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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ27 男二人 2
Name: 白色粉末◆95fd51d0 ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/28 07:03
 「御前試合には、私も出場させて頂くのです。ホーク様は、ゴッチ先任も是非どうかと仰られていましたが」
 「気が乗らんなぁ。仕事もあるしよう」
 「……然様で。ですが、噂によれば、あのカロンハザン将軍も出場なさるとか」
 「あぁ?」

 青いマントを揺らめかせて、風になびく金髪を抑えるルーク
 彼が機嫌を窺うように発した言葉に、寝転んでいたゴッチは思わず体を起こした

 会場建設現場を一望とは言わずとも、ある程度見渡せる小高い丘に、二人は居た。人足が慌ただしく行き来し、ロージン達指導者が声を張り上げる現場で、二人の周りだけは静かな物だった

 「実は私は、まだカロンハザン将軍とお逢いしたことが無いのです。どのような方なのですか?」
 「…………ふん、さて、な。いけ好かねぇ野郎だよ。だが、お前みたいな若い甘ちゃんは、アイツに出会ったら一発で虜になっちまうんだろうな」
 「……虜? その……自分は男ですが」
 「知ってる。まぁ、奴がどんな人間かなんてぇのは、手前で見て判断すりゃ良い。……だが、そうだな、あぁ」

 ゴッチはルークから視線を外して、再び横になる。遠方からロージンが歩いてくるのが見えた。顰め面でぶつぶつ言いながら羊皮紙とにらめっこしている

 「大した奴さ、あの男は」

 小さく笑いながら言ったゴッチは、ルークの見た事の無い表情だった。何時も人を見下している、皮肉しか言わない男だ。その男がはっきりと、好意を浮かべて人を褒めた。少なくともルークにはそう見えた

 胸がどき、とした。カロンハザンへの興味が、増大する

 「……不思議ですね、この世界の人々は総じて私達より体力が劣るのに、時折カロンハザン将軍や、剛剣アシラッド、ミランダローラーゼドガン殿のような規格外が現れる」
 「けけけ、連中は案外、生まれが違うんじゃねぇか?」

 ミステリアスで、面白いと思います。大真面目な顔でルークは頷く
 あぁそうかよ、と面倒くさそうに言いながら、ゴッチは手をひらひらさせた。ルークは微笑んで一礼し、場を辞す。丘に拭いた一陣の強い風が、再びルークの髪とマントをはためかせる

 「(……絵に描いたような貴公子様だな。マクシミリアン・ブラックバレー……、あんな甘ったれを送り込んできて、何考えてやがる?)」

 冷たい視線で、ゴッチはルークの背中を見送った。ゴッチの険しい気配に、調度の配置について意見を貰おうと思っていたロージンは足を止め、首を傾げた


 先程まで気分よさそうに歓談していらっしゃったように見えたが、矢張り気難しい方なのだな


――


 剛剣アシラッドの姿は、雑踏の中でもよく目立つ。街中であろうとも鷲面の兜を被り、全身鎧に白い直垂。そしてその直垂の内側には蜥蜴の紋章が施された盾を背負い、腰の左右には二本の長剣を、小物入れには投擲小剣を備えている

 戦場さながらの装いだ。国を割っての戦の最中ではあるが、流石に交戦状態にない街中でまでこういった装いを保つ者は居ない。このアシラッド以外には

 ジルダウの民衆を怯えさせながら大通りを歩くアシラッドは、しかし本人は至って呑気だった。周囲を気にしないのがアシラッドの美点でもあり、欠点でもあった

 「で、キューリィとジョノは拗ねちゃったんですか。大の大人がぁ、恥ずかしいなぁ、もう」
 「仕方ない。こんな機会そうは無いからな。気持ちは解る」
 「だからと言って私まで自棄酒に付きあわせようとは。どーもぉ、私が御前試合推薦剣士だと言う事を忘れているようですねぇ」
 「俺だけ、と言うのが特に悔しかったんだろう。ははははは!」

 エルンストの“お祭り騒ぎ”に参加したい者は、それこそ幾らでも居る。名声、栄達、強敵との出会い。得られる者は無数にある
 だが当然、全ての者が参加できる訳ではない。大会の格を高く保ちたいエルンストの思いもあって、参加希望者が掛けられる“ふるい”の目は、かなり大きくされていた

 アシラッドの横を歩くジャウ・バロイは、そのふるいに残った一人である。黒い河の騎士の生き残りであるジャウ、キューリィ、ジョノの三人は揃って参加を希望したが、それが叶ったのはジャウだけだった

