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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/15 13:22
 うとうとしていた事に気付いて、ラーラは自らの頬を張った

 仕方ないと言えば仕方ない。アロンベル軍団の作戦に参加し、戻ったのが昨日の朝
 僅かな仮眠を取り、ジルダウで起こったいざこざを片付けようと思ったら、エルンストの近衛軍との揉め事が起こり
 ようやっとそれらをやっつけたと思ったら、今度は流れの傭兵団が喧嘩騒ぎを起こし、しかもその内の一人が頭の行かれた快楽殺人者と言う全く訳の解らない土産付きで

 兎に角、非常に忙しかったラーラは碌な睡眠を取っていなかったのだ

 「眠いのか。無理はするな」
 「ミランダローラー殿。……不覚」
 「無理もない。揉め事が重なっていたようだしな」

 ゼドガンは涼しい顔で巨剣の手入れをしつつ、時々思い出したようにそれを振り回す
 ゴッチの私室は屋敷の中でも最も広い部屋で、ゼドガンが暴れても十分なスペースがあった

 正直、ゼドガンの剣には助けられていた。風切り音が幾度も不快な気配を退けるのを、ラーラは感じていた

 「何か食べる物を。ボス、少し席を……」
 「駄目だ。……基準が解らねぇな。見えたり見えなかったりするらしい」
 「は?」

 椅子に深く腰を落ち着けたゴッチは、黒檀の机に足を投げ出し、隼のエンブレムが刻まれたナイフを弄んでいる

 ゴッチはチラリと後ろを振り返る。カーテンは締まっており、この辺りでは高価な厚硝子が室内の様子をうっすら映し出している。可笑しなところはない

 だが、ナイフには映るのだ。肉厚の、鏡面の如き刀身で窓を映せば、其処には無表情でこちらを見詰める女の姿が

 「ククク、お前も目ぇ付けられたぜラーラ」

 女の視線は、ゴッチ、ゼドガン、ラーラを行ったり来たりしている。異様に大きな目玉が、グルン、グルンと回転して、室内を睨み回している
 ラーラは苛立たしげに足を踏み鳴らした。足を叩きつけた床から、白金色の炎が吹き上げる

 「おや、消えた」
 「食べ物をとってきます」
 「……気を張り過ぎだ。こんな木端相手に」
 「……確かにボスの言う通り、基準が解らないな。私とボスとでは、見えている物が全く違うようです」
 「あん? ……じゃぁお前には、何が見える」

 ラーラは窓の外を睨みつけながら、苦しげな息と共に言葉を吐き出す

 「天を衝く程の巨人が、四つん這いになって我々を覗き込んでいます。正直……何故こちらに手を出してこないのか不思議です」

 鍵を掌で弄びながら、ラーラは廊下に消えた。ガチャりと鍵が掛けられる

 「ゼドガン、どうだ?」
 「うーん、全く見えんな。そもそも掛布を閉じているし」
 「だよなー。見えすぎるのも考えモンだな」


――


 欠伸を一つした。肩を回せば、随分と筋肉が固くなっているようだった

 少しだけ目を閉じる。平衡感覚が乱れて、ふらついたような気がした

 「(疲れてんな)」

 扉が叩かれた。ラーラが出て行って暫く経つ。戻ってくるとしたら、丁度今頃だろう

 「ラーラか。律儀だな、入れよ」

 ラーラは無言で入室した。小さめの籠を大事そうに抱えている
 白い頬を何時もより更に蒼白にさせていた。小さな溜息が聞こえる。流石にこの女でも、今の状況には参っているらしい

 気にし過ぎなのだ。ヤバイ物はまだ感じない。なら今はまだノンビリ構えていればいいものを

 ふと首を傾げる。ラーラは出掛に鍵を掛けて行った
 開ける音はしたかな? したような気もするが、していないような気もする

 まぁ良い

 「どうした、座れ」

 ラーラは俯き加減でゴッチの方まで歩いてくる

 ふと、ゼドガンの方を見遣った。ゼドガンは巨剣の輝きを見つめていたが、そこにゴッチは違和感を覚えた

 「(顔が見えねぇ)」

 濃い影が指していて、ゼドガンの顔が全く見えない。確かに薄暗いと言えばそうだが、蝋燭はしっかりと燃えているのだ
 顔が見えないなんてこと、ある物かよ

 ぞわ、と悪寒がした。冷たい気配を放つラーラが机に籠を置く


 ?!


