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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:67fcfa04 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/26 11:46
 レッドが倒れこむのと同時に、亡霊軍団は消え去った

 「残念だったなぁー、ガランレイ。お前が俺にふざけた真似さえしなけりゃ、お前の願いは叶ったかも知れんのによぅ」

 ゴッチはゆっくりと威圧するように近付いていく。壁に背を預け、動かない四肢をジタバタさせるガランレイは、奇妙な声を上げて笑った

 「イイィィー」

 ガランレイの笑みは、赤子のような笑みであった。強烈な気味の悪さを伴う笑い声に刺激され、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたティトが、立ち上がる

 「斬るか?」
 「斬りたいんか?」
 「うーむ、亡霊を切る手応えは、存分に味わったからな……」

 受けた刀傷の度合いを確認しながらゼドガンが言えば、へろへろになりながらも這いずってきたレッドが言い返す。ゼドガンは、頻りに顎を撫で擦っている

 「でも、兄弟が鬱憤を晴らしたいってよ。何が相手でも、容赦しないだぜ、あの様子じゃ」

 レッドが言い終わる前に、ゴッチの爪先がガランレイの鳩尾に減り込んでいた

 「コイツは何日も俺に張り付いてぇ、イライラさせやがった分!」

 相手は幽霊だったが、確かにダメージは通っている。まん丸に目を見開いたガランレイの頭部が、蹴られた反動でがくりと下がる

 人中に炸裂する膝。幽霊だからか、肉体にはっきりとした破損は見受けられないが、聞くに堪えない悲鳴が上がった

 「コイツは夜中に襲われた分!」

 石壁にガランレイの後頭部が叩きつけられて、鈍い音がした。矢張り、がくりとおちてくる頭部
 ゴッチはそれを右手で鷲掴みにした。ギリギリと握り締めながら空中に吊り上げ、そして壁に叩き付けた。何度も何度も叩き付けた

 「腐った死体に噛まれた分! スーツに穴ぁあけられた分! クルデンとか言う骨野郎に舐められた分!」

 そして最後に、両手を添える。右手は頭を握り締め、左手は首を締め上げた

 「でぇ、隼団に楯突いた分だ!」

 激しい放電。ガランレイがビクンビクンと痙攣する。ゴッチは手加減しない。三秒、六秒、まだ止めない

 雄叫びを上げていた。頭上に持ち上げて、更に放電。その後、地面に叩きつけて、またもや放電
 最後にヤクザキックで蹴り転がすと、ゴッチは唾を吐いた。ガランレイは声すら出せず、えびぞりになって痙攣している

 その時、全く油断していたゴッチの左脇から、槍の穂先が伸びた。ロベリンド護国衆の神槍が、白い柄を輝かせて、ガランレイの胸を貫く

 おぁ、とゴッチが慄く。背後には、激しい怒りを瞳に湛えるティトが、歯を食いしばっていた

 「これが、バースを、私の部下達を殺した分……!」


――


 胸を貫く銀の光に、ガランレイは顎を震わせる。笑みは消えていた。身体の末端から、黒いローブごと、ガランレイは砂になって解けてゆく

 黒い霧が宙に漂い、今にも消えてしまいそうなそれは、ゴッチの目の前の通路に吸い込まれていった。レッドが足を震わせながら立ち上がり、走り出す

 「追っかけるだぜ! ガランレイは瀕死……えー、もう死んでるけど、兎に角追い詰められてる! 奴の逃げる先に、アシュレイが居る筈だぜ!」
 「しぶといったらねぇな。一応ぶっ殺す心算でやったんだが……」
 「気を抜くなよ、追い詰められるほどに、苛烈になってゆく物だ」

 ゴッチは走り出す直前に、疲れきったように膝を折るティトの首根っこを引っつかんだ
 ぶらぶらと、されるがままに揺られるティトは、顔面を蒼白にしている。仄暗い通路を先頭切って駆け抜けながら、ゴッチは眉を顰める

 「なんて面ぁしてやがる」
 「……」
 「兄弟」

 ゴッチと並走するレッドが、首を振った。複雑な表情をしていた
 レッドは手の甲でティトの頬に触れると、目を背ける。堪えきれなくなったか、ティトは涙を流した

 「手前の足で走れよ」

 放り出すゴッチ。ティトは危うく躓きかけたが、踏み止まって怪しい足取りながらも走り始める。前も同じようなことをしたか、とゴッチは首を傾げた

 ゴッチは何も言わなかった。人の生き死には、当然だが、理屈でない。恐らく死んだのであろうバースの厳しい顔が、脳裏を過ぎった
 逝ったか。いけ好かねぇ手合だったが……。特に良い気持ちには、ならなかった

