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No.30747の一覧
[0] 【完結】イカれた小鳥と壊れた世界【異世界召喚ファンタジー】[佐渡カレー](2014/08/23 17:54)
[1] 1話『イカレと小鳥と異世界召喚』[佐渡カレー](2014/08/23 17:55)
[2] 2話『DIE脱出』[佐渡カレー](2014/08/24 18:07)
[3] 3話『冷厳なる氷剣の儀式』[佐渡カレー](2014/08/24 22:14)
[5] 4話『デイアフター』[佐渡カレー](2014/08/26 19:14)
[6] 5話『郷愁教習』[佐渡カレー](2014/08/26 19:17)
[7] 6話『魔法学園は国立なのに学費が高い』[佐渡カレー](2014/08/26 19:18)
[8] 7話『流血鬼』[佐渡カレー](2014/08/27 20:10)
[9] 8話『ワナビー』[佐渡カレー](2014/08/28 21:19)
[10] 9話『三月兎』[佐渡カレー](2014/08/29 18:12)
[11] 10話『バニーボーイ』[佐渡カレー](2014/08/30 20:24)
[12] 11話『死』[佐渡カレー](2014/09/02 07:57)
[13] 12話『みかん』[佐渡カレー](2014/09/02 07:58)
[14] 13話『多分次の話ぐらいにほだされる孤高の魔剣士』[佐渡カレー](2014/09/02 18:01)
[15] 14話『壊れた世界の魔剣とアラサー』[佐渡カレー](2014/09/03 18:12)
[16] 15話『魔剣士と魔法使い』[佐渡カレー](2014/09/04 18:01)
[17] 16話『心以外が折れる音』[佐渡カレー](2014/09/06 18:11)
[18] 17話『開き直れる勇気』[佐渡カレー](2014/09/06 18:10)
[19] 18話『マイペースジャパニーズ』[佐渡カレー](2014/09/07 19:28)
[20] 19話『発狂未遂事件簿』[佐渡カレー](2014/09/08 18:13)
[21] 番外1話『酒を飲むあいつら』[佐渡カレー](2014/09/10 18:04)
[22] 20話『世界』[佐渡カレー](2014/09/11 18:17)
[23] 番外2話『結構襲われてるこいつ』[佐渡カレー](2014/09/12 18:06)
[24] 21話『ただ、日々を笑って過ごせるように』[佐渡カレー](2014/09/13 18:12)
[25] 22話『大バザールで御座る』[佐渡カレー](2014/09/14 19:03)
[26] 番外3話『海に行くやつら(前編)』[佐渡カレー](2014/09/15 18:02)
[27] 番外3話『海に行くやつら(後編)』[佐渡カレー](2014/09/16 18:08)
[28] 23話『希望の未来へレディー・ゴー』[佐渡カレー](2014/09/17 18:08)
[29] 24話『隠し味にタバスコ入れて』[佐渡カレー](2014/09/18 18:41)
[30] 25話『続く』[佐渡カレー](2014/09/19 18:02)
[31] 26話『③ATTACK』[佐渡カレー](2014/09/20 18:09)
[32] 27話『天の翼は全て敵』[佐渡カレー](2014/09/21 18:14)
[33] 28話『ハッピーエンドに憧れて』[佐渡カレー](2014/09/22 18:07)
[34] 29話『異世界ファンタジー帰りの男は』[佐渡カレー](2014/09/23 18:02)
[35] 30話『私の兄はテロリスト』[佐渡カレー](2014/09/24 18:31)
[36] 最終話『これよりラ=グース神の軍団との戦い3000年に及ぶ』[佐渡カレー](2014/09/25 18:05)
[37] 『アイテム図鑑』[佐渡カレー](2014/09/25 18:05)
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[30747] 1話『イカレと小鳥と異世界召喚』
Name: 佐渡カレー◆6d1ed4dd ID:633fad5d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/23 17:55


「思うに17歳、つまり高校二年生というステイタスは特殊なわけですよ。
 RPGで喩えるならば毒や麻痺と一緒に頭の上に17と浮かんでいるぐらいでしょう。死の宣告みたいに。ああ駄目かそれじゃ」

