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No.28849の一覧
[0] ドラゴンテイル 辺境行路 【オリジナル 異世界 ハイファンタジー】[猫弾正](2013/01/08 21:00)
[1] 01羽[猫弾正](2011/08/03 21:48)
[2] 02羽[猫弾正](2011/08/31 18:12)
[4] 03羽[猫弾正](2012/11/22 04:48)
[6] 04羽     2011/07/30[猫弾正](2013/06/09 00:34)
[7] 別に読まなくてもいい設定 貨幣 気候について[猫弾正](2012/04/08 00:14)
[8] 05羽 前     2011/08/03[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[9] 05羽 後     2011/08/03[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[10] 06羽     2011/08/11[猫弾正](2013/06/10 00:40)
[11] 07羽     2011/08/18[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[12] 08羽 手長のフィトー01     2011/08/21[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[13] 09羽 手長のフィトー02     2011/08/23[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[14] 10羽 手長のフィトー03     2011/08/26[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[15] 11羽 手長のフィトー04     2011/08/30[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[16] 12羽 手長のフィトー05     2011/09/06[猫弾正](2013/06/09 00:40)
[17] 13羽 手長のフィトー06     2011/09/10[猫弾正](2013/06/09 00:41)
[18] 14羽 手長のフィトー07 序章完結     2011/09/16[猫弾正](2013/06/09 00:41)
[19] 1章から読む人の為の序章のあらすじ[猫弾正](2011/10/27 18:11)
[20] 15羽 北の村 01     2011/09/20[猫弾正](2013/06/09 01:23)
[21] 16羽 北の村 02     2011/09/23[猫弾正](2013/06/09 01:25)
[22] 17羽 北の村 03     2011/09/27[猫弾正](2013/06/10 00:33)
[23] 18羽 北の村 04     2011/10/01[猫弾正](2013/06/10 00:32)
[24] 19羽 北の村 05     2011/10/04[猫弾正](2013/06/10 00:34)
[25] 20羽 北の村 06     2011/10/06[猫弾正](2013/06/10 00:36)
[26] 21羽 北の村 07     2011/10/09[猫弾正](2013/06/10 00:37)
[27] 22羽 北の村 08     2011/10/17[猫弾正](2013/06/10 00:38)
[28] 23羽 北の村 09     2011/10/18[猫弾正](2013/06/10 00:39)
[29] 24羽 北の村 10     2011/10/20[猫弾正](2013/06/11 21:21)
[30] 25羽 北の村 11     2011/10/22[猫弾正](2013/06/14 20:16)