 もっと詳しく言えば、勝ち抜き式の選抜試験でキューリィとジョノを叩き潰したのはジャウ自身だ。当然だが、三人が三人とも“譲る”等と言う甘ったるい事を考えたりする人種ではない

 力を尽くして戦い、そして得た結果に対して自分を取り繕わない。ジャウは胸を張って勝利を誇り
 ……キューリィとジョノは目一杯悔しがって自棄酒に走った訳だ。今頃は酔いも吹っ飛んで必死に剣を振っている事だろう

 力が足りなかったなら、鍛えるしかないのだ

 「ジャウ達のそーいう所が、好きですよ」
 「気色の悪い事を言うな。見ろ、鳥肌が」

 アシラッドは笑い声を上げた。何時もの遣り取りである。アシラッドと言う女は無遠慮で、気分屋だ。言いたい事を言うから、一般の教えを規範とする騎士には余り好かれない
 戦場を共にする者とも微妙だ。何せ強敵を斬ることに快感を覚え、血に塗れる程に興奮する女だ。気味悪がられて、誰も近寄ってこない

 ルークやジャウ達は、アシラッドにとって希少な存在なのである。好きと言うのも、強ち冗談ではなかった

 「あれぇ」
 「ん? どうしたアシラッド」
 「あの馬車、マグダラの紋章ですね」

 アシラッドがふと、不思議そうな声を上げた。大陸北部に生息する鳥を紋章とする馬車が、ジルダウの街の門に止まっている
 門番が通行証を検めている所だ。ジャウがうむ、と目を凝らす

 「珍しいな。ホーク軍団の者が馬車を用いるとは」
 「だーれも使いませんもんねぇ。それにあの馬車の御者、女の子だぁ」
 「…………まぁ良い。俺達が詮索しても何にもならん。行くぞ」
 「ふーん。でも……、なんだか、面白そうな匂いがするんですけどねぇ」
 「ふー……」

 ジャウは首を振り、とっとと行くぞと言い放って歩き始めた

 アシラッドの好きにさせていたら、何に首を突っ込み始めるか解らない。ジャウは実は、寄り道が嫌いな性質の人物であった

 「あれれぇ?」
 「……ん? また何かあったのか」
 「アレは、カロンハザン将軍様じゃぁ、ありませんか」

 大通りを颯爽と歩く偉丈夫
 うなじに張り付く黒髪の下で、屈強な双肩が光っている。晒された上半身に刻まれた少なくない数の傷が、男振りを上げていた

 カロンハザンが歩いていた、何故か上半身裸で

 そのような出で立ちの者が居ない訳ではない。しかし、カザン将軍ともあろう男に相応しい装いかと言うと、そうではなかった。カザンの肉体は激しい運動の直後であるかのように赤く上気し、表情は涼しい物のそれなりの汗を掻いている
 髪がべったりと首筋や頬に張り付き、水滴を地に落としている。流石にこれは汗ではなかった。水を被ったらしい

 「何と言う偶然! これを機に話を聞かせて……」
 「馬鹿な、カザン将軍だぞ? 俺はついこの間まで不名誉印だったんだ。将軍の視界に入る事すら憚られるッ」
 「それはぁ、ジャウだけじゃぁないですか。私一人で行きますもん」
 「貴様ーーッ! 抜け駆けなどさせるかーーッ!」

 どっちもどっちだ。アシラッドだって言ってしまえば、ふらっと現れた若造、ルークの下に、これまたふらっと現れてその配下となった、家名すら定かでない来歴不明の自由騎士である。胡散臭さで言えばジャウ以上だ

 天下の往来でぎゃいぎゃい言い始めた二人の直ぐ傍に立つ者があった。二人して、首を向ける

 カザンが腕組みしながら立っていた。ジャウは咄嗟に背筋を立て、右腕を胸に叩きつける礼をした

 「騎士が妄りに諍いを起こしては、兵どもを混乱させ、民草に不安を与えるぞ。例え、じゃれあっているだけだとしてもな」
 「はッ! 仰る通りです」
 「どーもーカザン将軍。私、アシラッドと申します。家名は忘れましたので、ご容赦を」

 カザンが無造作に一歩を踏む。独特の呼吸で反応し辛いそれに、ジャウは咄嗟に身構えた

 間合いを計って踏み込まれたような気配があったのだ。事実それは踏込だった。カザンはアシラッドの右肩を軽く押し、また一歩下がる

 アシラッドの右手が剣に添えられていた。挑発していたのである

 「剛剣アシラッド殿か。噂はかねがね。……と言う事は、そちらの君は……誉を取り戻した三人の内の一人か?」
 「は、……私はジャウ・バロイと申します」
 「聞こえたぞ。俺に何を憚る事がある。胸を張れ。……誹りを受ける事もあるかも知れんが、気にせず励めよ」

 感謝の返答が声に出来ず、ジャウはもう一度、右腕を胸元に叩きつけた
 カザンはそれを見届けると、踵を返して去っていく。こんな格好いい男が居たのか!

