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No.24734の一覧
[0] 【正式採用決定】(末期戦モノ)幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens[カルロ・ゼン](2013/08/04 06:42)
[1] プロローグ・ベータ版[カルロ・ゼン](2012/03/30 23:57)
[2] 第一話 学校生活[カルロ・ゼン](2012/04/22 18:35)
[3] 第二話 良い一日。[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:29)
[4] 第三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:30)
[5] 第四話[カルロ・ゼン](2012/05/31 00:08)
[6] 第五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:33)
[7] 第六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:35)
[8] 第七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:36)
[9] 第八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:38)
[10] 第九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:40)
[11] 第十話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:42)
[12] 第十一話[カルロ・ゼン](2012/04/22 18:36)
[13] 第一二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:55)
[14] 第一三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:56)
[15] 第一四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 00:59)
[16] 第一五話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:26)
[17] 第一六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:17)
[18] 第一七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:18)
[19] 第一八話[カルロ・ゼン](2012/04/22 18:37)
[20] 第一九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:21)
[21] 第二〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:23)
[22] 第二一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:24)
[23] 第二二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:27)
[24] 第二三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:30)
[25] 第二四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:33)
[26] 第二五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:48)
[27] 第二六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:50)
[28] 第二七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:52)
[29] 第二八話(外伝①)[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:54)
[30] 第二九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:56)
[31] 第三〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:58)
[32] 第三十一話(外伝②)[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:15)
[33] 第三十二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:17)
[34] 第三十三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:18)
[35] 第三十四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:20)
[36] 第三十五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:20)
[37] 第三十六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:12)
[38] 第三十七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:12)
[39] 第三十八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:11)
[40] 第三十九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:09)
[41] 第四〇話(外伝追加)[カルロ・ゼン](2011/11/13 23:03)
[42] 第四一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:07)
[43] 第四二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:06)
[44] 第四三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:06)
[45] 第四四話[カルロ・ゼン](2012/03/08 22:55)
[46] 第四五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:06)
[47] 第四六話(外伝3)[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:05)
[48] 第四七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:04)
[49] 第四八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:04)
[50] 第四九話[カルロ・ゼン](2011/11/25 02:02)
[51] 第五〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:03)
[52] 第五一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:01)
[53] 第五二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 02:00)
[54] 第五三話(時系列的には第五二話前の外伝)[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:46)
[55] 第五四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:44)
[56] 第五五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:43)
[57] 第五六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:42)
[58] 第五七話(外伝追加)[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:41)
[59] 第五八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:41)
[60] 第五九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:39)
[61] 第六〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:38)
[62] 第六一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:37)
[63] 第六二話[カルロ・ゼン](2012/01/15 05:00)
[64] 第六三話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:35)
[65] 第六四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:34)
[66] 第六五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:13)
[67] 第六六話[カルロ・ゼン](2012/03/17 23:56)
[68] 第六七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:12)
[69] 第六八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:12)
[70] 第六九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:11)
[71] 第七〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:10)
[72] 第七一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:10)
[73] 第七二話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:09)
[74] 第七三話[カルロ・ゼン](2012/03/16 22:14)
[75] 第七四話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:09)
[76] 第七五話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:08)
[77] 第七六話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:07)
[78] 第七七話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:07)
[79] 第七八話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:06)
[80] 第七九話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:05)
[81] 第八〇話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:04)
[82] 第八一話[カルロ・ゼン](2012/04/12 01:03)
[83] 第八二話[カルロ・ゼン](2012/04/18 01:19)
[84] 第八三話[カルロ・ゼン](2012/04/18 01:20)
[85] 第八四話[カルロ・ゼン](2012/04/22 20:41)
[86] 第八五話[カルロ・ゼン](2012/05/11 02:16)
[87] 第八六話[カルロ・ゼン](2012/05/13 18:13)
[88] 第八七話[カルロ・ゼン](2012/05/18 00:55)
[89] 第八八話[カルロ・ゼン](2012/05/31 00:33)
[90] 第八九話[カルロ・ゼン](2012/05/31 00:03)
[91] 第九〇話[カルロ・ゼン](2012/07/02 04:25)
[92] 第九一話[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:38)
[93] 第九二話[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:32)
[94] 第九三話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:29)
[95] 第九四話[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:36)
[96] 第九五話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:28)
[97] 第九六話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:27)
[98] 第九七話[カルロ・ゼン](2012/09/02 12:59)
[99] 第九八話[カルロ・ゼン](2012/09/02 16:01)
[100] 第九九話[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:26)
[101] 第一〇〇話[カルロ・ゼン](2012/09/22 01:53)
[102] 番外編的な何か。 という名の、泣き言的な何か。[カルロ・ゼン](2012/09/23 20:17)
[103] 番外編1 『ライヒの守護者』[カルロ・ゼン](2012/09/28 05:02)
[104] 番外編2 『ラインの食卓』[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:25)
[105] 番外編3 『203は何処にありや?』[カルロ・ゼン](2012/10/25 22:20)
[106] 番外編4 『ルナティック・ルナリアン』[カルロ・ゼン](2012/11/07 09:34)
[107] 番外編5 『毒麦のたとえ』[カルロ・ゼン](2017/01/29 16:24)
[108] あとがき(+ちょっとした戯言)[カルロ・ゼン](2012/12/17 01:20)
[109] The Day Before Great War 1:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2012/12/24 11:11)
[110] The Day Before Great War 2:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2012/12/24 11:11)
[111] The Day Before Great War 3:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2013/01/29 01:14)
[112] The Day Before Great War 4:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2013/01/28 22:00)
[113] The Day Before Great War 5:ノルデン北方哨戒任務[カルロ・ゼン](2013/08/04 08:53)
[114] The Day Before Great War 6: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/06/06 20:30)
[115] The Day Before Great War 7: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/06/06 21:33)
[116] The Day Before Great War 8: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/08/04 06:45)
[117] 『おしらせ』[カルロ・ゼン](2013/01/28 22:19)
[118] 番外編6 『とある戦場伝説』[カルロ・ゼン](2013/09/25 01:57)
[119] 番外編7 『ラインの…オムツ』[カルロ・ゼン](2013/09/25 02:13)
[120] 番外編8 『喰らうた肉』[カルロ・ゼン](2013/09/25 01:55)
[121] 番外編9 『総力戦問題1』:農務省、人手を求める[カルロ・ゼン](2014/03/10 21:47)
[122] The Day Before Great War 9: 秋津島戦役[カルロ・ゼン](2013/10/07 16:12)
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[24734] 番外編5 『毒麦のたとえ』
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/01/29 16:24
諸君の希望を言いなさい。

