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No.27922の一覧
[0] フェリアの大冒険(現実→異世界TS物)[貧乏狸](2012/01/12 01:21)
[1] 1話 幼女は迷子[貧乏狸](2011/05/22 04:49)
[2] 2話 幼女の旅立ち[貧乏狸](2011/05/24 05:38)
[3] 2.5話 モガ君の独白[貧乏狸](2011/05/24 05:30)
[4] 3話 幼女と神話[貧乏狸](2011/06/04 11:03)
[5] 4話 幼女とトリップ[貧乏狸](2011/06/21 20:53)
[6] 5話 幼女と平行世界[貧乏狸](2011/07/21 21:51)
[7] 6話 幼女とDQNトラック[貧乏狸](2011/08/18 21:42)
[8] 7話 幼女とサファリパーク[貧乏狸](2012/01/12 01:24)
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[27922] 2話 幼女の旅立ち
Name: 貧乏狸◆b6468db1 ID:b558551f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/24 05:38

果実の生る不思議な大樹の元で生活を始めてから既に二週間が経過していた。
食べて、寝て、周囲の探索を繰り返すといった単純な生活サイクルの中で、ある事が発覚したのだ。

大樹から落ちてくる果実を摂取すると身体能力、もしくは身体の強度が飛躍的に上昇するということ。
それはドーピングのような一時的なものではなく、ずっと続く・・・たぶん半永久的なもの。

それに気がついたきっかけは本当に些細なことからだった。
五日前の早朝。
太陽が地平線から少し顔を出す頃、既に俺は朝食(もちろん果物)とトイレを済ませて探索に出かける準備をしていた。
何故こんな早朝に起きたかというと、暗くなると寝ること以外やることが無くなるからだ。
なので日の出ている内に、やりたいことをやっておく。

おっさんの頃は朝に弱く、覚醒するまでにかなりの時間を要したが、ここに来てからは娯楽どころか電気すらないので夜更かしもしないので早寝早起きといった健康的な生活を送っている。
そんなわけでこんな太陽が昇り始める早朝から行動を始めているわけなのだ。
出かける準備を終え、(準備といっても大樹に果物を出してもらうだけ)今日は東の方を探索しようと太陽が昇ってくる方角に向かって足を進める。

歩きながら道中に生えている太めの目立つ木に落ちている小石で傷を付け、迷子にならないように目印をつけながら慎重に探索を続けていく。
探索を始めた初日に、食料も持たずに適当に歩いていたら大樹への戻り方がわからなくなり肝を冷やした経験から、食料と目印は探索に出かけるときは必ず忘れはしない。

大樹の元を離れてから2時間ほど経ち、そろそろ休憩しようと手ごろな大きさの石に腰を下ろし、持ってきていたお弁当のリンゴを齧ろうとした時だった。
シンと静まり返り、遠くから鳥の声か虫の鳴き声しか聞こえてこない森の中で、俺の小さな耳はそれとは違う別の音を拾いあげていた。

サラサラサラと断続的に続くその調べは、田舎育ちだった子供時代によく聞いた懐かしい音だった。
逸る心を抑えつつ、音源に向かって歩き出す。
音源はここから近くにあるといった確信を抱えながら、歩幅の短い幼女ボディーでとてとてと30メートルほど進むと目的地に到着した。

音の正体、それは川のせせらぎ。
最近の日本では滅多にお目にかかれないような、底まで透けて見える透明度。
そこからわかる川の深さは一番深いところでも2メートルほどで、川幅も7メートルといったところか。

流れも穏やかで、まさに小川と呼ぶにふさわしい。
それを目の当たりにした俺はまず固まった。

「ははは、やった、やったぞ!ついに川を見つけたぞ!!!」

ついにやった!
これでこれから先の計画を立てることができるぞ。
川さえ見つければこちらのものだ。
なぜなら、川沿いに下っていけばこの森から脱出することができ、人里に下りることができるかもしれないからだ。

