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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5
Name: 白色粉末◆fef39ae6 ID:c7c9cdef 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/10 14:09

 学校ではオカルトは教えてくれない。物差では測れない。少なくとも今ゴッチが持っている、このアナリア王国の中でも常軌を逸しているだろう物差でも、だ

 レッドに手を引かれ、目を閉じたまま歩く。不思議な空間だった

 歩いている感触が無い。妙に気怠い足を動かして前に進んでいるつもりではいるが、地面を踏んでいる気がしないのだ

 スライム状の物体の上を滑っているような覚束無さ。ゴッチは慎重に歩を進める

 右隣を歩くラーラの荒い息遣い。息苦しさを感じているのだろう。ゴッチもそうだ

 雰囲気や気配などではなくて、もっと物理的な感触だった。首まで水に使っていれば、こういう息苦しさになる

 「ボス、大丈夫ですか?」

 気遣わしげな声が響く
 ゴッチは返事をせずに考えた

 確かに偽名で呼べとは言われた。だがそもそもゴッチは普段、レッドには兄弟、ラーラにはボスと呼ばれている。ピクシーなんて偽名は必要ないのではないか?
 こういう場合はどうなんだ? セーフか? アウトか? 決まり事ってのはややこしくていけねぇ

 確かめりゃ良い

 「おい“アヴォーシュ”、何か言ったか?」
 「いいえ“ピクシー”、そちらこそ私の事が気になりますか?」
 「お前の声が聞こえた」

 ラーラの含み笑い

 「私もです。『大丈夫か?』などと聞いてくる物だから、偽物だろうと思って無視していました」
 「俺を何だと思ってやがる」
 「普段興味を持たないではないですか、私の調子など」
 「あぁ、まぁな」

 感覚が変わった。足元のスライムが嵩を増して、膝下まで登ってくる
 正確には、登ってくる気がする。足は動かそうと思えば動くし、何かが邪魔している訳でもない。妙に重たいだけだ

 「触れるな! 戯け者!」

 唐突にラーラが怒鳴る。あちらは大人気のようだな、とゴッチは小さく笑った

 段々と嫌な空気が近くなってくる。近くなる、と言う表現が正しいのかどうかもゴッチには解らない。その「嫌な空気」と言う奴は今も直ぐ傍にあるのだし、ただそれが強くなると言うか、大きくなると言うか

 とにもかくにもその存在感を増しているのだ。打ち捨てられた元娼館で、レッドの閉じこもる部屋に押し入った時と同じ気配

 死の気配。アレを数倍した感じ。平然と言ったが実はそう易い事態でも無い。心構えはしていた筈なのに自分が段々と死んだつもりになってくる

 「しかしピクシーも今そんな事を言うぐらいなら」
 「あぁ……?」
 「もっと日頃から私のことを労わったら如何か? 全くピクシーと来たら悪名を散蒔くだけ散蒔いて後は知らん振り。他の町の商人と話を付けるのも一苦労なのですが」
 「何言ってんだお前? …………おいコラ、何とだ? おい」
 「ふふ、何時になく殊勝な態度ですな」

 なーにと喋ってんだこの馬鹿
 ゴッチは急にクスクス笑い出したラーラに眉を顰める

 右足をラーラの居るだろう方向に振ってみた。柔らかい物に減り込む感触
 目を閉じていると平衡感覚が損なわれる。ゴッチはたたらを踏んだ

 「な、何をなさる」
 「一体何と話してる。シャキッとしろよ」
 「……不覚!」

 舌打ちが聞こえた。最早ラーラの物なのか、そうでないのかすら解らない

 あちこちから囁きが聞こえる。無数の息遣い。足音。視線。目を固く瞑っていると言うのに時折視界の端を横切る影。瞼の内側に影が映るのだ

 人混みの中に居るかのようだ

 「おいグリーン、まだか。イライラしてきた」

 手を引いて歩く人物からは何の返事も帰ってこない

 「おい」
 「無駄です。今一番辛いのは奴の筈です。ボスもなるべく声を発しない方が宜しいかと」

 ラーラの声が、またボスと言った
 なら聞いてやらねぇ

 「おいグリーン!」
 「ピクシー、どったの? 今俺ってばスゲー集中してるんだぜ?」
 「俺は後何分間この心尽しの持て成しを受けりゃ良いんだ?」
 「……そう長くねーだぜ。大丈夫大丈夫」

