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No.24378の一覧
[0] 【完結】英雄、肉屋勤務【オリジナル モンスター狩り 微ハーレム要素 主人公最強】[ダイス](2010/12/05 15:58)
[1] 第二話 ”肉屋”ユフィ[ダイス](2010/11/24 12:14)
[2] 第三話 ”肉屋”という仕事[ダイス](2010/11/24 12:15)
[3] 第四話 薄幸の少女サラ[ダイス](2010/11/24 12:15)
[4] 第五話 大きすぎる牙[ダイス](2010/11/27 20:42)
[5] 第六話 牙の絆[ダイス](2010/11/27 20:54)
[6] 第七話 悪魔にまつわる物語[ダイス](2010/11/30 21:51)
[7] 第八話 ”肉屋”連合[ダイス](2010/12/01 22:07)
[8] 第九話 汝ら、剣持て狩らん者たち[ダイス](2010/12/05 15:57)
[9] 第十話 英雄、肉屋勤務[ダイス](2010/12/05 15:58)
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[24378] 第七話 悪魔にまつわる物語
Name: ダイス◆af8d3fcb ID:a8042ed8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/30 21:51
※今回の話には人体に関する残酷な描写がありますのでご注意下さい。


 その男は父だった。それも偉大な父だ。全ての母親は偉大だが、全ての父親が偉大であるわけではない。

 「一番いい”肉屋”ってのが、どういうのかわかるか?」

 彼は愛娘に、かつてそう尋ねた事がある。流行り病で死んでしまった母親の代わりになど到底なれぬと知っていた彼は、いつも自分らしく娘に接した。
 それは彼にとって即ち、”肉屋”らしく振舞うと言うことだった。なぜなら彼は”肉屋”としての生き方以外は知らなかったからである。
 
 「諦めない奴。嫌いじゃねぇ。ひたすらに強い奴。まぁ嫌いじゃねぇ。てめぇの仕事をきっちりやる奴。これも嫌いじゃねぇ。だがな、一番いい”肉屋”かと言われれば、それだけじゃそうとは言えねぇ」

 娘が知る限り、父は一番いい”肉屋”だった。だから「父こそがそうだ」と答えた。それを聞いた彼は嬉しそうにはにかみながら、俺もいつもそうだというわけじゃねぇと言って笑った。

 「いいか。お前がもしも”肉屋”として生きていくなら、一番いい”肉屋”ってのを常に考えろ。いつかそれがお前に身についていく。だがお前は女だ。だから悪いって言ってんじゃねぇ。いつかこれぞという男が現れたら。こいつこそが最高の”肉屋”だと思える男が現れたら、そいつを絶対に離すんじゃねぇ。わかったな」

 そう言って父はわしわしと娘の頭を乱暴に撫でる。髪型はぐしゃぐしゃに崩れるけれど、娘は父に頭を撫でられるのが好きだった。
 父こそが最高の”肉屋”だと娘は疑っていなかった。同じくらいに、父とこれからずっと一緒に暮らしていくのだと言うことも疑ってはいなかった。
 しかし、どうして世界はいつも酷薄なのか。
 娘はやがて父親を失う。それは、彼女にとって世界を失ったも同然だった。
 


 その日は、朝から空気が違った。
 どこかぴりぴりするものが混じる、殺気だった空気。長屋の自室を出た瞬間から、ガリュウはその空気を感じ取っていた。

 「何かあったか?」

 次の狩りの打ち合わせの為に、会議の場となる長屋の一室に向かう途中で、騎上槍使いのサルースに会ったガリュウはだからそう尋ねた。
 サルースは壮年の落ち着いた雰囲気をいささかも崩すことなく、だが困ったように首を振った。騎上で突撃槍を支える頑強な肉体は今日もいささかも衰えも見せはしないが、しかしどことなく翳って見えるような気がした。

 「厄介な相手なのか?」

 その問いにサルースは首肯しながら苦々しげに言った。

 「俺たちにとって、一番厄介な相手だ。先代の首領ウー・ラーハルト。、つまり、お嬢の親父さんの仇だ」

 砂楼団の古株らしい男の言葉に、ガリュウは目を瞠ったのだった。


 
 
 6年も前の話である。
 ユフィは12歳だった。本来ならとてもまだ狩りに出れる年ではなかったが、本人の強い意向と、彼女を跡継ぎにしたい砂楼団のボス、ラーハルトの思いがあり、少しづつ狩りに同行するようになっていた。

 砂楼団は基本的には【悪魔の草原】を主な狩場としている。ロードキアの国境から遥か彼方に望むガリンガ連山まで続くこの無法地帯は、どの国の領地でもなく、そしてどの国も見離した土地であった。
 モンスターと呼ばれる巨大で攻撃的な生物が跋扈する場所であるが為に。
 この世界では実際の所、こうした誰のものでもない土地の方が圧倒的に多い。人類はたまたま制圧できた土地にしがみつくように生きているに過ぎないのである。

