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No.24734の一覧
[0] 【正式採用決定】(末期戦モノ)幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens[カルロ・ゼン](2013/08/04 06:42)
[1] プロローグ・ベータ版[カルロ・ゼン](2012/03/30 23:57)
[2] 第一話 学校生活[カルロ・ゼン](2012/04/22 18:35)
[3] 第二話 良い一日。[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:29)
[4] 第三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:30)
[5] 第四話[カルロ・ゼン](2012/05/31 00:08)
[6] 第五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:33)
[7] 第六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:35)
[8] 第七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:36)
[9] 第八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:38)
[10] 第九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:40)
[11] 第十話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:42)
[12] 第十一話[カルロ・ゼン](2012/04/22 18:36)
[13] 第一二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:55)
[14] 第一三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:56)
[15] 第一四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:59)
[16] 第一五話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:26)
[17] 第一六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:17)
[18] 第一七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:18)
[19] 第一八話[カルロ・ゼン](2012/04/22 18:37)
[20] 第一九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:21)
[21] 第二〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:23)
[22] 第二一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:24)
[23] 第二二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:27)
[24] 第二三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:30)
[25] 第二四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:33)
[26] 第二五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:48)
[27] 第二六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:50)
[28] 第二七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:52)
[29] 第二八話(外伝①)[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:54)
[30] 第二九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:56)
[31] 第三〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:58)
[32] 第三十一話(外伝②)[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:15)
[33] 第三十二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:17)
[34] 第三十三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:18)
[35] 第三十四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:20)
[36] 第三十五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:20)
[37] 第三十六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:12)
[38] 第三十七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:12)
[39] 第三十八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:11)
[40] 第三十九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:09)
[41] 第四〇話(外伝追加)[カルロ・ゼン](2011/11/13 23:03)
[42] 第四一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:07)
[43] 第四二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:06)
[44] 第四三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:06)
[45] 第四四話[カルロ・ゼン](2012/03/08 22:55)
[46] 第四五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:06)
[47] 第四六話(外伝3)[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:05)
[48] 第四七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:04)
[49] 第四八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:04)
[50] 第四九話[カルロ・ゼン](2011/11/25 02:02)
[51] 第五〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:03)
[52] 第五一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:01)
[53] 第五二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:00)
[54] 第五三話(時系列的には第五二話前の外伝)[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:46)
[55] 第五四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:44)
[56] 第五五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:43)
[57] 第五六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:42)
[58] 第五七話(外伝追加)[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:41)
[59] 第五八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:41)
[60] 第五九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:39)
[61] 第六〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:38)
[62] 第六一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:37)
[63] 第六二話[カルロ・ゼン](2012/01/15 05:00)
[64] 第六三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:35)
[65] 第六四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:34)
[66] 第六五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:13)
[67] 第六六話[カルロ・ゼン](2012/03/17 23:56)
[68] 第六七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:12)
[69] 第六八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:12)
[70] 第六九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:11)
[71] 第七〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:10)
[72] 第七一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:10)
[73] 第七二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:09)
[74] 第七三話[カルロ・ゼン](2012/03/16 22:14)
[75] 第七四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:09)
[76] 第七五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:08)
[77] 第七六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:07)
[78] 第七七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:07)
[79] 第七八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:06)
[80] 第七九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:05)
[81] 第八〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:04)
[82] 第八一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:03)
[83] 第八二話[カルロ・ゼン](2012/04/18 01:19)
[84] 第八三話[カルロ・ゼン](2012/04/18 01:20)
[85] 第八四話[カルロ・ゼン](2012/04/22 20:41)
[86] 第八五話[カルロ・ゼン](2012/05/11 02:16)
[87] 第八六話[カルロ・ゼン](2012/05/13 18:13)
[88] 第八七話[カルロ・ゼン](2012/05/18 00:55)
[89] 第八八話[カルロ・ゼン](2012/05/31 00:33)
[90] 第八九話[カルロ・ゼン](2012/05/31 00:03)
[91] 第九〇話[カルロ・ゼン](2012/07/02 04:25)
[92] 第九一話[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:38)
[93] 第九二話[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:32)
[94] 第九三話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:29)
[95] 第九四話[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:36)
[96] 第九五話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:28)
[97] 第九六話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:27)
[98] 第九七話[カルロ・ゼン](2012/09/02 12:59)
[99] 第九八話[カルロ・ゼン](2012/09/02 16:01)
[100] 第九九話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:26)
[101] 第一〇〇話[カルロ・ゼン](2012/09/22 01:53)
[102] 番外編的な何か。 という名の、泣き言的な何か。[カルロ・ゼン](2012/09/23 20:17)
[103] 番外編1 『ライヒの守護者』[カルロ・ゼン](2012/09/28 05:02)
[104] 番外編2 『ラインの食卓』[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:25)
[105] 番外編3 『203は何処にありや?』[カルロ・ゼン](2012/10/25 22:20)
[106] 番外編4 『ルナティック・ルナリアン』[カルロ・ゼン](2012/11/07 09:34)
[107] 番外編5 『毒麦のたとえ』[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:24)
[108] あとがき(+ちょっとした戯言)[カルロ・ゼン](2012/12/17 01:20)
[109] The Day Before Great War 1:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2012/12/24 11:11)
[110] The Day Before Great War 2:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2012/12/24 11:11)
[111] The Day Before Great War 3:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2013/01/29 01:14)
[112] The Day Before Great War 4:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2013/01/28 22:00)
[113] The Day Before Great War 5:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2013/08/04 08:53)
[114] The Day Before Great War 6: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:30)
[115] The Day Before Great War 7: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/06/06 21:33)
[116] The Day Before Great War 8: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/08/04 06:45)
[117] 『おしらせ』[カルロ・ゼン](2013/01/28 22:19)
[118] 番外編6 『とある戦場伝説』[カルロ・ゼン](2013/09/25 01:57)
[119] 番外編7 『ラインの…オムツ』[カルロ・ゼン](2013/09/25 02:13)
[120] 番外編8 『喰らうた肉』[カルロ・ゼン](2013/09/25 01:55)
[121] 番外編9 『総力戦問題1』:農務省、人手を求める[カルロ・ゼン](2014/03/10 21:47)
[122] The Day Before Great War 9: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/10/07 16:12)
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[24734] 第八一話
Name: カルロ・ゼン◆ae1c9415 ID:ed47b356 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/12 01:03
「我々は侵略者ではない。少なくとも、私はそのつもりだ。」