 カラカラ笑って、空元気だった。ゴッチの手を握り締める力が強くなる

 「ちょっと止まるだぜ。やり過ごす」
 「何をだよ……、ってあー好きにしろよ、どうせ見えねぇんだ。お前に任せるしかねぇんだからな」

 足を止める。ゴッチはそこで漸く風が吹いている事に気付いた
 大した風でもない。熱気が微かに動く程度で、涼しくも何ともなかった

 手がぐい、と引っ張られる。危うく手を離すところだった

 不思議そうなレッドの声

 「ピクシー、どうして止まるんだぜ? なんかされた?」

 あぁくそまたかっ。ゴッチは吐き捨てる
 何が何なのか。何を信じればいいのか
 難しいものだ、信じると言うのは

 「何でもねぇ。お前の声で止まれと言われただけだ」
 「俺の声で……? そりゃ……マズイだぜ。急ごう!」

 手を引く力が強くなる。スライムの小川を掻き分けながら足が進む

 唐突にスーツの襟を掴まれた。ゴッチは瞬間的に頭に血を登らせ、直後に言葉を失う

 「ゴッチ、何時まで好き勝手やらせるつもりだ」

 ファルコンの声だ。頭を斜めに傾がせ、翼をゆらゆらさせながら。事務所の椅子に座っている時の何時ものポーズが脳裏を過ぎる
 からかうような声音でありながら視線は鋭い。忘れもしないし、間違える筈もない、ファルコンの声

 「この野郎」

 発した声は自分でも驚くほど低く、野太かった

 「どうして奴等に思い知らせない。徹底的に痛め付けて、命乞いさせない」
 「この野郎、ふざけやがって」
 「怯えた犬みたいな格好しやがって。それでも俺の息子か? んん?」

 襟首を掴まれながらゴッチはぶつぶつ呟いた

 畜生、コイツ、誰の猿真似をしてやがる
 侮っているのか? 隼団を。馬鹿め、馬鹿め、馬鹿め

 ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって
 ふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがって

 「解ってるんだろうな? お前は“隼団”なんだぜ」
 「っざぁぁぁけやがってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 ゴッチは襟首を掴む気配に向かって裏拳を繰り出した

 ぼふ、と毛布でも殴るような感触。手が一瞬冷水を浴びせられたかのように冷たくなり、総毛立つ。襟首を掴まれる感触は消え、突風が吹く

 スライムの川を掻き分けるような感触が消えた。気付けば足はしっかりと土を踏みしめていて、しかも裏拳の踏み込みでそれを僅かに抉っていた。靴の踵部分が、地面が僅かに凹んだのを感じている

 そうだ、どうしてだ
 どうしてこんな奴等相手に我慢しなきゃいけねぇ

 ピクシー、とゴッチを呼ぶレッドとラーラの声が重なる
 またもや突風。大きく体が揺れる

 「うお、何なんだぜ? うわわ、離せェー!」
 「グリーン! えぇい鬱陶しいわ貴様等!」

 ゴッチは息を大きく吸い込んだ。クソ喰らえ。本当の本当にトサカに来たぜ

 握っていたレッドの手を放り出し、そして叫んだ。思い切り叫んで、目を開けた

 「オアアアアアーーーッ!! コッチだ! 来いッ! 屑がァァァーッ!!! 俺は目を開けてるぞォォーッ!!」

 どうした屑ども。俺は目を開けてるぜ
 俺を殺しに来い。俺が憎いだろう。散々お前らを馬鹿にしたんだ

 広大な空間である、ような気がする。真っ暗闇で何も解らない
 でもそこいらに得体の知れない者達が居るのが解った。辛うじて人形ではあるが、どう頑張っても人間には見えない者達
 以上に背が高かったり、腕が長かったり、必ずどこかしら異常を持っている
 そして一様に影に包まれていて詳細が解らなかった。その奇怪な者達の顔が、一斉にゴッチの方へと向く

