今回の話の主役はお兄ちゃんではない。お兄ちゃんはせいぜい、シンデレラでいうと舞踏会に来ていたお客その1ってところ。それであたしはカボチャの馬車ってところかしら。だから、シンデレラと王子様がハッピーエンドを迎えるかはわからない。ただ、彼女にとって幸せな結末が迎えられればいいとは思うわ。
×××
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
妹の声で目を覚ます。半ば寝ぼけながら時計を見るともう17時30分だった。5時間目の記憶が途中からないから、どうやら今まで寝ていたらしい。…2時間近く教室で寝ていたのに、誰にも起こしてもらえなかった俺ってなんなんだろう?改めて考えると泣きたくなる。
「ちょっとお兄ちゃん?ちゃんと起きてるの?」
「あ、ああ。大丈夫大丈夫。それよりなんで世界がここにいるんだ?部活はどうしたんだよ」
「もうすぐ期末テストだから部活は休みだよ。今朝言ったじゃない」
ああ、そう言われればそんなようなことを聞いた覚えがある。そういえばもう7月なんだよな。期末テストが終われば高校生活2度目の夏休みだ。時間が流れるのは早いもんだ。
「じゃあ教室に残ってないで家に帰って勉強しろよ。まあ、学年1位の世界にとっては不要な言葉かもしれないけどな」
「お兄ちゃんだって成績はいいじゃない。そんなことより、おにいちゃんにそうだんしたいことがあるんだけど…」
で、でた~!!世界のおねだり攻撃!上目遣いで目を潤ませ、右手の人差し指を口元に当てて舌足らずで話す。これをやられたら俺が世界のお願いを無視することは不可能に近い。…だって、スッゲー可愛いんだぜ?いや、マジで。男なら誰だって何でも言うことを聞いてしまうに違いない。我が妹ながら将来は魔性の女になりそうだ。…まあ、俺が世界のお願いを聞かないなんてほぼないんだけどな。
「相談ってなんだい?お兄ちゃんに何でも言ってごらん。邪神様の名にかけて、絶対に解決してあげるから」
「いや、そんなのかけられても困るんだけど。まあ、いいや。じゃあお兄ちゃん、ちょっと立ち上がってくれない?」
俺が立ち上がると、世界は俺の全体をジロジロとなめ回すように見てくる。何なんだろう?は!ま、まさか兄妹間の視姦プレイを望んでいるのか!?
「いけない、いけないぞ我が妹よ。そりゃ、お前は俺のハーレム第一号だけど、いきなり視姦プレイはちょっと…。こういうことは順序を踏んでからするもんだぞ?」
「…殺されるか黙るか今すぐ選べ」
こ、ここここ怖いよ~。妹の顔マジで怖い。さっきまでの可愛いらしい上目遣いは何だったんだよ。こ、殺される。俺はついに邪神様を召喚してしまったのかもしれん。
「ご、ごめんなさい。そ、相談したいことってなんだよ。ほら、お兄ちゃんに言ってみ?」
「次ふざけたら殺すからね。さっちゃん、入ってきて!」
妹が声をかけると教室に見知らぬ女子が入ってきた。前髪パッツンで黒い髪、顔は平均よりちょい上ってところだろう。磨けば光るかもしれないが今はやぼったさが勝っている。5段階評価でいえば、C+かB-ってところだ。ぱっと見の印象だが、体育会系というよりは文化系だろう。図書委員とかが似合いそうだ。
「これがあたしのお兄ちゃんだよ。それで、この子は2年3組の白戸 幸恵(しらとさちえ)ちゃん、通称さっちゃんね」
世界が俺とさっちゃんを互いに紹介する。さっちゃんは俺の前に立つと恐縮したように挨拶した。
「あ、あの八千塚さんのお兄さんの宇宙さんですよね?噂はよく聞いてます」
どうしてだろう?いい噂が一つもないような気がする。
「ああ。我が名は宇宙。魔を操る者という二つ名を得る者にしてこの世界の支配者よ。君も俺のハーレムに入りたいのかい?」
妹の拳が俺の鳩尾につきささる。
「次ふざけたら殺すっていったはずだ。あっ、なんかごめんね?恥ずかしいところを見せちゃったね」
「ううん。噂に聞いてた通りだったから。別に気にしてないよ」
世界の謝罪にさっちゃんは笑いながら答えた。…さっちゃんが聞いていた噂っていったい?
