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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ33 男二人 8
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/02 22:49

 屋敷の中庭でレッドが歌っていた。もの悲しげな歌であった

 何時も肌身離さず、時には相手を殴り倒すのにすら使うカスタムエレキではなく、神秘的な鳶色で周囲の空気すら染めるクラシックなアコースティック

 切なげな音が響く

 「友よ。私は忘れないだろう。君の愛した土と水。スジャタルカの黄金の畑よ。美しい女神の口付け一つ。喜びに水面は震える」

 赤らんだ顔でゼドガンが聞いている。酒だけではない。レッドが真っ赤な花のように色付いた唇から放つ一語一語が、ゼドガンの心を震わせる

 「故郷よ。友らを顧みず、土と水を捨てた私を包んでくれる優しい家々よ。寒々しい感謝の言葉を私は吐かない。ただ地に伏せるのだ。厳かで温かい大地の冷たさを私は頬に感じ、涙が溢れるのを止められずに居る」

 美しい歌だ。とゼドガンは称えた。意識の外側で、屋敷の門を破る荒々しい気配を感じている

 ゴッチが帰ったか。と周囲を見遣れば、ごろつきどもが慌てて駆け出していくのが見えた

 「なぁ、レッドよ。何故屋敷に戻ったのだ?」

 訪ねるゼドガンに構わずアコースティックを爪弾き、したり顔で微笑むレッド

 ゴッチが現れる。レッドとゼドガンに一瞬視線を遣ると、気にもせず椅子に座り、ゼドガンが今まで傾けていた酒杯を手に取った

 「どうした、食い倒れツアーに行ったんじゃなかったのか?」

 ゴッチは行儀悪く机の上に足を投げ出す

 「そりゃ兄弟も一緒に行こうと思ってんだぜ」
 「…………お前ら二人で行けよ。気分じゃねぇ」
 「そう言うと思った」
 「あぁ?」

 アコースティックの音が止まる。レッドが目を細めている
 ゴッチは顔を伏せた。無性に情けなくて、しかもレッドにそれを見透かされている気がする

何もかも承知しているとでも言いたげな表情だ
 でも、兄弟がそれで良いなら、良いんじゃない。そんな表情だ

 何時もは馬鹿の癖に。今のレッドは何もかも知っていて、ゴッチの、ゴッチ自身ですら知らない心の裏側を覗き込んでいる。そんな気がする

 「なんか兄弟が俺に構って欲しがってる気がしたんだよなぁ!」
 「馬鹿抜かせ」

 ゴッチが杯を干そうとする。ゼドガン横からそれをさっと奪い返す
 代わりに布の包みを投げた。中から出てきた焼き菓子に、ゴッチは眉を顰める

 「それをやろう」
 「ゼドガン……おい……」
 「だがこの酒は俺の物だ。ハハ。……なぁゴッチ」

 ゼドガンは立ち上がり、巨剣に手を添えた
 静かな目、静かな佇まい。何時ものゼドガンである

 「餓えた目付きをしているぞ。この俺が相手ならば腹も脹れるのではないか?」
 「何言ってんだお前」
 「と、思ったが、今のお前にはより似合いの敵が居るとレッドがな」
 「あぁ? ……さっきから手前ら二人して、俺をからかってんのか?」

 ひょい、と背を向けるゼドガン。掴み所のない男で、それは何時もだ。だがゴッチと付き合うようになってからは度を越した気分屋になった気がする。伊達や酔狂で日々過ごしているのかと思う程だ

 ゴッチは胡散臭く笑うゼドガンと……レッドを睨む
 何時から占い師に転職したんだと言えば、レッドは口笛一つ、カラカラ笑い声を上げて誤魔化した

 「カザンが戦ってんだって!」
 「……御前試合か」

 表面上は興味なさげなゴッチに、レッドは余裕たっぷりの顔で微笑む

 カザンって難しい事言うよなぁ

 実感の込められたレッドの言葉にゴッチは頷く。唐突な一言だったが、その通りだった
 カザンの言う事はいつも小賢しくて、遠回りで、不自由だ

 「何で生きて、何で戦い、何で傷付くのか」

 以前カザンがゴッチに向かって打った説教だ。確かにレッドにはこの話をした
 だが、カザンの言葉を一言一句違わず教えた覚えはない

 「そんな風に話したか?」
 「実はシックスセンスが磨かれて、兄弟の事なら何でも解るようになったんだぜ! 俺達相性良いらしくて」

 ゴッチは左腕を擦った。鳥肌が立っている

 「お前見ろこれ、鳥肌立っちまったじゃねぇか!」
 「酷ぇ! そんな事いっちゃう!」
 「……俺は葉巻の方がカザンの百倍は好きだぜ」
 「『兄弟のくれた葉巻が』って事だぜ?」

