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No.30747の一覧
[0] 【完結】イカれた小鳥と壊れた世界【異世界召喚ファンタジー】[佐渡カレー](2014/08/23 17:54)
[1] 1話『イカレと小鳥と異世界召喚』[佐渡カレー](2014/08/23 17:55)
[2] 2話『DIE脱出』[佐渡カレー](2014/08/24 18:07)
[3] 3話『冷厳なる氷剣の儀式』[佐渡カレー](2014/08/24 22:14)
[5] 4話『デイアフター』[佐渡カレー](2014/08/26 19:14)
[6] 5話『郷愁教習』[佐渡カレー](2014/08/26 19:17)
[7] 6話『魔法学園は国立なのに学費が高い』[佐渡カレー](2014/08/26 19:18)
[8] 7話『流血鬼』[佐渡カレー](2014/08/27 20:10)
[9] 8話『ワナビー』[佐渡カレー](2014/08/28 21:19)
[10] 9話『三月兎』[佐渡カレー](2014/08/29 18:12)
[11] 10話『バニーボーイ』[佐渡カレー](2014/08/30 20:24)
[12] 11話『死』[佐渡カレー](2014/09/02 07:57)
[13] 12話『みかん』[佐渡カレー](2014/09/02 07:58)
[14] 13話『多分次の話ぐらいにほだされる孤高の魔剣士』[佐渡カレー](2014/09/02 18:01)
[15] 14話『壊れた世界の魔剣とアラサー』[佐渡カレー](2014/09/03 18:12)
[16] 15話『魔剣士と魔法使い』[佐渡カレー](2014/09/04 18:01)
[17] 16話『心以外が折れる音』[佐渡カレー](2014/09/06 18:11)
[18] 17話『開き直れる勇気』[佐渡カレー](2014/09/06 18:10)
[19] 18話『マイペースジャパニーズ』[佐渡カレー](2014/09/07 19:28)
[20] 19話『発狂未遂事件簿』[佐渡カレー](2014/09/08 18:13)
[21] 番外1話『酒を飲むあいつら』[佐渡カレー](2014/09/10 18:04)
[22] 20話『世界』[佐渡カレー](2014/09/11 18:17)
[23] 番外2話『結構襲われてるこいつ』[佐渡カレー](2014/09/12 18:06)
[24] 21話『ただ、日々を笑って過ごせるように』[佐渡カレー](2014/09/13 18:12)
[25] 22話『大バザールで御座る』[佐渡カレー](2014/09/14 19:03)
[26] 番外3話『海に行くやつら(前編)』[佐渡カレー](2014/09/15 18:02)
[27] 番外3話『海に行くやつら(後編)』[佐渡カレー](2014/09/16 18:08)
[28] 23話『希望の未来へレディー・ゴー』[佐渡カレー](2014/09/17 18:08)
[29] 24話『隠し味にタバスコ入れて』[佐渡カレー](2014/09/18 18:41)
[30] 25話『続く』[佐渡カレー](2014/09/19 18:02)
[31] 26話『③ATTACK』[佐渡カレー](2014/09/20 18:09)
[32] 27話『天の翼は全て敵』[佐渡カレー](2014/09/21 18:14)
[33] 28話『ハッピーエンドに憧れて』[佐渡カレー](2014/09/22 18:07)
[34] 29話『異世界ファンタジー帰りの男は』[佐渡カレー](2014/09/23 18:02)
[35] 30話『私の兄はテロリスト』[佐渡カレー](2014/09/24 18:31)
[36] 最終話『これよりラ=グース神の軍団との戦い3000年に及ぶ』[佐渡カレー](2014/09/25 18:05)
[37] 『アイテム図鑑』[佐渡カレー](2014/09/25 18:05)
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[30747] 20話『世界』
Name: 佐渡カレー◆6d1ed4dd ID:633fad5d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/11 18:17
 イカレさんの怒鳴り声は聞いた人が本能的に眉をひそめるチンピラ成分を含むと小鳥が論文で発表する予定だ。
 それはともあれ今日も彼の声が響く。

「だァかァらァ! 本当に例の鳥をダンジョンで見たかって聞いてんだよ蟲女ァ!」
「ちゃんとこの目で見ましたわ! わたくしが善意で教えてあげたというのに疑うなんて失礼ですわよ!」
「全ッ然ダンジョン潜っても見つからねェじゃねェか! 俺への嫌がらせに嘘ついてるんじゃねェだろォな?」
「わたくしが嘘なんてわざわざ教えるはずありませんわ! これだからいい加減な性格の鳥召喚士は……呆れ果てますわ!」
「はァん? おいパル公ォ、この蟲女エロ漫画に出てきそうな淫虫いっぱい召喚できるんだぜェ?」
「ま、マジウサ!? お願いしますウサ!」
「いやらしい悪評を流さないでくださいまし! 貴方という人は本当にもう……お馬鹿!」

 などと冒険者の酒場、『呪われた皇帝の秘宝』で騒いでいる片割れは我等の召喚士、この前パルに「チンピラって言ってもそう悪い意味じゃないウサ! なんかチンがピラピラしてそうでえっち素敵ウサ!」とフォローされていたイカレさんである。
 もう片方はまたこれ別の、虹色の髪の毛をドリルみたいに巻いてボリューム凄い感じの女性であった。年齢は小鳥より年上、イカレさんより年下程度に見える。

