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No.2889の一覧
[0] クロニクル・オンライン[柚子](2008/04/13 13:52)
[1] 赤魔術師スイの受難[柚子](2008/04/14 18:52)
[2] 赤魔術師スイの受難  -初めての冒険 序-[柚子](2008/04/14 18:53)
[3] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の洗礼 上-[柚子](2008/04/14 18:54)
[4] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の洗礼 下-[柚子](2008/04/12 17:57)
[5] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の事情 上-[柚子](2008/04/14 18:57)
[6] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の事情 下-[柚子](2008/04/14 18:58)
[7] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の日常-[柚子](2008/04/14 18:59)
[8] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の忠告 上-[柚子](2008/04/14 19:14)
[9] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の忠告 中-[柚子](2008/04/14 19:35)
[10] 赤魔術師スイの受難  -暗闇の時代の忠告 下-[柚子](2008/04/14 20:06)
[11] 不真面目な幕間 -「衛兵」キールの憧憬-[柚子](2008/04/15 22:46)
[12] 不真面目な幕間 -「文官」ハリスの野望-[柚子](2008/04/15 23:04)
[13] 幕間 ― クエスト『忘れられた部屋』 上―[柚子](2008/04/16 19:38)
[14] 幕間 ― クエスト『忘れられた部屋』 下―[柚子](2008/04/16 19:49)
[15] 赤魔術師スイの受難  -ギルド『竜と錬金』 序-[柚子](2008/04/16 20:01)
[16] 赤魔術師スイの受難  -ギルド『竜と錬金』 その1-[柚子](2008/04/18 00:49)
[17] 赤魔術師スイの受難  -ギルド『竜と錬金』 その2-[柚子](2008/04/19 17:53)
[18] 赤魔術師スイの受難  -ギルド『竜と錬金』 その3-[柚子](2008/04/20 16:45)
[19] 赤魔術師スイの受難  -ギルド『竜と錬金』 その4-[柚子](2008/04/21 21:25)
[20] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その1-[柚子](2008/04/22 20:38)
[21] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その2-[柚子](2008/04/23 21:36)
[22] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その3-[柚子](2008/04/24 22:22)
[23] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その4-[柚子](2008/04/28 23:15)
[24] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その5-[柚子](2008/04/28 23:32)
[25] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その6-[柚子](2008/04/28 23:56)
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[2889] 赤魔術師スイの受難  -『竜と錬金』の内情 その6-
Name: 柚子◆90f3781e ID:34cbca9c 前を表示する
Date: 2008/04/28 23:56



昼でも薄暗い店内には、人もまばらで、時折厨房から笑い声が聞こえる以外には、バーテンがグラスを磨く音が響いているだけだった。
不機嫌な顔をしたバーテンは、いつもと変わらず、無愛想に客を出迎え、送り出している。
彼の陰鬱な空気に当てられてか、ぽつぽつとテーブルを埋める客たちも一様に静かに食事を取っていた。
鈍いオレンジ色の照明はそんな人々の顔に大きな影を落とし、表情を奪い去る。



“戦いの時代”で私が唯一知っている店、「アポカリプス」は今日も西部劇の一場面を抜き出したようだった。
さながら、主役が登場する前の酒場めいた趣がある。つまりは、意味も無く陰気だ。


「……って事なんですよ」
「ははあ、それはまた」

ハリスさんは複雑そうな表情で私の話に相槌を打つ。
彼も色々と思うところがあるのだろう。長らく所属していたギルドの内輪揉めは、いくらもう脱退しているとはいっても堪える筈だ。

