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No.22387の一覧
[0] 永宮未完 下級探索者編[タカセ](2019/07/15 00:14)
[1] 序 ①[タカセ](2017/08/21 00:19)
[2] 序 ②[タカセ](2017/08/21 00:19)
[3] 剣士と薬師 ①[タカセ](2017/08/21 22:44)
[4] 剣士と薬師 ②[タカセ](2014/10/28 04:16)
[5] 弱肉強食①[タカセ](2014/10/28 04:36)
[6] 剣士と薬師 ③[タカセ](2014/10/28 04:55)
[7] 剣士と薬師 ④[タカセ](2014/10/28 05:11)
[8] 剣士と薬師 ⑤[タカセ](2014/10/28 23:24)
[9] 剣士と薬師 ⑥[タカセ](2014/10/28 23:57)
[10] 剣士と薬師 ⑦[タカセ](2014/10/29 00:46)
[11] 剣士と薬師 ⑧[タカセ](2014/10/29 01:23)
[14] 剣士と薬師 ⑨[タカセ](2011/01/26 19:31)
[15] 剣士と薬師 ⑩[タカセ](2011/02/04 12:00)
[16] 弱肉強食②[タカセ](2014/10/30 00:15)
[17] 弱肉強食③[タカセ](2014/10/30 00:42)
[18] 剣士と薬師⑪ 〆[タカセ](2014/10/30 00:59)
[19] 剣士と刃物[タカセ](2014/11/06 04:03)
[20] 剣士と少年 ①[タカセ](2014/11/08 03:01)
[21] 薬師と探索者達[タカセ](2015/04/07 21:17)
[22] 剣士と少年 ②[タカセ](2014/11/08 03:01)
[23] 剣士の価値観[タカセ](2014/11/06 16:40)
[24] 剣士の弱点[タカセ](2014/11/08 00:30)
[25] 剣士の狩りと薬師の愚痴[タカセ](2014/11/08 00:58)
[26] 剣士と剣 ①[タカセ](2014/11/08 01:22)
[27] 剣士と少年 ③[タカセ](2014/11/08 03:01)
[28] 剣士と探索者達[タカセ](2015/03/06 02:08)
[29] 剣士と受付嬢[タカセ](2015/03/06 02:07)
[30] 剣士と引き寄せられる因子達[タカセ](2015/03/07 00:43)
[31] 剣士と運命[タカセ](2015/03/07 22:46)
[32] 剣士と龍王達[タカセ](2015/07/19 00:11)
[33] 剣士と剣 ②[タカセ](2015/03/17 03:14)
[36] 剣士の心意気[タカセ](2015/03/17 02:05)
[37] 剣士と決闘宣言[タカセ](2015/03/22 01:01)
[38] 剣士の価値観 ②[タカセ](2015/04/04 03:47)
[39] 魔導工房主と魔具[タカセ](2015/04/15 02:10)
[40] 剣士と魔導工房主[タカセ](2015/04/15 02:21)
[41] 剣士の本質[タカセ](2015/04/23 10:10)
[42] 決闘者と父親[タカセ](2015/07/16 01:35)
[43] 剣士と薬師[タカセ](2015/07/18 23:49)
[44] 剣士と決闘[タカセ](2015/07/25 02:18)
[45] 剣士と百武器の龍殺し(仮)[タカセ](2015/08/10 01:28)
[46] 剣士と百武器の龍殺し(開眼途中)[タカセ](2015/08/10 01:26)
[47] 剣士と百武器の龍殺し(早期完全覚醒)[タカセ](2015/08/19 03:02)
[48] 剣士と魔法陣[タカセ](2015/08/23 00:23)
[49] 剣士と剣 ③[タカセ](2015/08/26 00:00)
[50] 弱肉強食 ④[タカセ](2015/09/04 23:04)
[51] 弱肉強食 ⑤[タカセ](2015/09/10 01:14)
[52] 剣士と家庭の問題 ①[タカセ](2015/09/23 21:38)
[53] 剣士と家庭の問題 ②[タカセ](2015/11/01 22:22)
[54] 剣士と家庭の問題 ③[タカセ](2015/11/02 02:39)
[55] 剣士と振り回される人々[タカセ](2015/11/07 03:37)
[56] 剣士と竜獣翁[タカセ](2015/11/21 00:16)
[57] 剣士と大願[タカセ](2016/02/13 22:43)
[58] 見習い鍛冶師と金獅子[タカセ](2019/07/16 01:16)
[59] 見習い鍛冶師と金獅子兵団の人々[タカセ](2016/02/17 17:14)
[60] 見習い鍛冶師と二つ名[タカセ](2016/02/24 00:48)
[61] 見習い鍛冶師と神官騎士[タカセ](2016/02/24 21:12)
[62] 見習い鍛冶師とその素顔[タカセ](2016/02/29 03:12)
[63] 見習い鍛冶師と金獅子②[タカセ](2016/03/07 02:33)
[64] 見習い鍛冶師と女性鍛冶師[タカセ](2016/03/11 00:33)
[65] 見習い鍛冶師と情婦[タカセ](2016/03/13 03:02)
[66] 剣士と初めての痛み[タカセ](2016/03/16 22:58)
[67] 剣士と女医[タカセ](2016/03/23 01:07)
