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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/08 06:05
 ゴッチが、ジッとこちらを見ている。何もかも見下したような嫌な目つきが今はない

 ラーラは両の手を握り締める

 ゴッチ・バベルが言うなれば只管純粋に、直向きに自分を見つめている。正直不気味な物を覚えるが、同時に高揚も感じていた


 明かりも灯さず、窓すら開いていない薄暗い酒場の中に、いるのはゴッチとラーラだけ
 襤褸椅子に腰掛けたゴッチは己の真向かいの椅子にラーラを誘った。素直に席に着くラーラ

 襤褸椅子とつがうのに相応しい、経年劣化で色が剥がれ、傷が目立つ襤褸机には、冷え切った肉を盛った皿が置かれていた
 碌な肉ではなかった。細切れ肉を焼いたあと、香油が何かで臭みを誤魔化しでもしたのか、無駄にギトギトしている

 肉は確かに穀物等と比べて高価ではある。その日の飯にもありつけない者が居る事を思えば、食い物でない等とは言えない。が、とてもジルダウを仕切る男がとるような食事ではなかった

 「……お前は頭は良い癖に、馬鹿な生き方しか出来なさそうだな」
 「今更ですが」

 重々しく語り始めたゴッチに間髪いれずラーラは答える。ラーラにしてみれば、本当に今更な話である

 「誰であろうと、生きたいように生きればよいのです。賢く生きたい奴は、そうしていれば良い。このラーラが思うところと違うだけ」

 ゴッチの顔が「また始まったよ」とでも言いたげな鬱陶しそうな物に変化する
 その反応にラーラは不満を覚える。今のところゴッチ・バベルという男以上に好き勝手生きている者を、ラーラは知らない

 むっつり口を真一文字に引き結んだラーラに構わず、ゴッチは肉の盛られた皿を差し出した
 肉片を、行儀悪く手掴みで口に放り込む。表情を全く変えず

 「美味くもねぇ」

 それだけ言った。ラーラは皿を見詰めるだけで固辞する。空腹なわけではない
 ゴッチは鼻を鳴らした

 「昔の話だ、俺が生まれるよりも。誰も彼もがその日食うメシにすら事欠くような時代に、隼団は生まれた。たったの四人で立ち上げた一家だった」

 沈黙するラーラにゴッチは補足した。ゴッチの故郷であるロベルトマリンでは、普通は餓死する奴より酒精中毒で死ぬ奴の方が何倍も多いんだぜ
 普通じゃなかったって事だ。顔を歪めるラーラ。夢のような国だ

 「隼団最初の四人は皆タフで賢く、能力があった。
 俺の養父である軍人崩れのスーパー・バーニング・ファルコン。
 上司を事故に見せかけて殺害し追放された元警察官ドニーマン・ボーラス
 チャドック・ストリートの乞食から成り上がった密輸人チェイ・ガンスン。
 気に入らねぇギャングのボスに油をぶっ掛けて焼き殺した料理人キティ・ロブマリナー。
 あと、女のヒモやってたすけこましのポン引きが居たが、そいつは因数外だ。
 皆そこいらの奴らとは一線を画す、クールで渋いボス達だったよ。尊敬すべき四人だ」
 「……とんでもない悪党の集団のようですが」
 「ククク……あぁそうだ。中でもキティの姉貴はマジでヤバかった。ガキだった俺でも凄ぇ美人だと思ったし、クールなのに間違いは無かったが、ありゃ完全にイカレてた」

 ラーラは曖昧な返答を避け、頷くに留めた。ゴッチはファミリーの事を語るとき、概ね誇らしげで、自信に満ちている。そしてその活躍の内容は大体正確で、誇張が無い(とレッドが言っていた)
 ゴッチは神を神とも思わない男だ。その性格の苛烈さは言うまでもない
 そのゴッチがヤバイと言うのだ。きっと身の毛もよだつような恐ろしい人物だったのだろう