「しかし、……困ったものですね」

しゃらり、と金色のチェーンを揺らしながらハリスさんは眼鏡を押し上げる。
その静かなため息に、私もまた、ため息でもって応えた。


沈黙がテーブルを支配する。
その気まずい空間の中で、私はハリスさんに相談という名の愚痴を持ちかけよう、と考えるきっかけとなった出来事について、思い出していた。







前回の再会は唐突だったが、ある意味では必然だったのだろう。
しかし、今回の再会は全くの偶然だった。


「…………あ」
「…………」

ここしばらく、キールさんと”混沌の迷宮”に潜っていた為、その日はかなり久しぶりの街歩きだった。
掘り出し物や新発明のアイテムでもないかと、ぶらぶらと店を冷やかして歩く。
意外な人物とばったり街中で出くわしたのは、ちょうど街歩き巡回コースの折り返し地点を過ぎてからだった。

「こんにちはー」
「ああ」

長身のカウスさんは、今日も寡黙だった。
身の丈程もある両手剣を二本背負っている姿は、それだけで威圧感がある。

「お買い物ですか?」
「いや、待ち合わせだ」
「そうなんですかー」

そこで一旦会話は途切れた。
非常に気まずい雰囲気ではあったが、個人的に聞きたいこともあったので、立ち去らずにその場に留まる。

「……あの、この間のことなんですけど」
「…………」
「やっぱり、ギルドで何かあったんですか? 私、最近ギルドに加入したばかりだし、ずっとソロプレイしてた所為で、何がどうなってるのかよく知らないんです」


続きを目で促したカウスさんに、言葉を選びつつ問いかけた。
”混沌の迷宮”で再会して以来、ずっと引っかかっていたのだ。一体、今『竜と錬金』に何が起こっているのか。
勿論、ソーヤさんやリュウザキさんに聞いてみる、という手も考えた。
しかし、何しろソーヤさんはいつにも増してピリピリしているし、リュウザキさんはリュウザキさんで、どうもこの件に関しては口が重い。
つまりは、私は最近のギルド事情に関してかなり無知なのだ。


「そうだな、スイさんも聞いておいた方がいいかもしれない……」
「カウス、お待たせ!」

かなりの間をおいてから、語りだしたカウスさんの声を遮ったのは、いつぞやの弓使い、イオさんだった。
明るい街中で見ると、彼女の水色の髪はよく目立った。特別可愛らしいという訳ではないが、愛嬌のある顔立ちをしている。
背負っている矢筒と、腰に下げられた鞭を見るに、どうやらスカウト(弓と鞭を駆使する職で、弓矢系列の上位職)クラスらしい。

「あれ? 久しぶり」
「こんにちは」

陽気に片手を上げた彼女は、私に向かって微笑んだ。
いつぞやの、どこか刺々しい様子とは打って変わって、人好きのする雰囲気がにじみ出ている。
こちらが本来の彼女の姿なのだろうか。

「ていうか、どしたの?」
「今、例の話をしていた所だ」
「あー、アレね。そかそか。スイさん、今暇?」

何やら二人で囁きあった後、イオさんは私に問いかけた。

「はい、暇です」
「ちょっとウチらに付き合わない?」
「いいんですか?」

随分あっさりしたお誘いに、元々の予定(待ち合わせをしていた位だから、予定があるのだろう)の邪魔にはならないか、と思いながら尋ねると、イオさんはにっこりと笑った。

「だーいじょーぶ。元々、街うろついて愚痴でも言い合おうか、っていう集まりだし」
「……はあ」

爽やかに言い切ったイオさんに、なんと応えていいのやら分からず、私は言葉を濁した。
本当なのかな、とカウスさんを伺うと、彼は特に否定することもなく無言で頷いた。
どんな集まりですか、それ。

「じゃ、とりあえずいつものとこ行こうか」
「ああ」

歩き出した二人に促され、私は戸惑いつつも小走りにその後を追った。







イオさんとカウスさんの「いつものところ」は、賑やかな食堂だった。
通りに面した壁一面をガラス張りにしていて、開放的、かつ活気に満ちている。
少し外した時間帯にも関わらず、そこかしこにパーティーらしき人々が仲良く料理をつついていた。
明るく目に優しい内装とあいまって、なんとも好ましい空間である。



