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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/14 09:53

 ほぼ三日の内の出来事である

 アロンベル・アダドーレは、カザンと組んで散々に賊どもを追い散らした
 ホークの手引きでエルンスト自身に献策する機会を与えられ、それによって賊……より詳しくいえば、革袋の毒残党を追い立てる為のフリーハンドを得たらしい

 革袋の毒はビエッケを失ってから完全に統率を失い、そこいらの山賊と変わりない存在となっていた。それらは見境無く周囲の破落戸達を吸収し、肥太るように勢力を強めていたのだが……

 アロンベルとカザンが動き出してからはあっという間だった。

 面白そうにそれらの事件を話すのは、全身にびっしりと汗を掻いたゼドガンである
 股間を申し訳程度に隠す肌着のみのゼドガンは、酷くゆっくりとした動作で剣を振っていた

 二十秒掛けて、漸く一振り。常に全身を緊張させて、前を睨みつけながら何度も繰り返す

 ゴッチの屋敷中庭はゼドガンから放たれる熱気で異様な気配となっていた

 「それどころではない。ジルダウ北部、カンスレーの村々を脅かしていたはぐれ竜を倒したと言うぞ」
 「竜? 竜ってぇと、あの、なんだ……。ボーなんたら見てぇな奴か」
 「流石にあそこまでの怪物は早々居るまい。馬二頭ぐらいの、小さな飛龍だ」
 「ほー、結構簡単に死ぬモンなんだな、竜ってのは」

簡単、か。ゼドガンは苦笑しながら横目でゴッチを見遣る。その間にも、眉間から鼻梁を汗が滴り落ちていく

 鉄のようでだがしなやかな二本の腕。見事に割れていながらうっすらと脂の乗っている理想的な腹
 太腿の盛り上がりなど、よく鍛えられた軍馬程もある。爪先は恐ろしげな異形の如く歪み、力強く地面を噛んでいた

 「ラーラが協力したらしいぞ」
 「あぁ? あの軍人嫌いが? 冗談だろ」
 「俺は御前試合に出ていたから詳しくは知らないが、アロンベル・アダドーレ本人が口説き落としに来たそうだ。ラーラの竜殺しの話は意外に有名だからな。…………俺にも一声掛けてくれれば良かった物を」
 「……おぅ、そういや、そんな事を言ってたような言ってなかったような」
 「竜殺し! 興味があったぞ、正直」

 今また一振りが終わった。巨剣にゼドガンの汗が伝い、鈍く輝く

 ゼドガンの両足がべたりと土を踏む。蟹股になり、少しずつ絞った脇を開いていく
 逆袈裟の切り上げ。この一振りにも、また二十秒

 ゴッチは肩を竦めた。よくやるぜ。相当辛いはずだ

 「あの速さは素晴らしい。朝に手勢と発ち、夕に到着すると同時に僅かの休息もなく竜に仕掛け、日の出と共に戻って祝杯を挙げたと聞く。頭の固い者には信じられん強行軍だろう」
 「ふぅん、それに、ラーラがねぇ」
 「あの娘もかなり鍛えているようだが、流石に平然としては居られなかったろうな。今度はそれでからかってみよう」

 あのラーラが、騎士に協力した
 俄には信じ難い話だ。騎士やら兵士やらに利する行いは絶対にしない女だから

 竜との戦いに何か思い入れがあったのかも知れない。思い返せば初めて出会った時、妙な目つきで竜を倒しただのなんだのと言っていた

 「で、アロンベルだが」
 「おう」
 「次はレッドにちょっかいを掛けているらしいぞ」
 「…………」


――


 ジルダウで男色の美人局をやっているらしい男に案内させた先は、立ち行かなくなって放置された元娼館であった
 娼館と言ってもごく小さな物で、部屋もそう多くはなさそうだ

 人が住まなくなってから十年。腐った壁や崩れそうな井戸。荒れ果て方を見るに、娼館であった頃から既に酷いオンボロ家屋だったのだろう
 浮浪者が寝床として使う事もあったようだが、ごく短い期間に変死体として発見される事件が相次ぎ、今では近寄る者も居ないそうだ

 「……おいおい、お次はゴーストバスターズの真似事でもする気か? アロンベルって奴は」
 「……?」
 「死者を畏れない奴かなって」
 「あぁ、まぁそのような気性だろうな」
 「だが何か変だぞ。レッドはこんな所で何を?」
 「さて」