[31] 26羽 北の村 12     2011/10/26[猫弾正](2013/06/11 21:23)
[32] 27羽 北の村 13     2011/10/27[猫弾正](2013/06/11 21:24)
[33] 28羽 北の村 14     2011/10/31[猫弾正](2013/06/14 20:18)
[34] 29羽 北の村 15     2011/11/02[猫弾正](2013/06/14 20:18)
[35] 30羽 追跡 01     2011/11/07[猫弾正](2013/06/27 03:16)
[36] 31羽 追跡 02     2011/11/11[猫弾正](2013/06/27 03:18)
[37] 32羽 追跡 03     2011/11/17[猫弾正](2013/06/27 03:18)
[38] 33羽 追跡 04     2011/11/20 [猫弾正](2013/06/27 03:19)
[39] 34羽 追跡 05     2011/11/26 [猫弾正](2013/06/27 03:20)
[40] 35羽 追跡 06     2011/12/03 [猫弾正](2013/06/27 03:21)
[41] 36羽 追跡 07     2011/12/16[猫弾正](2013/06/27 03:22)
[42] 37羽 追跡 08     2011/12/24[猫弾正](2013/06/27 03:23)
[43] 38羽 土豪 01[猫弾正](2012/06/18 20:04)
[44] 39羽 土豪 02[猫弾正](2012/03/19 20:53)
[45] 40羽 土豪 03 改訂[猫弾正](2012/01/31 22:27)
[46] 41羽 土豪 04[猫弾正](2012/12/03 20:33)
[47] 42羽 土豪 05 [猫弾正](2012/02/09 02:43)
[48] 43羽 土豪 06 [猫弾正](2012/02/24 04:22)
[49] 44羽 土豪 07 改訂[猫弾正](2012/12/03 20:36)
[50] 45羽 土豪 08[猫弾正](2012/03/10 22:58)
[51] 46羽 土豪 09[猫弾正](2012/04/11 02:39)
[52] 47羽 土豪 10 心の値段[猫弾正](2012/03/19 03:33)
[53] 48羽 土豪 11 獣の時代[猫弾正](2012/04/22 15:58)
[54] 49羽 土豪 12[猫弾正](2012/04/04 21:13)
[55] 50羽 土豪 13 改訂[猫弾正](2012/04/20 18:14)
[56] 読まないでもいい魔法についての裏設定とか 種族についてとか[猫弾正](2012/04/04 21:59)
[57] 51羽 土豪 14 改訂 [猫弾正](2012/05/27 06:56)
[58] 52羽 土豪 15 [猫弾正](2012/12/03 20:41)
[59] 53羽 土豪 16 [猫弾正](2012/11/22 04:52)
[60] 54羽 土豪 17 [猫弾正](2012/12/03 20:44)
[61] 55羽 襲撃 01 [猫弾正](2012/08/02 21:11)
[62] 56羽 襲撃 02 [猫弾正](2012/12/03 20:47)
[63] 57羽 襲撃 03 [猫弾正](2012/08/02 21:13)
[64] 58羽 襲撃 04 [猫弾正](2012/08/02 21:14)
[65] 59羽 襲撃 05 [猫弾正](2012/12/03 20:57)
[66] 60羽 襲撃 06 [猫弾正](2012/08/02 21:26)
[67] 61羽 襲撃 07 [猫弾正](2012/12/03 20:52)
[68] 62羽 襲撃 08 [猫弾正](2012/12/03 20:54)
[69] 63羽 襲撃 09 [猫弾正](2012/12/03 20:56)
