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No.28849の一覧
[0] ドラゴンテイル 辺境行路 【オリジナル 異世界 ハイファンタジー】[猫弾正](2013/01/08 21:00)
[1] 01羽[猫弾正](2011/08/03 21:48)
[2] 02羽[猫弾正](2011/08/31 18:12)
[4] 03羽[猫弾正](2012/11/22 04:48)
[6] 04羽     2011/07/30[猫弾正](2013/06/09 00:34)
[7] 別に読まなくてもいい設定 貨幣 気候について[猫弾正](2012/04/08 00:14)
[8] 05羽 前     2011/08/03[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[9] 05羽 後     2011/08/03[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[10] 06羽     2011/08/11[猫弾正](2013/06/10 00:40)
[11] 07羽     2011/08/18[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[12] 08羽 手長のフィトー01     2011/08/21[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[13] 09羽 手長のフィトー02     2011/08/23[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[14] 10羽 手長のフィトー03     2011/08/26[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[15] 11羽 手長のフィトー04     2011/08/30[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[16] 12羽 手長のフィトー05     2011/09/06[猫弾正](2013/06/09 00:40)
[17] 13羽 手長のフィトー06     2011/09/10[猫弾正](2013/06/09 00:41)
[18] 14羽 手長のフィトー07 序章完結     2011/09/16[猫弾正](2013/06/09 00:41)
[19] 1章から読む人の為の序章のあらすじ[猫弾正](2011/10/27 18:11)
[20] 15羽 北の村 01     2011/09/20[猫弾正](2013/06/09 01:23)
[21] 16羽 北の村 02     2011/09/23[猫弾正](2013/06/09 01:25)
[22] 17羽 北の村 03     2011/09/27[猫弾正](2013/06/10 00:33)
[23] 18羽 北の村 04     2011/10/01[猫弾正](2013/06/10 00:32)
[24] 19羽 北の村 05     2011/10/04[猫弾正](2013/06/10 00:34)
[25] 20羽 北の村 06     2011/10/06[猫弾正](2013/06/10 00:36)
[26] 21羽 北の村 07     2011/10/09[猫弾正](2013/06/10 00:37)
[27] 22羽 北の村 08     2011/10/17[猫弾正](2013/06/10 00:38)
[28] 23羽 北の村 09     2011/10/18[猫弾正](2013/06/10 00:39)
[29] 24羽 北の村 10     2011/10/20[猫弾正](2013/06/11 21:21)
[30] 25羽 北の村 11     2011/10/22[猫弾正](2013/06/14 20:16)
[31] 26羽 北の村 12     2011/10/26[猫弾正](2013/06/11 21:23)
[32] 27羽 北の村 13     2011/10/27[猫弾正](2013/06/11 21:24)
[33] 28羽 北の村 14     2011/10/31[猫弾正](2013/06/14 20:18)
[34] 29羽 北の村 15     2011/11/02[猫弾正](2013/06/14 20:18)
[35] 30羽 追跡 01     2011/11/07[猫弾正](2013/06/27 03:16)
[36] 31羽 追跡 02     2011/11/11[猫弾正](2013/06/27 03:18)
[37] 32羽 追跡 03     2011/11/17[猫弾正](2013/06/27 03:18)
[38] 33羽 追跡 04     2011/11/20 [猫弾正](2013/06/27 03:19)
[39] 34羽 追跡 05     2011/11/26 [猫弾正](2013/06/27 03:20)
[40] 35羽 追跡 06     2011/12/03 [猫弾正](2013/06/27 03:21)
[41] 36羽 追跡 07     2011/12/16[猫弾正](2013/06/27 03:22)
[42] 37羽 追跡 08     2011/12/24[猫弾正](2013/06/27 03:23)
[43] 38羽 土豪 01[猫弾正](2012/06/18 20:04)
[44] 39羽 土豪 02[猫弾正](2012/03/19 20:53)
[45] 40羽 土豪 03 改訂[猫弾正](2012/01/31 22:27)
[46] 41羽 土豪 04[猫弾正](2012/12/03 20:33)
[47] 42羽 土豪 05 [猫弾正](2012/02/09 02:43)
[48] 43羽 土豪 06 [猫弾正](2012/02/24 04:22)
[49] 44羽 土豪 07 改訂[猫弾正](2012/12/03 20:36)
[50] 45羽 土豪 08[猫弾正](2012/03/10 22:58)
[51] 46羽 土豪 09[猫弾正](2012/04/11 02:39)
[52] 47羽 土豪 10 心の値段[猫弾正](2012/03/19 03:33)
[53] 48羽 土豪 11 獣の時代[猫弾正](2012/04/22 15:58)
[54] 49羽 土豪 12[猫弾正](2012/04/04 21:13)
[55] 50羽 土豪 13 改訂[猫弾正](2012/04/20 18:14)
[56] 読まないでもいい魔法についての裏設定とか 種族についてとか[猫弾正](2012/04/04 21:59)
