水路を遡った先は巨大な貯水池となっており、濁った水面から伸びた巨大な柱が整然と立ち並ぶ。
柱の向こうには巨大過ぎて遠近感が狂ってくる壁が行く手を塞いで広がっており、壁に設けられたいくつかの放水口から、滝のように水が流れ落ちて、水音を奏でていた。
水面上に作られたキャットウォーク上で、先行していた水狼と合流したルーキー一行は、周辺情報を聞かされていた。
「周辺探索で大きさは判明したが、迷宮区は上下左右に伸びていて横幅はさほど大きくない。この辺りが一番広くて、全体の形状は逆さにした壺型って所か」
水狼隊長ロッソ・ソールディアは、相棒である棍を軽く振って、ファンドーレが空中に投映していた地下水路地図に下級迷宮区域を重ね合わせる。
ロッソは横幅はさほど広くは無いというが、横幅は目測で4000ケーラを越える。それに上下も加われば、かなりの大きさとだと感じたのがルディアの素直な感想だ。
他の面々も地図に目を向けている中、ただ1人ケイスだけは少し後方に離れ、合流後にすぐに水狼の副長であり上級探索者のナイカを捕まえて、なにやら密談中だ。
一応ロッソの話に会わせて地図をチラ見したりと耳だけは傾けているようなので、時に注意する気は無いが、やけに真剣な顔をするケイスに対して、対照的に面倒そうなナイカの表情が気に掛かる。
だが気にした所で、自分が納得するか、自分で決めるまで、ケイスが口に出すわけが無いというのも、そろそろ年単位で数えた方が早くなった付き合いで判っているので、今はとりあえず放置だ。
「探索効率を考えるなら上か下がセオリーだ、しかし今回の侵入箇所が中央ということは、他に入り口は無いのか?」
「そこの壁に出ている放水口はかなりの数を見つけているが、レンみたいに液体状に姿を変えられる水妖族ならともかく、俺らじゃ無理だ。一番上に取水口もあったが、取り込み口に大型ゴミ排除用の仕掛けがしてあって、入ろうとしたら一瞬で粉みじんだろうな。もっとも中級の俺らや、上級のナイカさんが使い魔を飛ばしても弾かれるからここが初級迷宮だって判ったわけだがな……でだ、結局見つけたのはあそこだ」
一行のメインマッパーを勤めることが自然的に決まっていたファンドーレの質問に答えたロッソが、足を止めると手元にあった光球の1つを先行させ、壁側に向かうキャットウォークへと移動させる。
下位探索者達が使うただの灯り用の光球とは違い、光球にはよく見れば魔術文字が表面に浮かび上がっており、攻防探知一体型の付与が施されている事が判る。
これだけでなく、周囲に浮かぶ多くの光球に付与を加え長時間の維持ができるのは、中級探索者の中でも指折りの実力を持つ者と相場が決まっているのだが、あいにくというか当の今回の術者ロッソには、悪い意味で貫禄は皆無。
うだつの上がらないやる気の無い万年下級探索者という第一印象を覚える者が大半だ。
「俺らにはあの壁の辺りは、切り抜いた形だけは扉の形をしているが、黒一色で模様や色は判断できない。おまえさん達には、扉が見えるか、そしてその装飾が何色に見えるか。それが重要なんだよな」
光球が照らしだした壁は、ロッソの説明とは違い、壁の大きさのわりには小さいが、細やかな装飾がされた扉が1つみえた。
扉の縁や中央に埋められた宝玉の色は、キラキラと輝く金色をしている。
扉を彩る色の意味は、ルディア達も講義で習い、実際にいくつかの迷宮に挑んでいるので判っているが、実際に金色の扉を目にするのは初めてだ。
仲間達の目線が自分に集中したのを感じ取ったルディアは、小さく息を吐く。
始まりの宮以来、同期達が集まるときは自分が司会役というかしきり役にされるのが通例となっているのだが、どうやら今回の攻略も自分がリーダー役に自然と選ばれたようだと諦めて答える。
