雰囲気重視なのか、それとも意識を切り替えるためにか、売買専用キャラから、メインキャラに変えた鳳凰さんに引き連れられて、店奥のらせん階段を下りた俺は、店の地下、プライベート設定空間へと足を踏み入れる。 リーディアンのプレイヤー購入可能物件は、所有者プレイヤーによる設定や、個別許可がなければ他プレイヤーが進入できないプライベート設定が基本的になっているが、鳳凰さんのように店舗型物件の場合は、フロアごとに個別設定ができる仕様。 店部分は誰でも入れるパブリック設定。その奥の個人的な空間はプライベート設定という基本形から、特定クエストクリア者や一定額以上購入者のみがNPC店員に案内される特別ルームや、発行した会員証持ちだけが入れる会員限定ルームなんかを作って、レアアイテムや割安の販売などをやっていたりと、凝った店作りをしているプレイヤー商人なんかも、最近ではちらほらと見かける。 鳳凰さんの店の場合は、地下空間は元からある部屋に加えて、プレイヤーごとにそれぞれ自由に使えるMOD枠を使った拡張でもしたのか、明らかに地上の店よりも数倍は広い大きめな講堂くらいの広さになっていた。 壁の一面には小じゃれたカウンターが設置され酒瓶が棚に並び、ホールには2人用から10人以上が使える大小様々なテーブル席が二十席ほど。 それぞれのテーブルには、火を灯せばテーブル周りに完全防音、目隠しのマジックウォールが出現する【密談カンテラ】が設置されている。 密談カンテラはノーマルなら無骨な山登り用みたいな見た目なんだが、ここのはテーブルごとに凝った装飾の造花が施されたMODガワをかぶせてあり、席ごとに特色がある仕様。 MODってのは要は改造データ。新しい見た目や機能を個人的に付け足す事ができる代物だが、リーディアンにおいては、公式がプレイヤーアカウントごとにMODデータ枠を作ってくれていて、自由な外観のアイテムを作ったり、基本フォーマット内でいじれてゲームバランスを崩さない程度の独自アイテムが作れる仕様。 オリジナル髪型だったり、カンテラみたいな既存アイテムの外観変更MODなんかは好評で、MOD職人がゲーム内で販売していたりして、人によっちゃMOD枠追加に課金して、デザイナーの卵連中が集まって、リアル進出も考えた一大ブランドを立ち上げようって試みをしているギルドもいるみたいだ。 鳳凰さんの店も外観MOD調度品を多く使ってコンセプトが見え隠れしているが、バーカウンターがある壁以外の、残り三方向の壁は全く手つかずのままむき出しの土壁が姿を見せているから、まだ改装途中の印象を覚える。「上で売買で、地下は男の隠れ家BARって仕様か?」「当たらずとも遠からずだな。基本コンセプトは冒険者の店とかルイーダの酒場。今のサイフォン臨公の集合場所は大体南門前の大広場で、どの町もそうだが、低レベDが近くNPC店舗が多くてアイテム仕入れに便利だった門に近い広場で自然発生的にって理由だろ。でも最近じゃプレイヤーの平均レベルも上がって、アプデの繰り返しや、スキル解析、プレイヤー増加で、旨い狩場も多様化してきたり、プレイヤー作のアイテムの方が安かったり出来がいいのが出てきた。初心者やら、なれてきた連中が狩りのメンバーを探すついでに、情報交換はもちろん、この間のアプデのアイテム代売スキルも取得しといたから、そこらのやりとりなんかも出来る店って所だ」 さすが攻略サイト管理人。ゲーム内でも、初心者向けの情報交換、攻略手助けサイトを作る気のようだ。 製造系スキルと、商人系スキルは、軌道に乗ってくればでかいが最初は苦行ってのがゲーマーなら常識。 一番ランクの低い個人商店系プレイヤー物件でも、普通のプレイヤーホームの十倍はする上に、店舗系物件を構えなければ自動売買が出来るNPC店員は雇えず、商人系スキルを上げなければ、同時に雇える人数も能力も低い。 中の人がいるときにだけ使える露天で手売りって手もあるが、それをしているとレベル上げやら、スキル上げをしている時間もない。 