 「あれで俺より三つ下だと言うんだから……。居る所には居るんだな、傑出したお方が」
 「あーあ、振られちゃった…………」
 「……お前まさか、カザン将軍に」
 「ふーんだ。良いですもんねー。私にはルーク君が居ますから」

 狂犬め、そっ首落とされても知らんぞ、と言い捨てて、再び歩き出そうとする

 またもや、アシラッドが声を上げた

 「あれれれぇ?」
 「今度は何だ? エルンスト様でも出たか?」
 「あれって」
 「ん! ……“偉大な大剣”!」

 ミランダローラーゼドガンが、酒瓶を携えて歩いている
 顔を真っ赤にした、赤い服の酔っ払いと供に大通りを歩く姿が、どうにも悪目立ちしていた

 「ゼドガーン、うひょぉー、次行こうぜ! 今日は何だが手が滑らかに動くんだぜ!」
 「レッド、ふらついているぞ」
 「俺のピッキングが、流れ星みたいな。わーはは」

 赤い服の楽師、レッドが、ゼドガンの腰に取りすがって何が面白いのか周囲をぐるぐる回っている

 声を掛けようとして、ジャウは踏み止まった。なんだこの言い表しにくい空気は

 「…………」
 「…………」

 思わず、アシラッドと顔を見合わせる。そんな事は露知らず、レッドは更に大騒ぎし始めた

 「よーし! 脱ぐぜ!」
 「……おい、レッド」
 「俺のちょっと凄い所見せてやるんだぜ! 仲間内じゃ……」
 「止めろ。マグダラの兵士がすっ飛んでくるぞ」
 「兄弟も誘って呑み直しだー! ッぜ!」