[57] 51羽 土豪 14 改訂 [猫弾正](2012/05/27 06:56)
[58] 52羽 土豪 15 [猫弾正](2012/12/03 20:41)
[59] 53羽 土豪 16 [猫弾正](2012/11/22 04:52)
[60] 54羽 土豪 17 [猫弾正](2012/12/03 20:44)
[61] 55羽 襲撃 01 [猫弾正](2012/08/02 21:11)
[62] 56羽 襲撃 02 [猫弾正](2012/12/03 20:47)
[63] 57羽 襲撃 03 [猫弾正](2012/08/02 21:13)
[64] 58羽 襲撃 04 [猫弾正](2012/08/02 21:14)
[65] 59羽 襲撃 05 [猫弾正](2012/12/03 20:57)
[66] 60羽 襲撃 06 [猫弾正](2012/08/02 21:26)
[67] 61羽 襲撃 07 [猫弾正](2012/12/03 20:52)
[68] 62羽 襲撃 08 [猫弾正](2012/12/03 20:54)
[69] 63羽 襲撃 09 [猫弾正](2012/12/03 20:56)
[70] 64羽 襲撃 10 [猫弾正](2012/11/02 06:59)
[71] 65羽 襲撃 11 [猫弾正](2012/11/22 04:54)
[72] 66羽 襲撃 12 [猫弾正](2012/08/02 21:32)
[73] 読まなくていい暦 時間単位 天文についての設定とか[猫弾正](2012/06/13 18:29)
[74] 67羽 土豪 18 [猫弾正](2012/12/03 21:00)
[75] 68羽 土豪 19 [猫弾正](2012/08/02 21:42)
[76] 69羽 土豪 20 [猫弾正](2012/06/16 19:29)
[77] 70羽 土豪 21 [猫弾正](2012/11/02 02:17)
[78] 71羽 土豪 22 [猫弾正](2012/11/22 04:57)
[79] 72羽 土豪 23 [猫弾正](2012/07/16 19:35)
[80] 73羽 土豪 24 [猫弾正](2012/08/02 21:47)
[81] 74羽 土豪 25 [猫弾正](2012/08/23 20:34)
[82] 75羽 土豪 26 [猫弾正](2012/09/11 03:08)
[83] 76羽 土豪 27 [猫弾正](2012/11/02 21:22)
[84] 77羽 土豪 28 [猫弾正](2012/09/17 21:06)
[85] 78羽 土豪 29 [猫弾正](2012/09/18 19:48)
[86] 79羽 土豪 30     2012/09/24[猫弾正](2013/01/08 20:03)
[87] 80羽 土豪 31     2012/10/02[猫弾正](2013/06/06 22:34)
[88] 81羽 土豪 32     2012/10/16[猫弾正](2013/06/06 22:15)
[89] 82羽 土豪 33     2012/11/07[猫弾正](2013/06/06 21:47)
[90] 83羽 土豪 34     2012/11/14[猫弾正](2013/06/06 21:44)
[91] 84羽 土豪 35     2012/11/14[猫弾正](2013/06/06 21:44)
[92] 85羽 土豪 36     2012/11/18[猫弾正](2013/06/06 21:43)
[93] 86羽 土豪 37     2012/11/21[猫弾正](2013/06/06 21:42)
[94] 87羽 土豪 38     2012/12/11[猫弾正](2013/06/05 23:33)
[95] 88羽 土豪 39     2012/12/20[猫弾正](2013/06/05 23:27)
[96] 89羽 土豪 40     2012/12/28[猫弾正](2013/06/05 21:31)
[97] 90羽 土豪 41     2013/01/08[猫弾正](2013/06/05 21:19)
[98] 91羽 土豪 42     2013/02/17[猫弾正](2013/06/05 21:11)
[99] 92羽 土豪 43     2013/02/17[猫弾正](2013/06/05 21:05)
[100] 93羽 土豪 44     2013/04/08[猫弾正](2013/06/05 21:02)
[101] 94羽 土豪 45     2013/05/23[猫弾正](2013/06/05 00:25)
[102] 95羽 土豪 46     2013/05/24[猫弾正](2013/06/05 00:14)
[103] 96羽 死闘 01     2013/05/25[猫弾正](2013/06/05 00:07)
[104] 97羽 死闘 02     2013/06/03[猫弾正](2013/07/10 02:22)
[105] 98羽 死闘 03     2013/06/05[猫弾正](2013/06/11 20:46)
[106] 99羽 死闘 04     2013/06/11[猫弾正](2013/06/14 05:08)
[107] 人名や地名といった物語のメモ [猫弾正](2013/06/14 20:20)
[108] 履歴 [猫弾正](2013/06/11 21:19)
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[28849] 26羽 北の村 12     2011/10/26
Name: 猫弾正◆b099bedb ID:b03aa02f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/11 21:23
 殺到してくるオークは六、七匹はいた。少なくない数だ。アリアが如何に手練といえども些か手に余るかも知れぬ。茶色や灰色のマントを翻し、枯れ草を蹴散らしながら威嚇の叫び声を上げている。
 ざっと見たところ、それほど大した腕の持ち主は見当たらない。武器は簡素な小剣や粗末な短槍、棍棒などありきたりで粗雑なものばかり。足取りは遅く、身体の動きも鈍重。いずれも大半が雑兵の類であろう。なによりも全体の動きに統率が取れておらず、ばらばらに攻め寄せてくる。
足でかき回せば、切り崩すのはそれほど難しくないようにも思えるが、
「たった一人を相手に大仰な奴らよ」
黒髪の女剣士は苦い笑みを浮かべ、気息を整えながらその瞬間を待ち受けた。
 アリアは今日一日で既に十匹ものオークと戦い、此れを屠っていた。代償として浅手とは言え右肩と脇腹にて傷を負い、疲労も少なからず蓄積していた。だが、足からはまだ機敏さは失われていない。オーク二、三匹はまだ相手できるだろう。だが、その後はどうなるだろう。