 ゴッチが焼き菓子を一口齧って、残りをレッドに投げつける
 レッドは何故かにっこり笑顔になった。ゼドガンがレッドとゴッチの間で視線を行ったり来たりさせる

 「『おぉスジャタルカよ。一欠けらの食物を私は兄弟と分かち合う』」

 朗々と歌うゼドガン。ゴッチは脅かされた梟のような顔をした
 背筋がゾワっとする。鳥肌が広がってしまった

 「俺は葉巻が好きだったが、今葉巻の事は完全に忘れた。焼き菓子もな」
 「じゃぁカザンだなぁー」
 「俺の屋敷には葉巻か焼き菓子かカザンしかねーのか」

 ゼドガンが悪戯っぽく笑って茶々を入れ始める

 「女も居たろう。アレはどうした? ラーラや、何時の間にか椅子に座って茶を飲んでる氷の魔術師殿以外に、好き勝手自由にお前の寝室に入れる娼婦だよ」
 「…………俺の“ナニ”じゃ大きすぎるんだとよ。泣いて故郷に帰りやがった」
 「ハハハハ、嘘を吐け」
 「嘘じゃねェ。……見るか?」
 「骨抜きだったんじゃぁないのか、あの娘は。そうでなかったとすれば大きすぎの逆だったのだろう」

 ゴッチはベルトに手を掛ける

 「ゼドガン、お前も脱げよ。三つ数えてやる」
 「おぉ、受けて立とう。準備しろレッド」
 「じゃおぉぉ?」

 ゼドガンはレッドにデコピンを食らわせた。何がじゃおぉぉ、だ
 レッドがやれやれと肩を竦める。レッドには似合わない仕草である

 「兄弟、ゼドガァーン、やるのは良いが、強い奴には従えってんだぜ?」
 「抜かせ。俺の半分でもあったら、ロベルトマリンアノーラストリートの一番良い店を奢ってやる」
 「うひょー! じゃぁ“トゥーハンドラー”だ! あそこっきゃない! 一等綺麗なレディパンサーに御酌して貰うだぜ!」
 「一昔前は気にしなかったが、どうやら俺のはミランダの男衆の中では断トツらしくてな。後悔するなよポンコツ兄弟」

 お喋りはここらで良いか? とゴッチ

 「3……2……1……」

 0!

 ゴッチとゼドガンが沈黙する。ひゅぅーと口笛を吹きながら、両手をピストルの形にして天にかざすレッド

 「あっはっはっはぁー、まぁこんなモンさ! さーカザンを見に行くんだぜ!」
 「…………こいつ……見かけによらず……」
 「……ふ」

 屈辱に肩を震わせ、ゴッチとゼドガンは同時に踵を返す。その背にレッドが体当たりしてきた

 「おいコラ!」

 ゴッチの怒声もなんのその、レッドは身も軽く飛び上がり無理矢理ゼドガンに肩車させる
 次いで、身体を倒してゴッチと肩を組むのだ

 喧しい子犬のような奴だ

 果たして子犬は歯茎剥き出しに怒るゴッチを少しも恐れず、のうのうと言ってのける

 「兄弟。カザンなら解ってくれるんじゃないかなぁ」

 ふわっと微笑む紅色の唇に、思わず視線が吸い寄せられた
 不思議な言葉を操る。この男の言葉は、何故か妙に耳になじむ

 黙ってしまったゴッチの代わりにゼドガンがぼそりと言った

 「おい……止めろ。……俺の後頭部に……お前の物を擦り付けるんじゃぁ無い」
 「人を変態みたいに言うんじゃねーだぜ!!」


――


 何故自分が立っていられるのかユーゼには解らない。カザンの剣、それ程常軌を逸した強さであった

 揺れる視界の先でカザンが構えを正している。どうやら自分の呼吸は酷く乱れているようなのだが、その感覚が無かった

 肉体が一切の苦しさを感じていない。心なしか耳も遠い気がする
 今此処に居る実感が無かった。自分は白昼夢を見ているのかも知れないと、ユーゼは思った

 「互角だ! 若様! お見事に!」

 家臣の声が聞こえた。ような気がした
 それを意識すると、矢張り耳は遠かったが、群衆のざわめきが聞こえだす
 自分の荒い息の音。がりがり、と鎧の擦れる音が聞こえだす