[68] 剣士と罠[タカセ](2016/04/12 03:04)
[69] 剣士と初花[タカセ](2016/04/19 02:29)
[70] 剣士と水狼[タカセ](2016/05/07 22:07)
[71] 剣士の事情[タカセ](2016/05/14 20:26)
[72] 剣士と決意[タカセ](2016/05/22 01:07)
[73] 剣士と大英雄[タカセ](2016/07/17 02:51)
[74] 剣士の挨拶[タカセ](2016/07/22 02:00)
[75] 剣士と扉[タカセ](2016/07/30 23:23)
[76] 剣士と調べ物[タカセ](2016/08/20 23:06)
[77] 剣士の未来図 加筆修正版[タカセ](2017/03/25 22:50)
[78] 剣士と古井戸 加筆修正版[タカセ](2017/03/26 01:06)
[79] 剣士と地下水路迷宮[タカセ](2016/12/01 01:46)
[80] 剣士と死者の守人[タカセ](2016/12/24 23:54)
[81] 剣士と死霊術師[タカセ](2017/01/31 01:19)
[82] 剣士と狼牙の死霊達[タカセ](2017/02/10 09:49)
[83] 剣士と運命②[タカセ](2017/04/26 01:59)
[84] 剣士を知る日[タカセ](2017/04/25 23:51)
[85] 剣士と鬼翼[タカセ](2017/05/23 21:28)
[86] 剣士と龍血[タカセ](2017/08/19 21:50)
[87] 剣士が失う物[タカセ](2017/08/19 21:37)
[88] 剣士と永宮未完 第1部完[タカセ](2017/08/19 22:01)
[89] 第2部 挑戦者の日常 前日夜~早朝[タカセ](2017/07/17 20:45)
[90] 挑戦者の日常 朝~昼[タカセ](2017/07/17 20:45)
[91] 挑戦者の日常 昼すぎ[タカセ](2017/07/25 01:45)
[92] 挑戦者の日常 午後[タカセ](2017/08/19 01:11)
[93] 挑戦者の日常 夕刻[タカセ](2017/08/21 22:06)
[94] 挑戦者の日常 鍛錬[タカセ](2017/08/30 00:39)
[95] 挑戦者と保護者達[タカセ](2017/09/17 03:35)
[96] 挑戦者と白虎姫[タカセ](2017/09/24 00:25)
[97] 挑戦者と仲間達[タカセ](2017/10/01 00:12)
[98] 鬼翼と狼女王[タカセ](2017/10/03 01:46)
[99] 挑戦者の高揚[タカセ](2017/10/07 01:55)
[100] 挑戦者と魔術の塔[タカセ](2017/10/24 00:21)
[101] 弱肉強食 ①[タカセ](2017/11/10 23:38)
[102] 弱肉強食 ②[タカセ](2017/11/12 02:18)
[103] 弱肉強食 ③[タカセ](2017/11/24 23:51)
[104] 剣士の鍛錬[タカセ](2018/02/14 00:21)
[105] 挑戦者の噂[タカセ](2018/02/17 22:28)
[106] 挑戦者の目標[タカセ](2018/04/19 01:11)
[107] 挑戦者と英雄噴水再破壊事件[タカセ](2018/04/21 07:34)
[108] 挑戦者と初心者講習[タカセ](2018/06/26 03:03)
[109] 挑戦者と翼王女[タカセ](2018/07/18 00:27)
[110] 挑戦者の食べ方[タカセ](2018/07/24 02:31)
[112] 挑戦者と既知外の世界[タカセ](2018/09/15 21:01)
[113] 薬師の人物評[タカセ](2018/09/18 00:51)
[114] 挑戦者の二つ名[タカセ](2018/10/19 00:36)
[115] 挑戦者と始まりの宮[タカセ](2018/10/20 00:29)
[116] 挑戦者達の戦い[タカセ](2018/10/23 04:15)
[117] 挑戦者と迷宮主[タカセ](2018/10/31 01:31)
[118] 挑戦者と迷宮の罠[タカセ](2018/11/10 01:59)
[119] 挑戦者と迷宮の掃除人[タカセ](2019/01/14 23:56)
[120] 薬師と挑戦者達[タカセ](2019/01/15 00:00)
[121] 挑戦者と十刃[タカセ](2019/02/19 01:26)
[122] 挑戦者と対龍都市遺構[タカセ](2019/03/10 00:12)
[123] 挑戦者達の連携[タカセ](2019/03/15 22:38)
[124] 挑戦者と火龍[タカセ](2019/06/23 23:59)
[125] 薬師と天才達[タカセ](2019/03/20 21:41)
[126] 挑戦者と廃墟都市[タカセ](2019/03/22 01:11)
[127] 剣士の生きるべき世界[タカセ](2019/03/23 00:05)
[128] 剣士が知る者。剣士を知る者。されど理解者は未だ無し[タカセ](2019/03/29 23:11)
[129] 下級探索者編 未登録探索者とレッドキュクロープスの噂[タカセ](2019/07/09 21:01)
[130] 未登録探索者と迷宮の宝物[タカセ](2019/07/09 21:02)
[131] 未登録探索者と戻らない理由[タカセ](2019/07/09 21:03)