スキルが低いときに作った練習用ポーションなんぞ、効果が低いと下手すりゃNPC店売りさえできない代物が大量量産となって赤字確定、露天手売りして原材料費だけ販売ってのも効率が悪すぎて、職人系職のなり手が少なかったんだが、この間のアプデで、商人系スキルに代売りスキルが導入されたんで早速利用する気のようだ。 実装スキルだから公式保証、ちゃんと販売量も分かる上に自動振り込み、売値から販売代行プレイヤーが決めた代行手数料がさっ引かれるだけで、ちょろまかされる恐れも無しで職人系プレイヤーも安心。 そして実際に店の軒先を貸し出す商人プレイヤーの方も、多少もうけ額は減るだろうが、仕入れ値無しで手数料と、微量だけど販売経験値を丸儲け。両者WINWINって所だ。「だけどこれ一人でやってるのか? 完成まで結構資材やら装飾アイテムが必要みたいだけど」 装飾アイテム一つ一つが職人系プレイヤーによるフレーバー外観MODが入った装飾品アイテムだったり、凝りすぎていて、一人でちまちまやっていたら完成まで数ヶ月か、年単位はかかるんじゃないかってほどだ。「まさか。あんたもさっき言っただろ男の隠れ家BARかって。こういうのが好きな社会人プレイヤーも多い。この間のアプデでギルド機能が実装されたし、そのうちギルド結成アイテムが入ったらギルドでも作ろうっていいつつ、週末やら夜にDIY好きが集まってやってるとこだ」 まだまだ途中だけど熱の入ったこだわりは一目瞭然。俺も人のことはいえないが、ゲームを楽しんでいるなと分かる笑顔で鳳凰さんは語る。「開店したら招待状でも送るから期待してくれ。それよりこっちの話はとりあえず横に置いて、一杯やりながらそっちの話をまずは聞かせてくれ。とりあえずエールでいいか?」 クラフト好きらしい鳳凰さんはまだまだ語りたそうな節もあったが、情報屋としての一面を優先したのか、カウンターの一席を指し示し、背後の無骨な瓶を手に取りグラスに注ぎながら、俺が持ち込んだ話の方へと舵を切る。 一瓶一瓶、形が違ったり、中身の色が違う酒瓶に目を向けてみれば、ゲーム内ガラス工房で作れるオリジナル酒瓶。 注いでくれたエールも苦みの代わりに甘口のワインみたいな口当たりに、ちょっと香ばしいハーブ香と、中身もこれまた独自フレーバー酒。 オリジナル酒瓶やら酒と、まだまだ制作系は未発達な分野だってのに、人脈豊富だなこの人。「改めて言うけど、目標はコルト炭鉱ダンジョンのS3級ボス【サウザントワームオクトパス】。オープン以来未撃破なSランクボス撃破の狼煙をこいつで上げたい」 実際に酔うことはないけど、あまり飲み過ぎるとステータス値低下が入るので(神官系スキルのアルコール解毒スキルで一発解除できるけど、なぜかレア消費アイテム必須)ちびちびと飲みながら、コンソールを叩いてデータを表示する。 サウザントワームオクトパスは見た目的には、名前の通りタコの上半身に千本ある触腕が芋虫型をしているという、女性プレイヤーに大不評なぐろい見た目のボスモンスター。 タコと名乗る癖に足が千本ってのは反則な気もするが、8って数にもちゃんと意味が持たせてある。 ボス本体は炭鉱ダンジョンの普段は未解放エリアになっている第7階層に現れるんだが、本体は次元湾曲空間に沈んで姿が見えず、7階層にある8つの頑丈な門で行く手をふさぎ、自在に出現するワームホールを使って、毎回ランダム生成される5、6、7階層へと触腕を伸ばして攻撃してきている。 狭い坑道を一撃一撃が結構重い蝕腕を回避したり排除しながら、ランダム生成された迷宮を駆け抜けて7層の8つの門を全部破壊して、ようやくボス本体が中央地下湖に出現って流れ。 しかも門を破壊したらしたで、その後ろには半水棲系で構成された護衛MOBモンスター軍団のお出迎えという最高ランクボスの名に恥じない鬼畜仕様。 先月のボス討伐戦では門の全破壊と、護衛モンスター軍壊滅まではいけたが、肝心要のボス本体へのダメージは1割弱削ったところで、Sクラス討伐のタイムリミット6時間経過で終わっている。 