「ドリルで吊り目気味で強気なお嬢様のような口調の黙っていれば令嬢と言った感じの雰囲気ですね」

 小鳥がそのままな感想を口にする。
 酒場にパーティで繰り出したのだが、そこで見つけた彼女といつも喧嘩してるんだぜ的な雰囲気で出会い頭に口論を始めたイカレさんである。
 それを見て出会い無し脈無しここ十年で一番会話した女性はコンビニ店員と評判のアサギは、

「……フォーエバー」

 吐血してその血で『リア充召喚士死すべし』とダイイングメッセージなのか中傷なのか微妙なものを机に書きながら沈んでいた。
 しょっちゅう憤死してるけど本当は体が弱いんじゃないだろうかと小鳥はやや不安になる。実際ヤバい。
 リア終の彼にとっては、『女性と普通に会話出来る→有罪』であり『女性と日常的に口喧嘩してる→ただのじゃれあい=イチャつき=有罪』なのである。
 ともあれ。
 イカレさんから発せられる「蟲女」という名称。そして彼女の虹色に輝く目と髪。つまり、彼女は蟲召喚士なのであった。
 なお、虹色に輝くとはいえイカレさんは床屋のサインポールを原色七色にしたような毒々しい目が痛くなる配色だが、女性の蟲召喚士や本召喚士ミス・カトニック、竜召喚士ドラッガーなどはパステルカラーが薄く徐々に色が変わるようになっていて個人差があるようだ。まあイカレさんがそんな派手めファッション的に髪色変化していたらキモいので、彼は床屋式でいいと納得できる。
 再度閑話休題。
 イカレさんがダンジョンに潜る理由、それは彼の昔のペットである鳥『絶光鳥ヴェルヴィムティルイン』を捕まえる為で、それがダンジョンにいると教えたのが蟲召喚士なのだそうだ。
 彼が冒険者に身を窶してから数ヶ月の月日が流れ……それでも目的の鳥とは全く出会えないので情報提供者に問い詰めているのである。
 蟲召喚士は云う。

「そもそも貴方ちゃんとダンジョンに潜ってますの!? 見つからない見つからないと文句ばかり言ってますけれど」
「あァ? ちゃんと潜ってるっつーの。週に一回8時間は潜ってるな」
「少なすぎですわー!!」

 原子力系バイトでももっと働いているといった時間に蟲召喚士は怒鳴る。
 イカレさんのダンジョンに潜る日は、小鳥が授業で休みかつ彼の気が乗った日なのでそう多くは無い。
 ともあれ彼女が指を向けながら叫ぶ。

「わたくしがわざわざシャワーも我慢して10日も潜った末に見つけた深層の魔物ですのよ!? そんなちょっと半日潜ったぐらいで見つかりませんわ!」
「えっ……おいパル公、こいつ10日も風呂に入ってないんだって。マジばっちィ」
「こここ興奮してきたウサ……ちょっとそのニーソックス売って欲しいウサけどおいくらウサ?」
「前の! 話ですわー! それにちゃんと簡易洗浄キットは持ち込みますわ! 失礼な──っていうかさっきからなんですのその兎人は! わたくしの靴下を何に使う気ですの!?」
「はぁ!? もちろんナニに使いますがそれが何か!?」
「清々しいほど変態だなァこいつ」

 小鳥は言い合いをしている二人と賑やかしのパルを見ながらアサギの死体があるテーブルで豚骨背脂入りクルトンスープを飲んでいると、別のテーブルから蟲召喚士の様子を伺っていた者が二人の方へやって来た。
 仲間と思しき女性冒険者は宥めるように言葉をかける。

「まあまあ、落ち着いてよルーちゃん。ただでさえ召喚士は目を引くんだから、周りから見られてるよー?」
「そーわふルートヴィヒ。ただでさえ冒険者の間では『レインボードリル』とかあだ名付けられてるんだし。あっしは好きわふけどそのあだ名」
「ドリルではありませんわ! ドリルではありませんわ!!」

 ムキーと言いながら彼女──ルートヴィヒと呼ばれたレインボードリルは振り向いて近寄ってきた二人に怒鳴る。
 最初に声をかけた方の姿は蛇女で、大体人間で言うと太ももの付け根ぐらいから下が太ましい蛇の尾になっており、それから上は女性の半身だ。 目を細めたほんわかした笑顔で幅広の帽子、オーソドックスな黒のローブを着て片手に大きな杖を持っている魔法使い職についているとわかる女だった。
 パルは、

「ノーパンウサ!」

 と興奮している。
 もう片方のレインボードリルと発言したのは身長1.3メートルほどの少女で、身長に合わせた分厚そうな鎧を着込んでいるためにずんぐりとした印象を受ける。
 こちらは普通の少女の顔に、サンタクロースの付け髭のような真っ白の顎髭がふさふさとしていた。機神信仰をしているドワーフ族の女性に見えるが髭以外に犬っぽい耳が生えている。恐らくは獣人とのハーフなのだろう。
 パルは、