 その日も砂楼団はいつものように順調に狩りを終え、獲物である嵐喰竜ルーディオロスを、荷車に載せてイャルに引かせていた。
 その数は8人。
 三日間に及ぶ長い狩猟を終えた彼らは、気の緩みから談笑しながらイャルを操っていた。
 ユフィと轡を並べるラーハルトの相好も緩んでいる。彼らはこのまま長屋に帰り、モンスターを競りに出し、そして久しぶりに暖かい夕食で腹を満たすのだ。

 「サルース」

 ラーハルトに震える声でそう呼ばれたときのことを、彼は生涯忘れないだろう。この時以来、彼らは狩りをする時必ず、ある地点まで獲物を弱らせながら誘導するようにしている。だが、この時はまだ知らなかったのだ。
 いや知識としては知っていた。
 しかし、人は天災のような免れざる災厄については、実際にその災害に見舞われるまで、本当の所を想像することは出来ない。
 その竜が、正に天災そのものである竜が、この【悪魔の草原】に現れることを。

 「構えろ!」

 突如、天空から巨大な塊が飛来した。暗黒の塊のようなその造形。気がついたときには、彼らのうちの二人までがイャルの上からその姿を消していた。

 「ウルガロンだ!」

 それは悪魔の名を冠する飛竜。【悪魔の草原】に君臨する怪物たちの、その頂に立つ怪物中の怪物。
 漆黒の肉体はルーディオロスに迫るほどに巨大で。
 岸壁の様な肉質は全てを弾くように思われ。
 腕が進化した一対の翼は、空を掴むほどに長大だった。
 されど彼は王者などとは呼ばれない。あれを見るものは誰しもこう叫ぶのだ。
 悪魔!と。
 即ちかの竜を名付けて、悪魔竜ウルガロン!

 漆黒の翼を広げるウルガロンは、今は大地に立ち、その凶悪な顎で何かをぐちゃぐちゃと咀嚼していた。
 鳥を観察すればわかることだが、彼らは翼の力だけで飛び立つわけではない。必ず脚の力で飛び上がり、翼に風の力を得ることで飛ぶのである。
 それは竜も同じであり、一度接地すれば飛び上がる動作を見せねば飛び立つことが出来ず、その瞬間が隙となる。だから飛竜と対峙する時は、その瞬間こそが狙い目なのだ。
 
 だが。だがである。
 ウルガロンはそれを理解して飛び上がらないわけではない。

 火山の岩肌の様な漆黒の外殻を持つウルガロンは、やがてその口から何かを吐き出した。

 「!?」

 砂楼団に衝撃が走る。およそ人なら走らぬはずが無い。それは、屑鉄と化した血まみれの、かつて鎧だったものが出鱈目に圧縮されたオブジェだった。

 「この、悪魔め!」

 ラーハルトが恐怖すら忘れて罵倒する。
 恐怖を凌ぐのは怒りだけだ。
 人は草原で狩りをする。生きるためだ。人は糧の為に命を掛けて狩をする。だが、怪物が自ら人を狩ることはめったに無い。もっと狩りやすく、肉質のよい獲物が草原にはたくさんいるからである。

 あぁ、だがこの竜は。この悪魔は。どのような道理か。人の肉を愛するのだ。鎧ごと咀嚼し、血肉を啜り、そして見せ付けるように残骸を吐き出すのだ。

 その小山のような巨体が人の肉程度で満足させられるわけが無い。竜はこの後嵐喰竜の死肉を啜るだろう。
 だから彼が人を襲うのは、彼自身の愉悦の為なのだ。

 「あ、あぁ、あぁぁ・・・」

 ユフィがイャルを操ることも忘れて呆然としている。その目には涙が浮かび、厚手のズボンには染みが広がっている。
 
 「ユフィ!手綱を持て!」

 ラーハルトがそう叫んでユフィに近付こうとイャルを駆る。だがそれより一瞬早く、悪魔竜がその翼を動かした。

 「ユフィ!」

 がつん!

 草原に響き渡る顎が合わさる音。
 しかし幸運なことに手綱を離したユフィはイャルから転げ落ち、哀れなイャルが身代わりにウルガロンの口の中に納まる。
 飛竜はさして面白くも無さそうに、それを咀嚼して嚥下した。

