『シンタ!』 脳裏に響く相棒の声。 何度聞いたか,何度呼ばれたかなんて判らない。 夢を見ていた。長い長い夢。俺自身がほとんど覚えてもいないガキの頃から始まる長い長い夢。 親父にお袋、姉貴、小中高時代の友達。大学時代の同士連中、ギルメン、会社の先輩方、たくさんの顔と声が早送りで流れていく。 濃すぎてノイズのように混じる音の中でも、俺の名をよぶ相棒の声だけは、夢の中でも小うるさく,そしてはっきりと響きやがる。 こうして思い返してみれば日数だけでいえば、あいつより長い付き合いの知り合いなんぞいくらでもいるなと改めて思う。 だが一番しっくり来たというか、馬が合ったのはあのゲーオタウサギッ子ってのは間違いない。 あいつがいるのが当たり前で,あいつに背中を任せていれば大丈夫だってのが、脳神経の一筋一筋まで刻み込まれている。 だからだろうか? あんなあり得ないミスをやっちまった。 リアルだってのにVR世界と混同してあいつが隣に,俺の背中を任せられる位置にいるって思ってしまった。 うむ……我ながら情けない話だ。というか笑えん。 リアルはリアル。VRはVR。その世界の区切りを明確に意識してこそゲームマスター。 お客様を如何に,非日常な別世界に連れて行くのかってのが腕の見せ所だってのに,まだまだひよっことはいえGMがその境界線を見失っちゃいかんだろ。 佐伯さんに大目玉だわ,親父さんには呆れられるだろ。 しかも、このざまじゃ二度とあの廃神兎をVR中毒患者めとからかう事も出来やし……二度と?! まとまらぬ意識の中で漠然と流れていく顔と聞こえてくる声の奔流に身を任せていた俺ははたと気づく。 何故二度だ? そう俺は覚えている。思い出している。最後の瞬間を。夢の終着地点を。俺の終わりを。 最後に俺を呼んだ悲壮な感情が込められた相棒の声を。 なのに俺は今こうやって自分の失敗を、ありもしない手をカードに自ら飛び込んだ間抜けな死に様を皮肉めいた感情で振り返っている。 マジで呆けていた。助かるはずが無い。二度目なんてあるはずが無いのにだ…… そう考えた瞬間、ふわふわと拡散し漂っていた意識は,渦に巻き込まれた水面に浮かぶゴミくずのように一カ所に向かって収束を始める。 『全記憶転写終了。意識レベル急速上昇。生体再生ポッドハッチオープン』 俺の第二の人生は情緒もへったくれも無いそんな機械音声と共に始まった。