 「(互角? そう見えるのか、俺と彼は)」

 互角などでは、断じてない

 「(剣先が揺れ……)」

 カザンが踏み出す。大きく一歩。身体が伏せるように下がっている。突きだ
 籠手で打ち払う。逸れた切先は踊る様に回転し引き戻された。再び突き

 その時にはユーゼも切り込んでいた。上段。相打ち覚悟の斬り下し

 カザンの剣はユーゼの鎧の脇腹を撫でてすり抜けた。ユーゼの斬り下しもカザンの体を捉えられない
 懐に潜り込まれている。ユーゼは振り下ろした右腕が下からの衝撃で震えるのを感じた

 今にして思えば、早々に盾を捨ててしまったのは悪手であった

 身を引きながら身体を振り回す。一回転しての横薙ぎ
 それはカザンの鼻先を掠め、その踏込を押し留めた。体を回した一瞬で、よくぞ滅多打ちにされなかった物だとユーゼは思った

 カザンが構えを正す。仕切り直し
 ユーゼも背筋を伸ばし、腋を広げて剣を一振りした。絞る様に柄を握り直す

 「(何故だ、カザン将軍)」

 何故、俺を打ち据えない。侮辱するのか、ユーゼ・シュランジを

 御前試合でなければ、エルンストが照覧していなければ、ユーゼは叫び声を上げたかもしれない
 積んだ年嵩もシュランジを継ぐ者としての立場も放り捨て、無分別に叫び声を上げたかもしれない

 打てた筈だ、カロンハザンならば

 「(何故手加減する)」

 老軍師オーフェスの顔が脳裏を過る
 考えられるのは、これしかない

 悲鳴を気勢に変え、ユーゼは吠えた


 「(何故そうも、湖面のような静かな瞳で居られるのか)」


――


 キューリィとジョノはアシラッドを宥めるのに苦心していた

 「こんなに馬鹿な事は無い」

 腰までの高さしかない木板は、乗り越えようと思えば簡単に乗り越えられる。そうなったら十歩走ればカザンとユーゼの試合に乱入出来るだろう

 その木板をぎりぎりと握り締めるアシラッドの後ろで、キューリィとジョノは辟易しているのだ。何時もだらだらしているこの殺人狂が試合に乱入しようとしたら、何としてでも止めなければならなかった

 しかしそれ以前に、この変態が何故こうも怒っているのかが解らない

 「エルンスト様はぁ、見世物を楽しむためにこれを組んだんですかぁねぇ」
 「そういう物だろう」

 やれやれと肩を竦めてキューリィ

 「解る奴には解るんですよぅ。だからアンタ達は駄目なんです。ルーク君やジャウが此処に居たら、私と同じことを言ったでしょう」

 キューリィはジョノを見遣った。ルークとジャウは、今ジルダウの街で起きている騒動を収拾するためにホークに駆り出されている。ジョノは顎を撫で摩りながら、きっぱりと言う

 「俺を見るな。さっぱり解らん。どちらも凄まじい腕前だと思うが」
 「よく見なさい。……ユーゼ・シュランジのあの可哀想な様。今にも泣きだしそうじゃぁありませんか。エルンスト様も惨いお方だぁ」