 一行はレッドに急かされるようにして走った。レッドが何か言う訳ではなかったが、真剣に焦っているレッドの様子が伝染し、皆が焦る
 荒い息遣いと足音だけが響く。グルナーは、よく付いて来ている。レッドやティトの代わりに、ゼドガンが気を使ってやっているようだった

 「へ、なんか感じるぜ、ゾクゾクする」
 「また光が漏れてるだぜ。……兄弟、俺も何か、ヤバイ気がする」

 転がる小石を蹴り飛ばしながら走っていると、毎度のように前方に光が見えた
 ゴッチは、うなじに冷風を感じたような気がした。悪い予感だ
戦闘に次ぐ戦闘で、ゴッチの直感はビンビンである。ゼドガンに目配すれば、ミランダの偉大な剣は意味ありげに瞳を細める

 「……コバーヌの炎か。コイツがありゃ、バースなんか一発で生き返るんじゃねーの?」
 「おー、兄弟、あったま良いだぜ」

 道は途切れていた。下方には、青白く光る湖面
 ゴッチには見覚えがある。最初にボー・ナルン・クルデンと対決した、コバーヌの湖の広場だ

 ティトが肩を震わせる。もう、泣いているのでは無かった。無理矢理、笑っていた

 「ふふ……。きっと駄目だよ。バースはそういうの、嫌いだから」


――


 広大な空間の、七割程がコバーヌの炎の湖である。ゴッチは少し前を思い出した。あの時は、ダージリンの魔術で湖を渡ったが
 今回はどうするか。落下すれば即蒸発である。道はないし、跳躍して突破できるような距離では、到底無い

 ゴッチは湖を眺めて、直ぐ異常に気付いた。湖に、人が一人浮かんでいたのである
 少しばかり距離があって年齢等は判別できないが、確かに人間だ。全裸であるらしい。ゴッチが言うまでもなく、他の面々も気付いたようで、息を呑む様子が伝わってくる

 「コバーヌの炎ってのは、何でもかんでも溶かしちまうんじゃなかったか?」
 「……つまり、もう、精製が済んじまってるんだぜ。コバーヌの炎改め、コバーヌの秘薬って訳だ」
 「? ……その、コバーヌの秘薬ってのが完成しちまうと、アシュレイってのが復活しちまうんだろう。それなら」
 「あー、そうだぜ。……もう復活しちまってるか、その寸前って所だぜ」

 レッドは頭を振って、何処からか、端に杭のついた鎖を取り出した。相当の重量で、かつ嵩張る代物だが、何処に持っていたのかゴッチには全く解らなかった

 レッドは杭で地面を突いた。ほんの少しだけ、土に埋まる杭の尖端。レッドが、ん、とゴッチを見る
 肩を竦めた後、ゴッチは前触れ無く拳骨を振るった。尻をぶったたかれた杭は全身を土中に埋没させ、それを確認したレッドは、鎖を湖へと垂らす

 ギターを背負い直して、レッドは半ば飛び降りるようにして鎖による降下を敢行した。ゴッチが焦ったように声を上げる

 それなりの勢いが付いていたが、レッドは大きな水音を立てつつも、危なげなく着水した。と言うか、着地した

 「はぁ? 何だと?」

 そこで漸くゴッチは気付いた。湖の水位が、以前よりも大幅に減少していたのだ

 「待てよ!」

 ゴッチは鎖も使わず飛び降りた。矢張り激しい水音を立てて着地。水嵩は、十センチを越えるかどうかと言ったところだ
 異常は無い。煙が上がって靴が燃えたりする訳でも無いし、痛みがある訳でも無い。強いて言うなら、ただの水と比べて遥かに粘性が高かった

 「兄弟、油断するなよ」

 ずんずんと歩くレッドに並ぶ。湖中央に浮かぶ、人影を目指した

 ゼドガン達も追って来る。ばちゃばちゃと比較的軽い足音がして、グルナーが真っ先に追いついた
 そのときにはもう、人影を細部まで判別できる距離に居た。黄金色の髪の、美しい少年である。華奢な小顔が、すっきりとした眉毛のせいで、なお小顔に見えていた

