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No.28849の一覧
[0] ドラゴンテイル 辺境行路 【オリジナル 異世界 ハイファンタジー】[猫弾正](2013/01/08 21:00)
[1] 01羽[猫弾正](2011/08/03 21:48)
[2] 02羽[猫弾正](2011/08/31 18:12)
[4] 03羽[猫弾正](2012/11/22 04:48)
[6] 04羽     2011/07/30[猫弾正](2013/06/09 00:34)
[7] 別に読まなくてもいい設定 貨幣 気候について[猫弾正](2012/04/08 00:14)
[8] 05羽 前     2011/08/03[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[9] 05羽 後     2011/08/03[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[10] 06羽     2011/08/11[猫弾正](2013/06/10 00:40)
[11] 07羽     2011/08/18[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[12] 08羽 手長のフィトー01     2011/08/21[猫弾正](2013/06/09 00:39)
[13] 09羽 手長のフィトー02     2011/08/23[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[14] 10羽 手長のフィトー03     2011/08/26[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[15] 11羽 手長のフィトー04     2011/08/30[猫弾正](2013/06/09 00:38)
[16] 12羽 手長のフィトー05     2011/09/06[猫弾正](2013/06/09 00:40)
[17] 13羽 手長のフィトー06     2011/09/10[猫弾正](2013/06/09 00:41)
[18] 14羽 手長のフィトー07 序章完結     2011/09/16[猫弾正](2013/06/09 00:41)
[19] 1章から読む人の為の序章のあらすじ[猫弾正](2011/10/27 18:11)
[20] 15羽 北の村 01     2011/09/20[猫弾正](2013/06/09 01:23)
[21] 16羽 北の村 02     2011/09/23[猫弾正](2013/06/09 01:25)
[22] 17羽 北の村 03     2011/09/27[猫弾正](2013/06/10 00:33)
[23] 18羽 北の村 04     2011/10/01[猫弾正](2013/06/10 00:32)
[24] 19羽 北の村 05     2011/10/04[猫弾正](2013/06/10 00:34)
[25] 20羽 北の村 06     2011/10/06[猫弾正](2013/06/10 00:36)
[26] 21羽 北の村 07     2011/10/09[猫弾正](2013/06/10 00:37)
[27] 22羽 北の村 08     2011/10/17[猫弾正](2013/06/10 00:38)
[28] 23羽 北の村 09     2011/10/18[猫弾正](2013/06/10 00:39)
[29] 24羽 北の村 10     2011/10/20[猫弾正](2013/06/11 21:21)
[30] 25羽 北の村 11     2011/10/22[猫弾正](2013/06/14 20:16)
[31] 26羽 北の村 12     2011/10/26[猫弾正](2013/06/11 21:23)
[32] 27羽 北の村 13     2011/10/27[猫弾正](2013/06/11 21:24)
[33] 28羽 北の村 14     2011/10/31[猫弾正](2013/06/14 20:18)
[34] 29羽 北の村 15     2011/11/02[猫弾正](2013/06/14 20:18)
[35] 30羽 追跡 01     2011/11/07[猫弾正](2013/06/27 03:16)
[36] 31羽 追跡 02     2011/11/11[猫弾正](2013/06/27 03:18)
[37] 32羽 追跡 03     2011/11/17[猫弾正](2013/06/27 03:18)
[38] 33羽 追跡 04     2011/11/20 [猫弾正](2013/06/27 03:19)
[39] 34羽 追跡 05     2011/11/26 [猫弾正](2013/06/27 03:20)
[40] 35羽 追跡 06     2011/12/03 [猫弾正](2013/06/27 03:21)
[41] 36羽 追跡 07     2011/12/16[猫弾正](2013/06/27 03:22)
[42] 37羽 追跡 08     2011/12/24[猫弾正](2013/06/27 03:23)
[43] 38羽 土豪 01[猫弾正](2012/06/18 20:04)
[44] 39羽 土豪 02[猫弾正](2012/03/19 20:53)
[45] 40羽 土豪 03 改訂[猫弾正](2012/01/31 22:27)
[46] 41羽 土豪 04[猫弾正](2012/12/03 20:33)
[47] 42羽 土豪 05 [猫弾正](2012/02/09 02:43)
[48] 43羽 土豪 06 [猫弾正](2012/02/24 04:22)
[49] 44羽 土豪 07 改訂[猫弾正](2012/12/03 20:36)
[50] 45羽 土豪 08[猫弾正](2012/03/10 22:58)
[51] 46羽 土豪 09[猫弾正](2012/04/11 02:39)
[52] 47羽 土豪 10 心の値段[猫弾正](2012/03/19 03:33)
[53] 48羽 土豪 11 獣の時代[猫弾正](2012/04/22 15:58)
[54] 49羽 土豪 12[猫弾正](2012/04/04 21:13)