 アシラッドが何を言っているのか、キューリィとジョノには解らない

 ただ、ぼそりと洩らすアシラッドの姿には、寒気すら覚えた

 「私はぁ、見損ないましたよ。カザン将軍の事」


――


 ゴッチの握りしめた手摺がみしみしと音を立てて圧し曲がっていく。上手く言葉に出来ない、言いようのない怒りで全身が硬直し、肩には力がこもり、筋肉が盛り上がる

 眼下の試合場では、多くの者達の予想に反してカザンとユーゼが互角に打ち合っている。ともすれば、カザンが危うい事すらある

 こんな訳が無い。あの小憎らしい二枚目はべらぼうに強いのだ。こんな訳がない。

 怒りの理由は自分でもよく解らない。カザンが負けたとしても、ゴッチは何一つ困らない

 だと言うのに、この腹立たしさ。何故だ。二重の意味で洩らしたそれは、最早唸り声だった

 「動きが妙だ。カロンハザン将軍は……考えたくも無い話だが、手を抜いているようだな……」

 言いながらゼドガンはゴッチの肩を軽く叩いた
 強さを信奉する男が今、その強さを欺く行為にハッキリと怒りを示している

 自分には全く関係ない話であろうに、コイツはこういう男であるな。何時もより表情豊かなゼドガン

 「……まぁ、彼なりの処世術と言う奴なんだろう」

 カザンを擁護するような響きを持ったゼドガンの言葉は、ゴッチの怒りの炎に油を注いだ

 処世術。食い縛った歯が耳障りに鳴る

 「カザンは、強いんじゃァねぇのか」

 ゴッチの頭の中を無意味な言葉がぐるぐる回った


 俺は隼団だ。逆らう奴は痛めつけるし、敵なら殺す。そしてイノンは離れて行った

 「カザンは、俺とは違うんじゃァねぇのか」

 お前は強いんじゃァねぇのか。最高の騎士なんじゃァねぇのか

 どうしてなんだカザン。どうして俺はこんなに悔しいんだ

 八つ当たりしてぇ

 「レッド! こんな糞くだらねぇモンが、お前の見たかったモンか?!」

 レッドはニヤニヤしながらまるで恐れもせずに言った

 「兄弟、兄弟なら、カザンの事解ってやれねぇかなぁ」

 言ってることが変わってんじゃねェかボケ


――


 「剣があれば勝ったか? カザン」

 エルンストの問いに、跪いたカザンは顔を上げぬまま応える

 「ユーゼ殿は優れた使い手でいらっしゃる。私は敗けるべくして敗けました」
 「実戦で剣を失えば死ぬぞカザン!」

 一喝しながらもエルンストは、何故か笑顔であった

 「例え無手でも戦います。命ある限り」
 「ならばよーし!」

 カザンは敗北した。ある時から、カザンは一気呵成に猛然と攻めかかりユーゼを完全に押し込んだ
 が、その最中にカザンの剣は半ばから折れ飛んだのである

 武器を失えば敗北である。そしてカザンの剣は、カザンの力についていけなかった。見ている誰もがそう思った。エルンストもだ

 だがユーゼはそうは思わなかった。折れた剣は断面が妙に綺麗で、破片も全く出ていない。事前に細工がしてあったのだろう
 折れたのではない。カザンは、折らせたのだ。ユーゼにはそうとしか思えなかった。オーフェスの困ったような面白がっているような顔がちらつく

 そんなユーゼに声を与えるエルンストはカザンが敗けたと言うのに全く上機嫌である。エルンストは名剣の他に、勇者が好きであった

 「ユーゼ殿! 素晴らしい試合であった。シュランジの騎士達の勇猛さにも頷ける」

 称賛の言葉にも、ユーゼは黙して応えない。エルンストははて、と首を傾げた
 カザンが小さな声でユーゼに呼び掛ける

 「ユーゼ殿。エルンスト様が呼んでおられます」

 ユーゼが同じように、小さくか細い声で言った

 「黙れ」

 当然だな、とカザンは思った

 手加減の上小細工までされて勝利を譲られたのだ。しかもそれを盟主エルンストに称えられる
 エルンストの面子、軍団の権威、シュランジ家の進退を思えば、何もかもぶちまけてこの場から去る事も出来ない

 武門であるとか、シュランジ家であるとか、それらを鑑みて重要視するべき事を抜きにして

 ユーゼに取って、どれ程の屈辱であるか

 「(俺は、害悪をばら撒いているな)」

 最早自嘲すら出てこないカザン。のそり、とユーゼが立ち上がる

 「晴れの舞台に、全くお恥ずかしいばかりの武技をお目に掛けました」

 エルンストの傍に控えていたオーフェスがちょっと困った顔になる

 危うい発言であった。対戦相手のカザンと、ユーゼを称賛したエルンストを貶める言葉とも取れる
 その程度の事を考えられない男ではない。拗ねておるな。オーフェスは、うーむと唸るエルンストに素早く進言した