 「きっとあっちの毛もモサモサウサ!」

 と興奮している。
 小鳥が冷たい声でぼそりと言う。

「いいかげんにしろよパンタグラフくん」
「はい」

 ともあれ。イカレさんがチンピラ睨みでその二人を見た。

「あァん? 誰そいつら」
「わたくしの仲間ですわ。魔法使いで蛇人族のナツメと戦士で半ドワーフ半犬人のユークス、そしてあそこでお酒を飲んでいるドワーフでユークスのお祖父様のガストと共にダンジョンへ潜ってますの」

 そう言って彼女がチラリと目線を向けた先には、同じく小柄でずんぐりむっくりした体型、白い髭に眉も白く伸ばしていて目元が見えない老人が大ジョッキでビールとか飲んでいた。その足元には自分の体ほども大きな斧と長い槍が置かれている。
 いかにもドワーフ族の老戦士といった風貌だ。中々の使い手であると小鳥の直感が告げている。別に彼女は戦士を見抜く目を持っているわけではないので、本当にただの勘であるが。
 そしてフフンとルートヴィヒは誇らしげに胸を逸らしながらイカレさんを揶揄する。

「まあ普段からだらしなくて不真面目で目付き悪くて暴力的なサイモンにはまともなお仲間など居ないのでしょうけど。それともそのウサギさんがお仲間かしら?」
「まァそォだが」
「……仲間は選びなさいな、貴方」

 呆れたようにイカレさんを見るルートヴィヒ。
 するとニコニコ笑顔の蛇女、ナツメがズリズリと下半身を動かして前に出た。
 イカレさんの目の前に、顔の高さを合わせて首をかしげながら尋ねる。

「君がルーちゃんが言ってた鳥召喚士のサイモンくん?」
「言ってたねェ。どォせ悪口だろ」
「そんなこと無いよー。ルーちゃんが男の人の話題出すの、君ぐらいだしー」
「ちょ、ちょっとナツメ! なに変なことを言ってるんですの!?」

 慌てたように怒鳴るルートヴィヒ。
 普段ツンツンしてておまけに蟲召喚士なんてやってるものだからいい年しても男の人は寄り付かずに、唯一喧嘩相手だけどイカレさんだけが相手をしてくれる……そんな雰囲気を感じとる小鳥である。ありがちなのだ。

(さあアサギくん判定は?)

 と彼の様子を確認したら腕を組みながら暗い顔をし狂気を孕んだ目を覗かせて「ビビビ──カップル抹殺光線発射──カップル殲滅──ビビビ」と心が壊れたように呟いていた。

「一度壊れた心は二度とは、二度とは……」
「どうしてああも人を憎める表情が出せるウサ……」

 狂人のことは諦めてイカレさんのほうへと注視。
 笑っているナツメがうっすらと目を開きながら、イカレさんの眼前で彼をジロジロと見ていた。

「ふーん」
「あんだよ」
「まーとにかく妾はナツメ、よろしくねー?」

 言いながら、イカレさんの顔に近づき──。
 かぷりと彼の下唇の先っちょを甘噛みした。
 同時にすごい音を出した隣を小鳥が見ると──。

「うお。飛んでます」

 テーブルに座っていたアサギが座ったままの体勢で跳躍。
 ヴァンキッシュのブーストダッシュが暴走したのかそのまま天上に直撃して、どう、と音を立て床に倒れ伏した。さり気なくダイイングメッセージで「犯人はサイモンです去勢してください」と具体的な冤罪を書き連ねながら。
 思いっきり酒場の注目を浴びるアサギだが、それすら気にならないように慌てた虹色ドリルが叫ぶ。

「何をしてるんですのよ!? ナツメ!」
「えー? あの人が派手に吹っ飛んだのは妾のせいじゃないと思うなー」
「そっちじゃありませんわ! サイモンのく、口にいきなり……!」
「あーそっち? 蛇女式の挨拶だよー? 相手の口とかほっぺたとかを軽く噛むのはー」
「わたくしはやられたことありませんことよ!?」
「異性相手の挨拶だしー。妾レズじゃないしー」
「それどころじゃありませんわ! それどころじゃありませんわ! サイモン! 貴方も言っておやりなさい?」
「別に口付けられたぐれェなんとも思わねェからいいんじゃねェの? 鳥も嘴移しで餌とかやるしィ正直どォでもいいわ」
「不純! 不純ですわ!」

 顔を真赤にしながら糾弾するルートヴィヒにきょとんとした顔を返すイカレさんとナツメ。
 イカレさんが口づけ程度で動揺するようなピュアハートを持っていたほうが気色悪いのだからなんら問題はないのだが。むしろ挨拶代わりに路地裏に連れ込んでファックそして殺害するという恋愛が似合っている場末のチンピラっぷりなのだ。
 後で今日は来ていないが今頃どこかで眼鏡が割れているアイスに報告しようと小鳥は決める。口づけ程度ではなんとも無いぞと。実行できる筈もないと確信しているけれども。
 ルートヴィヒが混乱したようにあわあわと手を動かして目を白黒しているのを見てイカレさんが不審そうに尋ねた。

「つゥか何してんのお前意味わかんねェ」
「わたくしもわかりませんわよ! お馬鹿ー!」
「なァおいナツメとやら。コイツいつもこんな感じなのか?」
「ルーちゃんは普段ちゃんといい子だよー? でもあれー? 今日のルーちゃんはおかしいなー? どうしてかなー?」
「自分ら、天然なのか計算なのかどっちにせよ酷いわふな」