「Sランクだと最低参加人数は4桁以上推奨ってのが公式の話だが、今のところ一番惜しい所まで行ったSランクが先週のグラス平原のジャイアントラフレシア戦。だけど参加人数2000人オーバーで7割削って時間切れだったがいけるか?」「あれは俺も参加してたけど、ほとんどのプレイヤーはボス攻撃に回ってないで、周りに行ってたからだ。あの臭いが嫌だってうちの女性プレイヤー連中が端から拒否だから気持ち分からんでもないけど、もう100人いれば一気に削れてたと思う」 生ゴミが腐敗したゴミ袋に頭から突っ込んだような悪臭の中で、無限湧きする小型虫型護衛モンスターを躱しながらボス本体を攻撃ってのがきついきつい。 集中力が削られまくって、タコとは別な意味でS級の名前にふさわしいボスモンスターだ、くそ運営め。性格が悪いにもほどがありやがる。 しかも先月の中の人は、悪臭値を最大まで上げてやがったな。先々月よりもさらにきつくて、あの後、二日ほど食欲減退するほどのトラウマ仕様で、来月の参加者が激減する悪寒が今からしやがる。 リーディアンオンラインが、他のVRMMOと大きく違う仕様は、そのボス戦にある。 リーディアンのボスは、S級からD級の6段階に難易度で1から3に分けて、各クラスに最低1体ずつで現在39体が導入されている。 それらボスモンスターは、どのクラスでも月一回だけ出現するレア仕様。 普通大多数が参加するMMOなら、月に一回しか湧かないボスモンスターなんてブーイングものなんだが、リーディアンのボスモンスターは超大規模レイドイベント。 最低ランクのD3クラスでも超高耐久、防御力に高HPととどめの超回復がデフォで、そこに特殊スキルや、護衛軍モンスターわんさかと、個人討伐どころか、いくつかのギルドが集まった集団狩りでも歯が立たない仕様となっていて、300人以上が公式推奨人数。 最上位のS1クラスに至っては5000人以上なんだが、ゲームオープンから半年近く経っているのに、未だに体力ゲージを2%さえ削れていない形だ。 さらに最大の特徴としてボスは中の人がいる。 AI制御の決まり切ったパターン攻撃じゃなくて、その場その流れに合わせて自由自在に攻撃法を変えてくる上に、所有スキル自体は変更は無いけど、ボス戦は一戦、一戦ごとにステータスや、スキルレベルを変えてくるので、近接重視だと思えば次回は中距離戦仕様と、決まった必勝攻撃法が確立できずに苦戦させられている次第だ。 普通ならクソ仕様のクソゲーとなる所でも。ボスが特殊なら、討伐法もまた特殊。 まずリーディアンのボス出現時は、そいつが現れる事を知らせる異変が起きる。地域全体に不気味な鐘が鳴ったり、竜巻が発生したり、巨大な塔が忽然と現れたりといった感じで、目に見えて分かる変化、サウザントワームオクトパスの場合は微動な長周期地震、ジャイアントラフレシアは不快な悪臭って感じだ。 そしてそのボスがいるダンジョンやエリアが、経験値三倍かつ、普段はでないプチレアを最下級MOBも落とすようになるお得仕様に変化。 だからボス狙いでなくともプレイヤーが、多く集まりやすい作りになっている。 そうして集まったプレイヤーの力が最大限に発揮できる機能が、公式名称【迷宮全域連結蓄積型戦闘システム】 簡単に言っちまえば、大型ボスキャラとその護衛モンスター、さらには迷宮内に存在する雑魚MOBモンスターに攻撃を与えたプレイヤー数+倒されたモンスターの数だけ、ボスへの攻撃に、防御力無視の追加ダメージが加算されるシステム。 とにかく大勢のプレイヤーが参加し殴って、雑魚モンスターを倒しまくれば、1ずつだけど確実にボスへ与えるダメージが蓄積していく特殊戦闘システム。 それこそ5千人が参加すれば、ゲーム始めたばかりの初心者でも、ボス本体へ一撃を加えれば、5001ダメージを与える事が出来るって訳だ。 