私の部隊をゲリラ兵で編成してください。


[特殊作戦司令部にて連絡将校とZAS担当官。]




壮年の恰幅のいい白人男性。
いっぽうで、誰の印象にも残らないような服装と物腰。
そのカンパニーの担当官に思わず地を出させたのだ。

クスリと笑えばかわいらしいのだろうが、ターシャが浮かべたのは獰猛な笑み。
本来、笑顔は親しみを相手に示すものだろう。
だがその笑みは、笑うという行為が本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点であることを思い出させる。

「冗談だろう?」

「いえ、本気ですよ。」

呆れたようなカンパニーの連絡官。
希望を言えといった口で、まったく失礼な連中である。

笑顔を詰まらないという表情に切り替えターシャは手にした書類を一瞥。

「無能共ですよ。」

ひどいものだ、と内心の呆れを顔に表しつつ読み飛ばす。
予期していたとはいえ、現地治安機関の無能ぶりは手におえない。

軽く国家機動警察なり、国家憲兵なりを視察した限りでは単なる白蟻の集まりだった。
人的資源としてみる価値もないばかりか、資本を蝕み崩してく連中。

買収され、水漏れも激しい。
カンパニーの資料が記録する限り、腐敗していない官吏は墓の下だ。

法執行機関に至っては、逮捕状を出した判事が車ごと爆殺される案件が連続して発生。
硬骨漢で、辛うじて生き残っているある空軍の将軍が一年間に何度襲撃されるかなど笑い話のような世界だ。
陸軍の武器横流しに至っては、対外援助政策でステイツが用意した武器がそのままゲリラに流れる始末。

これで、忌々しいコミーとゲリラ共を掃討しろと?

「使い物になりません、そこら辺を歩いている子供を訓練した方がまだ使えるかと。」

端正な顔に感情を交えることなく淡々と告げるターシャにしてみれば、腐敗にほとほと嫌気がさしている。

手を抜くこと、権力に媚びること。
それでいてながら、弱者に当たり散らす。

まあ、典型的であるがそういった治安機関要員の再訓練など時間の無駄だ。
たちが悪いことに、都市ゲリラ戦において無能で腐敗した治安機関要員ほどゲリラにとって幸いする奴らもいない。
都市ゲリラマニュアルに記載されているように、無能な連中は結果的にゲリラの味方なのだ。

奴らは、潜在的には安定を望んでいるはずの市民すらもゲリラ側に弾圧と汚職で追いやってしまう。
なによりも、投じた費用に見合う成果を上げることなどなく単なる予算の浪費機関だ。
いや、単なる浪費ならばともかくそれがゲリラ側への補給源にされているとなれば我慢の限界。

「いっそ、大統領府を中心にカウンター・クーデターでも起こしませんか?そちらの方が、よほど効率的です。」

費用対効果を考えるならば、奴らこそを根こそぎ刈り取ってしまった方が幾分か楽に違いない。
対ゲリラなり、対カルテルなりを希望するならば、それから本国から兵隊を連れてくるほうがよっぽど簡単だ。

そのためには、腐敗し信用できない治安機関を解体する必要がある。
むろん、一撃で迅速かつ速やかに、だ。
幸い、コロビニアの大統領府は対ゲリラ・カルテル戦争に及び腰とはいえ乗り気。

「下手に信用できない味方に苦労させられるくらいならば、一掃すべきです。」

居ても居なくても治安維持効果に大差のない無能共。
それを排除し、一時的にステイツからPKOという名目で軍を出せばいい。
泥沼の非正規戦に陥る前に圧倒的な大兵力で一時的に制圧し、かつ現地の統治機関を温存して権限を委譲。

首都と複数の主要都市だけを制圧さえすれば、治安機関の浄化は時間の問題だ。
民主的に選出されている大統領の要請によって介入するのであれば、泥沼化は比較的容易に回避できる。

「正規軍による介入が困難であれば、都市ゲリラを偽装し治安機関の膿を排除することも可能ですが。」

せめて、それができないのであれば。

市街地で、貧民地区で、周囲を巻き添えにする形で都市ゲリラ戦を敢行してもよかった。
民衆の正義を唄う連中が、腐敗した官吏を撃つという名目でマトモな治安機関要員を狙っているのだ。
だから、こちらは相手の言い分通りに『連中とつながった腐敗官吏』を白昼堂々爆殺してやればよい。

