階段を駆け上がり二階へと足を踏み入れると、建物内の雰囲気が一気に変わる。
一階は実務優先の為か、壁が少ない柱が目立つ開放的、天井からは部署を示す看板が下がり、その下に事務机が並ぶ、街の役所と変わらぬ作り。
だが二階はうって変わり、一直線で身を隠す場所などない長い廊下と、長さの割に少ない扉だけが目立つ。
ケイスが今駆け上がってきた中央階段があるがここは二階までで、さらに上の階層へ行くための階段は、一見するだけなら廊下の左右端にそれぞれ。
分厚い外壁に設けられた明かり取り用の小さな窓が天井付近に整然と並ぶが、鉄格子がはめられており廊下に格子状の影を落とし、薄暗く重々しい雰囲気がのしかかる。
魔力探知の術式が刻み込まれた部屋側の壁を剣で軽く叩いてみた手応えは鈍く、こちらも壁の厚さがかなり有り、物理的な盗聴を防ぐための役割があるようだ。
「ふむ、少し急ぎすぎたか」
どうにも罠めいた作りに足を止めて息を吐いていると、案の定、今駆け上がってきた階段に、魔力光が光り、強固な術式を持つ魔術障壁が出現し、退路をふさぎはじめる。
即座に次に来る手を予測し即断し、ケイスは両手を振る。
「双龍黒鶫!」
無造作に腰ベルトに挟んでいたナイフ二本を左手で引き抜き、腕を振って右手側の廊下の先の外壁に向かって投擲。
同時に自身は左手側の廊下に向かって、再び走り出す。
音もなく飛翔したナイフは壁に触れる直前に互いに接触し、内部に込めていた闘気の反発により、物理的にふくれ上がり爆発しその破片をもってして壁に大穴をあける。
急に大穴があいたことにより、よどんだ空気を押し流すように外から風が流れ込んで、以前ほどの長さではないが、肩口まで戻ったケイスの黒髪を揺らす。
とりあえずいざというときの脱出口と、薬を使われた際の最低限の備えをした。
さすがに自分たちの拠点たる管理棟内で、即死系毒物を使うことはないだろうが、暴徒鎮圧用の麻痺薬のたぐいは監獄内では常備している。
元々毒物にはある程度の耐性を持つが、風の流れで薄まれば、戦闘に問題ない程度までリスクを下げられる。
一瞬の判断で状況を察し動いたケイスはそのまま階段に向かうのではなく、もっとも手近にあった扉へと剣を振るいその蝶番を一瞬で切り落とし、そのまま扉へと蹴りをぶち込み室内に向かって扉を蹴り倒す。
「うぉっ!?」
くぐもった男の声とガラスが割れる音が扉の裏側から聞こえるが気にせず、扉を踏みながら室内へと乱入し左右に視線を飛ばす。
狭い室内には武装した看守兵が4人。唖然とした顔で固まっている。男の一人は金属製の投網を持っており、残り三人は長柄の槍を装備していた。
足下の扉の下から液体が漏れてきたが、すぐに揮発し薄い煙を放ちはじめる。
捕縛するはずのケイスがいきなり部屋に飛び込んできた事に理解が追いつかず、動揺したままの四人の足首辺り切り裂く。
「クっ!?」
床に倒れた看守兵達は苦しげな声をあげつつも、上半身を起こして槍を振ろうとしたが、床に立ちこめてきた煙を吸い込むと、すぐに手足が弛緩したのか倒れ込む。
やはりこの階自体が、乱入者を捕らえるための罠のようだ。
退路を断ち、薬と投網で少人数に対応。大勢の場合は長柄の槍で槍衾で防ぐ。
となれば、他の部屋も……
手近に落ちた槍を拾ったケイスが廊下へと戻ると、他の部屋からわらわらと看守兵達が飛び出してくる。
普段から詰めているのか、それともケイスが護送されてきたから一応待機をしていたのか。
どちらかはわからないが前列の看守兵達が槍を構え通路をふさぎ、さらにその背後には魔術杖らしき短剣を構えた者達。
「ガキ一人!? 紫炎棍はどこだ!」
「侮るな! 魔術探知に反応しなかったって事は、魔具だけでなく薬品使いかもしれんぞ!」