 「ハーセ様だ!」
 「兵隊長とか言ってた? あん? うーん……。どっかで見たような面だな」

 ゴッチとレッドに追いついたグルナーは、そのまま二人を追い越していく

 ハーセが浮かぶ場所だけ、湖底がくりぬかれたように水深が深い。レッドの表情は、険しかった

 「どうしたんだよ、オイ。急にイライラしやがって」
 「……ひょっとすると、……ガランレイは、アシュレイの肉体の保存に、失敗したのかも知れない、だぜ」
 「あぁ?」
 「確かにコバーヌの秘薬は万能だぜ。治せない傷も、病も無い。死体に魂を固着させるのだって、楽勝さ。骨片一つからでも命を復活させるだろう。でも、肉片一つすら、骨片一つすら無いのであれば、無理だぜ。無い物を作り出すことは出来ないだぜ」

 レッドが早足になって、グルナーの首根っこを掴む。コバーヌの秘薬に浮かぶハーセに、グルナーは手を伸ばしていた
 レッドの表情は、目まぐるしく変わった。険しいと言うよりも複雑であり、何かを必死に探り、思案していた

 「何をするんですか! 放して!」
 「黙ってろグルナー、コイツにゃ、何か思うところがあるらしい」
 「記録によれば、アシュレイ・レウは色の濃い金髪で、かなりの長身だぜ。でも、成人するより以前は肉体の発達が著しく未熟で、実年齢よりも幼く見られることが多々あったそうだぜ。そのせいで、二度ほどいざこざも起こってる」

 レッドは、改めてハーセを見つめた。其処にハーセの事を案ずるような意図は無い
 ゴッチにも、レッドの言いたいことが何となく察せた

 「丁度、この、ハーセって奴みたいな感じだったんじゃねーかな、若かりし日のアシュレイ・レウってのは」
 「……幽霊ってんだ、とり憑くくらいは、朝飯前ってか?」
 「ど、どういうことだ? 何を言ってるんだよ」

 ざわざわ、ざわざわと、背中が騒ぐ。うなじに手をやれば、毛が逆立っていた
 ティトが寒気に耐えるかのように、己の腕を合わせて肩を抱いた。ハーセをジッと睨んで、冷たい視線を外さない

 コバーヌの湖で輝く青白い光が、明滅した。身構えたゴッチの視線の先で、ハーセと呼ばれる少年が、うっすらと目を開いた

 「な、お」

 グルナーが声を発そうとして、しくじる。呼吸もろくにできない、異様な雰囲気がある

 コバーヌの湖の水面に、ぼやけた映像が映る。巨大な湖一面に映りこんだ物だから、全容を把握するのに一拍の間が必要だった

 磨きこまれた大理石の床、精巧な彫刻の施された柱
 王城の一室であった。ゴッチは王城など見た事は無いが、城を改装して再利用している博物館は知っていた。この水面に写る光景は、それに酷似している

 『認められませぬ。国を売るべからず。不正ただすべし。悪法改めるべし。無辜の民を慰撫されたし。罪人に正当な審議と罰を。冤罪人に正当な審議と温情を』
 『この私が、道を誤っておると申すか。こうまでするとあらば、命は捨てておろうな』
 『ここに証の揃う者は、全て誅殺した後でございますれば、とうに命は捨てております』
 『犬め! 分を超え、驕った馬鹿者め!』

 静かな威圧感を持って、責めるような声。それを受けて、痩せ細った王は、瞑目しつつ怒声を放つ
 腹の前で組まれていた両手が解けた。骨と皮だけに等しい右手を、王が掲げれば、水面に映った光景が振動する

 無様に這い蹲った。大理石の床に、何者かの血が落ちた

 「これは、アシュレイの?」

 視線が持ち上がる。再び、王を捉える。傍らに、一人の弓騎士が立っていた

 『リコンの魔弓』
 『アシュレイ、お前を騎士として厚遇したのは、我が国千年の汚名ぞ。お前の兵どもとて同じよ、千年の汚名ぞ』
 『馬鹿な、我が兵は……。忠勇随一の……』

 もう一度、振動。今度は視界が浮き上がり、高い天井を向いた。額を射抜かれたのだ
 水面はそこで暗くなる。光景は消え、青白く光る湖のそれに戻った。一筋だけ、波紋が起こった

 湖の外側から、中心に浮かぶハーセを目指すようだった。その青白い波紋を受け止めた時、黄金色の少年は、天を掴むように手を伸ばした

 「は、ハーセ様」
 「違う」
 「え?」
 「もうハーセじゃないだぜ」


――


 コバーヌの湖の中から、ガランレイが姿を現した。つい先ほど輪郭を失うほどに痛めつけた筈だが、既に復帰している
 ガランレイは、愛しげにハーセの伸ばした手に縋り、艶めかしくその裸体に絡む