 気抜けしたようにユークスが肩を竦めながら言っている。
 パルはトコトコとナツメの前に歩いて来てにっこり笑い話しかけた。

「お姉さん! ボクも男の子ウサ! 挨拶! 挨拶ウサ!」
「うわあ……欲望一直線」

 小鳥も呆れたように声を出す。

「んー」

 ナツメは少し考えるように口元に手を当てて検討した後、

「カプ」
「痛ぁー!? 歯立ててるウサー!?」

 パルの首筋に噛み付いた。

「挨拶挨拶ー」
「血出てるウサー!? あ……しかも毒牙キメてないウサ……? 意識が……遠く」

 真っ青になってばったりと倒れるパル。
 最近いい空気吸い過ぎなので少しは反省させるべきだと小鳥も放っておく。毒がどの程度かは不明だが、パルは自称毒耐性持ちなので平気だと判断した。
 パルのことは気にせず、イカレさんはこっちを指さしながら言う。

「とにかく、この毒で死にかけてるウサ公とあの野良犬より弱い忍者とそこの意味不明に吹っ飛んで死んでる剣士が俺のパーティだ」
「……本当にどういう基準で仲間を選んでられるのかしら?」
「なんでだろうな、列挙すると途端に俺もそォ思えてきた」

 眉間に皺を寄せながらイカレさんは悩ましげに、延々豚骨スープを飲んでいる小鳥と死亡確認済みアサギへと視線を向けた。
 小鳥があまりさっきからあまり会話に参加しないのも熱々でとろみのついた豚骨スープを食べるのに一生懸命だったからだ。飲むではなく食べるスープ。それが豚骨。
 とにかく声を向けられたので挨拶をすることにした。

「鳥飼小鳥です。新キャラが出るたびに挨拶ばかりしてる気がしますね」
「新キャラ? とにかく、貴女も付き合う相手は選んだほうがいいですわよ。わたくしはルートヴィヒ。蟲召喚士の冒険者ですの」

 そう優雅に挨拶する彼女の目に侮ったような色は浮かんでおらず、イカレさんなどという飢えた野犬めいた男とパーティを組んでいる小鳥を心配するような雰囲気すらあった。
 別に性格が悪いという人ではなさそうだと小鳥は思う。

「ではルートさんて呼びますね。ところでお嬢様めいた話し方ですが、お嬢様なので?」
「質問がなんか変になってんぞ……別にそいつの家系は大したこたァねェぞ。伝承断絶してた蟲召喚士だからな。変なしゃべり方は家政婦してたデカイ鎧メイドから移っただけで」
「お黙りなさい! 蟲召喚士の家系は悪魔召喚術にも繋がる高貴な属性ですのよ!」
「先祖みてェに上手く操れねェからダンジョンにシェロームの書だか鍵だかを探しに行ってるんだろォが」
「むきー!」

 駄目だしをされて地団駄を踏むルートヴィヒ。
 かつて居た悪魔召喚士シェロームという伝説的な人物からの直系と噂されるのが蟲召喚士の家系であった。実際に彼女の先祖は数体の魔王級悪魔を使役していた蟲召喚士も確認されている。
 実際にその召喚士が悪魔を使って戦闘をしているのを見たことがあるベビーシッターから様々な話を聞いて、彼女は強く憧れると共に自分の属性に自尊心を持つのであった。
 もっとも、まだ彼女は悪魔を使役できないただの蟲召喚士なのだが。ダンジョンの深層部、或いは魔王の宝物庫にあるとされている悪魔召喚、契約の道具を探し求めて冒険者になっているのである。

「まあともあれ、この死んでるのが剣士的存在アサギくんです」
「……具合が悪そうですわ」
「ええと、その。魔剣を持つことによる発作的呪いでこうなりまして……多分」

 嫉妬に狂って体調をガチで壊す可哀想な人だとは、彼のイメージ上言えない。 
 血を出すあたり内臓系とかがかなりヤバイ気もするのだが、通院を進められても薬を飲んでいるから大丈夫だと死亡フラグを積み重ねる男である。
 哀れな目でルートヴィヒがアサギを見下ろしていると、彼女の仲間のユークスが近づいて来た。

「気になってたんだけど、この人あの孤高の魔剣士わふ?」
「孤高だったのも過去の話ではありますが、魔剣士ではありますね」

 髭を蓄えたユークスが喋るともさもさと髭が動いて、学芸会でサンタコスをしている小学生にも見えるなーと小鳥は思いながら応える。
 彼女は倒れているアサギが背負っている魔剣をじっと見て、そっと手を伸ばしながら、

「わふ……魔剣士の装備は有名だけど他に持っている人は誰もいないレア装備わふ。物作り名人ドワーフとして種族的興味が……」

 瞬間。
 アサギの姿が残像を残さんばかりに一瞬で消えた。
 唐突に。
 手を伸ばしたまま動きが止まったユークスの背後──暗い目をしたアサギが、抜き身の魔剣をユークスの首を掻っ切る姿勢で出現する。全くタイムラグなく、一瞬で倒れている姿勢からそこへと移動したのだ。
 見ているこちらでもぞくりと背筋が冷えるような殺気を放ち──時間にして一秒足らずだが、再びアサギは姿を消し、後方の誰も居ない空間へ転移して剣を抜いたまま警戒の眼差しを向け立っていた。
 そして明確な拒絶を込めた低い声を出す。