頑丈な外壁にあいた大穴と、見た目だけは華奢な美少女であるケイスを見て驚きの声が上がる中、隊長格らしき先頭の看守兵が緊張気味の声で警戒する。
やはりその男の腰の剣には、柄辺りにいくつも宝石が埋め込まれている。
どうやらケイスではなく、二つ名を持つロッソを警戒して作られた警備体制のようだ。
それは理解したが、どうして自分が魔具使いなどと呼ばれているのか、見当がつかない。
確かに魔具は使うが、それはあくまでも補助的な物で、ケイスの本質は剣士。
「監獄長はどこだ。やつはこの島で行われている違法品密輸出に関わっている可能性が高い。私を辱めようとしたことも含めて、その真偽を吐かせる。邪魔するな。悪事に荷担する気がないやつは見逃してやるが、刃向かうならばここから先は手加減をしてやらんぞ」
左右を取り囲む包囲網を一切気にせず、堂々と宣言して見せる。
「密輸だと! 戯言に惑わされるな! 手足を狙え! 監獄襲撃などを企てた者の背後関係を吐かせるから殺すな!」
包囲網にも臆すことなく堂々と問いただしたケイスに、下級看守兵たちはいくらか動揺の色を見せたが、隊長格の男が声を張り上げ叱咤すると、一斉に槍が突き出される。
その穂先が体を捕らえる前に、ケイスは槍を床に突き刺しながら軽く跳躍し、柄頭を踏み台にしさらにもう一度跳ぶ。
二段跳躍によって突き出された槍を飛び越えたケイスは、天井すれすれで体をひねり、そのまま天井を蹴って、眼下の看守兵達の集団のど真ん中へ落雷の勢いで降り立ちつつ剣を振る。
その一降りで数人を一気に切り伏せたケイスだったが、その一撃に耐えかねたのか刀身が砕け散る。
物はいいが、切れ味追求で耐久性に劣りすぎてやはり趣味でないと思いながら、今し方切り倒した看守兵達に飛びつきそのベルトからナイフを拝借。
集団のまっただ中で短剣二刀流による乱戦を開始した。
「だから私は反対したんだ! あの化け物を受け入れるなど! ましてや生け贄にするなんて!」
海底鉱山監獄獄長ナモンは、会議室の一席で頭を抱えうめき声を上げる。
周辺国家が共同運営する海底監獄獄長には、距離的に最も近く対応がしやすいロウガの役人が就任するのが通例となっているが、その役目は主にロウガへの定時報告のみ。
労役において生まれた鉱山収益国家間による実務的な話し合いや折衝はロウガで行われているため、監獄長だからといって旨みなど無く、いわゆる閑職に当たる。
それどころか、ロウガまで高速船で半日とはいえ、数ヶ月に数日だけ与えられる長期休暇以外は、休暇でも島内に止まらなければならず、左遷先としてもっとも不人気な役職の一つに上げられるほど。
だからこそ、はやく本土へと戻るためにも、そして戻った後に少しでもマシな役職に就けるようにと、表沙汰に出来ない後ろめたい仕事を受けようとする、受けていた歴代監獄長も多い。
上の者とつながりのあった収監者を口封じのための秘密裏の処刑。
政治犯として収監された貴族への便宜。
収監者が過去の罪を自白したという体を取った、有力商人子弟の犯罪隠匿協力等々。
前期の出陣式における謎の襲撃犯による式典失敗の責任の一端を覆わされ、左遷されたナモンも、8ヶ月ほど前に監獄長として就任してからは、歴代監獄長と同じく、表舞台に戻るためいくつかの裏業務に手を染めている。
特に就任と同時期にロウガ港では取引が難しくなった民間船を使った密貿易の代行を引き受ける事で、上への賄賂と点数稼ぎを積極的に行っており、それなりに順調にこなしてきた。
あと半年も貢献すれば、この島から脱出できて、大手工房相手の税務監査という実入りの多い役職につく目さえ見えてきたというのに。