そうなれば、平穏と平和を望む連中は挙って治安機関の強化を叫ぶことだろう。
そこに、ステイツが介入する余地はいくらでもある。

あくまでも、淡々とではあるがターシャは腐敗官吏とゲリラ許すまじという市場原理に基づき熱意を燃やす。
正当な経済活動を阻害するばかりか、国家という経済要素をかじり倒す白蟻である。
さっさと、駆逐しておくべきだという意見に経済関係者ならば即座に同意しただろう。

実際、進出している企業のビジネスマンにしてみれば議論の余地がない。
…現地駐在員の保険料だけで、一人当たり3万ドルもかかる国家というのはビジネスには最悪なのだ。

「…対外援助政策に基づく軍事援助だ。我々に介入の権限も直接の指揮権もない!」

だが、カンパニーとして唯々諾々と賛成しかねる内容。
はっきりといって、過激すぎる方策もいいところだ。
彼らの上が望んでいるのは、現状の枠組みの中での改善。

つまりは、目の前の化け物が提案している本格的な武力介入や積極介入は許容外。

まあ、担当官にしてみればこんな『化け物』を送ってよこした本国の自己矛盾を笑いたいのだが。

「2×2は4です。いいかえれば、0×αはどこまで行っても0なのですが。」

こんな使い物にならない兵隊を、兵隊に仕上げろと?
暗に、そんな無駄はしたくないなと全身で物語るティクレティウスの姿。

担当官としては、頭を抱えたくなるというものだ。

上が何を血迷ったのかは知らないが、『危険物』を投入して平穏無事に解決させようなどと。

しかも、参ったことにカンパニーは『コレ』を使わざるを得ないのだ。
そうでもしなければ、ステイツの裏庭が食い荒らされてしまう。
つまるところ、劇薬を飲み干さねば治療できないのだ。

如何しろというのだ?

だが、彼の苦悩は傍で渋い顔をしている初老の男性によって救われる。

「ティクレティウスCEO,そこらへんで若いのを苛めるのは勘弁願えませんかな?」

見かねて、割って入る。
そんな姿勢を保ちながらも、ジョン・ドゥ局長は話を引き取った。
彼にしても、知っているだけにキリキリと痛む胃と戦いだが。

「これはこれは、ドゥ局長。」

「貴女ならば、それこそ1ヶ月もあれば新編の連隊くらいは実戦投入できましょうに。」

戦闘団の編成・実戦投入の実績はステイツではありえないほど短期間に為されている。
通常の手続きを悉くすっ飛ばしてではあるが、短期錬成には定評があるのだ。

「やれと、おっしゃるか。むろん、手段を選ばねばできなくはありませんが。」

「…どれくらいですか?」

無論、本当に如何なる手段をも選ばねばという但し書きが付く。
そして、ジョン・ドゥ局長は過去の経験からそれが『文字通り』であることをよく知っていた。

「半数は、殺しても?最悪、略式の軍法裁判で抗命・不服従・反逆・収賄で銃殺する権限がいただきたいのですが。」

だが、世の中には知っていても胃が裏返りそうになることが幾らでもあるのだ。

…本気で言っているのだろうな、とわかってしまう自分がいやだった。

「…本国と協議しても?」

「もちろんです。前向きな回答を期待させてください。」















コロビニア公安警察とステイツ諜報機関の交渉は頗る簡潔に終わる。
ステイツにとって幸いにも、相手は珍しく話が通じるまともなリアリスト。

車爆弾に襲われること3度。
そのたびに内通者をあぶりだし続けていたミゲール長官である。
彼にしてみれば、もはや自分の部下が信用ならないのは自明。

早い話が、忌々しいゲリラとカルテルを一掃したという両者の願望が一致。
故に、公安警察ミゲール長官は早々と無能で腐敗した治安関係者の粛正に同意。

問題は、ステイツの介入に対して主権国家として如何に対応するかという問題。
結局のところ、公的機関が汚職で蝕まれているときに政治がクリーンであるわけがないのだ。
当然、政府各機関どころか議会関係者の多くも汚い金と大なり小なり関わっている。

そして、難しいかじ取りを迫られる大統領にしてみれば二律背反のジレンマだ。

彼は、心の底から祖国に平和を取り戻したかった。

同時に、心の底から祖国を蝕むゲリラや犯罪者を駆逐したくてたまらなかった。

つまり、安定をとり犯罪を見逃すか。
犯罪と闘うことで、祖国で苛烈な闘争を引き起こすか。

彼には、実質的に不本意な選択肢が二つしかなかった。

そう、『二つしかなかった』だ。

今や、彼には選択肢などない。
カルテルどもはやりすぎた。

おかげで、ステイツの武力介入か、自力対処かを迫られていたのだ。
そして、しびれを切らしたステイツが一つの解決策を提案してきた。

はたして、誰にそれを拒絶することが可能だろうか?