 「ユーゼ様は実直で、何かを誤魔化すだとか誰かの尻馬に乗るだとかが大嫌いなお方です。あのような勝ち方では納得いかないのでしょう。ここは一つ、陰気を笑いで吹き飛ばして差し上げるべきかと」

 エルンストがニコリと微笑むのを見て、オーフェスは会心の茶々入れであった事を確信した
 ユーゼの気性は全くエルンスト好みだ。この二人は上手く噛み合う

 エルンストはオーフェスの言に従って、呵呵大笑した

 「騎士ども、兵ども! ラウの勇者を讃えよ! ユーゼ・シュランジが全く恥入るべき所の無い勇者であると思う者は、剣を掲げよ!」

 幾つもの雄叫び、幾つもの鞘鳴り
 夕暮れの太陽を突くようにして、剣や槍が掲げられる

 「と、彼らは言っているが、どうだユーゼ殿!」

 それに応えて立ち上がるユーゼは疲れ果てた顔をしていた

 「カザン殿、貴公にも事情があったのだろう」

 カザンは沈黙する事しか出来ない

 「もう良いのだ……戦神ラウは戦いの場では真実しかお許しにならないと聞く。……貴公のそれが卑しき謀り故か、忠誠故からは知らぬが、是非はラウが決めて下さるだろう」

 先程までの陰気を振り払い、ユーゼは剣を掲げる。勇ましい立ち姿に、特に彼らの家臣たちが飛び上がって喜んだ

 「オースタン、旗、掲げぃ!!」

 花道に何本ものシュランジの紋章と軍旗が掲げられ、交差する。ユーゼは剣を納め、威風堂々その下を歩いた

 歓声が上がる。ユーゼは前だけを睨み付けている


――


 ゴッチは手摺の上に上って仁王立ちした
 すると、只でさえ目立つ男だ。それが余計に目立つ事をしているのだから、皆直ぐそれに気付く

 カザンも、カザンに退場を促そうとしていたエルンストもそれに気付いた

 「おう! 支配人殿ではないか! お前の席を用意しておったのに、何故そんなところに居る!」

 カザンはゴッチの顔を一目見て、危険だなと感じた

 「(怒りと悪意を感じる。ゴッチ・バベル……)」

 何も言うな、カザンは拳を握り締める

 俺の心を汲めよ、ゴッチ。お前が何に怒っているか俺は解る
 ならばお前に俺の心は解らんか

 カザンの涼しげな表情に、胸中の事は微塵も出ていない

 ここで素頓狂な事を言い出したのは、異様な気配を放つゴッチも、地面を見つめて微動だにしないカザンも、こりゃ不味い事になったという表情を隠しもしないオーフェスも、まるっと気にしないエルンストだ

 「よし、ゴッチ! 我らの精鋭達に一言頂こうか! 見ておったのだろ?」

 悲鳴を堪えたのはオーフェスだ
 我が君がまたぶっ飛んだ事を言い始めおった
 並居る諸侯や重臣達を差し置いて、よりにもよって極道者に何か言わせようというのか

 「(いやいやいや、この会場の持ち主は結局あの魔術師殿だ。この規模の会場を立てておいて、費用が我らと折半である事を考えれば大きな借りがあるとも言える。ならば魔術師殿を特別扱いしたとて問題あるまい)」