 ゴッチの叫び声は続いていた。胸を開き、腕を開き、天を仰ぐようにして吠え続ける。獣のように吠える

 影達が宙を滑るように移動しゴッチに殺到した。胴に、四肢に、顔に張り付き、えも知れぬ方向に引きずっていこうとする

 「あぁ、あぁぁ! “兄弟”、何してるんだぜ?! 駄目だ! 駄目だ駄目だ! 手を! 手を出すだぜ!」

 焦ったレッドの声。もう本物だろうと偽物だろうとどうでも良い

 ゴッチは全身に力を込め、解き放った

 「失せろォォーッ!!」

 その圧が空気を震わせる。ゴッチに多勢で取り付いた影達を羽虫でも払うかのように吹き飛ばす

 影達はめげない。一度吹き飛ばされた程度では怯みもせず、再びゴッチに抱き着こうと迫ってくる

 その影達の向こう側にゴッチは見つけた。薄ぼんやりと白く光る物体
 真暗闇の中にハッキリと浮かび上がる長方形のそれ

 棺だ。ゴッチはそう感じた。あそこだ。理屈ではない。直感でそう思った

 「ラァァーラ!! 薙ぎ払え、もう許すな!」

 偽名だとか最早どうでも良い

 ゴッチの大喝が鬱陶しい連中を吹き飛ばしたのは確かだ。どれ程幻覚を浴びせかけられていてもそれくらいは解る。ラーラも意を決して目を開いた

 「恐れろ! 我が火を! 我こそ炎の愛娘、灼熱の寵児!!」

 ラーラが両の掌を地面に叩きつける。白金色の炎が吹き上がり、周囲に漂う影達を焼き尽くしていく

 「ラーラ・テスカロンであるぞ!! 恐れろ! 我が火を」

 炎が破裂する。白金の光が洞窟の隅から隅までを照らし始める

 ゴッチはレッドを脇に抱えて走った。飛ぶように走った。ラーラの金の炎に焼かれて悶え苦しむ影達をはじき飛ばしながら一直線に

 「行けぇ! ボス!」

 ラーラの気勢を背に浴びてゴッチは速度を増した。一歩一歩叩きつける足が地面を抉る。かは、と開いた大口に覗く犬歯が、その形相をより怪物じみた物に見せる

 『ジューターヤァァァ……』

 掠れ声が響き渡った。ゴッチの小脇に抱えられながらレッドがびくりと震える

 『ジューターヤァァァ……!』

 もう一度、掠れ声の呪文。疾走を続けるゴッチの足に突如として激痛が走った

 「ぐおぉ……!」

 思わず体勢を崩す。視線を落とす。異常は無い。ゴッチの足は全く常と変わらないままだ

 だがこの痛みはなんだ。ゴッチが歯ぎしりした時、レッドの身体から蒼い燐光が立ち上り始める

 「ちくしょー、こうなったらちょっと無理でもやってやるんだぜ……」

 身を捩るレッド。喘ぐような呼吸と共に声を張り上げる

 「行け! 土へ、塵へ! 正に今、お前自身を力でいっぱいにして、戦いの準備をしろ!」
 「レッド……?!」
 「行け! 行け! 行け! 行け、今! お前以外の目には映らない物へ! お前の中の何かが、お前をぐんぐんと引っ張っていく!」

 ゴッチは自分の体が燃えるように熱くなるのを感じた

 両足に感じていた激痛が嘘のように消えていく。自身の鼓動の音が聞こえる。血流の音が聞こえる。関節の軋む音が聞こえる

 「『行け、今!』」

 レッドの呪文。ゴッチの身体に上手く説明できない得体の知れない力が漲ってきて、心は少しも落ち着かず、呼吸は荒くなり、体温調節など必要ない筈のピクシーアメーバの細胞が発汗し
 訳の解らない何かに突き動かされて、ゴッチは走った

 暗闇の中から幾つもの手が伸びてくる。泥と血で薄汚れていて酷く汚い。ガリガリにやせ細った手で、その癖ゴッチの身体を掴む力は恐ろしく強い

 だからなんだ、洒落臭いわ

 数多の手の束縛は、ゴッチを瞬きの間押しとどめる事も出来なかった。ゴッチは振り払うことも大喝する事も無かった。ただ足を前に出すだけだ。それだけで無数の手は吹き飛んでいく

 前に進もうとする意志が、力が、邪魔する物全てを振り払う

 「そうだぜ! ファイティングスピリットだ! そいつが勝利の鍵だァ!」
 「レッド! テメエは隠し球が多過ぎるんだよ!!」

 雄叫び上げてゴッチは更に速度を上げる。ぼんやりと光る棺は既に目前であった

 四方八方から手が伸びてくる。好き勝手にゴッチとレッドの全身に掴みかかり、凄まじい力で棺から引き離そうとしてくる

 「『行け、今!』」

 レッドの歌うような呪文がゴッチの背を更に後押しした
 手の海の中でゴッチとレッドは身体を振り乱す。悪意を持った手達を押しのけ、掻き分け、棺へと近づいて行く

 「化けの皮剥がしてやらぁ!!」

 そして今、棺に触れた。遠くから何かの絶叫が聞こえた

 上から巨大な手が降ってくる。黒い影に包まれて輪郭の見えない手だ

 ラーラが言っていた事を思い出した。天を突く巨人

 その巨大な手がゴッチの身体を鷲掴みにする。放り出されたレッドの顔が何故かハッキリと見える

 「兄弟!」
 「馬鹿が!」

 ゴッチはここまで来たらもう我慢なんてしない。全身に力を込め、雄叫びを上げながら四肢を広げる
 ゴッチを握りつぶそうとする巨大な手が、少しづつ開いていく。ミチミチと音を立てながらゴッチの剛力の前に屈服していく