 べちべちとゼドガンは往復ビンタを繰り出した。レッドは盛大に首を振り乱す破目になり、挙句気絶してゼドガンに背負われる

 歩き去るゼドガンと、目があった。ジャウとアシラッドはどうにか繕って目礼した

 飄々とした笑みを浮かべて立ち去る酔っ払いたち

 「……」
 「声かけずに正解だったと思うなぁ、私」

 うーむ、と呻いて腕組みし、ジャウは歩いた
 無視される形になったアシラッドが後に続くも、十歩歩かない内に再び声を上げる

 「あぁぁ?」
 「…………今度は何が出たんだ?」
 「修羅場ですよぉ。…………しかも“雷の魔術師”ですよぉ」

 二人が視線を向けた先には、向かい合う男と女がいた


――


 ゴッチは顔を反らした。情けない事に、真正面から見詰める事が出来なかった

 「なーんでここに居るのかね。えぇ? オイ」

 ゴッチの背後に控えるラーラが肩を竦める。ラーラの射竦めるような視線の先で身を縮こまらせているのは、イノンだった

 旅装の被りで目を隠し、小さく身を震わせている

 「……ゴッチ、わ、私……」
 「ボス、お知り合いで?」
 「商売女だ」
 「ふん?」

 ラーラは不愉快気に眉を顰める。余り面白くない想像をしたらしい

 ゴッチはイノンの細い顎を乱暴に持ち上げた

 「何でだ?」
 「……」
 「まぁ、何だって良い。早くミランダに帰れ。…………面倒臭ぇからな」

 そのままゴッチは歩き始める。ラーラはゴッチの背中とイノンの顔を見比べて、矢張りこちらも何事も無かったかのように後に続いた

 イノンはゴッチの名を呼びながら追い掛ける

 「ボス、付いてきてますが」
 「……」

 ゴッチは足を速めた。漏れ出す怒気に、前方の人波が割れる
 誰も彼もがこの町で怒らせてはいけない男の事を知っており、怒らせたらどうなるかも知っていた

 イノンも、早足にならざるを得なかった。しかしゴッチやラーラとは基礎体力が違いすぎる
 少しも進まないうちに息が乱れ始める

 だが、単純に、疲労したと言うだけではない
 イノンの胸はゴッチに突き放された時既に潰れそうで、ただ立っているだけで呼気は乱れ、座り込んでしまいそうだった

 イノンは泣いていた。涙が鼻梁を、唇を、頬を伝い、イノンにはそれを取り繕う余裕もない

 「ボス」
 「五月蝿ぇな」
 「ですが」

 ラーラは潔癖な部分を持つ女だ。娼婦と言う存在を、あまり好ましく思っていない

 しかし、今のイノンの様子は流石に哀れに思われた。商売女が上客の歓心を買おうとしているようには、どうしたって見えなかった

 「……ゴッチ、ゴッチ」

 イノンが躓いて倒れる。立とうと思えば、立てたろう
 でも、手が震えて、身体を起こせない。ゴッチが自分に向けた冷たい視線を思い出して、イノンは嗚咽を洩らす

 体を丸め、額を地面にへばりつけて泣いた。言葉にならない「御免なさい」が、砂に吸い込まれていく

 ゴッチが立ち止まる。ラーラがほっとしたように溜息を吐いた

 「ボス」

 ゴッチが踵を返す。何事かと事の推移を見守っていた民衆に向けて、怒鳴りつけた

 「見せモンじゃねーぞコラ! 失せろ!」

 人波が、ザッと引いた

 ゴッチは鞄でもそうするかのようにイノンを持ち上げる。イノンが恐る恐るゴッチの頬に手を伸ばした
 右手一本でイノンの尻を抱き上げ、立ち尽くしていたラーラの方に歩き出す。首筋に、イノンが頭を押し付けてくる

 何か言っていた。ゴッチは、聞こえていない振りをした

 「行くぞ」

 ラーラが何か言う前に、ゴッチはそれを押し潰した


――


 「マグダラ家の方がお見えですが」

 ロージンの言葉に、ラーラは頷けなかった

 「ボスは取り込み中だ」
 「入っては?」
 「拙いな」
 「……でしょうな」

 ラーラの背、ゴッチの寝室の扉から、女の悲鳴とも嬌声ともつかない掠れ声が漏れ聞こえている

 誰だって踏み込まれるのは御免の筈だ

 「お引き取り願うしかない」

 ラーラはこれ以上ないくらい苦い顔をして言った。別に、マグダラからの客を追い返すのに不都合を感じた訳ではない
 ゴッチが女を一人囲い込んだ状況その物が、ラーラを悩ませていた

 確かにあの時はイノンとやらを哀れにも思ったが、今やゴッチにもジルダウでの立場がある
 ゴッチ自身は何とでもなるが、イノンは問題だ

 今、ゴッチの周囲は極めて危ないのである

 「どのような者が訪ねて……、あぁ、矢張り良い。私が知っても仕方ない」
 「はぁ……。それでは、この場はお引き取り頂くようお伝えします」

 ロージンを見送ったラーラは、本人も気付かない内に、肩を落としていた

 溜息を一つ零した時、寝室のドアが開く

 スラックスだけで適当に身繕いした上半身裸のゴッチが、葉巻の頭を噛み破りながら現れた

 「ずっとここに?」

 強烈な獣臭がした。それに混ざる、濃密な汗の臭い、男と女の臭い、甘ったるい花の香りまでする。噎せ返るようだった

 扉が閉じ切る前に、寝台で失神するイノンの姿が見えた。ゴッチには少しも気にした様子が無い
 ラーラは短く返事をしながら、ゴッチの加えた葉巻の頭に人差し指をつける。紫煙が上り始めた

 「趣味の悪い奴だ。何か用でもあったか?」
 「あ……、マグダラから使者が来ているようです。お取込み中のようでしたので、追い返すようロージンに伝えましたが。……お会いになりますか?」
 「気分じゃねぇな」

 煙を一息吐き出して、ゴッチは歩き出した
 ラーラは後に続く。ゴッチは何処か疲れ果てたような表情をしていた。短い付き合いと言うのもあるが、ラーラは今までこんな顔をする所を見た事が無かった

 屋敷の中庭には井戸がある。葉巻をラーラに預け、水を組み上げて、頭から被るゴッチ

 「……何か言いたい事がありそうだな」
 「あのイノンと言う娼婦、ボスにとってどういう人物なので?」
 「何が言いたいのか解んねー」

 犬のように頭を振って、ゴッチは水を飛ばす。ラーラは一歩飛びのいて迷惑そうな顔をしながら飛沫を避けた

 「ただの娼婦だろう」
 「それならば宜しいのですが。……今、ボスの周囲は極めて危険です、ご自身では、取るに足らないとお考えのようですが。……あの娼婦に思う所があるならば、余り近くに置くのは」
 「どうした? 何時も鉄面皮で、目の前で何がどうなってようと自分にゃ関係無ぇって面してるお前が、急に商売女の心配か?」