 よし、何か不満が出たときの言い訳はこれにしよう。うむ、と頷くオーフェス。その背後ではオーフェスの腹心が同じように苦みばしった顔をしていた

 「オーフェス軍師……何やら嫌な予感がしますが」

 腹心の視線の先にはゴッチが居た。大きく息を吸い込んでいる

 カザンもエルンストもオーフェスもその腹心も、会場に居るアシラッドもキューリィもジョノも他の騎士達や兵士達も同じことを思った

 ほら何か凄い事を言うぞ


 「カザァァーーン!! 決闘だアァァー!」

 言うが早いかゴッチは走る。と言うか跳ぶ。客席や、観客である騎士、兵士を踏み台にしてゴッチはあっと言う間に白砂を踏みしめた

 警備が静止に入る間もなかった。マグダラの兵達にとっても寝耳に水の事態で、困惑を隠せない

 胸を張ってカザンの背を睨むゴッチに。騎士が一人飛びついた

 「エルンスト様の御前であるぞ!」
 「こちとらゴッチ様だコラァ!」

 腕の一振りで跳ね除けられる騎士。そこに兵士が飛び掛る

 「ま、魔術師殿が出場者として招かれたとは聞いておりませぬ!」
 「俺は会場支配人だぞ?! エキシビションマッチの一本組むのにも文句つけようってのか!」

 ゴッチは大きく仰け反った。後頭部が兵士の額を打ち付け、目から星を飛ばして兵士は倒れ込む

 エルンストが腹を抱えて大笑いした

 「うわははは、わーははは! ゴッチ、お前、決闘とな!」

 オーフェスが大喝を放つ

 「出場者は剣や鎧は当然、肌着の一枚まで装備の内容を届け出しておる! 必要な手続きを無視して頂く訳には行きませんぞ!」
 「婆や、よいではないか」

 べ、と唾を吐いて、ゴッチはスーツを脱ぎ捨てた

 スーツどころか、ベストもカッターも脱ぎ捨てた。赤銅色した鋼の肉体が露になる

 「装備してなきゃ良いんだろクソ婆あ!」

 クソ婆あ! の一声で多数の騎士が吹き出した。下も脱がせてぇのか、と唸ってスラックスに手を掛けるゴッチに、それは別の意味でマズイと新手が飛び掛る

 「待たれぃ! 貴公の無礼、エルンスト様がお許しになろうとこの私が許さぬ! そも、カザン将軍は無手の者に刃を向けるような卑怯者では御座らぬ! それともご自慢の魔術で一戦魅せてくれようてか?!」

 ゴッチは裸じめを仕掛けてきた騎士の脇腹に肘を打ち込み、首根っこ引っ掴んで猫の子でも扱うように放り投げた

 「カザン! 俺に剣を向けたら卑怯だと?! 俺を馬鹿にするのか! 超高熱プラズマ? 大出力放電? そんなもんじゃねぇ! 何が魔術師だ、くだらねぇ! 俺のはそんなモンじゃねぇ!」

 ゴッチは雄叫びを上げる
 俺は今が一番強いんだ。無手が一番強いんだ
 俺は何時も一番強いんだ

 「こういう事だァァ! ゴッチ・バベルはこれが一番強ぇんだ! うわぁぁぁぁ!!!」


 ドン


 絶叫と共に右の拳を地面に叩きつけた

 大地を揺るがす拳骨。ドン、という音は、とても地面を殴って出る音ではない。白砂が衝撃で浮き上がり煙幕をはる
 拳が打ち付けられた部分はべこりと減り込んでいる。試合場の端に建てられていたエルンスト軍旗が三本纏めて倒れた


 それを見ていたアシラッドはとうとう我慢できなくなってゴッチよろしく飛び込もうとする

 慌てて羽交い絞めするジョノ

 「良いじゃぁないですか! 奴だって乱入してんですから! 私がしちゃいけないってぇ事はぁ無いでしょう?!」
 「止め、止めんか! お前の尻を吹くのはルーク殿だぞ! キューリィ、兵ども、手伝え!」

 キューリィは既にアシラッドから一発食らわせられて伸びていた


 カザンが振り向く。静かな瞳をゴッチに向けている。穏やかな表情だ

 スカシた面ぁしやがって、気に入らん。カザンの表情を一目見た瞬間ゴッチは思った

 「ゴッチ。俺に何か言いたいことがあるのか」
 「無ぇよ」
 「何故こんな事をした」

 ゴッチは天に拳を突き上げる

 「テメェが気に入らねぇからだ、カザァァァーーーン!! 雄叫び上げろォォー!!!」

 何時の間にか賓客席の日よけによじ登っていたレッドがギターをかき鳴らして叫ぶ

 「イィィヤッハァァァー!!」

 ゴッチは人差し指で一人一人を指し示しながら周囲を睥睨する

 「俺はゴッチ・バベルだぞ! アイアムゴッチ! ゴッチ! ゴッチだ!」

 真先にレッドが騒ぎ出す。ゴッチ、ゴッチと騒ぎ回る

 すると、圧倒的な存在感と迫力に充てられて、まず末端の兵士の抑えが効かなくなる

 天に拳を突き上げて皆がゴッチの名を唱和する

 ゴッチ! ゴッチ! ゴッチ! ゴッチ!