 眩暈がする程、淫靡な仕草であった
 狂っていても、愛しい者は愛しいようだ。元々これがガランレイの悲願にして、狂気の原因であれば、寧ろ当然だった

 「反逆の咎、千年の汚名。確かに事実。確かに」

 だが、しかし、それでも

 そう消え入るような声で呟く少年は、既にハーセではない
 “暴れ竜”と恐れられた竜騎士。アシュレイ・レウであった

 レッドは、グルナーを後ろに追い遣った。誰もが、ゴッチですら沈黙する中で、レッドが頬を掻きながら、アシュレイの名を呼んだ

 「アシュレイ・レウ」
 「俺の名を呼ぶのは誰か」
 「レッド。愛の魔術師」

 アシュレイが両手を下げて、顔を覆った。ガランレイがアシュレイの肩を引き、ぽっかりと開いた湖の空洞部分から、その白い肉体を引き出す

 「アンタは……偉大な男だと思うんだぜ。その……アナリアが憎いか?」

 顔を覆ったまま返される応え

 「憎い」
 「ま、そうだよな……。でも、時代は変わったんだぜ。アンタを殺したブレーデンは当の昔に死去したし、アナリアは蘇った。もう、何もかもが違うんだぜ」
 「嘘だな。魔術師」

 ゆらり、とアシュレイは立ち上がった。裸である事への羞恥で気を取られるほど、小胆ではないようだった
 青い瞳は剣呑な光を宿していた。敵意が見て取れていた

 「何も変わっていない。二百年、それほどの時の中で、ただ貶められ続けた我等の名」
 「気持ちは解る! 俺だって、きっと我慢できねーもん! でもさー!」
 「俺自身の事ではないッ!」

 衝撃が起こり、水飛沫が上がる。一糸纏わぬ姿のアシュレイに黒い霧が纏わりついたかと思うと、見る見るうちにそれは輪郭を成し、黒い鎧へと変貌した
 黒い鎧は、何かの鱗で編んであるようだった。ゼドガンの身に着けている物と同じ、足首までを覆う腰巻には、ゼドガンに習うのであれば、暗器が仕込んであるに違いない

 お手軽なお着替えだことで。ゴッチは前に出て、レッドを背に隠した。ゼドガンがそれに習い、ティトが唾を飲み込みながら槍を握り締める。何度繰り返した動作か

 「国の為に、常に最も過酷な戦場で戦い、命すら投げ打った我が兵達が、裏切り者の汚名を受ける……!」

 ゼドガンが苦い顔をしていた。何時も飄々としているゼドガンらしくない、ゴッチの初めて見る表情であった
 ゼドガンには、アシュレイの心が解るらしい。泣きそうにすら、見えた

 「許せるものか!」

 歯を食いしばるレッド。いきり立つ肩を、ゴッチは抑える
 ゴッチの静止をも意に介さないレッドだが、無駄であった。アシュレイは、心底に怒りを飲み込んでいた

 「聞け! 聞けだぜ! アシュレイ!」
 「黙るが良い、魔術師! お前の言葉は、まやかしと大差ない!」

 もう一度、黒い霧。今度現れたのは、真紅の槍だ。アシュレイは、己の身長程もあるその大槍を容易く振り回し、穂先を水面に向ける
 空気が爆ぜ、水飛沫が上がった。一瞬だけ露出し、直ぐに水に沈んだ地面は、何かに抉られていた

 「レッド、お前、五月蝿ぇーよ」
 「……兄弟」
 「それでも男か? 解ってねーな。奴は今、意地張ってんだぜ。お前如きが賢しらに何か言った所で、収まるかよ」
 「あぁー! もう、結局こうだぜ!」

 並び立つアシュレイと、ガランレイ。ゴッチは、右の拳と左の掌を打ち合わせた


――


 「ゼドガン、餓鬼どものお守りを頼む」

 カァァ、と大口開けて、ゴッチは息を吐いた


 古の英雄とレッドが手放しで賞賛したアシュレイ・レウ。なるほど、確かに青白いながらにも表情には気迫があり、立ち居振る舞いは堂々としている。ハーセの肉体そのものは、華奢で頼りない少年のそれであるが、中身がこうだと、そんな事は全く気にならなかった