先ほどまで階下から響いてきた怒声や爆発音は、すでに会議室がある三階から響き渡るようになり、部屋前では激しく打ち合う金属音や、野太い断末魔の悲鳴が幾度も響いている。
その声の主達は、先ほどまでロウガから届けられたケイスに関する申し送り書類を見せ、対策を話し合っていた各棟の看守兵長達だ。
出身国は違うが、看守長や上級看守達はだれもくすぶっていたり、うだつが上がらず引退した中級探索者ばかりで、金で買収しやすく、報酬を前渡しすることで密貿易に積極的に協力はしているが、他国の者ばかりで、ケイスをよく知らずにいたのが、あまりに運が悪すぎた。
申し送り書には魔具使いなどと虚偽の説明がされていた事もよろしくない。高級魔具を自分の実力と勘違いした初級探索者の小娘と侮ったためか、次々に返り討ちに遭っているようだ。
密輸品が納められていた第6倉庫で爆発が起き、その実行犯がケイスで、こちらに向かってきていると報告があがってきた時には、すでにこの展開がナモンの脳裏にはよぎっていた。
それ以前にケイスをこの監獄に二ヶ月だけとはいえ収監する提案がロウガ議会から打診された段階で、嫌な予感はしていたのだが、現実はその予感を遙かに上回る悪夢としてのしかかっていた。
せめて、そうだせめて、ここで死んでくれ。殺されてくれ。誰でもいいから相打ちでもいいから殺してくれ。
ケイスさえ死ねば、死んだ看守長達に密貿易の主犯を押しつけ、ごまかすことが出来るかもしれない。
剣さえまとも握ったことのないナモンは、身勝手にも祈るしかないが、その祈りはあっさりと、無碍に打ち砕かれた。
轟音と共に砕かれた扉の破片と一緒に胸のど真ん中に折れた剣を突き立てられた看守長の一人がテーブルをなぎ倒しながら床に崩れ落ちる。
びくびくと痙攣する体と顔は驚愕と恐怖の色で固まり、瀕死状態でも心臓はか弱く動いているのか、その胸元に突き刺さった剣の刃もとからは、鼓動に合わせて弱々しく血が吹き出す。
「ひぃっうっぷ!?」
砕かれた扉から見える廊下から、血と臓物が生み出す濃厚で生暖かい臭気が室内へと流れ込んできて、監獄長は悲鳴と共に遡ってくる胃液を口元からこぼす。
扉の陰からおぞましい気配と共に姿を現したのは、全身に返り血をまといながらも、一切色褪せることのない幼き美貌を持つ美少女風化け物だ。
「むぅ。また折れたか。やはり刃の作りはよいがもろいな。やはりお爺さまとは違うな。闘気を込めたのに一撃で殺しきれなかった」
誰かから取り上げたらしき折れた剣を見ながら顔をしかめたケイスは、最後に倒した看守兵長に近づき、まだ息があることを見ると、折れた剣をそのまま顔面にぶち込んで、頭部を潰して絶命させる。
息が絶えたのを見届けてから看守長が右手に握りしめたままの長剣を取り上げる。
一切躊躇のない殺し方はナモンが前回の休暇で見た、双剣の名の下に行われた武闘会で他の参加者を圧倒的実力で血祭りに上げて虐殺したケイスに間違いない。
しかも今回は身代わりの魔術アイテムもない状態だというのに、本気で殺しに来ていると分かる躊躇のなさだ。
「こ、殺さないでくれ! わ、私は、おま、いや君に危害を加える事には反対していたぎゃっあ!」
敵意はないと両手を挙げたナモンが命乞いを言いきる前に、一足飛びで近づいたケイスがナモンの両手の平をナイフで貫き通して、その刃先を椅子の肘置きへと深々と突き刺し、抵抗ができないように冷徹に処理する。
火の塊を押しつけられたような激痛に、悲鳴を上げのたうち回りそうになるが、覗き込んできたケイスの瞳が黙れと無言で語り、必死に声をこらえる。
「私は耳がよい。おまえが、私の収監や慰み者にするのは、反対だったと先ほど一人で言っていたのは聞こえていた。だから殺さないでやる。だからおとなしく質問に答えろ」