彼女はそう呟き、騎士道と正義を体現した。

過去は、厳然たる存在として両国に横たわるだろう。

だが、同時に我々は人間としての関係性を喪失してはならない。

過酷な戦時下であっても人間としての尊厳を保った人々の事を知っている。

私達は、覚えている。



匿名軍人の残した言葉と精神を称賛して
オラニエ、アムスルテルホテル食堂に捧げられた石板より。




D-DAY :合州国・連合王国・自由共和国軍大陸上陸を開始。
D-DAY+1:上陸に成功
D-DAY+19:エプホム作戦開始。カルーン方面へ大規模侵攻を開始。
D-DAY+33:エプソム作戦成功。カルーンを制圧。
D-DAY+43:ロメール元帥、連合王国第431カナルディア戦闘飛行団の対地掃射により戦死。
D-DAY+61:モルタル攻防戦に勝利。

大陸反攻作戦の成功と、それに続く共和国領土解放作戦。
一部の帝国軍部隊が散発的な抵抗を示している中で、首脳陣としては本格反攻を警戒していた。
だが、敵の反攻は予想されていた規模をはるかに下回り合州国軍は反攻を粉砕。

情報部の分析によると、ロメール元帥の戦死も確実らしい。
まあ、誰もが情報部の報告と分析には疑いを向けているので実際は半信半疑だが。

そして、共和国南部からの打通作戦であるアンヴィル作戦の開始。

首都解放に燃える自由共和国軍の進軍と、最後まで粘っていた敵戦闘団の撤退。

これにより、首都パリースィイの解放が実現。


これらにより、進軍は悉く順調に見える。
少なくとも、表面だけを見るならばであるが順調だ。
おかげで少なからず、楽観論が広がってしまった。
味方の意気も高らかを越えて過剰なまでに上がっている。

そんな浮かれ気分はパルトンにしてみれば、ともかく酷いものだ。
浮かれ気分で一部では既に戦争が完結したかのようなお祭り騒ぎである?