 ふうっと一つ深呼吸してから、遠くで逃げ回っている翠髪のエルフ娘を一瞥し、改めて剣を構える。
それでも逃げる訳にもいかない。
最初のオークが切りかかってきた。
恐ろしい雄叫びと共に、小剣が勢いよく振り下ろされた。黒髪の女剣士は身を逸らして躱すと、革鎧に守られていないオークの腕へ長剣を叩き付けた。オークは苦痛に身を仰け反らせただけで、再び切り込んできた。横薙ぎの一閃で牽制するも、アリアの顔は晴れない。
さしもの愛剣も血糊に切れ味が鈍ってきているようだった。
 別のオークが短剣を振りかざし、切り込んでくると女剣士は剣で防いで、股間を思い切り蹴り上げた。
急所を痛打されたオークが絶叫して蹲った。此の隙に大きく後退し、剣を構え直すと最初のオーク目掛けて突っ込んだ。振られた小剣を掻い潜ると、思い切り腹部に長剣を突きたてた。
刃の切れ味が鈍ろうとも、突きの殺傷能力は落ちてはいない。
絶叫の呻きと血飛沫を浴びながら跳び退って、横合いから流れた短槍を躱した。
地面を転がりながら、オークの膝に思い切り剣を叩き付けた。


 エリスを追い掛け回しているオークは七匹か、八匹はいるだろう。足の速さはそれほどではないから直ぐに捕まるような事はないが、人数が人数だけに逃げ切るのも困難だった。
追い立てられているエルフ娘が殆ど絶え間なく走り回っているのに比べて、オークたちは追いかける役を休み休みしながら、交替で駆けっこの鬼を務めている。
輪の中にエリスを閉じ込めて袋の口を絞るようにしながら、少しずつ確実に追い詰めていく。
(……此の侭では捕まるな)
 空の色は明るく、雲ひとつない。
西の空が僅かに赤く染まっているが、夕刻まではまだ随分と時間がある。
荒い息を吐き、唇を舌で湿らせながらエルフ娘は周囲を見回した。
追いかけてくるオークたちは本気ではなく、鬼ごっこを楽しんでいるように見えた。