 ゴッチは親指で首を掻き切る真似をする。向けられる槍の穂先。突きつけた左の拳。射抜くような双方の視線が、火花を散らして交差した

 「国の為? 兵どもの為? ケ、手前もかい」

 突きつけた拳から、親指だけがピンと起き上がり、地面へ向く。地獄に落ちろ

 「反吐が出るぜ」

 アシュレイは、ゴッチの言葉には、呑まれない

 「お前如きごろつきには解らぬだろうよ」
 「……偉そうなもんだ、何処かで見たような面で、何処かで聞いたような口調で話しやがる」

 ゴッチの視線、アシュレイの視線。互いに視線交し合って、互いの米神に浮かぶ青筋。拳と槍、二人は同時に得物を振った

 「デュエル!」


――


 穂先は、実を言えば、ゴッチには全く見えなかった。アシュレイが最初に放った突きの一撃からして、既に必殺であった

 ただ、ゴッチの体に染み付いた右ストレートの動作。それがゴッチを救った
 低い体勢から、伸びる足、伸びる膝。ゴッチの頭を狙った筈の突きは、ゴッチの筋肉によって盛り上がったダークスーツと、右肩口の肉を削り取り、そのまますり抜けて行く
 ファルコン特注の防弾防刃スーツは、全く役に立たない。しかし、カス当たりであった
 そこからは、ゴッチ。伸びる背、伸びる肩、伸びる腕、握り締められた右拳
 体を斜めに曲げ、腕の関節を槍に絡めるようにして、右手の甲が己の顔を向く程の捻りを加えた一撃

 こちらもまた、アシュレイの頬を掠めただけだった。互いに互いの攻撃は外れたし、また避けたのであった

 「――ぬ!」

 刹那の交差の後、アシュレイは体を引いた。逆に、ゴッチは離さんとばかりに食らい着いていく。間合いを離されたら、次も槍を避けられるかどうかは、微妙だ

 ゴッチの両足が、両方とも湖から離れる。左は折り曲げて、右は伸ばしきる
 黒いスラックス、黒い靴に包まれた足が、眼にも留まらぬ黒い影になってアシュレイに迫った。気合の乗った蹴りだ。この蹴りで、鉄の壁を抜いた事もある

両肩を振り回して、上半身を捻った。これは、反動を付けて蹴りの威力を増すと同時に、無防備な顔面への攻撃を防ぐゴッチ独特の癖だ。二の腕で視界が狭まってしまう弱みもあった

 果たして、渾身の蹴りはアシュレイの胸板に直撃する。助骨を粉砕して、人体の重要な臓器を破壊する凶悪な蹴りだったが、しかしアシュレイはそうならなかった
 黒い鱗の鎧が鈍い光を発し、蹴りの威力の大部分を受け止めたのである。アシュレイは俄かによろめいただけで、ゴッチは罵声を上げながら、振り下ろされた槍に叩き伏せられる

 咄嗟に両腕で体に引き寄せて、薙ぎ払われた槍を防御したのが幸いした。コバーヌの湖の中を転がったゴッチは大した怪我も無く、舌打ちしながら悠々と立ち上がった

 鎧だけじゃねぇ

 「何かタネがあるな」

 アシュレイの身体能力だった。アシュレイが乗っ取ったハーセと言う少年の身体に、自分と渡り合えるだけのポテンシャルがあるとは、ゴッチはどうしても思えなかった
 何かで水増ししている。今になっては、開き直った、今更どんな仕掛けがあろうと、驚きはしないし、構わない

 「どうした、来いよ!」

 ゴッチの挑発に乗って、アシュレイが迫る。槍を振りかぶるよりも早く、ゴッチはコバーヌの秘薬を蹴り払った
 粘性の高い水が蹴り上げられ、目くらましになる

 「下手を」

 アシュレイは、小細工に動じるような男ではなかった。飛沫に激しく顔面を打たれながらも、怯まず槍を突き出す
 だがゴッチは、別にアシュレイに動揺して貰わなくても良かった。神速の切先の狙いが、僅かにでも神妙さを欠けば、それで十分だった

 コバーヌの秘薬の中に手を突っ込んで、這い蹲るような低さで、ゴッチは槍を掻い潜っていた。槍を見切れないと踏んだゴッチが取った、苦し紛れの足掻きであった。果たしてそれは成功した
 槍が引き戻されるよりも早く、ゴッチはタックルを敢行する。ゴッチの肩が、アシュレイの腰と激突した。ゴッチは、顔色を変える

 重たい。ゴッチとて、尋常でない怪力の男である。アシュレイはそれを真正面から受け止めていた
 ゴッチは笑った。体勢を整えて、ゴッチを押さえ込もうとするアシュレイ。その懐で、するりと身体の向きを入れ替える
 アシュレイがこれまでに、どれほどの数の敵と戦ってきたのかは解らないが、懐に潜り込んできた後に背中を曝け出した者は、皆無だったに違いない。反応が遅かった。強靭なゴッチの両腕が、槍を保持するアシュレイの手に絡みつく