 「お嬢!」

 サルースはすかさずイャルを走らせると、危険を顧みずに素早くユフィを拾い上げる。

 「くっ」

 急いでその場を離れるサルース。抱きかかえるユフィをみやると、落下の衝撃で気絶してはいるが、幸い大きな怪我などは無さそうだった。

 「くそぉぉぉっ!」

 その時、三人の若者たちが槍を構えてウルガロンに突進した。彼らにはイャルを食している今こそが悪魔竜の隙に思えたのだ。

 「勝手に突っ込むんじゃねぇ!」

 ラーハルトの悲鳴にも似た恫喝の声が響く。
 三人の槍がウルガロンの外殻に接するか接しないかのその瞬間。
 
 ウルガロンの鞭のように長い尾が三人をなぎ払った。

 「ダイ!シャー!ウング!」

 ラーハルトが叫ぶ。イャルから投げ出された三人の部下に向けて全速力でイャルを走らせる。しかし、悪魔はそんなラーハルトを見て大顎を歪ませ。

 「やめねぇかぁ!」

 無念に顔を歪める砂楼団の首領を嘲る様に三人を一口で噛み砕いた。

 くちゃくちゃくちゃ。

 鎧ごと咀嚼される三人の上半身。流石に口に収まらなかった下半分が血を噴出しながら草原の上をのた打ち回る。

 「てめぇッ!」
 
 ラーハルトは騎乗槍を悪魔の外殻に一閃する。しかし黒い悪魔は信じられない敏捷性でそれをひらりとかわした。

 「逃がすかよ!」

 だがそれで終わるラーハルトではない。すぐさま空いた手で腰の長剣を抜き放ち、伸びきった悪魔竜の脚に斬りつける。

 「ギギッ!」

 僅かに声を上げる悪魔竜。ラーハルトの一撃は、目に見える損傷を与えられてはいなかったが、その剣を警戒して悪魔竜が一度後方に飛びのいた。

 「サルース」
 「あぁ」

 ユフィを拾い上げ、騎乗に乗せたサルースがラーハルトに呼ばれて轡を並べる。
 ユフィは意識を失ってぐったりとイャルにもたれていた。
 もはや生き残ったのはこの三人だけだ。
 撤退の相談だろうとサルースはそう思っていた。
 
 「ユフィを連れて逃げろ。あいつの相手は俺がする」
 「馬鹿な!」

 自らを率いる首領に、サルースは思わずそう叫んでいた。ラーハルトの腕は認める。サルースに槍を教えたのはそもそもラーハルトだ。
 しかし。
 彼がどれほどの実力者であろうと、あの悪魔と戦って生きて帰れるはずが無い。

 「他に方法がない。あの悪魔が獲物を前にしてみすみす見逃すか?この遮蔽物のない草原で?ありえねぇ。誰かがしんがりをやらねぇと全滅だ」
 「じゃあ俺がやる。あんたはまだ砂楼団に必要だ」
 「自惚れんじゃねぇよ、サルース。てめぇであの悪魔をどれだけ留めておける?10分か?20分か?俺なら一時間は何とかしてやる」

 それは自分の寿命の宣言だった。男が気負いもてらいも無く口にした、自分の実力の物差しだった。
 ここでサルースが首を縦に振れば、一時間後には確実にラーハルトは死ぬのだ。

 「だが…」
 「娘を頼む」

 ラーハルトは真っ直ぐにサルースの目を見る。そこにはある種爽やかささえ感じる生命の輝きが感じられた。
 先ほどの言葉が無ければ、ラーハルトが命を諦めているなど到底信じられぬほどの。
 
 サルースはその目を見て分かった。分かってしまったのだ。ラーハルトが自分の娘に全てを託すつもりであると。彼の生き様と、死に様の全てを。
 人はいずれは死ぬ生き物である。いや違う。目の前で轟然とする黒竜ですら時が来ればいずれ死ぬのだ。
 人だけが技術を、思いを、魂を次の世代に継いで行ける。
 その先も、ずっと連綿と続いていけたら、ラーハルトは悪魔に打ち勝ったことになるのだろうか?

 「頼むぜ。サルース」

 そう言って、悪魔に向かって駆けて行く男に、サルースはもう何も言うことはできなかった。ただただ、意識を失った少女を抱きしめ、そして男とは反対の方向へとイャルを走らせる。
 死ぬな、とか、また会おうとか、分かりやすい気休めはとてもではないが言えなかった。

 眦に涙を溜め、振り返りそうになると唇を千切れんばかりに噛み締めて堪えた。

 一時間だけ。一時間しかないのだ。それがラーハルトが命を燃やして稼ぎ出す時間なのだ。
 サルースはただひたすらにイャルを走らせた。
 彼が街にたどり着くまで、悪魔竜は遂に彼を追っては来なかった。

 一週間後、彼らはその場所で、半ばから折れた騎乗槍と、その傍らに転がる、ひしゃげた鎧の塊とを見つけることになる。
 砂楼団の誰しもが慟哭し、そして誓った。
 ユフィが彼の後を継ぐのなら、決して彼女を死なせはしないと。
 たとえ、再び悪魔竜が現れようとも。

 そして、それから6年後。
 再び【悪魔の草原】で、とある”肉屋”の一団が黒い竜に滅ぼされた。




終わらないorz
あと一話でなんてとてもではないが終わらない。
ということであと二話でお願いします(誰にだ)。

ユフィルートのお話です。ガリュウさんには是非ともこの回でフラグを立ててほしいものです。

冗談はさておき、あんまり無双過ぎるガリュウに今回は強敵を用意しました。ルーディオロスやベルフトすら捕食対象とする悪魔にガリュウは打ち勝つことが出来るのか。
完結にご期待ください!

ここまで拙作を読んでいただきましてありがとうございます。ご意見、ご感想をいただけますと幸いです。



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