うれしくてうれしくて、川辺に小走りで俺は駆け寄った。
脱出できるかもしれない希望とは別に、もう一つどうにかしなければと悩んでいたことが解決できる喜びに舞い上がってしまう。

悩んでいた事とは?
ここで一つ、この謎の森の環境について語らせてもらおう。

彼が元々いた場所は、冬の新潟県のスキー場。
そんな彼がひょんなことからなぜか幼女となり、この謎の森に滞在しているわけだがここは新潟ではない。

ジメジメと湿度の高い場所ではないのだが、いかんせん暑いのだ。。
太陽が完全に沈んだ夜ならまだしも、日中は確実に30度を越す暑さが夜まで続いている。

日の光が入らない場所ですら暑いので、涼をとれる場所といえば異常に風通しが良く、日差しをまったく浴びない大樹の下くらいしかない。
そんな環境でずっといるとどうなるのか。

じっと動かずにただただいるだけで珠のような汗が滲み出てくるような場所で、一週間ほど森を探索し続け、トイレも尻を拭くものは葉っぱのみ。
前を拭くのは被れると恐ろしいので拭かずにそのまま放置。
えっ?前とはどこのことだって?
それは聞かないお約束だ!
女の子は色々と大変なのです。

その結果、すごく汚くて臭い幼女が爆誕してしまったのだ。
色々と発酵したような刺激臭が漂っていて、自分でも正直これはどうなのよと思ってしまうほどだったので、赤の他人だったら本人を前に鼻を押さえるレベルだろう。
まぁ、そんな状態で小川を発見したわけです。

全身に泥や蜘蛛の巣や垢や汗やらでベトベトの状態の俺は、この状態から開放される喜びを胸にオヤツ兼食料用に持ってきていたリンゴ数個を地面に投げ出して、「水だぁぁー」と奇声を上げながら川に飛び込もうとしたのだが----
あまりのうれしさに``全力``で飛び込もうとしたのだ・・・そう、``全力``で。

ドンという音と共に高速で後ろに流れていく景色に、いつまでたっても着水しない俺。
低くなってしまった目線は急に高くなり、バンジージャンプとはまた違った浮遊感を感じながら気がつけば俺は、砂利だらけの対岸の川辺にゴッという痛々しい音をたてて突っ込んでいた。

夏の甲子園球場で激闘を繰り広げている球児たちも真っ青になるような``ヘッドスライディング``で。
胸からや腹部を地面に強かに打ちつけてしまった俺は「カフッ」と情けないうめき声をあげながら、慣性の法則に従って砂利の上をゴロゴロと転がり続ける。

着地点から凡そ4メートルほどボールのように転がった後、漸く止まったのだが目はグルグルに回り、全身に刺すような痛みを感じた俺はとてもではないがすぐに立つことが出来なかった。

「な、何が起こ・・っ・・た?」

肺から洩れ出た酸素を取り戻すべく、ぜぇぜぇと呼吸をしながら焦点の定まらない視線をあっちにこっちにと彷徨わせる。
しばらく動かずじっとしていると呼吸も整い、体の痛みも大分治まってきたのでムクリと体を起こし、体に目をやる。

痛みを感じていないだけで、手が折れていたりどこか大怪我を負っていないか入念に調べていく。
なんせあの衝撃だ。
素っ裸のままの幼女ボディーではとてもじゃないが耐えられないような凄まじいものだった。
生死に関わる怪我を負ったとき、人間は強力な脳内麻薬を分泌しショック死しないように出来ていると、どこかで聞いたことがある。
もっとも、それも2分程度のものらしいが。(体が脳内麻薬になれて痛みを感じ始める)

サワサワと己の体を触っていくが、これといった怪我らしい怪我は無かった。
あっても擦り傷程度。

ホッと一息つくと俺が転がったであろう現場に目を移すと、そこには少しだけえぐれた地面が4メートルほど続いている跡が残っていた。
そして対岸には先ほどまで無かった半径3メートルほどのクレーターに川の水が少しづつ流れ、プチ湖を形成しつつあった。