「…さて、本題に入ろう。ミス・ティクレティウス。」

「なんでしょうか、大統領閣下。」

すまし顔でいけしゃあしゃあと聞き返してくるスーツ姿の小娘。
全く、馬鹿にされたものだと吐き捨てたかった。
祖国を蝕む病理をその程度と称した超大国。

それを簡単に解決して御覧に入れると保証してよこした人材が、この程度の小娘?
大統領は内心で煮え繰り返る思いをこらえながら嫌味を吐きすぎないようにこらえながら口を開く。

「内政干渉を敢えて許すのは、解決できるとステイツが保証しているからに過ぎないことを理解しているかね?」

貴様ごときに、解決できるものかという疑念。
それをあくまでも、外交儀礼上問題にならない程度にオブラートに包んだ表現。
だが内包されている疑念は、どんなに鈍感な連中でも理解できるだろう。

そして、それはターシャにとっても容易に察しえる。

「ご安心ください。死は全てを解決します。人間がいなければ、問題は起こらない。」

だから、淡々と安心させるようにつぶやく。
ゲリラがいるから、カルテルがいるから、問題が起こるならば。
さっさと駆逐してしまえばいいだけの話。

後は、まっとうな経済活動で経済を成長させるだけの簡単な話だろう、と。
早い話が、敵には恐怖を、味方には安寧を。

たった、それだけの簡単な解決方法だ。

「……私は、祖国に平和を回復したいのだ。間違っても、内戦などやらかされては困るっ!」

「大統領閣下、お言葉ですがこれはすでにある種の戦争です。」

そして、ターシャにしてみればコロビニアの情勢が安定するならば多少の犠牲はどうでもよかった。
なにしろ、ターシャの視点に立てば破綻国家の後始末。
ステイツに散々薬物を流し込む問題の根源を排除するための機会なのだ。

彼女には、大国に翻弄される国家の大統領が心底願っている平和に興味がない。
その平和に要するコストが、経済活動に与える影響にしか関心を払う価値を認めえない。
馬鹿馬鹿しい話だが、この国ではビジネスマンが碌に安全に仕事もできないのだ。

そんな国家が望む微睡の平穏など、ビジネスマンにとって、価値があるだろうか?

「そして、ご安心を。私は、戦争の終らせ方を知っている軍人です。」

それくらいならば、秩序を回復。
そのうえで、経済建設でも行った方がよっぽどまし。

それが、市場原理主義者の導き出す単純明快なシカゴ学派的解決策。

無論、市場を認めるのならばそれこそ依存性のない薬物の合法化程度は検討してもよかった。

だが、悲しいかな。

薬物を資金源にしているのは、コミーとカルテルなのだ。
市場を蝕む輩相手に、シカゴ学派の前提とする市場は創設しえない。
であるならば、純理に基づき排除するしかないのだろう。

だから、ターシャは淡々と排除が最善と結論付ける。

「随分な口を利くものだな。青二才ッ!」

「ははははははははは、大統領閣下。その辺で、どうか、落ち着いてください。」

「スタンリー大使!やはりっ、信用ならん!!」

だが、その割り切りをしないのが人間なのだ。
薄っぺらい平和だろうとも、それが与えられる限りおいて自国の国民を思うのが大統領。
そして、貧困層上りの大統領はほかに食べるすべのない市民がカルテルに属してしまう現実を知っているのだ。

彼が、ステイツに望むのは雇用の創出。
間違っても、鉛玉をまき散らす連中ではない。

「では、いかがでしょうか。その、一都市のゲリラ掃討をお任せいただきその手腕を見てから決するというのは?」

だが、破局寸前の会談は辛うじてではあるが米側大使の機転でつながれた。
にこやかに割って入るスタンリー大使によって提示される折衷案。

はっきりといえば、拒否権をコロビニア側に差し出す提案。
これによって辛うじて大統領の破裂は抑えられる。

上手くいけば、採用すればいい。
上手くいかなければ、そのまま拒絶すればいいのだ。

一見すればコロビニア側にとっても、ステイツとっても妥協可能な範囲。
交渉を何とか取り持つべくスタンリー大使は双方のメンツを立てつつ現実的な解決策を提示していた。

これを飲んだコロビニア側とにこやかに談笑するスタンリー大使。

しかし、会談を終え大使館に戻る車中でターシャは獰猛な笑顔と共に大使に問いかけていた。

「・・・宜しいのですか、大使閣下?」

この国の腐った現状とステイツに対する明白な現存する脅威を騒ぎ立てているのはこの大使。
ターシャが派遣されたのも、そもそもは軍に大きな影響力を持つスタンリー大使の要請があればこそ。

そのスタンリー大使が一見すると穏やかな妥協策を提示することの意味が分からないターシャではない。

「ステイツの力を見せつけてやれ。はっきり言おう、これ以上カルテルをのさばらせるな。」

ニヤリと笑う大使。
人の好さげな微笑みが消え去った表情に浮かぶ笑み。
それは、まさしくステイツの優位を信じて疑わない超保守派の本音を表していた。

彼らにしてみれば、やむを得ず妥協しているにすぎないのだ。

潰せるならば、ステイツに害を為す輩を叩き潰したくてたまらないに違いない。
だからこそ、対ゲリラ戦争に躊躇しているコロビニア政府に最後通牒じみた要求を暗に押し付けているのだ。
まあ、その行動は厄介な薬物対策とメキシカニア方面の安定のために適切とZASは判じているが。

「…やむにやまれぬ人にとって戦は正義であり、武力のほか一切の望みが絶たれたとき、武力もまた神聖である。」

「『リウィウス』か、まあ、その通りなのだろうな。結局のところ、問題は経済格差と貧困だ。」

そして、その一方で問題の根源は経済格差と貧困に起因することも彼らはよく理解している。
結局のところ、ゲリラやカルテルが湧くのはそれ以外に食べる手段がないからだ。

対ゲリラ戦争・非正規戦をある程度経験している人間にとって、この事実は自明。
まして、大使クラスの人間ともなれば現地情勢はよく理解している。
ターシャが指摘するまでもなく、この国の問題は根本的には生活改善以外にないのは当たり前だった。