[70] 64羽 襲撃 10 [猫弾正](2012/11/02 06:59)
[71] 65羽 襲撃 11 [猫弾正](2012/11/22 04:54)
[72] 66羽 襲撃 12 [猫弾正](2012/08/02 21:32)
[73] 読まなくていい暦 時間単位 天文についての設定とか[猫弾正](2012/06/13 18:29)
[74] 67羽 土豪 18 [猫弾正](2012/12/03 21:00)
[75] 68羽 土豪 19 [猫弾正](2012/08/02 21:42)
[76] 69羽 土豪 20 [猫弾正](2012/06/16 19:29)
[77] 70羽 土豪 21 [猫弾正](2012/11/02 02:17)
[78] 71羽 土豪 22 [猫弾正](2012/11/22 04:57)
[79] 72羽 土豪 23 [猫弾正](2012/07/16 19:35)
[80] 73羽 土豪 24 [猫弾正](2012/08/02 21:47)
[81] 74羽 土豪 25 [猫弾正](2012/08/23 20:34)
[82] 75羽 土豪 26 [猫弾正](2012/09/11 03:08)
[83] 76羽 土豪 27 [猫弾正](2012/11/02 21:22)
[84] 77羽 土豪 28 [猫弾正](2012/09/17 21:06)
[85] 78羽 土豪 29 [猫弾正](2012/09/18 19:48)
[86] 79羽 土豪 30     2012/09/24[猫弾正](2013/01/08 20:03)
[87] 80羽 土豪 31     2012/10/02[猫弾正](2013/06/06 22:34)
[88] 81羽 土豪 32     2012/10/16[猫弾正](2013/06/06 22:15)
[89] 82羽 土豪 33     2012/11/07[猫弾正](2013/06/06 21:47)
[90] 83羽 土豪 34     2012/11/14[猫弾正](2013/06/06 21:44)
[91] 84羽 土豪 35     2012/11/14[猫弾正](2013/06/06 21:44)
[92] 85羽 土豪 36     2012/11/18[猫弾正](2013/06/06 21:43)
[93] 86羽 土豪 37     2012/11/21[猫弾正](2013/06/06 21:42)
[94] 87羽 土豪 38     2012/12/11[猫弾正](2013/06/05 23:33)
[95] 88羽 土豪 39     2012/12/20[猫弾正](2013/06/05 23:27)
[96] 89羽 土豪 40     2012/12/28[猫弾正](2013/06/05 21:31)
[97] 90羽 土豪 41     2013/01/08[猫弾正](2013/06/05 21:19)
[98] 91羽 土豪 42     2013/02/17[猫弾正](2013/06/05 21:11)
[99] 92羽 土豪 43     2013/02/17[猫弾正](2013/06/05 21:05)
[100] 93羽 土豪 44     2013/04/08[猫弾正](2013/06/05 21:02)
[101] 94羽 土豪 45     2013/05/23[猫弾正](2013/06/05 00:25)
[102] 95羽 土豪 46     2013/05/24[猫弾正](2013/06/05 00:14)
[103] 96羽 死闘 01     2013/05/25[猫弾正](2013/06/05 00:07)
[104] 97羽 死闘 02     2013/06/03[猫弾正](2013/07/10 02:22)
[105] 98羽 死闘 03     2013/06/05[猫弾正](2013/06/11 20:46)
[106] 99羽 死闘 04     2013/06/11[猫弾正](2013/06/14 05:08)