[55] 50羽 土豪 13 改訂[猫弾正](2012/04/20 18:14)
[56] 読まないでもいい魔法についての裏設定とか 種族についてとか[猫弾正](2012/04/04 21:59)
[57] 51羽 土豪 14 改訂 [猫弾正](2012/05/27 06:56)
[58] 52羽 土豪 15 [猫弾正](2012/12/03 20:41)
[59] 53羽 土豪 16 [猫弾正](2012/11/22 04:52)
[60] 54羽 土豪 17 [猫弾正](2012/12/03 20:44)
[61] 55羽 襲撃 01 [猫弾正](2012/08/02 21:11)
[62] 56羽 襲撃 02 [猫弾正](2012/12/03 20:47)
[63] 57羽 襲撃 03 [猫弾正](2012/08/02 21:13)
[64] 58羽 襲撃 04 [猫弾正](2012/08/02 21:14)
[65] 59羽 襲撃 05 [猫弾正](2012/12/03 20:57)
[66] 60羽 襲撃 06 [猫弾正](2012/08/02 21:26)
[67] 61羽 襲撃 07 [猫弾正](2012/12/03 20:52)
[68] 62羽 襲撃 08 [猫弾正](2012/12/03 20:54)
[69] 63羽 襲撃 09 [猫弾正](2012/12/03 20:56)
[70] 64羽 襲撃 10 [猫弾正](2012/11/02 06:59)
[71] 65羽 襲撃 11 [猫弾正](2012/11/22 04:54)
[72] 66羽 襲撃 12 [猫弾正](2012/08/02 21:32)
[73] 読まなくていい暦 時間単位 天文についての設定とか[猫弾正](2012/06/13 18:29)
[74] 67羽 土豪 18 [猫弾正](2012/12/03 21:00)
[75] 68羽 土豪 19 [猫弾正](2012/08/02 21:42)
[76] 69羽 土豪 20 [猫弾正](2012/06/16 19:29)
[77] 70羽 土豪 21 [猫弾正](2012/11/02 02:17)
[78] 71羽 土豪 22 [猫弾正](2012/11/22 04:57)
[79] 72羽 土豪 23 [猫弾正](2012/07/16 19:35)
[80] 73羽 土豪 24 [猫弾正](2012/08/02 21:47)
[81] 74羽 土豪 25 [猫弾正](2012/08/23 20:34)
[82] 75羽 土豪 26 [猫弾正](2012/09/11 03:08)
[83] 76羽 土豪 27 [猫弾正](2012/11/02 21:22)
[84] 77羽 土豪 28 [猫弾正](2012/09/17 21:06)
[85] 78羽 土豪 29 [猫弾正](2012/09/18 19:48)
[86] 79羽 土豪 30     2012/09/24[猫弾正](2013/01/08 20:03)
[87] 80羽 土豪 31     2012/10/02[猫弾正](2013/06/06 22:34)
[88] 81羽 土豪 32     2012/10/16[猫弾正](2013/06/06 22:15)
[89] 82羽 土豪 33     2012/11/07[猫弾正](2013/06/06 21:47)
[90] 83羽 土豪 34     2012/11/14[猫弾正](2013/06/06 21:44)
[91] 84羽 土豪 35     2012/11/14[猫弾正](2013/06/06 21:44)
[92] 85羽 土豪 36     2012/11/18[猫弾正](2013/06/06 21:43)
[93] 86羽 土豪 37     2012/11/21[猫弾正](2013/06/06 21:42)
[94] 87羽 土豪 38     2012/12/11[猫弾正](2013/06/05 23:33)
[95] 88羽 土豪 39     2012/12/20[猫弾正](2013/06/05 23:27)
[96] 89羽 土豪 40     2012/12/28[猫弾正](2013/06/05 21:31)
[97] 90羽 土豪 41     2013/01/08[猫弾正](2013/06/05 21:19)
[98] 91羽 土豪 42     2013/02/17[猫弾正](2013/06/05 21:11)
[99] 92羽 土豪 43     2013/02/17[猫弾正](2013/06/05 21:05)
[100] 93羽 土豪 44     2013/04/08[猫弾正](2013/06/05 21:02)
[101] 94羽 土豪 45     2013/05/23[猫弾正](2013/06/05 00:25)
[102] 95羽 土豪 46     2013/05/24[猫弾正](2013/06/05 00:14)
[103] 96羽 死闘 01     2013/05/25[猫弾正](2013/06/05 00:07)
[104] 97羽 死闘 02     2013/06/03[猫弾正](2013/07/10 02:22)
[105] 98羽 死闘 03     2013/06/05[猫弾正](2013/06/11 20:46)
[106] 99羽 死闘 04     2013/06/11[猫弾正](2013/06/14 05:08)
[107] 人名や地名といった物語のメモ [猫弾正](2013/06/14 20:20)
[108] 履歴 [猫弾正](2013/06/11 21:19)
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[28849] 96羽 死闘 01     2013/05/25
Name: 猫弾正◆b099bedb ID:21387349 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/05 00:07
 辺境(メレヴ)において農民たちやオークなどから『丘の民』と呼ばれる一党は、確かに丘陵地帯を根城にして小さな集団を構成しているものの、他の土地で見られるような昔から丘陵に暮らしていた原住民などとは些か毛色の違う存在である。
彼らの正確な起源は不明だが、恐らくは社会から爪弾きにされた者たちが肩を寄せ合って寄せ集めの共同体を形作った、いわゆる『無法の民』のなれの果てであろうと言われていた。