もっとも言うのは簡単、行うのは難しいの典型例で、そのボス本体へと直接ダメージを与えるまでにどうするかってのが今の課題となっている。「ジャイアントラフレシアの時と違って、先月のタコ戦での問題点は、門の破壊に手間取ったのが原因だと思う。8つの門に戦力が分散しすぎて、破壊まで時間が食い過ぎた。だからボス本体への攻撃時間が減ったのがでかい」 門の表面はかなりの高耐久だが、逆に門を一つでも破壊して、裏側に回れれば話は一気に変わる。 門の裏側には、むき出しのウィークポイントが8つあって、そこにクリティカル攻撃をたたき込めば一撃で破壊が出来ることは、ここまでの攻略で判明していて、そのウィークポイントを全部破壊すれば、門は残りHP関係無く破壊可能。 だからいかに最初の門を早く破壊して、護衛モンスター軍を蹴散らして、他の門の裏を取るかに掛かっている。「そうは言うがランダム生成MAPはどいつも複雑なうえに、共通して坑道の広さが狭いから、門前に突入までに時間も食う。門前もせいぜい数十人が一度に戦闘するのがやっとだな。どうする気だこいつを」 鳳凰さんがカウンターの上に、今までのボス戦で生み出されたランダム生成MAPを表示する地図を何枚も出現させる。 人がようやく通れる坑道が無作為に伸びていて、所々に少しだけ広い空間があっても、だいたいそこはモンスター溜まりな上に、蝕腕が生まれるワームホール発生ポイントってのがよく分かる。 門前は固定マップだけど、大軍を導入して一気に削るのは難しい狭さなうえに、蝕腕発生ワームホールが複数ある激戦区。下手に詰め込めば回避する隙間が無くて蹂躙される、というか最初のボス戦ではされた。 だけどさすが攻略サイト管理人。まだ調べている途中と言うけど、どの地図自体も7割くらいは埋まっている。これだけ情報があればある程度の推測はたてられる。 見れば迷宮は完全ランダム生成じゃなくて、ある程度のパターンがあり、そのブロックを組み合わせたランダムブロック仕様迷宮となっていることが分かる。「せっかく壊しやすい仕様にしてくれてるんだ、なら有効活用させてもらおう」 俺は地図に描かれた門の位置へと指を置いて、その指を横にずらす。「大事なのは7層。門周辺の壁の厚さ……デスペナ前提だけど、この間に実装された新スキルと仕様を組み合わせたリザレクション出現位置バグを発見した。こいつで壁抜けして、いきなり裏取り。パーティ召喚スキルで仲間を呼んで、少数精鋭で門を破壊ってのが今回の作戦」 新スキル実装と同時に、いろいろ試している中で偶然発見したバグは、短距離だけど、いくつかのデバフを与えた状態で、新スキルを喰らって死んだ位置から、ある蘇生スキルを組み合わせると蘇生位置が、距離制限はあるけど自由に選べるってバグだ。「……新スキルって事は、ソウルメイズか?」「さすが、話が早い。モンスター相手には、成功率は低いけど一定時間魂を肉体から切り離して、魂の迷宮送りする一種の麻痺攻撃呪文。だけどプレイヤーに使えば、100%成功する代わりに一定時間内に体に戻ってこないと死亡ってなるリスクはあるけど、戻った後は残りの効果時間のあいだ無敵状態になるバフ呪文って仕様だろ。おもしろそうだからいろいろ試してみたんだけど、送られた魂の迷宮は、既存地点を元に既存物質は透過する代わりに、上下階層に分かれたランダム迷宮仕様。だけど出現位置は術者次第。だったら逆方向の隣接通路側辺りに位置を設定してもらって抜けて、後は死に戻りって方法」「だけどリザレクションはどうする? あれの復活位置は死体のあるところだろ」「そこでデバフ。設定ミスったか仕様だったのか分からないけど、遅延死系のデバフを先に掛けとくとそっちの処理が優先されて少しだけ猶予。それこそコンマ単位でもあるから、その間に蘇生をぶち込む。そうすれば魂側がプレイヤー本体ってデータ的にはなっているみたいで、そっちが蘇生される」「しかし壁の向こうじゃ普通の蘇生系は無理だろ。事前に掛けておくタイプもソウルメイズは無効化設定だったはずだが」「俺の本職は盾役。