[132] 未登録探索者と湯上がりの適度な運動[タカセ](2019/07/09 21:03)
[133] 未登録探索者と猟犬商人[タカセ](2019/07/09 21:04)
[134] 未登録探索者とカミワザ[タカセ](2019/07/09 21:05)
[135] 未登録探索者=レッドキュクロープス[タカセ](2019/07/09 21:05)
[136] 未登録探索者を追う者、出会う者[タカセ](2019/07/09 21:06)
[137] 未登録探索者と元仲介屋[タカセ](2019/07/09 21:06)
[138] 未登録探索者の剣技[タカセ](2019/07/09 21:07)
[139] 未登録探索者と神印解放[タカセ](2019/07/09 21:08)
[140] 未登録探索者と凱旋帰還[タカセ](2019/07/09 21:08)
[141] 未登録探索者と捕縛理由[タカセ](2019/07/09 21:09)
[142] 人形姫と厄災人形[タカセ](2019/07/09 21:09)
[143] 下級探索者(偽装)と鳳凰破壊事件[タカセ](2019/07/09 21:10)
[144] 下級探索者(偽装)と淫魔[タカセ](2019/07/09 21:11)
[145] 下級探索者(偽装)と苦手な街[タカセ](2019/07/09 23:58)
[147] 下級探索者(偽装)と裏町[タカセ](2019/07/15 00:14)
[148] 下級探索者(偽装)と飴屋の鬼女[タカセ](2019/07/16 01:15)
[149] 薬師と白虎姫[タカセ](2019/07/20 01:08)
[150] 下級探索者(偽装)の判断基準[タカセ](2019/07/21 06:35)
[151] 下級探索者(偽装)と2つの祭り[タカセ](2019/08/20 01:50)
[152] 下級探索者(偽装)と大火厄災人形[タカセ](2019/09/01 01:02)
[153] 下級探索者(偽装)と斬るべき者[タカセ](2019/09/03 01:56)
[154] 下級探索者(偽装)と鳳凰復活事件[タカセ](2019/09/07 23:06)
[155] 下級探索者(偽装)と鬼翼の実力差[タカセ](2019/09/21 02:48)
[156] 下級探索者(偽装)とロウガ評議会[タカセ](2019/10/04 23:06)
[157] 下級探索者(偽装)と考えごと[タカセ](2019/10/19 23:11)
[158] 下級探索者(偽装)と刀の諱(いみな)[タカセ](2019/11/09 22:47)
[159] 下級探索者と迷宮の洗礼[タカセ](2019/12/07 23:32)
[160] 下級探索者と第三の剣技[タカセ](2020/01/03 23:19)
[161] 下級探索者と剣士でない剣[タカセ](2020/01/06 00:35)
[162] 下級探索者と真犯人[タカセ](2020/01/07 00:37)
[163] 下級探索者と迷宮主[タカセ](2020/06/10 19:33)
[164] 下級探索者と邑源の技[タカセ](2020/01/10 19:13)
[165] 下級探査者と迷宮に眠る刀[タカセ](2020/04/21 01:45)
[166] 下級探索者(偽装)と大華災[タカセ](2020/01/16 21:20)
[167] 監獄少女と水狼隊長[タカセ](2020/01/18 19:24)
[168] 監獄少女と怒る理由[タカセ](2020/01/22 18:21)
[169] 監獄少女と白い狼[タカセ](2020/01/26 00:54)
[170] 監獄少女と監獄の怪談[タカセ](2020/04/21 01:35)
[171] 監獄少女と赤い鱗[タカセ](2020/04/16 00:20)
[172] 監獄少女と千尋の明かり[タカセ](2020/05/10 19:35)
[173] 監獄少女と監獄長[タカセ](2020/05/07 02:09)
[174] 監獄少女と極上の餌[タカセ](2020/05/16 05:42)
[175] 監獄少女と蘇る迷宮[タカセ](2020/06/06 22:37)
[176] 監獄少女と携える武具[タカセ](2020/06/12 02:15)
[177] 弱肉強食[タカセ](2020/06/12 16:32)
[178] 監獄少女と迷宮特性[タカセ](2020/07/03 22:45)
[179] 監獄少女と絶対捕食者[タカセ](2020/08/08 22:54)
[180] 監獄少女と龍の戦い[タカセ](2020/08/19 07:36)
[181] 監獄少女と悪夢の島[タカセ](2020/08/30 23:56)
[182] 剣士の足跡とその影響[タカセ](2020/08/29 22:36)
[184] 薬師の(監視者付き)日常[タカセ](2020/09/04 17:23)
[185] 薬師と翼王女の免罪符飲み会[タカセ](2020/09/12 22:41)
[186] 剣戟狂い女侯爵と根あり草[タカセ](2020/09/16 15:56)
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[22387] 序 ②
Name: タカセ◆f2fe8e53 ID:4e98e308 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/08/21 00:19
「デュラン! デュラン! …………駄目だ。反応がない。まさかこの短時間でやられたというのか?」