「ご存知ならば、話は早い。根本から対応する必要があるのでは?」

一応、問題解決のために派遣された身。
職務上の義務として、一応念を押しておくべきかという程度の疑念提起。
ターシャにしても、別段生活改善のための慈善事業を営む気は一切ない。

ビジネスになる規模まで拡大すれば、社会慈善の名目で介入することもあり得るだろうが。

「…ステイツの問題が解決するならば、知ったことかね?」

「確かに。予算の無駄遣いはよくありません。」

そして、返された答えに納得する。
要は金を使わず、できるだけクライアントの損害を抑制しろという話だ。
早い話が、ステイツに流入する薬物の撲滅とコロビニアでのビジネス環境の整備。
まあ、後者は首都の治安回復程度でいいだろう。

つまり、大使殿のお言葉をまとめるならば。

「では、大統領府が許可を下さるように“立派”な成果をせいぜい頑張って出すことといたしましょう。」

「期待している。」











…戦闘空域に突入。

高度1000
巡航速度より、最大戦速へ増速。

梯団ごとに突撃隊列形成。

地形追随飛行を解除、制空用に最大加速で上昇。
高度をとりつつ無線封鎖を解除。
索敵術式、全力展開。

術式を発現しつつ、ツーマンセルを再構築。

航程クリア。
針路想定通り。
市街戦を想定しての突撃隊列形成完了。

電子戦開始。
対抗電子戦、確認できず。
マザーとのコンタクト確立。

NROより戦域情報受信確認。

都市ひとつが舞台。

全く、野良犬どもには贅沢な墓場だ。

内心で、ゲリラ相手ということに嫌悪を感じつつ飛行。
最も、久しぶりの実戦に高揚している自分の精神も大概なのだろうが。

苦笑しつつも、グランツは手際よくやるべきことを確認。

「ベルカ01より、ベルカ中隊各位。久しぶりの戦場へようこそ。歓迎しよう。」

中隊全要員の追随を確認。
長距離浸透飛行程度で脱落する無能は、中隊にはいない模様。
全く持って、幸い。

さすがに、染み付いた経験というのは簡単には腐らないものらしい。

ああ、嗤うしかないだろう。
年月を経てなお、彼らは戦争に生きているのだ。
そしてここは、彼らにとって最後の楽園。

「カルテル程度、嗤って殺せ。…本物の戦争を教えてやろうじゃないか。」

「「「「Ja, alles klar!!!」」」」

戦時国際法は、カルテル構成員相手に交戦団体としての資格を認めていない。
簡単な仕事だ。

懐かしい音響。
炸裂する術式に、軽快な機関砲。
盛大にまき散らされる発砲炎のきらめき。

そのすべてが、忌まわしくも懐かしい。

「身体の底に響く実にいい音だ、脊髄が悲しく踊り鼓膜が歓喜に震える。」

切りかかってくるカルテルのまだ年端もいかない若造を蹴り飛ばし、術式を展開。
爆裂術式を高速展開しつつ、並行して放り込まれる擲弾を投げ返しつつ応射。

「それも常に死と隣り合わせのこの地で感じる事のできる喜び。ああ、何と充実した仕事か!」

爆音とともに吹き飛び爛れる死体の匂いを吸い込みつつ、部隊は行動を継続。
都市における制圧戦の基本は、区画ごとの掃討。
言い換えるならば、エリアごとの粉砕が最も最適。

限定的な攻勢に制約されているとはいえ、カルテル支配下の都市への攻撃だ。
武装しているゲリラはすべて排除する許可が下りている。

簡単な話だ。

暴力でもって街を支配しているのであるならば、それ以上の暴力をたたきつけてやればよい。
後は、寛容を武器に市民とゲリラを分離すればよい。

「ベルカ08より、CP。製造拠点を制圧。作業員の処理完了。」

「ベルカ12より、CP。事務所を制圧。関連書類の押収中。」

「CP了解。引き続き、各隊は掃討戦を継続せよ。」

ラインの、東部の泥沼を這いずり回った彷徨える敗残兵。
彼らにとって、軽火器で武装した程度の敵では物足りない。
そもそも、本来ならばコミーのカテゴリー1魔導師連中を想定しての編成。
それが、少々暇を持て余していたが故に回ってきた戦場。

「ベルカ03より、ベルカ中隊。目標を確保。繰り替えす、目標を確保。」

「宜しい。消毒後、ただちに帰還する。」

つまらないほど、簡単に終わる任務。
自爆して抵抗してくる敵兵はなし。
どころか、督戦隊が出張ってきて死兵と化した敵兵すらでてこない。

やつら、暴力と恐怖の度合いを理解していないのではないのだろうか?