設置型無差別範囲蘇生のシールドリザレクションを最大限まで上げて使えば、何とか壁の向こう側まで届く。ただシールドリザレクションは範囲距離が短いから、正確な地図がほしかった。距離が足りなくて、良くて普通に死亡、復活できても【いしのなかにいる】はごめんだろ」「また懐かしいネタを……おまえひょっとして俺よりリアル年上か」 「レトロゲーがサークル倉庫に山とあるだけだっての。リアルじゃ一応酒飲んでもぎりぎり引っかからない年齢。鳳凰さんみたいにベテランゲーマーじゃないよ。で、そのベテランの勘に聞きたいんだけど、このバグが周知されるのにどのくらい時間あると思う?」 バグ技を発見して黙って利用しようとしても、新スキルを試していろいろと似たようなことはやっている連中は大勢いるから、独占なんぞまず無理だ。 今回発見した出現位置ずれバグだっていつ周知されるか分からない。そうすれば俺みたいに悪用しようとする連中も多くなるだろうし、運営から修正が入るのも早くなる。「高レベル用新スキルで、デバフも重ねるかなり特殊なやり方で、しかもデスペナありか……感覚的には一月もあれば、他に見つける奴らがごろごろ出てきそうだな」「一月か。二月あれば今回は上手くいかないから延期して来月っても思ったけど、ぶっつけ一回勝負がぎりぎりと……おもしれぇ」 ちょっいと工作ぶち込んで遅らせても二月は難しいか。 どっちにしろボス戦なんかでバグ技を大々的に使えば、すぐに運営にかぎつけられ対策される。 だったら、S級はあと半年は倒せないと言っている運営の鼻をあかすために、一発勝負でぶち込んだ方が楽しそうだ。 「一応確定位置はあるがおすすめしないぞ」 そういった鳳凰さんが指さしたのは門そのもの。確かに門なら厚さ的には十分。 だけどそうなると門直前で準備する必要があって、そこはワーム蝕腕の攻撃が一番集中する場所。 シールドリザレクションを発動するためには最低でも10秒は必要。さらに死に戻りが成功しても、出現位置は門の真裏。 中級レベルMOBモンスターといえ千匹単位でたむろしているアクティブモンスター軍のど真ん中だ。 パーティ召喚している暇なんぞあるわけもなく、タコ殴り確定で、少しは耐えられても二度目のデスペナ当確間違い無しの死地だ。「なんとか設置は出来そうだけど問題はその後か。でもあーだこーだ言っていてもボス討伐なんて出来ないから、上手いこと壁抜けが出来る門に当たれば無駄な心配だろ」 「そりゃそうだ。死なないから、無茶が出来るってのがゲームの醍醐味だからな。しかしおまえ、ここまで手の内あかしていいのか? 俺がサイトに載せるとか心配しとけよ。お人好しが過ぎるぞ」「あー心配してないない。鳳凰さんは実証が出来た情報じゃなきゃ乗せない主義だろ。実際に使ってみせるから、その後なら好きに乗せてくれ。あ、あと他の攻略サイトには工作しかけてバグ発覚を少しでも遅らせるから騙されないでくれよ」「工作っておまえ何する気だよ」「ソウルメイズの最大の利点は体に戻った後の無敵時間。だから迷宮キャンセルして、発動即時無敵が出来たってデマ流して、ついでに転送スキルで装備を似せた別キャラ同士の位置入れ替え映像でもつければ一発だろ。鳳凰さんの所と違って、他のサイトは確実性より速攻が売りだから入れ食い、入れ食い。条件が不明だっていってれば、しばらく運営や検証している奴らの目をそらせるだろ」「……訂正する。シンタ。おまえ相当悪辣だろ。おまえなら運営の鼻をあかせるかもな」 あきれ半分に口元に苦笑いを浮かべる鳳凰さんはそういいながらも、新しい酒を俺と自分のグラスに注ぎ掲げる。「そりゃどうも。んじゃ細かい打ち合わせといこうぜ。門を破った後が本番だろ。とりあえず数集めてともかく殴っていこうぜ」 打ち合わせたグラスの音を戦闘合図として、俺たちは互いの知り合いをリストアップして、今月残り10日のうちに確実に出現するボス戦に向けて具体的な攻略会議を開始した。