 巨人の握力何するものぞ

 バチバチと音が鳴る。ゴッチ自身も久しぶりにこの音を聞く
 ゴッチの身体を這い回る青い稲妻。次の瞬間、鼓膜を破らんばかりに轟音と共に稲光が迸った

 「馬鹿野郎がァァァーッ!!!」

 その稲妻は一切合切全てを吹き飛ばした。それは辛うじて己の魔術で身を守ったレッドとて同様である

 ゴッチは再度棺の蓋に手をかけながら、重苦しい声で笑った。死者も、神も、何者も畏れない絶対強者の笑いであった

 「お前等、暗闇に潜んで、こそこそ陰口叩いて、可哀想な豚を弱らして漸く取り殺して来たんだろ……? 安全な所から、獲物が慌てふためく様を見ながらよぅ……」

 ゴッチは弱い者いじめも大好きだ。だが、弱い者いじめしか出来ない訳ではない

 ゴッチがこれまで戦ってきた相手は、少なくともロベルトマリンで争ってきた相手は、大抵は酷く冷酷で、計算高く、タフな連中だった

 薄暗がりでこそこそしてるこんな奴らとは決定的に違う

 「俺は違うんだなァ~~……!!」

 ゴッチは棺の蓋を持ち上げる。持ち上げて、放り捨てて、拍子抜けした

 中に入っていたのはただのミイラだ。古の棺の中に入っている物としては妥当なのかも知れないが、ここまで自分を引っ張り回してくれた相手にしては面白みがなさすぎる

 さぁ、こいつをどうする。その答えも、ゴッチは直感的に悟っていた

 吹き飛ばされ、泥まみれになったレッドが制止する

 「駄目だぜ兄弟! 俺がやる! 兄弟はソイツに触っちゃ駄目だぜ!」

 ゴッチはレッドを見遣る。無数の手が再び暗闇から這い出してきて、ぼんやりと見えるレッドの四肢に取り付き始めている

 後ろを振り返ればチラチラと白金色の光が走る。ラーラはラーラで大暴れしているようだった

 時間的余裕は無い。ゴッチはべぇと舌を出した

 駄目だね、コイツは俺を怒らせた


 「悔しいか? 勘違い野郎。所詮お前なぞその程度だ」

 ゴッチは心底楽しそうに笑いながら、ミイラの頭に拳を叩き込んだ


 風が吹く。激しい耳鳴りが――


――


 シガニーサイドストリートはロベルトマリンの中でも一風変わった空気を持つ。朽ちかけた倉庫群が林立する中にポツリポツリと民家があり、そこは役所の方には無人の廃屋として登録してあるのだが、殆どの場合は程度の低いギャング達のアジトになっている

 過去、ロベルトマリンでバイオテロが起こった折、シガニーサイドストリート一帯は悪癖の伝染病に支配された。敏感になっていた政府の動きは迅速で、シガニーサイドは瞬く間に隔離され、根拠の無いデマや憶測の為に何人もの人間が言葉通り“焼却処理”された
 そもそも、シガニーサイドが出稼ぎに訪れた外国人がその居住者の八割を越す、当時のロベルトマリンの面倒事の一部を無理矢理詰め込んで蓋をしたような掃き溜めだったのも大きな理由だった

 だから、今でもシガニーサイドは“よく解らない事”が多い
 居住者達は未だに凄惨な事件の事を引摺っていて、政府に対して酷く反抗的だった。後暗い者達が指を滑り込ませる隙間はそれこそ幾らでもあったのだ


 シガニーサイドの南側、開設されたばかりのエアトレインステーションと、僅か五年で寂れた通運会社を五倍の規模まで拡大した立志伝中の偉人、ロビー・ロフマイルを代表取締役とするロフマイル通運の本社に挟まれた十六×二十メートル四方の小さな区域に、その家屋はある

 青い平屋根はそこいら中に汚らしくサビが浮いていて、ベニヤ板が打ち付けられた窓には罅が、屋根と同じく錆の浮いた軽量合金の壁には重機でぶち抜いたような穴がぽっかりあいている

 しかし中に入って見ると外見とは裏腹に綺麗に整えられている
 ロベルトマリンの特産木材であるオーカーウッドの総設えで、床にも天井にも艶があり、古びたところなど少しも無かった

