ヨツヤ骨肉堂へと続く階段から、明かりの少ない暗い地下水路を少し進んだ先。
少し広くなった古い資材置き場跡を、ケイスは仮拠点兼鍛錬場としている。
「ではいくぞっ!」
ケイスは合図と共に駆け出すと、対面に構えていたウィーに向かって真正面から飛び込み、右手の刺突剣での突きを敢行する。
所々濡れて滑る足場を避けつつ、速度重視の突きを無呼吸で繰り出す。
「と。ほいと」
怠そうな何時もの気の抜けた表情のままのウィーは、ケイスの猛攻を右手につけた手甲で捌いていく。
肉体能力では獣人であるウィーが比べるまでも無く、”今”の自分より遥かに勝るのはケイスも判っている。
だが判っていようとも子供扱いで簡単に防がれるのは、腹が立つ。
斬る。斬る。絶対に斬り倒す。
ケイスの気配が変わり、目に力が篭もった事に気づいたウィーは、この後に来るセオリー無視の無茶な攻撃の気勢を削ぐために、左手に忍ばせていた堅い殻に覆われた小さな木の実を親指で弾き飛ばす。
獣人の筋力で撃ち出された木の実が、風切り音を纏い迫る。
薄暗い地下ではでは、小さな木の実は目で捉えにくく、距離、速度が把握づらい。
視覚情報は捨て、音にのみ集中しタイミングを測ったケイスは、左手の短剣を振りあげ木の実を弾き落とす。
攻撃は防いだ。しかしケイスが足を止め防御態勢を取る間に、ウィーは数歩下がって距離を開けていた。
即座に追いかけようとするが、そこで息が尽きたケイスは、足を止めると大きく深呼吸をして切っ先を下げた。
1つの呼吸の間に、ウィーの防御を突破したらケイスの勝ち。それ以外は負けという単純なルール。
呼吸を止められる時間は僅か。激しく動けば動くほど呼気を消費する。限られた手の中で、如何に早く相手の防御を突破するか。
今の体力では短期決戦しかなく、如何にそれを重ねるかがケイスの継戦能力に繋がる。
「むぅ。私の間合いまで遠いな。もう一度やるぞ」
「まだやるの? 今日分の鍛錬はもう付き合ってあげたでしょ」
「ん。腹ごなしの遊びだから鍛錬じゃ無い」
「いやいや。隙があったら斬る気じゃん。腹ごなしは無理があるって」
「斬るつもりでいかねば、ウィーは自分の負けで良いと怠けるじゃないか。それでは面白くない」
「ボクはあんまり勝ち負け意識しないで、のんびりとした暇つぶしの方が好きだからね~」
両手を挙げたウィーは、もう腹ごなしはお終いと意思表示をしてみせる。
「むぅ。しかたないな……それよりウィー。礫は同時に2つ弾けるか? 少し前に教わった技で魔術では無く、技術で風切り音を無くす弓技がある。それを投擲用に考えたのがあるから付き合ってくれている礼に教えてやる」
物足りないケイスは一瞬だけ不満顔を見せるが、すぐに気持ちを切り変える。
自分の腕を磨くことはケイスにとって至上の命題であるが、それ以外にも託された物を誰かに伝える事もケイスにとって、名誉であり大切な事。
「鍛錬に付き合ったお礼が、技ってのがケイらしいね」
「闘気の量やら礫同士の距離調整がちょっと難しい技だが、ウィーならすぐ出来るだろ。私ほどではないが、ウィーの才覚は天才のそれだからな。真面目に鍛錬すればもっと強くなるぞ」
幻の狼牙で見て会得した武技や魔術は、今のケイスでは使えない高等技術が多いが、その理屈、理論は別。
ウィーならば弓術の音無技を、指弾術として用いることも出来ると判断する。
自分と比べれば、多少は劣るとはいえ天才だと、世間的にはこの上ないほど上から目線、ケイス的には手放しに値する、賞賛の言葉を贈った。
「ケイのちょっとって、相当に難しい気がするんだけど……でも役に立つそうだから教えて。ただし明日ね。今日はもう疲れたから」
ケイスがちょっと難しいという技を覚えるのは正直にいえば怠いが、このままノラリクラリ交わしていても、頑固で妙に律儀な部分もあるケイスの事だ。斬り倒してでも教えると癇癪を爆発させかねない。
素直に教えを請う方が結果的には一番疲れない方法だと、この数日で熟知したウィーは諦め、僅かな抵抗で明日という条件で同意した。
「ん。仕方ないな。では明日だ。朝一で教えてやろう」
「ケイス。終わったなら今度はこっちの質問に答えないよ。これ全部を薬に変える気なの?」
凡人の目からはまともに追い切れない剣戟を、酒のつまみ代わりに眺めていたルディアが、相変わらずの上から目線に呆れながら、ようやく腹ごなしなんだか、鍛錬だか知らないが終わったので、自分の疑問を投げかけた。
ルディアが指さす先にずらりと並ぶのは、死骸の山があった。
ぬめっとした肌と、生気の無いぎょろっとした目玉。両目の間には、鋭い刺突痕が1つ空いたカエルが一番多いだろうか。
その数は数十体に及び、かっ捌かれた大カエルの腹からは薬として使える肝臓などが抜き出してあるが、肝臓1つとってもこれだけの量を薬にするならば、治療用傷薬が優に十数人分にはなるだろう。