「金色です。装飾や中心部の宝玉が金色です」
「……マジで金なのか?」
「黄色では無く、間違いなく金色です」
「あー金か」
ルディア達が念を押して返した迷宮色の返答に、ロッソは渋面を浮かべ、魔術杖代わりの棍にだらっと身体を預けた。
誰でも、それこそ探索者でない者でも入ることが可能な特別迷宮区を除き、永宮未完の迷宮区は基本的に資格を持たぬ者の侵入はおろか、僅かな情報を与える事さえも許しはしない。
下級探索者であれば下級迷宮まで、中級探索者ならば下級から中級迷宮まで、上級迷宮に挑めるのは無論上級探索者のみというのが絶対のルールとなる。
資格外の者には迷宮区への侵入口となる扉は漆黒の闇としてしか映らず、その迷宮がもつ特色、色さえも知る事は出来無い。
水狼は副長という名の相談役につく上級探索者のナイカ以外は、全員が中級探索者で構成されており、ロウガ近郊の迷宮区の大半に対応が可能な構成となっている。彼らが入ることも知る事も出来ないのはそれこそ初級迷宮だけだ。
だから地下水路を探索し魔力の流れを追ったロッソ達水狼が、行く手を塞ぐ迷宮が自分達では侵入できない初級迷宮区であることまでは判っていたが、その迷宮色は、挑む資格があるルディア達が合流して、今初めて知る事が出来たが、その色が問題だ。
踏破にそれぞれの分野に特化した力が求められる他の色の迷宮と違い、金の迷宮踏破に求められるのは総合的な力。
他色同ランク迷宮を全て踏破できるだけの力が必要とされる、金の迷宮は同ランク迷宮の中では最難度を誇る迷宮となる。
その数は他色の迷宮に比べて極端に少なく、運が悪ければ探索者生活で一度も遭遇しないこともあるレア迷宮となり、その難易度、レア度にふさわしく1つの特徴を持つ。
それは金の迷宮迷宮主を倒せば、確実に神印宝物が手に入る事だ。
探索者や迷宮を語るときハイリスク・ハイリターンという言葉がよく出てくるが、金の迷宮はまさしく迷宮らしい迷宮と呼べるだろう。
「どうするよロッソ。金はさすがに予想外だ。長期戦になるぞ。上の判断を仰ぐか? 今の時間なら評議会が開いてんだろ」
「いやいや。方針なんてすぐ決まらないでしょ。それにこの子達が戻るまで待機とかいわれても、他のガーディアン寄ってきて面倒なことになるわよ。今はレンジュウロウが引き離してくれているけど、他のグループだっているし。さすがに今の手持ち装備じゃ全力戦闘は後数回が限度。もって数日って所だよ」
通信用神術を使えばすぐに連絡がつくと提案した神官戦士ギド・グラゼムに、水路伝いに水棲使い魔を飛ばして周辺警戒を続ける水妖族のレンス・フロランスが、武具の状態や消耗品の量から、ルーキー達が戻るまでここを維持するのは無理だと断言する。
「さすがに金相手に2パーティでは足りない。方向別に上下に二つに分けて、拠点確保と救援用に後3パーティは欲しい。ルーキー共にそれだけの手練はいるか?」
未だ健在のガーディアングループが接近するたびに引き離しているレンジュウロウ・カノウは、愛刀を手入れしていた手を休めて、攻略に向けた現実的な提案をする。
迷宮の大きさや侵入位置が、丁度迷宮の中央からとなるので、踏破までは2、3日はかかるだろうというの彼らの予測だったが、ここが金の迷宮となれば話はがらっと変わってしまう。
どれだけ短くても攻略には1週間、月単位となる事だって珍しくなく、それどころか発見以来、誰も踏破が出来ていない未踏破宮や、入った探索者が1人も帰ってこなかった迷宮だって金の迷宮には数多くあるのだ。
一度戻って再度戦力を揃え、攻略方針を練り直すのが、常識であるだろうが、ここには常識など一切気にしない者がいる。他ならぬケイスだ。