「ちょ、なにこれ?」

目に映る不可思議な光景に、俺は日が暮れる少し前までそこから動くことができなかった。


- - -



川での夏の甲子園事件から五日間で、色々と実験を繰り返しある結論に至る。
始めからこの体が恐ろしいスペックを有していたわけではない。
考えてみれば初日の探索はすぐに疲れてしまって大樹に引き返していたからだ。
探索距離が飛躍的に伸びたのはこちらに来て三日ほどたってから。

今までまったく気がつかなかったが、果実を食べると体の芯がほんのりと暖かくなり、どこからともなく力が湧いてくる。
本当に意識しなければわからないほどではあるが。
あの地面との激突によって痛めつけられた体の状態で食べたときは、それをよりはっきりと感じ取ることができた。

色々と現状の身体能力テストを行いつつ、果実を食べる前と後の結果も同時進行で調べていった。
結果は果物を食べた後のほうがほんの少しだけ能力が上昇しているのを確認。

そのテストの過程において生まれたのが``セルフ高い高い``。
足にグッと力を入れ、思いっきり上に向かってジャンプするだけと至ってシンプルな動作を行うだけなのだが、15メートルほどの跳躍力を持つこの``セルフ高い高い``は鬱蒼と生い茂る木々を飛び越えて遠くを見渡せることができるので、森からの脱出には重宝しそうな予感がする。
幼女だけに高い高い。
まぁ、軽く人間離れした技なので人里で披露しようものなら、一瞬でマッドな科学者たちの研究材料にされてしまうだろうから使えないが。

そしてこの果実は俺以外、つまりは人間以外の生命体にも効果はあるのではと実験してみた。
森の探索中に捕まえたウサギっぽい何か(久々の肉だと興奮したのだが、火が無いことを思い出し断念)にパイナップルを食べさせ解放したところ、捕まえた時とは比べ物にならない速さで森の中に消えていったのには驚いた。
自身の能力上昇率と比べると、明らかにウサギのほうが効果が高かったことを考えると、体の大きさによってその効果量が変わるのではないかと推測してみる。

この果実による能力の上昇に天井があるのか、あるいは青天井なのかは定かではないが、既に俺は明らかに人類が到達できる地点を大幅に飛び越えてしまっている。
なんたって大樹の果実以外、食料になるものが無いのでそれしか食べていないのだ。
もしも、このまま一年ほど果実を食べ続けて------。
万が一、果実のブーストが青天井であった場合、下界に降りて電車にでも乗っている時にクシャミをして前方にいる人間に頭突きでもしようものなら・・・。
駄目だ、考えるのは止めておこう。

他にも果実を食べ続けることによって起こる弊害は必ずあるはずだ。
このまま果実を食べ続けたとして、いくら耐久力も上昇しているとはいえ咄嗟に力を入れたときに体が力に絶えられず崩壊する恐れがある。
その可能性がある限りのんびり構えることなく早くここから脱出するか、あるいは加熱処理無しで食べられる食料を確保するかの二択である。

しかし、しかしである。
現代社会を生きてきて、突如として文明の利器から切り離された生活を強いられた人間にどこまでできることやら。
単純に食料といっても簡単に手に入るものではない。
過去、人類の歴史において食料問題が改善し、餓死する人間が極端に減ったのはつい最近の話だ。

周りに人のいる環境でそれなのだから、ただ一人の人間が何もない森の中でがんばったところでたかがしれている。
山の幸を取ればいいじゃないと思う人もいるが、事態はそう簡単に済むものではない。

キノコ一つとってみても、まったく知識の無いものが毒の有無もわからずに口にすればエライ目にあうのは火を見るよりも明らか。
植物も食べれる植物かどうかわからないで気軽に口にしようもの大変なことになる。
毒が無くても下痢を起こすなどの副作用がある物は山には数多く存在する。
川魚は寄生虫が恐ろしいし、動物を捕まえて食べるにも火が無いと生肉を食べることになってしまう。
恐ろしいほどの廃スペックな体を持つことになってしまった幼女でも、その力を完全に生かすこと無く己の身を守る以外なんの役にもたっていないのが今の現状である。
そんな状況下なので、結局は大樹の落とす果実を口にすることで命を繋いでいくしかないのだ。