その表情や声だけ聞けば可愛らしい少女そのものだが、やっていることも、存在も、極めて危険な殺戮者そのもの。
先ほど共倒れでいいから死んでくれと祈っていたことを知られれば、間違いなく躊躇無く殺しに来る。
「こ、答える! わ、私に答えられることは何でもしゃべる!」
激痛に脂汗を流しながら、ナモンは必死に何度も頷く。
ロウガの上役も、密貿易に関わる裏社会の顔役達も、そしてこの島内に住まう本当の最高権力者も今は知ったことではなかった。
どうせそれらも、そう遠からずこの化け物のアギトに掛かるはずだ。どうせ死ぬ連中を、自己保身のために売る事に何の躊躇がある物だろうか。
「私の収監に反対だったのは、おまえ達のしている密貿易が漏洩する恐れが高かったからか?」
命惜しさにすぐに仲間を簡単に売ろうとする辺りあまり好きではない人物ではあるが、手を見る限りまともに剣を振ったことさえないように見えに、さらには無抵抗すぎるので、とりあえずいつでも切れると考えケイスはまずは最初の問いを口にする。
「そ、そうだ。き、君は、鬼翼、ソ、ソウセツ殿の関係者なのだろ。君の護送に、直属の部下をわざわざ送ってきたくらいだ。だ、だからひょっとして今回の収監もソ、ソウセツ殿による潜入捜査ではと疑っていたんだ」
どうやらケイスがソウセツの部下、もしくはもっと近しい関係と早合点しているようだが、あいにく今のケイスはソウセツを嫌っているので、無用な心配というやつだ。
むしろおとなしく収監されてやるつもりだったのに、なぜそんな邪推をしたと、先ほどの見逃そうという気持ちが反転して、斬り殺したくなるが何とかこらえる。
「むぅ。迷惑千万な……ならばおとなしく牢に閉じ込めておけば良かろう。なぜ慰み者にするなどと言う話になったのだ」
「こ、ここの特別棟には、ひぃっ!」
不意に監獄長が見せた恐怖の顔色と、背後にわき上がった殺気に、ケイスはとっさに監獄長を縫い止めていたナイフを引き抜き、背後へと振るう。
堅い金属音と共に背後に繰り出したナイフがあっさりと叩き折られるが、その存外な力を喰らって利用したケイスは、監獄長の捕まえつつ背後から強襲してた相手と距離を取り、その顔を確かめようとして、すぐにあきらめる。
そこには先ほど確かに絶命させたはずの看守兵長が立っていた。
その胸や顔面には、半ばで折れた剣の刃先と、柄部分が刺さったままで、とても生きているとは思えない姿だ。
だがよく見れば、先ほどとは違う箇所がいくつかちらほらと見て取れた。
ケイスが防御用に回したナイフを叩き折ったのは、いつの間にやら看守兵長の指先から伸びていた鋭い刃物のような爪。
先ほど剣を取り上げた時は普通の人間のものだったはずの手には、内側から川や肉を食い破るように、赤い鱗が生まれてきて急速的に全身を覆いだした。
それと共に顔面に刺さっていた柄頭の埋め込まれたいくつかの宝石のうち、もっとも小振りな、それこそ引き立て役の一つとして埋め込んだような目立たない赤い小さな石がほのかに点滅を繰り返している事にケイスは気づく。
その時になって初めて自分の体に宿る血の一つがざわめきだす。
「柄の石は転血石か……それも火龍の血で出来たレッドドラゴンブラッドストーンだな」
どうやらケイスの闘気を受けて柄の石が活性化してしまったようだ。
活性化していなくても純血の火龍であるノエラレイドがいればすぐに気づいたのだろうし、使わないように注意してくれたのだろうが、後の祭りだ
それと疑問は残る。
いくらケイスの闘気を受けて活性化したとしても、人の死骸を赤龍鱗を持つ竜人へと変化させるのは不可能だ。