「ふん。ならば今日中に片をつければ良いだけだ。連絡するならば私達が入ってからにしろ。勝手に連絡したら斬るぞ……ナイカ殿。金だぞ。あれがここにある可能性は上がるのではないか?」
いつの間にやら密談を終えていたケイスが、冗談とも本気ともつかない何時もの口調で告げると先ほどまでなにやら話し合っていたナイカへと振り返る。
「ったくお嬢ちゃん。あんたの予測通りだとしても、なんであたしが言わなきゃならないんだい。あんたの口から説明すればいいだろに。旦那が語ってくれたならあの人も文句は言わないよ」
「鳴殿が許そうが、私が嫌だ。私は直接に知らん。だから資格を持たない。なれば共に肩を並べ戦ったナイカ殿しかいないではないか」
「共につっても、あの人らは最戦前。あたしはその予備隊って感じで、そこまで語れるほどじゃないんだけどね……恨むよ双剣の旦那」
ナイカがなるべくなら掘り起こしたくないという顔を浮かべていたが、あまりにケイスが頑ななので根負けしたのか、フォールセンへの愚痴をこぼすと、やり取りを見ていたルディア達へと顔を向けた。
「ここに来る前にケイスさんが火華刀様の名前を出したんですけど、それに関連した事ですかナイカ様」
おそらくケイスの発言の意味を一番気にしていただろうサナが、真っ先に口火を切る。
「そこまでこぼしているなら自分で説明しなよ……正解だよ姫さん。嬢ちゃんが予測するには今回の燭華に現れたあの光の化け物どもには、1つの刀が関係しているんじゃないかって話だよ。あんたら、火華刀の愛刀は知っているかい」
「華凜刀だろ。何でも斬るときの血しぶきが花びらみたいに散った事から名付けられたとか。昔、仕事でそんな剣が作れないかって持ち込まれた事があったんだが、貴族の道楽ならともかく、暗黒期にんな無駄な機能をつけたりするのかって疑ってんだが」
ナイカとは亡くなった父親が付き合いがあり、生まれたときからの知り合いだというウォーギンが臆すること無く答える。
「そりゃ実情を出すとやばいことになるからって、流した噂だよ。花びらのように血が舞い散るんじゃ無くて、刀身が拡散分離して、それが自由に形状を変えて、広範囲の戦場に散らばる。まるで花吹雪のようにね。多層連接剣って特殊構造の剣だよ。その状態は見た方が早いか。ちょっと待ってな、あたしの記憶から呼び出してみるから」
そう言ったナイカが高速呪文を一小節唱えて、掌を広げるとその上に一枚の鏡が召喚される。
自分や他者の記憶の一部を鏡に写し出す高等幻術を無造作に使ったナイカの掌の上では、過去のナイカが見たであろう血なまぐさい戦場が映し出される。
そこはどこかの戦場だ。数え切れない戦士達と、それらよりもさらに多く無尽とも思えるほどにわき出す様々な種類が混成したモンスター達が、真正面からぶつかり合い死闘を演じている。
倒れ傷ついた仲間の屍を踏み抜いて、盾にしてまで戦いを続ける戦士達と、どれだけ剣で斬られ、術で肉体を抉られようが命尽きるその瞬間まで、人を駆逐しようとするモンスター達。
それはもはや戦いと呼ぶよりも、どちらの種が滅びるかを掛けた生存競争と呼ぶ方がしっくり来るくらいの、無慈悲で無情な戦場の地獄絵図だ。
この地獄絵を見ている人物も、矢が尽きるまで弓を放ち、矢が切れれば弓本体で殴り倒し、弓が壊れれば、近くに落ちていた剣を拾い、ブレスで焼かれたのか手首だけ残した元の持ち主を無理に引きはがして振るって、何とか生き抜こうと足掻いていた。
「これがどこの戦場だったかは忘れたけど、あの頃にはよく有ったありふれた絶望的な戦いの1つさね。せっかく数千の犠牲の末に取り戻した前哨地が、周囲の迷宮から湧いてきた化け物共にすりつぶされるって奴だね。魔力吸収タイプの大物モンスターが出てきていて、魔術が使えなくて苦労したんだったかね。音が無いのは勘弁しておくれ、この頃は欠損した両耳の治療も出来なくて放置してたからね」