 ラーラの心境など知らず、ゴッチはもう一度肉に手を伸ばす。無造作に口に放り込むと、暫く黙って咀嚼していた。嚥下し、指を一舐め

 何の意味があるのだろうとラーラは思った。ゴッチが望めばもっといい食い物はいくらでも手に入る。酒だってそうだし、こんな持ち主が夜逃げした閉じた酒場でひっそりと食う必要だって無い

 「四人は団結する時、追い込まれてた。何処の誰も金も食い物も持ってなくて、世の中の皆が切羽詰ってた。そりゃ裏側の人間だって同じだ。金を得るために街の隅から隅までつつき回さなきゃいけない窮状に陥ってた、こっちで言う皮袋の毒のような連中に、四人は目をつけられてたのさ」

 ゴッチは再び皿をラーラへと差し出した
 否が応にも食えと言う事か

 「こんな感じの寂れた酒場でな、酒をぶっ掛けられて一線を越えちまった。絡まれて黙ってる腰抜け達じゃねぇ。ファルコンがナイフを抜いたら、後は一瞬だった」
 「は?」
 「その時肉は御馳走だった。こんなクズみてぇな肉も手に入れるのに苦労する有様だった。侮辱した馬鹿どもを皆殺しにした後の、血の海になった酒場で四人は少ない肉を分けあい、団結した。四人で一家とし、ファミリーを助け、絶対に裏切らない事を誓った。今はもうファルコン以外は死んじまったが、三人とも死ぬまでファミリーに忠実だった。完璧に」

 ラーラは皿を見下ろした。何度見直したところで不味そうな肉であることに変わりはなかった

 手掴みで、ゴッチがしたように口に放り込む。普段のラーラなら絶対にしない、行儀のなっていない行いだ

 変な匂いがした。美味ではない、どころではなく、不味い。香油のせいでぬちゃぬちゃと不快な食感である

 それで良い、とゴッチは笑う
 握りしめていた左手をラーラの前で開く。ゴッチがカポになる前につけていた隼団のエンブレムが襤褸机の上に転がり落ちる

 ゴッチは何も言わなかったが、ラーラはそれを拾い上げた。ゴッチに習って指を一舐めしてローブで拭うと、鎖骨の辺りの目立つ位置に取り付ける

 「恐れ知らずな女なのは知ってた。が、コレはちょいと行き過ぎだな」
 「私が何も考えずこの紋章を受けたとお思いか」

 ラーラはエンブレムを撫でる。長年ゴッチのスーツに輝き続けた物だ。真新しい光沢は無い
 しかしその鈍い光が自分によく馴染む。ラーラは上機嫌になり、より饒舌になった

 「ボスは優れた人格者と言う訳ではありません。えぇ、到底」
 「ケ、良いだろう、言わせてやる。無礼講だ」
 「が、魔術師としての貴方は十分です。恐れないし、阿らない。力を振るうのにも躊躇しない。貴方は見ていて気分が良い」

 だから、貴方の命令には概ね従えるのです
 大きく溜息を吐くゴッチ。疲れた様子を隠そうともせず米神を揉みほぐす

 「ボスこそ、何故私に? 私は貴方に大いに歯向かいました」
 「なんとなくだよ」
 「……ボス、私は貴方の事が大いに気に入っています。ラグランへ行くのが確かに目的ですが、今は最早それだけではないのです。ボスは全く酷い人で、自分でも不思議だと思いますが、私と貴方は似ているとすら思うのです」