「オレに──触れるな」

 元一般人の浅薙アサギを孤高の魔剣士という上級の実力を持つ冒険者たらしめている要素、それこそが彼の装備である。
 魔剣マッドワールドが無ければダンジョンの魔物は一撃で倒せず、超外装ヴァンキッシュが無ければ戦いの速度についていけず、魔銃ベヨネッタが無ければ遠距離の攻撃手段は限られ、神篭手ゴッドハンドが無ければ全身の筋力補正無く素手での格闘もできず、宝遺物無限光路が無ければ緊急時に常軌を逸した速度の瞬間回避が出来無い。
 それ以外にも財力と探索で手に入れた便利な薬や道具を多数所持し、使い分けている。
 だから、命の次に大事な装備を彼は常に身につけ、他人から触れられる事を極端に嫌う。
 故の過剰反応。
 首筋にあらゆるものを抵抗なく切断する刃を突きつけられ、髭のいくらかを切り落とされたユークスは当てられた殺気による恐怖でぺたりと腰を床に落とした。
 相手が少女の姿をしていようとも──彼は見知らぬ相手を警戒する。
 油断も容赦も無い行動をしたアサギに、何かと注目を浴びていたこちらを見ていた酒場の一角が静まり返った。
 風切り音。
 アサギは音が届くと同時にそちらへと意識と思考を一瞬で持って行き、確認。
 空間を削り取るように縦回転で飛来してくる、分厚い鋼で出来た斧を半身をずらして回避した。
 避けられた斧は一直線に進み、酒場の石製の壁を粉砕して外へと飛んでいき、通りの地面に突き刺さって止まったようだった。酒場のミイラ系種族のマスターがため息をつきながら修理代を計算し始める。荒くれの集う冒険者の酒場では喧嘩でものが壊されるのも珍しくはない。
 続けて一直線に弾丸のように飛んできた槍──馬上槍(ランス)のような形状の武器を、彼は右手につけている神篭手の表面に滑らせるように、火花を散らしながらも軌道を逸らして回避。酒場の一角に深々と突き刺さった。
 アサギが涼しい目で斧の投擲されてきた方向を見ると、椅子から降りて目をぎらつかせたドワーフ……ユークスの祖父、ガストが彼を睨んでいた。

「若造……うちの孫に剣を向けおったな?」
「フ──手癖の悪さは隔世遺伝か?」

 軽口を叩くアサギに、ガストは酒で赤らめた顔を怒りに染めながら素手での戦闘体勢を取る。

「おまけに嫁入り前の髭まで切りやがって……ぶっ殺す」

 言葉が早いか行動が早いか。
 身長にしてアサギより頭2つは小さい老人は、小ささゆえに余計素早く見える動きでアサギに接近。
 アサギは魔剣を背中に納めて迎撃体勢だ。彼は素手の相手に魔剣は使わない。なにせ手加減の出来ない切れ味なので、対人では相手の武器を破壊するために使用する程度だが迂闊に切れば即死させかねない。
 ともかく、素手で向かってくるガストに対するは、同じく素手であった。
 相手の接近に合わせて同じ体格ならば膝狙いで放つ軌道の蹴りを、一瞬の溜めを加えて放つ。背の低いガストでは腹部に直撃するコースだ。
 が。

「ぬん!」

 そのアサギの足の裏をガストは肩で受け止めて払いのけ、軸足となった彼の左足を狙いタックルを仕掛けた。
 舌打ちと共にアサギは片足で跳躍しつつ、狙われた左足で飛び膝蹴りを放つ。
 だが、不完全な体勢から放たれたそれは、頑強な骨格をしたドワーフの額に当たりながらも──受け止められた。
 膝を掴んだガストは捻りを加えながらアサギを床に引きずり倒すように投げる。
 受身。
 床に叩きつけられながらも衝撃を流してしっかりと両手を床につきながら、一瞬緩んだガストの手を振りほどいて足刀を放ちつつバク転をするように起き上がるアサギ。
 瞬時に、床板を踏みぬくような勢いで間合いから離れたガストが再び踏み込む。二度の踏み足で床板は罅が入った。マスターオブミイラが「床も石にしようかな……」と顔を曇らせながら呟いている。
 起き上がったアサギも腰を落としながら右手──ゴッドハンドを装備している利き手を引き、丹田に力を入れての正拳突き。
 彼の神篭手により増幅された山吹色のオーラが拳を包む。拳の保護と威力上昇の視覚化である。こうなれば岩を殴り砕いても自分にダメージは無い。
 ガストのドワーフとして鍛え上げたハンマーのようなゴツゴツした拳と真正面からぶつかった。
 衝撃。
 一瞬発生した衝撃波に、周囲の椅子が倒れて紙風船を割ったような大きな音がした。
 ここまで騒ぎが大きくなれば酒場の冒険者も多くが喧嘩の様子を伺っている。
 拳を合わせ力を込め合う二人。体格はアサギのほうが大きいのだが、ドワーフ族は骨や筋肉の密度が高く体重は同じ体格の人間の倍以上ある。
 戦闘は続くかと思われたが、それを遮る声が響いた。