論外としか思えない。

なにしろ、パルトン中将には大いに気に入らない戦局であった。
進軍が順調という事は敵を叩けていないという事なのだ。
もちろん彼自身の好戦的趣向からの不満も無くはない。

無くはないのだが、実際のところ敵野戦軍が健在で後退しているという事に引っ掛かりを覚えるのだ。

職業軍人としての勘が、何かを囁いている。

なにしろ、組織的防衛戦を水際でアレほど堅実にまとめ上げた挙句此処まで順調に後退している帝国軍である。
連合王国が之までの意趣返しとばかりに、首狩り戦術でロメールという頭を刈り取ったとしてもあっけな過ぎる。

やはり、ここまであっけなく押し込めるものかという疑念はパルトン中将の中で燻っていた。
本当に戦闘力を喪失し、後退したならば終戦も間近なことだろう。
だが、もしも仮に奴らが防衛線を再編するために計画的後退を行っているのであれば?

長引きかねなかった。

その観点から、旧知の上官であるアイゼントルガー将軍らと検討しパルトンは戦慄する。
当初の想定をあまりに上回る快進撃によって、合州国軍ですら兵站線は過剰な負荷に直面していた。
連合王国・自由共和国軍部隊の状況はさらに深刻であり、進軍に支障がでる始末。

補給線確立のためには、港湾施設を奪取ないし建造する必要に迫られ始めた。
無論、兵站は常に合州国軍で重視されているのは言うまでもなく当初から港湾施設の制圧は予定に組み込まれている。
目標は、旧オラニエ公国を中心とした低地地方の港湾施設。

ところが、低地地方を中心とした旧ライン戦線の防衛線が一部再稼働していることが航空偵察により発覚。
正面突破は困難な一方で、時間を要すると防衛線が本格的に再稼働しかねない状況であることが判明する。

早急に解決することが、求められていた。

問題は、ここからだ。

「燃料を頂きたい。私の装甲部隊で、強行突破して御覧に入れる。」

パルトン中将の提案は、補給を機甲部隊に集中することによる突破案。
なにしろ、重装備の揚陸に手間取ると考えられていたために彼の部隊は後発組だ。
損耗軽微で上陸には成功し、遅れた分のうっ憤を晴らすべく一気に進撃しつつあった。

ただ、兵站上の問題から燃料にかなりの問題を抱えている。
そのため、パルトンとしてはこれ以上の進軍には慎重にならざるを得ないところだった。

逆に言えば。

彼としては、燃料さえ有ればこの戦争を今年の内に終わらせることも可能だという自負がある。

「いや、反対だ。低地地方の地形を考えるに空挺作戦が効果的だと判断する。」

だが、逆に連合王国指揮官のモントンメリー将軍は自分の指揮下にある部隊への優先的補給を要求。
その根拠となるのが、低地地方後方への浸透作戦だった。
彼は大規模空挺作戦により敵防衛線の無力化を強く主張。

論拠とされたのは、帝国軍がかつてライン戦で行った司令部強襲作戦である。

モントンメリー将軍は、この戦訓を元に防衛線突破にこだわる事による損耗を強く批判。
敵防衛線後方にある戦略的価値の高い施設を直接制圧することを強く要求した。
もちろん、パルトンにしても、御説を賜らずともその程度の事は理解できる。

問題は、作戦の前提にある帝国軍の組織的防衛戦能力が低下しているという希望的観測だ。
それはパルトンに言わせてみれば、モントンメリー元帥の希望的観測に過ぎない。
確かに、敵はあっけなく後退しているが逆に言わせてもらえば組織的に後退しているのだ。

つまり、組織的抵抗を試みようとしている地点に空挺降下なぞ自分から包囲されにいくようなもの。

しかしながら、逆に。

モントンメリー元帥にしてみれば正面突破など損害が多すぎる上に成算が乏しいのだった。
彼の見るところ、帝国軍部隊は酷く叩かれて後退しつつあるのだ。
ロメール元帥が退却中に戦死するほど組織的抵抗力は乏しいと判じ、彼は追撃を強く希望していた。

だが、敵が曲がりなりにも防衛線を構築しているのであれば後方から強襲する方を望むというのが戦術的には正しい。
それが、彼の見方である。


此処に至り、パルトン中将とモントンメリー元帥は直接意見を対峙させる事となる。
不幸だったのは、両者ともに闘将であり、なおかつ強引な性格であり妥協を忌み嫌うことだろう。
両者の調整役を引き受けざるを得ないアイゼントルガー将軍は、妻への手紙に愚痴を散々書き連ねる事となる。