- - -



この森で目が覚めてから一ヶ月ほど(もう日数を数えていない)。
ついにこの森を出る準備が整った。

蔦や木の皮で肩掛け鞄を作り詰め込めるだけの果物を入れ、腰には襲い掛かってきた大きな狸もどき(撲殺しました)の毛皮を巻きつけ、準備は万端!!!
そしてなにより頼もしいのは新しくできた相棒の存在。

もこもこの毛皮を身に纏い、白と黒のコントラストの外面。
丸い耳とお尻からひょっこり飛び出たお団子型の尻尾。

5メートルほどの身の丈を持つパンダの「モガ君」だ。
モガ君は俺が川で身を清めているときに、川の上流からドンブラコ、ドンブラコと流れてきたのを俺が助けたのが二人の出会いの始まりだった。

どうもモガ君はなんらかの事故があって川に落ちてしまったみたいなのだ。
前足に何かに噛み付かれたような傷があり、それが元で川に落ちて意識を失ったと俺は考えている。
しかし、よくもまぁあんな浅い川を流れてきたな。

浅瀬か岩かに引っかかっててもおかしくないのだが、不思議なことにドンブラコッコと俺の前に流れ着いたのはまさに奇跡とかいいようがないw
途方も無く運が悪いのかもね、モガ君は。

モガ君の名前の由来は鳴き声の「モガ~」からきている。
俺はパンダの鳴き声がどんなものかは知らないが、きっとモガ~なのだろう。

まぁ、鳴き声は一旦置いておこう。

どうやってモガ君を助けたか語るとしようか。
俺の前に流れ着いた大きなパンダは、助け出した後もぜぇぜぇと苦しそうに息をするだけで動こうともしなかった。

まさに瀕死の状態。
あまりにも苦しそうだったので、どうにかしてあげたいが何もできずにおろおろとしていたのだが、パンダがこちらに視線を向け俺とパンダの目と目が合った。
その目は俺に殺してくれと強く語りかけているような気がして、願いを叶えてあげようと右手に力を入れ、痛みを感じさせずに手刀で首を一思いに切り落とそうとした際に、パンダの目から涙がボロボロ零れ始めたのだ。

たぶんあれは感謝の涙。
武士の情けの介錯に、万感の想いを篭めた感謝の涙だったのだろう。

不意にその涙を見た俺は、振りかぶっていた手を止めてしまう。
っく、そんな大きな図体をしている癖になんて儚げな涙を流すんだ。

刹那を生きる野性の動物の涙を見てしまった俺は、この荒武者を思わせる武士を生かす為に動き出す。
動物の治療の知識なんてまったく無い俺にできる事。
不思議な果実に賭ける以外ない。

あの大樹の果実をここに持ってきてパンダに食べさせる!
アレなら、アレならきっと何とかしてくれるはずだ。
俺は全速力で駆け抜け、進行方向にある木を殴り倒しながら一直線に大樹の元へ。

パンダが笹以外にどんなものを食べれるのか知らないが、とりあえず大樹になんでもいいから元気になる果物を出してくれと心の底から願った。
すると空からドスンと音をたてて降ってきたのは大きな見たことも無い大きな果実。

硬そうな殻に覆われたその果実を拾い上げ、元来た道を猛スピードで突っ走る。
待ってろよパンダ!
もうすぐ着くからな。

ザザザァーと砂煙を巻き上げながら川辺に到着。
止まるときに地面に足を突き刺したので、せっかく体を洗って綺麗になった足は泥だらけになってしまったが今はそれどころではない。
急いでパンダに駆け寄ると、こちらに気がついたパンダが絶望を顕わにした表情(たぶん)をこちらに向けているのに気がついた。