「ストップですわ。お互いに喧嘩をおやめ下さいまし」

 と、ルートヴィヒ。
 彼女は指先を天上に向けながら告げる。

「召喚『クラッシュビー』」

 すると召喚陣が───五百円玉ほどの大きさの召喚陣が100以上現れ、そこから大きな羽音を立て、顎をガチガチと鳴らして威嚇している危険色な蜂が大量に現れた。
 さすがにこれには二人とも顔色を悪くしながら拳を引く。蜂の大群など長野県民でなければ対処不可能である。特に自然が少ない──小鳥のイメージ的に東京都内で自然がある場所は皇居か奥多摩の二択で、それ以外全てはコンクリートで構成されている。離島も含め──東京出身のアサギでは厳しいものがあるだろう。毒針を消化できる酵素を持つのは長野県民しか居ない。
 召喚殺しの特性を持つ魔剣だが、数には不利だ。ある意味竜の大群より虫の大群のほうが対応しかねるのである。複数回刺されたら死が大接近してくるという毒を持つ蜂には、ちょっとした酒場の喧嘩程度の覚悟では戦うリスクが高いと判断した。
 ガストが不満そうに声をあげる。

「だがなあルートヴィヒ。この若造はうちの孫の髭まで切ったんだぞ。ドワーフの命の髭を」
「ガスト。もとはといえば寝ているその方の道具にユークスが触れようとしたのではなくて? どうなのかしら、ユークス」

 声をかけられて呆然としていたユークスは我に返って「え?」と声を上げながらばたばたと手振りをして弁解しだした。

「あのあの、あっし、別に道具を盗もうとかそんなことは考えてなくて……ただ伝説の道具っていうのが近くで見たり触ったりしたくてつい……」
「ユークス。貴女が盗みなんて働く人間じゃないことはわかっていますわ。でも誤解を与えたのなら、ちゃんと事情を言う相手がいますわよね?」

 ルートヴィヒの言葉にユークスは涙をうっすらと浮かべた顔を、仮面のように冷たい表情のままのアサギに向けた。
 そして頭をぺこりと下げて、

「その……ごめんなさいわふ」
「む───いや───オレも過敏すぎたか───髭を切って悪かったな」

 少女ドワーフの反応にやや戸惑いながらも、アサギくんは謝罪を受け入れ自らも謝る。
 彼は行動こそ物騒な所がありますが鬼畜の類では無いから、素直に謝られたり頼られたりすれば聞き、死にそうなほど困っている人は助ける普通の日本人なのだ。財布をスろうとした孤児院の貧しい子供を半殺しにした挙句住み家に火を付けに行くイカレさんとは一味違う。
 そして二人の間ににょろにょろと蛇子さんことナツメが割って入る。

「ほーらー。二人とも謝ったんだから問題解決よー。ガストさんも、あんまり怒ると血圧が上がるしー」
「し、しかしだなぁナツメの嬢ちゃん。結婚もしてねえ娘が髭を触られたりあまつさえ切られたりするってのはワシぁどうかと思うぞ」
「あらあらーいいじゃないー事故よ事故ー」

 そう言ってアサギに向き直るのだが、彼は警戒して数歩後ろに下がり接近を拒否する態度を取った。
 無理やりは近づかないのかナツメも彼に『挨拶』はせずに、何を考えているか不明のほんわかした顔で笑いかけただけに留まる。
 アサギはイカレさんがかぷっちゅーされているのを見ると死ぬほど嫉妬する癖に、自分にやられそうになると恥ずかしいやらキョドるやらで拒否する童貞体質なのである。
 不満そうなガストが、ユークスに対して慣れない弁明をしているアサギを睨んでいる。

「オレの装備は──耐性が無ければ触るだけで呪われる物もあるんだ───実際に勝手に触って酷いことになった奴もいる───だから勝手に触ってはいけない」
「うう、はいわふ。もうしないわふ」
「───どうしても見たければ──言ってくれれば見せるぐらいはする───大事な物でなければ売買にも応じる───いいか?」

 冷たく鋭い目をやや困ったように和らげながら言って聞かせるアサギに、こくこくとユークスは頷く。
 そして目を輝かせて、今度は抵抗されずにアサギの学ランの裾をぐいぐい引っ張りながら聞いてくる少女に、彼は椅子に落ちるように座りながら幾つか持っているアイテムを教えだした。
 やはり不満そうだが、ガストは酒杯をアサギと同じテーブルに持ってきながらじろじろと孫と彼の様子を見ながら苦々しげに言う。

「いいか若造。うちの孫の髭ぇ切りやがってちゃんとわかってるのか?」
「だから──悪かったと謝った───当人同士の問題だろう」
「当人同士の問題だあ? クソっ爺は蚊帳の外かよ! ユークス! お前もなんか言え! 許さんとか死ねとか」
「そんなことより爺ちゃん、さっき投げたエマニュエルアクスとヘリクセンランス、回収しないと他の人に取られるわふ?」
「そうだったー!!」

 爺さんドワーフは叫びながら投擲した武器を慌てて回収しに走り出した。
 かつてドワーフは鍛冶技術に優れていたが人間の製鉄技術の向上やドワーフの土壌開拓による環境破壊が取沙汰されて僻地に追いやられた過去があると小鳥は以前読んだこの世界の歴史本に書いてあったことを思い出した。その地で彼らは空から降ってきた機神シュニンと出会い、今では機械工学まで扱う種族になっているというが、機械系技術者の多くはその機甲都市で暮らす為に外の国に行くのは流しの鍛冶屋などが多いらしい。

