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No.29890の一覧
[0] DAYDREAM (少年がダーツを投げる話)[けーぷ](2011/09/24 18:40)
[1] 第一話 ここからはじめよう[けーぷ](2011/09/27 14:33)
[2] 第一話② 投げてみた[けーぷ](2012/01/27 20:33)
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[29890] DAYDREAM (少年がダーツを投げる話)
Name: けーぷ◆9067388e ID:f6afdb34 次を表示する
Date: 2011/09/24 18:40
〜プロローグ〜 そこへ至るまでの道のり






「Oooooooooone hundred Eightyyyyyyyyyyy!!!!!!」

名物レフェリー、ポール・ヒンクスの絶叫がアレクサンドラ・パレスに響き渡る。
熱狂の渦に包まれる会場。
観客達は総立ちになって180と書かれた手持ちのボードを振りかざし、もはや意味をなさない絶叫を上げる。

PDCワールド・チャンピオンシップ。
世界最高のダーツの大会。
地球上の全ての大陸から最強のダーツプレイヤーが集う、唯一にして最高の£100万トーナメント。

その決勝戦。

世界最強のダーツプレイヤーを決めるその場に立っているのは、ダーツ史上最高のプレイヤー”The Power”フィル・テイラー。
13回の優勝を誇る、紛れもなく神に最も近い男。

leg数6−6でむかえた最終leg。
両者は一歩も譲らず、セット数5−5。最終セットを取った方が優勝。

この局面においても冷静に180を決めたフィル・テイラーがボードから3本のダーツを抜く。
残り321。

そして次にラインに立ったのは東洋系の少年。
欧米人から見たら若い、というよりも幼いと表現されそうな顔立ち。

その彼が、ダーツを、投げた。


「Oooooooooone hundred Eightyyyyyyyyyyy!!!!!!」


3本のダーツはまるで吸い込まれるように20のトリプルに突き刺さる。
残り141。

再び熱狂に包まれる会場。
世界最高の決勝戦の、このセットをとった方が優勝という局面において二人のプレイヤーは180を、いや180しか出していない。

会場の興奮が最高潮のまま、再びフィル・テイラーがダーツを投げた。


「Oooooooooone hundred Eightyyyyyyyyyyy!!!!!!」


フィル・テイラーも残り141。この最高の舞台において二人のプレイヤーはパーフェクトペースで試合を進めていた。
もはや会場の盛り上がりは最高潮を遥かに超える。

そして迎えた運命のラウンド。
残り141。
これを決めれば、東洋系の少年の優勝が決まる。




少年の集中力は最高潮に達していた。
会場の絶叫も喧噪も、何も聞こえない。

そこにあったのは自分と、ボードと、最高の相手だけだった。

ラインでフォームを構える直前。
ほんの少しだけ、本当に少しの間だけ、フィル・テイラーと目が合った。
目が合った瞬間、世界最強の男は微笑んだ。
まるで、”お前のような選手が来るのを待っていたんだ”といわんばかりに。




フィル・テイラーは退屈だった。
ダーツに対する愛情は健在だったし、毎年のトーナメントも楽しみにしていた。
だが、彼は自身が満足できるような好敵手には巡り会えなかった。
史上最高のダーツプレイヤーと呼ばれ始めた頃から彼はいつしか相手ではなく、自身と戦うようになっていた。
それはそれで悪くはないものだったが、何かが足りなかった。
退屈、というよりも寂しかった。


そう。彼はその強さ故に孤独だった。


その彼の目の前には今、最高の相手がいた。
日本人のその少年はダーツを始めてからわずか三年らしい。
年齢も18歳で話にきくとまだ高校生のようだ。

彼が投げた1本目のダーツは20のトリプルに突き刺さる。
残り81。

自分にも息子がいたら彼くらいの年齢かな等と考えながら、その若さと未来の可能性に思いを馳せる。

2本目のダーツは19のトリプルに突き刺さる。
残り24。

神に最も近いなんて呼ばれている自分の目の前で新しい伝説をつくる。まさにこの少年のニックネームに相応しいじゃないか。
これからが楽しみだ。…そうだな。本当に楽しみだ。

そして3本目のダーツが12のダブルに突き刺さる。



9ダーツ、達成。



その瞬間、”Dream Boy”大江 貴矢の優勝と共にダーツの新しい歴史が始まった。


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