 窓は無い。外壁に付いている窓はダミーだ。同様にぽっかり空いた穴も見せかけで、手を突っ込んで見ても直ぐに固いオーカーウッドに触れる事になる

 隼団最高幹部、“最初の四人”の一人、チェイ・ガンスンの隠れ家だった。同様に“最初の四人”の一人として忙しく飛び回るファルコン、その養子であるゴッチは、ファルコン以外では特にチェイに懐いていて、よくチェイの幾つかある隠れ家に入り浸っていた。今この時も

 チェイは余り口を動かすタイプではなく、厳格に見えるが、ゴッチに対して妙に甘い。ゴッチが何か無礼をしても咎める事は殆ど無かった。今この瞬間に、ゴッチがチェイの大事なコレクションである古い古い書物にフライドチキンの油を塗りつけていてもだ

 「……美味いか」

 深緑の鱗の肌を持つ痩身の男。髪はなく、硬質の皮膚が盛り上がった頭部に、縦に割れた琥珀色の目
 白のドレスシャツの上から黒のベストをラフに着こなす蜥蜴の亜人

 このリザードマンこそ、密輸人チェイ・ガンスンである

 くっくと笑うチェイに答えず、ゴッチはフライドチキンを片手に古書を捲った。黄ばんだページに脂の染みが滲んでいく

 ファルコンは鳥だから、フライドチキンと言う物が当然好きではない
 その煽りから鳥肉を食う機会など殆どなく、ゴッチに取ってチキンと言うのは縁遠い物だった
 普段余り味わえない鳥肉の風味を堪能する。そして時折思い出したように頁をめくる

 「なぁ伯父貴。このサシャって結局男なのか? 女なのか?」
 「…………男だ。ただの役者としか書かれていないが、読み返せば解ってくる」
 「へぇ……。コイツ、面白いよな」

 ゴッチが古書を持ち上げながら自然な笑みを浮かべる
 するとチェイも男臭く笑って同意した

 「……俺もそう思う。ファルコンもそう言っていた」
 「へへ、そうか」
 「……ふ」

 言葉少なく笑いながら、チェイはグラスを傾けている
 ゴッチは気遣わしげな視線を向けた。チェイが飲んでいるのは酒ではなく、薬だ。この茶色い、馬糞のような酷い匂いを放つ液体を飲んでいないと、チェイは太陽の下を歩けない。皮膚が爛れてしまう先天性の病を患っていた

 「お前が気にする事じゃない」

 ぐるる、とチェイは口を鳴らす。蛙のそれにも良く似た手を握ったり開いたりしながら、矢張り笑う

 「……もう必要ないのに、癖でな」
 「必要ない? 伯父貴、太陽光を克服したのか?」
 「……そういう事じゃないんだ、ゴッチ」

 首を振りながらチェイは黒いソファーに身体を沈み込ませた
 目を閉じて暫くぼんやりしていたかと思うと、唐突にゴッチに濡れタオルを放る

 ゴッチはタオルで指を拭いながらチェイの言葉を待った。何か言いたそうにしているのにはとっくの昔に気付いていた

 「……上手くやってるか」
 「当然だろ。今度もデカイ仕事を任されたんだぜ」
 「どんなだ?」
 「驚くなよ? 信じられねぇだろうがな、何と異世界に出張だ。名前は出せねぇが、統合軍のビッグネームまで関わってる大仕事なんだぜ」
 「異世界か。……少し気になる」
 「見ようぜ異世界! ファルコンに頼めばきっと取り計らってくれる」

 見たさ。チェイは目を閉じたまま穏やかに言った
 どういう事だ?

 「元気そうで安心した」
 「へ? 何だよいきなり……」
 「何でも無いさ。……帰れ、そろそろ危ない」
 「危ない?」

 チェイの言っている事の意味が、ゴッチには解らなかった

 ゴッチは自分の左手を見遣って、嘆息する。腕時計が無い

 「どうした? 早く行け」
 「そんな邪険にするこたねぇだろう。まだそんな遅い時間でもねーさ」
 「時刻の問題じゃない」
 「良いじゃねぇか伯父貴。久しぶりに会えたんだからよ」

 あれ、とゴッチは首を傾げた。自分で自分の言葉に疑問を感じた

 久しぶりに……会うのか? 俺は
 チェイ・ガンスンと?

 チェイの目がゴッチを射抜く。先ほどまでの穏やかなそれとは明らかに違う、冷酷な目

 「もう、行け」
 「……………」
 「行かねぇと」

 ゴッチは異様な空気に唾を飲み込む
 どうしてだ? 何故?