 何度呼びかけても通信魔具から返答の声が聞こえてくることはない。

 部下の一人が侵入者と接触すると連絡を入れてきたのはつい先ほど。

 その直後に連絡は途絶した。

 離宮守備隊に選抜される騎士は優秀な人材で固められている。

 特に半年前の事件の後も残った者達は少数ではあるが、国内最精鋭といっても過言ではない。

 それがたった一人の侵入者に手玉に取られ、その中でも実力者のデュランが連絡を絶つ異常事態。


「22分岐付近の者は引き続き侵入者の現在位置確認! 発見してもうかつに仕掛けるな! 他は近くの者と二人パーティ形成。再度包囲準備! 足止めし連携戦に持ち込む! 相手は上位の探索者かも知れん! 包囲完了しても油断するな!」


 離宮直衛守備隊の長を務める中年騎士は、侵入者が驚異的な実力を持っていると判断し緊迫した声で指示を下す。

 守備隊に属する騎士達は特別顧問の師事の元、迷宮で誕生した剣術を身につけている。

 生物として上位存在である迷宮の怪物達を相手取るために生み出された実戦的な迷宮剣術は単独戦闘を基本とするが、パーティによる連携戦も派生技法として重要視され一対多であるこの状況には適しているといえるだろう。

 ただでさえ広い網の目をさらに広げる事にはなるが、各個撃破され食い破られるよりはマシだという決断であった。

 しかし守備隊長には一つ懸念がある。

 侵入者の正体が北大陸に存在する迷宮。

 世界で唯一の生きる迷宮群である【永宮未完】を踏破し神の恩恵である身体能力強化【天恵】を得た者……それも最高峰の上級探索者だったらという恐れだ。

 天恵強化は迷宮外では著しく制限されるが、それでもある程度の効力を発揮する。

 そして時間制限はあるが迷宮内部と同等の超越した力を解放する切り札【神印開放】が探索者には存在する。

 能力開放状態の探索者に対抗する術は一つだけ。同様に能力解放した探索者を当てるしかない。

 だがそれについては問題はない。

 ここルクセライゼンにおいて正騎士へと任命されるには、準騎士としての経験とは別に中級以上の探索者である事が必須条件となっている。

 守備隊に籍を置く者は全てが正騎士にして中級探索者。

 まして離宮詰めの騎士達には、非常時用に自ら得た神印宝物や国より下賜された物を常時その身に帯びていた。 

 
「侵入者が神印開放を行った場合は私が対処する! お前達は即時待避し離宮に残る者達と防衛に専念」


 守備隊長も若かりし頃は一人の探索者として鍛錬を積み重ねてきた。その証ともいうべき物が右腕で燦然と輝く銀製の精巧な飾りの施された腕輪だ。

 蔦薔薇をモチーフとした腕輪に咲くのは赤い宝石によって再現された一輪の花。石の中央には森を司る中級神の印が刻み込まれている。


「侵入者が陽動であり伏兵の恐れも考えられる! 伏兵が存在した時は合わせて順次解放! 帝都に連絡! 下の砦に救援要請も出せ! 私が許可する!」 


 切り札である腕輪に無意識に触れながら、侵入者警戒時よりもさらに引き上げた準戦時対応へと移行する指示を守備隊長は下す。


 ルクセライゼンは大陸を丸々一つ支配下に置く大帝国である。

 だがその実態は一枚岩ではなく、むしろ無数の国が集まって出来上がった寄り合い所帯ともいえる。

 これは南方大陸統一の理由が、当時北方大陸で起きた世界的異変に対抗するための緊急的な意味合いが強かった所為だろう。

 その脅威も既に過去の物となり200年以上。平穏な時代での商業的な発展が行き詰まりつつある中で、最近では広大な帝国のあちらこちらで争いの火種が燻り始めている。