「あ、あたしはジンジャエールとマカロニグラタン」
「俺はアイスコーヒーとほうれん草のパスタとジャーマンポテトのチーズがけ」
「……アイスティーとオムライス、お願いします」

ギャルソンエプロンのウェイターさんが水を運んできたのに合わせて、イオさんとカウスさんは注文した。
それに合わせて、私も二人に目で促された為、とりあえず飲み物を頼む。

「はーい。じゃ、すぐ飲み物持って来るんで、ちょっと待っててくださいねー」

やたらとフレンドリーなウェイターさんが、そう言って去っていくと、と私たちのテーブルには沈黙が落ちた。
なんといっても、一人はフレンドのカウスさんとはいえ、もう一人はほぼ初対面と言ってもいいイオさんだ。
共通の話題も思いつかず、とりあえず水の入ったグラスに口をつけた。

「スイさんさあ、ぶっちゃけウチのギルドについてどのへんまで知ってる?」

沈黙を破ったのは、イオさんだった。
なんとも答えづらい質問を投げかけた彼女は、どこか探るような眼差しで私を見つめる。


「……ほとんど、何も知らないですね。私は最近加入したばかりだし、加入してからもほぼソロで動いていたので」
「そのワリには、リュウザキさん達と仲良いよね? あの人たちからなんも聞いてないの?」
「ほとんど、何も聞いてないです」


私の答えに、なおも疑うような眼差しを向けるイオさんに、内心ため息をついた。
まあ、もうギルドに入って数ヶ月経つというのに、ろくに内情を把握していない、というのは我ながら少し間抜けすぎるとは思うが。
それにしても、なかなか傷つく。


「スイさんは、ほとんどソロで動いていたからな」
「ふーん」

カウスさんがフォローするように言葉を添えると、イオさんはまだ得心がいかない様子ながらも、一応引き下がってくれた。
ウェイターさんからグラスを受け取りながら、彼女は話し出す。

「あ、どうもー。うんとね、あたしらは正直、クロミネさん派なんだわ。ソーヤさんが嫌いとかそんなじゃなくてね。なんつーか、色々世話になったのよ」
「はあ……」

イオさんは顔をしかめながらストローを噛んだ。
飲みづらくなるのに、等と考えつつも、私はちょっと驚いていた。
確かにそれなりにいい人だと聞いていたクロミネさんに、明確なシンパが居るとは思わなかったからだ。

「まーでも、正直今はついてけないけどさ。ミルネリア放置すんのは駄目でしょ」
「確かにな」
「あたし固定パーティー組んでたんだけどさー、うちの男どもがみんなあのお姫様に入れあげちゃって、結局空中分解。一応”魔王討伐”目指してたのにね」


カウスさんの頷きに力を得てか、イオさんは畳み掛けるように愚痴を吐いた。
……なんとも救えないお話である。
魔王討伐目指して固定パーティーを組んでいたお仲間さんと、そんな理由で別れることになるとは、きっと想像もしていなかったに違いない。
というか、普通は想像しない。


「つーわけで、あたしは心情的にはクロミネさん派だけど、ミルネリアが嫌いな訳。逆恨みっぽいのは自覚してるけど、やっぱどうしようもないわ」
「それは……、そんなことはないと思いますけど」
「まあまあ、ね? でもやっぱクロミネさんは好きなんだよね。なんつーか、あの人の世話焼きなとこ、すごく好きだわ。おかげで色々助けてもらったし。今はそれが悪い方向に向かっちゃってるんだけどさー」


イオさんはさばさばと笑って、ジンジャエールを啜った。
聞く限りでは色々と複雑な立場らしいのだが、悲壮感があまりない所為か、何を言っても妙に爽やかな人である。
苛立ったり怒ったり、といった感情をストレートに表現する彼女の特質ゆえか、粘着質な愚痴にならない所が大きいのだろうが。


「……俺も、似たようなものだ。一緒に始めた友人が、どうにもアレに入れ込んでいる。かといって、クロミネさんには世話になったから、文句は言いづらくてな」
「そーなんだよねー」