 こうした『無法の民』の共同体や集団は、ヴェルニア各地の人里離れた辺鄙な土地に点在している。
元は町や村などで慣習法(コモンロー)を破ったが為、属する共同体から追放処分を受けた放浪者であったり、殺人など重い罪を犯したために追われる罪人や主人の酷使に耐えかねた逃亡奴隷、或いは敗残兵など様々な境遇の者の集まりであり、故郷に戻る事も出来ない彼らに唯一つ共通するのは、法と社会の埒外に存在する『無法者』(アウトロー)であるということだけである。

 王侯や豪族のような如何な権力の統治下にもなく、誰の支配も受けない彼らは、同時に何者からも保護を受けることが出来ないまつろわぬ民であった。
主に貧しさから盗みを行なう彼らは、それ故、良民から蛮族とも賊徒とも付かない化外の民の一種と見做されて、侮蔑と嫌悪の対象となっている。
長い漂白の果てに丘陵に辿り着き、水に乏しく土の痩せたこの土地にへばりつくようにして暮らしている『丘の民』を、豪族の領民も、オークたちも侮りと蔑みの目で見ている。

「本当にやるのかい?とっつぁんよ」
からからに乾いた喉を緊張に鳴らしながら垢染みた襤褸布を纏う男が、やはり灰色の襤褸布を羽織った鶏がらのように痩せている老人に語りかけた。
「ルタンからの手付けは必要だ」
言葉を返した老人の声は意外と張りがあった。辛苦に満ちた丘陵の生活が、実年齢以上に老人の外見を老け込ませたのかも知れない。
「だがよ……相手はあのルッゴ・ゾムだぜ」
なおも躊躇うように地面に腰を降ろしている男が、隣に坐る老人に囁き続ける。
ホビットの斥候に聞けば、オークの頭目は戦斧を手にした一際、巨躯を誇る戦士との話である。
近隣で思い当たる相手は一人しかいない。
ルッゴ・ゾムの武勇伝は、社会から孤立し、噂話には疎いはずの丘の民の耳にさえ届いていた。
曰く、たった二人で盗賊団を蹴散らした。豪族の大軍に囲まれた砦を寡兵で支えた。
他所のオークが攻めてきた際、剛勇で知られた寄せ手の大将を一撃で斬って捨てた。
岩の肉体に炎の魂を持つ勇士などと伝え聞けば、襲うのに恐怖と躊躇を覚えるのも無理はなかった。
「……なぁ、使っちまったわけじゃないだろ、返してばっくれちまおう」
聞かれるのを恐れるように左右を見回しながら、小声で囁くように男は言葉を続ける。
「俺たちは捨て駒だぜ。どう見てもよ」
オークの勇者ルッゴ・ゾムを相手に先陣を切らされると聞き、若い男が怖気づいているのが一目瞭然だったが老人は咎めようとは思わなかった。
オークの戦闘集団と事を構えれば、ただでは済まないだろう。報復を受ける恐れもある。
戦で組したからといって豪族が守ってくれる保証がある訳でもない。
男の怖気を奮う理由も充分に理解しながらも、しかし、老人にも引けない理由が在った。
「……餓鬼共を食わせなきゃならねえ。やるしかあるめえよ」
それを言われてしまえば、男も黙るしかない。
例年の不作でただでさえ収穫の乏しい丘陵では、食糧の備蓄が底を付いてしまった。
元々、人が棲み易い土地ではない。後は他所から盗むか、奪うか、出稼ぎで稼いでくるか。いずれにしてもある所から持ってくるしかない。
「……せめてグガンダが後ろに回されなければよ」
丘の民で最強の戦士である丘の巨人の名を呟いて首を振るう。
渋面を作った男が忌々しげな視線を向けた先では、巨人グガンダは雇い主である豪族ルタンの近くで郎党や傭兵など本陣を守る集団に加わっていた。
「畜生、ルタンの野郎。てめえは安全な場所にいる癖にまだ不安なのかよ」
毒づきながら、男が粗末な鋳鉄の刃に黒い液体を塗りつけた時、後方で灰色の戦旗が大きく振られた。
いよいよ敵が近づいてきたのだ。伝令のホビットたちが各隊の間を盛んに走り回り、兵達は誰もが口を閉じてじっとその時を待ち構える。
一帯にしんと静寂が広がり、時折、誰かのしわぶきや足踏みの音などが聞こえてくる。
静かだった。風の音が奇妙に大きく耳に残った。
男ももう不満は洩らさず、ただ合図だけを待ちながら身を伏せ続けていた。


 暗雲立ち込める冬の空の下、連なる丘陵と丘陵の隙間を縫うようにしてオークたちの隊列がゆっくりと進んでいた。
村一つの素早い占領と略奪に満足しているのか、戦利品の青銅の耳飾や蜻蛉玉の首飾りを自慢げに仲間に見せるもの、肉の塊を担いで機嫌良さそうに鼻歌を歌うもの、村人の若い女に物欲しげな目を向けているものなど様々であった。
暗い土牢から久々に解放された洞窟オーク達も、遅れがちであったが顔色は明るかった。
オークたちが油断していると責めるのは酷であっただろう。
どうやら手強い敵に遭遇した気の毒な見張りを除けば、村を攻め落す際にさしたる犠牲も出なかった。
手負いが数名。後はドウォーフにやられたらしいオークが三名で、戦利品は悪くない量があったし、洞窟オーク達も見事救い出せた。
誰しも家への帰還は安心するし、戦の勝利は喜ばしいものだ。
砦に近づくにつれて彼らが安堵を覚えるのは無理もなかったし、一方で大小の丘陵が連なるこの一帯で敵と遭遇する事など、およそ考えられる事態ではなかったのだ。