[107] 人名や地名といった物語のメモ [猫弾正](2013/06/14 20:20)
[108] 履歴 [猫弾正](2013/06/11 21:19)
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[28849] 80羽 土豪 31     2012/10/02
Name: 猫弾正◆b099bedb ID:956b3d88 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/06 22:34
 辺境は、ゴート河以東の土地においては、古くから人族とオーク族が勢力を争ってきている。
利便性に長けたなだらかな平野部の大半は、人族の住まう土地であり、対して不便な丘陵地帯がオーク族の主だった生息地であった。
地が痩せ、水も乏しい土地柄と、恐らくは人族に対して抱いている敵愾心や侮蔑も要因なのだろう。
オーク族は、財貨や食料を求めて定期的に人族の領域に入り込んでは、旅人を襲い、農園を荒し、何年かに一度は村を襲撃して略奪を行なった。

 オークは、人(というよりオーク以外の全ての種族)を下等な種族と見做し、拐かした人々を奴隷として酷使し、時に遊びで嬲り殺しもする。
それに対する人族の報復もまた苛烈なもので、オークの領域に攻め込んでは度々、村を焼き払い、時に女子供に至るまで殺戮した。

 オーク側領域の出入り口に当たる丘陵部の狭隘な渓谷には、オーク族の村々を守る為に強固な砦が築かれていた。
そしてオーク族の生存領域を守る為の門番として砦を任されているのは、衆目が一致するところで丘陵地帯のオーク族で当代最高の戦士と目されている巨漢の戦士ルッゴ・ゾムだった。
砦の本丸と城門を結ぶ細い通路を、六名の武装したオークの戦士が通り過ぎていった。
丘陵オーク族の王子ルッゴ・ゾムが支配する砦の中庭では、黒エルフやゴブリンの商人にドウォーフの鍛冶職人や皮革職人、そして見たこともない亜人や刺青を入れた蛮族の傭兵たちや娼婦が道を行き交っては、荒々しく罵り声を上げたり、取引を行なっていた。
人族やホビットでありながら、略奪目当てにオークの配下に加わろうとやってきた雑多なならず者も幾人かは混じっている。
丘陵地帯の伝説的な戦士であるルッゴ・ゾムが、人族と戦うために手勢を集めている。
点在するオーク族の集落に噂が出回って、ほんの数日。
ルッゴ・ゾムの母体であるゾッグ族は愚か、丘陵の様々な氏族の村から大勢の兵士が集ってきていた。
列を為した戦士達が引っ切り無しに砦にやってきては主に面会を求め、鉄や青銅製の武具を貸し与えられて傘下に加わり、ルッゴ・ゾムの兵団は大きく膨れ上がっていく。

オーク族の民衆に対する夫の信望の高さが窺えると同時に、大きな戦への予感を感じさせるその光景を目にして、空恐ろしさを感じた女オークのジジは僅かに唇を噛んだ。
先刻から盛んに行き交う人並みを眺めながら、夫の剛勇への信頼と、戦への恐れ。相反する二つの気持ちにジジは物憂げに瞳を揺らしていた。
砦のバルコニーに佇んでいたジジが物音に気づいて振り返ると、砦の司令官で夫のルッゴ・ゾムがその巨体を揺らしながら近づいてくるところだった。
「……風が冷たくなってきた」
火傷の傷跡の残る妻の髪を優しく整えてから、中に入ってるように告げたがジジは首を横に振った。
砦の司令官は、後ろに二人の部下を引き連れていた。
副官を務める屈強の戦士ボロが、ジジに会釈してから詰まらなそうに吐き捨てた。
「フウめが、戻ってきた」
後ろからやや遅れて歩いてくるのが、人族の領土から戻ってきたばかりの半オークのフウ。
出会う度に何時も異なる変装を行なっているが、今のフウの格好は遍歴の自由労働者にしか見えなかった。
ルッゴ・ゾムは、ジジの傍らに控えてる人族の奴隷女に毛布を持ってくるように命じる。
見目麗しい奴隷女の背中を好色な目付きで見送ってから、密偵を務める半オークの青年フウが口を開いた。
「渡し場の村には、確かに少なくないオーク小人たちが虜になっている」