(そう言えば女ドワーフの髭は嫁入りの時に切るとか書いてあったような……)

 故に髭ふさな子供程早く切りたくて結婚意欲が高いと言われている。何かアサギとの間にフラグめいたものが立った気がしたが、小鳥はどうでもいいかと適当に考えを棄却した。

「しかし、新キャラが出るたびにわたしのキャラが薄くて地味になっていきます……」
「アホがまた何か余計な事考えてやがる」

 ここは1つ行動で存在感をアピールせねばと小鳥は拳握りしめ明日へ誓う。
 彼女は倒れているパルの腕を掴んで引き寄せた。

「ツーン。別にあなたのために静脈に豚骨スープを注射するわけじゃないんだからね勘違いしないでよねツーン」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」

 注射器に吸い取った白濁色の豚骨スープをパルに注入しようとしたら流石にマズそうな顔でイカレさんとアサギが制止してきた。

「いきなりキレた行動してんじゃねェよアホ! 何が目的だ!」
「いえほら、普段作っているキャラの再確認というか。時折こういう行動しないとわたしって地味で普通の女の子ですし」
「地味で普通──? ちなみに───普段作ってるキャラって───?」
「ファッション狂人です」
「廃れろそんなファッション!」

 仲良く叫ぶ二人。

「普通の女の子なのでちょっと変わった性格に憧れる年頃なので仕方ない仕方ない。数年後にあの頃は痛かったなあって思い返すのも楽しみにしながら夜の校舎窓ガラス外して回るのが17歳という年齢ですよ」
「女子高生に謝れ──」

 ところで、と小鳥は聞いた。

「そういえば今日わたしたち、どうしてダンジョン入り口の酒場へ集まっているのでしたっけ。ずいぶん混み合っている様子ですが」

 まだダンジョンは構造変化中で入れないのであったが、今日はアサギに連れられて忙しそうなアイス以外は酒場へと繰り出しているのである。
 周囲を見回してもテーブルは殆ど埋まっていて、立ち飲みしている冒険者の姿も見える。ここ、『呪われた皇帝の秘宝』亭は獣人や異形の姿をした冒険者が多く集う宿なのでちょっとした異種族の見世物市な気分であった。やや獣臭いが。 
 アサギが云う。

「今日で構造変化が終了するはずだ───終了と同時にアナウンスが流れる───それを聞きに冒険者は集まる」
「アナウンス?」

 妙な単語に尋ね返すと、ピンポンパンと酒場に響く音が鳴った。
 まさにアナウンスのような、スピーカーから流れるような女性の声が続く。


『毎度お馴染み帝国地下迷宮【ダンジョン】管理者代行、侍女型自動機械【IM-666(イモータル・トリプルシックス)】が御報告致します。
 本日この時刻を持って今年度下半期のダンジョン構造変化を終了致しました。
 半年後の【大暴走祭】に向けて今期の魔物のレベルを難易度13『怒りが有頂天』に設定致します。
 強さの枠としては最高位の魔物も出現致しますので是非お楽しみ致してください。
 以上、IM-666からの定例報告を致しました』


 という女性の無感情なアナウンスが済むと、一斉に酒場の冒険者が「ダンジョンのメイド神様じゃ!」とか「死ねクソ人形っ!」とか「難易度最高とか馬鹿なの死ぬの」とか「半年はダンジョン止めとくか……」などと騒ぎ出した。
 近くの方の様子を伺うとイカレさんはピンと来ていないようで頭を掻いていて、アサギは静かに目を瞑っていた。ダメンズは気にせずに姦しい蟲組へと尋ねる。

「今のは何だったのですか?」
「あら? 知りませんの? ダンジョンの管理者と自称しているIM-666からの報告ですわ。構造変化等の大きなダンジョンの出来事の時はこうしてアナウンスされるんですのよ。
 元々魔王の侍女だったらしいのですけれど、魔王が死んだ後も魔王城──現ダンジョンですわね、そこを管理しているという話なんですの。
 運悪くダンジョン内で遭遇戦になった場合は恐ろしい目にあいますわ。報告があっただけで『気がついたら男の仲間同士で全裸ラブホだった』とか『脳に金属片を埋め込まれた』とか『政府の陰謀を知らされたので公表しようとしたら精神病院に入れられた』とか……」
「へェIM-666っつうとマジ魔王の側近じゃねェか。昔にゃ単騎で機神のところの機兵師団を壊滅させたとか記録が残ってる殺人マシーン。先祖の鳥召喚士が戦ったらしィがまだ居たんだなァ」

 関心したように頷くイカレさん。
 ルートヴィヒは呆れたように、

「冒険者なら知ってて当然だというのに貴方は……まあしかし声ばかりで姿を見た方は殆どおりませんけれど──噂によると、孤高の魔剣士はIM-666と遭遇して撃退なさっとか?」

 伺うような視線に片目を開いてアサギくんは答えます。

「──他の冒険者組との戦闘に加勢しただけだ───それに直ぐに相手は撤退したから戦ったという程では無い───」
「ほう。それでどんなでしたIM-666さんとやらは」
「メイドっぽかった───あと全身から針鼠のように銃火器で弾幕を展開してた───」
「狭いダンジョンでやらないで欲しいですね、それ」