 浮かれたオークたちの間には弛緩した空気が流れ、隊伍にも乱れが見えていたが、指揮官も敢えて咎めはしなかった。
大将のルッゴ・ゾムにしてからも、戦は終わったものと思い込んでいた。
異変を感じ取ったのは、ルッゴ・ゾムの傍らにいたボロだけだった。
とは言え、明確に敵襲を察知した訳でもない。ただ、胸のうちで何かが騒いだだけだ。
オークの副官は唐突に足を止めると、匂いを嗅ぐようにすんすんと鼻を鳴らした。
それから、空気の匂いが気に入らないとでも言うように胡散臭げに顔を顰める。
「ルッゴ!おい、ルッゴ!」
副官の急な呼びかけにオークの大将が振り返った。
「どうした?」
「どうも妙だ。匂うぞ」
百戦錬磨の戦士であるボロは鼻が効く。特にこうした局面の嫌な予感は不思議と当たると、ルッゴ・ゾムは経験からよく知っていた。
急速に口元に険しさを増しながら、腹心のオークに訊ねる。
「……敵か?」
連なる丘陵の稜線や聳え立つ頂きに視線を走らせながら、ボロは頭を振った。
「分からん」
「斥候からは何も報告はないが……」
いまだ呑気に世間話に興じながら歩いているオーク戦士たちを見回してから、不審そうにルッゴ・ゾムは呟いた。
一行は、すでにオーク族の領域にかなり近い土地にまで足を踏み入れていた。
仮に豪族の哨戒部隊が丘陵を彷徨っているとしても、これほどの規模のオークの戦闘集団を目にして尚も襲撃してくるとも思えなかった。
幾度か放った斥候も、丘陵の麓の隘路を何事もなく抜けて、そのまま戻ってきている。
念の為に斥候を呼んで、異常はなかったか訊ねてみることにする。
「異常はないぜ。大将」
仕事ぶりを疑われたからか。
斥候を任されていた黒オークは、面白くなさそうな顔で断言した。
ルッゴ・ゾムは一瞬、考え込んでから断を下した。
「隊伍が乱れているな。一端、隊列を整えるとしよう」
近づいたとは言え、未だオーク族の領域に入った訳ではない。
少し不満げな斥候頭の黒オークを見て、ルッゴ・ゾムは笑いかけた。
「なに、念の為だ。お前が見落としたとは思わんが、用心するに越したことはあるまい」
「何もないと思いますがねぇ」
ボロを眺めての、黒オークの嫌味っぽい口調にも闊達に笑う。
「ならば、それに越したことはないな」

「全員、足を止めてそのまま聞け!」
ルッゴ・ゾムが大音声を張り上げた。
「隊列を整える。ベグー、カ・ザヴ、デ・グールは、左手につけ!ギ・ゴールは右手だ」
盾を持っているうちでも腕利きの戦士たちを左右両側に配置し、洞窟オークたちを真ん中に保護する。
「……奇襲に備えた隊列だな」
足を止めたオークたちの雰囲気が、大将の指示を受けて急速に変わっていく。
「前衛はボロの指示に従え。俺は右手につく!」
警戒するように左右に視線を配りながら、オークの集団は丘陵と丘陵の狭間にある隘路へと足を踏み入れていった。


 丘陵の稜線に身を潜めて、近づいてくる敵勢の様子を窺っていたヘイスが低く呟いた。
「隊列を変えたな……オーク共め、こちらに勘付いたか?」
ヘイスの傭兵時代の旧友であるギースが、傍らに身を伏せながら頭を振った。
「いや、気づいたなら、立ち止まって別の道を行く筈だ」
眼下のオークたちは、警戒した動きは見せているものの気づいた様子はなかった。
「連中はのこのこ罠に飛び込んでくる。用心深いが罠には気づいていないな」
にやりと笑ってギースは囁いた。
「仕掛けるなら今だぞ。ヘイス」
「……もう少しだ。もう少し待て」
傭兵の一人がオークたちの動きを見て、詰まらなそうに鼻を鳴らした。
「しかし、連中。ちょっと手強いかも知れませんね」
二十余の傭兵とほぼ同数の武装農民がヘイスに与えられた手持ちの兵力だった。
一見して分かる。眼下を進むオーク族戦闘集団の練度と武装はかなりのもので、ヘイスたちだけでは返り討ちにあうかも知れない。
「よし、連中が予定の位置を通り過ぎた」
ヘイスが言って突撃の合図を出そうとした時、オークの集団を挟んで向かい側の丘陵の稜線に何十という黒い影が立ち上がった。
「おおおっ!」
「オーク共を殺せ!」
棍棒や石を振り回し、口々に叫びながら、丘の民がオークの隊列目掛けて勾配を駆け下りていく。