「ごめんな、お前が男らしい死に様で逝こうと決心したのに介錯を途中でやめて。でもな、何があったかは知らないが生きろ!」

気がつけば、俺の頬にも大粒の涙が溢れ出していた。
大樹一押しの元気になる果実。
それを素早く手刀で4等分し、必死で抵抗するパンダの口に無理矢理ねじ込む。

喉からグビリという果物を嚥下した音を聞き、これできっと大丈夫だろうと安心した時だった。
パンダは果物を飲み込んでからビクンビクンと痙攣した後に気絶したのかピクリとも動かなくなったが、口元に耳を当ててみると安定した息使いに今度こそ俺はホッとすることができた。

パンダを寝床に担いで帰る前に、俺は汚れた足と果汁だらけの手を洗っていこうと川に歩いている途中、大便の匂いを手から感じ取った俺はあることに気がついた。

「う○こくせぇwあの果実はドリアンだったのか」

・・・

・・・・・

・・・・・・・

そんな救出劇があってから、共に生活を始めたモガ君と俺。
彼(もしくは彼女)との相性は抜群で、俺の望むことを感じ取り、気がつけば俺の望み通りに任務を遂行してくれているモガ君は、まさに痒い所に手が届くとても頼りになる存在。

そのモガ君に跨り、今まさに出発の時。
目指すは人里!
さぁ、冒険の始まりだ。

こうして一人と一匹は大樹の元を去り、川沿いを下りながら人里を目指すのだった。



- - -




国と国の狭間にある小さな小川。
川は人々に潤いと川魚をもたらし生活を支え、また国境線としての役割を果たしている重要な小川。
かつて起きた戦争でも、この川は重要拠点として争いの中心にもなった歴史がある。
軍を進めるにあたりどうしても必要となってくるものは水だからだ。
一時は多くの血で赤く染まったことから、血の川(サンジュリビャー)と呼ばれていた過去を持つ。

そんな曰く付きの川を幼い少女がドンブラコッコと流れているのを、近くの村に住む水を汲みに来た少年が発見して陸に引き上げたのだ。
引き上げられた少女はとても穏やかな表情で、ただぐっすり眠っているようにも見えたが、呼吸はしっかりしているが体温が異常に低いことに気がついた少年は、大声で他に水を汲みに来ていた村人に助けを求めた。

「君、大丈夫か。おい、誰か隣村に行って医者の爺さんを連れて来い。早くしろ!!!」

慌てて駆け出す村人たち。
医者を呼びにいった村人の後姿が小さくなっていくのを見届けた少年は、少女の容態をもっと詳しく確かめようと村人から少女に意識を移し息を呑む。

「な、なんと美しい」

5歳か6歳ほどの少女からは、幼い頃に祭りで見た中央神官たちが行っていた儀式魔法などとは比べ物にならないほどの神々しさが立ち上っている。
日の光で焼けたのか、褐色と白を混ぜた様な滑らかな肌に絹のように艶やかな黒髪。
幼児にしてはどこか精悍とした凛々しい顔だちは、協会の壁に架けられている戦乙女の絵画のようであった。

結局少年は、何の処置もせずに医者が来るまでずっと少女を見ている事しかできなかった。


- - -



「おいしい!親父さん、おかわりください!!!」

「あいよ、嬢ちゃんは本当によく食うな」

ニコテ村に居ついて早三ヶ月。
今はロボスのおっさんの家で世話になっている。
どんな経緯でこの村に住むことになったのか簡潔に。

・・・

・・・・・

・・・・・・・

川から流れ着いたという(村人談)俺は村人に助け出され、ベットの上で目を覚ました。
何故川から流れてきたのか村人に尋ねられたのだが、本当の訳を話す訳にはいかず、適当に思いついた嘘9割、真実1割の悲しい過去()をでっち上げて村人の同情を引き、それ以上聞くなと釘を刺した。

深く突っ込まれたらボロが出ることは確実なので、予防線を張っておくことにしたのだ。
そうやってしばらく話し込んでいて気がついたのだが、どうも村人は西洋人のような顔つきなのに日本語を流暢に話しているのである。
しかも口の動きと耳に入ってくる言葉とがどうにも噛み合わない。
気になった俺はうかつにも近くのおっさんに質問してしまった。

「すいません、あなたの話している言葉はどこの国の言葉でしょうか?」

「はっはっは、変な事を聞くお嬢さんだ。お嬢さんが喋っている言葉と同じチャコル王国の言葉じゃないか」

ちょ、どこですかそれは!!!

