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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:67fcfa04 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/28 06:42
 ルークが見るに、ホーク・マグダラと言う男は、人材に対して極めて図々しい男だった
 妙に目端が利いて、節操も無く声を掛ける。騎士だとか、兵士だとか、関係が無い。農民も樵も猟師も、ホークにとっては大差ないようである

 アナリアへの一大反抗勢力、エルンスト軍団。その本拠地である東の果ての城、カウスに向かうまでの道中でもそれは変わらず、ホークの部下はじわりと増えていった
 そしてルークは、常にホークの背後に居るよう指示された。号令するとき、目ぼしい人物を迎えるとき、果てはエルンスト軍団からの使者と会う時もそうなのだから、ルークはすっかりホークの子飼である、と言うことで落ち着いてしまった

 今、カウスの城門前にて開門を待ちながら、やっぱりルークが居るのは、ホークの後ろだった


 「それほど大きいと言う訳ではありませんが、硬そうで良さそうで、何とも安心できる城ですな」

 カンセルが口元だけで笑いながら言った。ホークはギリギリと音を立てながら下がってくるカウス城の吊橋を見て、釣り目をさらに吊り上げている
 ルークは少し前に、ホークは幼い頃居城の吊橋から落ちて酷い目にあった、とカンセルから聞かされていたので、きっと吊橋を渡る時は、何時もあんな怖い顔をしているんだ、と妄想した。弱点などないように見えるホークの事だからか、思わず噴出してしまった

 吊橋が完全に下がりきってから、ホークは右手を挙げたが、進発の号令は出なかった
 ホークが声を発する前に、城門が開き始めたのである。そこには青い外套を羽織った、壮年の男が立っていた。周囲を慌しく駆け回る兵士達の事などまるで意に介さず、ホークだけを注視している

 「カンセル殿、彼は?」

 ぼそり、とルークは小さく言った。カンセルは顔を動かさず、背筋をピンと伸ばして、こちらも小さく返した

 「蜂蜜色の髪と髭、米神の傷、エルンスト軍団首魁、エルンスト・オセ殿と見た」
 「あれが……」

 言う間に、エルンストが早歩きで近付いてくる。腕の振り方が大きく、大仰に見えるが、まるで気負わず自然体のようにも感じられる

 「ホーク・マグダラ殿! ようこそカウスへ! ようこそ、東へ!」
 「貴方がエルンスト殿か?!」
 「そうともさ」

 がっはっは、と笑いながら応えるエルンストを、ホークは馬から飛び降りて迎えた。エルンストは初対面であることなどまるで気にしていない様子で、バン、とホークの肩を叩き、強く手を握る

 「本当によく来た。エーラハの玉無しめが、マグダラ軍団を騙し討ちにしたと聞いていたから、心配していた。しかし諸君ら、気力に満ち満ちているようで何より」
 「我が兵どもには、地獄に叩き落されても這い上がってくるよう命じております」
 「頼もしい。君のような味方が増えるのは嬉しいことだ」

 エルンストとホークは、並んで歩き始める。ルークも、カンセルも、軍団は皆下馬し、馬を引いてその後ろに従った

 「不躾ですが、エルンスト殿、状況はどうなのですか」
 「良くない。が、良くないまま押し切られる心算はないし、何より私は今日、新たな勇者達を迎え入れたよ」

 なぁ、とエルンストが背後を振り返り、声を掛けてくる

 「お応えしろ」
 「エーラハのにやけ面を叩き切るのが、今から楽しみでなりません!」

 ヤケクソ気味にカンセルが叫んだ。それに同意するように掛け声が上がり、ホークがよし、と頷く
 エルンストが顎を撫でながら、にやりと笑った

 「結構、結構。これから楽しい戦になりそうだなぁ」

 ルークは眉を顰めた。このエルンストと言う男、相当なたらしだ
 激しい戦いの予感がしていた


――


 「と、思っていたが、実は全然そんな事無かったのです」
 「フランシスカ様、どうなさいましたか」
 「いえ、メノー様。何でもありません」

 カウス到着直後は、これから起こるであろう戦いに気を揉んでいたルークだったが、そんな事にはならなかった
 カウスでホークに宛がわれた部屋に、不機嫌顔のメノーが乗り込んできたのである。何時の間にカウスに到着していたのやら、ルークは驚愕していた物だが、どうやらホークの相当強引な所業を聞いているようで、メノーの怒りは深かった