「手筈と違うぜ」
ぼやくように言うギースに、せせら笑いを浮かべてヘイスは返した。
「どうやら、連中。堪え切れなかったようだな」
武者震いをするヘイス。久しぶりの戦に血潮が騒いでいた。
「まあ、いい。こちらも仕掛けるぞ」
「おう」
ギースが立ち上がり、腕を振り下ろすと、身を伏せていた傭兵たちが一斉に立ち上がった。
「突撃だ!野郎共!行くぞ!」
その出自も出身もばらばらな、雑多な種族の傭兵たちが雄叫びを上げながら、オーク目掛けて突撃すると、武装農民の一団も少し遅れて丘陵を駆け下りていった。


 薄汚れた襤褸を纏った男女の一団が粗末な武器を振りかざし、金切り声を上げてオークの一団へと突っ込んでくる。
「襲撃だ!右手!」
オークたちは素早く反応し、武器を引き抜いて待ち受ける。
「丘の民か」
ルッゴ・ゾムも巨大な戦斧を構えながら、敵を目にして不審げに呟いた。

「奴ら、気でも違ったのか?」
「俺たち、オークの精鋭と真正面から戦うつもりかよ、へっ」
「ふざけやがって。汚らしい『無法の民』(アウト・ロー)の分際でよ」
一人のオークが憤ったように食い縛った歯の間から低い唸りを洩らした。
残りのオーク戦士たちも賛同の呟きを洩らして、歯をかちかちと鳴らしている。
真っ当な部族に属している者からすれば、部族からの追放者というのは大抵が軽蔑の対象であり、さらにオーク族からすれば『丘の民』というのは、ゴブリンやどぶドウォーフと同程度のこそ泥の集まりで、真っ当なオーク戦士が戦う相手ではけしてなかった。
オークは自惚れが強く、自尊心や虚栄心の激しい種族である。
それ故に真正面から『丘の民』如きが挑んできたというだけで、彼らを侮っている多くのオークたちが怒りに駆られ、頭に血を昇らせて些か冷静さを失っていた。
「舐めてやがる。ぶっ殺してやる」
オークたちが口々に叫びを上げて走り出そうとしたところで、ルッゴ・ゾムが凄まじい怒声を放った。
「落ち着け!隊列を崩すなぁッ!」

「敵は四十ほどだ!待ち構えて、一気に揉み潰せ!」
敵は少数だと一瞬で看過したルッゴ・ゾムは、陣形を整えさせながらも、しかし、少々合点がいかなかった。
数で勝り、装備も優れているオーク戦士団なら問題なく一蹴できる相手だと見て取り、しかし、それ故に違和感を覚える。
「妙だな」
丘の民がやることといえば、精々がけちな畑荒しや家畜泥棒が精一杯のはずだ。
けちなこそ泥、鼠賊の類というのがオーク族の『丘の民』への認識であって、人数も少なく、武具も粗末な彼らは、か弱い女を浚い、少人数の農民や旅人相手の強盗をすることはあっても、村や農園を襲うような大それた真似は出来ようはずもなかった。
ましてオーク族の戦闘集団に真正面から挑んでくるなど、正気の沙汰ではない。

 がりがりに痩せ細り、眼ばかりをギラギラと鋭く光らせている丘の民の姿を見つめながら、ルッゴ・ゾムは太い首を傾げた。
丘の民が不作に苦しんでいるとは知っていた。食べ物でも奪うつもりか?
だが、武装したオークの一団に襲いかかってくるとは、自殺行為だ。
普通なら到底、考えられることではない。自暴自棄にでもなったか。

 なにかが妙だ。ルッゴ・ゾムは胸のうちにもやもやとした違和感を覚えていた。
性質の悪い詐術に引っ掛かっているような、そんな気味の悪さだった。
『丘の民』も馬鹿ではない。連中の盗みは、大抵が生きる為のものだ。
普段は臆病に振舞っているが、それは力の差を認識しているからである。
臆病者ならば、尚更に勝ち目のない戦を嫌う筈であった。