「それで俺に相談したいことってなんなんだよ?さっちゃんが関係あるのか?」
「あ、あの宇宙さんに相談したいことがあるのは私なんです!」
「ストーカー!?さっちゃんが?」
「そうなのよ。結構前から被害に合ってるんだって。最初は我慢してんたんだけど、とうとう我慢出来なくなったってわけ」
さっちゃんが言うには、ストーカーの被害に合ったのはゴールデンウィークを過ぎたあたりかららしい。…どうしてだろう?ゴールデンウィークって聞くとなんだか死にたくなる。大切なものを失ったような気がする。おっと、話が逸れたな。最初は物陰からじっと見つめられるだけだったみたいだが、徐々にストーカーの行為がエスカレートしてきて、最近ではさっちゃんの携帯電話に無言電話が何回もかかってくるまでになって怖くなったらしい。
「なるほど。つまり俺にストーカーを退治してほしいってことだな。まかせろ!俺の"封印されし魔神の右腕"が唸るぜ!!」
「違うから。お兄ちゃんは喧嘩スッゴク弱いじゃない。女の子にだって勝てるかどうか怪しいくせに」
…俺だって女の子相手だったら喧嘩に勝てると思うぞ…多分。
「じゃあ、俺に相談したいことってなんなんだよ?」
「それは私が言います!」
さっちゃんが一歩俺に詰め寄る。
「じつは…宇宙さんに彼氏になって欲しいんです!!」
ええ~!!!????
×××
「ダーリン、口を開けて?ほら、あ~ん」
「あ~ん。ありがとう、マイハニー。君の手から食べさせて貰えると只のクレープが倍おいしく感じられるよ☆」
「ダーリンたら!!照れちゃうわ!!あっ!ほっぺにクリームが!とってあげるわ!!」
「ああ、マイハニー!!君の優しさの前にはクレオパトラですら土下座するだろうね!!」
俺は今、さっちゃんにクレープを食べさせて貰っている。夢にまでみたリア充会話&リア充行動をしているが、当然のごとく本心から言っているわけではない。なんでこんなことになったか回想をしてみたいと思う。
・
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「俺に彼氏のフリをしてほしいって?」
「はい。私に彼氏がいることを見せ付ければストーカーも諦めるかもしれないって八千塚さんが…」
「そうだよ。あたしの発案なんだ。ほら、お兄ちゃんって見た目だけはいいじゃない?見た目だけは。だから彼氏のフリにはピッタリかなって思ってね」
見た目だけってそんなに強調しなくてもいいと思うな~、お兄ちゃんは。それに俺だって見た目だけじゃないんだぜ?多分…いや、きっと。
「話はわかった。それなら別に彼氏役をやってもいいんだけどさ。俺たちだけで解決するよりは警察に相談した方がいいと思うけどな。実際、素人だけで解決するのは危険だと思うぜ?ストーカーが逆上して襲ってくるかもしれないし」
俺の言葉に世界とさっちゃんが困ったように顔を見合わせた。どうしたんだ?何か警察にいえないような事情でもあるのだろうか?
「…警察にはいえない事情があるんです。…実はそのストーカーって私の幼馴染なんです!」
「幼馴染?」
「はい。別の高校に通っているんですけど、昔から付き合いがあって。中学1年生の時から何十回も告白されているんですけど、私には異性として見れなくて全部断っているんです。ゴールデンウィークにも一回告白されて断ったんですけど、どうもそれ以来様子がおかしくて…」
ふ~ん。なるほど、そりゃ幼馴染を警察につきだすのは遠慮したいってところか。まあ、円満に収めるなら彼氏がいるフリをするのが万全だろう。
「だから、今日から7日間私とラブラブカップルのフリをして欲しいんです!!」
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というわけで、世界命名『ラブラブバカップル状態を見せ付けてストーカーを諦めさせちゃおうぜ!!』作戦を実行中というわけだ。。今は公園のベンチにさっちゃんと二人で座り人目もはばからずいちゃいちゃしまくっている。ちなみに世界は一応傍にはいるのだが全力で他人のフリをしている。まあ、その気持ちはよくわかるが。
「みて、ダーリン。太陽がとっても気持ちがいいわ」
「そうだね、ハニー。でも、太陽も君の笑顔には負けるよ。僕にとって君の笑顔は太陽より眩しいからね!」
バカな会話だなーと心の中で泣いていると急にさっちゃんが俺の右腕に抱きついてきた。ななななな、なんだ!?発情したのか!?お、おっぱいがあたって気持ちがE~!!