「そ、そのチャコル王国の近隣の国の名前を教えてもらえませんか?」

「なんだ、そんなことも知らないのか?フィルタ帝国にスモック共和国、そしてトゥバコ神聖教会自治国だ。こんなこと、誰でも知っていることじゃないか」

ごめんなさい、まったく知りませんでした。

「ここがどこなのかわからないので地図を貸してもらえると助かります」

本当にここはどこなのだろう?
森にいる時も薄々は日本では無いと思ってはいたが、(季節的な意味で)なんだか嫌な予感がしてきたわ。

「地図?そんな歳で地図の見方なんかわかるのかい嬢ちゃんは・・・。少し待ってろ、地図は村長の家にしかないから借りてきてやる」

そう言って颯爽と部屋から出ていったおっさんが、地図を携え戻って来たおっさんから地図を受け取って嫌な予感は的中した。

「日本どころか地球ですらなかった件」

・・・

・・・・・

・・・・・・・

そして紆余曲折を経て、貧しい村でも比較的裕福なロボスのおっさんの家に引き取られた訳である。
おっさんが何の仕事をしているかはわからないが、鎧や剣を持っていることから傭兵か兵隊かのどちらかだろう。
この世界には魔法使い()なる存在もいて、大きい町なんかになると一人か二人駐在していて町を魔物から守っているんだとか。

ニコテ村は貧しいので傭兵や魔法使いを雇うような金は無く、魔物が現れたら農具を持って立ち向かうらしい。
もちろん、そんな貧弱な装備で敵うはずも無く、下級の魔物なら何とか倒すことができるらしいが、中級となると大量の犠牲者を出しなんとか追い返せる程度。
上級の魔物は王宮の魔法使いや腕利きの兵士を大量に派遣し、数と質をもって攻めるも大抵は甚大な被害を出しつつの辛勝。
上級の魔物ってドラゴンみたいな奴なのかな?
まぁ、こんな辺鄙な村に来ることはないだろうけど・・・。

「魔物が出たぞー、年寄りと女子供はすぐに逃げろぉぉ」

えっ!?
今外から聞こえてきた声って。

「グリズベアだ!くっそ、なんであんな魔物がこんな村に!!!逃げろ、早く逃げろぉぉぉ」

うそん、冗談だろ・・・。
外はどうやら阿鼻叫喚のご様子。
子供の泣き声や、男の野太い悲鳴。
こ、これはマジでやばいんでないかい?

この世界の生活に対する常識はある程度理解したが、魔物に対する常識がイマイチ把握できていない状況なので部屋から出るタイミングを見誤ってしまった。
ど、ど、ど、どうしよう。
家から飛び出して逃げ出すの?それともここにずっと隠れてるの?どーすんの俺!

そう一人で悶々としていると、外から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「モガーモガー、モガガー」

!!!
この鳴き声は・・・モガ君!?
ここ最近、ずっと悩んでいたことの一つ。
相棒のモガ君の安否と行方。

人里を目指し旅をしている途中で、俺と一緒に滝つぼに落ちたモガ君。
旅の道中はひと時も離れず、いつもモフモフの毛皮で俺を包み込んでくれたあの温もりを、離れ離れになった今でも片時も忘れたときはなかった。