 ずるい、とは、何がずるいのやら。ずるい、とメノーに言われたホークは、確かに強引な真似をしたと言う引け目もあり、ルークはメノーに貸し出される運びとなった

 見ようによっては、ホークの腹心がメノーに取り入ったようにも見える。と言うか、そういう風に見られれば、都合が良いのだが、とホークは下心を隠しもしなかった

 「お披露目が近いのさ」


 そんなこんなで、三日ほど過ごした。メノーと共に居る時間は、ヨーンに居た時よりも遥かに多い。メノーの周囲は極めて穏やかで、ここが反乱軍の本拠地であるとは、全く思えない程であった

 「フランシスカ様は、人を探しているとおっしゃっていましたね」
 「えぇ、しかし、全く成果は上がっていないのですが」
 「えぇ、メイア・スリーと言う方と、ラグランのローラー様。そして、アシラと言う何か」
 「何か知っておいでですか」
 「相も変わらず、メイア・スリーと言う方の事は解りません。ラグランと言う地の事も。ただ、アシラと言う言葉について、少し聞き及んだことが御座います」

 白い粗末な椅子に座りながら、侍女のムアが差し出す茶器を受け取って、メノーは己の頬を擦った
カウスに吹く強い風に巻き起こる、花びらの柱を眺めていたルークは、突然のメノーの言葉に声を上擦らせる

 「どんな事でも構いません、教えてください」
 「このカウスの城の南東に、ブラムと言う小さな町が御座います。そこの名産に、アシーラと言うお酒があるのだそうです。何でも、ブラムでしか作れないらしいですよ」
 「酒……?」
 「そんな残念そうな顔をしないでください。まだ御座います。実は今、そのブラムの町に、とある高名な騎士様がいらっしゃっています。『折れない剛剣』と勇名高い、アシラッド様です」
 「アシラ……アシラッド」
 「響きが似ていたもので、もしやと思いまして」

 ルークは呻いた。有力な情報とは言い難い。言い難いが、他に目ぼしい情報は無いのだ。そもそもが手探りの状態だったのだから

 「……あまりお役には立てないようですね」

 メノーにつられて傍で控えているムアまで寂しげな表情になる。メノーの、人を呑む不思議な気配。ルークは慌てて首を振った

 「いえ、そんな事はありません。感謝しています、メノー様」
 「そうですか、それなら私、嬉しい。…………でも、やっぱり駄目です。背中がむずむずするので、本当のことをお話します」
 「え?」

 メノーが顔をほんのり赤くして、俯いた

 「実はこの話は、マグダラ様が教えてくださった話なのです」
 「ホーク殿が」
 「御免なさい、さも自分が調べたかのように振舞って……。はしたないと思われましたか?」

 どうせ、ホークがメノーを教唆したに違いないとルークは思った。ホークにしてみれば、メノーにアシラの事なんて、話す必要が無いのだ
  メノー自身が仕入れたように話せば、ルークの歓心を買えるとでも言ったのだろう。そうすればメノーはルークに恩を売ることができ、ホークはメノーに恩を売った事になる
 ルークは、ある程度以上メノーが自分を好いてくれている事に、気付いていた。ホークが読み違えたのは、メノーの馬鹿正直さである

 「いえ、そのようには思いません。メノー様は心根が素直でいらっしゃいます。……それでは早速なのですが、ブラムと言う町に赴きたいと思います。許していただけますか?」
 「当然です、フランシスカ様。元々は、私やマグダラ様が無理に貴方をお引止めしているのですから」


 メノーの居室から退室したルークを、ムアがゆっくりと追ってきた
 ムアの、少なくない皺が刻まれた苦労人の顔は、カウスに着てからは大分和らいでいるような感じがある。ムアは小声でルークを呼び止めると、ピシっと腰を折った

 「御気を付けて行ってらっしゃいませ。そして、無事にメノー様の下へお戻りください」
 「……それを、わざわざ?」

 顔を上げたムアに対して、今度はルークが頭を下げた。それを見てムアは、慌てず騒がずもう一度頭を下げる

 「ブラムは馬を使わずとも半日掛からない距離に御座いますが、案内する者は必要でしょう。後で、旅装具と共にフランシスカ様のお部屋に向かわせます」
 「ありがとう御座います。…………貴女は……母のように錯覚してしまいます。あはは、情けない事を言っている自覚はありますが」