自らの窮地を淡々と語るナイカの表情には色は無い。それは今現在まで生き残ったという事実から来る安堵の色ではない。
本人が言う通り、それがいわゆる暗黒期ではありふれた、よくある日常の1つだったと感じさせる物があった。
無音の中、ただひたすらに駆け抜け体術だけで何とか生き残っているナイカだったが、周囲の者達が次々に倒れて劣勢に追い込まれ、ついには不意に横から飛び込んで来た巨大な狼に左腕に噛みつかれ地面に引き摺り倒された。
倒され足が止まったナイカに向かって、周囲のモンスター達が一斉に群がってくるが、次の瞬間には、視界全域を赤い色で埋め尽くすほどの花びらが一瞬で駆け抜け、それに触れたモンスター達が切り裂かれ、傷口から激しく燃え上がり、その炎が花びらへと吸い込まれるという形で一瞬で燃え尽きていく。
花びらが通り過ぎた後に残るのは、元の形が判らないほどにみじんに切られ、燃えかすの破片となったモンスターだった屍の山だけ。
動いている物は視界の中には無い。
倒されたナイカが立ち上がり戦場へと目を向けると、一瞬で新たなる異なる地獄絵図を産み出した赤い花びらの群れが広がり、モンスター群の中に大穴を空けて、孤立した生存者を救い出して行く。
燃え広がった炎は、宙を駆け抜ける花びらに次々に吸い込まれて鎮火していく。
別方向からは、未だかろうじて粘っている前哨地に向かって重厚な東方鎧に身を包んだ2人の仮面武者を従え、圧倒的な剣技をもって進軍する双剣の勇者の姿を遠目に見た所で、映像は途切れた。
「あれが火華刀の鳴さんだよ。それと嬢ちゃんこの後を見せろって言っても無理さね。旦那達が着いた所で気が抜けて気を失ってぶっ倒れたからね」
先手を打ったナイカの言葉にケイスが不満げに頬を膨らませるが、説明を丸投げして任せた手前、ケイスなりに遠慮したのか、口は慎んでいる。
「分離した刀身が花吹雪のように広範囲で舞い、それが通り過ぎた後に残るのは火を放つ屍の山。それが鳴さんが火華刀と呼ばれた理由だよ。でだここからが肝心なんだけど、真実をねじ曲げて隠した理由は極々単純……刀の材料にやばいもんが使われていたからだね」
そういったナイカはケイスへと視線を向ける。もっと正確にはその美貌を彩る額当ての中心に設置された宝石のように輝く赤い鱗だ。
「火華刀の愛刀の正式名、嬢ちゃんが言うには諱は、火の鱗の刀。同音で火鱗刀って呼ばれてたんだよ。そしてその鱗は、火龍の鱗じゃ無くてもっと手に入りやすい物。龍と戦ってその魔力の影響で狂った竜人化した戦友の亡骸……ここまで話したら隠す意味もないね。竜人化した連中を使って武器に仕立てたんだよ」
説明途中で一度言葉を止めたナイカは、改めて言い回しを変えて一気にはき出す。
その顔に浮かぶのは、何とも言い表しにくい、様々な感情の色だ。
「死体を使ったアンデッド兵なんかは、まぁ一般的じゃ無いが隠すほどじゃない。その言い方だと……まさか生きたままか?」
その表情に何かを察したのかウォーギンが、ナイカが言いにくそうにしていた事実を言い当てる。
ウォーギンがそれを察せられたのは、ケイスが身につける火龍鱗の額当てをウォーギンが製作したからに他ならない。
「そうだよ。竜人化した連中は狂って見境無く暴れるが力だけはたいしたもんだ。死霊術の応用で魂が篭もった強力な素材として用いたのさ。嬢ちゃんが身につけているその額当てみたいにね。その素材の中には、無名な奴等もいれば、勇ましく戦って死んだって事になっている奴等だって、救国の英雄だって謳われた奴等だって幾人もいる。そんなのを馬鹿正直に公表は出来ないさね。諍いの火種になる上に、後から続く連中が尻込みしちまうよ。人の補充が無ければ、あたしらは戦いを続けられなかったからね」