 一本背負い。世界がぐるん、と一回転する。ゴッチはコバーヌの湖の中に、アシュレイを叩き付けた。舞い上がる飛沫と、広がる波紋

 「どんな気分だ?」

 仰向けのアシュレイの顔面に向けて、ゴッチは拳を振り下ろした。この不可思議な鎧で威力を殺がれてしまうなら、ここはどうか
 しかし、的中せず。首を僅かに動かしたハーセの、米神を抉られながらも挑みかかるような表情。ゴッチの拳骨は、水飛沫を上げただけだった

 胸倉にアシュレイの手が伸びた。抗う暇も無い。引き摺り下ろされて、ゴッチはコバーヌの秘薬で顔を洗う羽目になった。口内に侵入したコバーヌの秘薬の、妙な甘ったるさに顔を顰め、ゴッチは立ち上がろうとする

 しかし、ゴッチがコバーヌの秘薬を吐き出している内に、アシュレイは起き上がっていた。振り上げられたアシュレイの槍は、容赦なくゴッチの後頭部に振り下ろされる
 衝撃と激痛。再び、ゴッチはコバーヌの秘薬の中に顔面を突っ込んだ。ゴッチでなければ死んでいた。死ななかっただけで、流石に今のは痛打であった

 「兄弟!」

 レッドの悲鳴が聞こえた。ゴッチは怒鳴り返す余裕も無く、這いずる様にして距離を取る。黒く染まりかけた視界が、色を取り戻す

 仕切り直し、といった風情で、アシュレイが槍を構えなおした。ゴッチは、ダークスーツと下のシャツを脱いで、赤い裸身を晒した。手足が痺れて満足に動かなかったが、ピクシーアメーバの回復力で、それも急激に治まりつつある

 「半端じゃ、やべぇか」

 電流を使えないのがネックであった。コバーヌの秘薬が電気を通すのかどうか、全くの不明だ
 一歩間違えば、ゼドガンも、ティトも、グルナーも、ただでは済まない。レッドだけは或いは自力でどうにかするかも知れないが

 「ケ、足手まといなんだよ……!」

 もう一度、コバーヌの秘薬を蹴り上げる。二度目とあっては、殆ど効果は期待できないであろう目くらましだ
 ゴッチの予想したとおり、全く効果は上がらなかった。アシュレイは一歩引いて腰を落すと、ゴッチが飛び掛ってくるのを冷静に待ち受けていた

 迎撃の準備が出来ている事は解っていた。しかしゴッチは、それでも己から襲い掛かる。煌く切先がゴッチに向かって伸びた。相も変らぬ速さの突きに、全ての神経が吸い寄せられていく

 脱いだスーツをくしゃくしゃに丸めて、右手に握り締めていた。ヒュ、と息を吸い込んでゴッチはそれを前に突き出す
 確かに、アシュレイの槍と技は異常だ。しかし、乱暴に丸められた防弾・防刃のスーツは、今度こそそれの突破を許さなかった

 スーツ越しに真紅の槍の穂先を押さえ込み、腕力に任せて引っ張る
 アシュレイとて、軽々しく己の得物を手放す男ではない。全身に力を籠めて抗おうとするが、体勢が悪かった
 苦々しい呻きと、堪える様な表情。アシュレイ・レウの、必死の形相である

 「ぬぁぁ」

 ゴッチの肉体が、音を立てて硬直した。槍を抑え込んだまま、宙を貫くような前蹴り。身体を横倒しにしてグンと伸びたそれ

 「マッハキィック!!」

 こればかりは、避けようがない。前に引きずられたかと思えば、そこに突っ込んでくる冗談のような速度の靴底。アシュレイの額を、ゴッチの蹴りは射抜いた。正に射抜いた、と表現すべき、弾丸のような蹴りであった


――


 コバーヌの湖の中に倒れこんだアシュレイに、ガランレイが取り縋る。見事に五メートル以上も蹴り飛ばされたアシュレイは、首の骨を損傷していた

 鎧の無い部分までは、インチキな防御力も無いようだ。ゴッチは油断無く身構えながら、満足げな笑みを浮かべた

 「楽しい時間は早く過ぎるもんだが、二分足らずってのは短すぎねぇか?」
 「兄弟……すっげぇよ、マジで。吃驚しただぜ」

 ほ、と息を吐くようにレッドが言った時、そこで漸くゴッチは構えを解いた
 槍に巻きつけたスーツを握り締め、乱暴に振り回す。スーツが槍から解けて、ゴッチは咄嗟にそれを握り締めた