 ムアが苦笑した。ルークはムアから、初めてこんな表情を引き出した
 よく気が回り、面倒見の良いムアならば、こういう事を言われれば喜ぶだろうと、ルークにも一応計算があった


――


 『ブラム? それらしき町は確認しているよ。地理の把握は出来ている』
 「漸く進展です。……とは言っても、それほど期待出来た物ではありませんが」
 『いや……。私は、君は限られた条件下でよくやっていると思う』
 「そういって頂けるのであれば、ありがたく思います」
 『…………そちらに馴染んでいるのか、話し方が必要以上に堅いな』

 ガチャガチャと鎧を着込むルークも、今では慣れて、堂に入った物である。マントを着けた完全装備で、荷を確認しながらルークは首を鳴らした
 新しく聞き及んだ町の情報であろうと、コガラシ二型を飛ばして情報を収集するテツコには既知の物だ。先回りされているような手際の良さは、ルークには頼もしく思えた

 扉を叩く音がして、女性の声がした。コガラシを鎧の腰部に取り付けてから、ルークは扉を開く

 「ん?」

 ルークの知らない顔ではなかった。ムアの部下として、メノーの傍の世話をしている侍女の一人だ。それが、頭を下げている
 如何に高貴の身分であっても、メノーに動かせる人材は限られる。なんとなくルークは、メノーの精一杯さ加減を感じてしまう

 「早速出発したいが、準備は良いかな」
 「整えてあります。ルーク様の思われる内で、何か必要な物が御座いましたら、御言い付けください」

 本当を言えば、テツコのサポートがあれば案内は要らないが、折角用意してもらった物を無碍にはしたくない

 ルークは何もない、とだけ応え、侍女を連れて厩舎へと向かった

――

 「フランシスカ様、お止めください! 私は徒歩で十分ですので!」
 「私は出来るだけ急ぎたいんだ。君がどれ程健脚なのかは知らないが、マルレーネの早駆けに着いて来るのは不可能だ」
 「私のような者を騎馬に同乗させては、ルーク様のお立場が悪くなります!」

 ぐりん、とマルレーネが首を回す。くりっとした瞳が、ルークを見つめてくる
 ルークとマルレーネは、揃って首を傾げた。ヒヒン、と屈強なマルレーネの首が、左右に振られる

 「身分に拘り過ぎると、目が曇ってしまって、出来る事も出来なくなると私は思うんだ。マルレーネもそう言っている」
 「は、はぁ?」

 ヒンと鳴くマルレーネの背で、背後からルークに拘束される形になる侍女は、首だけ後に回して呆気に取られた
 侍女はルークとほぼ同じ背丈だ。ルークは肉体が成長しきっている訳ではないから、同じ背丈と言っても、女子平均から逸脱して大きいと言う訳ではない

 年下でありながら、そこいらの木端騎士とは比べ物にならない騎士振りの(ように見える)ルークに、超至近距離からジッと見つめられて、侍女の頭はあっという間に茹った
 そもそも現状が、背後から抱きすくめられているに等しい

 「ほ、他の騎士様に何を言われても、知りませんからね」
 「私はこれが良いと思ったんだ」

 真摯に応えると、ルークは城門とはまた別の、騎馬通用門にマルレーネを駆けさせる

 カウス城の渡り廊下の窓からそれを見ていたホークが、傍らに居たカンセルに苦笑を向けた

 「奴、中々やるな。手が早い」
 「はぁ、その、なんと言いますか」

 ふと、ホークは、渡り廊下の窓から、同じようにルーク達を見ている者が居る事に気付く
 水桶を運んでいる侍女だった。侍女は水桶を床に置いて、頬を朱に染めて羨ましそうに溜息をついていた

 「…………奴、中々、やるな」
 「成りも、心根も良いので、女子は放って置きますまい」


――


 ブラムの町に着くまでにルークが考えていたのは、侍女の髪型である
 シニヨンに結い上げていたのが、今ではテールだ。こちらの方が、気を張っていなくて良いな、とルークは思う。侍女は、終始無言であった