暗黒期に英雄と呼ばれた物は数多い。それは祖国解放のために戦った者もいれば、名誉や名声を求めて戦う者もいただろう。
個人個人様々な思惑はあっただろうが、彼らが英雄と呼ばれ華々しく戦い、そして時に悲劇として散るからこそ、民衆はモンスターを恐れず、憎み、自分もそのような人物になろうと後に続こうとする。
人が次々に補充されなければ、戦いは続けられない。それは紛れも無いナイカの本音だったのだろう。
そうでなければ当時の戦場は維持できず、人類はトランド大陸のみならず、世界から駆逐されていたかも知れないからだと、ナイカが先ほど見せた映像が強く語りかけていた。
ルーキー達だけで無く、数々の修羅場を抜けてきた中級探索者である水狼さえその言葉の意味に、発するべき言葉を無くす中、動いたのはやはり空気を読まない馬鹿だけだ。
「ん。見れば判っただろうが、火鱗刀には魂を取り込んだ火龍鱗を用いて強大な力を発揮する力がある。だが如何に強力な魂とて有限ではない。使えばすり減るからな。そしてすり減った鱗に補充するため魂を吸収する機能も取りつけてあったという。先ほど見たとおりに斬り殺したモンスターを燃やして回収する形のようだな」
斬るべき物がある時のケイスには、他人の情緒も、感傷も理解する気が無く、元々考えていない。必要なのは自分が戦う為の情報だけだ。
「私が戦った火刑少女も魂の集合体であり炎を用いていた。これは偶然なのかも知れぬが、フォールセン殿には、私にはまだ少し早いからと詳細を教えてもらってはいないが火華刀殿はここロウガで既に亡くなられているそうだ。しかしその愛刀たる火鱗刀の行方は不明。そして宝物が確実に眠る金の迷宮。関連づけて考えるのには無理はあるまい。迷宮主の中には、武具がモンスター化した物もいると聞く。火鱗刀やも知れぬから皆、気を引き締めろ。では行くぞ!」
既に戦いに向けて気を張っているケイスは、他者の意見やロウガ支部の意向など一切気にせずそう宣言してクルリと背を向けると、ルディアが止める間もなく走り出す。
もちろんケイスが目指すのは、キャットウォークの端で金色に輝く迷宮区への扉だ。
その指には、これ以上は無いほどに赤く輝く指輪が見える。
始まりの宮踏破後まだ半年に経たない初級探索者にして、下級探索者でもあるこの世で唯一の存在の証の指輪が。
「ちょっ! あの馬鹿! ウィー止められる!?」
まだ情報交換も途中だというのに既に迷宮に意識を向けているのは、先ほどのナイカが見せてくれた暗黒期の戦闘映像で、戦闘本能に火が着いたからだろうか。
それとも一連の事件で同期を殺されたことで、元からキレていた所為もあって抑えが効かなくなっただけか。
どちらにしろ、ケイスはいつも通りといえばいつも通りの暴走状態に入っていたのは間違いない。
どうにも止められないという予感を抱きつつも、パーティ最速のウィーにダメ元で尋ねるが、返ってきた答えは予測通りのものだ。
「無理無理。止めに入ったら斬ってくるよ。急いで後を追いかけるのが、一番無難だろうね」
「あーもう! すみません行きます! ウォーギン! あの子の首につける縄でも今度作ってよね! 金に糸目はつけないから!」
「それなら私もご協力します! ケイスさん! 貴女はなんで何時も何時も勝手に動くんですか! パーティ攻略だって説明したじゃ無いですか!」
バタバタと掛けだしたルディアの横に並んで翼を振って宙を駈けるサナが、怒りの色を含めた表情でケイスに呼びかけるが、一足遅い。
ケイスが宝玉に指輪を当てると、今まで微動だにしていなかった扉が開き、迷宮が解放される。迷宮の中から反響し増幅された無数の水音がまるで音楽のように響き渡ってきていた。
次期メインクエスト最重要因子【赤龍】
初級迷宮【金の水琴窟】攻略戦開始確認