頷き合って、二人は揃ってため息をついた。
ミルネリアさんも、なんともまあ罪作りな人である。

再び沈黙が降りたテーブルに、湯気の立った皿を抱えたウェイターさんが近づいてきた。
目の前に置かれる料理は、インパクトにこそ欠けるが、どれも手堅く美味しそうである。
食欲をそそる彩りに満ちた皿に促され、とりあえずは食事を始めることになった。





「ところでさー、ウチらは知らないんだけど、ソーヤさんサイドはどうなってんの?」
「私も詳しくは知らないんですけど、クロミネさんと話合ってみる、ってソーヤさんが言ってて。それ以来、今のあの状態なんで……多分話し合いは上手くいかなかったんじゃないかと」


へー、と感心したようにグラタンの皿をつついていたイオさんが顔を上げる。
どうやら、サブマスター同士の話し合いの件は、ギルドメンバーにあまり知られていない事だったらしい。
言っても良かったんだろうか、と内心焦りつつも、アイスティーを啜って気持ちを落ち着ける。

「でも、それじゃ尚更厳しいね。ウチのギルド、やばいわ。まだサブマス同士が腹割って話し合ってないと思ってたから、望みあるかなーとか思ってたけど」
「ああ。そうだな。そこまで拗れているなら、ギルドの崩壊も時間の問題かも知れん」

イオさんは頭を抱えつつ、カウスさんは少し顔を歪めつつ、うんざりしたように言った。
やはり、どうにも不穏な雰囲気だ。しかし気持ちは痛いほど分かる。

「そこまで険悪じゃないって思ってたから、ちょっと様子見してたんだけどさー。こりゃマジでやばいわ」
「私も、このままの状態じゃいけないとは思うんですが。……どうしたらいいのか分からなくて」
「うん、既にそこが問題だよね。ついこの間入ってきたばっかの新人さんまでこんな揉め事に巻き込んで、”ゲームは楽しく”もないもんだわ」


顔をしかめたイオさんは、吐き捨てるように呟いた。
……確かに、ギルドの雰囲気が新人の私にも分かるほどに険悪なのはよくない事だ。
それが、サブマスター同士の内輪揉めなら、普通のギルドメンバー達にとってはハタ迷惑な話だろう。

実際は事はそう単純ではないのだが、いかんせんソーヤさんもクロミネさんも事情を殆ど外部に漏らしていない。
マズイ事に、その不透明な対立が更にギルドメンバー達を苛立たせている。
このままでは余計な軋轢が生まれるのもそう遠い事ではないだろう。


「”ゲームは楽しく”ってギルドマスターさんの口癖なんでしたっけ?」
「らしいね。あたしらは会った事ないけど、クロミネさんがよく言ってた。……でも、今のあの人じゃ、ねえ?」
「少なくとも、楽しめてはいないだろうな」


どこか悲しげな眼差しを伏せて、カウスさんはぽつりと言った。
普段が寡黙な人だけに、その一言一言には重みがある。
その言葉を聞いて、私はふと考えた。

クロミネさんは、ゲームを楽しんでいるのだろうか。

彼は、本当に今、楽しいのだろうか。とてもそうは思えない。
本当は、昔と同じようにソーヤさんとコンビを組んでギルドを率いていた頃に戻りたいんじゃないかな。
そうだったらいいな、と思いつつも、かりにそうだったとして全てが丸く収まる訳ではないことも分かりきっている。なんとも、切ない。


「なんにしてもさ。きっと、ミルネリアをどう片付けるか、だね。今回の焦点」
「だろうな。古参は揉め事の元凶はあの女だと思っているし、取り巻き連中はあの女の言いなりだ」
「…………」