 流石のゴッチも驚き椅子から立ち上がった。籠の中には黄ばんだ小石のような物が詰め込まれている
 歯だ。確認すれば直ぐに何か解った。人間の歯や、獣の牙。捻れた熊の爪のような物や、小さい隆起が表面にびっしりあって何が何だか良く解らない物

 黄ばんでいるだけでなく、泥に塗れていたり、血が乾いて凝固したのがへばりついている物もある

 歯だ。ゴッチは咄嗟に拳を構える

 「ゴッチ、どうした?」

 その時横合いから声が掛かる。ゼドガンだ。ゴッチは視線をやって繁々とその顔を見詰める。今度はハッキリと細部まで見て取れる

 何時ものゼドガンだ。涼しい顔をしている

 ゆっくりと首を回して、視線を戻した。ラーラと歯の詰まった籠は消えていた。まるで、元から何も居なかったかのようだった

 幻覚だと?

 「ゼドガン、俺は寝てたか?」
 「いや。気配が鋭くなったから見ていたが、寧ろ緊張状態にあった。……何を見た」

 ゼドガンに返答する前に、扉が叩かれる。ノックの音。先程のシーンの焼き直し

 「ラーラかな。全くお前の部下は、こんな時まで律儀な物だ」
 「ケ、その台詞には覚えがある。……少し、静かにしろ」
 「?」

 ゴッチは椅子に座り直した。ノックへの返答はしなかった

 間を置かずまたもや扉が叩かれる。ゼドガンは察しがいい。何も言わずに扉に注意を向けていた

 コンコンコン、と言うノックの音が繰り返される。その内に痺れを切らしたのか、段々と激しくなって行く

 コン、では済まない。ゴン、と言う、拳で扉を殴るような音だ。ゴッチは知らず笑っていた

 悪寒。背筋が震える感覚。「癖になっちまいそうだ」と零す。新鮮で、楽しい

 音は最早扉を軋ませる程の物になっていた。ノックと言うよりは、扉に体当たりでもしているかのようだ

 「…………全く、気が抜けん」

 ゼドガンが首を鳴らしながら言う。この男も緊張状態だ。三日三晩戦い続けられると自信満々に言ってのける男だが、慮外の相手にはどうだ? 額には汗が浮いている

 音は止まらない

 「……駄目だな」
 「こっちから招き入れてやるか?」
 「何かの伝承にあったが……、そういう、招く行為と言うのは、ああ言った手合い相手には危険らしいぞ」
 「へぇ……。招くとどうかなるのか?」
 「どう、と言われてもな。俺が聞いた伝承の登場人物は、化物に耳を削ぎ落とされてしまったが」
 「うーむ……流石にちょっとばかり嫌だな」

 顔を見合わせていると、唐突に扉への体当たり(かどうかは知らないが)が止んだ

 奇妙な沈黙が満ちる。きん、と耳鳴りがする

 再びノックの音。コンコンコンと、優しげな物だ

 『只今戻りました』

 外から聞こえてきた声に、ゴッチは漸く気を抜いた

 「ラーラの声だ」
 「…………何?」

 しかし、ゼドガンはそうでは無かった。鋭い視線でゴッチを射抜き、巨剣の柄を握りながら油断なく身構えている

 「あの手この手だなゴッチ。一つ聞かせてくれ。今の声は、本当に、ラーラの物だったか?」

 暫く見つめ合うゴッチとゼドガン。再びノックの音

 『ボス、どうされました? 入っても?」

 ゴッチは扉を見つめながらうーんと考える。顎先をカリカリと掻いて、からかうように言った

 「鍵を持ってねぇ奴はお呼びじゃねぇなぁ? ククク」
 『…………』


 ドゴン!