 何故、粗末な武具しか持たない丘の民が、真正面から強力な武装集団に襲撃を仕掛けてくる。
何か罠が在るのではないか?それとも俺の考えすぎか?
不審に思いつつも、ルッゴ・ゾムは矢継ぎ早に指示を出す。
「盾を持つ者は前に出ろ!洞窟オークたちを後ろに下げ……」
「大将!後ろからもだ!」
忌々しげな部下の叫び声に、素早く背後を振り向いたルッゴ・ゾムは息を飲んだ。
土煙を上げながら丘陵の勾配を駆け下りてくるのは、雑多だがかなり武装の整っている一団。
傭兵だろうか。二、三十人はいる。
いや、その後ろからも、やや遅れてさらに二十ほど雑兵たちが姿を見せていた。
「挟撃か!」
歯軋りしながらボロが叫んだ。
「伏兵を仕掛けられたか。本命は向こう。丘の民は囮か」
淡々と呟いてから、ルッゴ・ゾムは敢えて馬鹿にしたように鼻で笑った。
紛うことなき窮地であった。
後背の敵勢だけで、五十近い人数だ。
武具も整っており、動きを見れば相当に手強いことも見て取れる。
洞窟オークたちなどは、ざわめきながら不安に縮こまっている。
「人族の豪族か。丘の民を手懐けたという事か?」
言いながら、奇妙な違和感が付き纏う。どうにも正体が分からない。
心中では戸惑いながら、しかし、こうなっては死力を尽くして戦うのみだと心定めて、ルッゴ・ゾムは部下たちの前で堂々と振舞う。
「罠に嵌ったぞ!ルッゴ!どうする!」
背中でボロが叫んでいた。ルッゴ・ゾムも兵に聞こえるように大恩情を張り上げた。
「食い破る!後背の兵団を抑えろ!俺は前面の丘の民を迎え撃つ!」
「おう!」
装備の優れた敵を受け持たせるのことになるが、陣形を崩して配置を替える時間はない。
こうなれば眼前の丘の民を手早く片付けて、後背の傭兵と戦うボロたちの救援に向かうしかない。
雄叫びを上げて突っ込んできた丘の民の槍を受けなしてから、ルッゴ・ゾムは咆哮と共に戦斧を振り下ろした。

 例え片方が粗末な武器しか持たぬ丘の民であり、片方が武装農民と傭兵の寄せ集めであっても、ほぼ同数の敵に同時に左右から挟撃されるというは、大変な圧力である。
流石に精鋭のオーク戦士団といえども、苦しい戦いを強いられる事となった。

 当初、ルッゴ・ゾムは前面の丘の民を手早く蹴散らしてから、後背で傭兵団を相手に戦うボロたちの救援に向かう予定であった。
先鋒の四、五人も血祭りに上げれば、元々臆病な丘の民である。
直ぐに逃げだすだろう。
そう考えて戦斧を振るうが、しかし、オークの勇士の予想に反して、丘の民は凄まじい勢いで襲い掛かってきていた。
後がない窮状と大金への欲望が切羽詰まった丘の民の闘争心に油を注ぎ、死に物狂いの勢いを与えていたのだ。

「ルッゴ・ゾムだ!首を取れ!」
丘の民の頭目らしき老人が叫びを上げて、巨躯のオークを指し示すと、金切り声を上げて丘の民の女が黒曜石の槍で突っかかってきた。
黒曜石とは言え、鋭い穂先は侮れない。まともに当たれば、皮鎧くらい簡単に貫通するのだ。
ルッゴ・ゾムは迫る槍の穂先を斧の柄で跳ね上げる。と、そのまま敵の懐にすっと飛び込むと拳で顎を打ち抜き、失神させた。
女に暴力を振るって嫌な気分になりながらも、横合いから青銅の手斧を振りかざして突っ込んできた人族の男に戦斧を叩きつけて胸を切り裂く。
悲鳴を上げて崩れ落ちる男を途中で掴んで、さらに突っ込んでくる新手に対して突き飛ばすと、視線を遮った刹那に、地を這うように踏み込んで間合いを詰める。
「こ、こいつ!」
驚愕した三人目の敵は、皮肉にも同じオーク族。
短剣の横薙ぎをいなし、同族の顔面に包帯を幾重にも巻いた拳を叩きつける。
頬桁を砕かれた半オークが黄色い歯を撒き散らしながら吹っ飛んで地面でのた打ち回るが、ルッゴ・ゾムは舞うように巨体を反転させながら、背中から斧で切りかかってきた敵の刃に巧みに戦斧を絡め、膂力に任せて敵の武器を空へと跳ね上げた。
武具を失った四人目の敵の顎を殴りつけて砕くと、悲鳴を上げて崩れ落ちるよりも早く新しい敵へと向かった。

 ルッゴ・ゾムは丘の民に止めを刺すことに拘泥はしていない。
どうせ小金で雇われているだけの丘の民だ。
戦闘力を奪い、怖気をふるって逃げてくれればそれでいい。
どぶドウォーフと人族が左右から二人同時に切りかかってくるのを素早く後退して躱すと、姿勢が泳いだ所を踏み込んで一気に薙ぎ払い、二人を一度に切り倒した。

 七人目の敵である痩せた亜人が横合いから不意を突くように槍を突き出してきたが、身を捻りながら躱すと亜人の槍を肘で払いながら、大地を踏んで亜人に一気に詰め寄った。

密着するほどの距離。完全に槍の間合いを封じられて驚愕に顔を凍りつかせる亜人。
恐慌に落ちった亜人は支離滅裂な叫びを上げて槍を振り回そうとするが、
その首に太い腕を絡め、一気に体重を移動させて投げ飛ばす。
地面に叩きつけられた痩せた亜人が息の詰まったところの胸板を踵で踏み抜いた。
肋骨の砕けるいやな感触が足に伝わる。
ルッゴ・ゾムが僅かに気を抜いた瞬間、風斬り音が背後から襲ってきた。
慌てて身体を捻るが間に合わず、脇腹に衝撃が走った。
金属の環を縫いつけた革鎧と厚手の布服は、幾らか衝撃を和らげてくれたが、さしものルッゴ・ゾムも、棍棒の一撃は効いた。
肉が潰れ、骨の軋む苦痛にうめきながらも、斜め前に跳んで新手との距離を取って向き直る。
八人目の敵はかなりがっしりしたまだ若いホブゴブリンだった。涎を垂らし、棍棒を振りかざしながら猛烈な勢いで突っ込んでくる。
苦痛から立ち直りきれぬルッゴ・ゾムだったが、さらに横顔に棍棒の打撃を喰らってしまう。
だが、常人なら一撃で昏倒するほどの打撃を受けながらも、巨躯のオークは崩れ落ちる事もなく、三度、踊りかかってきたホブゴブリンの一撃を戦斧の柄で受け止め、身体を捻るようにして敵の体勢を泳がせてから、拳を低い鼻に叩き込んだ。