 ブラムの町は、確かに小さかった。ヨーンと比べて、半分ほどの規模しかない
 酒が名産だけあって、町に入って直ぐ酒場を見つける事が出来た。その小さな酒場の直ぐ隣に屯所があり、そこに話を通せば、マルレーネは快く預かってもらえた

 「ご苦労様です。レセンブラの印とは、さぞや重要な任務なので御座いましょう。ブラムの町の警邏は我々が行っております。最大限の協力をお約束します」

 侍女から渡された羊皮紙を、内容の確認すらせずに、ルークは屯所に詰める兵士へと渡した
 途端、大慌てですっ飛んできたのが、目の前でしゃちほこ張る大男だ。ルークは侍女に、何も聞こうとは思わない。メノーの身分に関わる事には、なるべく触れないようにしていた。そう望まれている節があった


 マルレーネを預けて身軽になったルークは、侍女を引き連れて早速行動を開始する。「緑色の髪の侍女」について、聞いて回る
 大抵の者は訝しがり、変な顔をしながら知らない、と応えた。違う反応を返すのは酒場に居る傭兵や荒くれ者の類で、こちらはニヤニヤしながらも、やはり知らないと応えた

 暫く聞き込みを続け、『探し物について知っている』とルーク達を路地裏に引き込み、奇怪な薬を嗅がせようとした男の両腕を圧し折った辺りで、ルークは駄目だなと首を振った
 大きくは無い町だ。聞き込みは、簡単に終わってしまう

 「……手応えが無い……。やはり、銘酒からメイア3を探すのは無理か……」
 「こ、こ、この者はどうされますか」
 「屯所にでも引き摺っていこうか。面倒だけど」

 ブラムの治安維持に関して、別段欲しくもない感謝と賞賛を受けたルークは、米神を揉みながら屯所の隣の酒場へと入った
 既に聞き込みを済ませた場所だ。一度は少しの金も落とさずに去っていったルークと侍女が、今度は真っ当な客として現れて、酒場の主は笑っていた

 「じき夜になる。矢張り、駄目かな」

 カウスを出発したのは朝だったが、日は傾き始めている。さして間を置かず夕方になり、直ぐに夜になる
 ここはロベルトマリンではない。夜になれば光源が無いため、殆どの者は外に出ない。例外があるとすれば、冒険者や彼ら御用達の宿、或いはこの酒場だ
 ヨーン程規模があり、治安が良好であれば、街中に光源が設置され、それなりに賑やかだが、ブラムでは望めそうもない。留まって明日も探索を続行するか、カウスに引き上げるか、悩ましいところだ

 「アシラッド、と言う騎士が、居るんだったか」

 銘酒アシーラの杯を揺らしながら、侍女に問いかける
 侍女は、机に頬杖をつくルークの背後に控えていた。椅子を勧めても座ろうとしないので、堅苦しくて仕方が無い

 「はい。宿屋の位置を聞かされておりますが、訪ねられますか?」
 「……よし、直ぐに」
 「今行っても居らんと思いますぜ」

 ルークは迷わず杯を置いた。実はそれほど酒を好んでいる訳ではなかった
 そこに水を差す声。酒場の主が下を向いて銭勘定をしながら、矢張りニヤニヤしている

 「どういう事か?」

 簡潔に訪ねても、酒場の主は肩を竦めるだけだ
 唐突にルークは杯を干す。大きく息を吐いて、ニッコリ笑った

 「上手いな、これ。もう一杯」

 主は機嫌よく笑いながら、空になった杯にアシーラを並々注いだ。侍女が茶色の硬貨を懐から取り出して、主に手渡す。ルークの所持金の管理は、一時的に侍女に任せてある

 「最近、若い武器商が鈍らを仕入れて、カウスの騎士様に売っちまったってぇ事件がありましてね。当然、鈍らを掴まされた騎士様はカンカンで」
 「ふぅん?」
「それに、武器商の対応も悪かった。話が大事になりかけた時に、かの有名なアシラッド様が仲裁に乗り出したってぇ寸法で。…………丁度今日、その話し合いをしてらっしゃる筈で」
 「呑めば呑むほど美味い酒だなぁ、もう一杯。場所は?」