 一階建てで、高さは三メートル程。屋根は所々穴があいているが、真新しい補修の痕跡がある
 館、というよりは、コテージと言ったほうが合うだろう。荒れ果てたコテージ。幽霊でも盗賊でも何でも居そうな感じだ

 「大人数の気配は無いな。アロンベルは?」
 「まぁ、行きゃ解る」

 ゴッチは美人局の男に小銭を握らせて追い返すと、娼館の扉を三度叩いた
 ノックとは言えない荒々しさであった

 それ程間を置かず、扉は開かれる。中から現れたのは、荒れ果てた娼館にはとても似合わない身奇麗な女であった

 金髪を結い上げた吃驚する程白い肌の女だ。華奢な体、細い手足。傷の無い指は、この女がまるで苦労知らずであることを教えてくれる

 一目で上等な物と解る、青のベレー帽に似た物を被っていた。衣服も青と白のゆったりとしたドレスシャツのような代物で、室内だと言うのにワインレッドの直垂を身体に巻きつけている

 「貴殿等……」

 女はゴッチとゼドガンを見て、俄に色めき立つ
 頬骨が低く、ほっそりとした顔立ちであったが、ゴッチとゼドガンの姿を見て妙に男臭い笑みを浮かべたかと思うと、凛々しく眉を釣り上げた

 「カノートの神官? 何故こんなところに」

 ゼドガンの訝しげな問い
女神官は人差し指と中指をぴったり合わせて隙間を消し、硬く両目を瞑ると、一本線を引くように合わせた指で瞼を撫でた。目を覆う仕草のようにも、顔を拭く仕草のようにも見えた
 そして、指を合わせたまま左胸を押え、一礼する

 独特の礼である。ゴッチは鼻を鳴らした

 「神官? カノートって何処だったかな……」
 「……アナリア南部、サジカ山岳に唯一の神殿カノート・マーナがあります」
 「そうか、あの引篭り神殿の連中か」
 「引篭り……、ククク、そうです。その引篭り加減が嫌になって世界を旅しています」
 「ほーぅ、そりゃさぞかし……」

 女神官の、傷一つ、荒れたところ一つない手を見てゴッチは笑う

 「……苦難に満ちた旅なんだろうな。ツルツルお手々だ」
 「これは手厳しい」
 「ゴッチ、カノートの旅神官を粗略に扱う者などこの国には居らん」

 言外に、「お前ぐらいだ」とゼドガンは言っていた

 「……話を戻すが、引篭り神殿の神官が何故ここに? レッドが居ると聞いてるが」
 「こちらへ、ゴッチ殿、ゼドガン殿」

 するすると音もなく神官は歩き始める
 後ろから見ると性別が解りにくい。そういう服なのだろう。

 「名乗ったか? 俺達」
 「この街で俺とお前が解らない人間はそう居ないだろう」
 「ふん……。あの女に名乗らせるのは忘れてたな」

 ゴッチはポケットに手を突っ込んだまま歩く。視線は鋭く、周囲を見渡していた

 急激に空気が冷えた感じがした。首筋が何故かチリチリしている

 何か、ヤバイ。上手く言えないのだが。妙に寒気がする


 娼館の内部は古びていたが、こちらも屋根と同じで補修の痕が真新しい
 とても前を歩く女神官がやったとは思えないが、アダドーレの兵士たちか? ゴッチは女神官の後ろ姿を睨んだ

 「ここです」

 女神官は、娼館のもっとも奥まった位置にある一室の前で止まる

 ゴッチは眉を顰める。ゼドガンですら、珍しく険しい顔をしていた

 その扉には、見た事もない言語でびっしり呪文が書き込まれていた。真っ赤な文字だ。血のように真っ赤な
 魔法陣としか形容できない物も描かれている。扉はおろか、壁や天井、床にまで、そしてそれらは、細い線で繋がっている