 ホブゴブリンが鼻血を吹き出して怯んだ隙に戦斧で連続した斬撃を繰り出し、敵が小刻みな攻撃に巨大な棍棒で対応しきれなくなった瞬間、踏み込んで二の腕を強かに切り裂いた。
絶叫した強敵の頭蓋に柄を叩き込んで打ち倒してから、息を荒げつつルッゴ・ゾムは味方の多い場所へと一端、下がってみる。
余裕の出来た状況で改めて周囲を見回してみれば、二倍の敵に不意打ちを受け、挟撃されている割に、今のところオークの戦士たちはよく戦っていた。
左右両面から強い圧力を受け、苦しい戦いを強いられながらも崩れる様子を見せず、よく統制を保って戦列を維持している。
互いを庇い合える位置に纏っているからか、一人で複数の敵を相手取る破目に陥っている者も殆どいなかった。
一瞬だけ視線を走らせれば、後背のボロは棍棒を振り回して複数人の敵兵相手に奮戦している。
「乱戦状態に陥っていたら、危ういところだったろうが……」
勝ち目が増してきた。血の混じった唾を吐き捨てると、ルッゴ・ゾムは新たな敵を求めて再び丘の民へと向かっていった。


「だらしない連中だ」
オーク勢を挟んで反対側にいる丘の民の戦いぶりを目にした時、ヘイスは呆れたような口調で溜息を洩らした。
たった一人に崩されている。
不甲斐ないと思いつつよくよく見てみれば、オグル鬼よりもでかいオークがいた。
一見すると何かの冗談か、目の錯覚かと思うくらいにでかい。
オグルか、トロルの眷族とでも言われた方が信用できそうだ。
だが、顔つきは確かにオークのものである。
そいつが並みの戦士であれば両手で扱うような厚刃の戦斧を片手で軽々と振り回し、縦横無尽に暴れまわっている。
或いは、あの恐るべき種族ハイオークの一人だとしても不思議ではないと思えた。

そのオークは大きく、そして強かった。
「拙いな。あいつは強いぞ」
ギースが食い縛った歯の間から罵り声を洩らしつつ評したように、巨躯のオークは単純な身体の大きさや膂力の強さもさることながら、ただならぬ技量の主であった。
膂力の強さに目を奪われがちだが、一体、どれ程の死線を潜り抜ければ身につくのか。
巨漢のオークは、相手の動きを見切り、最小限の動きで間合いを詰めて次々と倒していく。
いくら一山いくらの雑兵相手とは言え、ふざけるにも程があるとヘイスは思う。
敵の動きを先読みして、あっさりと打ち倒すその様は、いっそ見事だと評したくなるほどであった。
「あれほどの体格と膂力に加えて、戦い慣れているか。厄介な奴がいやがる」
忌々しげなギースの言葉に、ヘイスは冷静な態度を保って肯いた。
「確かに……図体だけのうすのろではないようだ」
正直言えば、ヘイスもあのオークと正面からやりあうのは御免蒙りたかった。
まともにやり合えば、討ち取るまでにどれほどの犠牲が出るか分からない。
とはいえ、幾ら卓越した技量を誇る勇士であろうと、戦場であっさりと討ち取れる例も多い。
槍衾か飛び道具。ヘイスの脳裏にそんな言葉が思い浮かんだものの、多対多の乱戦の中で一人の敵に的を絞って集めた兵を叩きつけるのは、予め準備でもしてない限りは至難の業だった。
丘の民の士気が崩れかけていると素早く見て取るも、ヘイスにも救援を送るだけの余裕はなかった。

そもそも眼前で干戈を交えているオーク族の戦列さえ、中々に切り崩せないでいるのだ。
「こいつらも手強いな」
ギースが振るった中剣に脇腹から出血しながらも、目の前ではオークが怯んだ様子もみせずに、粘り強く戦い続けていた。
このオークたちは一人一人が粘り強く戦う。不利な状況にも関わらず、浮き足立たった様子も見せない。
厄介な勇敵は、他にもいる。
戦斧のオークほどではないにしろ、オグルと見紛わんばかりの巨躯を誇るオークが棍棒を振り回して、当たるを幸いに薙ぎ払おうと暴れている。
「槍持ちが三人一組で対応しろ!」
ヘイスの指示に、巧みに距離を取った傭兵たちが三人掛かりで連携し、やっと互角の鍔迫り合いに持ち込んだ。
ヘイスの手勢とオークたちと、いまだどちらにも死者は出ていない。
一気に攻めようと号令を下しても、命大事の傭兵たちは命令に従わないだろう。
互いの神経と持久力を削りあうように刃を奮い、大小の盾をぶつけ合っている。
じりじりと消耗しながらの持久力の勝負だ。
「これは拙いかも知んねえな」
剣を奮いながらぼやくようなギースの呟きに、ヘイスは額の汗を拭いながら応えた。
「いや。ルタンなら、そろそろ何か手を打つはずだ」