 勝手に言い切ってからラーラはうむ、と満足げに頷いた。ゴッチは更に大きな溜息吐く

 恥ずかしい事を平然と言い切りやがって、この上俺にまで何か恥ずかしい事を言えというのか

 幾ら睨みつけても平然としているラーラに、とうとうゴッチも降参した

 「逆に聞くが」
 「は?」
 「俺を完全に逆上させて尚意見できる奴が、お前の他に居るか?」

 元気良くラーラは応答した。非常に上機嫌で、満足そうであった

 服従の掟を知りながらしかし死を恐れずゴッチに立ち向かってくる女
 ゴッチから逃げず、裏切るわけでもなく、其処に居直って轟然とゴッチを叱責する女

 こういう奴は、そう居ない。ラーラがゴッチに思うようにゴッチもラーラの事を気に入っている


――


 ゴッチとラーラが机を挟んで向かい合うのと同じ時、カザンとオーフェスも同じように向かい合っていた

 「カザン将軍、よくやってくれたね」
 「いえ、これが必要な事だったのならば」
 「あの雷の魔術師殿のやんちゃで大騒ぎになっちまったけれど、最低限の目的は達した。本当に心から礼を言うよ」

 カザンに何度も何度も礼を言うオーフェスは、状況を手放しで喜んでいる訳ではなかった

 オーフェスは武器を振るう人間ではない。でも、戦士の心を全く理解できないかと言われたら、違う

 オーフェスは黙って机に頭をつけた。カザンは慌てて立ち上がる

 「オーフェス殿、お止め下さい」
 「カザン将軍、私は武器は持てないが、その分頭を使ってエルンスト様に仕えてきた。常に熟慮し、僅か一隊の配置、僅か一人の間者の用い方にも心を砕いてきた」
 「存じております。オーフェス殿以上にエルンスト様の信を得る者が居ましょうか」

 オーフェスは頭を上げない

 「だから、それ一つに命を懸けると言う気持ちは解るんだよ。この読みが外れたら死ぬ、この策をしくじれば死ぬ、そういう覚悟でやってきた。本気の盤面戦で負ければ身が捩じ切れる程悔しいし、取り返しの効かない失策をする度に自責の念でたまらなくなる」

 エルンスト軍中で

 この小柄な老女を侮る者は、誰一人として居ない。エルンスト一の臣下であり、軍師の筆頭である、と言う以上の理由がある

 オーフェスは何時でも死ねる。実際に死ぬのは全ての策と備えが打ち破られた本当に最後の最後、エルンストの死ぬ手前ぐらいであろうが、少なくともその準備をしている

 その覚悟が、軍議で、練兵場で、エルンストの傍で、静かに佇んでいるオーフェスから発せられている

 だからだ

 「この婆にとっての脳味噌と舌が、将軍にとっての武技であり、馬術なんだろ。解ってるんだ、わたしゃ。解っているのに、カザン将軍に頼んだ。済まない、済まないね、カザン将軍」

 カザンは言葉を詰まらせた。全て受け入れ、消化した後だった。カザンにとってはもう終わったことだったのだ

 世界はすんなり丸く収まるような事ばかりではない。この人は何時も憎まれ役だな

 「オーフェス殿の謝罪を受け取らせていただきます。が、恨んでなどおりません。……上手くは言えませんが。所詮自分は、アナリアを叩ければそれでよいのです。それだけです、オーフェス殿」
 「将軍も、思ったより口下手だねぇ」