 下衆というのはどいつもこいつも似通った性格をしているな。全く嫌になる。
草原の向こう側で、黒髪の女剣士が夥しいオークと切り結んでいる姿が窺えた。
数に勝るオークを相手に廻しながら、素早く動き続けることで全く包囲を許さずに、いまだ勇猛な戦いぶりを披露している。
 また一匹のオークが血飛沫に全身を赤く染めて地へと崩れ落ちていく。
見ているだけで心臓が高鳴るほどの全く見事な武者振りだった。
翠髪のエルフが見つめていると気のせいだろうか。
一瞬だけ黄玉の瞳も此方を見つめて双方の視線が合ったような気がした。
 アリア一人なら簡単に包囲を突破できるだろうに、何故逃げないのか。
エリスを見捨ててないからだろう。
まだ知り合ったばかりの相手だ。置いて逃げればいいのに。と思いつつも、女剣士の行動がエルフの娘にはこの上なく嬉しく、そしてどうしようもなく哀しかった。
じりじりと迫ってくるオークを他所に、エリスはアリアが自分を見捨てて逃げればいいと願っていた。

(二人目……!!)
喉笛から鮮血を噴出しながら、白目を剥いたオークが地面へと崩れ落ちていく。
「動きが鈍ってきたぞ!」「足を止めろ!」
何か言ってるオーク達の甲高い叫びが五月蝿い。酷く耳障りで勘に触った。
汗だくになりながらオークの首筋を貫いた剣を引き抜くと、振り向き様に横薙ぎに太刀を振るったが小剣で受け止められる。
別のオークの突き出した槍の穂先が、アリアの太股を切り裂いた。舌打ちするが、まだ掠り傷だ。動きに支障はない。横っ飛びで一気に間合いを詰め、横顔に思い切り剣を叩き付けた。
さしもの剣も切れ味を失い、既にただの鈍器と化しているが、使い手が優れた技量を持つ硬さと重量を兼ね備えた鈍器だった。即頭部に直撃した剣は、頭骨を破砕して眼窩までめり込んだ。

 激痛に絶叫するオークを放置して、右手のオークの牽制の一撃を放って包囲を突破し、再び集団と相対する位置を取る。背後に廻られたらお終いだったから、兎に角、死角を晒さないように動き回り続けていた。彼我の位置関係を巧みに把握する能力と位置取りの上手さが、黒髪の剣士をして単騎で多勢のオークに対して拮抗させている最大の要因であった。
しかし、切りかかってきたオークの太刀を受け損ねて、アリアは無様に転倒した。
歓声を上げるオークたちが殺到してくる前に、地べたを転がりながら横薙ぎに一閃。
オークの膝を叩き割って距離を取りながら素早く起き上がるが、明らかに息を切らしていた。
女剣士は疲れていた。頭のキレが鈍ってきて、段々と敵の位置を掴めなくなってきている。
というよりも、把握する余裕がなくなってきていた。
足も時折、勝手に痙攣し、使い慣れた筈の愛剣が手に酷く重く感じた。