 銀髪の豪族の演説に欲望を煽られ、狂熱に駆られてオークの戦列に襲い掛かった丘の民であるが、しかし、ルッゴ・ゾムたった一人に十人近くを倒された挙句、戦意を冷やされて早くも逃げ腰になっていた。 岩に登って戦場に目を凝らしていた奴隷が、嘲るような口調で主人に報告する。
「丘の連中が圧されているようです。どうしますか、旦那」
「オーク共、やるではないか」
味方の窮地にも拘らず、ルタンは寧ろ感心したかのように呟いた。
冷たい風に毛皮のマントの襟元を締めてから、呆れたように嘆息する。
「にしても、ヘイスも案外だらしないな。あれだけの数がいて押し切れぬか」
「クーディウス殿の郎党とは言え、我らほどにはオークとやりあう経験は積んでおらぬようのだろう」
重々しい声で口を挟んだのは、やや痩せてはいるもの矍鑠としている白髪の老人である。
オークと接する土地で長年、小競り合いを繰り返してきた地元の住民。郷士たちの代表格を勤める古老であり、その言葉はそれなりの説得力を伴っていた。
「此の侭ヘイス殿が押し切れぬようであれば、わしらの出番かな」
古老の言葉に肯きつつ、ルタンは不意に笑い声を上げた。
「よし、新手を出すとするか」
「いや、まだだ。カルーン殿は、もう少し待機していてくれ」
革鎧を纏った顔に傷のある老人に首を振ってから、ルタンは腹心の奴隷を呼び寄せる。
「増援を出す。傭兵たちを投入しろ」
肯いて走っていく奴隷とのやり取りを横目にしながら、老郷士は口元を曲げて抗議する。
「おい、わしらの獲物がなくなっちまうぞ。ルタン殿」
「貴殿らの出番は最後の詰めだ。それまで身体を暖めておいてくれ」
ルタンも、交友ある地元の郷士たちとその兵は出来る限り温存するつもりであった。

 もう幾人めとも知れない丘の民を打ち倒して、ルッゴ・ゾムは戦場へと視線を走らせた。
味方は丘の民相手に優勢に戦を進めている。
すでに丘の民は過半が打ち倒され、敵の姿も半減している。
少なからぬ屍が転がり、生きている者も立ち上がれずに苦痛の呻き声を上げていた。
殲滅も時間の問題だろう。
何しろ丘の民は、革服や冑といったまともな防具は勿論、厚手の服すら事欠いている有様だ。
オークの戦士団とまともに戦えば、こうなるのは目に見えていたにも拘らず、なぜ襲ってきたのか。
視線を転じてみれば、ボロたちもかなり激しく遣り合っているようだが、まだ数に勝る敵に対して危なげなく持ち堪えていた。

 少なからぬ死人、手負いを出しながら、だが丘の民はなおも退く気配を見せない。
目の前にいた丘の民を打ち倒してから、ルッゴ・ゾムは不快そうに顔を歪めた。
「聞けい!丘の民よ!もはやお前たちに勝ち目はない!」
ルッゴ・ゾムの宣告に襲撃者たちは怯んだように立ち止まり、顔を見合わせる丘の民の襲撃者たち。
「どうする?」
「……勝ち目はねえよ」
「だけど、このままじゃ金が手にはいらねえぞ」
丘の民もオーク達も、ルッゴ・ゾムに注目している。
ざわめき、動揺している襲撃者は明らかに迷っていた。普通であれば、もう敵には成り得まい。
「命を粗末にするな!まだ息のある仲間を連れて、すぐに立ち去れい!」
ルッゴ・ゾムが駄目押しで再度、宣告した時だ。突然に大きな鬨の声が起こった。
同時に、丘陵の稜線から姿を現した三十ほどの人影が、勢いよく駆け下りてくる光景が目に映る。
「……新手か」
ルッゴ・ゾムの見たところ、勢いよく駆けて来る新手の兵団は中々の武具を纏っていた。
革鎧や革服、最低でも厚手の布服。盾を持っている者や長柄の槍、先端には長剣を掲げている者もいた。
武具の質からして、まず農民兵ではない。
新鮮な活力に満ちた三十名の兵が寄せ手に加われば、消耗しているオークたちは一気に不利になる。
どうやら自分たちは、見事に罠に嵌ったのだとルッゴ・ゾムも悟らざるを得ない。
「……本命は新手の兵団。丘の民は端から俺たちを消耗させるための捨て駒か」
この一連の絵図面を描いているのは、相当に狡猾で嫌らしい奴に違いないだろう。
「くそったれめ」
この時、吐き捨てながらルッゴ・ゾムは死を覚悟した。



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