副官の灰色オークが鼻を鳴らした。
「確かなのか?」
「おう、この目で見たぜ」
肯いてから、真剣な表情となってルッゴ・ゾムに訴えかけた。
「でかい町の奴隷商人が護衛つきで引き取りに来るって噂も耳にした。
もし助けるんだったら、出来るだけいそがにゃならんぜ、旦那」
重々しく肯きながら、ルッゴ・ゾムが訊ねかける。
「捕まっている場所は?」
「見つけた。奥にある村の古い共同倉庫だ。
 土山に挟まれてちょっとばかし分かり辛い場所にあったが、俺が案内する」
肯いたルッゴ・ゾムは頬を撫でながら、腹心の戦士ボロへと問いかけた。
「ふむ。ボロ、動かせる兵は?」
「使い物になる連中に絞っても、志願兵は三十を越えている。
 もともとの手勢と併せれば五十二、三か」
顔に向こう傷を走らせたオークのボロは、醜悪な笑みを浮かべながら兵数を諳んじた。
最後に一言、付け加えるのを忘れない。
「ちっぽけな村一つ攻め落とすには、充分すぎる兵だ」

「ご苦労だったな。下がって休んでいるがいい」
労を労いながら、ルッゴ・ゾムは密偵のフウに革製の財布を投げ与えた。
「へへ」
宙で素早く掴み取った半オークのフウは、報酬をその場で確かめると、司令官のルッゴ・ゾムに慇懃に一礼してから踵を返した。
財布の中には、オークやゴブリンの間で流通している鉛製の打刻貨幣がぎっしりと詰まっていた。
貨幣としての価値は低い鉛貨だが、物価も安い丘陵の村々で寝食を済ませるなら一ヶ月程度は喰えるだろう。
「ボロ、兵は何時でも出られるようにしておけ」
「おう」
重みを楽しむように財布を弄びつつ、階段へ向かうフウが、女奴隷とすれ違い様に尻を撫でた。
怒ったように睨み付ける人族の女奴隷にウィンクしてから、階下に消えていく半オークの密偵フウを、ボロは胡散臭げな視線で眺めていた。
胡散臭げな半オークの若者フウは確かに密偵としてはなかなかに有能で、司令官からは信頼を勝ち得ているものの、他の有力なオークからも金を受け取っているのではないかとボロは密かに疑っている。
密偵としてのフウの有用さは認めているものの、ボロはどこか信用できない臭いを感じていた。
ふざけた野郎だと心中で罵倒しつつ、気持ちを切り替えてルッゴ・ゾムに訊ねかけた。
「本当に、洞窟オークを助けたらすぐに引き返すのか?」
ルッゴ・ゾムは眉を顰めてボロを見るが、副官は遠慮なしに言葉を続けた。
「略奪を期待している奴も多い」
「仲間を助けると、勇敢なちびに約束しちまったからなぁ」
ルッゴ・ゾムは溜息を洩らしつつ、太い指で頭を掻いた。
「其処は行く連中に念を押しておけ。一番の目的は小さい連中を助けることだ。
略奪は、手早く済ませろってな」

足早に戻ってきた奴隷女がジジに毛布を手渡した。
幼い頃の火傷の後遺症が原因で、ジジはびっこを引いている。何かを言いたげにルッゴ・ゾムとボロを見つめていたが、やがて女奴隷に付き添われて杖を付きながら暖かい屋内へと戻っていった。

砦の司令官であるルッゴ・ゾムの言葉に露骨に不機嫌そうな表情を見せていたボロだが、やがて肩を竦めると肯いた。
「……少し待てば、もっと増えるぜ。村の一つ二つで終わらせるよりもよ。
 もっと大きな獲物を狙ったらどうだ。ルッゴ・ゾムよ」
声を潜め、周囲を見回してから、ボロは熱心な口調で身を乗り出した。
最初から五、六人と連れ立ってやってくる者たちも多いが、単独や二、三人でやってくる者も多かった。
手勢を引き連れた郷士層にも、下層の農民兵にも、ルッゴ・ゾムの人望は広く届いている証だとボロは解釈している。
唆すようなボロの言葉に、だが、ルッゴ・ゾムは首を横に振った。
「俺があからさまに兵を集めれば、カーラやバグを刺激することになる。
万が一ってこともあるしな。今の時期に身内同士で争うほど、馬鹿馬鹿しいことはない」
ボロは俯き、押し黙った。
ルッゴ・ゾムは僅かに躊躇いを見せてから、重々しい口調で腹を割って話しはじめる。
「それにこれ以上、兵を集めれば、皆、俺に先頭に立って人族と戦うように求めるだろうな」
「おいおい、自信がないのか?俺は何時か、あんたが人族を蹴散らす時が来るって思ってるんだぜ」