 言いながら少女はべたべたとスリッパで床を歩いている。
 寝巻き姿にナイトキャップも被っているが片手には蓋を閉めたカップ麺が持たれていて、素晴らしき健康の権利として寝る前にそれを食べようとしていた様子が伺える。
 しかし自室でもキッチンでもない、暗く虹色模様が蠢く邪な悪夢めいた通路を歩いているのは本人にも本意でなかったが、自分のしたいことだけを選んで人生が進むわけではないと諦めて素直に前へと足を進めていた。
 少女が独り言を云う癖は物心ついた時からあった。
 気味悪がられて殴ったり、邪教の洗脳儀式で矯正しようとしたり、鉄格子のついた物置に監禁したり様々に教育されても独り言は止まらなかった。いつだって口は動くのだから死ぬ間際でも言葉は絶えないのが当たり前だ。正気であるかどうかはともあれ。

「高校二年生。先輩もいれば後輩も居る、モラトリアムの中でも特別な年代。
 遅刻寸前で走れば転校生とぶつかり、新生徒会が旧生徒会とバトルを繰り広げ、引退する三年生相手に部活の二年生がなんか今まで使わなかったような真のパワーで打ちのめす。親方には空から女の子が降ってきて異世界へと召喚される。そんな感じなのではないかと期待されています。
 つまりはわたしはそんなバッドステイタスに侵されているのだからなにがあっても不思議ではないのでした。鉄骨が落ちてきつつトラックに轢かれて神様に会えるかもしれません」

 淡々と呟いている。
 実際には鳥取などという辺境の地の県立高校にわざわざ転校してくる生徒はほぼ居ないし──論理的に考えれば、そうである──固有能力者の集う部活動も無い。そもそも彼女は映画研究部である。
 空から女の子の状況は彼女の高校だと年に二三回は屋上という場所から降ってくるので今更珍しくはないだろう。死人は生憎と出ていないが。屋上から飛び降り可能な地面付近の軟化作業が巧くいったからだ。砂漠から砂を持ってきただけだが。そのため度胸試しで飛び降りる生徒が出ているのは皮肉なものである。
 
「島根県民は拉致の手段として怪しげな妖術を使うと聞いていました……」

 部屋に向かう廊下の途中で急に足元で魔方陣が光りだして、虹色の次元の狭間に引き釣りこまれてもある程度は冷静で居られるのだろうと、彼女は納得した。恐らくは。

「まあ嘘ですが」

 きっぱりと否定しつつも手に持つカップ麺の温かさのみが信じられる幻想奇怪空間を進んでいる。いつの間にか足は動かさなくとも奥へ奥へと移動していた為に平衡感覚も上下の境界も曖昧だ。
 発光する虹色がチカチカして気分が悪くなるので目を閉じた。
 彼女は以前に見たポーランドのZ級映画[虹翅ジャックレスとパリの光]という作品で今なら修正が入るほどのおどろおどろしい点滅演出を思い出す。流行していた疑似科学サブリミナル効果への反証実験作とも言われているものだったが、やはり点滅で具合が悪くなる視聴者が出て訴訟沙汰になった。
 そんなことを考えているともともと寝る前だったためか安らかな気分になってきた。さようなら夢の出来事。ようこそ毎日がくそったれなハッピーデッドエンドへ。

「いや、眠っちゃダメか」

 ぐわぐわと耳鳴りが響きながら無重力さながらで空間とか時間とか次元とか宇宙とか、そんな感じを味わいながら意識を覚醒させる。海に遊びに行くと高確率で覚醒の為のお薬を発見するのだがまだ使ったことはないのが自慢なのだと思いつつも。

「あれ、無重力体験って専用の飛行機を貸切にして何百万円もかけないとできないんだっけ。しかも数十秒だけ。
 ならば今のこの状態は得かもしれない。しかも秒単位で数万円の。わおそんな稼ぎエンコーでも出来やしませんね。ひゃっは。口座振込みでお願いします。え? 報酬はギルドで受け取ってくれ? 何ギルドですかね」