アイゼントルガー将軍の立場は難しいものだった。
なにしろ、名目上は連合王国・合州国合同作戦群最高司令官とされる。だが合同作戦群自体、妥協の産物であるのだ。
そして、旧共和国領土に関する自由共和国との兼ね合いや、連邦との関係にも頭を悩ませねばならない。

結果的に、彼の判断は上の“政治”とやらに影響されざるをえなくなる。
そのため合州国軍の面子ではなく、連合王国軍の面子を尊重せざるを得ず将軍は妥協する。

モントンメリー元帥の提案した大規模後方空挺降下作戦の承認。
与えられた作戦名は『ガーデンマーケット』。

空挺軍5個師団を投じ、ライン防衛線を無力化。
帝国本土への進撃路を切り開くことを目的とした大規模作戦が発動される。






その日、デグレチャフ中佐はオラニエで久々の休暇を満喫していた。

時間が持てたのは、本当に久々である。
此処しばらくは本当に大変だった、と嘆息。
なにしろノルマルディー以来、休む暇がなかった。
戦闘団は火消しとして散々こき使われたのだ。

下手な反撃戦や救援戦まで戦わされる始末。
加えて、突っかかってくるアホやアホやアホの相手はうっとおしことこの上ない。
感情的になるのは、よろしくないと承知していても気に障るのだ。

おまけに口だけならば楽なのに、とにかくしぶとい。
散々手古摺らされた挙句に、仕留め損ね続けている。

致命的だったのは、まともな防衛戦を指揮できるであろうロメール閣下の件だ。
あの方が、二階級特進し元帥になってしまわれたことはつくづく惜しまれる。

おかげで指揮系統に深刻な混乱が生じ、あまつさえ参謀本部が戦局を理解しかねているのが混乱の元凶だった。
現在でこそ戦局はある程度安定しつつあり、帝国軍は当初の計画通りライン戦線の頃まで後退させている。
東部からの戦力抽出が難儀していることは問題であるものの、少なくとも時間は稼げることだろう。

このおかげで、ようやく戦闘団にも再編の余裕が与えられた。
だからこそ徴発したホテルの食堂で、フォークとスプーンを持ちながらターニャは肩の力を抜けるのだ。

そして、料理の評判で選んだだけの事はあった。
戦場の泥まみれの野戦糧食に比べて、オラニエの食堂は素晴らしい時間をターニャに提供する。

エンドウ豆のエルテンスープは絶品そのもの。
オラニエでは、『スープを食べる』というらしいが良く理解できるというものだった。
形も残らないほど煮込まれたスープは実に食べ応えがあり、ターニャを喜ばせる。
なにより、野菜が大量に煮込まれているのは歓迎すべきことだろう。

寒くなりつつある低地地方であるが、熱いエルテンスープは体を温めてくれる。
加えて、栄養価も豊富とあれば称賛するほかにない。

加えて、ジャガイモの食べ方としてパタットはアリだと感心してしまう。
マヨネーズの味はくどくて得意ではない方なのだが、パタットには大変良く合う。
マスタードを混ぜてあるのだろうか、舌を刺激するのがいささか苦手だが。

そして、チーズの品質も悪くない。
ゴーダにエダムといった各種チーズはクラッカーの御供として高く評価できた。
なにより、保存が利きやすいというのはメリットだろう。

帝国本土のチーズは、いささか趣向が異なる。
そのため、ターニャにしてみれば食べ易いとは思うがクヴァークは戦地で諦めざるを得ない。
まさか戦場で発酵していないフレッシュチーズを楽しむ訳にもいかないのだ。
だが、エダムの様なハードチーズならば最適である。

だが、何より絶賛したいのはニシンのハリグだった。
ターニャとしては、クラッカーのお供によし、メインによしと大感動もの。
特に、軍用の硬いクラッカーと付け合わせで食べられる事に気が付き大いに感心している。
ウェイターに確認したところ、在庫は頼めば安く譲ってくれるという事らしい。
実にすばらしいことに、ある程度の保存が利くので大量に買い込むことが可能であるという。

おまけで、クラッカーにはチーズを練り込んだものが手に入る。
悲しい事に、こちらの在庫は連合王国夜間爆撃によって倉庫ごと燃えてしまったらしい。
そればかりか、工場の方も散々爆撃されたために操業を停止しているとのこと。