おどけたように笑ったボロだが、ルッゴ・ゾムは険しい表情のまま副官のボロを見返していた。
「気が進まないのか?」
ボロの問いかけに、巨躯を揺るがすとルッゴ・ゾムは重たい声で返答する。
「いい勝負は出来るだろうな」
「……だったら」
「いい勝負じゃ足りない」
ルッゴ・ゾムの口調は真剣で重々しく、ボロも生半な気持ちでは口を挟めなかった。
「丘陵は貧しい土地で、おまけに氏族たちはばらばらだ。
 一度負けたら、兵を集めるにも、育つにも時間が掛かる」
腕を組み、唸り声を上げながら、ルッゴ・ゾムは眉根を寄せて深刻そうに言葉を続けた。
「分かるか?建て直しが効かないのさ」
「……だが、よ」
「此方が十人育てる間に向こうは倍を育てる。
 その上、その気になれば、他所のでかい町から傭兵を百人だって連れてこれる」
どうやらボロには見えてないものが、目前のルッゴ・ゾムには見えていたようだ。
幾度となく人族と干戈を交え、卓越した戦士として幾人もの敵を倒しながら、結局は押し切れずに虚しく兵を死なせたルッゴ・ゾムが、昼夜を問わず考え続けて漸くに達した結論が其れだった。
「聞いてると、まるで勝ち目がないみたいだな」
憤怒に顔を歪めて絶句していたボロは、暫らくしてから漸く肩を竦めると、ルッゴ・ゾムを眺めて訊ねた。
「……俺たちは勝てんのか?」
「分からん。だが、無闇に挑みかかって、虚しく力を費やしてはならん」
慎重に考えながらルッゴ・ゾムは、腹心の問いかけに答えを導いていった。
「今のオーク族は、各々が好き勝手に人族と戦い、或いは和睦を結んでいる。
 此れをまず一つに纏めなければならないが、まず其れが困難だ。
近隣のオークたちは、人族の居留地で分断されているからな」
切りつけるように強い眼差しのボロの視線に、ルッゴ・ゾムも強い眼で見返していた。
「だが、オーク族に戦う力はあるのだ。
種族は、雄々しい魂を持っている。時を待つのだ」
ルッゴ・ゾムの言葉に、ボロが歯軋りするほど強く奥歯を噛み締めた。
「……何時までだ?」
「敵が弱まり、割れる時。その時を待って、結集したオークの力を叩きつけ、完膚なきまでに打ち倒してしまわねばならない。必ずその時が来る筈だ」
夕焼けを眺めながら呟きを繰り返すと、ルッゴ・ゾムは陰気に黙り込んだ。


夜が訪れた。
骨身に染み入るような冷たい夜気に背筋を震わせてから、農夫の男は畦道に足を止めた。
「……空耳か?」
何か聞こえたような気がしたが、気のせいだったかも知れない。
何しろ今日は大変な一日だったから。
酒臭い息を吐きながら、農夫は群青色の夜空に散りばめられた星の煌めきを仰いだ。
洞窟オークたちが攻めてきて、村を乗っ取った。
二日前の事だ。いや、昨日だったような気もするし、三日前のような気もする。
記憶も混乱していたし、農夫はあまり頭が良くなかったので、正確な日付は既に曖昧になっていた。
だが、まあ覚えてないのは、どうでもいい事だからだろう。
昨日だろうと、三日前だろうと、人生に大した違いはないのだ。
忘却は救いだ。家がぶち壊れたことも、こうやって酒を飲んでいる間は忘れられる。
女房が死んだ時も、農夫はそうやって悲しみをやり過ごしてきた。
つい先ほど、奇特にも何処かの豪族の兵士達がやってきて連中を追い払ってくれた。
村人があまりにも情けない顔をしていたからだろうか。
兵士たちの指揮官が、幾らかの食べ物を置いていってくれた。
若い癖にやたら深刻そうな顔をした変な男だった。
何かに悩んでいるのか、ずっと眉間に縦皺が入っていた。
あれは将来、禿るな、などと農夫は思う。
ずっと緊張感を漂わせていた若い女もいた。
こっちは恐かったので、農夫は遠巻きにしていた。
置いていった食い物はその場にいた連中が独り占めにしてしまったが、農夫も蕎麦と麦酒を一袋せしめることが出来た。
それを食い尽くしたら、どうなるかは考えないようにしている。
戦は嵐のように村を荒れ狂い、旋風のように村から去っていった。
村人には身内や知己を失って途方に暮れたように嘆き悲しんでいる者もいれば、自棄糞に酒を飲んでくだを巻いている者、虚脱したように俯いたり、呆けている者もいた。