 冗談めかして笑いながらオーフェスは漸く顔を上げた
 これ幸いとカザンは頭を下げ、退出の許可も得ず強引に場を辞す

 扉の向こうに消えるカザンの後ろ姿を見送りながら、オーフェスは頭を掻いた

 「矢張り、陰気だねぇ。わたしもアラドアの石頭の事は声を大にして責め立ててやりたいが」

 カノート神殿の不祥事ともなれば国の大事だ。下手につつく訳にはいかないし、カザン将軍の話だけであれこれ出来るわけでもない

 「女で落ち込んだ時は、女に慰めてもらうのが一番だ…………。よし、一つ骨を折るかの」


 ジルダウに仮設されたエルンストの屋敷を出ると、ニルノアがカザンを待ち構えていた

 手に剣を捧げ持っている。見まごうはずもない、ヨルドの剣だ。執務卓に放置したのを見つけたのか

 「どうしたニルノア」
 「昨日はベルカに邪魔されてお話を伺えませんでしたので、こうして待ち伏せておりました」
 「ふ、ベルカか」

 剣の話はしたくなかった。ベルカはそれを察し、ニルノアはそれを察して尚我慢が出来なかったのだろう

 「よき剣であります! 何故これを用いられなかったのか」
 「俺が恥知らずな男だからだよ」

 じわ、とニルノアの瞳に涙が滲んできた

 直情的な女だ。御前試合でカザンが敗北した時の悔しさが蘇ってきたのだろう

 「私はもう、悔しくて、悔しくて。私とベルカは将軍の両碗でありますのに、将軍は何一つ言ってくださらず」
 「お前達に頼めることが、真実何も無かったのだ。許せ」
 「ならば八つ当たりの一つでもしてくださればよかったのです! この馬鹿者、不思慮者と、将軍のお力になれぬ我らの不甲斐なさを責めてくだされば、その御心を軽くするお手伝いぐらいは出来た物を!」

 カザンは眉間に皺を寄せた。ニルノアという女を、正当に評価出来ていなかった。その実よりも軽く見ていたようだ
 ニルノアは確かにカザンの敗北が悔しかったが、それ以上に己の不甲斐なさに怒りを覚えたのだ。何度も言うようだが、直情的な女だ。その献身故に、怒りを高めてしまったのだろう

 うっとうしいぞ、馬鹿者
 そんな直向きな目を、向けるな

 カザンにも、若さ故の照れがある

 「贔屓の鍛冶屋と何かあったのですか?」
 「ニルノア、練兵へ向かうぞ。ついてこい」

 ニルノアの横をすり抜ける。ニルノアは意外にも黙って背後に従った

 暫く沈黙が続く。それを破ったのは、矢張りニルノアだ

 「……将軍、我々がおります! このニルノアとベルカが、ネスやウルガがおります!」
 「ニルノア、騒ぐな。周りの者が見ている」
 「我々に何でもお命じください! 生憎ニルノアは鍛冶の心得がありませんので、暫く修行致します!」

 カザンは吹き出した。ここまで面白い女も、そうは居ないだろう

 「ニルノア、私は良い部下を持った」
 「は……はッ! 同じ気持ちです! 癪ではありますが、ベルカは有能です!」
 「あぁ、そのベルカを迎えに行くか」

 くっくと笑うカザンの後ろを、鯱張ったニルノアがついていく

 ゴッチと言い、ニルノア達と言い
 俺は、恵まれているな。分不相応だ

 カザンの気持ちはすっかり解けていた


――


 ユーゼはシュランジの者達にとって玉である。金銀財宝など、どれ程積まれても替えられぬ人物である

 幼い頃より学ぶべき物全てに対し真摯に取り組んできた。立派な人物へと成長を果たそうとしている

 そのユーゼを育み、時には手本となり、時には手ずから物を教えた父、カッセオ・シュランジ

 これが、少なくとも凡庸な人物である筈は無かった。少なくともユーゼだけは、今でもそう思っていた


 天幕の中、粗末な椅子に腰掛け、肩を落とす壮年の男
 シュランジの紋章が施された直垂と共に覇気を失った男、カッセオ・シュランジは、息子を待っていた

 程なくして待ち人は現れる。親子が向かい合うと、よく似ているが如実に解る

 頑固そうな所、朴訥そうな所、細かくは割愛するが、本当によく似ていた

 「父上、お疲れ様で御座いました。これより先は、ごゆるりとお休みください」

 数日前までカッセオの背にあったシュランジの紋章は、今はユーゼの背にある

 カッセオの胸に、党首の座を追われた憎しみは一欠片として無かった。これは本当だ
 強く成長した息子が己の跡を継ぐ。時代の移り変わりの為、或いは己が屍を晒した為、色々な可能性を考えていた