まったく、とんだ良い迷惑だった。
ターニャとしては自国の食事が貧しいからといって人に当たり散らさなくともよりだろうに、と思わざるを得ない。

だが、代用珈琲とはいえチコリ珈琲は悪くなかった。
少なくとも、飲めないことはないというのがターニャの率直な評価である。
濃厚なチーズや塩気のあるニシンを楽しむならば、若干の薄さは許容範囲だ。

「いやはや、久々に良い物を食べました。」

良い物は、素直に称賛するべきだろう。
そう判断し、ターニャは率直な意見を親切なウェイターに告げる。
まあ、徴用された彼らにしてみれば複雑だろうとは察するが。

「そう言っていただけると、光栄です。」

「いや、本心だ。些少ながら御代を収めたい。軍票ではなく、パウンドで払おう。」

故に、ターニャとしては正規の商取引を行う事を望む。
なにしろ、少しでも経済を知っている人間に言わせれば軍票など紙切れだ。
信用のかけらもない紙幣で支払うという事は、コミーの収奪と変わらない。
その点、信用という事を知る合理的経済人であるターニャはルールを順守してやまない。

だが、謙虚な申し出を行ったつもりにもかかわらずウェイターの表情にあるのは驚きの色。

「それは、ありがたいのですが。…よろしいのですか?」

そして、躊躇するような表情である。
つまるところ、申し出が信頼されていないという事に他ならない。

合理的アクターであるターニャにしてみれば、自らの提案が信頼されていないというのは衝撃だった。
曲がりなりにも、文明人として振舞っている身である。
こんな風に、信頼が欠如しているという事を形にされることは歎くほかない。

「我々は侵略者ではない。少なくとも、私はそのつもりだ。」

「中佐殿?」

「ああ、失礼。つまり、私は一個の客でありサービスに対して正当な対価を払うという事です。」

正当なサービスには、正当な報酬を。
近代を形成する基本的なルールを踏みにじることを、ターニャは良しとしない。
なにしろ、その身は法を愛してやまないのだ。

「市場相場ではお高いでしょう。正規の価格でお支払いします。」

当然、市場原理に対する敬意もそこには介在してやまない。
国家による市場の統制など、ターニャにしてみれば悪魔の所業に他ならない。

おおよそ、まともに経済を学ぶか実感した人間ならばコミー流など模倣すら行わないものだ。
市場の失敗よりも、国家介入の失敗の方が如何に多いか考えてみればよいと信じて疑わない。
そんなターニャにとっては、帝国軍の採用している軍票と標準価格政策は狂気の沙汰だった。

だからこそ、自然体でここまで申し出るのである。
そして、その姿勢は少なくない帝国軍人を見てきたウェイターを困惑させていた。

だが、散々悩んだ挙句、彼は率直なところを口にした。

「・・・失礼ながら、中佐殿は随分と変わっておられますな。」

「と、いいますと?」

「軍票を押し付けない帝国軍人に、初めてお目に掛りました。」

なにしろ、占領されている地だ。
不平不満など、表立って表明できない。
今まで、散々苦労させられている。

だからこそ、ホテルを軍が借り上げると言われた時は従業員一同で絶望しかけたものだった。
しかしながら、驚くべきことにやってきた一団の指揮官は幼い子供。
それだけでも驚愕するべき事なのに、なんとも初めてみるタイプの軍人だった。