 途端、掌に高熱を感じて、ゴッチは声を上げて槍を投げ捨てた

 「ぐお?! 何だ、クソッタレ」

 槍に触れた手が、赤黒く変色していた。流石死に損ないの持つ槍だ、とゴッチは悪態を吐く

 真紅の槍は、ぶるぶると震えていた。他に何とも言い表す方法が無い。怪しげに震えていたのである
 吸い寄せられるようにして、倒れたアシュレイの手へと戻っていく。ゴッチは再び身構えた。アシュレイが、意味不明な言葉を放った

 「まさか、卑怯とは言うまい」

 アシュレイに縋っていたガランレイが、仰け反るようにして白い喉を晒した。周囲を黒い霧が取り巻いて、コバーヌの湖が怪しく輝く

 「馬鹿な、首の骨が、完全にイカれてる筈だぜ……」

 唖然と呟くゴッチの視線の先で、アシュレイは再び立ち上がった。ゆったりとした挙動で、コバーヌの秘薬を滴らせるアシュレイは、不敵だった

 「あちゃー…………、コバーヌの秘薬だ。なんてこったい、ここに居る限り、アシュレイは正に不死身だぜ」
 「ジリ貧って事かよ。コバーヌの秘薬は、俺達には使えねぇのか?」
 「精製したのはガランレイだぜ。ガランレイの魔力にしか反応しない」

 じゃあ仕方がねぇ。ゴッチはアシュレイに中指を立てて見せた

 「妙に大人しいと思ったんだよあの気違い女。レッド、ゼドガン、ガランレイから仕留めるぞ」

 ゼドガンが苦笑しながら前に出る。表情こそ落ち着いているが、待ち侘びていたようだった。負傷して尚、戦好きである
 ティトが、槍を振ってその後ろに続いた。ティトの視線は、レッドに何も言わせなかった

 「ティト」
 「この槍ならば、やれます、レッド様。父上やバース達が私を助けてくれている。私も行かねば」
 「頑固な娘なんだぜ。立派に育ったな、ティト」

 ゴッチが肩を竦める。心にもない謝罪の言葉を口にした

 「悪いな、アシュレイよぅ。四対二になっちまった。だが」

 四人が並び立つ

 「まさか、卑怯とは言わんだろ?」


――


 一斉に走り出した。コバーヌの秘薬を蹴り払いながら、矢張り身体能力に最も優れたゴッチが先行する
 アシュレイが槍を引いた。己の直感と運を頼りに、ゴッチは急停止する。伸びる槍。ゴッチの眉間を貫く一cm前で止まった。間合いの限界であった

 「見切ったぜ」

 刹那の間、睨み合う

 ゴッチがべぇ、と舌を出して、体を振り回した。回し蹴りが槍の穂先を打ち、アシュレイの体勢を大きく崩した
 見計らったようにゼドガンが飛び込む。右手一本で御された大剣が、一直線に振り下ろされた
 身を捩るアシュレイ。大剣が、コバーヌの湖面を叩く。そして、間髪入れず跳ね上がる

 真紅の槍がそれを受け止めた。アシュレイにも意地があった。流石、とゼドガンは口端を持ち上げる。些か、残念そうであった

 「万全の状況で、一対一で競り合いたかったが」
 「武の為に武に生きるか。嫌いではないぞ」

 ゼドガンは体ごとぶつかって、受け止められた大剣を押し込む。闘いの技術とはつまり構えだ。構えが崩れているアシュレイは、人外の膂力をもってしても堪える事が出来ず、押し切られた

 更に追撃、と襲い掛かろうとしたゴッチとゼドガンを阻む為、ガランレイが現れる。コバーヌの湖から滲み出るように出現したガランレイに、二人はたたらを踏んだ
 ガランレイの持ち上げた右手が、二人の目と鼻の先で暗く輝いていた。ざわ、とうなじが震える感覚に、ゴッチは必死で体を引き、両腕を交差させて防御姿勢をとる

 待ってましたとばかりに、レッドが滑り込んできた。レッドは疲労の色を隠しきれていなかったが、必死に雄叫びを上げていた

 「ひゃっほぉー! だぜ! こっちを見ろォォー!!」
 「イイアァァー」

 ガランレイが円を描くように手を振り回す。暗い光は空中に尾を引いて、闇色の陰気な円陣を作り出した
 その中心に、ガランレイの白い指先が、微かに触れる。その瞬間、黒い円は墨を垂らしたかのように黒く染まった。底の知れない穴のようにすら見えた

 「ぶつけて来いだぜ! 怒りも、憎しみも!」

 青白い光が散らばる。ギターを抱きしめるように掻き鳴らすレッド
 ガランレイが、もう一度手を振った。黒い穴が波打って、黒い獣の大顎が現れた。黒い霧で象られた牙と顎だけの獣が、レッドに食らいついていく