 「エキセントリックな壁紙だな……。今時の流行りか?」
 「ゴッチ……」

 ゴッチの軽口に、言い淀むゼドガン。軽口に軽口を返さないのは、この男にしては珍しい

 「……危険だ」

 解ってんだよ、俺にも。ゴッチは首を掻く。じっとりと、嫌な汗が滲んでいる


 あの時と同じだ。ガランレイの時と、良く似た気配だ


 神官がしたり顔で囁く

 「帰りたくなったのなら健全でしょう。その感情に逆らわず、素直に帰ったほうが宜しいかと」

 それとは別に、誰かの話し声が聞こえた。小さくぼそぼそとギリギリ聞き取れない大きさの話し声だ

 ゴッチは歩いてきた通路を振り返る。誰も居はしない

 ゼドガンを見れば、こちらも巨剣の柄に手をやりながら同じように振り返っていた。目配せし合う二人

 「全く、お前達二人と関わっていると面白いことだらけだ。感謝するぞ」

 強がり、ではないようだった。心底から楽しんでいる

 ぼそぼそ

 ぼそぼそ

 ぼそぼそ クスクス

 ぼそぼそとした話し声は段々近付いてくる。じっとしていたら、最後には耳元でするようになった
 内容は解らない。何かおぞましい事を言っているのだけは解る。不思議な物だ

 当然耳元には何もいない。だが、気配はする
 ゴッチは唸った

 「鬱陶しいな」
 「鬱陶しいで済ませる御仁は初めて見ます」

 全く平然としている女神官。舌打ち一つ、ゴッチは睨みつける

 「黙れ……。俺達は今凄ぇ気分が悪い。いや、悪くなった。これ以上機嫌を損ねるな。特に俺は、ゼドガンのように優しくねぇ」
 「…………宜しい、ではそのように」
 「クソッタレ」

 耳元のぼそぼそが、更に大きくなる。別段激しい訳ではない。音量のみ大きくなる。それが逆に不気味だ

 耳鳴りがし始める。クソ、鬱陶しい。歯を食いしばるゴッチの手を、誰かが握った

 ぼそぼそが、僅かに遠ざかる。ゴッチの手を握っているのは女神官だった。ニヤ、と矢張り男臭い笑みを浮かべると、今度はゼドガンの手を握る

 ゼドガンが肩を竦めた。奴もまた、声が遠ざかったのだろう

 ゴッチは突然吠えた。るぅあ、だかうが、だか、兎に角滅茶苦茶に吠えた
 壁がビリビリ震える程の、屋敷中に響き渡る程の、もう只管に大きな吼え声だ。ゼドガンは涼しい顔で耳を塞ぐ

 吠え声が萎んでいく。息を吐き切ると同時に、ゴッチは壁を殴った。自分でも良く解らない、感覚的な行動だった

 女神官は俄に信じられないとでも言いたげな顔をしている

 「ほう……、このような邪気の払い方がありましたか」

 ゴッチはそれを無視して、呪文が書き込まれた扉を叩いた。耳元のぼそぼそは消えていた

 「レッド、おいコラ、何やってんだお前」

 返答は無い。ゴッチは取手を回す

 開かない。押し込んだ感触は異様な物だった。扉が軋む音だとか、木材同士が擦れる音だとか、そういった物が全くない。ボロボロの扉の癖に

 常識外の力が働いている。それくらいの事、ゴッチにだって解る

 ヤバイにヤバイを乗してヤバイ。ふ、と視界の端を何かが通り過ぎた。黒い影だ。知るか、と小さく吐き捨てて無視する

 「クソ……。レッド! おい! 生きてんだろうな!」
 「ゴッチ、少し待て」

 ゼドガンが、ゴッチの肩を掴む
 扉の向こうで、誰かがぼそぼそ喋った。先ほどの得体の知れない声ではない
 レッドの声だ

 「……兄弟、来ちゃったんだぜ? さっきのは、やっぱ兄弟かぁ」
 「あぁ。ゼドガンも居る。出てこい、兎に角顔を見せろ」
 「ごめーん、兄弟……。ちょこっと……無理だぜ」
 「何が無理なんだよ……。怒るぞ。出てこいって」

 乾いた笑い声がした。今のはレッドか?
 異様な気配は消えない。視線も感じる。しかも視線は一つや二つではない。視線に周りを取り囲まれているとでも言えば良いのか。粘つく視線の海に落とされたようだ

 「わはは……。出ると死んじゃうだぜ」
 「…………」

 出ると死ぬ

 バカバカしい、と切って捨てることが出来なかった。異様な気配のせいだ

 「じゃあ俺を中に入れろ」
 「……全く兄弟ってば、何時も通りのクソ度胸なんだから……。それもダメだぜ」
 「ダメだとぉ? 張っ倒されてーか」
 「勘弁してよぉ!」