 お祭り騒ぎは好きだぞ、と余りの五月蝿さに耳を抑えながらもエルンストは上機嫌である

 「ゴッチ! せめて勝利の捧げる先ぐらいは明らかにしておけ!」

 ゴッチはエルンストをぎょろりと睨めつけると、試合場の中心で肉体を見せつけるように胸を開いた

 「偉大な戦神、あー、ラーだかウーだかに捧げると言えばテメエら満足か?! 冗談じゃねぇ!」

 敬虔なラウの信徒が憤りの声を上げる。神を重んずる世において、あまりに恐れを知らない物言い

 非難の声はすぐに大きくなる。ゴッチの名を唱和する音と同じぐらいの音量で、ゴッチを打つ

 「神は俺に命令しねぇ! 俺にだって尊敬すべきボスは居るが、俺を支配できるのは俺だけだ!」

 ゴッチ、本日最高潮。絶好調の一歩先


 「ゴッチ・バベルだ! 黙ってろよ!」


 どぉぉぉぉ、と戦士たちの雄叫びが上がった。一片の気後れも、恐れも、ゴッチ・バベルという男は見せない。善悪是非もなく、戦士たちは勇ましい者を賞賛する

 「十分だ!」

 唐突に上がった声に、ゴッチは目を見開いた

 カザンが震える拳を抱え込みながら叫んだのだ。スカした面の二枚目が、今はっきりと苦痛を顔に表した

 ゴッチは嬉しくて嬉しくてたまらなくなる。そうだ、そういう顔が見たいのだ

 「沢山だ! お前の戯言は!」
 「沢山? 不抜けた事しやがって。お偉い騎士様は八百長がお好きってか?」
 「ゴッチ!」
 「御託は良いんだよォォー!」

 ゴッチは走り始める。カザンも走り出した。右拳を振りかぶるタイミングは同じ
 互いの左の頬に炸裂するタイミングも同じだった。血を吐き出して、ゴッチとカザンは睨み合う

 「えぇい! 良いぞ、やってしまえ! うん? 婆や、固いこと言うな! こんな勝負はそうないぞ!」

 エルンストの元気な声が遠い

 もう一度二人して拳を振りかぶる。と、見せかけてゴッチは白砂を蹴り上げた
 目潰し。しかしカザンは少しも動揺しない。冷静に両腕を立てて顔を庇い、飛び掛ってきたゴッチの蹴りを受け止めた

 「このクソ魔術師、卑怯者ー! カザン様、勝利をお掴みください! ニルノアが応援いたしますー!」
 「銀剣兵団、このベルカに合わせて声を出せぇー! それ! カーザーン!! カーザーン!!」

 ゴッチの名を唱和する声に対抗するように、カザンの名が響き始める

 扇動するのはニルノアとベルカ。特にベルカは薄い胸板を張り切ってそらし、必死の形相で音頭をとっている


 が、そんな事は今まさに殴り合う二人にはどうでもよかった。今二人の視界には互いの姿しか写っていない

 二人の世界には二人しかいない

 「貴様は何時も気楽で良い! わがまま好き放題していればそれで良いのだからな!」
 「るせーこのふにゃチン野郎! 俺が羨ましいんだろう、悔しいんだろう!」
 「ゴッチィィィー!!!」
 「カザァァァーン!!!」

 ゴッチの両耳を力任せにひっ捕まえて、カザンは鳩尾目掛けて何度も何度も膝を突き込む
 ゴッチとて負けてはいない。一瞬の隙を突いてカザンの膝を抱え込むと、力任せに振り回す
 カザンは無様に転げ回り、更に放り投げられた。地面に叩きつけられた所にゴッチが走り込んでくる

