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No.30935の一覧
[0] 剣持つ男と謳う女[かずっち](2011/12/21 02:19)
[1] - 02 Please come back to my life -[かずっち](2012/01/02 19:12)
[2] - 03 Please come back to my life -[かずっち](2012/01/04 00:42)
[3] - 04 Please come back to my life -[かずっち](2012/01/09 23:52)
[4] - 05 Please come back to my life -[かずっち](2012/01/19 01:41)
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[30935] 剣持つ男と謳う女
Name: かずっち◆066a2146 ID:6188e008 次を表示する
Date: 2011/12/21 02:19




その動き、正に風の如し。

あと一瞬でも頭を下げるタイミングがズれていたら間違いなく首が飛んでいた。
そんな命の危機に瀕しながらも剣を翻す。
回避と攻撃はワンセットで行なえ。耳にたこができるほど聞いたその言葉は今まさに自分の首を斬り落そうとした女の口からだった。
攻撃に転じるということは少なくとも防御を下げるということ。
その道理に従うのなら翻った剣が女の首を落とすこともまた道理。

しかして、

「遅い遅い。ハエが止まるのではないですか?」

さも当然のように、おまけに優美さも備えてまで女は難なく避ける。
道理を覆すようなことが起こったわけでもなければ、女が特別な何かをしたというわけでもない。
それは単純に互いの疾さの違い。
翻った剣の速度が遅いわけではない。単純に女のスピードが常人離れして疾すぎるのだ。
回避と攻撃はワンセット。それは何も教え子一人だけにあてはまるものではなく、剣持つ全ての者にあてはまるというのなら。

「いぃっ!?」

今度こそと首を狙う必殺の一撃は自らにはね返る。

「くそったれっ!『ヴィルヘルム -猛者の廃炎- !』」

ゴウッ!と剣から噴き出す炎が女の剣を受け止める。属性が邪魔をしたのではなく、剣に宿る紫念が見せた驚異的な反応だった。
だが受け止めたはいいが女の剣は止まってくれない。
首を護っただけでもラッキーだったかと、頭の片隅で思いながら、女の細腕からだとは思えないほどの信がたい余波を真っ向から受け止めた。
二転、三転。
吹っ飛びに吹っ飛んだ体を受け止めたのは柔らかい女の腕、ではなくいかつい堅牢なる城壁だった。
凄まじい轟音を立ててぶつかり、砂煙が辺りに立ち込める。

「毎度毎度よく飛びますね、アナタは」

ガラガラと崩れる城壁。それを見ながら呆れるように女は言い放つ。
今日の紅茶は少し温いですねと、そんな単純な愚痴と同レベルのその言葉には相手への労わりは微塵もなかった。

「……っ、ザっ、けんなっ。き、今日は、調子が、悪ィ、だけだ」
「その様で言われても言いわけにしか聞こえませんね。日々実践を重ねることは良いことですが、少しは学んで頂かないと」

ゴボッ、とドス黒いものが口から溢れる。
吐き出した血の量に自分ながら、少し引く。
相手の攻撃を受けた為に吐き出した血ではなく、強引に術式を行使した反動が体に跳ね返っているのだ。
だがああでもしなければ今頃土の下だ。何ということもない平日の授業中に命を落とすことなどあってはならない。
そもそもこんな簡単に人が命の危機に瀕してもいいものか。いくら養成所だからとてここまでスパルタな教育を受けるのは予想外だ。

だが何より、そんなことより何よりも、

「クソっ……、また負けかよ」
「勝てると認識している時点でアナタの負けは明確です。本気どころか術式すら使わない私にこの様だとは。あぁ情けない」
「はんっ……いつか、その首、落して、やっからな」
「見苦しい言い訳も聞き飽きました。……おや、鐘の音ですね。今日はここまでとしますか。崩れた城壁はしっかりと補修しておくように」

今にも切れそうな意識の下で女の言葉を頭に残す。
負ければ何でも言うことを聞く、それがお互いに課した絶対のルールである以上は従わなければならない。

「あぁそれと今日の夕食ですが、そうですね。今日はシチューにしましょう。当然のことですが、野菜はあまり入れないように。肉は重要です」
「……野菜鍋」
「まぁ何ということでしょう。今日は『グリル』の特売日ではないですか。良質の肉が半額に。ほぉほぉ、是非とも食さなければ」

そこで、意識は途切れた。





 - 01 Please come back to my life -





「また派手にやられましたねぇ。アレも君に対しては手を抜くことを知らないらしい」
「いいんだよそれは。抜かれたらそれはそれでムカつくんだから。今回も俺が弱かった。だから負けた、それだけだ」
「だからって毎回こう大怪我されちゃうとねぇ。はい、これで完成。君は普通の生徒とは違うんだ。その辺は認識しておくことだね」
「体質は俺のせいじゃねぇっての。足掻いてもどうにもなんねぇもんは仕方ねぇじゃん」

体質というのは術式が通りにくいということ。
何故か俺の体は他の人間とは違って術式の効力を弱めてしまうらしい。
是非とも検証したいと寄ってくる連中がいるのだが、ふざけんな、の一言でお帰り願っている。
通常なら怪我を負っても術式である程度は治療できるもんなのだが、俺には先の理由からその恩恵を受けれない。
全てを無効化するだとか、そんな大層なもんじゃないが、効きにくいというのは事実だ。
だからこそ目の前の人の良さそうな医者も普段は使わない包帯や湿布といった過去の遺産を使う必要が出てくるわけで。