 しかしどっかに引っ張られているという状態は無重力じゃないよね、と思い直す。それにしても気持ちが悪くげんなりとしてきた。人体に悪影響のある放射線とか飛び交っていないことを祈りながら。

「そんなものを浴びてミュータントに目覚めたら探偵にでもなりましょうか。ミュー探偵。あっ意外にいい感じ。商標登録しましょうか」

 それはともあれ。
 やがて。
 虹色空間の中に純白色の光の窓が見えて、彼女はそこへと吸い込まれるようであった。
 少女が一番に心配することは、まあとにかくゲートが繋がった先の異世界だか島根だかの大気が人体に無害であって欲しいことなのだけれども。



 ****



「着地」

 異世界か島根、2分の1の確率でどちらかの場所に彼女は降り立った。
 言葉に出すことは大事だと彼女は認識している。誰に伝えなくても自分に伝えることができる。水を飲む時に「み、水……」と呟くのは体に今から水を送る予約を伝えているのだ。決して世紀末を歩いた救世主の乾きから溢れる悲鳴ではなく。
 そこは白い部屋だった。
 一枚の石を掘り抜いたような滑らかな壁に囲まれていて、照明が何処にあるのかは分からないが明るい。
 前方には扉があって、部屋の中にはベッドや観葉植物、棚と机が置かれていた。壁には幾何学的な模様の描かれたポスターが一部剥がれそうで張られている。天井には通気口のような格子があって僅かな風が吹き込み、或いは出て行く。
 普通の部屋のように見える。普通が何を指すのかというと、職場見学で訪れた鳥取刑務所と比べての事だったが。あそこは口にするのもはばかれる、砂漠の民の暴れたくはない暗部である。
 そして大気は少女が深呼吸したところ、おおよそ地球のものと変わらないようだった。重力も。十倍の重力の惑星だったならば陸に打ち上げられた鯨のように全身潰れて死んでいただろう。
 
「もしくはわたしの体が十倍の重力に一瞬で適応したか。博士に三百倍の重力室を作ってもらわなくてはいけませんね。おや?」

 足元がぐにゃりとしたので視線を下げると死体があった。
 死体というと彼女の故郷、鳥取県の砂漠でよく見つかる骸のことである。日本三大ヤクザが沈める場所と言えば、東京湾と富山湾と鳥取砂漠だ。
 いや待て、と考えを改める。よく見れば、踏み潰されつつまだ苦しげに蠢いていた。

「これが死後の筋肉の収縮とかそんなんでない限り生きている可能性も無きもあらず。緊急救命マニュアルはうろ覚えています。今こそ実践」

 呟いてしゃがみ込む。

「えーと周囲の安全確認よし」

 これも声に出した。重要なことだと認識しているからだ。要救護者を助けようとして車に轢かれたりモヒカンの乗ったバイクに轢かれたりした時に警察に聞かれるのはこれだ。唱えなければ保険も降りない。
 周囲を見回して隕石が落ちてきたり地割れに飲み込まれたり部屋にある扉から銃口が狙っていないことを確認して、患者の様態を観察した。血が飛び散っていたら諦めようと思いながら。
 その人間は一言で言うと、虹色。
 なんというか倒れている男性──痩せ型で成人男性としてはやや低めの身長をした人は、髪の毛が虹色をしていたのだ。
 しかも発光している。
 先程彼女が通った発狂明滅空間の色を髪に圧縮した感じだった。色が流転、グネグネと変化を続けている。
 気合の入ったパンクロッカーでも中々光らせるのは居ないだろう。

「色が変わる生物で思い浮かぶのはイカとカメレオン……命名、イカレオン・略してイカレさんと呼びましょう」

 そうして彼女は仮にイカレさんと名付けて体勢を仰向けにした。名付けるのは重要だ。もし図鑑に乗るのならばそれが永遠に記録されるであろう。
 ともあれ顔を上に向ける。うつ伏せは呼吸が詰まって死ぬらしい。ちなみに仰向けは吐瀉物が詰まって死ぬ。どちらにせよ、死ぬべき時に天の国は近づいてくるが抗うことは生きとし生ける者の義務だ。
 頑張って救護活動を行っても死なせた場合、弁護士はわかってくれるだろうか。あくまで救護のみで医療行為は危ういが。陪審員の同情を引くストーリーを用意しなければいけない。残るは遺族の問題だが、保険金とかでなんとか出来るはず。
 イカレさんの顔はげっそりとしていかにも弱っていた。頬は窪み顔色は悪い。意識も朦朧としているようだ。