 満ちる杯。侍女が手際よく、硬貨を差し出した

 「町の東にある市場。周りに目がありゃ、幾ら血気盛んな騎士様でも無茶は出来ないって事でしょうぜ。それにしても冗談の心算だったのに、乗りが良いね、騎士様」
 「美味いよ、この酒」

 ルークは朗らかに笑って、今度こそ席を立つ。別段酒精を好んでいる訳でもないルークだったが、マクシミリアンによって鍛えられては居る
 何度杯を干したところで、酔うことも無かった


――


 空気がざわついていた


 目的の市場の入り口には、見張りの兵士が居たものの、彼等は今市場の中で起こっている騒ぎを、完全に無視していた
 ルークと侍女が市場に入ろうとした時の苦り顔から、余りこの場に立ち入って欲しくないのが解る。揉め事の中心部に、カウス城の騎士が居るのだから、話がこじれては困るのだろう

 「騒ぎが収まってから話を聞いた方が良いかな?」

 難しい感じだ、とルークは呟いた。侍女が、大騒ぎしている集団を指差す

 「アレですね。カウス正位の騎士様が三人と……、銀甲冑の騎士様が……しかし、あの格好は、まるで戦場に居られるかのような装いですが」

 濃い赤のマントを着けた三人組と、一人の青年を庇うようにしながらそれに相対する銀甲冑
 三人組の方が、鈍らを掴まされた側であるのは何となく解るが、彼らの軽装と比べて、“アシラッド”と思しき者の姿は、物々しい

 鎧は完全装備で、フルフェイスの兜に、蜥蜴が描かれた盾。腰元では二本の長剣が左右で妖しく光り、重々しい鎧を装備したままで使用できるのか疑わしいが、小物入れには投擲小剣が覗いている
 白いマントをゆらゆらさせながら、鷲面の兜の中で眼光を鋭く光らせ、物々しさで言えば遠出の為に完全装備をしてきたルークよりも上だった

 「……カウス側が、殺気立っている」

 表面上は落ち着いているように見えるが、カウス側の三人組が緊張しているのにルークは気付いた
 三人の中で先頭に立つ、リーダー格の男はまだ良い。大分抑えが効いているが、後ろの二人は目をぎらつかせている

 単に、鈍らを掴まされたとか、そういう次元の怒り方ではない。腹の底で冷たい炎を燃やすような、何ともゾッとする憤りである

 「貴公、アシラッドと言うのか。よく思えば、こうして仲裁に入った貴公の名を、今まで知らなかったというのも不思議な物だ」

 カウス側のリーダー格は、焦げ茶色の前髪を握り締めて、梳くように引っ張っている。顔を隠しながら、不気味なほど冷静な声音である

 「…………失礼いたしました。何と言いますかー……つい、うっかりしておりまして」

 ルークは、間延びした女性の声に眉根を寄せた
 銀甲冑の見事な騎士振りであるが、女だ。そういえば、アシラッドの性別までは確かめていなかった
 騎士であれば男も女も皆騎士だ。カウス側もアシラッドも、立ち振る舞いは双方躊躇が無い

 能天気なアシラッドの口上を、カウスの騎士が遮った

 「貴公がアシラッドなら、蛮族討滅の英雄、ロッシ様を知っているだろう」
 「……へぇ、ロッシ・ロタス?」

 じり、じり、とカウスの騎士が動いた気がした

 「そうだ。貴公が斬った、我等の主君だ」


――


 「フランシスカ様、あれを」

 侍女がヒソヒソと、騒ぎとその野次馬から、向かって右奥を指差す。人相の悪い男達が十人ばかり、騒ぎを見守っている

 「ブラムの無頼者です。本来ならば纏めて縛り首にされても可笑しくありませんが、後ろ暗い者達の中に一応の秩序を作り上げているため、見逃した方が治安維持に使えると判断された連中です」
 「詳しいね」
 「私はブラムの出です。フランシスカ様の案内を仰せつかったのも、それゆえでしょう」

 無頼者の一人が、ぐるっと視線を巡らせる。偶然、ルークと目が合った。ルークは慌てず、不自然でないように目を逸らす

 「穏やかとは言い難い。ブラムの兵士は、動こうとしないし」
 「ブラムの商人達から守代を取っていますから、刃傷沙汰となれば黙っていません。騎士だ、何だと言って、相手を選ぶ気性の者達ではないですよ」
 「私が収拾できる事態ではないよ」
 「しかし、それを別にしても、もしこの騒ぎで罷り間違ってアシラッド様が命を落とすような事になっては、フランシスカ様はお困りになるのでは? カウスの騎士様に先ほどのレセンブラの印を見せて、アシラッド様に関しての重要な任務だと言えば、剣を収めるやも」