 扉への体当たりが再開された。ゼドガンは苦笑する

 うひょ、とゴッチは立ち上がってシャドーを始めた。中々考えるじゃねぇか、最近のゴーストは

 「ワオワオワーオ、あのシェンとか言う奴、『子供の悪戯程度の攻撃も出来ない』とか言ってなかったか?」
 「確かに、こう煩いと落ち着いて酒も呑めんな」
 「ゴーストってんなら、扉の一つでもすり抜けてみりゃ良いのによ」
 「…………はぁ。そうしたらただでは置かん。これ以上煩くするなら、レッドと合流する前に切り捨ててやる」

 そうしていると、扉の外の気配が“増えた”
 勇ましげな声が響く

 『鬱陶しいぞ貴様! 死した後の者であろうが、私の機嫌を損ねたならばもう一度殺すぞ!』

 パン、と乾いた音がした。体当たりの音が止む

 カチャリと鍵の開く音がした。その後、ノック
 返答を待たずして扉が開かれ、平然とラーラが入ってくる

 籠を抱えていた。干肉とパンが顔を覗かせている

 「…………何か? 変な顔をして」
 「ラーラ、お前は意外と情緒と言う物が無いな」
 「あぁ、いや、まぁ……。結構助かったけどよ」
 「ははぁ、成程。鍵を掛けて行って正解でしたか」

 くい、と顎を引いて勇ましく笑うラーラは、それはそれは絵になっていた


――


 「聞いていたよりもずっと鬱陶しい」
 「ボスが殺しすぎたからでしょう。この短い期間に何人も、それは惨たらしく始末したではありませんか」
 「他人事みたいに言いやがるぜ」
 「……兎に角、ボスが連れて来たあの鬱陶しい影に惹かれて、良くない気配が屋敷に集まってきています。ボスが憎くて仕方がない者達が」

 ほう、とゴッチは拳を打ち合わせる。良い事を思いついたと言わんばかりの表情だ

 「詰まり、ここでそいつらを徹底的にうちのめせば、後腐れなくスッキリする訳だな」
 「……はぁ、それは、まぁ……。いえ、後で私がやりましょう。敵だった者達とは言え、死んでからもボスに泣かされるのは、流石に哀れでしょう」
 「あぁ?」
 「何か?」

 クソ真面目な顔で言ってのけるラーラ
 真正面から訝しげな顔でお見合い状態の二人を見て、肩を竦めながら笑うゼドガン

 「ラーラ、お前はこう言った事態への対処法を知っているのか」
 「レッドと付き合いがあると、こう言った不可思議な事態に巻き込まれる事もあるので。それに今まで目を通した書物にも、こういった事例はまま記されていました」
 「それは心強い」
 「別段大した事ではありません。それ以前に、本人が強い意志と明確な理性を保ち、決して恐れず付け入る隙を与えなければ、奴らは何も出来ません」

 まぁ、とラーラは付け加える
 視線はゴッチの背後、カーテンの掛かった窓のその向こう側に向かっている

 「……窓の外の巨人のような、規格外は別ですが」

 ゴッチは立ち上がる。カーテンに手を掛けたところで、ラーラが鋭く静止する

 「ボス!」

 いい加減にしろよラーラ。ぼそりと言った
 俺は天を衝く巨人よりも、小山ほどある竜骨よりも、おぞましい呪文を唱え続ける囁き声よりも、ラーラの偽物よりも、よっぽど恐ろしい物を知っている