やはり、ミルネリアさんは渦中の人物だ。
なんだか全ての物事が彼女を中心にして渦巻いているような気がしてしまう。
かといって、彼女自身にはきっとそんな自覚はないのだろう。
ギルドイベントの一件でも、彼女自身から明確な「悪意」は正直それほど感じなかった。
なんとも、厄介な人である。
私はため息を吐き出す代わりに、残り少なくなったアイスティーを飲み干した。








「……やっぱり、もう駄目なんでしょうか?」
「そんなことはない、と言い切れないのが辛いところですね」

回想が終わった私の問い掛けに、ハリスさんは珍しく言い淀み、誤魔化すように微笑んだ。
しかし、その笑みは普段のものとは違い、どこか余裕のないもので、それが彼も決して平常心ではないことを示していた。

「私、『竜と錬金』の雰囲気好きだったんですよね。だから、尚更今が辛いです。元々は仲良かった二人って聞いてるから、余計切ないです」
「そうですね。あの二人は、いわゆる”仲良し”ではありませんでしたけど……いいコンビでした」


いいコンビ。バランスのいい二人。
ソーヤさんとクロミネさんを知っている人は、みんなそう言う。
そんな二人が、一体どうして今のように反目し合うようになってしまったのだろう。
……まあ、ミルネリアさんの所為、というのが大きいのだろうが。


「……ギルドのトップに立つプレイヤーの仲たがいは、確実にギルドに波紋を呼びます。もう既に、半ばギルドを割るような状態だそうですし」
「そうですね」
「ソーヤにしても、クロミネにしても、二人とも今更引けない、という所でしょう。対立といかないまでも、今までも意見の相違でよくぶつかってはいましたし、ね。
そんな時は、大抵リョウが止めてくれたんですが……休止中ですからね」

ハリスさんは、そこまで言うと言葉を切った。



ハリスさんの言うとおり、ここ数日、ギルドの雰囲気は悪化の一途を辿っている。
それというのも、ソーヤさんがミルネリアさんのMPKの件を持ち出し、ギルド内に通告したからである。

元々、ミルネリアさんは評判が悪すぎたのだ。
今まではクロミネさんがなんとかフォローしていた部分と、彼の元々の人望もあいまって見逃されていた。
しかし、今回のMPKの件によって彼女の立場は一気に「困ったお姫様」から「悪質プレイヤー」へと変貌を遂げたのである。

その結果、ミルネリアさん支持側のギルドメンバーとミルネリアさん不支持を掲げるギルドメンバー達までもが反目し合う事になった。
もはやサブマスター同士の冷戦どころの話ではなく、ギルドを挙げての内紛状態に突入してしまったのだ。
当然ながら、漂う空気は最悪の一言に尽きる。



「……もう、どうにもならないんですかね」
「うーん。難しいでしょうねえ。ソーヤは元々頑固ですが、クロミネも気難しい所がありますから」


まあ、それはなんとなく分かる。
二人とも、あまり素直な性質ではないのは、関わって日の浅い私でもよく知っていた。
どちらかが譲歩しない事にはどうにもならない事態だが、かといってどちらかが一方的に譲るとも考えにくい。
はっきり言って、ほとんど手詰まりである。
もう私に出来ることは殆どなく、後はゆっくりギルドが崩壊するのを待つばかり、といった状況だ。


「かといって、このまま『竜と錬金』が潰れるのを黙って見ているのも癪ですしね。私も、ちょっと動いてみましょう」
「えーっと、大丈夫なんですか?」
「ええ、まあ。それに、クロミネとは昔、喧嘩別れになってしまいましたからね。いい機会です」

ハリスさんの意外な提案に、私は驚きを隠せない。
しかし、彼が動いてくれるのならば、もしかしたら事態の収拾が計れるかもしれない。
何しろ、腕利きの『参謀』さんなのだ。



久しぶりにに希望が見えてきて、私の気分は実に現金に浮上した。
ハリスさんがキールさんにプレゼントした髭眼鏡の所為でこうむった諸々の迷惑も、今なら全て水に流しても構わない。

しかしまあ、結局、世の中そんなに甘くはない、という事を実感することになるのだが。











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