 「?!」

 ゴッチは思わず立ち上がった。チェイの姿が消えていた。今まで目の前にいたのに、瞬きの間に居なくなってしまった

 チェイが居たソファーに近づいてみる。なんの痕跡もない。柔らかい合成繊維を詰めたソファーは人が座れば深く沈み込み、立ち上がったあとも暫くは尻の形が残っている物だが、それも無い

 「……伯父貴」

 ふと気付けば、足元にシガーケースが落ちていた。元は銀色だったのが、煤と泥で見る影もなくなった名刺サイズのスモールケース

 「伯父貴の……形見……」

 シガーケースを拾い上げてジッと見つめる

 そうだ、チェイ・ガンスンは死んでいる
 こんな風に、いつもみたいに伯父貴の隠れ家に入り浸って
 その後、伯父貴はファルコンに花束を届けに行った。ただの花束じゃない。ショーパブに届ければ一纏まりの小金になる“小切手替わりの花束”だ

 そして、その途中に爆弾で殺られた。俺は呑気にフライドチキンを食ってて、連絡を受けた時は飲み干したビール缶を縦に積み上げて馬鹿みたいに笑ってた
 伯父貴が右腕と、左足の膝から先を引きちぎられ、肌が炭化して黒い塊になっている時に、古書に夢中になって、馬鹿面でいて

 伯父貴は

 俺はあの時

 「シャキッとしろ、ゴッチ」

 何処からか聞こえるチェイの声に慌てて顔を上げる。焦げ茶色のオーカーウッドの天井に、クリーム色の光を放つ小型シャンデリア


 あれ


 俺、何処に?


 ゴッチは目を見開いた

 シャンデリア等何処にもない。かわりに必死の形相のレッドが居た

 全身から蒼い光を迸らせ、ゴッチの手を握り締めて踏ん張っている

 「兄弟! だから駄目だって言っただぜ?」

 呼び掛けられて、ゴッチは漸く事態を理解した

 何だかよくわからないが、穴の中に自分は居るらしい
 下を見ればどこまで続くとも知れない暗闇。その中に自分は、レッドに右手を握られてぶら下がっている

 いや、それも違う。レッドが握っているのはゴッチの右手ではない
 ゴッチの体、より正確に言えば右肩の辺りから伸びる、誰のものとも知れない蒼白い燐光を纏った腕を掴んでいるのだ

 ゴッチはレッドが死んだ者達から力を借りて戦う事は知っている。だが、自分の体から蒼白い手が伸びる理由なんて知らない
 でも何となく解った。この俺の体から湧き出て、俺を救おうとする手は、チェイの伯父貴なんだな、と

 「そのファインプレイヤーに感謝しなよ! ついでに、自分の足をよーく見てみるだぜ!」

 言われるままゴッチは暗闇に目を凝らした
 太腿から爪先まで、少しずつ視線をずらしていく

 レッドが何を言いたいのかは直ぐに解った

 ゴッチの右の足首を掴むミイラが居るのだ。頭のないミイラが

 先程拳を叩き込んだのを思い出す。あの時に頭を潰してしまったのだったな、そう言えば

 「……あぁ?」

 ゴッチの眉間に皺が寄る。米神に青筋が浮かび上がって、それから全身の筋肉が硬直した

 状況を飲み込むほどに怒りが湧き上がってくる。全てこいつのせいだ

 この野郎。散々馬鹿にしてくれた挙句、俺にこんな無様を
 許せねぇ。テメェのせいでチェイの伯父貴に――

 「――手間かけさせちまったじゃねぇかぁぁぁ!!」
 「どわー! 兄弟! 暴れないで! 落としちゃうーー!!」

 ゴッチは足を振り回した。穴の直径は然程大きくない。少し身を捩れば直ぐに壁にぶつかる

 「畜生! 足から寸刻みにして、ネズミの餌にしてやる!」
 「そんなもん食うネズミが居るもんかァー! 暴れちゃ駄目だぜェー!」
 「何をしているレッド」

 二人して大騒ぎしていると、ラーラが顔を覗かせた

 炎を鞭状にしてゴッチの手に巻き付かせる、そのまま一気に引っ張り上げる

 ゴッチは僅かの間宙を待って、地面に叩きつけられた。暗闇の中にラーラの火の玉が浮いていて、少なくとも辺り数メートルの状況を把握することはできる。チェイの手は消えていた

 ミイラが足元に転がっている。未だ未練がましく、ゴッチの足を掴んでいる

 ゴッチは左足を振り上げ、思い切りミイラの背中に叩き付けた
 べちょりと潰れるミイラの胴体。不自然に歪む輪郭に、ゴッチは唾を吐きかけ、石ころにするかのように蹴り飛ばす

 「何か、得体の知れないのがやたらと居ただろう。奴らは?」
 「ふん。奴らの本来居るべきところに叩き込んでやりました。私とレッドでね」
 「クックック、そうか……。くふ、カカカカ」