 スーパー・バーニング・ファルコンだ。最も尊敬すべき男だが、同時に最も畏怖すべき男だ

 幽霊に一々ビビっていたら、きっとファルコンは失望する。有り得ん事だ


 ゴッチは止まらなかった。平然とカーテンを開く

 巨人の姿はゴッチには見えなかったが、黒い影が横切ったような気がした。早くて目では捉えきれなかった

 耳鳴りがする。ぼそぼそと、例の囁き声までし始める

 「……」
 「居るのか」
 「……居ます。はっきりと、ボスを睨みつけている」
 「何が怖い。俺には何も見えねぇぜ」
 「見えなくても感じる筈」

 糞くらえだ。ゴッチは吐き捨てる

 「何で怖い。どんな巨人か言ってみろ。どんな面してる? 表情は? 服は着てるのか?」
 「……黒い影に包まれていて、輪郭は見えません。しかし、血走った目はよく解る。得体の知れない不気味な奴です」
 「それだ。『得体の知れない』って奴だ。誰が言ってたか忘れたが、未知ってのは恐怖らしいな。解らないと怖いんだってよ」

 それが何なのだ。ラーラは険しい顔で拳を握り締めた

 この巨人は危険だ。ハッキリと解る

 いや、いや待て、前提が可笑しい。私は危惧しているだけだ

 「そもそも私は恐れてなどいません」
 「その意気だぜ。おい、その巨人、言葉は通じるか?」
 「さぁ? そもそも何を考えているのかすら解らない相手です」

 まぁ良い。ゴッチは中指をおっ立てて窓に向かって突き出す

 ラーラとゼドガンは呆れた。挑発するつもりか

 「よぉどんな気分だクソ野郎。この正真正銘の屑め。どうしようもない臆病者の、俺の屋敷の庭で四つん這いになって、俺をオカズにマスターベーション決め込んでるイカレ脳味噌が。あぁ? 聞こえてるかこのmotherfuckerが! ……どうだ、巨人ちゃんは反応してるか?」
 「いえ全く」

 ゴッチはくるりと向き直って尚口汚く罵る

 「おーっと耳が聞こえねぇってか? それとも教育を受け損なったから話が通じねぇか? どうした、聞こえてるならちょいとでも反応して見せろ。仰向けに寝転がってM字開脚しろ。『もう降参』っつってな! そしたらご褒美に俺のケツを舐めさせてやる。どうだ、興奮してイっちまいそうだろ? あぁ?! ……これならどうよ、動いたか?」
 「全然」

 ゴッチはべぇと舌をだした。両手でサムズアップを作り、首を掻き切る動作の後、それを床に突きつける

 「OKOK、オーーーケーーー、テメエが指銜えて見てる事しか出来ねぇ薄ら馬鹿だって事がよぉーく理解出来たぜ。テメエはそこいらをうろついてる浮浪者の、糞を掻き集めた程度の価値すらねぇ。本当に、マジで、どうしようもない、罠にかかって餓死するのを待つだけの油虫みてぇなのがテメエだ。きっとテメエのママは嘆いてるぜ。お前を汚ぇ股座からひり出す前に、自殺しときゃ良かったってよ! あぁ?! どうだ、まだ何も感じねぇかコラ! ……おい、流石にどうだよ」
 「無反応です」
 「何だよ詰まらんな」
 「ゴッチ、今のはお前の言うカポとやらに相応しい行為だったのか?」
 「……偶には良いだろ」