 オークたちがざわめき、猛り狂う。
疲れている。油断するな。そんな叫びが耳を通り過ぎていく。
残った四匹のオーク達も全てが手負いであり、また死に物狂いであった。
もはや外見を取り繕う余裕もなくなって、アリアは荒い呼吸を繰り返しながらオーク達の攻撃に備えた。
俊敏だった足は次第に止まりつつあり、鍛え抜いた剣の技だけを頼りにオークの攻撃を防ぎ続けていた。
身体の其処此処に浅い傷を負って出血しているが、よく鍛錬された守りの技で致命傷だけは避けて、不屈の闘志で戦い続けている。
(……これは死ぬな)
悲壮とも恐怖とも無縁の冷静な心持で淡々と予想した。
如何見ても死ぬ。勝機も、脱出口も、とうの昔に閉ざされている。
アリアは闘争に楽観も悲観も挟まないし、何の希望的観測も抱かない。
彼我の戦力を一目で正確に把握して、こういう時に見誤った事は殆どない。
降伏は論外だった。降参するのは死ぬより嫌いだった。
それに逃亡も出来なかった。此処でエルフを見捨てて逃げたら、もう二度と会えない。
後で助け出すなんて考えも浮かんだが、言い訳だと一蹴して頭の片隅に放り込んでいた。
守ると誓約したのだ。約束を破るのも、女剣士はナスと同程度に嫌いだった。
それに何より、逃げる事も出来たのに友情と誇りに殉じて討ち死にするのは、そう悪くない死に様だと思えた。

「あいつ、強いなあ」
呑気な口調で感想を洩らしたのは、農家に隠れて外の様子を窺っていた若夫婦と大柄な青年だった。
「そこだ、やっちまえ!よし!また一人倒した。此れで残り四人だ」
離れた家屋の中から窓を覗いては、展開されている戦闘の様相に興奮の色を隠さずに笑っていた。
対称的に、若い妻の方は部屋の隅で怯えを隠さず、息を飲んで見つめている。
「いっそ、全員倒してくれないかな。それにしても本当に強いな」
女剣士の奮戦を見世物のように楽しんでいる色さえ窺える若者の口調。
「……剣があるからな」
大柄な青年が吐き捨てるように云うと、若者が意外そうに兄を見上げる。
「兄さん、オークだって剣を持ってるぜ?」
青年は憤懣やるかたないといった目つきで、オークを睨みつけている。
「あいつら、てんで大した事ないじゃねえか。俺はあんな程度の奴らにびびっていたのか」


 遂にオークが距離を詰めて、四方八方から翠髪のエルフの娘に手を伸ばしてきた。
槍を押さえられ、抵抗するエリスの躰をあっけなく地面に押さえつけられた。
複数の哄笑が頭上で響くと、目前に派手な装束を着込んだオーク。恐らく族長だろうが、立たせろと命令した。
 捕らえたエルフ娘の顔を上げさせて、派手な原色の衣装を纏うオークの酋長は息を飲んだ。
こんな美しい娘は初めて目にした。
「……美しいな」
まだ己が手に落ちたのが信じられずに酋長は太い指で繊細な硝子細工に触るようにエリスの頬を撫でた。
 翠髪のエルフ娘は、嫌悪でも、怒りでもなく、ただ哀しげな色だけを瞳に浮かべていた。
周囲を七、八人ものオークに囲まれていては逃げようもない。
そっと顔を伏せたエリスは、周囲の誰にも諦めたように見えた。