 ルークは眉を顰めた。そんなに上手く行く筈がない


 「どんな名君でもー……、毒婦に溺れて無辜の民を虐げるようでは、ね」
 「…………」
 「どれ程勇猛で、どれ程尊敬を集めていたのかなんて、私は知りませんがぁ、残念な事に居るんですよ」

 アシラッドの兜が傾く。左半身を後ろに引き、妖しく光る剛剣の鞘に手を添えた

 挑発している雰囲気ではない。しかし、自分の発言がどのような結果を齎すかは十分に理解しているようだった。その上で、場合によってはカウスの騎士三人組を切り捨てる事になっても構わないと判断している

 折れない剛剣は、殺す気だ

 「死んだほうが良い主君と言うのは」


 「詳しい話は良いから、結論だけ頼む。アシラッドとカウスの騎士、どちらが拙い?」
 「え、あ、それは」

 アシラッドの言葉は決定的だった。カウスの騎士達も、やる気である
 侍女はルークの言葉を上手く理解できない。噛み砕いて質問することを忘れたルークのミスだが、侍女は何とかルークの欲しい答えを出した

 「か、カウス側の騎士様達です。え、えぇと、恐らく彼らの言う…………、い、いえ、彼らの怒りの理由たる事件に関して、アシラッド様はさる高貴な御方の取り成しと、事情を鑑みて、お咎めなしとされた筈です。仇討すれば処断されるのはカウス側の騎士様達でしょう。それにこのような場所で剣を抜いては、下される騒乱罪の処分は、非常に重いかと」
 「なら、止めよう。ブラム・マフィアの連中も、イライラしている」
 「へ?」

 ルークは野次馬を強引に押しのけて、一触即発の空気の中に飛び込んだ


――


 「お待ちください!」

 カウスの騎士が、目玉だけをギョロリと動かして、ルークを見た
 緊張しきった身体はその他にまるでルークを認めようとしない。眼中に無いのだな、と悟ったルークは、更に数歩、踏み出した

 「何をしておられるのか。剣を納めてください」
 「お前は何だ? この場に割ってはいると言うなら、命を捨てる覚悟はあるのだな?」
 「このままでは、どのような結果になろうと処断を免れ得ませんよ」
 「覚悟の上よ」

 リーダー格は、後ろ二人で何時でも飛び出せる体勢にある二人に向けて、ぞんざいに首を振った

 「下がっていろ」
 「だが」
 「俺が死んでからで良い」
 「ぬ……!」

 リーダー格の言葉に、大の大人二人が息を詰まらせた。二歩後ろに下がって、居住まいを正す
 アシラッドがカウス側に習うように、後ろに控える若い商人に首を振った。しかし、動かない。足が震えているようだった
 アシラッドは若い商人の肩を強く押す。商人はうひ、と悲鳴を漏らしてたたらを踏み、腰を抜かしてへたりこんだ

 「一騎討ちが宜しいとは、中々ぁ、酔狂でいらっしゃる。しかし申し訳ないですが、百戦して百勝するでしょう、私が」

 アシラッドの言葉に、カウスの騎士が腰を落として剣を抜きかけた。直前にルークが大声を張り上げなければ、確実に抜いていた
 羊皮紙を広げて掲げ、怒鳴りつける。野次馬の輪が一歩下がる程の気迫である

 「私はルーク・フランシスカ! 主命を果たす為、アシラッド殿の助力を得たい! この印を見ても尚剣を納めないと言うなら、不名誉な処分を受けるでしょう!」
 「レセンブラの……? 何故、君みたいな子供が、そんな物を……?」

 アシラッドが、まるで緊張感の無いぼんやりとした声を上げた。ルークは顔を引き攣らせる
 なんとアシラッドが気負い無く独り言を呟きながら、平然と何事も無いかのような手付きで、あっさりと抜剣したのである