 急にレッドが怒鳴った。何時にない、切羽詰った声だ
 ゴッチは怯んだ。追い詰められた人間の悲鳴を、あのレッドが放った。なんだってんだ、畜生

 「御免だぜ。……来ちゃったら、仕方ねーだぜ。でも、明日にしてくれ。準備しとくからさ。良いだぜ?」
 「……明日なら、会えるんだな?」
 「多分。この臭ぇー部屋にもご招待するんだぜ」
 「解った。良いだろう」

 ゼドガンが視線で「良いのか」と訪ねてくる。ゴッチはそっぽ向いた

 良いも悪いも解らないのだ。何がどうなっているのか、解らないのだから

 「兄弟、あんがと。ちょこっと元気出た」

 弱々しい声。ゴッチは何も言えなくなって、踵を返した


――


 娼館の門まで来て、ゴッチは漸く口を開く。ゼドガンと女神官以外にゴッチの背後をついてくる“何か”がいるような気がするが、ゴッチは矢張りこれも無視した。取り合っていられるか

 「名を聞いていなかったな」

 平坦な声をゴッチは出した。正直に言えば、意気消沈していた

 「……ご無礼を。カノートの神官位、タウラを頂いております。シェン・ローダリンと申します」
 「タウラ。毛色の違う神官だな」
 「毛色が違う?」
 「うーむ……、神官の派生と言うか……。教義を広めるのとは別の……、超常の驚異に対抗するための神官戦士だな。ロベリンド護国衆とは全く関係ないが、彼らがより尖ったような連中と考えれば間違いない。ただし、吃驚するほど高位の聖職者である事も事実だ」

 超常の力に対抗、か

 「エクソシストって訳か……。なぁお前、どのくらいの事まで答えられる」

 ゴッチの質問に、シェンは目を伏せる

 「……何一つとして。レッド殿と話していただくしかありませぬ」
 「レッドは」

 ゼドガンが目を瞑りながら言う

 「危ないのか」
 「彼でなければ既に殺されているでしょう」
 「ふん、って事はレッドを殺したい奴が居るのか」
 「生きた人間ではありませぬ」
 「そのようだ。それは感覚で解る」

 だが解せんな。ゼドガンは片目を開いて眉を顰めてみせた

 「そう言った類の力でレッドを追い詰める事の出来る者など居ないと思っていた」
 「……古代の神の一柱です」
 「名は?」
 「そこからは、矢張りレッド殿から聞いていただくしか。話せば、言葉に乗って貴方達にも累が及ぶでしょう。レッド殿はそれを何より危惧していらっしゃる。きっと貴方達に伝える情報を制限する筈です」

 堪えきれなくなってゴッチは吐き捨てる

 「馬鹿が。舐めやがって。下らねぇ、意味のねぇ気遣いしやがって」
 「水臭い奴だ。なぁゴッチ」
 「そうだ、大馬鹿め。……何故俺達に一言でも相談しなかった……」

 ゴッチは転がっていた石を蹴り飛ばす
 それは娼館の壁にぶつかって跳ね返ってきた。自分の背後、視界の外に消えていく石ころ

 背後。そこについてきている何か。レッドを苦しめている物と、無関係ではあるまい

 「俺の背後……。コイツは?」
 「気付いておられましたか」
 「凄ぇ睨んでるな、俺の事を。生臭い息を吐きまくってる。歯磨きの仕方でも教えてやろうか」
 「……捨て置かれなさい。貴方が相手では、子供の悪戯程度の攻撃も出来ないでしょう」

 気に入らねぇ。ぼそりと呟く。直後叫んだ。ゼドガン!

 ゼドガンが巨剣を抜いていた。ゴッチの背後の空間を切り裂き、刀身は地面に減り込む

 気配が消えた。ゼドガンは、額にじっとり汗を浮かばせていた

 「…………余り過敏に反応すると、貴方達も目を付けられますよ」
 「知った口聞いてンじゃねぇ。俺達はお前とは違う。こんなクソッタレの、訳の分からねぇモンに怯えながら、縮こまって生きたりしねぇ。目を付けられる? 上等じゃねぇか」
 「切り捨ててやろう」