「宇宙さん、そのままでいてください。彼が私たちのことを見ています。あそこの木の影ですね」
さっちゃんが耳元でボソッと囁くように言った。俺は体を動かさず、視線だけをさっちゃんが言った方向に向ける。そこには背が高い爽やか系イケメンしか発見できなかった。さりげなく辺りを見るがストーカーぽい奴は見当たらない。
「…どこ?ストーカーは見当たらないみたいだけど」
「いるじゃないですか!ほら、あそこですよ!!」
「あそこって…あそこには爽やかイケメンしかいないじゃないか。あいつもあんな場所で何してんだろうな。なんか俺達のこと睨み付けてるけど。俺達のあまりのラブラブっぷりに嫉妬でもしてんのかね~。普段は自分がいちゃついてる癖に他人がいちゃつくのを見るのは腹が立つってか?ケッ!リア充の癖に心が狭いやつだ。さっちゃん、もっといちゃついてやろうぜ!」
「だからそのイケメンが私のストーカーなんですよ!!彼が私の幼馴染みんんです!!」
「な、何~!?」
改めてイケメンの方を見ると確かに俺達のことを敵意をもって見ていた。どうやらストーカー確定みたいだ。
「暫くこのままでいてください。その内消えると思うので」
さっちゃんに言われた通り動かずそのままの体勢でいること15分。観察することに飽きたのか、イケメンはその場を立ち去った。
「お兄ちゃん達大丈夫だった?さっちゃん、あそこにいたカッコいい人がストーカーなの?」
世界が俺達に近づいてきて言った。少し離れた場所にいたとはいえ、世界は俺達の視界には入っていた。だから、世界にもイケメンの姿が見えたのだろう。
「うん。あれが私の幼馴染みで黒部 修吾(くろべしゅうご)って名前なの。ゴールデンウィークからずっとあんな風に行くとこ行くとこに現れてじっと私を見てくるの。本当に困っちゃって…。今日ので諦めてくれるといいんだけど…」
へー。あんなイケメンがストーカーね~。あの顔はストーカーするよりもされる方だと思うけどな。それにさっちゃんの容姿は辛うじて美人ってところだ。さっちゃんがあいつをストーカーするならわかるけど、逆だとはね。ま、幼馴染みにしかわからない魅力があるのかもしれないな。
「…んじゃ、修吾だっけ?あいつも帰ったみたいだし、今日は解散ってことでいいか?もう夕飯の時間も近いしな」
「そうだね。さっちゃんもそれでいい?」
「うん。八千塚さん、今日はどうもありがとう。宇宙さん、明日から6日間宜しくお願いしますね」
「ああ。あ、そうだ。もしよかったら家まで送っていこうか?ひとりだと狙われるかもしれないし」
ゲームでもこういうときにひとりで帰すと大抵死亡フラグに繋がるからな。家まで送って行った方がいいだろう。
「いえ、大丈夫です。直接被害にあったことはないですし、家の近所には知り合いが大勢いますから。それに黒部君の性格からして襲われることはないと思います」
「そうか?それなら別にいいんだけどよ。じゃあ、俺達も帰ろうか」
「うん。さっちゃんバイバイ!また明日!!」
「うん。さようなら」
夕飯を作るのが面倒くさくなったので今日の夕飯は出前をとることにした。メニューは期末テストを乗り切るために、ちょっと奮発して特上寿司を頼んだ。二人前で6千円ちょっとかかったが、親の金なので気にしないことにする。捕捉情報として親は仕事でいないということを強調しておきたい。
世界と寿司を食べながら会話をする。話題は当然今日の出来事についてだ。この際だから、ずっと疑問に思っていたことを質問することにした。
「そういえば、世界とさっちゃんってどこで知り合ったんだ?ほら、さっちゃんっていかにも文化系って感じで、クラスも違うから接点なさそうだし。それに世界と仲がいい女子の顔は大体覚えているが、さっちゃんは記憶になかったぞ」
「う~ん、実はいうとね…あたしもさっちゃんのことはよく知らないんだ」
「え?」
「さっちゃんは花子ちゃんの友達なんだって。それでさっちゃんが花子ちゃんにストーカーの事を相談したらあたしとお兄ちゃんの事を紹介されたんだってさ。花子ちゃんの友達なら助けてあげたいじゃない?」