俺は家の外に飛び出し、あの白と黒のコントラストを探しすぐに見つけた。
村人たちは飼葉を掻き混ぜる三叉のフォークと呼ばれる農具や鍬を手に持ち、モガ君をグルリと取り囲んで農具を突きつけている。
モ、モガ君が殺されちまう!!!
俺はその光景を目の当たりにし、我慢しきれずに叫んでしまう。

「やめろ、モガ君を傷つけるな!」

俺の叫び声が村の広場に響き渡り、村人の男たちやモガ君も俺の存在に気がついたらしい。

「ば、馬鹿ヤロウ。早く逃げろ、殺されちまうぞ。この魔物は上級の魔物だ!だから早く---」

「うるさい、馬鹿ヤロウはお前だ!モガ君は魔物なんかじゃねぇ、俺の、俺の大事な相棒で友達だ!!!」

「モガ君、早くこっちに逃げてくるんだ。さぁ、早く!」

それを合図にモガ君は村人たちを振り払い、血路を開いて俺の元に走り寄って来る。

「-----------------------------------------------」

村人たちは何か騒いでいるが、もう俺とモガ君との仲を邪魔する奴らは誰もいない。
俺もモガ君に向かって走る、走る。

俺が近づくに連れ、四足歩行から二足歩行に切り替えたモガ君は俺を抱きとめるためなのだろうか、前足を高々と上げ万歳のポーズを取り待ち構えている。
そんないじらしい態度が可愛くて、うれしくて。
俺はモグ君にいつものように抱きとめてもらいたくて、その大きな胸に飛び込んだ。

・・

・・・

ミシャっという音と共に頬や手に付く生暖かい液体。
何が起こったのかまったく理解できずに、その生暖かい液体見るとそれは赤いもの。
まるで・・・まるで血のような液体だ。
血?
あれ、なにか変だ。
抱きしめているモグ君の胸からはいつものような筋肉の躍動を感じられない。

「---------ッ!」

目の前にあるのは・・・目の前にある物はなぜか引き千切れたモグ君の体``だった``物。
俺は恐る恐る後ろを見ると、体を真っ二つに引き裂かれたモグ君が、目と口を大きく広げて絶命していた。

何が悪かったのだろうか。
神よ、俺が一体なにをしたというのだ!

モグ君は今まで飛びついても、怪我することなく抱きとめてくれていたのだ。
なのに、なんで、なんで、なんで?

大切な相棒を、友達を・・・。
俺が、俺が殺してしまったのか?

「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

その事実にいきついてしまった俺は、怒りと絶望と悲しみをがない交ぜになり、感情の処理が追いつかずに涙を流しながら意識を失った。



- - -



グリズベア、それは王宮魔道師や騎士を100人投入して倒せるかどうかの強さを持つ正真正銘の化け物。
動きは素早く、繰り出される張り手は城の城壁に皹を入れるほどの力があると、王都にいる元騎士団長だった翁から聞いたことがあった。
なんでも50年前のグリズベアの襲撃では、騎士団長を除く他の騎士は全滅してしまったと遠い目をしながら俺に語る翁の目尻にはうっすらと涙が溜まっていた。

そのグリズベアが今、俺の村に攻め込んできているのだ。
村には武器らしい武器は無く、下級の魔物とは訳の違う相手に仲間たちが次々とやられていく。

くそ、くそ、くそっ、くそったれ!!!
ロニーもペイルもマブダチのアントンまでやられちまった。

まだ避難できていない年寄りや女子供はたくさんいる。
ここで俺までやられちまったら、逃げている奴らも追いつかれ皆、皆食べられちまう!
震える足に渇を入れ、フォークを構えグリズベアを睨みつける。

「クリス、無事か!?」

「ラルフおじさん!来てくれたのか」

「あぁ、女房と子供と一緒に逃げるつもりだったが・・・若造のお前が戦っているんだ、ここで逃げたら男が廃るってもんよ!」

「おじさん・・・」

『俺たちもいるぜ!』

「皆!!!」

ラルフおじさんや村の仲間たちがグリズベアを取り囲み、農具を突きつける。
皆もう生きて帰ることができないとわかっているのか死への怯えはなく、一秒でも足止めすることだけを考えているのでグリズベアが前進しても一歩も引かず獲物を構えている。