 汗を拭いながら、爽やかな表情でゼドガンが付け足した
 シェンは目を細めて笑う。嫌な笑い方だ

 「言っても聞かぬようですな。では、そのようになさいませ」
 「言われなくても好きにするっつーの。一々勘に触る奴だ」

 ゴッチとゼドガンは、捨て台詞を残して娼館を後にした


――


 ゴッチとゼドガンは、次にアロンベルの仮住まいへと殴り込んだ

 エルンストから与えられた屋敷を好き勝手に改造し、倉庫やら鍛冶場やらにしてしまっているらしい。商工会との繋ぎをつけたのは、アロンベルに対し妙に目をかけているホーク・マグダラだ

 それはともかくとして、アロンベルと会うことは出来なかった。留守を預かるアロンベルの家臣の方が、寧ろ困惑顔だった

 「アロンベル様は、ゴッチ殿に会いに行かれた筈です。どうしてもあってお伝えしなければならない事があると」

 壮年の騎士の言葉に、ゴッチとゼドガンは顔を見合わせる
 話とは恐らくレッドの事だ。行き違いになっているのか

 「では、アロンベル殿はゴッチの屋敷に?」
 「そう仰っておられました。朝方の事です。行き違いになり、方々を探し回っておられるのでは無いかと」
 「だ、そうだ。どうするゴッチ?」

 引き上げだ。短く告げて帰ろうとするゴッチに、壮年の騎士は言葉を重ねた

 「……使いを出しましょう。アロンベル様がお戻りになるまで、こちらで休まれては? ミランダローラー殿と、供回りの者も一緒に」

 言うが早いか、壮年の騎士は最寄りの下男を呼び止めて飲み物の用意をするように申し付けた
 ゴッチは首筋に手をやる。また寒気だ

 「俺“と”連れだと……?」
 「おいお前、おい」

 ゴッチに呼ばれて、壮年の騎士は再びこちらに向き直った

 「俺達は何人に見える」

 訝しげな顔をする壮年の騎士。暫しゴッチ達を見て、おや、と眉を跳ね上げる

 「三人分、茶を用意させて居ましたが、供回りの者は帰られたので? 気付きませんでした」

 ぞわ、とした。ついてきてやがる。間違いなく

 事情は読めないが、この分ではアロンベルにも何か起こっているだろう
 ゴッチは大きく息を吸い込むと、すった分をそのまま溜息にして吐き出した

 ゼドガンが、騎士に向かって大真面目な顔で忠告する

 「これは、嫌味や洒落等で言うのではない。そこは解ってくれ」
 「……? ……承りました」
 「お前達の主君の無事を、お前達の信ずる神に祈るが良い。お前達全員でだ」

 騎士は意図を測りかねたようだが、尋常ではない様子のゼドガンに、神妙な態度で頷く

 「……承知。事情は知りませぬが、お二人もお気をつけて」


――


 「ラーラは」

 路地裏の家屋の壁に背中を預けて座り込む女盗賊は、ゴッチの問いに飛び上がり直立不動で答える

 「は、アヴォーシュ様ですか?」
 「……あぁ? なんだ? あヴぉー?」
 「……アヴォーシュです。ラーラ様が、今後自分の役職はそのように呼び表せと」
 「……また妙な事を始めやがって」

 ゼドガンが顎に手をやりながら考え始める
 この男は剣のことしか興味ないように見えて、意外と博識だ。行った先々で、様々な知識を吸収している冒険者だった

 「アヴォーシュ……。古の言葉で、……金色の猛禽……いや、違うな。伝説の鳥の名前だったか……? うーむ……お、そうだ。金色の鳥の羽だか翼だか、若しくは金色の鳥の胸元の羽毛だか、そんな感じの意味だった筈だ」
 「つまり、何だ?」
 「さて、知らん。それよりラーラの居所だ」

 女盗賊は口を引き結んでゴッチから目をそらしている
 まぁ、今更だ。ビビっていようがいまいが、望む情報をくれれば好きにしろ

 「ラーラは何処にいる?」
 「今日はゴッチ様の屋敷に戻られた筈です。」
 「こちらも行き違いか……。ゴッチ、一度戻るか」
 「あれ」

 唐突に、女盗賊が声を挙げた
 自分の腕を目の前にやりながら、なんとも言い難い顔をする

 「急に鳥肌が、す、すいません」

 そういって腕をさすり始める。よく見ると、僅かにだが震えている

 「勘がいいのか鼻が効くのか。ま、運が悪いのは確定だろーな」
 「ど、どういうことで、し、しょうか」
 「無理するな。今日はもう帰れ。しっかり戸締りをして、寝台の中で目と耳を塞いでいろ。明日の朝日が登るまでは、外に出ない方が無難だろうな。まぁ、よー解らんが」