花子か…あいつは6月以来、順調に友達を作り続けているようで、今ではクラスの妹分から学年の妹分にクラスチェンジしている。あいつならさっちゃんと友達であってもおかしくはないだろう。
「ふうん。そういえば、花子はおたふくかぜで学校休んでいるんだよな。いつ頃学校に来れそうなんだ?」
「昨日お見舞いに行ったら大分治ったみたいなんだけど、いつになるかはわからないって」
「もう休んで3日はたつだろう?治ってきてるみたいなら、ちょっと休みすぎなんじゃないのか?」
「花子ちゃん本人は早く学校に行きたいみたいなんだけど…花子ちゃんのおじいさんが学校に行かせてくれないんだって。一時期は世界中から医者を呼ぼうとしたぐらい心配してるみたい」
セバスチャン…過保護すぎるぞ!!
「そ、そうなんだ。花子も気の毒に…そ、そういえばストーカーは悔しいけどスッゴいイケメンだったよな。さすがにストーカー行為はやり過ぎだと思うけど、フラれても諦めない姿勢はちょっと憧れるな。ほら、漫画の主人公みたいだろ。『いつか俺のことを好きにさせてみせる!だからお前が俺以外の奴と付き合うまで俺は諦めない!!』ってよく漫画にある展開だろ?まさに主人公って感じだよな」
「あたしはちょっとお兄ちゃんの意見に賛成は出来ないかな。お兄ちゃんってさ、告白されたことないでしょ?」
「な、なななな何で決め付けるんだよ!!…まあ、告白されたことはないけどよ」
ええ、どうせ童貞ですよ。告白?何それ?美味しいの?
「これはあくまでもあたしの意見だけど、一度ふった相手と付き合うことって年月を置くかよっぽどのことがない限りないと思うんだよね。女の子って結構打算的なところがあるからさ、僅かでも付き合う気があるなら最初の告白でOKするよ。告白を断るってことは本気で付き合う気がないってこと。それなのに、『俺は諦めない!』なんて言われても困っちゃうよ。あたしに何度も告白する人もいるけど、そういう人ってあたしにとってはストーカーと変わらないんだよね。それにさ、告白を断る方だって結構辛いんだよ?緊張でドキドキしている相手が、あたしが断りの言葉を言った瞬間絶望の表情になるんだもの。さすがに罪悪感感じちゃうよ。あたしの意見としては一度フラれたらきっぱりと諦めてほしいわね」
なるほど、そういう考え方もあるのか。確かに世界の言うことにも一理ある。多分、俺と世界の考え方の違いは告白されたことがあるかないかの差だろう。…なんか妹が急に大人に見えてきて気まずいな。ここは強引に話題を変えるか。
「…そういうもんなのか。さて、寿司も食い終わったしテスト勉強でもするか。世界もやった方がいいぞ。じゃあ、俺部屋に戻るわ。わかんない問題あったら聞くかもしれんからよろしく」
「オッケー。11時頃までは起きてると思うからそれまでにきてね」
部屋に戻りテスト勉強の準備をする。さて、今日は古典でもやるか。確か教科書を鞄に入れた覚えが…あれ?ないぞ?おっかしいなー?確かに入れたはずなんだけど。俺のお気に入りのシャーペンもないし…
「おーい!!俺の古典の教科書とシャーペン知らないか?確かに鞄にいれたはずなんだけどないんだよ」
「あたしがお兄ちゃんの持ち物の行方を知っているわけ無いじゃない。学校に忘れてきたんじゃないの?」
だよなあ。世界が知っているわけないか。俺が入れたつもりになっていただけかも知れないな。じゃあ、古典は諦めて数学の勉強をするか。シャーペンも別なのを持っているしな。
×××
翌日、昼休み開始のチャイムが鳴ると同時にさっちゃんが2年1組の教室にやってきた。手には何かを抱えているみたいだ。
「あの宇宙さん、ちょっといいですか?」
「うん?ああ、さっちゃんか。何か用か?」
「あの、宇宙さんってお弁当もってきてますか?」
「いや。これから購買で買おうと思っていたところだけど」
「本当ですか!!良かった~!あの、これお礼も含めてお弁当作ってきたんですけど、良かったら食べてください!!」
つ、ついに女の子の手作り弁当を食べられる日が来たのか。ああ、これが噂のリア充生活…生きててよかった~!!!!