 怒りと、開放感と、これから起こる事への期待が綯交ぜになった奇妙な高揚感。狂ったように全身を震わせながら、ゴッチは笑う

 この貧相なミイラが、路傍の石の如き、朽ち果てた倒木の如き、世の中から忘れ去られたような存在が

 ここまで俺をイラつかせた。隼団を侮った

 「安心しろ……。カシーダとやら……。お前も直ぐに、お前の手下共と同じ所へ送ってやる……」
 「……アレ? それやんのって俺だぜ?」
 「放っておけ。本当に寸刻みにして獣の餌にするくらいやるだろう」

 ゴッチはミイラに向かって歩き出そうとして、止まった

 首のない、胴体のひしゃげたミイラが僅かに動いたのだ。見間違いなどではない

 ゴッチが注視していると、ミイラの両の手がワナワナと震え始める。地面を引っ掻くように五指が握り締められ、震えは全身に広がっていく

 あ、と息を漏らす

 大きい

 ミイラがゆっくりと身体を起こしたのだ。でかい
 何を言っているのか、言葉を放ったゴッチ自身ですら理解出来なかった

 確かに目の前で転がっていた時はゴッチの背丈の半分ほども無かったのに

 今こうして身体を起こし、膝立ちになったミイラは、まるで聳え立つ塔のようだった

 “不思議な体験”をフルコースでご馳走になった後でも、目の錯覚だと思ってしまいそうである

 「……ほぅ、まだそんな余力があったか。姿を隠しながら儀式を司る者は、その正体が解き明かされた時全ての力を失う物だと思っていたが」
 「…………」
 「流石のボスも、言葉がありませんかな」

 地面に足を叩きつけるラーラ。噴出す炎、立ち上る熱風に白金色の髪を逆立てさせながら、ゴッチに意地悪く笑ってみせる

 ゴッチは自分で自分の身体を抱き締めて、これ以上ないほどの笑顔になった
 攻撃性や嗜虐性を丸出しにした、凄惨な笑みだった

 「健気でなぁ」
 「はぁ?」
 「俺達に勝てる訳が無いのに、必死に立ち向かってくる姿が……健気で……可愛くてなぁ……」

 モー十分、いい加減にして欲しいだぜ、とげっそりした顔付きでレッドが言う

 「北部の闇の伝承相手にそんな事言えるの兄弟ぐらいなもんだぜ」

 ゴッチはレッドにデコピンした。バチン、と良い音がなってレッドは飛び上がる

 「こいつを、言い訳のしようも無い程完膚なきまでに滅茶苦茶にしてやったら……、楽しいだろうなぁ、堪らないだろうなぁ。今までのイライラなんて一瞬で吹っ飛んじまうよ」

 巨大なミイラが両手を振り上げる。黒い影がそこにまとわりつき、不気味な風の音を響かせ始めた

 下がってろ

 短く言い捨てて、ゴッチは歩き出す。不満そうな顔で従うラーラ

 ゴッチの身体を電流が這い回る。少しずつ多くなって行く。少しずつうるさくなっていく

 ミイラが、手を振り下ろした

 「アァァァァッルァァァァァァ!!」

 奇妙な雄叫びはどちらの物だったのか

 ゴッチは圧倒的巨大質量からの攻撃に対して、全く引き下がらなかった。避ける、とかそう言った行動は一切無かった

 眩いばかりの雷を手にまとわせて、カシーダの握り拳を迎え撃ったのである

 先に降ってきたカシーダの右拳。タイミングを合わせてゴッチも右拳を突き出した。天に向かって挑みかかるような拳だった

 拳と拳の激突の瞬間、ゴッチの足元の地面に亀裂が走る。ゴッチの足が減り込んで、泥と砂が浮き上がる。凄まじい衝撃
 拳は接触と同時に電気エネルギーを破裂させた。蒼白い稲妻が、蕾の芽吹くようにして爆発する

 絶叫する。好きなだけ吠えて吠えて、体の内側にある物を全て吐き出す

 ゴッチの拳はカシーダの右拳を打ち砕いていた。カシーダの右手の中指、その付け根の関節を完璧に砕いた上、電撃でまるこげにしていた

 「come on! 1more!」

 激痛に身を捩るかのようにカシーダの巨大な体が揺れる

 どうだ、痛いだろう。こんな洞窟に隠れてばかりのお前には、キツすぎる目覚ましだったか?