だが、大方は家に帰って寝ているようだ。
村の道端や空き地には、いまも洞窟オークの死骸が転がっている。
農夫が何気なく頭を振るった時、また呻き声が聞こえてきた。
今度は錯覚じゃない。誰かがいるらしい。
久方ぶりに酒を飲んで親切な気分になっていた農夫は、助けてやろうと、音が聞こえたと思しき家屋へと足を踏み入れた。
「村長の家かぁ」
月と星々の光だけが照らす夜の村は、所々、濃密な闇を持って人が立ち入る事を拒んでいたが、しかし酔っ払い、大胆になっている農夫にとっては馴染みの土地という事もあって、警戒心が薄れていた。
裏庭の片隅、倒れている人影が呻いているのを見つけて無遠慮に近づき、覗き込むと
「おい、生きてるかぁ」
それは頭から血を流して横たわった洞窟オークの少年であった。


日は沈んだばかりだが、外では早くも冷たい夜風が吹き荒れている。
しかし、旅籠の一室では盛んに火を焚いており、冬の寒さとは縁遠い暖かさに満ちていた。
「夜になりました」
告げた声はあからさまに上擦っていて、きっと興奮を隠しきれていないのを悟ったのだろう。
寝台に腰かけた女剣士が、秀麗な容貌に面白そうな表情をたたえながら微笑を浮かべた。
「はい」
友人を真っ直ぐに見つめて、何気ない返事が返ってきた。
何の衒いもない黄玉色の瞳に見つめ返され、エリスは微かに怯みを覚えて言いよどんだ。
「その……」
アリアは、くつくつと笑った。嫌味のない笑いだった。
「分かってるよ」
云いながら、猫科の獣のようにしなやかな動きで立ち上がると上着を脱ぎ始めた。
魅入られたように立ち尽くしながら、エリスはただその光景に見とれていた。
衣擦れの音、次いで洋袴も床に落とし、晒と下帯も躊躇なく取って寝台の横に置いた。
均整の取れた見事な肢体が、暖炉の炎を照りうけて黄金のように輝いているように見えた。
張りのある形よい乳房、しなやかに筋肉の付いている四肢と腹筋、引き締まった臀部、股の付け根にある黒い翳り。
胸を弾ませるエルフの娘を真っ直ぐに見つめると、黒髪の女剣士はすっと手を指し伸ばしてきた。
「エリス」
名を呼ばれた翠髪のエルフの娘は、ほうっと溜息を洩らした。
「綺麗……とても」
思わず飲み込んだ生唾に喉を鳴らしながら、エリスは慄きに震えた。
素朴な褒め言葉を耳にして、アリアが微笑み、エリスは赤面する。
服を着たままアリアに歩み寄って抱きつくと、首筋に鼻腔を埋めて匂いを嗅いでみる。
「いい匂い」
「くっ……ふ」
くすぐったそうに身動ぎして甘い呻きを洩らすアリアの香りを堪能しつつ、陶然とした笑みを見せたエリスも服を脱ぎ始める。
アリアの肌は、仄かに汗ばんでいる。真冬にも拘らず、部屋は暖かい。
暖炉の炎が大きく燃え上がった。
アリアは、連日、薪を欠かしたことがないが、今日は、特に命じて、旅籠の召使いにかなりの薪を運ばせておいた。
薪の代金もそれなりの金額となっていたが、アリアは頓着する様子をみせていない。
いずれにしても、春先には入念に煙突の煤掃除をする必要があるに違いない。と、エリスは思っていた。

エリスの背丈は低く、アリアは長身で、エルフの額が長身の女剣士の鼻頭の位置してる。
だから、背伸びしても、キスするには少し足りない。
「……んっ」
身長の差からアリアの方がやや前かがみになって口づけに応える。
肉食だからだろうか。人族のアリアの体臭と唾液の味は、エリスの知るエルフの女の子たちよりも、少し癖が強かった。
いい香り。美味しい。気に入った。脳裏で幸せに浸りながら、最初はゆっくりと、次いで情熱的に口づけを交わしつつ、エリスは蒼い瞳を細めて想い人を見つめた。

「……まだ、出会って一ヶ月してないのにな」
エリスを惚れっぽいと云いたいのか。それとも自嘲の言葉なのか。
唇に触れながら黒髪の女剣士が、苦笑を浮かべてそっと呟いた。
寝台へとゆっくり倒れこむ。軋んだ樫の寝台には、古い狐の毛皮が敷かれている。
二人とも、昼の間に沐浴を済ませておいた。
アリアが、エリスを見つめる瞳は優しくて穏やかではあったが、其処には余裕の色が浮かんでいるのが見て取れた。
狂おしい熱も愛しさもアリアの黄玉の瞳には見出せない。