「弁護士さん、わたし頑張ったよね?」

 唯一近所で弁護事務所を開いている弁護士を思い出したが、大抵彼女の母を訴える役目だったのでやはり頼りにはならないかもしれないと諦めた。そもそもその弁護士のつけている弁護バッジは手作りだった気がする。堂々としていれば意外にバレないものだ。
 要救助者に呼びかけを続ける。

「イカレさん、イカレさんしっかりしてください。そこはかとなく大丈夫な気になってきませんか?」
「う……ううう……」
「被害状況を報告してください。つらい肩こりがあるとか。内臓をヤクザに切り取られ売られたとか。片方なら平気です。右心房? 左心房?」
「ぐ……ぐうう」
「おや?」

 うめき声を上げているかと思ったらイカレさんの口は開いていなかった。
 耳を彼の顔に近づけると、息はしている。少なくとも肺や血の通った生き物であることを認識できて彼女は安心した。見た目だけ人間のようだったのに謎の生命体とか言われても困る。探検隊だって全滅必至だ。これだから南極には来たくなかったというのに。
 胸に耳を当て心臓も動いていることを確認。さすがに心臓が止まっていたら開胸し無敵のプラチナ治療を試さなくてはならない。出来るかどうかはやってみなければわからないし上手く行く可能性はゼロじゃないけれど、陪審員の判断は厳しくなるだろう。
 続けてぐったりしている彼の腹部に耳を当てる。
 ごろごろと雷鳴めいた音が響き、時折内臓器官が軋むのも聞こえた。

「……お腹が鳴っているのですか」

 呟いて彼女ははバッと離れました。その際にイカレさんの頭が床に叩き付けられて悶絶したような声が聞こえたが、無視。

「これは……赤痢。或いは腸捻転。あ、超捻転っていうと凄い怪我みたい」
「いってェ糞が! こちとら腹ァ減ってんだよボケ!」

 にわか医師の診断に患者から文句が出た。いつだって患者に真相は告げないほうがいいのだ。簡単な風邪の患者には小麦粉に砂糖混ぜたクスリを飲ませておけばいい。セカンドオピニオンなど行えば無免許医がバレてしまう。
 枯れたような声を、頭を抱えながら叫ぶイカレさん。
 目が覚めたように薄目を開けながら、立ち上がらずに動かずに呻く。

「がああああ……つーかだれ手前ェ……手前も罠にかかった奴かァ? どーでもいいけどよォ……なんかメシ持ってねェ?」
「はあ。罠かどうか知りませんが」

 男は腹を抑えながら異様に悪い目付きを少女に向けて云う。
 ぼんやりと彼女は応えて五分ほど経過した、片手に持っているカップ麺を思い出した。

「神は言いました。貧しい物は幸いである。天の国は彼らのためにある。そう皮肉げに言ってマスターにコインを渡しバーボンを注文しながら」
「なんで決め台詞見たいなんだよ」
「鳥取県民は幸いである。パチンコ屋とか多いし。あと鳥取ヌードルが食べれる」
「前後の繋がりがゼロじゃねェか!」

 イカレさんの文句を少女は聞き流しながら、鳥取ヌードルを彼に渡した。
 鳥取ヌードルは鳥取県限定販売されているカップ麺で、ドライの二十世紀末梨とラクダの肉と松葉ガニとか入っている豪華な拉麺だ。ローカルなので県民以外への知名度はゼロに等しい。
 プラスティック製フォークと一緒に受け取ったイカレさんはまじまじと鳥取ヌードルを眺めて匂いを嗅いだ後、音を立てて啜り始めた。
 咀嚼もせずに飲み込み、胃の腑が熱くなるのを感じて天井を仰ぎ見る。