 ゴッチはさも失望したと言わんばかりの表情で肩を竦める
 椅子にどっかり腰を下ろし、机の上に足を投げ出した

 耳鳴りは続く。ぼそぼそと言う囁きも大きくなっている

 ラーラが炎を纏わせた右手でゴッチの肩を払う。それで、耳鳴りも囁きも消えた

 「全くの無反応とはなー」
 「あ、いえ、今動きました」
 「何?」

 ラーラが眉を顰める。肌寒いのか、両手で自分の体を抱きしめていた

 「先ほどよりもずっと近くで、ボスの事を睨んでいます」
 「…………へへへ、怒ったか。でくのぼうめ」


――


 朝を迎え、三人は身支度を整えて屋敷から出た

 早朝の雑踏は、異様だった。明らかに生きた人間ではない物が人混みに紛れ込んでいる

 「相当いるな」

 見掛けだけなら普通の人間だが、青白い生気を感じさせない肌。ぎょろりとした目。忙しく動き回る人々の中で、それらは足を止めてゴッチ達を見つめている

 十、十五は居る。この分なら、きっともっと居るだろう

 「大人気じゃないかゴッチ」
 「ゼドガン、お前が声を掛けてみろよ。きっと喜んでよってくるぜ」
 「俺はもう少し……、活力に満ちた奴が良い。連中は斬っても手応えがなさそうだしな」
 「またそれか」

 軽く笑い合って三人は歩き出す

 背後で何か動く気配がした。ラーラのみが振り返る

 「……動いた……?」
 「何が?」
 「……巨人が……こちらを見ています。ゆっくり歩いてくる。……止まった。大きい」
 「やっぱり俺のケツが狙いか。厳しい状況だな」

 ゴッチは凄絶に笑った。イイぜ、ついて来やがれ。今の所は話が見えないから放っておいてやるが、後で絶対に、絶対に纏めて磨り潰してやる

 事前に、屋敷の周囲からは部下を下がらせてあった。一々夜眠れなくなる奴を増やすことはない

 その時、雑踏を掻き分けて歩いてくるものがある。背筋をピンと伸ばした貴公子。アロンベル・アダドーレだ

 どうやら朝起き出してすぐ、身形だけ整えてこちらに来たらしい

 「ご機嫌如何か?」
 「俺の後ろに何が居るか見えるか?」

 アロンベルは僅かに目を凝らすような仕草をすると、ハッキリと表情を強ばらせた

 「これはまた大物だ」
 「羨ましいだろう」
 「……ゴッチ殿もまた、大物過ぎる程に大物だ。あんな物に後をつけさせて、尚平然としているとは」

 アロンベルは神官らしき者を二人連れていた。その内の片方は硬く目を瞑り呪文を唱え続け、もう片方は目を細めながら鉄杖をゆらゆらさせている

 その内鉄杖を揺らしていた方が僅かに焦ったようにアロンベルに告げる

 「それ以上、そちらの方に近付かれてはなりませぬ」
 「……危険は承知、だがコレは」

 呪文を唱えていた方の神官が持っていた宝石が音を立てて弾ける

 神官は溜息を吐くと、惜しげもなくそれを放り捨てた。そして、言う

 「直ちにこの場を離れたほうが宜しいでしょう。これより後はどうも出来ませぬ故」
 「だ、そうだ。アロンベル、今は良い。とっとと帰れ。話はレッドに聞く」

 歯をギリギリと鳴らすアロンベルは、それでもゴッチの言葉に従って踵を返した
 首だけで振り返るアロンベル

 「『文献を見るに、カンスレーの山の祭祀場が最も怪しい』とレッドに伝えてください。ジルダウ北門に、エルンスト様から頂いた駿馬に引かせた馬車が準備してあります。それを使うようにと」
 「打開策か。解った、伝える」
 「ゴッチ殿達ならば、この事態、必ず切り抜けると信じています」
 「負ける方が難しいな」

 無理矢理取り繕った表情で朗らかに笑い、アロンベルは去っていく。本心でないのは目に見えていた

 「アレがアロンベルか。一緒に来たそうだったな、ゴッチ。責任を感じているようだった」
 「奴が来て何の役に立つ」
 「さて、奴はどんなだ、ラーラ?」
 「何故私に聞くのです」