「そ、宇宙さん?何で泣いているんですか?」
「なんでもない、なんでもないんだ。ちょっと過去の学校生活を振り返っていてね。お弁当だっけ?勿論いただくよ。ここじゃあなんだから屋上にいこう」
教室じゃ気まずかいからな。それにクラスメイト達が俺たちのやりとりに注目している。まあ、そも気持ちもわからないでもない。自分で言うのもなんだが、アンタッチャブルな俺に女の子が訪ねてきた上に手作り弁当を手渡したのだ。普段から出来るだけ俺の存在に触れないようにするクラスメイト達もこれは注目せざるをえないだろう。
屋上に到着。今日は屋上を不当に占拠するバカップル共はいないみたいだ。よかった。奴らの姿を見つけたら俺が保有する999の能力の一つ、"燃え滾る嫉妬の業火"《です!デス!DEATH!》で殺してしまったかもしれん。今日も無駄に命が散ることなく平和に迎えられそうだ。
「これお弁当です。食べてください!!」
「ありがとう、さっちゃん。それじゃ、いただきま~す!!」
さてさて、お弁当はどんなのかな?おかずはから揚げとほうれん草のおひたしと卵焼きか。どれも手が込んでいておいしそうだ。ご飯はふりかけご飯で、鮭ふりかけだ。おかずにとっても合いそうだ。うん?卵焼きに白くて硬い物体が入っているぞ?…多分、殻が入ってしまったのだろう。しかし、ここは正直に言わず褒めるのが男の役割ってもんだ。
「うまい!!さっちゃんって料理上手いんだね!!とってもおいしいよ!!」
「よかった~!!宇宙さんの口に合うか不安だったんですよ。どんどん食べてくださいね!!」
卵焼き以外には失敗料理はなく、お弁当はおいしくいただきました。
放課後、さっちゃんが先生に呼ばれて職員室に行ったので校門の前でさっちゃんのことを待っている。世界はクラスメイトに頼まれて勉強会を開いているので今日は不参加だ。俺が校門の前でボーっとしているとどこからか視線を感じた。なんだ?うん?あの男どこかで見た覚えが…
「あ~!!お前、昨日のイケメン!?」
「貴方は白戸幸恵と一緒にいた人ですよね?貴方にお話ししたいことがあるんです」
話したいこと!?ま、まさか『俺から幸恵を奪いやがって!!この泥棒猫!!』とか言われたりするのか!?やべえーよ、リアル昼ドラかよ!!ここは華麗に回避だ!!
「いえ、違いますね。昨日は一日中家にいました。どなたかと勘違いされているんじゃないですかね?」
「え?いやだって、貴方さっき『昨日のイケメン!?』って俺の方を指さしていってたじゃないですか!?」
「いえ。それはあなたの後ろの人に向かって言ったんですよ。残念ながらその人は気付かず行っちゃったみたいですけどね」
俺が全力で知らないフリをしているとさっちゃんが此方にやってくるのが見えた。いかん!このままではストーカー野郎と鉢合わせてしまう!!なんとかイケメンをこの場から遠ざけなければ!!
「宇宙さ~ん!!お待たせしました!!え?く、黒部くん!?」
あちゃ~!!間に合わなかったか!ああ、これで修羅場突入決定か…
「チッ!!そこの貴方!話はまた今度」
さっちゃんの姿を確認したイケメンは何故か走って逃げていった。…なんだ?さっちゃんの前には出られないシャイ野郎だとかそういうのか?