「美味ェ……二日ぶりのメシ……」
「地球産の食品とか化学調味料とか食べて異世界の人間の消化酵素とかそんなんは平気なんだろうかという素朴な疑問が。アレルギーになったりとか」
「あン?」
「いえ……今はまだ軽率な意見は言えませんね。もっと情報を集めなくては」
「なんで肝心なことを秘密にして取り返しの付かない事態にするヤツみてェな言動なんだよ」

 多分ファンタジー的に平気なんだろうけど、と彼女はあっさり認める。イカレさんが大丈夫じゃなかったら逆にこっちがこの島根異世界で食べるものが無くなるのだ。そうはなりたくないと願う。
 夢中で当社比1.5倍というキャッチコピーの付いているの鳥取ヌードルを食べるイカレさん。なにが1.5倍かは決して書いていない。企業に問い合せても答えは出ない。そもそも鳥取ヌードルを作っている会社が他に製品を出しているのを見たことがない。本社で登録されている土地にあるビルはシャッターが閉まっている。どういうことなの……
 それはともかく。

「ところで、此処は何処ですか?」

 大事なことを聞く。王国の魔法学院を知らないなんてアンタどんだけ田舎者なのよとかそんな事を言われる覚悟で。鳥取は田舎ではない十の証拠を思い浮かべながら。ええと、政令指定都市だとか。人口比率がパチンコ店員と不法滞在市民に傾いているとか。
 イカレさんは顔もあげずに、

「ずいぶん間が抜けてる冒険者も居たもんだなァ。此処はダンジョンのトラップルームだ。どっかの転移陣に引っかかって飛ばされたのかァ?」
「それは不明ですが。間抜けはもう一人居るみたいで」
「ちっうるせェよ」

 鳥取ヌードルを貰った恩もなんのその。イカレさんはそっぽ向く。彼の証言を鑑みれば同じく罠にかかってここにいるようであったが。
 続けて尋ねた。
 薄々気づきつつはあるものの、確認は重要だ。猫がどうとか学者も言っている。あれは多分提案した人物の名前と猫というインパクトで知られやすいのではないかと彼女は思っている。田吾作さんの狸という名称で発表したらどうあっても流行らない。

「ダンジョン……といいますと?」
「帝国の地下迷宮だろォが。手前はそれを攻略する冒険者……って格好じゃあねェな。パジャマだし。あれ? つーかだれ手前」

 パジャマでダンジョン攻略する人は居ないという共通認識を覚えて彼女は大きく頷いた。常識が似通っているというのは楽なことだ。何故ならば楽だからだ。

(なるほど、異世界そしてダンジョン。わたしの所々灰色と噂される頭脳が応えを示します。犯人は)

 断定するほど慌てることはない。落ち着いて異世界人類たるイカレさんに挨拶をせねば、日本人としての礼儀を疑わると判断した彼女は咳払いして彼に向き直る。

「改めましてイカレさん。わたしの名前は鳥飼小鳥といいます。ほら、頭の上に17とか出てません?」
「はァ?」
「出てませんか……残念極まりないです。ところでイカレさんも自己紹介してください。三分間で自己アピールです。学生時代に釘以外で打ち込んだこととか、副部長以外でリーダーシップとかを」

 面接官になった気分で尋ねた。近年では物理的圧迫面接が社会問題となっている。万力の購入者はその四割が企業の人事部であると噂される程に。就職の際には気をつけるべきである。
 イカレさんは酷く気むずかしげな顔で首を傾げた。よく見ればその瞳の色も虹色に輝いている。パンクにしては気合が入りすぎだ。全身を様々な色に光らせるマウスを作る実験の被害者なのだろうと一方的に見当をつける。

「意味わかんねェが……俺ァ鳥召喚士のサイモンだ。ちっとダンジョンに用があって来たら罠にかかってここに閉じ込められて……」
「鳥召喚士。なるほど」
「あン?」
「ええ。イカレさんが鳥召喚士だから、『鳥取県鳥取市在住』『名前・鳥飼小鳥』で鳥属性満載なわたしが召喚されたわけですよ」
「いやいやいやいや待て手前」
「異世界から召喚されたのは勇者か魔王か……それがこのわたしなワケです。さあ世界を救えフォーエバー」
「待ーてー」

