで信徒らがあまり幸せそうでないことに困惑している、というべきでしょう。」

その、ある種の敬虔かつ洗練された司教がキリスト教信者をガルスの中では体現していたのだ。
良きにせよ、悪しきにせよ、キリスト教徒として敬虔な人々は信仰の一つのありようとして信心深いのだ、と。

ため息を漏らすガルスの心情は、建前と現実の乖離へのある種の諦観と失望に近い。

「ご覧になられましたか?彼らは、信仰を共にする兄弟同士で相争いニコメディアで失笑を招いているのです。」

ガルスが目の当たりにした実態は理想とは程遠かった。
イリニが苦笑混じりになぐり合うキリスト教徒たちのことを『間違っていることを許せない人々』と評したこと。
それが今尚頭に残って仕方がない。

「何故、こんなことに?そう考えると、私には神の言葉とは人は理解するに至れるのか、と疑義を感じてしまうのですよ。」

「殿下、真理は一つです。」

「そう、一つのはずなのです。では、何故信徒が別れなければならないのですか?」

ガルスにとって、キリスト教徒というのはせいぜい日曜日に教会に行ってお祈りをする人々だ。
時折チャリティーをやっていて、鍋で募金を募る程度。
後は、宗教改革を招くほどに堕落したある意味金と権力万歳の時代程度だ。

信仰の熱狂と狂奔は…良くも悪くも現代人の感覚を引きずるガルスにしてみれば怪しげな新興宗教のそれとしか見えなかった。

「畏れながら、それは片方が誤っているからでしょう。」

「その通りです。ですが、何故人は過ちを犯してしまうのか。そのための信仰ではないのか、と悩む日々です。」

「…老い先短い身ですが、殿下ならば教義の乱れを正せるのではないかと期待しても?」

「私では無理でしょう。…私は、世間のことを碌に知りもせずに字面に捉われていた人間です。」

だからこそ、ガルスの口からこぼれるのはボヤキだ。
ニートになりたいですと口に出しつつ、出来れば教会に入って呑気に学者やりたいですなどと考えていた彼のささやかな将来計画。
坊さんになれば、そう簡単には粛正劇に巻き込まれることも少ないだろうという安易な考え。
いや、のぶなーがさんみたいに寺丸ごと焼き払う人物が歴史上皆無ではないのだが。

とまれ、聖職者となり信仰の灯を掲げるというのはガルスにとってもはや絶望的なまでにハードルが高いと言わざるをえなかった。

「そうであるべきだ、そうでなければならない、と考えてしまう私では教義を人々の心に行き渡るように説き伏せるのはとても。」

単なる知識で信仰の条文を読み上げたところで、良く言えば敬虔な。悪く言えば、ヤバイベクトルに篤信な連中を説き伏せられるだろうか?
そう考えただけで、ガルスの小さな肝は竦みあがってしまう。
恐ろしい想像だといってよい。なにしろ、新興宗教の熱烈な信徒に何かを説くのだ。
一つ間違えば、制御できない事態に翻弄されるだろう。

「そうですか。ですが、殿下、どうか学問に御励みになってくだされ。」

だが、ガルスのその躊躇をエウセビオスは理解しそこなった。

否、分かるはずがなかった。

ガルスにとって、それは、単なる新興宗教特有の荒々しさに対する戸惑いと、ちょっとした嫌悪感。
自己保身のために、中世の腐敗したキリスト教会で豪遊したいなぁとか考えているガルスの根性など篤信者には想像もできない。
そんなヤバイ連中のなかで、偉くなるのは危なくね?というガルスの躊躇は、敬虔な信者にとっては考えることすらおぞましいことだ。

英邁な若い皇族が、興味のない傍観者として教義を遊ぶのではなく、真摯に畏れ、悩む。
ある意味において、それはキリスト教が広く受け入れられていく中で敬虔な信徒たちが望んだありようなのだ。

そうであってほしいという思い。

そうあるべきだという、教義。

だからこそ、老獪ではあっても本質的には信仰の人であるエウセビオスは見誤らざるをえない。

それ故に、彼は老骨に鞭打って宮中で断言するのだ。
あの方は、ガルス殿下は、敬虔かつ善良なクリスチャンの心を有しています、と。

一方で、思いつめた老司教の思いは結局のところ軽薄な根性のガルスには理解できない。
彼にとって、信仰が全てであるという事は所詮知識の上での認識にすぎないのだ。




だから郊外までエウセビオス司教を見送ったガルスは単に、老人と先生に対する親しみと敬意を払った程度のつもりでしかなかった。
お世話になっている先生が来てくれたので、泊まっていってのんびりと話したかったけれども急ぎの旅なのでお見送り、と。

その帰路に、ガルスは普段あるかない郊外の雑踏で見慣れた顔を見つけてなんともなしに声をかけていた。

「やあ、イリニ。調子はどうだい?」

世話になったこともある知己に出会うのだ。
日本人ならずとも、一声かけるのは自然なことだろう。

だが、声をかけられた側は誰から声をかけられたか理解するや否や思わず自分の頬をつねっていた。

『あら、おかしいわね?痛いわ。』

そういわんばかりに訝しげに眉を顰め、首を傾げ、左右を見渡し、それから改めてガルスの方へ顔を向ける。
そこまでして、ようやくイリニは目の前でぼーっと突っ立っている男性がガルスであると認めた。