 その中でもっとも大きな火種となり、そして現皇帝にとって最大の弱点である者が龍冠には存在する。

 警戒厳重な龍冠。その最深部まで潜入を果たした侵入者に対して守備隊長が過剰ともいえる反応を示したのは、いつ内乱が始まってもおかしくない空気を常日頃より感じ取っていたからであった。

 この判断は全くの見当違いであり、むしろ押さえつけられていた火種自らが燃え広がる切っ掛けとなる、ただの家出だったと知るのはもうしばらく後であった。
















「むぅ……変わった」


 雨の森の中、次々と木や枝を飛び移りながら目的の場所を目指していた少女は周囲の気配から騎士達の配置が変わった事を敏感に察知し、太い枝の上に着地して一端立ち止まりさすがに荒れた息を整える。

 いくら枝その物は太くても、風は強く吹きあれ、雨に濡れており滑りやすく、ましてや右腕には先ほど騎士を殴り倒した自分の身長の倍もある燭台を担ぎ、左てだけで幹を掴んだだけの不安定な体勢。

 だというのに困った顔を浮かべる少女の姿から、木から落ちるというイメージがわいてこない。

 不安定な足場でも微動だにしないバランス感覚の良さもあるのだろうが、どうにも野性動物的な雰囲気が少女からにじみ出ている所為だろうか。


「これでは半年がかりの私の綿密な計画が台無しだ……お腹すいた」



 待ち望みようやく訪れた春嵐。だが逃亡計画がのっけから躓いたことに少女は不機嫌そうにつりめ気味の目をさらに尖らせて眉を顰めたが、胃がキューと小さく鳴って自己主張したことに気づき息を吐いて少しだけ気を抜く。

 現在位置周辺には遊歩道からは少し離れていて木も生い茂っているので、姿を見られることも無く、生体探知されても気配を押し殺して動いていなければ、小動物と思うはずだ。。

 周囲を見渡して状況を考えた少女は、逃亡の最中だというのに大胆にも小休止と決めて立っていた枝に腰を下ろした。

 頭と右肩で燭台を押さえつけると、外套の中に左手を突っ込みごそごそと漁る。

 懐から取り出した少女の手には大きな林檎が一つ握られていた。


「むぅ。失敗だったか。もう2,3個持ってくれば良かった。まさか森を出る前に食べることになるとは思わなかったな」


 幼い外見には似合わない尊大な口調の少女は、真っ赤な林檎を残念そうに見てから、雨に濡れる事も気にせず林檎にシャリッとかぶりついた。


「ん。やはり美味しい……探知結界に察知されたのは誤算だったが忍び込んで正解だったな」


 その甘さに今度は年相応の無邪気な笑顔を浮かべる。

 わざわざ地下倉庫に林檎を取りに行かなければ察知される事もなく、もっと楽に逃げ出すことが出来ただろう。だが少女にはそんな考えは毛頭ない。

 旅立つ前に一番の好物である中庭の庭園で採れた林檎を持っていきたかった。これが全てである。

 現にこうやって林檎は手元にあるのだから、その数と早々と食べてしまう事に対する不満はあるが、それ以外は特に気にしていない。

 良く言えば大らか、悪く言うなら大雑把。あまり細かい事にこだわらない所がこの少女にはあった。


「それにしてもどうするか……さすがにさっきみたいな不意打ちは、二人相手では無理だな……捕まればミュゼに叱られるし、お祖母様が戻られたらお仕置きされてしまう……大願成就のためにも戻るという選択はありえない……かといって階段回廊の方から人が廻ってくる気配もないか」