 カップ麺を食べきったイカレさんががっしりと小鳥の肩を掴んで睨みつけた。乱暴されたらどうしましょう……と無駄な心配をする女子高生である。
 乱暴されたときの対処はだいたい三つ。電撃かガスか噛み切るか。前者二つは現在の装備には含まれていないため、いろいろ噛み切る覚悟を決めなければならないが何の変哲もない女子高生にそれが出来るのだろうか。思いながらも彼女はがちがちと歯を威嚇的に鳴らす。

「俺が人間なんぞ召喚できるわきゃねェだろ! しかも異世界から召喚だと!? 異世界ネタはマズイだろォ……」
「マズかったですか? 麺」
「うめェよ! そっちじゃねェよ!」
「いえまあ、詳しくは知らないですけど此処は異世界で間違い無いと思いますが。ほらなんか世界観の解説的な事してくださいよ。かつて戦争があった……とか世界は核の炎で包まれたとか」

 渋面を作ったイカレさんはブツブツと呟くように告げました。
 ここはペナルカンド大陸東部に位置する帝国の首都、帝都の地下にあるダンジョン。
 帝国は世界に一つしかないので名前は特に無く帝国とだけ呼ばれている。近隣には神聖女王国や海を隔てて島国の東方諸国など様々な国がある。
 ダンジョンには魔紘と呼ばれる鉱物を核に発生したモンスターや、時には道具が落ちているために冒険者と呼ばれる傭兵もどきがそれを回収し、換金している。
 帝都には何箇所かダンジョンの入口があって帝国がそれを管理している。[ダンジョン開拓公社]と正式には云うらしいが、適当にならず者の組合(ギルド)などと呼ばれている。
 召喚士は数少ない、血縁で継承される技能であり頭と目が虹色。
 面倒臭いのか最低限それだけ説明したイカレさん。

「はあ……聞いたこともありませんね。矢張り此処は異世界のごとき。ほらほら、なんかこの床に魔方陣とかありますし」

 床には小鳥の部屋からここまでトランスポーた原因と思しき魔方陣だか召喚陣だかが残っていた。
 
「ごとき? いやともかくなんで異世界召喚が……空腹のあまりに遺失術式を復活させちまったのか? 俺。そォいえば空腹で朦朧としてたときに床に描かれてた怪しい召喚陣に魔力を注いだような……もう魔力は失われてるみてェだが……」
「いいじゃありませんか、遺失術式。響きが格好いい。ほら『な!? あいつの使っているのは失われた術……!』みたいに驚かれますよ」
「昔の魔王が使ってた異界物召喚を自信満々に披露してたら討伐されるわ──つーかこのダンジョンは……ああ……だからか……」
「魔王の力を宿した召喚士の青年は異世界の賢者の知識を持って世界征服へ乗り出すんですね。まずはノーフォーク楽市楽座野釣り錬金術」
「賢者って手前、なんか出来んの?」
「女子高生にある程度の能力!」
「……」
「家庭科は5でした」
「……はァ」

 何かを諦めたように半目でため息を吐くイカレさん。微妙にガッカリしているようだ。

「これでも人間味の素とかミシン内蔵生命とか学校であだ名付けられた女子力の高さに定評のあるというのに。家政婦としてはともかくお嫁さんにしたくない女子高生ランキング一位ですよ、一位」
「……まァいいか。慌ててもどーにもならんし」
「そういえば此処はトラップルームとか言ってましたね。なにがどうなんです?」

 不貞腐れてベッドに寝始めたイカレさんに声をかける小鳥。トラップルームというと毒ガスが吹き出たりお湯とドジョウが注がれたり──湯が熱いのでドジョウは被害者の穴という穴に逃げこむらしい。鍋のように。本当だろうか。NASAに問い合わせたけど教えてくれなかった──壁にあいた穴から外に出ようとするとギロチンでストーンって寸法なものを想像する。
 ここはいかにも普通の部屋であった。イカレさんが飢えていた通り、食べ物のたぐいは無いが。よく見たら観葉植物の葉っぱに歯形が付いているが、不味かったらしく食べてはない。