――


 道中は、意外にもゼドガンよりゴッチの方が冷静だった

 ゼドガンと来たら「斬っても手応えがなさそう」などと言っていた癖に、背後をつけてくる気配に向かって度々剣を抜こうとする

 何だかそうとう気に入らないらしい。落ち着かないと言うべきか

 その点ラーラは割り切っている。後をつけてくるどころか右肩の上にまで青白い顔が近寄り、気持ちの悪いギョロ目で睨みつけてくると言うのに、相手にするだけ無駄だと一瞥すらくれなかった

 ゴッチ自身はとても簡単だった
 気配に向かって、「寄ると殺す。死んでても殺す」と殺気を放てばそれだけで逃げていく

 何故ゼドガンが苛立っているのか解らない

 「俺にも理解出来たのだがな、コイツら普段は縮こまって何も出来ない臆病者だが、今この時だけは居丈高に強気で居るのだ」
 「影がボスに憑いている事で、調子に乗っているのでしょう」
 「俺はそういった手合いが好きではない」

 どうでも良いそんな事は

 そうこう言っている内に、昨日の娼館へと辿り着く

 ここに来る途中から既にそうだったが、ゴッチは寒気が収まらなかった。ここへ来て、娼館を視界に収めた途端、寒気は急激に強くなった

 「……こんな所にレッドは居るのか……」
 「何か見えるか? こっちはサッパリだ」
 「………………」

 ゴッチの問いに、ラーラは顔を顰めるばかりだった
 その内に「行きましょう」とだけ言って、先頭を歩き始める

 昨日ゴッチがしたように、ラーラも乱暴に扉を叩いた。間を置かず現れたシェンは、昨日と全く同じ装いのままだった

 「……ゴッチ殿に、ゼドガン殿、そして貴女はラーラ殿ですね」
 「レッドに会いに来た。……どうした、何かあったのか?」

 扉の向こう側が妙に騒がしい。鎧姿の人間……アロンベルの兵士達だ。忙しく行き来している

 シェンが振り返って合図を送る。複数の足音が近付いてくる

 「少し、扉から離れていてください」

 其の通りにすると、扉が大きく開かれて、中から担架を担いだ兵士達が現れる

 担架に乗せられているのも、また兵士だ。異様な状態だった
 目をいっぱいに見開き、両の手で身体を抱きしめている。その抱き着き方がまた何とも言えない激しさで、手で身体を抱きしめているのか、身体で手に抱きついているのか上手く表現出来ない

 顔は青ざめ、口は真一文字に引き結ばれていた。そして時折痙攣するのだ

 その状態の兵士達が四人。中から運び出され、娼館の前にズラリと並べられる

 「アロンベル軍団の、“事情を知っている”兵士達です。彼らは昨夜、レッド殿の部屋の前を守備していました。レッド殿はしつこく離れるように言っていたのですが、そうもいかず……」
 「で、この有様か」
 「急激に影響力が強まったのです。ハッキリとした悪意を剥き出しに」

 運び出された兵士達が、ゴッチをじっと見ている。痙攣が激しくなった。詰まったような鼻息が周囲に満ちる
 異様な光景だった。そのうちに、痙攣する兵士達はぼろぼろと涙を流し始めた

 彼らの視線は、それでもゴッチから外れない。流石のゴッチも気持ち悪さを感じ、舌打ちする

 シェンが耳打ちしてくる

 「彼らは最早助かりません。昼までに鼓動が止まって死ぬでしょう」
 「レッドは?」
 「昨日の部屋に」
 「入るぞ」
 「お待ちを。コレを見て尚、お会いになるので?」
 「黙れ! 殺すぞ!」

 そろそろゴッチも我慢の限界である

 こんな木端どもが何人死のうが知った事か。問題は、レッドだ
 重要事項はそれだけだ。危ないとか、どうだとか、誰に物を言っていやがる

 俺はゴッチ・バベルだぞ!

