世界的シェアを誇る某ファーストフードショップ、マ○ドナ○ド。
「えっと、チーズバーガーのセットを一つ、ドリンクは……コーラで」
「は、ハンバーガーください、え、の、飲み物?え、ぁじ、じゃあ、あの水を……」
「ビッグ〇ック二つとてりやきバーガー三つ、あとナゲット二つで、お茶があるから飲み物はいらないわ」
「アタシは、ハンバーガーピクルス抜きと、アップルパイ、ストロベリーシェイクのMで」
授業を終えた放課後、ボクと仄村、閂と山本の妹のまーやちゃんの4人は各自注文をし、対価を払って品物を受け取ると、トレイを持って、とりあえず空いている壁際の席に座ることにしました。
「ふーん、ボクこういう所あんまりこないんだよね、なんだか新鮮」
席に着き、セットで付いてきた塩気の強いポテトをかじりながら、ボクはそう素直な感想を述べました。
「君もかい、恥ずかしい話だが、実は私もこう言うところはなれてなくてね」
えぇ、それはもう、確かにみてれば十分に伝わってきましたとも。
そう言いながらボクの隣に座った仄村は、はきはきとした普段のしゃべり方とは裏腹に、店員さんに注文をしている仄村は、虫の鳴くような声でした。
「小心者ね、お店の店員なんかマニュアル通りにしか動かないんだから、自動販売機と思ってりゃいいのよ」
それはそれでどうかと思いますけど……
そう言いながら閂は、ボクの向かいに腰掛け、みっちりと、トレイに敷き詰められたハンバーガーのうち一つを手につかむと、閂はくしゃくしゃと包装紙を半分開き、小さい口を大きく開き、かぶりつきます。
「というか、閂先輩、量多くないっすか?」
見た目によらず、豪快に食べる閂にそう声をかけたのはこの中で唯一学年の違うまーやちゃん、僕から見て斜め前、閂のとなりに座っていました。
ちなみに今回の寄り道の発案者だったりします。
「え?このくらい普通でしょ、あんたたちが少ないのよ」
そういいながら、早くも二つ目に手を伸ばし、モシャモシャと咀嚼する閂。
あの量、体積的に全部おなかにはいるのでしょうか、そんな疑問が頭をよぎります。
「うーん、ハンバーガーって結構おなかにたまると思うんだけどね」
「それ以前に太るんじゃとか、気にしないんっすかね」
そんな様子に苦笑いでそういうボクと呆れ顔のまーやちゃん、なるほど、女の子としてはそれは気になることなのでしょう。
「しかし、ジャンクフードなんて食べてる時点で、あまり気にしてもしょうがないと思うけどね」
そんな話を聞いて、ごく冷静に、水を舌をぬらすように、ちびちびと飲みながら、ぼそり口にする仄村……たしかに、ごもっともな話でした。
「というか、仄村、食べないの?」
見れば、仄村は先ほどから水を飲むばかりで、注文したハンバーガーを包みも開かず凝視していました。
「いや、せっかく無理をして自分で注文したんだ、持って帰って家でゆっくり食べようかと思ってね」
「……えーっと、またお持ち帰り帰りで頼めばいいんじゃない?」
「いや、正直なところ今日はもう無理だろう、コミュニケーションポイントを使いきってしまったからな、今日はもう知らない人と話したくない」
「そ、そう、よくわかんないけどお疲れさま」
なぜか無駄に疲弊した様子の仄村、店員さんに話しかけるのがそんなに苦痛だったのでしょうか。
「で、山本妹、寄り道しようって言ってたけど、ただここでハンバーガー食べるだけなの」
そんな仄村をしばらく放っておく事にして、しばらくのんびりとチーズバーガーを食べ、コーラをすすっていると、不意に閂が最後のナゲットをかじりながらまーやちゃんに向かってそう聞きました。
「……ちゃうっす、本当はわいわいと楽しくおしゃべりでもしながら食べるつもりだったんっすけど、先輩方みんな、だまぁってハンバーガー食べてるもんだから言いだしにくかったんすよぉ」
黙ってマイペースで食べるボク、無気力に壁にもたれ、たまに思い出したかのように水を飲む仄村、無言でハンバーガーを処理していく閂、そしてそんな三人を何か言いたげな目で見回していたまーやちゃん。
あぁ、あの訴えかけるような目はそう言うことだったんですね。
「先輩……気が付いてたならなんか言ってほしかったっす」
「う、ごめん、何が言いたいか分からなかったから、とりあえず笑いかけてたんだけど、まーやちゃん何も言わなかったからさ」
普通に笑い返してきたから、意味はないのかと思ってましたよ。
「いや、あれはあれで、先輩のキュートな笑顔がみれて幸せだったっす、あの笑顔をオカズにハンバーガー食べてたんで」
それは、どうかと思いますけど。
「で、山本後輩、ちなみにその話というのはどんな話をするつもりだったんだい?」
「よくぞ聞いてくれました、やっぱアレっすよ花も恥じらう女子学生が四人もそろったら、アレっきゃないっす」
「……ん、四人?」
一人、二人、三人と……
あれ?女子は三人しかいないと思うのですけど。
「ほう、アレというと?」
「ぶっちゃけ、恋バナっすね」
「恋バナ……だと」
なんというか、新設定が浮上した時の驚き方のようですね、聞いてないよ!!でも代用できそう。