 先程よりも更に強い力と、おぞましい気配の影を引き連れて降ってくるカシーダの左の拳

 ゴッチは両腕を開いて、それを受け止めた

 「ぐうぅぅぅ!」

 足元の亀裂は広く、大きくなり、ゴッチは地面を抉りながら僅かに後退する

 が、逆に言えばそれだけだ。たったそれだけなのだ

 「どう、したぁ?! そんなモン、かァ?! あぁぁ?!」

 ゴッチの身体を這い回る電流が急激にその量を増し、カシーダの左拳を伝ってその巨体を焼き始める
 聞きなれない激しい唸りを上げながら巨体を痛めつける蒼い閃光。ゴッチは尚も放電した。辺り一帯に異様な匂いが充満する

 「どうしたって言ってんだァ!! クスクス笑ってみろよカシーダさんよォー!!」

 稲妻の発する光と音が周囲を埋め尽くす。ゴッチの暴れ様を余すところなく見ていようとしていたラーラが思わず目を被ってしまうほどには凄まじい光だった

 最早光の渦にしか見えず、電流が巨体を蹂躙する音以外は聞こえず

 ラーラは引きつった笑を浮かべた。この圧倒的な暴力

 「……魔術師とは……巨人の神と相対してこうまで圧倒的に勝利する物だったのだな……」
 「いや……ほら、まぁ……。俺も兄弟にブースト掛けてるし……。いつもはもっとマシだぜ。……多分」

 自信なさげに言うレッドの目の前では、ゴッチが腕をいっぱいに広げてカシーダの手を捕まえ、一本背負いをぶちかましていた

 当然体格差と言うのも生温い差があるため、腕を捉えても居ないし脇を負ってもいない

 力任せに振り回しているも同然だった。風車小屋よりもデカイ巨体が宙を舞い、哀れにも地面に減り込む

 「アシュレイとボーなんたらはこんなもんじゃなかったぜ?! 根性見せろ!」

 ゴッチは大の字に倒れ込んだカシーダの左腕に飛び乗ると、叫びながら走った
 三歩で肩口に至り、そこで高く飛ぶ
 後は心臓部に向けて思い切りひねりを加えながら拳を捩じ込んだ

 頭のない巨人の絶叫。蝉の羽音のような不気味な叫び声だ。ゴッチは快感に身を震わせながらカシーダの胸の上で拳を構える

 「どうした?!」

 右拳一発

 「ほら、どうした?!」

 左拳一発

 「良いのか?!」

 右拳一発

 「コレが好きなのか?!」

 左拳一発

 「こうして欲しいのか?!」

 右拳一発

 「ほら!!」

 左拳一発

 ゴッチが全力で拳を突き込むたびに、カシーダは巨体を捩り、戦慄くのだ
 ゴッチは楽しくてたまらなかった。もっとこの巨大なミイラが、びくびく痙攣する所が見たい

 興奮しきって、ゴッチはカシーダのぼろぼろで凹凸の激しい肉を鷲掴みにする

 左で握って、右は拳を構えたままだった

 そして、連打。只管荒っぽく、力任せに右拳で突き続ける

 「あぁ?! またそれか! 芸が無ぇ!」

 夢中になっている内に、ゴッチの周囲を黒い霧が包んでいた

 そこから響く怨嗟の呻き声。爛々と光る不気味な赤い目。明らかな敵意

 まだそんな目が出来るのか。嬉しいぜ
 お前等が本当に俺様を恐れるようになるまで、絶対に止めてやらねぇ

 ひゃっひゃっひゃ、とゴッチが高笑いし始めたのがまるでスイッチであったかのように、黒い霧から影達が踊りだし、ゴッチに取り憑く

 ゴッチは構わずカシーダを殴り続ける。影達はそんなゴッチに次々と取り憑いていく

 全身を百を超える影達に拘束され、動きづらいなと思ったゴッチは漸く殴るのを止めて対策を取る。とは言っても、対策とも言えない力技だ

 思い切り全身を振り回して、同時に最大限の放電を行なったのである

 「退けぃ!」

 そして再び一心不乱に殴り始める。蝉の羽音のような叫びが段々と弱くなっていく


 少し離れたところで見ていたレッドとラーラは、最早唖然を通り越して呆れ返っていた

 「……兄弟……。アシュレイ達はほら、バリバリの武闘派だから……」
 「もうボスだけで良いのではないか?」


――

 後書

 ぐぶはー
 今日も元気に呑んでますかー!
 酒があれば幽霊なんて怖くない。
 その上でトランクスを被れば頭が冴えて最強に見える。
 初期はゴッチのパワーももっと大人し目だった気がするけど俺が酔うと途端にサイヤ人になる不思議。
 経験値を貯めてピクシーアメーバ細胞がレベルアップしてるんだと思って。


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