 メイドといえば銃火器という常識はこの世界でもあるようであった。

「しかし難易度『怒りが有頂天』ですか。これは厄介ですね」

 知りもしないのに知ったか振って話題を出してみる小鳥。
 神妙な顔でガストは頷いた。

「そうだなあ……ダンジョンの難易度は例の侍女が定めた段階があるが、今回はそれこそ13年に1回しか現れん危険度の高い状況だ。ううむ、潜るにしても細心の注意を払わねばならん……」

 言いながら彼はちらりと孫のユークスを見た。
 その視線に気づいた彼女は犬耳をぴこぴこ動かしながら声をあげる。

「爺ちゃん、あっしを置いていくかどうか悩んでるわふ?」
「だってなあ危ねえし。いっそ次の構造変化までダンジョン休んだほうがいいかもしれねえぞ」
「そうですわね……とはいえ、『怒りが有頂天』には挑んだことがありませんわ。様子見で浅い階層を暫く探索してみるというのは如何かしら? わたくしも蟲の警戒網をいつもより広げて索敵をします」
「うーん流石にドラゴンとかグレイト・レイスとかの魔物がいたら妾達じゃ対応できないしー」
「でも難易度が高くなるとレアアイテムが落ちてる確率も上がるって噂わふ」

 などと作戦会議を始めた。
 酒場に集まっている冒険者たちはそれぞれのパーティで似たような話し合いをしているようだ。それこそ暫く探索を止めるグループもあれば、装備を新調してから挑む、他のパーティと合同で探索するなど様々に計画を立てている。
 そして輝かしい小鳥のパーティはといえば。

「んじゃまァ早速行ってみるか。おい、パル公さっさと起きろ。アサギも根暗ってるんじゃねェぞ」
「おお……イカレさんがリーダーみたいな仕切ってることを言いながらやっているのは考えなしの進撃です」
「──慎重さの欠片も無いな」
「ウサウサ」

 罠に引っかかることに関しては他の追随を許さないと評価されるイカレさんは作戦も何もあったものじゃ無い。
 確かに魔物がいくら強くなろうが、イカレさんの洒落にならない遠距離攻撃とアサギのダンジョン内魔物特攻の魔剣にかかれば問題はないのであるけれども。
 イカレさんのダンジョンへ今から入るという宣言を聞き、店の中の冒険者達がこちらの様子を伺う。
 視線を集めても全く気にしない感じのイカレさんを先頭に入り口へと歩き出す。

「じゃあな蟲女。お先だぜ」
「貴方は本当に怖いもの知らずというか……後先考えませんわね」
「召喚士なんてそんなもんだろ。ちんたらやってるからいつも俺や牛のやつに追いてかれて泣くハメになんだよ」

 ききき、と少し笑いを漏らしながら肩越しに振り向いたイカレさんは言う。アサギの奥歯が軋んだ。おのれ幼馴染属性。断種しろ。そう願っていることは誰の目にも明らかだ。

「い、いつの話をしてらっしゃるのかしら! 子供の頃のことなんて忘れましたわ! 貴方なんてダンジョンでやられちゃえばいいんですわ! ですわ!」

 ルートヴィヒはツーンとした態度で怒鳴る。小鳥がツーンとしながら動脈に油ギトギトスープを注射しようとするのは許されないのに。これが格差社会だ。革命の炎は燻り小鳥の中に残る。
 彼女のパーティもひらひらと手を振って送り出してくれた。

「それじゃー気をつけてー」
「わふん」

 そうして小鳥たちは新たになったダンジョンへ一番乗りすべく受付で入場登録をして──ダンジョンへの扉へと手をイカレさんがかけた。

「あ、ヤバい気がします」

 イカレさんがドアを開ければトラップルームで宝箱を開ければミミックで足を踏み出せば罠。そんな法則から咄嗟に発動した小鳥の危険察知スキル。
 だが注意を呼びかけるには既に遅かった。
 イカレさんは引き戸になっている入り口を開き──



『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』



 ダンジョンから、半透明非実体の魔物──幽霊(レイス)の大群が酒場へ溢れ出した。
 咄嗟にイカレさんは白光防護で自らの身を守り、小鳥とパルはアサギに掴んで引き寄せられ彼の魔剣により庇われたが──酒場の中空を埋め尽くすような量の幽霊がなだれ込み、即座に大騒ぎになる。
 怒鳴り散らす声やテーブル、椅子が倒れる音、悲鳴。仲間に指示を出す声。様々に混ざり合う中よく通る電子音の次に涼しい声が聞こえた。


『追加報告致します。
 折角の最高難易度に設定致しましたので。
 特別にダンジョン各入り口付近にも初回のみモンスターハウスへと変化致しました。
 お挑みの際は阿鼻叫喚が予想致されますので。
 どうぞパニクるがよろしいかと御思い致します。
 以上、IM-666からサービスを致しました』


「先に言えええええええ!!」


 姿を見せぬ管理人への大絶叫と共に幽霊に続いてゾンビやスケルトン、リッチなどの魔物も雪崩れ込んでくる。
 乱戦の戦闘が開始されて対不死者用の術式や秘跡を発動させ出す冒険者達。
 慌てて店主のミイラが魔物と間違われないように身を隠した。
 こうしてダンジョンを巡る小鳥達の冒険の後半はドタバタと共に開始されたのであった。


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