うん、どうでもいい話ですね、これ。
「恋バナねぇ、いきなりそんなこと言われても何話していいかわかんないわよ?」
持参したお茶をがぶ飲みしながら興味なさげにそう言う閂。
ほんの少しでも照れた感じで言えば違った印象がもてるセリフなんでしょうね。
「同感だ、私にできるのは鯉の話くらいだろう」
「……ファーストフード店で女子学生が集まってする鯉の話、それはシュールすぎるっす!!」
というか、どんな話をするつもりなんでしょう、微妙に気になります。
「うるさいわね、じゃあ、こういうのはどう?デザートとしてメガ〇ックが食べたいんだけど、もうお金がないの、誰か閂さんに買ってくれたりしないかしら?」
「それは乞いの話……というか乞う話じゃないっすか、閂先輩わがまますぎっす、っていうかデザートにメガマッ〇って!!」
「……まーやちゃん、ツッコミが凄いなぁ」
味の薄くなったコーラを飲みながら、まったりとその様子を眺めるボク。
しかしなぜでしょう、彼女が仄村や閂に大して突っ込めば突っ込むほど、自分の存在価値(ツッコミ担当)が薄れて行く気がします。
……気のせいでしょうか?
「大体、山本妹、そういうアンタはどうなのよ?」
冗談?にも飽きたのか、当然のようにボクのポテトを奪いながら、話題の主に対してそう聞く閂。
なるほど、盛り上がりに欠ける場合、とりあえず言い出しっぺに聞くのはいいかもしれません。
「え、アタシっすか、勿論先輩一筋っすよ」
堂々と、ボクを指さしながらそんなことを言うまーやちゃん、あぁ、そういえばそうでしたね。
「話せと仰るなら、アタシがどれだけ先輩のこと好きか話しますけど、聞くっすか?ってか聞いてくださいっす」
「うーん、できればボクは遠慮したいなぁ」
会話の途中からまーやちゃんずっとこっち見てますし、視線が痛いです。
「というか……アンタ、それが言いたかっただけなんじゃないの」
眉を寄せ、半分閉じたような目の閂、そう思う気持ちも分かります。
「ふむ、なら、君はどうなんだい?先程から我関せず、みたいな感じだが」
「……んっ、ボク?」
「勿論君だ、私は正直一番興味がある」
……ターゲットロックオン。
そんな三人の声が聞こえた気がしました。
「あぁ、閂さんも興味あるわね、普段のほほんとしてるけど、一体どんな劣情を抱えているのか、この機会に聞いてみるのもいいわ」
「アタシもっす、先輩はどんなプレイが好きなんすか?」
「へっ……え、ちょ、ちょっと、趣旨が変わってる気が……」
肉食系の動物のように目を光らせて身を乗り出してくる二人、超怖いです。
それとも今どきの恋バナって、ボクが知らないだけでそういうものなのでしょうか?
「まぁ、ヘビーな話はないにしても、提供できる話題は多そうだ、古風だが下駄箱や机に忍ばされたラブな手紙の量からしても……な」
「ほ、仄村、なんでその事を!」
「ふふっ、あまり見くびらないでくれ、君に来た手紙、勿論私はすべてチェックしている」
「うわ、仄村先輩、それはどうかと思うっす」
そう言いつつ、若干引いた様子で仄村を見るまーやちゃん。
良識のある普通の発言が、こんなにも心を癒してくれる、その事初めて気がつきました。
「ふぅん、アンタそんなことしてたんだ、それで、チェックしてどうするの?」
チェックしてることに対してはどうでもいいようで、ポテトを食べてのどが渇いたのか、閂はボクのコーラを何も言わずに飲みながら、仄村に大して続きを促す。
「とりあえず、文面がチャラいものと書き手がしつこそうなもの、あまり過激な内容のものは独断で破棄している」
「中身までみてたのっ!」
そして捨てられてましたか、その捨てられた手紙は存在自体知りませんでした……独断すぎる。
心無しか胸を張り、こんなに誇らしげな顔の仄村……なんというか、どや顔でした。
「ふぅん、アンタがたまにコソコソしてるのは気になってたけど、なかなかいい仕事してるじゃない」
「えぇぇっ、いい仕事なんすか、それ!?」
顎に手を当て、感心したように軽く頷く閂、何をもっていい仕事なのかは不明です。
「まぁ、それはさて置き、そんな君だ、性格上無視はしないだろうし、そういった話があってもおかしくはないだろう?」
目の前の見えない箱をどかすようなジェスチャーをしながら、そう言って仄村は話を戻す。
確かに、無視はしていませんけどね。
「そりゃあ、話がした言って人とかには、とりあえず返事の手紙を書いたりはしてるけど、別段なにかあるわけじゃあ、逆に返事が来なかったりするし」
面白半分なのでしょうか、中にはあって話がしたいとか、手紙の返事を希望する人もいるので、それに対して返事を書いて差出人の机なり下駄箱なりに入れておくのですが、どういうわけかそれっきり音沙汰が無くなることが多いのです。
「それは変な話っすね、アタシだったら返事があったら喜んで会いに行くっすよ」
「うーん、返事も在り来りなことしか書いてないし、つまらない人間だと思われたんじゃないかな」
「あぁ、アンタが出した手紙なら閂さんが回収してるわよ」
……っは?