 ユーゼが輝いて見えた。手塩に掛けて育てた息子。俺の宝よ
 憎いわけが、あるものか。しかし、こんな形にはしたくなかった

 「ユーゼよ。自らを焼き尽くしたくなるような、そんな酷い負け方をしたようだな」
 「これが、党首という物と、理解しております」
 「これから先はもっと辛かろう」
 「それがシュランジの宿命ならば」

 生真面目で潔癖なだけであったこの子が、変わる事を余儀なくされている
 己のせいだ。これから先もっと汚い物を見て、もっと酷い事をするだろう。この子は。己のせいだ

 カッセオはユーゼを抱き締めた。何時の間にか背丈は自分を追い越し、胸板は自分より厚くなっていた

 今剣を合わせれば五合と持つまい。カッセオ・シュランジは衰えた

 それを自覚して、カッセオはより強くユーゼを抱き締める

 この馬鹿親父を許してくれ

 「そんな良いもんじゃ無いぞ、うちの党首なんて……!」

 カッセオは泣いた
 ユーゼは抱き締め返す。家臣達の前で、如何に父の事を悪し様に言ってのけようと
 ユーゼはカッセオの事を知っているのだ

 知って、居るのだ

 「馬鹿息子……! 女房と力を合わせて、上手くやれよ……!」
 「……はっ」

 ユーゼは目に力をこめた

 俺は泣かぬ。泣かぬぞ


――


 夕闇に紛れるようにしてイノンは発つ。彼女を見詰めるラーラの視線は厳しい物だった

 すっきりしない物を感じながらも、これで良いのだと自分を納得させていた
 青白い顔で唇を噛み締めるイノンの頬に、そっと手の甲で触れる。嘗てゴッチがしたように

 「イノン、もう娼婦などしなくて良い。別の何かを探せ。何をしたって良い。商いを始めても良いし、何処かの下働きになったって良い。それらに生き甲斐を感じられなければ、働かなくたって良いだろう。我々が庇護しよう。日々をひっそりと生き、戦乱が過ぎ去るのを待つも良し。一念発起して何かを学ぶのも良いだろう。歴史など、私は勧める」

 イノンは震えていた。今にも泣き出しそうであったが、それはラーラが禁じていた

 泣くのは許さない。イノンの事に関し、ラーラは厳しい。ゴッチにだって猛然と食い下がったが、それはイノンに対しても同じだった

 お前が捨身になってゴッチを受け入れなかったから、もうゴッチの傍には居られない。そう言ってイノンを責めた。結局この白金色の炎の魔術師は、ゴッチにもイノンにも厳しかったのである

 「偉いぞ、イノン」

 子供をあやすような言い方だった。辛うじて涙を堪えるイノンは間違いなくラーラよりも年上だが、そんな事を鑑みるラーラではなかった

 イノンが顔を上げる。無理な笑みを浮かべていた

 「……私なんかに、何か意味のある事が出来るかしら」
 「古来より、意味を持つ物などこの世に何一つ……いや、止すか。気にしなくて良いのだそんな事。思うように生きてみるが良い。ボスの事など忘れてしまえ。あんな酷い男の事は」

 ラーラは両手でイノンの頬に触れた。顎を持ち上げさせ、鼻先が触れそうな程の距離で真直ぐ見つめ合う
 甘い花の香りがする。成程、可愛いだけの、女だな。皮肉げにラーラは笑った

 「……ゴッチ様の事」
 「もうお前は我々の同胞では無い。ボスの敬称は必要ない」
 「…………ゴッチの、事……。お願いします。私は祈っているから」
 「祈る……?」
 「ジルダウに居る間、レッド様が教えてくれたの。私は祈る力があるって。大昔から変わらない、人を励ますための声無き声で、自分と同じ才能だって」
 「……レッドらしい、良く解らない物言いだ。……だがまぁ、レッドがそう言うのならば何らかの力があるのだろう」