 青白い光が目を焼くようだった。大顎の獣の暴力に、レッドの魔術が抗っていた
 噛み砕こうとする大顎と、それを受け止める青白い光。バチバチと火花を散らして、鬩ぎ合う
 ガランレイが己の胸を掻き毟って、赤子のような鳴き声を上げた。黒い大顎がより大きく、鋭い牙はより鋭くなっていく
 レッドはピックを口に銜えると、ギターの弦を直接指で叩き始めた。ギターは青白い電流にも似た力を垂れ流す。それが弦を叩く度にレッドの親指を焼いて、何度も叩かない内にレッドは出血した。ブラッディチョップである

 ジリジリと押し合い圧し合い、ガランレイとレッドの間が少しずつ広がっていく

 レッドは歯をむき出しにして泣き言を言った

 「ぬわぁー!! 駄目だ、保たねぇぜぇぇー!」

 其処に漸く到着したのが、ティト・ロイド・ロベリンドである。レッドは苦痛に塗れた表情をふ、と消して、ゴッチを真似た心算か、べぇ、と舌を出した

 「なぁーんちゃって」

 バックステップ。レッドが後退する。入れ替わるようにしてガランレイの眼前に躍り出たティトは、バクンと閉じた口内に獲物を取り逃した大顎へと、槍を突き出した

 「槍よ、槍よ」

 ロベリンドの槍に貫かれた黒い大顎は、のた打ち回って霧散した。ティトは、もう一歩踏み出す

 青白い光がティトに追随していく。一瞬だけ、輪郭の薄い人型を形成したように見えた。ティトの父を、バース・オットーを、その配下達を、一瞬だけ形成したのであった
 ティトが腰を落として槍を構えなおした。ロベリンドの槍が輝いた

 「魔術師、取ったぁ!」

 アシュレイがティトに迫った。みすみすガランレイを討たせる心算は無いようであったが
 それと同時に黙っていないのがゴッチである。ティトを叩き伏せようと槍を振り被るアシュレイに向かって、両手を広げて突進していく

 「その槍は……! 好きにさせるか!!」
 「させるぜぇ?!」

 今までとは打って変わって、簡単にゴッチはアシュレイの槍を掻い潜った。アシュレイに取ってもゴッチは、他所に気を取られながら相手を出来る男では無かったのである

 鉄拳がアシュレイの胸に突き刺さる。暗い光がまたもや威力を殺いだ。ゴッチはぎゅう、と肩を引くと、もう一度拳を繰り出した
 先程の鉄拳と、寸分違わず同じ場所に突き刺さる。アシュレイは血を吐いた。しかし、アシュレイの視線は、ティトの槍しか見ていない。ゴッチは眼中になかった

 ティトが槍を突き出す。同時に、アシュレイが苦し紛れに槍を振り下ろした。ゴッチの妨害で、突けなかったのである
 ティトが真紅の槍に叩き伏せられるよりも、ロベリンドの槍がガランレイを貫くほうが、僅かに早かった

 ガランレイの絶叫が上がる。纏った黒いローブの末端が、さらさらと砂のように解けて行く
 豪槍に肩の骨を砕かれ、コバーヌの秘薬の中に叩き伏せられながらも、ティトはガランレイを貫いた手応えに、満足の笑みを浮かべた

 「ガランレイ!」
 「女に気ぃ取られてっと、殺っちまうぞ!」

 三度目の拳。ゴッチもいい加減、忍耐力の限界である。元よりそんな物は皆無に近いが
 ゴッチの拳は、決して手加減された物ではない。それを一発、二発とまともに受けて、平然としていやがる。血は吐いたが
 自慢の拳だ。頭に血を上らせるには、十分過ぎる理由だった

 メリメリとゴッチの筋肉が盛り上がる。雄叫びと共に繰り出された拳を、アシュレイの鎧はまたもや受け止めるかのように見えた

 そうは、ならなかった。黒い鱗の鎧は爆ぜて、アシュレイは吹き飛ばされる。拳を振り抜いた姿勢で結果を確かめたゴッチは、ガッツポーズを決めて見せた

 「……やれやれ、出る幕が無かったな」

 大剣を一振りして、ゼドガンが残念そうに言った


――

 後書

 ただ戦闘シーンが書きたかっただけー。

 昔は、ssとしては詰まらなかったとしても戦闘シーンは面白い物が書けるようになりたかった。両方良ければ尚良いのは当然だけども。

 今どうなってるのかは、得てしてそういう物だけど自分では解らないわ。


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