いやいやいや……なんですそれ初耳ですけど。
「えぇぇぇぇっ、閂先輩まで?ちょ、なんでそんなことするんすかっ!!」
「なんでって……あんな文章じゃ相手のバカどもがつけあがるからよ」
「あんな文章って、当然のように中身は見られてるんだね……」
というか、つけあがるというのはどういうことなんでしょう?
「そうよ、そして内容があんまりにアレな物は、閂さん自ら書き直しておいたわ」
「……人の……手紙を……勝手に見て、なおかつ書き直すとか……凄いっす、アタシに絶対できないことを平然と……」
「でしょ、そこにシビれててもいいし、憧れてもいいわ」
それはないと思いますけど、現にまーやちゃんドン引きしてますし。
「というか、二人ともなんでわざわざそんなことを?」
ものすごく、有り得ないくらい暇なのでしょうか?
「なんだか失礼なことを思われてる気がするね、無論、私は意味も無くそんなことをしているわけじゃないさ」
「当たり前でしょ、閂さんだってそうよ」
「そうなんだ、暇つぶしにやってたらどうしようかと思ったよ」
ボクの脳内迷惑さんランキングのランクを、二人揃って二つ三つ上げなきゃいけないところでしたよ。
「じゃあじゃあ、なんでそんな事……もしや、先輩に対する嫌がらせだったりするんすか?」
「そんなわけないだろう!」「そんなわけないじゃない!」
「ひぃっっ!!」
ピッタリとはもりながら、力強く否定する二人、その声の大きさは店内の数人が何事かと振り向くほどで、まーやちゃんは、珍しい二人の強めの口調に、若干怯えているようでした。
「……こほん、すまない、ちょっとばかり興奮しすぎたようだね」
「そうね、ここがマ〇ドのだって忘れてたわ」
周りの目線が気になるのか、若干顔を赤くして、態とらしく咳払いをし、姿勢を正す仄村と、気まずそうにコーラをじゅるじゅると吸う閂。
「まあ、ボクも嫌がらせとは思ってないけどさ……それじゃあなんでなの?」
「「…………」」
改めて、未だに怯え気味のまーやちゃんの代わりに、質問を引き継ぐボクに対して、考え込むように黙る二人。
この後に及んで黙るのはなんででしょうか……
「……いや、先輩もういいっす、その話はやめときましょう」
「んっと、もういいって……」
なんだか微妙な顔をして、僕をとどめるようにそう言うまーやちゃん。
ひょっとして、二人が怖かったからなのでしょうか?
「そうじゃなく、アタシ、なんとなく理由分かったんで」
「え、そうなの?」
「はい、っていうか、わからない先輩がどうかと思うっす、鈍いっす」
こんな察しの悪そうな子に鈍いとか言われてしまいました、軽くショックです。
「うーん、まーやちゃんがそういうならいいけどさ」
若干釈然とはしないものの、まーやちゃんがそう言うなら仕方ありません、ボクのことだけに個人的には気になる話ですが、二人を見る限り悪意があるわけじゃないみたいですので、まぁ、良しとしましょう。
「うむ、では話のきりもついたところで、今日はお開きにしようじゃないか」
「そうね、お腹も膨れたことだし、閂さんは満足したわ」
そういって早々と席を立つ二人、なんだかんだで楽しんだようで、どこか満ち足りた様子に見えます。
満ちたのは胃だけかもしれませんが……
「もう、二人とも勝手だなぁ……それで、まーやちゃんはどうだった?当初の目的とはずいぶん外れちゃったみたいだけど」
恋バナをするはずだったのに、気が付けば先輩二人の奇行ネタ、ボクは慣れてるから平気だけどまーやちゃんは楽しめたんでしょうか?
店を出ようとする二人の背中を眺めながら、そんな事をふと思ったボクは、とりあえず、今日の主催者にそう聞いてみることにしました。
「いえいえ先輩、聞きたかったことも聞けましたし、アタシはすごく満足できたっすよ」
気を使ってくれているのでしょうか?一瞬そんなふうにも思いましたが。
年下特有の、まだ幼さを感じさせる二ヘラっとした笑顔は向ける彼女からは、そんな気配を少しも感じなかったのでした。