 ラーラはうむ、と頷いてイノンに背を向けた。これ以上イノンに触れていると、花の香に呑まれてしまいそうだった

 最早会う事もあるまい。別れる前に、一つ聞いておこうと思ったのは好奇心故である

 「……ボスは恐ろしかったか? 本当は、心の底では、お前はこんな事にならないと思っていた。お前は……いつか私達を許容出来ると思っていた……」

 視線もやらずに尋ねる
 自分で言っておきながら、ラーラは羞恥を感じていた。自分が弱音を吐いてしまった気がした

 前からこうなのだ。ゴッチやイノン、ダージリンが相手だと自分は言動がおかしくなる

 イノンはたっぷりと間を置いてから答える。何故か息は早く、荒くなっていた
 カチカチと鳴っているのは、歯だろうか

 「もう、居ない人に見えたの」
 「……そうか、面倒そうだ。それ以上はいい」
 「そんな訳ないのに、私は本当に馬鹿だわ」

 さらば、と短く言い捨ててラーラは立ち去る。イノンは俯いていて、その背を送ることはなかった

 暫くし、ゆっくりと踵を返す。ジルダウの防壁に背を向ける
 漸く歩き出そうとして、出来なかった。イノンは足を縺れさせて崩れ込み、そのまま立ち上がらない

 ぼろぼろ涙を零す。ラーラが居なくなって、初めて泣けた
 右腕を血が出るほどに噛み締めて、声を殺す。そうでもしていなければ、泣き言が無限に出てきてしまう

 「……! ……っ!」

 自分に何か一言でも言う資格があるか。ゴッチに縋る資格があるか
 激しい自己嫌悪。自分を罵倒する言葉なら幾らでも出てくる。私は薄汚れた鼠以下の女だ。そしてまた、泣く

 乾いた風が、乾いた砂を巻き上げる。遠方の草原の青い香りを含ませながら、イノンの体を打ち据え、走り抜けていく

 ミランダでのごく短い日々。今にして思えば本当に僅かな時間だった
 その僅かな時間で吃驚するほど惹かれた。ゴッチは警戒深く、少しも自分の事を語ろうとはしなかったし、イノンの事など本当はどうでもいいのだとでも言うように振舞った

 だが、ゴッチはハッキリと自分の心に触れたと、イノンは思う。それがどういう事なのか具体的には言い表せない。ヌージェン辺りに言わせれば、自分に都合のよい夢を見たのだと、そういうことになるだろう

 だがイノンはその時、少しも躊躇わなかった。ゴッチに心の全てを丸ごと飴玉のようにしゃぶられて、太い腕と逞しい胸板にすっかり包まれて

 ゴッチに無限に愛された気がした。ゴッチに全て受け入れられた気がした

 なのに

 イノンの頭の中はバラバラだった。このまま体も引きちぎれてしまえば良いのに、とイノンの“何処か”が考える

 叫んだ

 ゴッチ


 ラーラは立ち去ってなど居なかった。岩陰に腰を下ろし、右膝を抱えて目を閉じている
 叫びが聞こえた。一つ頷く。イノンとの何かが、言うなれば繋がりのような物が完全に断ち切られた気がした

 傍に控える部下に厳しい声音で言う

 「これから毎月あの女に金を送る。手配はお前に任せよう。だが、破落戸にも守るべき掟はあろう、少しでもくすねようなどとは思うなよ。……その時はお前を粛清し、死ぬ前に殺してくれと懇願させてやる。このラーラの名にかけてな」

 部下は引き攣った顔で頷いた

 ラーラは空を見上げた。自然と溜息が出る
 すっきりしたような、そうでもないような

 土を握り締めていた。何処かやるせない

 「……本当に、……哀れな女だ」

 だがこれで良かったのだろう


――

 後書

 なくても良い回

 ……だが、俺の気分によってもうちょっと足すかも。

 こう、その、なんと言うか
 無理やりにでも、「イイハナシダナー」みたいな感じに持っていく練習としておこう。

 2012.2.23ちょいと追加


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