 林檎をしゃりしゃりと食べながら、少女は捕まった時の未来を考えた。

 従者にして従兄弟の姉に怒られるのもさることながら、普段が優しい祖母が怒るともう一人いる厳しい祖母以上に恐ろしい。

 その事をよく知る少女は怒りの様を想像しびくっと背筋を振るわす。

 ましてや守備隊の一人を思いっきり殴り倒した事が知られれば、過去最大の怒りとお仕置きを貰う事は必須。 

 先の事を考えるなら、今回は諦めて次の機会を伺うという選択肢もあるのだろうが、叱られたくはないという子供らしい思いが少女にもう後には引けないと決意させていた。

 だがそう易々と思うようにいかない事も少女は重々承知している。

 不意をつけたのはあくまでも先ほどの騎士が少女の存在に驚き油断していたからにすぎない。

 逃げるだけなら後れを取る事はそうそうないが、直接的な戦闘では守備隊騎士達には到底及ばない。

 逃げ続けて引っかき回していればそのうちに業を煮やし、下の湖へと続く唯一の道である階段回廊を封鎖している騎士達の一部も追跡に来るだろう。

 後は手薄になったその隙に突破すれば良いという予測も外れてしまった。

 唯一少女にとって有利なのはまだ自分の正体がばれていない事くらいだろうか。

 しかし先ほど倒した騎士は通信魔具は壊して縛り付けて森に放置したが、いつ目覚めるか判らない。

 騎士の口から正体がばれたら追っ手の騎士達も、相手が少女なら多少のことなら大丈夫だろうとある意味遠慮が無くなってくる。

 もっと早く階段回廊に近づけていれば、他の手もあったかも知れないが、まだここは離宮と回廊の中間点ほど。

 突破しても突破しても回り込んでくる巧みな騎士達の配置で思った以上に、南に下れなかったのが痛かった。


「バレイドめ。頭は硬いがやはりお祖母様が選んだだけあって優秀だ。しかも勝負に出たな」


 騎士達の配置が換わったのは、必要以上にこちらを警戒し森に騎士を分散させるのを止めてパ-ティによる連携戦を仕掛けてくる兆候だろうと、守備隊長の慎重でありながら必要とあれば大胆な手も打つ性格から少女は予測する。