 「……申し訳ありません。ゴッチ殿の事を誤解していました。……レッド殿の事が、大事なのですね」

 もうゴッチは取り合わなかった。シェンを無視し、ゼドガンとラーラを引き連れて足音も荒く娼館に乗り込む

 取り合わないのはシェンも同じだった。震える四人の兵士達に向かって、昨日の独特の礼をした


 娼館内部は不気味な程静まり返っている。昨日もこんな感じと言えば、そうだった。不思議なほど外の音がしない

 耳鳴りと、ぼそぼそと言う囁き声。またか、と思った瞬間、今までとの違いに気付く

 聞こえる。今まで解らなかった内容が、はっきりと聞こえる

 呪文であった。ゴッチには意味が解らない。おぞましさと不気味さだけが伝わってくる

 ラーラが歯を剥き出しにして俯いている。ゴッチはその縮こまった背中を強く叩いた

 「聞こえるんだな」
 「……えぇ」
 「俺には意味が解らん。ゼドガンは?」
 「さっぱりだ」

 ラーラが渋い表情のまま深呼吸した。顔を持ち上げ、改めてゆっくりと歩を進める

 隣を歩くゴッチ。背後を固めるように、ゼドガン

 「呪いの言葉です。ずっと、ずっと昔の。……呪殺の儀式の内容を、事細かに聞かせているのです。そしてそれの対象が、如何に苦しみ抜いて、如何に惨たらしく死んでいくかも、この囁き声は伝えています」

 ゴッチは大きく息を吸い込んだ。すー、と吸い込んで、ハ、と吐き出した

 間近で聞いていたラーラが吹っ飛ばされそうな喝だった。吃驚したような表情で、ラーラはポカンと口を開けている

 「おー、消えた消えた」

 ゴッチは何事もなかったかのように足を早める


 そしてとうとう、レッドの部屋の前に辿り着いた。呪文と魔法陣は、相変わらずそのままだった

 「おい、約束だ。中に入れろ」

 無言が帰ってくる
 ラーラが口元を抑えた。吐き気を堪える仕草

 「……以前ティト殿が苦しげにしていた理由が、今理解できた」

 ラーラは浅い呼吸を繰り返す

 ゴッチは舌打ちして、再度レッドを呼んだ

 「おい、シカトしてんじゃねーぞ!」
 「……兄弟」
 「居るんじゃねぇか」

 とっとと開けろよと言うゴッチの要求に、またもや沈黙が帰ってくる

 「……レッド?」
 「兄弟、事情が変わったんだぜ。やっぱり、会えないよ……」
 「おい……。お前この俺を一度追い返して置きながら、今更それか」
 「へへへ、御免だぜ……」
 「……トサカに来たぜ、この馬鹿が」

 ゴッチは思い切り扉を蹴りつけた

 「おい、ゼドガン、ラーラ」

 呼ばれて二人は肩を竦める

 「怖けりゃ逃げてイイぜ」
 「抜かせ」
 「ご冗談を」

 三人そろって扉に体当たりする。中のレッドも事態に気付く

 「や、ちょ、止めるんだぜ! 今はやべぇの! 本当にやべぇの! だぜだぜ!!」
 「うるせーこのスカタンがァー!」
 「駄目だって! 死んじまう! 本当なの!」
 「だっしゃらぁぁ!!」