 エルフの娘が横目で一瞬だけ見ると、黒髪の娘はなおも剣を奮って勇戦しており、その足元と背後には十余を数えるオークが物言わぬ亡骸となって地に伏していた。
これほどの武勇の持ち主は、ヴェルニア広しと言えども、そうはいないに違いない。
けれども、そんな彼女の鍛え抜かれた剣技を持ってしても、数の差はいかんともし難いようで、激しい圧力をその身に受けていた。
 当初の勢いは遂に衰えて、もはや防戦一方に追い込まれている。
閃く鋼の刃からも、劣勢を覆い返すだけの力は失われて、敗れ去るのも時間の問題に見えた。
剣を杖に立ち上がるその姿を見て、彼女は死ぬまで戦い続けるだろう。
エリスは理由もなく、そう悟った。
自身への情けなさだろうか。友達を失う事への恐怖だろうか。
哀愁にも似た胸を締め付けるような強い気持ちが湧いてきて、溜まらなく苦しく感じ、煙る蒼の瞳から透明な涙が零れ落ちた。


 初冬の夕刻前という肌寒さを感じても不思議ではない気温でありながら、滝のような汗がアリアの頬を流れて、地面へと滴り落ちていく。
足元の枯れ草が流血に赤く染まっていた。周囲にはオーク達の夥しい屍が積み重ねられている。
鬼気迫る戦いぶりで粘り続けて、遂に残り三匹まで減っていた。
恐怖に顔を歪めたオークが、支離滅裂な叫び声と共に槍を突き出してきた。
身を捻じるも、腕を僅かに抉られた。
大した傷ではない。血飛沫を散らしながら、苦痛を無視してそのまま前進。
勢いよく剣を薙いで、オークの顔面に思い切り叩き付けた。
骨を砕く素晴らしい感触が素手に確かに伝わってきた。
苦痛に呻いてよろめき、後退りするオークを追撃。
凶暴な笑みを貼り付けながら、剣を思い切り肋骨の間へと突き刺した。
心地いい絶叫を耳にしながら、血塗れの美貌に凄惨な笑顔を貼り付ける。
「あっは」
 既に五、六ヶ所も目立つ裂傷を負ってるが、アリアはまるで痛みなど感じていないかのように振る舞い、戦い続けていた。
打撲や小さな切り傷などは数え切れないが、致命傷は巧みに回避しているのだ。
「こいつ、不死身か!」「化け物め!」
 残り二匹となったオークたちが、遂に死に物狂いの攻勢に出てきた。
互いに相手を斃すしか、生き残る道は見出せない。
女剣士は、血糊に切れ味の鈍った剣を迫るオークに叩きつける。
「……あっ!」
 オークが猛烈な勢いで押し返し、女剣士は長剣をついに取り落としたように見えた。
オークの視線が『捨てた』長剣へ逸れた一瞬、抱きつくようにアリアは懐へと飛び込んだ。
短剣を引き抜きながら掴みかかって、首筋を深々と切り裂く。
振り向き様にその短剣を投擲しつつ、転倒したが、刃は灰色マントのオークの構えた小剣に弾かれた。
「油断のならねえ、全く恐ろしい奴よ」
オークも息を切らし、全身から血を流しながら、近寄ってくる。
無手となった人族の娘は尻餅をついたまま、草叢の近くまで後退る。
「だが、此れで終いだ!」
 灰色マントのオークが剣を振りかざした瞬間、女剣士の右手に手品のように短槍が現れた。
わざと転倒した先、転がっていたオークの武器を掴んで突き出した。
胸を刺され、苦痛に顔を歪めながらも灰色マントのオークが剣を振り下ろした。
肩から切り裂かれて、アリアが仰向けに倒れた。
目を瞑って最後の時を待つが、止めはこない。
オークはそのまま地面にうつ伏せに倒れ、息絶えていた。
 生き残った。今だけは。
起き上がろうとしても疲労困憊した身体は言うことを聞かない。
仕方なく草地に寝転んだ姿勢で空を見上げたまま、黒髪の娘はただ荒い呼吸を繰り返した。




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