 彼女らしくなく、言葉に詰まる。上手く出てこない言葉の代わりに、葉巻を差し出した

 「……まぁ、良いのです。”ただの娼婦”なら」

 ゴッチが僅かに身じろぎしたように、ラーラには感じられた

 取るに足らない存在だと言うなら良い。イノンが何らかの危機に瀕したとしても、助けはしない
 何時でも切り捨てられる存在だと言うなら、枷にはならないだろう

 でも、ラーラは、何故か不満だった。イノンが哀れに思えた

 「ロージンの手伝いをしてきても?」
 「……良いぜ。働き者の部下を持つと、助かる」
 「もう後二週間程ですので。焦りもします」

 好き好んでと言う訳ではないですが
 そう付け足して、ラーラはゴッチに背を向ける


――


 目の前で一本一本剣を検める騎士の顔を、ヨルデは直視できない

 「うむ、確かに。相変わらず、お前達の剣は良いな」
 「ありがとうございます。兄も喜びます」
 「しかし、何故納期に遅れたのだ? 今までは多少厳しい条件でもこなしてきたろう」
 「その……飛び込みの依頼がありまして」

 言ってからしまった、と思った。嘘の苦手な性分が今は悪く働く
 得意先の侯爵の仕事を差し置いて、別の依頼を、しかも後から入ってきた依頼を優先するなんて
 仕事を失っても可笑しくない。ヨルデは唇を噛んだ

 剣を鞘に納めた騎士が、露骨に眉を顰める

 「……お前達は良くやってくれている。聞かなかった事にする。だが、依頼主の名を聞くぐらいは良いだろう? それ程の人物なのか?」
 「その……兄の親友でして……。それで断れず」
 「ほぅ、名は?」

 出来れば言いたく無かった。しかしこうなっては、もう無理だろう

 「カロンハザン将軍です」

 一度は消えた、騎士の眉間の皺が、より深くなって復活した

 だから言いたくなかったのだ
 カザンは下級の騎士たちや一般の兵士たち、そして戦いの技量を誇る者に程好かれているが、古くから権威を持ち、エルンストを支えてきたような権門には、そうでもなかった

 元々カザンはファティメアの為に出奔した身だ。女の為に誇りと、長くの僚友、多くの部下を捨てたのだ
 それがどういう流れかエルンストの元に身を寄せ、あっという間に彼のお気に入りである。嫉まれたとして不思議はない

 そして、ヨルドとヨルデの得意先である侯爵は、カロンハザン嫌いの最先鋒と言っていい人物だった

 場に沈黙が落ちる。難しい顔の騎士に、ヨルデは何と言っていいか解らなかった

 「それも……聞かなかった事にしよう。もう、”飛び込みの依頼”は無いのだな?」
 「は、はい」

 嘘だった
 今ではカザンがこの小屋に足繁く通い、ヨルドと一緒になってあーでもないこーでもないと鉄を弄り回している

 ヨルデは嘘が苦手だが、こればかりは押し通さなければならない。これ以上の不興を買えない。兄が無頓着であるが故に、ヨルデが粘らねばならなかった

 「侯爵様も、我々も、お前達の剣を頼りにしている。暫くは依頼も無いが、長い付き合いにしたいと考えておいでだ。……仕事は選ぶように」

 外に控えていた部下に剣の束を抱えさせ、騎士は帰って行った

 ヨルデは安堵の溜息を吐き出して、どっかりと椅子に座る

 能天気な笑い声を上げながら、ヨルドとカザンが帰ってきた。汗まみれになりながら、剣の重心についてあーだーこーだ言っていた

 「見たか、ウェルスのあの手首の返し」
 「おー見た見た。足運びも素晴らしかった。あぁいう戦士が使うなら、剣の重心は」
 「……おかえり」

 ツンとした態度で、ヨルデは二人を出迎える

 朗らかに笑う汗臭い男二人水場に追いやって、ヨルデは溜息を吐いた

 先程とは違う、深い深い、嫌な溜息だった


――


 後書

 推敲の気力が残らない最近。


 人生経験の浅さが、ssの底の浅さに如実に現れるから、面白いなぁ、我が事ながら

 解っててもどうにもならないって事あるよね!!


 かこ氏の指摘によって誤字修正
 くそー、しくじった、くそー。このミスは恥ずかしいなぁ、どうもありがとう。


 グリ氏の指摘によって大幅に誤字誤植修正。あと少しばかり文をいじったり。
 直ってない所は拙者の趣味なのでご容赦下され。

 始める前は己のお粗末さに憂鬱になった物の終わってみれば気分爽快だなぁ。
 感謝するで御座る。


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