 扉は開かれた。極めて強引に

 空気が変わる。温度が下がった。嫌な気配と言うのは直感的に悟る物だが今のこれは度を越している

 はっきりと解る。違いがだ。明らかに空気が別のものになった。一歩でも動けば、踏み出せば、死ぬような気がする

 こんな所に、一人で居た。居やがった

 「ここで待て」
 「……ボス」
 「良いから待ってろ」

 部屋に踏み込もうとすると、またもやレッドが叫ぶ

 「駄目だ! 本当にこれ以上は! 来ちゃいかんだぜ!」

 ゴッチはそれをさらっと無視して、とうとう部屋に侵入した

 「ダメだってえぇ! ……だめ……だって、言ってん……だぜ……俺……、だ、ダメだって……」

 部屋はぐちゃぐちゃだった。床にも壁にも天井にもびっしり魔方陣が書かれていて、しかもそこいらに火を放って焦がしたような跡がある

 何かが破裂した痕跡。血の染み。良く解らない、獣の爪痕のような物

 家具はほぼ無い。レッドが毛布にくるまりながら蹲るベッドのみだ


 そして外とは圧倒的に違う気配。ゴッチは二本の足で立っていて、手を握り締める感触もあれば、汗が滴り落ちる感触もある。確かに生きている

 だが部屋に入った瞬間ハッキリと“死んだ”と感じた。ここは死後の世界なんだ、と思ってしまった。先ほどの感覚は間違いではなかった

 馬鹿馬鹿しい。が、こりゃ仕方ない。こんな所にずっと居たら、レッドでもこうなっちまう

 「……兄弟」

 レッドは部屋にぽつんと設置された簡素なベッドの上で震えていた
 赤いキャップは床に放り出されていた。それを拾い上げてホコリを叩き落すと、ゴッチはベッドに近づいて行く

 激しい耳鳴りがしていた。先程の呪文も。最早追い散らしたって無駄だろう

 ずっとコレを聞かされてたのか? コイツは

 「ご苦労なこった、兄弟」

 レッドはやつれていた。目にも体にも力がない。衰弱死寸前と言われても驚かないぐらいだ

 姿を見なかった数日でこんな事に

 畜生

 「や、やだよぅ~」

 レッドが泣き始める。見栄も外聞も無いのは何時もの事だが
 何時ものレッドは笑っていた。みっともなく本当の意味で泣き喚くのは、初めて見る

 「兄弟が死んじまうよ」
 「死ぬか馬鹿が」
 「兄弟が……、し、死んじまうよぅ……、やだよぉ~~……! そんなんやだよぉ~~……!!」
 「うるせぇな! 死なねぇっつってんだろうが!!」

 ぐしゅぐしゅと鼻を鳴らすレッド。流れる涙を拭いはする物の、後から後から流れてくるので余り意味がない

 酷い顔だ。明るいところで見たらドン引き間違い無しの泣き方である

 「けどさぁ~~! けどぉ!」
 「じゃぁお前一人で何とかなったんか?! 笑わせんな!」
 「そうだけどさぁ~~! でも、でもさぁ、きょ、兄弟が死んじゃうのはやだよぅ……!」

 ゴッチは有無を言わさずレッドを抱き締めた

 男を抱き締めるのなんて、御免だと思っていた。ファルコンやファミリーにハグするぐらいは当然のようにやっていたが、こうしっかりと抱き竦めるなんて初めてだ

 でも、自然とやってしまった。レッドの体は妙に細く、軽く感じる。ガタガタ震えていて、酷く冷たい


 馬鹿野郎、一人で、こんな所で、馬鹿野郎

 兄弟

 「畜生、ちっくしょう、俺、最低だぜ……、ホント馬鹿……、俺、俺」
 「……なんだよ、言ってみろよ……」
 「俺、兄弟が死んじまうの、やだけど……」
 「しつこい奴だな、死なんと言っとるのに」

 レッドの随分細くなった腕がゴッチの背に回される

 「嬉しいよぉ~……、ひ、一人はざびじがっだよぉ~~……!」


――

 後書

 ゴッチは怖くねーかも知れねーけど俺は怖いです。チョー怖いです。

 携帯が鳴る度ビクっとなる。怖い事考えてると何もかも怖いというね。

 なのにいざ読み返してみるそんな怖くないんじゃねと思ってしまうと言う。

 あァァーー、ファッキュー。


 そして実を言うと泣いてるレッドを書きたかっただけ、みたいな。
 変態かっ! (俺が)


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