…所詮は、平時の狂気か。


物足りないと感じる自分。
それが、戦場に全身で浸っていた人間の狂気なのだろう。
RTB中、物足りない気分に襲われる。

だが、荷物を抱えて煩悶しながらの帰還は呆気なく終わる。

手順通り隊列を解除してカンパニーのダミー企業が確保した敷地に降下。

「ベルカ中隊、ただいま帰還いたしました。」

「ご苦労、グランツ中隊長。君の隊が一当てした感触が聞きたい。」

そのまま、待ち構えている我らが社長殿にご報告。
特殊戦や破壊工作とは異なり、ずいぶんと久々の威力偵察。
ある意味で、ライン終戦工作以来久方ぶりのまともな軍事行動。

「朽ち果てていたドアをけり破るようなものかと。」

だが、遺憾なことに警察程度で事足りる武装のカルテルが相手だ。
威力偵察程度どころか、単なる蹂躙戦に終わったのは実に幸いではあった。
損害が出なかったことを指揮官として喜ぶ気持ちは確かにグランツにもある。

こんなくだらない戦場で部下を死なすことほど、指揮官にとって屈辱もない。

「おや、カルテルは気合が足りないようだ。ストラス隊が遊んだゲリラはもう少し戦争好きだったらしいのだがな。」

しかしながら、同時にもう少しだけ真面目に戦争を期待していた自分がいるのだ。
戦場で人生最良の時代を過ごした人間というのは、何処まで行っても戦場から離れられないのだろう。
もはや、そういう人生だとグランツは少しばかり割り切っている。

ライヒのためにと誓った身だ。
コミーと刺し違えるならば、祖国を割った連中と刺し違えるならば本望だった。

それだけに、敵がコミーですらないステイツの敵であるというだけでは非常に消化不良に近い。
せめて、ストラス隊が叩いたというコミーの方を蹴り飛ばしたかったというえり好み程度は許されるだろう。

「とまれ、ご苦労だった諸君。では、本題に入ろう。」

だが、さすがに意気揚々と仕事の話に移っている上官の話をさえぎって願うことではない。
彼は軍人であり、帝国軍人であり、つまるところライヒの軍人であった。
ライヒの軍人は反逆しないのだ。

これが、ライヒのためになると上官が判断したのであるならばグランツは唱える異議を持たない。

「大統領府は同意した。早速カンパニーからの仕事を開始しなければならない。」

そして、事前に伝えられた通り中南米の安定はライヒ方面への合州国軍増強につながる。
また、当地におけるコミーの勢力を削るべきであるという意見には全く異論がない。

「3年以内に、コミー系ゲリラ並びにカルテルを排除できるように警察・軍の育成業務だ。」

もどかしい、という表情のデグレチャフ閣下。
だが、表向きは軍事援助や軍事顧問団という扱い。
つまるところ、直接の軍事的な介入が禁じられてしまうという制約下での任務だ。

ZASという民間企業が、依頼されてコンサルタント業務を行うのだから仕方のない建前でもある。

今回の軍事作戦は、カンパニーのカバーストーリーでコロビニア国家憲兵隊が実働したことになるらしい。
まあ、自分たちが教導する予定の連中が実戦を担うという建前に従うということなのだろう。

「戦争ができる程度に鍛え直してやれ。ついでに、麻薬供給ルートも叩いて来いと取締局が叫んでいる。」

そして、それを使い物にしつつ薬物供給ルートをたたくというのが最終的な目的。

「面倒だが、命令だ。さあ、手始めに内の掃除から始めよう。半分までは、許されたぞ。」

にこやかに笑う上官。
気が付けば、居並ぶ全員もにこやかに笑っていた。












ラングルレーから飛んできたお偉いさんの第一印象。
それは、酷く胃が痛そうな顔だった。

カンパニーきっての敏腕、ジョン・ドゥ局長。
中央作戦局から、わざわざ対ゲリラ・カルテルのために超大物がおこしますのだ。

現地のカンパニー要員らにしてみれば、ヘマひとつ許されないという緊張感が漂っていたとしても無理がないだろう。
そして、空港で受けた第一印象からして誰もがジョン・ドゥ局長が神経質であることは理解した。

そんな扱いに困る大物が直卒する作戦。
実働部隊としてラングルレーからまわされてきたZASという連中。

…そして、ZASは着任早々超保守派のスタンリー大使の指示でやらかしてくれていた。

完膚なきまでに、容赦なくカルテルとゲリラの根拠地をそれぞれ一つずつ破壊。
ゲリラ相手にはナパームをばら撒いた後に、ハロゲン系消火剤をばら撒き意図的にガスまで発生させていた。
そのうえで、戦時国際法は禁じていませんと嘯く始末。

森林破壊を行うに忍びなく、火災を鎮火しようと最善を尽くしましたと言われたとき担当者が激高しなかったのは奇跡に近い。

市街地の方は、まだ、まだましだろう。
だが、それでも麻薬取締の名目でコカイン精製工場を丸ごと一つ焼き尽くしてくれている。
まあコカインを焼くのは、まだいい。
それは、歓迎できなくもないだろう。

だが、その時たまたま不運にも全ての工員が逃げ遅れて焼死したらしい。

オマケに、カルテルの首脳陣が家屋に踏み込み平然と銃撃戦を展開。
曰く、『不幸な銃撃戦の発生により巻き添えが出たことは遺憾』とのこと。
お陰で、カルテルに雇用されていたと思しき従者多数が死体で発見されている。

内偵では、処刑したと思しき痕跡もあったという。

そんな狂人ども。
劇物扱いされている連中。

言い換えるならば、それを投入させるほどカルテルの横暴はステイツ上層部を怒らせているのだろう。
誰もが、思わず合州国が本気であると理解させられる開幕早々全力投球である。
スタンリー大使としては、たいそうご満悦のことだろう。

お陰で、現地で働くカンパニーの要員がヒイヒイ泣きながら仕事をする羽目になっているのだが。


そして、胃痛で顔色が真っ白になっているジョン・ドゥ局長が頭痛をこらえながら持ってきた書類。

『国家憲兵隊の綱紀粛正』とやらの計画書。

カンパニーが収集した腐敗や内通の証拠を活用して叩き直す?
逆らうならば、陸軍刑法に基づき簡易軍法裁判?