 ストンプ。顔面めがけて降ってきたゴッチの足を既の所で避け、カザンは跳ね起きた。が、少し遅い。即頭部を刈り取るゴッチの蹴り

 血反吐撒き散らして再び二人は組み合う。吼え声が轟き、その度に見守る者たちは絶叫する


 「ゴッチめ、女に振られた八つ当たりにあそこまでやるか」

 花道の奥で酒袋を傾けながらゼドガンは笑う。二人が羨ましくもある
 全力で剣を振れる相手が、人間に限って言えば最近はとんと居ない

 「俺も偶には好き勝手にしてみようか」

 ゼドガンの視線の先で、一心不乱に殴り合う二人。他の何もかも置き去りにして、直向きに殴り合っている

 妬けるな、全く。ゼドガンは踵を返した


 大きく振りかぶったゴッチの右の拳。カザンは冷静に左の掌をあわせ、大きく振り払った。体勢を崩したゴッチの上腹部に蹴りが決まる

 ゴッチは無様に嘔吐した。酒だとか、焼き菓子だとか、消化されていない内容物が地面に散らばる
 カザンはこの時ばかりは容赦しない。また一歩踏み込んで頭突きを見舞う

 「寸暇を惜しんで武技と体術を磨いた、書と歴史に学んだ! お前に負けたりはしない!」

 ぐべぇぇぇ、と呻くゴッチ。目が爛々と危険な光を灯す

 ゴッチの動きが変わった。両手を体を守るように引き戻し、スタン、スタンとステップを踏む

 たった今ゲロを撒き散らしたとは思えない体捌き。何度も痛打を受けている筈なのに、少しもそれを感じさせないタフネス

 カザンはカハ、と笑った。それでこそゴッチ・バベル。初めて会ったときからコイツは他とは違っていた

 「てめえ、俺のこと、ただの力自慢だと思ってんだろう。け、ケケケ」

 甲高く笑いながらゴッチが身を沈ませた。鋭くカザンに向けて踏み込む

 明らかに早さが違う。引き締めた脇。無駄のない足運び

 ジャブの連打がカザンに降り注ぐ。今までのゴッチの振る舞いからはとても想像できない、緻密で幻惑的な拳の雨がカザンを打ち据える

 「ぬ!」
 「シィ!」

 カザンの防御が俄に開く。見逃すゴッチでは無い。カザンの胸に遠慮のない右拳が突き刺さった
 ぐぷ、と息が篭る。それを飲み込んでカザンは唸る

 「崩れるかぁッ!」

 ここで引き下がってはいけない。カザンは激痛を無視し無理に息を吸い込んだ
 踏み込んでいるゴッチに対し、反撃のハイキック

 獲物の隙を見つけて、嬉々としてそれに躍りかかる狩人。それこそが正に隙である

 しかし渾身の蹴りは空を切った。ゆらりと後方にスウェーしたゴッチの眼前をそれは通り過ぎていったのだ

 煙みたいだろ? ゴッチがニタァと笑う

 カザンはそれを無視した。蹴りの勢いを利用して体を一回転させる
 後ろ回し蹴り。今度こそ、それはゴッチの脇腹を打った

 詰めが甘いのではないか。カザンがにやりとする

 「生意気なんだよテメェ!」
 「痩せ我慢が過ぎるぞ貴様!」

 一瞬見つめ合う。かと思うと次の瞬間には同時に飛びかかっている

 相手のことが手に取るように分かる
 もどかしさ、やるせなさ
 憤り、後悔
 打ち付ける拳からそれが噴出し、打たれた肉体からそれが弾ける


 カザンの拳を頬に減り込ませながらゴッチは思った。クソ気に入らんけど、やっぱテメエ凄ぇわ

 ゴッチの爪先で米神に減り込ませながらカザンは思った。なんとも納得いかんが、お前の打撃が一番効く


 なんとなく、コイツしかいねーな。とゴッチは思った

 俺とコイツ。なんか今、良く解らんけど凄く噛み合ってる。すっきりしてる気がする

 男二人。何ももどかしくない。やってる事は八つ当たりだが。他の奴だと得心いかなくてもコイツだとしっくり来る

 男二人。俺は馬鹿でコイツも恐らく馬鹿だが、まぁ馬鹿で良いだろう


 女に泣いて逃げられたのが、すっきりぶっ飛んで消える
 よう、バディ。今どんな気分だ?


――


 後書


 白色粉末だ、黙ってろよ。


 すっきり解決しない事はなぁなぁで済まして、何かに八つ当たりして
 気分だけでも解決したようなつもりになろう、という話


 おい諸君こんなん読んでる場合じゃないぞダークソウルやろうぜ!


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