「あら、ガルス。以外だわ、貴方…塾と家を往復するだけと思っていたの。ごめんなさい。」

「…いや、普段の生活はアレだけどね。今日は、ちょっとお客人を送ってきた帰りだよ。」

半分、ひきこもりだと自覚があるガルスだが、それは本来社交を喜ぶローマ人にすれば世捨て人レベルなのだ。
本人の自覚と、極々平均的なイリニの感覚は酷く途絶している。
だからこそ、にわかにはイリニにとってガルスがほいほいと出歩いていることが理解できなかったのだが。

「お客人がいらしていたの。地元の方?」

「いや、昔の先生だよ。随分とお年を召されていてね。旅の途中に立ち寄ってくれたんだ。」

が、まあ、ガルスでもお世話になった先生には礼儀を尽くすのでしょう、と。
イリニもまあ、そこまでは理解できたのであまり口をはさむことはやめようと考えた。
何であれ、外を出歩くようになるのは良い兆候であることだ、と。

「あら、ゆっくりしていかれればよいのに。どうしたの?」

「急ぐ旅路らしくてね。顔を見て、少し話しただけで慌ただしく飛んで行かれたよ。」

「それで?貴方は家にとんぼ返り?それとも折角だから外を少し歩くのかしら。」

「ああ、帰るとも。頼んでいたコルメラと博物誌の写本がやっと届いたんだ。もう、わくわくしてしまってね。」

折角なのだから、偶には外を歩くのだろう。
そうならば叔父さんから頼まれている手前、面倒をみてあげようか。
そんな善意からのイリニの質問。

それに対し、ガルスは嬉しそうに。
そして、躊躇なく断言してみせるのだ。
さっさと帰って、新刊を読むんだ、と。

「…あのね、ガルス。貴方、ニコメディアに何をしに来たのかしら。」

「勉強だろう?もちろん、怠けてなんかいないぞ。」

「呆れた!貴方、まだ、理解してないのね!いい機会だから、少し、私に着いてきなさい。」










兄からの手紙が届いたと知らされたとき、ユリアヌスは古典の優雅な論理に親しんでいた時だった。
古代ギリシャ以来、脈々と受け継がれてきた論理と雄弁な言葉。
物語であり、神話であると同時にローマの精神を形作っているそれらの英知。

それらを学び、消化することはユリアヌスにとって掛けがえの無い喜びだ。

同時に人一倍に肉親の情に富むユリアヌスは、ガルスが書いてよこすニコメディアでの近況が気になってもいる。
世界の理と論理を教える古典と違い、ガルスは機知に富みながらもガルスはどこか理解できない視座で物事を見ていた。
兄のそんな一面に気が付いているのは、きっと何も言わない祖母と自分位なのだろう。

どうして、兄は、あれ程までもずれているのだろうか?
そんなことを考えながらも、ユリアヌスは先日の手紙でガルスが一人暮らしの喜びと大変さを祖母に書いてよこしたことを思い出していた。

祖母がアラアラと朗らかに笑いながらあの子も、そんな弱点があったのねと呟いていたことから察するに、どうもガルスは困っているらしい。
今一つ、理解しかねることだが兄は…初めてできた同世代の友人の尻に敷かれているらしいのだ。

「あら、ユリアヌス。ガルスが、貴方にって。」

祖母に感謝の言葉を返しつつ、手渡された羊皮紙を開いたユリアヌスはガルスが珍しくボヤキのような言葉を書き連ねた手紙にちょっと不思議
なものを読んだ気分となっていた。

ニコメディアで名所や有名なところを観光したという近況の概略。
けれども、読み進めていくうちに程なくしてユリアヌスはガルスの手紙に違和感を抱いていた。
まるで、知らせたい近況を書き連ねた驚きの知らせというよりも、不承不承見たものを報告するような書き方。

案内してくれるイリニという人物への謝辞を述べ、ニコメディアで見たものを書いた行間から感じられるのはガルスの戸惑いである。
なまじ変わった兄の感性に付き合ってきたユリアヌスにしてみれば、驚天動地の事態だろう。
なにしろ、あの何を考えているのか時々把握しかねる兄が、ニコメディアという街を見ることに戸惑っているのだ。
これが、異郷の、まったく異なる街ならばいざ知らずである。

「おばあ様、どうも、兄は、その…ニコメディアで戸惑っているようなのですが。」

だから、よほどの奇矯なものでもあるのかとユリアヌスは理解しかねてしまう。
彼の知る限りにおいて、ニコメディアは普通の都市のはずなのだが。

「あらあら、貴方もなのかしらね、ユリアヌス。」

「はい?」

「世間離れし過ぎよ、貴方たち二人とも。もう少し、世事にも気を配りなさい。」


あとがき
①最近、リアルがデスマーチ気味ですが私は元気です。とりあえず、週2更新で行こうと思います。海・オトラント・幼女・ガルス・ルナリアンのどれかを更新します。トラストミー!!(`・ω・´)

②なんか、放置していたのが不味いのかコメント欄に変な広告が沸きました。これって、削除申請すればいいのだろうか(・_・;)

③悩める無責任若者、ガルス君のもやもや感。彼はオリーシュでも、なでぽも実装していないので特に改善の見込みは有りません。凡人だもの、悩んだっていいじゃない。適当な生き方でもいいじゃない。


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