*「不真面目な幕間」は本編で出せなかった設定供養的小話です。
*本編「暗闇の時代」でスイとキールがお祝いをした時の一場面です。
-「衛兵」キールの憧憬-
「キールさん”衛兵”昇格おめでとうございますー」
「ありがとうございます、でも、ほんとにいいんですか?」
「お祝いですから! むしろもっと高いとこでも良かったくらいですよー」
キールさんが「衛兵」昇格のお祝いをするのに選んだのは、やはり喫茶店「プリンセス」だった。
お祝いに奢りますよ、と私が言って誘った手前、もう少しワガママを言ってくれても(もう少し高級なお店で食べたいとか)良かったのだが。
やはりその内装がネックになっているのか、いまいち広い客層の集客は望めていないが(むしろ店側が望んでいないのかもしれない)、メルヘンな店内を誇る「ぷりんせす」には今日もたくさんの女性客が訪れていた。
何しろこの店は、数多くの飲食店がシノギを削る城下都市「シュメール」内でも、コストパフォーマンスがかなり優秀なのだ。
注文した料理が届くまでの間、私はキールさんに前々から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「すごい今更なんですけど、聞いてもいいですか?」
「俺に答えられる事なら任せてください!」
恐る恐る問いかけた私に、彼は胸を張って快諾してくれた。
が、続けて「でも、ぶっちゃけ分からないことの方が多いです」と気弱に呟いた。
つくづく人間的に可愛い人である。
「えーっと、”門番”についてなんですけど」
「それなら大丈夫です!なんでも聞いてください」
「前々から疑問だったんですけど……」
そう、ここについた当初はそうでもなかったが、段々と疑問になってきた事があるのだ。
キールさんに出会った時、「門番」というジョブの基本的な仕事は教えてもらったが、詳しい所までは聞く事ができなかった。
ずるずると聞くタイミングを逃し続けて、すでにキールさんはとっくに「門番」ではなくなってしまった。
お祝いとは全く関係ないが、いい機会だから聞いておきたい。
「門番って、結構な数のプレイヤーさんがなってますよね?」
「そうですねー」
「勤務日とかシフト表とか、どうなってるんですか?あと、そのシフトにあぶれちゃった人ってどうなるんですか?」
疑問の発端は、かなりの人気職である「騎士」に向けての一歩である「門番」の数が少ないはずがない、という推測からだった。
では、かなりの人数が勤務しているはずの「門番」は一体どうやって”週に二回の勤務”のシフトを決定しているのだろうか。
第三希望まで希望日を提出して、その中から調整する「進路希望調査書」形式か。
はたまた、問答無用で勤務日を決定する「俺が法律」形式か。
もしかしたら、くじびきで勤務日が決まる「席替え」形式なのか。
「ああ、それはですね」
「それは……?」
「都合のいい日を選んで、城の”門番記録”にリングを使って書き込むんです」
キールさんは、にこにこと笑ってそう言った。
いつになく晴れやかな顔である。「衛兵」になれたのがよほど嬉しいらしい。
しかし、彼の晴々とした笑顔とはうらはらに私の疑問は晴れなかった。
「でも、それだと希望日重なっちゃったらどうするんですか?二三人ならいいでしょうけど」
「あ、普通に全員”門番”しますよ」
「へ……?」
予想外だ。
確かに、ある程度は勤務が重なって人数が多くなることもあるだろう、とは思っていた。
しかしまさか、それに対して何の対策も講じないとは盲点だった。
「俺の最高記録は十五人でしたねー」
「じゅ、十五人……って、それもはや門番ってレベルじゃないですよ」
「いやいや」
呆れるように言った私に、まだまだですよ、と何故か悔しげな表情でキールさんは首を振った。
「ハリスさんなんか、四十人の門番と六人の文官に埋め尽くされた”門”を見たことがあるらしいですよ。壮観だったそうです。他のプレイヤーにはめちゃくちゃ評判悪かったらしいですけど」
そりゃそうだろう。
ていうかそれ、「門番」なんだろうか。
「その苦情を受けて、今じゃ一度に勤務できる人数の上限は二十人までなんですよ」
それでも十分以上に多いと思うんですが。
キールさんは本気で羨ましそうに、「俺も見たかった……」と宙を見てうっとりと呟いた。
私はその様子に、それ以上の質問をあきらめて、口をつぐむ。
ただの素朴な疑問だったのに、なんだかおかしな空気になってしまった。
四十人があの甲冑をガチャガチャ言わせて門をとり囲んでいる様子は、確かにある意味愉快ではあるかもしれないがそこまで見たいものだろうか?
キールさんが夢見るように中空を見つめて黙り込んですぐに、注文した料理が届いたため、会話はそこで一端打ち切られることになった。
結局、私の疑問は解決したが、変わりに解決しようもない疑問を抱え込んでしまう結果になった。
「門番」の仕事については色々設定があったのに、本編ではあまり触れることが出来なかったので、この幕間にて供養したいと思います。
ヤマなし・オチなし・イミなしの短編でしたが、「設定」だけつらつら書くのも味気ないかと思ってむしゃくしゃして書きました。今は反省しています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。