銀河大戦時に帝国軍と反乱軍による激闘により全ての惑星が砕かれ、その残骸たる無数の小惑星と恒星だけが残るルカリア星系。 未だ稼働を続ける自動兵器群や、互いにぶつかり合って不規則に動きが変化する小惑星群と、銀河でもSクラスの危険地帯と知られ、どこの国にも所属しない無国籍地帯として知られる。 だが人の営みがそこに無いわけでは無い。 破壊された兵器を漁るロストテクノロジーハンターや、露出したコア目当てのレアメタルハンター等一攫千金を狙う者達から、彼らを相手にする闇商人、国家の手が及ばぬからと、逃げ込んできた犯罪者や脱走兵、さらには海賊など臑に傷を持つ者達が集まって、自然発生した無数の小コロニーが存在する星系……という設定。 通常難易度のノーマルワールドでさえ、下手に足を踏み入れたら秒単位で襲いかかる高レベル敵対NPC艦、追突即時船殻崩壊レベルの超高速硬質デブリの雨あられと、加減しろ馬鹿と、プレイヤーから怨嗟の声が上がった高難度宙域。 それが高難度のハードワールドとなれば、さらに苦難は倍。 普通オープニングイベント期間中のプレイヤー達が突っ込むようなレベル帯ではないが、そこが狩り場と分かれば、なんとしてでも突っ込もう、刈ってやろうと思う、特殊性癖もとい、いわゆる廃神プレイヤー達である。 彼らの目的はNPC艦。 超高密高速デブリ地帯であるルカリア星系関連クエスト参加時、NPC艦を撃墜した際、低確率でルカリア星系用に独自発展したシールド技術を獲得できるという特別報酬が目当てだ。 これはオープニングメインイベントである暗黒星雲の調査時、常時地形ダメージを与えて来る暗黒星雲内でのダメージ割合を0.5%~5%減少させる効果有りで、”どの”艦種にも搭載可能。 この”どの”というのがくせ者。 それが使い捨てにする無人プローブにも搭載可能と判明した瞬間、その需要と価値は爆上がりを開始した。 「カモンカモン! 良いね! 70点!」 サクラ・チェルシー・オーランドは、艦体から生えたフレキシブルアームを小刻みに動かし角度を調整し、先端に発生させた高レベルシールドで敵艦からの質量攻撃を次々にそらす。 ちなみに100点はサクラが撃墜された場合なので、さほど余裕はないのだが、バトルジャンキーなサクラにとっては、ピンチは美酒だ。 アナドレリンマックスハイテンションを維持しながら、指を正確無比に動かしリンクしたフレキシブルアームズで防ぎつつ、何とか撤退を続ける。 麻紀が使っているのをみてサクラも非メガビースト時の戦闘用に導入してみたのだが、なかなかに使い勝手が良いのでお気に入り装備となっている。 敵艦の繰り出す攻撃は、周囲に無数に浮かぶ微細デブリを、船体を覆う防御フィールドによる慣性制御を用いて撃ち出す散弾攻撃。 ノーマルワールドであれば、防御フィールドを突き抜けてきても、船体の外殻レベルである程度までなら受け止められる攻撃レベル。 しかしこれがハードワールドとなれば、散弾でさえ、防御フィールドはもちろん、外殻さえも一発で抜いて致命的なダメージを与えて来る。 今使っている高レベルシールドでさえ、まともに真正面から受け止めれば、回復が追いつかずもって数発。 なんとか斜めに受け止めシールドエネルギー消費を減らし、エネルギー管理でシールドに割合を増やし、スラスターエネルギーが減った分は受け止めた衝撃さえ推力に変えてカバー。 何とか死んではいないが、サクラからは攻撃する隙さえないので、這々の体で逃げているだけだ。 もっとも相打ち覚悟で攻撃したところで、最低限まで低下させた今の武器レベルでは敵艦外殻はおろか防御フィールドさえ貫けない。 それ以前に敵艦の高レベル戦闘機動は、サクラですら確実に攻撃を当てられると断言できない。 単艦、しかも星系外縁部の雑魚NPC相手でさえこれなのだから、現段階での適正レベル狩り場でないのは明白。 わざわざ公式がオープニングイベントで使用可能なシールドアイテムを取得できると情報公開したのは、餌につられたプレイヤー達を釣るための罠ではないかと噂されるほどだ。 しかし開発に売られた喧嘩は買うのがゲーマーの習性、本能。 対散弾特効防御技術、突撃戦法、フィールド罠、特殊戦隊投入飽和攻撃、コストは高いうえに、スキルを偏らせる必要はあるが、策を講じた末にいくつかの狩り方を考案している。 開発した狩り方を秘匿するプレイヤー達ももちろんいるが、プレイ動画を作成しているグループたちは積極的に情報を公開して、再生数稼ぎに注力しているので、ある程度狩り方はプレイヤー達で共有されているが、誰にでも出来る物ではない。 何よりプレイヤースキルが物を言う。 いくつか公開された狩り方で、もっとも高難度の最たる物は、今のサクラ達が行う狩り方だという意見に異論を唱える者はいないだろう。 何せサクラが動画を公開してはみせたが、真似する物は今のところ皆無。 ”一本釣り” そう呼ばれるサクラ達の狩り方は、上手くやれば低コスト、短時間、さらに周回可能とハクスラゲーにおいては最善のやり方。 事前準備として攻撃力を犠牲に防御全振りに改造、さらに切り札の祖霊転身でのメガビーストモードを使用不可にして戦力評価を最低限まで低下。 艦体を組んでいる雑魚MOB集団からもっとも外周の一艦だけに自分の存在を察知させることで、警戒モードに切り替えて離脱させ、探索状態に。 ある程度元集団から距離を取らせたとこで、わざと戦力サーチに引っかかりこちらの戦力が敵単艦で簡単に撃墜可能だと認識させて、単艦追跡モードを発動させてからが本番開始。 一撃必死状態で、敵の攻撃をすかし躱しながら、敵集団交戦モードリンクが切れる遠距離まで引っ張り込むのが、サクラの仕事だ。 しかしこれは口で言うのは簡単、実際に行うとなると至難の典型例。 敵艦からの弾幕攻撃を避けつつ、デブリ地帯を駆け抜けろなんて、一回だけのクリアを目指して死亡周回を前提にやるならともかく、周回狩りの方法として選ぶには無茶が過ぎる。 しかしその無茶をやってこそCB。チャンピオンだ。 高速で廻る思考と、さらにそれより早く勘も併せて動く十指をフルに用いて、今日数十度目の集団戦闘リンク外への逃亡を成功。「エリー! シュート!」 サクラは、会心の笑みと共に相棒を呼んだ。『エリーじゃない!』 頭の上で機械仕掛けのうさ耳をがーっと動かすエリスティア・ディケライアが叫んだ次の瞬間、サクラを追い回していた敵艦は、跳躍砲通称『物干し竿』によって転移された高性能爆弾の一撃によってメイン炉を破壊され、内部から爆発四散、宇宙の藻屑へと姿を変えていた。 他のプレイヤーが真似できない理由がここにある。 サクラの回避能力がプレイヤーの中でもトップクラスであることはもちろんあるが、それ以上に星系外からの超長砲撃による一撃スナイプを成功させるプレイヤーは、その命中率から最近では、人外だと噂されつつあるエリスティア以外に存在していなかったからだ。