「今のって黒部くんですよね?宇宙さん、何か変なことされてませんか!?」
「ああ。話があるっていわれたけど、知らないフリしたから大丈夫」
「よかった~!!宇宙さん、彼氏のフリをお願いした私が言うのもあれですけど、出来るだけ黒部くんと接触しないようにしてください。もし宇宙さんが黒部くんに襲われるようなことが起きたら私、八千塚さんにどんな顔すればいいのか…」
顔を俯かせ震えるさっちゃん。なんていい子なんだろう。俺のためを思って泣いてくれるとは。これは是非ともあのストーカー野郎から守ってあげなければ!!
「俺は大丈夫だよ!でも、さっちゃんがそんなに心配するならあいつとは関わらないようにする。まあ、今も全力で他人のフリしたけどね」
「それならいいんです。あ、そうだ!宇宙さん、携帯の番号教えてもらっていいですか?今回みたいなことがあるかもしれないんで連絡とれるようにしたいんですけど」
5人目の番号ゲットだぜ!!家族を除けば俺の携帯には女の子の番号しか入っていないことになる。いや、5人中4人は女の番号だ(妹、母含む)。これは俺にモテキきたか!?つ、ついに俺のハーレムが爆誕する日がきたのか!?
「もちろんだよ!!これ俺の番号ね!!いつでもどこでも連絡してくれ!!!!」
「登録しておきますね!!後で電話番号を書いたメール送りますから。じゃあ、今日も彼氏役お願いします!!」
「おう!!俺にまかせておけ!!!」
その後、さっちゃんを家まで送り届けたが黒部は現れなかった。
×××
さっちゃんの彼氏生活3日目。放課後、今日もさっちゃんと一緒に帰る。昨日のさっちゃんとのメールは楽しかった。あれが青春ってやつなのかもしれないな。
「宇宙さん、八千塚さん、今日はちょっと寄りたいところがあるんだけどついてきてもらっていい?」
「寄りたいとこ?あたしは全然いいよ!!お兄ちゃんも別にいいでしょ?」
「ああ。それで寄りたいところってどこなんだ?なんか買いたいものでもあるの?」
さっちゃんは俺の質問に顔を悲しみで歪ませて俯く。やがて決心したようにゆっくりと顔をあげた。
「これから行くところは、私のもうひとりの幼馴染みの家なんです。その子、灰川 瑠美(はいかわるみ)って名前なんですけど、中3の時から引きこもりになっちゃって…一週間に一度は瑠美の家に行くようにしてるんです」
「引きこもり?中3の時になんかあったのか?」
「ちょっと、お兄ちゃん!そういうことは聞かないもんだよ!!まったく、デリカシーがないんだから!」
「いいのよ。それに私も原因はよくわからないの。ただ、…黒部くんの名前が出ると瑠美ちゃんは酷く怯えるの。考えたくはないけど、ひょっとしたら…」
「黒部がその瑠美って子に何かしたかもしれないってことか」
もしそれが本当なら、俺が考えているより黒部は危ないやつかもしれない。これは警察に相談した方がいいのかもしれないな。
「証拠がありませんし、瑠美が黒部くんに何かされたって言った訳じゃないですから本当のところはどうだかわからないですけどね。それじゃあ、瑠美の家に急ぎましょう。私の家の近くですから」
俺達は灰川家に向かった。
___
*後書き
長くなりそうなんで前編と後編にわけました。今回の話はちょっとシリアス成分が濃いかも。
作中にもありますが、たまに『いつか俺のことを好きにさせてみせる!だからお前が俺以外の奴と付き合うまで俺は諦めない!!』みたいなキャラが漫画に出ますが、作者的にあれは軽いストーカーだよなと思うことがあります。作者が男だからそう思うだけでしょうか?女性は一度フッた相手にアピールされ続けたらどう思うんですかね。それとも、『ただしイケメンに限る』ってやつなのでしょうか。
後編は4月中には投稿したいって思ってます。前編と同じくらいの長さだと思います。まだ4割ぐらいしか書いてないのでなんともいえないんですけどね。
キャラ設定は後編をあげたら更新します。