寒い季節となりました。
雪が降ることはないにしても、吐く息は白く濁り、外気に触れる肌は冷たく、手の指には、まるで錆びついてしまったかの様な違和感が感じられます。
そんな寒さの中でも、辺りには素足を惜しげもなくさらす通学途中の女学生がちらほら見られ、お世辞にも都会とはいえない山や森に囲まれたこんな町、それでもお洒落を忘れない、そんな彼女らの美意識の高さにボクは、頭が下がる思いでした。
「やぁやぁ、おはよう、今日も元気がないね」
そんなことを考えながら歩いていると、追いすがる様に駆けてきた少女に声をかけられました。
「おはよ、今日も元気だね」
そう返事し、その方向に目を向けると、ボクを見て親しげに笑う少女が一人、並ぶように歩いているのが視界に入ります。
身長は僕より少し上くらいでしょうか、少し癖のある髪を、大雑把に三つ編みにし、周りの目などどうでもいい、とでもいわんばかりに、見た目残念な学校指定の黒っぽいジャージを上下に着込んだその人物、ボクの数少ない友人である仄村灯(ほのむらともしび)でした。
「しかしあれだね、皆、この糞寒い中で、よくもまぁあんな格好でいられるものだ」
「唐突だね仄村、あんな格好ってどんな格好の事?」
二人並んで歩きながらの世間話、どうでもいい話だけれど、目的地に着くまでの暇つぶしにするには悪くない様に思えます。
「スカートの事さ、見てみなよ、あんな防寒能力の低そうな布ひとつで、外を歩くんだよ、寒いだろどう考えても」
朝っぱらから、見知らぬ女学生を指差しながら熱弁をふるう仄村、その様は、見知らぬ人なら、あまり係わり合いになりたくないタイプの人間に思える事でしょう。
「寒いだろうね、でも彼女らにとっては、その寒さに耐えてでもスカートを履く価値があるんだよ」
「ふぅん、わかったような事をいうね、君は男子なのに私よりも女心がわかるという訳だ、いやぁ、大したものだよ」
何かを含んだ様な物言いでそう言う仄村、怒っているわけではないのでしょうけれど、どうにも彼女は気難しい。
「まさか、女の子の気持ちなんてわかる訳ないだろう、ボクは一番の友達である君の事もよく分からないのにさ」
「おっと、君の口から一番の友達なんて言ってくれるとは、私はなんて幸せなんだ、あぁ、まったく今日はいい事がありそうだ」
今度は言葉とは裏腹に、表情を変えずにそんな事を口にする仄村、本当につかみどころのない人なのです。
「とはいえ、女心はさて置いて、私に分からなくても、彼女たちがあえてスカートをはく理由、君になら分かるんじゃないかな?」
質問の意味が分からず首をかしげると、それをからかう様に目を細めながら笑い、ボクと自分の姿を交互に指差して仄村はそうを口にするのでした。
「だってほら、君が履いているそれも、彼女たちと同じスカートと呼ばれるものだろう」
そう言われて、ボクは自分の姿を改めて見下ろします。
黒を基調にした、地味だけれど清潔感のある女子用制服、通称セーラー服と呼ばれるそれには確かにヒラヒラとした膝までの布がついていました。
「……うん、そうだよ」