明確な意志を持って浸食しなければ、竜人が生まれるはずはない。
周囲を思うままに、自分が望むままに変えようとする龍の意志がなければ。
その疑問に答えは生まれないまま、看守兵長の死骸は瞬く間に風船が膨張するかのように肥大化しつつ赤い鱗で覆われて、その顔面や胸に刺さった剣の破片を肉の中に取り込んでいく。
「ひっ! 死、死にたくない! に、逃げさせてくれ! このままでは餌にされる!」
「今の段階では私のそばか、ロッソのそばが一番安全だ。聞きたいことがあるから守ってやる」
事情を知っているのか床を這いずり逃げようとする監獄長の首を掴んだまま、ケイスは息を小さく吐く。
どうやら監獄長に聞くことが一つ増えたようだが、事態はこの男が思っているものより、さらに複雑になったと、ケイスは気づく。
なぜなら目の前でだけではない。島内でいくつか同様の反応を、血がざわめく感覚を捕らえているからだ。
不自然に装飾が過多だった柄。ただの悪趣味だと思っていたが、あれがあの転血石を隠すための物だったら。
それに気づかなかった自分の鈍さに少しだけ腹が立つ。
この島はケイスの先祖でもあるルクセライゼン皇帝が命を落とした激戦地であるが、同時に強大な赤龍の一つが討伐された地である。
龍はこの世の最強主にしてすべての生き物の頂点に立つ王。
そんな存在が肉体を失ったくらいで、死んだくらいで滅びるわけがない。
現にケイスが愛剣とする羽の剣に宿る先代深海青龍王ラフォス・ルクセライゼンがよい例だ。
羽の剣の柄に埋め込まれたのは、小さな砂粒のようにも見えるラフォスの骨のかけらがわずかだけ。
だが紛れもないラフォスの意志が、精神体がそこには宿る。
「竜人変化をこの目で見るのは初めてだ。口がなければ言いたいことも言えまい、待ってやるから早くしろ」
そのまま警戒をしたまま変化を見守っているとしばらくして看守兵長は全身が赤い鱗に覆われた竜人へと変わり果てる。
熊のような巨体となった看守長が放つ暴虐的な威圧感に気圧された監獄長が泡を吹きながら気絶してしまったが、ケイスは逃げる心配が無くなったと安心して、数歩横にずれつつ、剣を構えて備えた。
「喰わせろ! 邑源! 我の完全なる復活のために! おまえの血、肉を!」
完全なる変化と共に先ほどまでとは比べものにならない速度で、竜人が腕を振る。
腕の一振りごとに爪先が放つ風圧だけで、室内の机が砕かれ、壁に傷が次々について、窓が割れる。
だがそれらをケイスは紙一重で躱し続ける。しかもその顔に浮かぶのは、恐怖ではなくつまらなげな不満だ。
「もういい。期待はずれだ。本来の戦い方が出来ないならば出てくるな」
これ以上待っても他の引き出しはないと踏んだケイスは隙をみて一足飛びに腕の中に飛び込むと、剣を無造作に振る。
軽めに放ったようにしか見えない一撃で首をはね飛ばすが、それはあくまでも副産物でしかない。
ケイスの狙いは先ほど取り込まれた剣の柄頭の転血石。
切断した首の付け根からみえた柄頭の石を返す刀で破壊すると、竜人看守長の体はそのまま倒れこんで、今度こそ動かなくなる。
「ふん。いくら力が強かろうとも、まともに剣や格闘術を修練していない者が私にかなうと思うな赤龍」
尊大な物言いで剣を納めようとしたケイスは、刀身を見て眉をしかめる。
一刀で両断してみせたが、堅い赤龍鱗を切ったためか、全体にひびが入って使い物にならなくなっていた。
「むぅ、やはりお爺さまでなければ使い勝手が悪い、せっかく龍を斬る良い機会が生まれそうだというのに」
とりあえず自分が切るべき目標を見つけたケイスは、監獄長を担ぎ上げると、階下で奮戦しているであろうロッソに助太刀するために、割れた窓枠から外へと飛び出して近道することにした。