ベテランの域に入るウェイターでも無ければ、驚きのあまり表情が崩れていただろう。

「ああ、お恥ずかしい限りです。物事の道理をわきまえていない輩が多すぎる。」

そして、ターニャにしてみれば赤面ものだった。
自分の属する組織がバーバリアンと同列に見なされていることは、恥じるしかないのだ。

故に、即座に謝罪し正当な対価を払う旨、将校の権限で申し出る。
そして、素晴らしい料理を改めて素直に称賛。

悪くない人間的な行動だった。
合理的近代人として、市場人としての尊厳を回復できたという誇り。
法の前に平等であるという精神を体現できた喜び。

つまるところ、デグレチャフという一個の人格の尊厳の保持。

この点からすれば、ターニャは実に良識ある軍人だった。
いや、一般的に言っても実に良識人だった。
そして、個人としては夕食にも大いに期待していた。


だが、不幸にもターニャにその機会は与えられない。


夕食前の緊急招集。


有無を言わさぬ、仕事の時間だった。




「ハンター1よりハンター中隊。目標を視認。」

「第224特殊作戦群、所定の配置を完了。」

「第七空挺師団、所定のエリアに侵入を開始します。」

モントンメリー元帥の詰めるガーデンマーケット作戦司令部。
史上最大の空挺作戦は、極めて潤滑にスケジュール通りに進展していた。

空挺降下による敵支配地域後方への大規模浸透作戦。
並行しての、機甲師団が地上を進撃し空挺部隊支配地域を確保。

パルトン中将の強い主張により、これらに加えて戦線全域での陽動攻撃が敢行される予定だった。
すでに、一部の防衛線とおぼしき地域では散発的ながらも衝突が繰り返されている。

賭けであることはモントンメリー元帥自身が十二分に承知している。
だが、戦争の早期終結と連合王国の戦後に向けた発言権確保のためにも引けなかった。
なにより、作戦は全般状況が順調に進展していることを物語っている。

『HQより作戦全部隊へ。作戦に変更はない。降下を開始せよ、繰り返す。降下を開始せよ。』

そして、降下命令が下される。

「GO!GO!GO!」

各輸送機より降下を開始するは精鋭らから選抜された5個空挺師団。
連合王国が持ちうる最大の空挺戦力にして出し惜しみを一切排した徹底的な戦力投入。

その日、低地地方に展開する空挺部隊の中にメアリーらの姿もある。
先遣隊として投入される彼女らの任務は、予期される帝国による迎撃の排除。
主任務には、敵魔導師の排除をも含む最前列だ。

空挺降下に際し、最も先陣切って降下し敵の排除を行う過酷な任務。
だが、メアリー中尉にとってその程度の事は恐怖にはならない。

むしろ、その重責が任されているという事の誇り。
義務を果たさねばならないという責任感。
そして、御心にそぐうという信仰心。

疾風迅雷のごとき勢いで降下する彼女の部隊は、ドレーク中佐の好意で新編された中隊だ。
何れも、人格・技量共に卓越し敬虔な信仰心を持つ頼もしい戦友達。
疲れた体に鞭打ち、ドレーク中佐がかき集めてくれた彼女の為の中隊規模の魔導師達。

「行きます。…主の御加護があらんことを!」

自身にかけられる期待。
それを思えば、怯むことなどありえなかった。

否。

喜びと共に。

神の栄光と共に。

人々を圧制から解放するために。

メアリーは、オラニエの地に降り立つ。

魔導師とはいえ、減速用のパラシュートなしの降下。
だが、速度と奇襲を優先したメアリーは素早く降着。

「三時方向に敵火点!」

「制圧します!手隙の魔導師、私に続きなさいっ!」

散発的な対空砲火を制圧しつつ、降下地点を確保する。
空挺部隊の最も脆弱な降下直後を狙ってくる敵部隊の排除。
そして、部隊集結後は橋の確保が求められている。

だが、敵の抵抗は散発的。
そして、友軍の降下は極めて順調に進展。

メアリーの中隊が確保している地域にも、すでに大隊規模の部隊が降下を完了している。

後は、降下直後の混乱を克服して前進するだけの簡単な作戦のはずだった。

降下地域に展開していた帝国軍シャーレンドラー戦闘団はこの圧力に抗し得ずに後退。
メアリーを含めた作戦参加者は多くのレジスタンスに熱狂的に歓迎される合流に成功。
順調な滑り出し以外の何物も予兆としては見出されない状況。

「クリスマスまでには終戦だ!」

誰もが浮かべる希望の表情。
それを、メアリーは尊いものだと思う。

なればこそ、終戦を阻害しようとする帝国軍は討ち果たされねばならなかった。

しかしながら、作戦は順調そのもの。
すでに、制圧目標の橋は5個中3個を制圧。
加えて、地上軍の進軍も予定通りの進行速度を維持している。


後わずか。
ほんのわずか。

そう、後わずかな筈だ。

「押し返せっ!」

区画にたてこもる帝国兵の強固な反撃。
重火器を据え付け、火線を張り巡らされた防衛拠点での抵抗は予期されてはいる。

「奴らに白兵戦のなんたるかを教育してやれ!」

「ひるむなぁっ!突破しろ!」

既に、区画の半数は制圧済み。
掃討は時間の問題に過ぎないのだ。

「援護します!斉射三連後、突入!」

メアリーの率いる中隊は、直掩として最前線での支援に従事。
たびたび、敵部隊の逆撃を押し返し戦線を進めることに貢献している。
全体からみれば、やや突出した形になるだろう。