あのZAS連中に、軍事裁判権である。

目を通しただけで、物騒な予感がしてたまらなかった。


だから、彼らが教導に行く初日。
カンパニーの現地スタッフは極力問題を避けるべく最善の努力を払ってお膳立てに努めた。
移動に使う車に仕掛けられていた仕掛け爆弾は、未然に解除。
現地部隊が計画していた横流しは、わざわざ横流しグループに警告を発して阻止までしてのけた。

早い話が、ZASという戦争狂に火をつけないための措置だ。
ついでに言えば、わざわざ中央からやってきたジョン・ドゥ局長の不興を買わないための努力でもあった。
だが、カンパニーの現地スタッフは知らない。

「こちら、国家憲兵第724空挺連隊のドラコール中佐殿です。」

「お初お目にかかる、ドラコール中佐。業務を委託されたZASのターシャ・ティクレティウスCEOです。」

「よろしく、ティクレティウスCEO。」

にこやかに談笑する国家憲兵隊指揮官の運命を、早々とジョン・ドゥ局長が神に任せていることを。
彼の指揮する部隊で、汚職にかかわっていないものなど数えるほど少ないのだ。
あのデグレチャフがそんな無能を、生かしておくかどうかは半々だとドゥ局長は割り切っている。

だが、同時に一縷の望みをかけて問題を悪化させない努力は惜しまない。
訝しげにターシャ・ティクレティウスと名乗る小娘を見つめる指揮官の延命を多少は試みるのだ。

「ああ、ご安心くださいドラコール中佐殿。」

暗に、自分が誤解を解くからお前はおとなしくしていろと言わんばかりの介入。
いくらなんでも、初日に軍事顧問が受け入れ先指揮官を射殺したでは外聞が悪かった。
スタンリー大使は大喜びするかもしれないが。
情勢を分析するカンパニーにしてみれば、そうなったときの外聞が悪すぎる。

「彼女は、いえ、彼女の会社はプロだ。それも、この分野では世界最高峰の。」

デグレチャフが、対ゲリラ戦の指揮を執るのだ。
ステイツの事情を知る将校であれば、それが手段を選ばなければ最善であることを認めることだろう。
手段を、一切選ばず、人道条件を一切問わねば、だが。

「ミスター・ドゥ。貴方の言葉を疑うわけではないが、お手並みを見たい。」

だが。

穏便に収めようというドゥ局長の努力は濁声でつぶされる。
ああ、そういえば今晩のフリカッセはベジタリアン用にトマトだったなぁと一瞬現実逃避したくなる。

丁寧なのは字面だけ。
侮った態度を隠しもしない国家憲兵隊の指揮官が態度。
それどころか、ジロジロと舐めるような視線を小娘に見せている。

そういえば、ドラコール中佐とやらは売春で年端もいかない娘を何人か殺していたなぁと今になって思い出す。

ジョン・ドゥ局長にとぅてこんな人間が、治安機関のトップという時点で信じがたい気分。
同時に、これでは上がデグレチャフを投入したくなるのもなんとなく理解できてしまう。

だが、納得している間に事態は急展開を迎えるのだ。

「当然でしょうな。よろしい、軽く手際を御覧に入れて見せましょう。」

にこやかに笑みを浮かべたままターシャ・ティクレティウスCEOは一枚の封筒を鞄より取り出すと開封。

「略式ながら、軍法裁判。被告、ドラコール・アンドロギン中佐。」

淡々と読み上げる口調は、事務手続きを行っているかのようなそれ。
読み上げている当の本人は、どうということもない書類を読むかのように淡々した姿勢。

「嫌疑、横領・武器並びに弾薬の横流し、ゲリラとの内通、職務義務違反多数。」

「ふ、ふざけるな!これは、一体何の真似だ!?」

だが、一瞬の硬直からよみがえった面々。
言葉に込められた重大さが行き渡りはじめるころ。

その瞬間にはZASの兵士らがライフルを構えている。

「判決。有罪、略式による銃殺刑。軍法裁判につき、本案件の上訴は認められない。」

そして、心から嬉しそうに判決を告げるターシャの声は残酷なまでの喜悦が混じっている。
アレは間違いなく、無能と反逆者を喜び勇んで銃殺刑に処する傾向があるのだろう。
帝国時代、忠誠心抜群なれども劇物と帝国軍が評したわけである。

「判決の即時執行。なお、コロビニア陸軍刑法第32条に基づき、貴官には希望すれば目隠しを使用する権利があることを通告する。」

「ドゥ局長、これは、いったいどういうつもりかと、聞いている!」

狼狽しきった濁声。

…ああ、面倒事はいくらでもあるのだなぁ。

そして見たくないものの、見やると答えを待つ瞳。
虚無的な瞳だなぁと思いつつも、見つめなおさねばならないのが自分の立場。
嘆きつつも、ドゥ局長は隣で自分の答えを待っているティクレティウスCEOに答える。

「半数は、きちんとものにしたまえよ。」

もちろんだと頷く化け物。

その姿を見ているドゥ局長は確信せざるを得ない。
こいつは本当に半数程度すりつぶしかねない、と。

大方、半分処理すれば残りの給料を二倍にして汚職を防止できる。
オマケに、経費負担に変更なしで経済的とか考えているのだろう。

…実に的を射ていそうな気がしてならない。

その思考を予想しただけで痛み止めと胃薬を飲んだはずの胃がキリキリと叫び始めていた。

「希望の申請がなされなかったため、そのまま執行。弾薬代の請求書を遺族へ。」

そして、処刑の宣言。

次の瞬間、実に手際よくZAS連中はぶっ放していた。
冗談でもなんでもなく、本当に言葉通りに。
命令一下、躊躇なく小隊が発砲し国家憲兵隊中佐を射殺。

どころか、どこともなく取り出したシャベルで穴まで掘っていた。
そのまま蹴り飛ばして穴に落とすと、痙攣している遺体にさっさとガソリンをかけ始める始末。

ZAS以外で実際にやると予期していたのは、せいぜいドゥ局長くらいだろう。
色々とトラブルを予期していたカンパニーの現地要員らにとっても、さすがにその発想はなかった。
軍事顧問団が、まさか、初日に?