 一対多の状況になれば不意を突くのは難しく、早々に捕まるのは必至。

 だが網の目が広がり立て直しが出来ていない今この瞬間が最後の好機である事も事実。


「ん……仕方ない。抜け道と潜伏でいくか……登ったことはあっても降りたことはないが、まぁ私なら何とかなるだろう。ちょっとお腹もふくれたし全力だな」


 まだ幼くあるが明晰で回転の速い頭脳を持つ少女は活路をすぐに見いだし、芯だけになった林檎を名残惜しそうに見てから口に放り込むと立ち上がる。

 目指していた階段回廊へのルートをあっさりと見限り、林檎の芯をポリポリと囓りゴクリと飲み干す。

 先ほどまで引っかき回す為にわざと抑えていた移動速度を全力にし、包囲網が再度配置される前に抜けようと、強い風が吹き荒れる中を西へと向けて突き進み始めた。



















『再発見! っ! さっきよりも速いぞ!? 猿か!?』


『西に向かってる! あっちは崖だぞ!?』


 通信魔具から次々と上がる部下達の驚愕の声に守備隊長であるバレイドは忌々しげに眉を顰めながら水をかき分ける足を速める。

 風雨はますます強くなっている。

 春嵐本体がもうすぐ其処まで迫っているのだろう。

 先ほどまでは何とか南に抜けようとする様子が見られた侵入者の動きは急に変わった。

 こちらが再包囲を完了する直前に姿を現し動き始めたかと思うと、まったく別の方向へさっきほどよりも速い速度で動いている。

 南側へ抜けるルートへと重点的に配置していた事も裏目に出て網を完全にすり抜けられ追いかける状態。

 だが侵入者が一直線に向かっているのは西側……そちらは断崖絶壁の崖しかない袋小路だった。


『ひょっとして何も知らないで、浮遊か飛翔で崖を降りる気なのか?!』


『馬鹿野郎! 魔力吸収域のことなら俺んとこの三歳のガキでも知ってる! そんな訳あるか!』


 龍冠に立ち入る事ができる者は極限られている。

 しかしその大まかな風景や特徴等は始祖の英雄譚や過去の皇族が描いた風景画等である程度は知られている。

 特に島を取り囲む湖を魔物を迎え撃ちながら越えていく始祖達の苦難は、吟遊詩人達によく謳われる場面である。

 湖の湖底から上空は雲まで届くほどの高さで広がる特殊な領域【魔力吸収域】が広がり、生命体から魔力を吸収し、発動した魔術さえもを打ち消してしまう。

 ここではよほど膨大な魔力量を持つ存在が、吸収されるよりもさらに膨大な魔力を込めない限りは魔術を行使することなど出来無い。

 それこそ龍でもなければ魔術行使は不可能。

 そんな事は子供でも知っている。

 浮遊も飛翔も使えず高い崖から身を躍らせるなど無謀の極み。

 もし無事に降りれたとしても、水深が深い為に凍る事はないが雪解け水で出来た湖水は容易く人命を奪うほどに冷たい。


「落ち着け! 逃げられないと悟りを背後関係を探られないために自ら命を絶つつもりやもしれん! それに上級探索者であればこの程度は何とかなる! むしろ森を抜ければこちらの物だ! 油断せずに追い詰める事に専念しろ!」


 慌てふためく部下達に、バレイドは叱咤の声を叩きつける。

 森から崖の間には僅かだが開けた平地があり、其処ならば数の有利が最大限の力を発揮する。

 侵入者の思惑は予想通りなのか、それともまったく違うことか。

 だがどちらにしてもやる事は変わらないとバレイドは左腰の鞘を抑えながら森の出口へと続く遊歩道をひた走る。


「……っ! 危ね! 根が張り出してる! 後ろ! 気をつけろよ!」


「……っちだ! 違う! 左前方! そっちの裏側に抜けた!」



 徐々に森の木々の向こう側に幾つもの灯りが浮かび、通信魔具越しではない怒声や罵倒が聞こえてきた。

 森の出口へと近付く事に徐々に騎士達が集結している。

 それは侵入者が徐々に近付いているということでもある。

 走りながらも息を整え、いつでも抜刀できる体勢を作ったバレイドは森を抜ける。 

 防風林である森を抜けると、風はより強く吹き荒れており、木々に遮られていた大きな雨粒が音を立てながらバレイドの軽鎧にぶつかっていく。

 途切れなく落ち始めた雷光が、周囲を真昼のように明るく染めている。

 止むこと無き雷光と轟音は、大陸中を蹂躙した春嵐がついに龍冠直上に到達した証だ。

 照らし出された崖の先端に探していた侵入者の姿があった。 


「其処までだ! 動くな!」

 
 崖の直前で足を止めて立ち止まる侵入者の背中に向けて、バレイドは抜刀して警告の声を発する。

 だが侵入者はバレイドの警告には何の反応もせず湖を見ている。

 諦めたのか、それとも何か企てているのか。

 その背中からは窺い知ることは出来ない。


「半包囲陣! 距離はこのまま!」


 彼我の距離は20歩ほど。距離を保ちながらバレイドは侵入者の出方を見る。

 次々と森を抜けてくる騎士達は、バレイドの指示に従い同等距離の半円形の配置についていく。

 多方向からの同時攻撃を捌ける者などそう多くはいない。

 最後の騎士が森を抜けて配置につき包囲網が完成すると同時に、侵入者が突如振り向いた。

 騎士達が一斉に身構える中、侵入者の声が響き渡る。


「ん。揃ったか。やはりお前達は優秀だな。ここまで追い詰められるとは思わなかった」


 雷鳴轟く中にも朗々と響く幼くも通る声と、それには不釣り合いな傲岸不遜な物言いが響き渡った。

 どうやら侵入者は諦めたのでも、何かを企てていたのでも無く、ただ全員が揃うのを待っていただけだと、その正体と共に騎士達全員が一瞬で気づき呆気にとられ声を失い狼狽する。


「これなら安心して去ることが出来る。だから褒美だ。ミュゼに手紙を残した以外は誰にも何も言わないつもりだったが別れの挨拶をする事にした。感謝しろ」



 それは騎士達にはあまりにも聞き覚えのある者の声と話し方だった。 

 彼等が必死で隠し通してきた秘匿存在。

 帝国の命運を握るといっても間違いではない少女。

 予想外の事態にバレイドも動けずにいる所で、少女は顔を隠していたフードを脱ぎ捨てる。

 黒檀色の艶のある黒髪と少し吊り気味の勝ち気な目に浮かぶ同系色の瞳で騎士達をぐるりと見回すその顔には、楽しげな笑顔が浮かんでいた。


「私の事情は皆知ることだな。だからあえて何も言わん。とにかく私は生まれ変わることにした。だからこの姿で会うのはこれで最後だ。バレイド。お祖母様達のことは任せたぞ。お前なら信頼できる。あぁ、それとデュランは森に転がしてあるから拾ってやれ。武器代わりに持ち出した燭台で思いっきり殴り倒したが、蝋がクッションになったから死んではいないだろう」