「モガーモガー、モガガー」

グリズベアの威嚇の咆哮は俺たちの体を揺らし、冷や汗がドッと溢れ出して来る。
覚悟を決めた俺でさえ、再び足が笑い始めるのを止めることができなかった。

(俺は勇者だ、俺は勇者だ、俺は勇者だ、俺は勇者だ。だから、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ・・・駄目だ!)
と心の中で必死に自己暗示を掛けている時に彼女は現れた。

「やめろ、モガ君を傷つけるな!」

凛としたよく通る声が広場に響き、俺たちやグリズベアでさえも彼女に意識を奪われてしまっていた。

「ば、馬鹿ヤロウ。早く逃げろ、殺されちまうぞ。この魔物は上級の魔物だ!だから早く---」

逸早く正気に戻ったラルフおじさんが逃げろと彼女に注意を促すが、彼女は其処から一歩も動かずにグリズベアから視線を固定したまま仁王立ちしている。

「うるさい、馬鹿ヤロウはお前だ!モガ君は魔物なんかじゃねぇ、俺の、俺の大事な相棒で友達だ!!!」

「モガ君、早くこっちに逃げてくるんだ。さぁ、早く!」

「駄目だ、逃げろ!グリズベアの好物は若い女だ。だから早く!!!」

ラルフおじさんの悲鳴のような言葉は彼女には届かなかった。
彼女の言葉を合図に俺たちを腕の一振りで吹き飛ばし、彼女に向かって突進していくグリズベア。

彼女もまたグリズベア向かって人間離れした速さで走り寄っていく。
それに驚いたグリズベアは急に足を止め、前足を天高く構え少女を迎え撃とうとしている。

あれは!
あの構えはアントンの頭部を吹き飛ばしたときしていた構えだ!!!
いけない、逃げろ!
そう叫びたかったが、一度自分から外れたグリズベアの威圧感がそれによりまた自分に降りかかると思うととてもじゃないが叫べなかった・・・。
なんて弱虫なんだ俺は!

そしてついに少女と魔物の激突。
俺はひしゃげたあの凛々しい少女を見たくなくて、激突の瞬間に目を閉じてしまっていた。

ミシャ。
それは何かが・・・何かが引き千切れる音。
アントンやペニーが死んだときも同じ音が鳴り響いた。
あぁ、そうなると彼女は・・・・・。
絶望しながら閉じた瞼を開いた俺の目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。

胴から真っ二つになっているグリズベアに、その胴を抱きしめて泣いている少女。

「嘘だろ・・・おい」

それはあまりにも現実離れした光景だったので、俺はしばらく呆然と少女が泣いているのを眺めていたのだが、少女はグリズベアの胴を抱きしめたままグラリと操り人形の糸が切れたように前のめりに倒れこんでしまったのだ。
少女が倒れ、我に返った俺は慌てて少女の下に走りより、どこか体に怪我は無いかを確認し、すぐにロボスおじさんの家に連れて行き服を着替えさせ血を拭いベットに寝かしつける。

一通りの作業を終え、村の状況を確認しに広場に向かうと、共に戦った仲間たちが何やらヒソヒソと小声で話し合っている。

「来たかクリス、してあの子は?」

「怪我もなく、今はぐっすりと眠っている」

皆の、特にラルフおじさんの雰囲気がどこかおかしい。
こう・・・ピリピリしているというか。

「そうか・・・やはり」

ふぅっと息を吐き、やっぱりなって顔をしているラルフおじさんに苛立ちを感じつつ、まるで俺に何かを隠しているような-----

「なにがやはりなんだ?」

「気がついていなかったのか、お前は・・・」

「な、何をだよ?」

「あの子は・・・。いや、あのお方はもしかすると``戦乙女ロリフェリア様``かもしれん」

はいぃぃぃぃぃぃ!?







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