野生の狼のように鋭く冷静な眼差しが、今も面白がるように微かに細められている。
好きあっているとは思う。
だけど、私がアリアを愛するようには、アリアは私を愛していない。
エリスは、それをはっきりと感じ取っていた。
勿論、好意はある。さもなければ、こうして身体を交えたりはしないだろう。
だけど、愛と言うよりは、多分にエリスへの好意とその孤独への同情。
そして看病に対する感謝の念の発露なのだろう。
それでもいいさ。
一抹の寂しさを感じながら、エリスは微かに歯を食い縛って笑みを浮かべる。
それなら、それで構わない。遠慮なく存分に甘えさせてもらおう。

アリアの肌には、至るところに戦傷が残されていた。
幾つかの真新しい傷跡は、今も生々しい桃色に盛り上がっている。
「……私を庇った為の傷だね」
エリスがおずおずと呟いた。
「……あの時、私を見捨てて逃げてもよかったのに」
さりげなく発したエリスの言葉に、アリアは少し皮肉っぽく口の端を吊り上げた。

友人を庇ってオーク族と戦い、身に受けた痕跡は傍目にも深く刻まれていた。
エリスは、それを心苦しく思っているのか。
アリアにとっても、エリスと一緒にいるのは何となく楽しい。
気持ちも落ち着くし、何より心安らぐ。だから、受け入れた。
だけど、他の腕の立つ剣士なり、誰が助けていても、エリスは惚れていただろうか。
そんな詰らないことを考えていると、身を乗り出したエリスが胸を押し付けてきた。
前髪をかき上げたアリアは、瞳を閉じて心地よい愉悦に少しずつ耽溺していった。
半開きにした口の端から、甘い喘ぎを洩らしつつ、愉悦に思わず下半身を慄かせている。
「……気持ちいいな」
エリスは、思っていたよりも上手かった。女同士の情交に手馴れている風情すらある。
もしかして、遊び人に上手く口説かれたのではないかな。
アリアがふと疑念を抱いた時、
「愛しています」
翠髪のエルフの娘は、改めて黒髪の女剣士に告白した。
「なんだい、改まって」
アリアは苦笑を浮かべたが、想いを蒼い瞳に乗せたエリスは真剣な表情を崩さなかった。
「どれ程に貴女を愛しているか。結ばれて嬉しく思っているか。
口にしたところで、言葉に過ぎないけれども……
いま、凄く幸せだということは覚えておいて欲しい」
エリスの真っ直ぐな眼差しに貫かれたアリアは、僅かに怯みを覚えた。
他者を信じ、心身の一部を委ねることへの躊躇に襲われたのかも知れない。
だが、同時にエリスは信じていいかもしれないとも感じていた。
アリアテートは、乱世の地に住まう諸侯の跡継ぎである。
エリスの告白は、彼女が精神の根底に持つ根強い不信と猜疑の城壁を越えられはしなかったけど、確かに揺るがした。
アリアはゆっくりと手を伸ばしてエリスの頬に添えた。
恋人と敵味方に分かれて剣を交えた苦い記憶を思い返しながら、ふっと微笑を浮かべた。
「かつて私の愛した人は、私を抱きしめたその腕で私に刃を向けてきた。
 運命の女神は無情で、君が心変わりしない保証も、私がそうならない保証もない。
 だけど、今だけは君を愛するよ」
其れが今のアリアの真情であり、口に出来る精一杯の真実であったけれども、しかし、妥協の言葉はエリスの心を満足させなかった。
「私は、ずっと貴女を愛する」
裸体を絡ませながら、エリスは確信を込めて恋人に断言した。
数年ぶりに胸の奥に暖かいものを感じながら、しかし不安を覚えたアリアは躊躇いがちに瞳を伏せた。
愚か者でもなければ、幸せでもないのに、如何してエリスはこんなにも強く他人を信じられるのだろうか。
いや、他者ではないな。私を……私だけは信じているのか。
アリアは、エリスの真っ直ぐな心根に怯みはしなかったが、確かに畏れを抱いた。
と同時に、出来るならエリスを裏切るような事はしたくないとも思う。
「永久の愛が存在すると?」
アリアの問いかけに、エリスは頬を寄せた。
明日の天気の話でもするかのようにさり気ない口調で、だけれど絶対の確信を込めて耳元に囁くように
「この瞬間は永遠だよ」


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