(あ、トイレもないや。イカレさん、どうやって汚物処理を……)

 細かい事が気になる小鳥である。彼女はゲームのマップでも警察署とかにトイレがないのを心配する。
 
「どォやっても出れねェんだよ、この部屋。扉には鍵かかってるし。全力で攻撃してもビクともしねェ」
「ほう」

 鍵穴のある扉のノブを回す。ガチャガチャと音はなるが開く気配は無かった。
 
「それで三日閉じ込められていたわけですか。ちなみに汚物の処理などは」
「聞きてェの?」
「気になって気になって」

 部屋の隅を注目したらうず高く盛り上げられてたりしたらどうしようかと思いながら。オブジェと思って忘れてあげる程度に優しさはあると信じていたい。
 イカレさんはぶっきらぼうに告げる。

「召喚術で呼び出した鳥に処分させて消した。狭い部屋なのに汚物なんざ残せるか」
「鳥さん可哀想。はっ。つまり外道なイカレさんはわたしのことも便器にしようと……」
「こいつなんか頭オカしい」

 うんざりと彼は言う。

「しかし空腹なら鳥を召喚させて食べればよかったのでは」
「召喚術で召喚した奴ァ魔力で体を複製してるからデカイダメージ負ったら消える。つまり食おうとして噛んだりちぎったりしたら消えるから食えねェんだよ」
「なるほど。しかしわたしの場合はたまたまラーメン持っててよかったですね。そっちは普通に食べれたみたいで」
「……鳥が何か持ってるって事ァ少ないからよくはわからねェが、手前が持ってたらセーフなのか」

 とすると。

「イカレさんの話によれば今のわたしの体は本体ではなく魔力の複製だと。あ、魔力ってマジックパワーであってます? マグマパワーの略じゃないですよね?」
「ねェよマグマパワー強そうだが──手前が俺に召喚されたっつーのが本当ならそうなんじゃねェの?」
「本体はどうしてるんですか?」
「召喚されたことに気づかずに生活してるんじゃね。詳しくは知らんが」

 小鳥は顎に手を当てて考える。
 ならば鳥取県在住の本体は今頃夜食のラーメンを食べきっているのかもしれない。そして後悔するがいい。実は大して彼女は好きじゃないのである、鳥取ラーメン。
 
「なんとも不思議な気分です。向こうのわたしが頓死したらどうなるのかドキドキワクワクですね」
「ん? あァ悪ィよく見たら手前魔力複製体じゃねェや生身だわ。本当に俺に召喚されたのか疑わしいぐらい……いやでも俺の魔力が供給されてるしなァ」
「なんだ詰まらぬです」

 ジロジロと無遠慮にイカレさんが彼女を見て、頭をわし掴んで来た。魔力の流れを測っているようだ。乙女の大事なところに無造作に触れるなんて! と心のなかで憤慨するが見た目が年上のチンピラだったので声には出さなかった。生物全般、頭部は大事だが。
 診断結果、やはり小鳥は生身で本体まるごと召喚されたようである。異世界に着の身着のまま。せめて残機無限ならばよかったものをと残念に思う。

「男の人はそうやって認知から逃れると聞きました。わたしの体のことなんてどうでもいいっていうのかしらん」
「どォでもいいよ。あークソ早く救助とかこねェかな」
「イカレさん。口を開けて上を向き、餌が落ちてくるのを待つのは豚以下ですよ。行動あるのみで脱出を計らねば」

 荒野に豚は生きられない。荒野を生きるのはいつだって狼とか伝承者とかだ。


 異世界ミッションの始まりとしては、まずこのトラップルームから脱出せねばならない。


 こうして鳥飼小鳥の奇妙な異世界ライフは始まったのである。



「後にこの時開いた異世界ゲートを使って侵略しに来た魔王と戦う、召喚士と偉大なる賢者の出会いだったことをわたしたちはまだ知らない……」
「何ブツブツ言ってんだボケが。ところでさっきから俺のことイカレって呼んでるのなんでだ。俺の名前はサイモンだが」
「聞きたいですか? イカメロンの由来を。あれ? イカメロンであってたっけ?」
「……いやもォどーでもいいわ」


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