 まるで懐から財布を取り出すような気軽さであった。余りにも自然過ぎて、抜剣したのだと理解するのに一瞬の間を必要としたルークは、声も出なかった

 もう大事になるのが決まったような物である

 「死んだ方が良い主君と、死にたい騎士。両方ともスッパリと斬り捨てて差し上げるべきだと思いません? えー、ルーク君」
 「では、バヨネへはお前にも付いて来て貰おうではないか」

 カウスの騎士も、とうとう抜剣した。勢い良く引き抜かれた銀の刃が、唖然とアシラッドを凝視していたルークを掠める

 最早止める間もない。アシラッドの操る剣先が小賢しく動いて牽制するのにも構わず、カウスの騎士は切り込んだ

 掲げた長剣を、ただ振り抜く。この動作を一体どれ程繰り返してきたのか、カウスの騎士の挙動は、全てが力強い
 自身を狙う長剣を、アシラッドは慌てず騒がず盾で受けた。鈍く、重い音が響いた直後、僅かに身を引いたのか、長剣は盾の表面を滑っていく
 ルークには、スローモーションに見えた。アシラッドが構えた盾の影から、突きが来る。それは、受け流されて地面を叩いたカウスの騎士の長剣と接触し、ほんの僅かな火花を散らして、それの使い手の脇腹を抉った

 灰色の布切れと、鮮血が舞う。カウスの騎士は僅かに身体を捩っていた。内臓を著しく傷つける筈であった一撃は、掠り傷をつけた程度であった

 「やめ、止めないか! それが軍人のする事かァ!」

 ルークの静止を聞くような性格であったら、そもそもこうはなっていないだろう。ルークの目の前で紅いマントが翻る。カウスの騎士が身を引いて、其処をアシラッドの剣が真一文字に落ちてゆく
 石畳に食い込んだ刃は撓みもしない。アシラッドが剛剣を跳ね上げた時、砕けた石畳の欠片が飛礫となってカウスの騎士の顔面を打った

 しかし、動じない。互いが冷静に一歩引き、剣を突きつけあう

 「若き騎士よ、ルークと言ったな。下がるが良い。一騎討ちだ、最早止まれん」

 腕を組んで控える騎士の片割れが、真一文字に結んだ口を開いた。何を、と思いはしたが、ルークは首を振り、静かな佇まいを取り戻す

 「貴方達は、ここを自分の屋敷の庭か何かだと思っていませんか。市井で剣を抜き、人々を騒がせ、更には私闘を行うなどと」
 「意地がある。我々は意地の為に死んでも良い」

 ルークは内心、唾を吐きたい気持ちであった。そんな風に思うのは、ルークは生まれて始めてである。この騎士ども、開き直ってやがる
 これが、悪意と計算を以って行う奴らなら、幾らでも見てきた。しかし、この騎士たちの無垢さはなんだ

 開き直った側は自分の思うままをやれて良いかも知れないが、周囲はそうもいかない。意地があるから仕方ないだなんて、仕方ない、で済むのは、当人達だけだ

 「流した血が垣間見えるような……、冷徹で剛直な剣の冴えですねぇ。……ですが、貴方を斬ります」
 「ふん」

 アシラッドが盾を捨て、剛剣を両手で握り締める。そしてそれを、ふ、と掲げた
 次の瞬間には、カウスの騎士へと切り込んでいた。先程までのそれとは、明らかに違う。踏み込みの早さも、深さもだ
 カウスの騎士は、咄嗟に剣を掲げた。篭手を刃の部分に押し当て、アシラッドの切り下ろしを防御する

 アシラッドの剛剣は、その防御を真っ二つに割っていた。正に剛剣と言う二つ名に相応しい一撃であった

 「く……お……!」

 カウスの騎士の胸元が裂けて、夥しい量の血が流れ出す。咄嗟の防御が、カウスの騎士の命をギリギリの所で繋いだ
 二歩、三歩と後ろに下がり、傷を抑えて膝を着くカウスの騎士。自嘲していた。死の覚悟と言う奴だろうか、嫌な目つきだった

 もう此処までだ、とルークは溜息を吐いた。血まで流れた。これ以上は仕方ないだろう

 アシラッドが止めを刺そうと歩き出す。ルークは羊皮紙をしまって、その道を塞いだ


――

 後書
 デモンズソウル。後はわかるな?
 流石フロムだ。


 …………サーセーン


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