「…やりすぎじゃないですか?」

思わず、といった口調。
咄嗟に咎めるべきか、問題ではないのかと疑念を抱くカンパニーの人間。

「何を言っている。奴が部隊丸ごと殺さなかっただけ随分とおとなしい。」

「・・・・・・・・・・・・・・・本気ですか、局長。」

そして、それに対するお偉いさんの答えは予想をはるかに上回る代物。

「なんでたかが、教導程度で本国から出張ってきたと思っているんだ?奴を止めるためだぞ。」

理解しがたい思いに駆られる彼らの前で、完全武装の魔導師らが術式を展開。
愕然として、動きを止めていた国家憲兵隊兵士の前に死に神の鎌を展開。

そして彼らが反抗の意志を取り戻す前に、蹴り飛ばしていた。

「叩き直す!国家憲兵、整列!死にたくなければ、さっさと走れっ!」

動きが遅い連中に突きつけられるライフルの銃口。
逆らえば、本当に発砲するだろうという確信じみた動き。

それを見ていたドゥ局長はひとまずため息をつくことにする。
まあ、使い物にはなるだろう。
なにしろ、あのデグレチャフの教導だ。

・・・・・・その後のことは、知らないが。















ようやく落ち着きつつある世界情勢。
裏腹に、コミーは最後のあがきを始めていた。
まったく素晴らしい敵失。

アルガン情勢を見たとき、最高の瞬間だと誰もが嗤った。
これで、コミーを徹底的に消耗させられる、と。

そんな日々の業務に追われるZASで、ターシャは古いお友達の来訪を迎えていた。

「…久しいですな、Mr.ジョン・ドゥ。」

「御壮健そうでなりよりです、ティクレティウスCEO。」

激化するアルガン情勢。
だからこそ、ZASは大量の『使い捨て観測機器』を空輸し隣国経由で散々送り込んでいる。
カテゴリー1師団を消耗させ、正面配備されていたアシカどもをガンガン地に這いつくばらせているのだ。
其ればかりでなく、これ幸いと墜落した残骸を回収して敵性技術検証のプロジェクトまで行っている。

まあ、製造技術の確認と兵装の調査であるが。

それだけに、ZASはここしばらく輸送業務とコンサルタント業務で全力稼働の日々が続いている。

そんな時にやってくるお友達だ。
大切な本題に早めに入るように促しながらも、珈琲程度は出す。

「それで、本日のご用件は?」

「中南米の反政府武装グループの掃討ですよ。」

そして、珈琲を片手に語り合う仲だからこそ。
何故こんな糞忙しいときに『古い友人』が難題を持ってきたのか理解する。

「…ああ、国家憲兵隊の件ですか。やれやれ、手塩にかけた雛を狩るのは心が痛みますね。」

短期促成で手段を選ばず戦力化した部隊。
碌に使い物にもならない連中を暴力と恐怖で従えただけのお粗末な錬成。
まあ、それでもゲリラ相手にジャングルで戦争は上手にできるようにしておいた。
都市のカルテル程度ならば、正面から粉砕できている。

まあ、自分達が手綱をしっかりと握っている限りではあったが。

なまじ、武器の使い方を覚えさせたとはいえ倫理教育など一ミリも行っていない。
本質が変わらい以上、統制を解いた瞬間に不安定要素化だ。
まあ、それでも体制に忠誠は誓っていたらしいのでカンパニーはとりあえず放置を決定。

そのまま、ほったらかしにされていたはずだが。
連中、やりすぎたのだろう。

まったく、狂犬どもめ。救いがたい。

「民主化した親ステイツ国家の方が望ましいのは言うまでもないでしょう。」

「早い話が、前体制の弾圧者とのつながりは消したい、と。」

情勢の変化。
まあ、ようやくコミー以外の民主主義者が出てきてくれたということだ。
それも、ステイツと取引できる程度には理性的な。

そうなれば、統制のとれない狂犬どもなど無用の長物。
それどころか、百害あって一利なし。

用済みということか。

「後始末をお願いしたい。」

「まあ、仕方ないですね。アルガンに行く前に一仕事しておきましょう。」

仕方がないが、仕事だ。
蒔いた種は、刈り取らねばならないのだから。




あとがき
ふう、長かったけどなんとか番外編も仕上げました。
多数のご要望、すべてには応じられずに申し訳ありません。

趣味と勢いで始めた本作、なんとか終えられたほっとしてます。

そのうち、海かガルスかオトラントかどれかを無事に完結させられたらなぁと思う次第。

多分、絶望的な戦局ですが。


誘惑に屈してルナリアンに走りそうになる気分が無きにしも非ずですが、取りあえずはオトラント公に人道というものを説明してもらう予定です。

長々とお付き合い頂きありがとうございました。

2017/1/29 誤字修正


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