 ゴッチの不気味な命令に寒気を感じたのか、女盗賊は転がるように走り始めた

 その背中を見送りながらゼドガン

 「随分と部下思いだな」
 「ふん、あんな役に立ちそうも無い奴でも、一応隼団の下部組織だ」
 「ん? 奴は隼団ではないのか?」
 「はっはっは、冗談だろ。この大陸の隼団は俺とラーラだけだ。誰でもほいほいファミリーにしてたら、格が下がるぜ」

 そういう物か。呟きながら、ゼドガンは巨剣を抜き放った
 集中して、一振り。どうやらゼドガンの知識には、剣槍が風を断つ音は、邪気を払うとあるらしい


――


 屋敷に戻れば、ラーラが待って居た。ゴッチの私室でロージンと共にゴッチの帰りを待ち侘びていたようだ

 が、ゴッチが部屋に足を踏み入れた途端血相を変えて立ち上がり、言葉を詰まらせる

 全く呑気な事に、ゴッチはラーラのそういう表情を新鮮で、面白く感じてすらいた

 「あ、か……、ボス……」
 「おうアヴォーシュ君。中々小洒落た役職名じゃねぇか。…………どうした、今の洒落だぞ。笑えよ」
 「…………ロージン、席を外せ。今日のボスは……少々厄介だ」

 唐突に言われて、全く訳がわからないのはロージンだ
 表情を一変させたラーラの迫力に押され、何といったら良いか解らないようだった

 「良いからっ。早くジナイの所へ戻れ」
 「ラーラ殿。それは屋敷から出て行けと?」
 「そうだ。こちらから使いを出すまで絶対に戻るなよ」
 「ロージン、悪いな。今日のところはそうしてくれ」

 異様な雰囲気にロージンも気付いた。そしてゴッチが言うのであれば、何時までも食い下がる男ではない

 一礼して部屋を出る。その背中を見送るラーラ。少しの間、沈黙が満ちる

 「……………………今屋敷に居る部下達も、下がらせます。宜しいか」
 「あぁ、そうしろ。面倒見切れねぇからな」
 「何故そんな平然としておられるか! 何に憑かれてきたのです!」
 「おいおい……騒ぐんじゃねぇ。ゼドガンを見ろよ、呑気なモンだろ」

 引き合いにだされたゼドガンは、何時の間にか椅子に座って酒瓶を開けている

 「レッドは?!」
 「レッドは今日は会えない。明日だ」
 「不甲斐ない奴、こんな時に」
 「ラーラ、お前も下がれ。お前みたいな跳ねっ返りなら、“コイツ”も早々手出し出来ねぇだろ」

 ゴッチの言葉にラーラは唸り声で返す
 はしたない応答だった。今までに見たことのないラーラだ

 「私に逃げろと? 馬鹿げたことを」
 「今回お前はノータッチだろ」
 「ノータッチだか何だかどうでも良い事。私を追い出したければ力尽くでやることです。私はボスの傍に居ます」

 その時、耳鳴りがした。ぼそぼそと聞こえ始めた声に、ゴッチは身を固くする

 またぼそぼそ囁きだしやがった。ハエがブンブン飛び回ってるみたいで、クソ忌々しい

 やはりぼそぼそと言う話し声はゴッチに近づいてきて、耳元にまで至る。相変わらずおぞましい何かを呟いている

 その時、ラーラがゴッチの頭を抱いた。同時に全身から白金色の炎を噴き上げる

 耳鳴りが消えた。ぼそぼそと言う話し声も

 ラーラはゼドガンにも同じ処置をする。くるりと向き直って、これは決定事項だとばかりに言い放った

 「私は傍に居ます。今日は寝ては駄目だ。仮眠すら取れないと心得ていただきたい」

 ゴッチとゼドガンは顔を見合わせる

 無言で居ると、ゼドガンが酒盃を投げてよこす

 ゴッチはくっくっくと笑った。偶には呪われてみる物だと思った


――

 後書

 もうすぐなつですね。なつはホラーのきせつですね。

 いやぁ、たのしみだなぁ。

 ハハハこやつめ


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