「すごいよねぇ、過去の産物が現代にまで使われるこの現状。医師として少し誇りに思うよ。僕ぁ君に会えて幸せだなぁ」
「ふざけんな。俺はテメーのモルモットじゃねぇっての」

まだ体は外から内からズキズキと痛むのだがこのまま医療室に居続けるのは御免こうむる。
湿布はしっかりと張り替えるんだよ~、と背後から聞こえた呑気な声に苛立ちを覚えながらドアを閉めた。

「……城壁の補修か。くそっ、サッサと終わらせね~とメシに間に合わねぇなぁ」

遅れたらまた何を言われるか分かったもんじゃねぇ。
舌打ちしながらも指示に従うだけの自分をどこか虚しく感じるが、全ては負けた自分が悪いのだ。ムカつきこそすれ、恨むのはお門違い。


今まで何度あの女と剣を交えてきたのだろう。
分かり切っているのは結果だけ。一度としてあの女には勝ったことがない。
優雅に振舞うその姿。剣をまるで自分の体の一部として扱うその可憐さに目を奪われたのは初めて剣を合わせた時だったか。
正直に言おう。いや、ムカつくのだが。
俺は、あの女に憧れていたのだ。
その振る舞い。全てが洗練された動きで構築される、もはや『舞い』と呼んでもおかしくはないほどの動き。
まるで勝つ為の方法を最初から知っているかのように、次に何をすれば良いのか、どう動けば良いのかをインプットしているかのような。
そうだ、初めはただの憧れだった。それがいつしか、その上を目指してみたいと思うようになってきた。
性別だとか、年齢だとか、そういうのではなく。同じ人間であるのなら俺だっていつかあの場所にたどり着ける。
あの女の持つ純粋な強さは俺を強く揺さぶっては同じ高みへ連れて行こうとする。
すぐに追いつけるものではないことは理解している。だが、いつかきっと、その場所へとこの足はたどり着く。ただそれだけを願って。


「こんなもんだろ。……ったく、何で手慣れてきてんだよ俺は」

道具を片付けながら補修した城壁を見直す。以前よりは確実に強度が増しただろう。
派手に壊れたのは俺がぶつかった衝撃というよりも老朽化が進んでいたせいだった。
無駄に歴史が長いこの育成所は国の最高機関が管理しながらも表立って金を出すことができない。
そりゃそうだろう。戦力保持を示す牽制は別にして、金をかけて兵を強化していますと諸外国に露呈してしまっては本末転倒。
変な勘ぐりでも持たれて攻め込まれでもすればたまったもんじゃない。
だからと言って全く金をよこさないわけではないが、少ない金をどうにかこうにかやりくりして賄っている管理部としては頭が痛いだろう。
生徒からのクレームを大きくしてはデモを起こされる。かと言って設備に金を渋るようでは育成放棄とみなされる。
ギリギリのラインで踏みとどまるインテリには憐れみを覚えるが同情はしない。変にケチるから俺が余計に動かなきゃならんわけだし。

「ランゼル、補修終わった?」

突如として呼びかかった声に振り向くと、そこには一人の女生徒の姿。

「シキか。何だお前、こんなとこで何やってんだ?」
「何やってんだって、ここは私達の保管庫でしょうよ。武具を戻しに来たの」
「……あぁ?保管庫だ?」

見ればシキの後ろにもぞろぞろと生徒が剣やら盾やら物騒なものを担いで運んできている。
視線をズラし、遥か遠方の右側を眺めると、そこには確かに立派な木片に仰々しく『シルヴィア班 保管庫』と書かれてある。

「先生からアンタがいるはずだからついでに引っ張って来いって言われたのよ。終わってないようならとりあえず飯の支度を優先しろって」
「お前、そこで手伝うって選択肢はねぇのか」
「何で疲れた演習の後でアンタの手伝いなんかやんなきゃいけないのよ。疲れてんのに更に疲れたことさせないで」

いともまぁ簡単に切り捨てられたことには確かに不満があるが、今は問題はそこではない。
そう。問題はあの女の名前がシルヴィア・ベニーであることだ。

「つかぬことを聞くんだがよ、この城壁って前から脆くなってたのか?」
「うん?私聞いたことないけど」
「あぁ、僕は聞いたことあるよ。その壁の向こうは丁度、盾の保管庫になってるんだよ。雨ざらしになると困るなぁって前に先生が言ってた」

シキの横に並ぶ爽やか青年が答える。

「……じゃ何か、あのアマ俺をわざとこの壁に吹っ飛ばしてわざと俺に補修させたのか」
「吹っ飛ばした?」


「いやいや、費用もバカにならないですからね」


ひょうひょうとした声がシキの背後から聞こえる。シキは相当ビックリしたらしく、ひゃっ、と可愛い声をあげて驚いていた。

「申請も通らないものですから、町まで降りようかと思っていたのですが。あら、まぁまぁ見事に補修されているではないですか」
「……テメェ」
「これなら資金が届くまでは持つでしょう。大義でした。その働きに免じて夕食の買い物に同行してさしあげましょう。あぁ、荷物持ちはアナタですが」
「ブチ殺すっ!」
「その程度の腕でですか?」


勝てぬとわかっていても挑まずにはいられない時がある。
他の部員はやれやれと肩をすくめて武具を保管庫に戻していく。彼らにとっては日常の風景としか映らなかった。
だがそれでも、男は猛る。

何だって荷物持ちが俺なのかと。





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