だが、そもそも先遣部隊はそれが仕事だ。

前に、ひたすら前に。

進む必要があった。

後わずかで、戦争が終わらせられるのだ。
長きにわたり、人々を苦しめてきた戦争の集結。
そのためにならば、わが身を呈することになんの躊躇いがあろうか。

「制圧完了!」

「次の区画へ!早く!」

最後の一押し。
そのために、メアリーは前線を駆ける。
迎撃砲火を掻い潜り、火点を制圧。

掃討は順調といえた。

地理に精通したレジスタンスの支援を受けた各隊は優勢を維持しつつ帝国軍を排除。
幸いにも、未だ制圧に至っていない橋も敵の破壊工作を免れていることは確認できた。
一番危惧していた、敵防衛隊による爆破で制圧が失敗するという危険性は回避できている。

さらに、協商連合義勇兵らからなる一個空挺旅団の増援が降下を開始。
橋頭保は確実に防衛力を向上させ、来援中の友軍機甲師団も最寄りまで接近している。
メアリーの中隊とて、損耗皆無とはいかないものの依然として戦力発揮に問題は無し。

やっと一息ついて、解放を味わっている人々と共に自由を賛歌しえる。
区画制圧を完了し、達成感に浸りつつあったメアリーとその中隊。
だが、次の瞬間にメアリーは突然飛び込んできたオープンチャンネルからの声に耳を奪われる。

『…Requiem æternam dona eis Domine』

全方位にわたり、最大出力で発せられるソレ。
背徳的であり、許されざる異端による嘲笑い。
清らかな、敬虔な願いを踏みにじる忌むべき所業。

咎人が、我らの罪を笑うという許されざる大逆。
主を恐れぬものによる、御心への反逆。
咎人が、異端が、信徒を嘲ることへの憤激。

「Gloria in excelsis Deo. Et in terra pax hominibus bonae voluntatis!」

主の栄光を。
人々に平穏を。

そのために、メアリーはあの日武器を取った。
明白な天命に、遅まきながら目覚めたのだ。
主の御心を、彼女は体現している。

自分の世界を、善き人々を、恐るべきやつばらから守るために。

『Hostias et preces Tibi, Domine, laudis offerimus.』

「Hosanna in excelsis!」

言葉を弄ぶ悪魔。
いと清らかであるべき聖句を、祭壇への賛美の贄を。
穢し貶めんとする恐るべき異端。
災厄の根源。

『「Sanctus, sanctus, sanctus, dominus deus sabaoth.」』

言葉は、同じ祈りの聖句。
なれども、込められた思いの違いにメアリーは恐怖する。
神を嘲笑い、その影響を嘲笑する異端。

それは、許されざる存在だ。

『dona eis requiem sempiternam.』

「dona nobis pacem!」

死者を汚し、冒涜するような暴言は許し難かった。
平和をもとめるべき敬虔な祈りが悪用されることへの怒り。

「っ。そこっ!!!」

発信源は、自らの所在を隠すことなくこちらを誘っている。

悪魔のおぞましさよ!

罠だとは、わかっている。

あのおぞましく卑劣な異端が相手だ。

それでも、行かざるを得ない。

メアリー・スー。

その身は、神の地上における代行者なのだから。



あとがき
教皇特使のアルノー・アモーリ氏がアップを始めたそうですω´・)チラッ。

ロメール将軍?
悲しいけど、彼は『優秀』すぎたんだ。
『不幸な流れ弾』が直撃とは、何という不運なことだろう。
(´・ω・`)


チーズとピッツァの国もあるけど、
チーズとニシンの国があっても良いじゃない。

あと、大手外食店はポテトにマヨネーズつけてくれても良いじゃない。


ひとまず、次回予告

迫りくる邪悪なデグレチャフ。
(-(-д(-д(`д´)д-)д-)-)『突撃ぃ~~!』

混乱する司令部。
(*´・ω・)(・ω・`*)ドウシヨウ?

懸命に抵抗する勇者たち
ヽ(^ ^;)

東より来たる熊
( ・(ェ)・)Zapシマスカ?

次回、『オラニエは燃えているか?』

※珍しくまともな次回予告です。
ZAP


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