 妙にサバサバしているが遺言めいた物を一方的に言い切った少女はくるりと騎士達に背中を向けると遙か眼下の湖へと目をやり、そしてあっさりと崖に向かってその身を投げ出した。


「「「「「「「っ!」」」」」」」


 予想外の事態に固まっていた騎士達が思わず息をのみ、幾人かはとっさに少女が身を投げた崖に駆け寄ろうとする。その先頭は守備隊長であるバレイドだ。

 何としても助けようと自然と身体が動いていたのだろう。


「くっ!」


 しかし突如目の前が明るく染まったかと思うと、間髪入れずに衝撃を伴う轟音が響き渡り、バレイドの身体は吹き飛ばされていた。


「っ! なんだ今のは!?」


「ら、落雷です! けが人いるか!?」


 被害を免れた騎士の一人が答え、同僚の無事を慌てて確かめる。

 少女が身を投げ出した崖。まさにその位置に巨大な落雷が降り、騎士達の接近を阻んでしまったのだ。


「雷だと。なぜよりにもよってこの瞬間に」


 衝撃で痺れる身体を無理矢理に力を入れて立ち上がったバレイドは、崖に駆け寄り遙か下方の湖面を見つめる。

 今飛び降りたはずの少女の姿は確認出来ない。

 いつの間にやら雨は止んでいた。

 天を覆い尽くしていたはずの黒雲は忽然と姿を消し、雲一つ無い満天の星空と白く染まる月に照らし出される夜空が姿を現していた。

 嵐の残滓は周囲に残る水と未だ強く吹き荒れる風だけ。

 今年の春嵐も龍冠直上で忽然と姿を消してしまった。

 それと同じように少女もまた、彼らの目の前から姿を消していた。


「なぁ……夢じゃねぇよな。あれって。まさか絶望して命を断たれたってことなのか」


 異常事態に誰もが呆然とする中、腰が抜けたのか座り込んでいた一人の騎士が声をあげる。

 少女の最後の物言いと状況は自殺したと思わせる。

 だが言葉を発した騎士本人も信じられないといった表情を浮かべていた。


「んなわけあるか! 自分から命断つような性格か!?」


 同じように倒れていた隣の騎士が立ち上がりながら怒声をあげる。

 理不尽すぎる状況に抑えきれない怒りがわいているのだろう。


「だがよ。ここ一年間の間に起きたこと考えてみろよ。お母上を亡くした上に出生の事まで知ったんだぞ。その上魔力も瞳の色も無くして、かなり落ち込んでただろ……万が一って事も……悪い。やっぱ無いわ。そうなると何時ものアレか」


 倒れ込んだ拍子に泥だけになった軽鎧を手で拭う騎士が溜息混じりの声で呟くが、少女の性格を思いだしたのか、途中で意見をひるがえした。

 一応は不敬罪に当たるので言葉を濁しているが、それは少女の代名詞ともいえる特徴だった。


「アレだろ」


「アレだな」


「どうにかならんのか突き抜けたアレっぷりは。つーか助かる目算あったのか。ここから飛び降りて」


 ここにいる者達は皆、幸か不幸か少女の能力と性格をよく知っている。

 傍若無人で傲岸不遜。

 常に強気一辺倒で引くことを知らない猪突猛進ぶり。

 そして年齢離れした異常なまでの戦闘能力と、それすら霞むほどの異常思考。

 世界に絶望して死ぬくらいならば、世界中の自分が気にくわない者を全て斬ればいいと真顔で宣う少女ならば、どのような状況であっても自ら命を絶つという事は有り得ない。

 崖から飛び降りても助かる確信か方法があったのだろう。

 少女だけに通用する思考の中では。

 ここにいたり少女が何時もの特徴的な行動に出たのだろうと、全員が一斉に考えどうにも抑えきれない溜息を一斉に吐き出すとどうしますかとバレイドに目をむけた。


「すぐに湖面及び周辺部の捜索。それと帝都の陛下……はまずいな。カヨウ様に連絡。ケイネリアスノー様が過去最大の”アレ”な事をしでかしたと。それで伝わる」       


 少女の特徴。

 それは常人離れした肉体能力と卓越した頭脳を持ちながら、ある事情からあまりにも一般離れしてしまった思考に基づき、他者には理解できない独特的すぎる行動を起こす事にあった。

 端的に言えば少女は”バカ”であった。


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