他にも、スライムやら蝙蝠やら大鼠やらと、この地下水道に生息するモンスターの図鑑が出来そうなほど。
まさしく死屍累々の有様だ。
ケイスが大人しくしているか心配だったのもあるが、この隠れ場所にルディアが訪れた理由は、ケイスから依頼されていたからだ。
【始まりの宮で使うから、材料を渡すので薬や魔具と交換してきてくれ】
文面だけ見れば真っ当な物だが、その数は異常すぎた。
誰も自由に出入りできる特別区に生息する下級モンスター達なので、血に強い魔力を有するわけではないが、皮や肝臓、他にも水かきや粘液など部位事に魔術薬や魔具素材として用いることが出来る。
下手をすれば、下級探索者パーティが一回の冒険で狩ってくる量の倍以上はあるだろう。
地下水道に身を隠したのは、つい先日だというのに、ハイペースすぎる狩りの手際だ。
「ん。どれくらいの量と交換が出来るか次第だが、依頼料がないから、現物払いで半分を治めてくれ。よくある方法なのだろう」
材料を多く持ち込んで現品と引き換えは、駆け出し探索者達がよくやる手法だが、その場合も足元を見る店側がどれだけであこぎでも、原材料の3割マシが精々。さすがに半分は納め過ぎだ。
「これなら傷薬だけで30人分くらいにはなるわよ……依頼は良いけど、せめて現物払いの相場を知ってからにしなさいよ」
「友達価格というものであろう。ルディやウォーギンには感謝しているからな。その礼だ。差額は受け取れ……しかし30人分か」
「それだけあれば十分でしょ。それと友達価格の使い方が間違ってるから」
相変わらずの金銭感覚の無さは、大ざっぱというべきなのか。それとも鷹揚というべきか。
世間知らずのケイスが、悪徳商人のいいカモにされる未来と、同時に騙されたと知った時に商人を斬り殺す場面が易々と脳裏に浮かんだ。
「ケイスにその辺を期待するだけ無駄だろ。しかしお前、なんで無駄に傷を与えない戦いが出来るのに、武闘大会であんな乱暴な倒し方したんだ」
ちびちびと酒を飲みながら、魔具素材に使う為の下処理をしていたウォーギンは、その金銭への執着の無さはケイスの持って生まれた気質だと諦めているようで、それよりも気になる致命傷となった刺突痕を指さした。
ずらりと並べられた大カエルの死骸は、後ろの両足はケイスがご飯とするために切り取ってあるが、その命を絶った一撃は頭部の小さな傷だけ。
有益な部位を一切傷つけずに、一撃必殺の剣を叩き込んでいると素人目でもわかるほど見事な物だ。
ケイスが剣の天才であるという事は、今更本人が力説せずともルディア達はよく知っている。だからこそ逆に疑問を抱く。
武闘大会で見せたケイスの強さは、確かに人間離れしていたが、あまりに荒々しく、そして無駄に血が多く、残酷すぎる気がしたのだ。
ケイスならばもっと上手く倒せたはず。それは予測でも、願望でも無く、歴とした事実。
いくら魔具の力によって実際に相手が死なないとはいえ、もう少し倒し方を考えていれば、数多の剣術道場や名家を敵に回すことも無く、化け物扱いされる事も無かったはずだ。
「ん。あの時に最初に戦ったセドリック殿の牽制や戦場支配の領域に到達するには、今の私ではまだ無理だ。相手を冷静にさせず、加熱させ、混乱させて、初めて、私があの場を支配できた」
戦いに関しては、世間の常識とは隔絶した才を誇る天才は、事も無げに告げる。
「今の私は闘気による治癒促進は使えないし、怪我を負えば、神術治療が無しではすぐに回復は難しい。そして迷宮内では、いつでも神術治療が受けられるわけではない。だから、大勢が相手でも無傷で勝ち残る術を身につける必要があった。その結果だ。うむ。いい練習になったから、あの者達には感謝だ」
血に酔ったとか、必死だったので取り繕った戦いができ無かったなら、まだ良いかも知れない。
しかしケイスの答えは、明確に自覚した上での、大勢の敵を混乱させ、単独で打ち勝つ為のやり方であり、やった本人は鍛錬気分というものだ。
「それで色々恨みを買ってたら世話は無いわよ。ウィー、ウォーギン。判ってると思うけど、今の話は絶対に黙ってなさいよ。もし知られたら余計に恨みを煽るだけだから」
「りょ~かい。ボクも面倒事は避けたいからね」
「ほっとけほっとけ。どうせこいつが探索者になったら、まだこの間は大人しい方だって世間も知るだろうよ」
「ふむ。そう心配するなルディ。定期的に本気で襲ってくる良き鍛錬相手は、私は大歓迎だぞ」
ルディアの切実な悩みに返ってきたのは、実に軽い答えが2つと、言語道断な答えが1つ。
「それ世間一般では襲撃だから。あんたはほんとに。襲撃をかけそうな連中以外にも、始まりの宮に挑む人達もいるみたいだし、初心者講習会では、言動には気をつけなさいよ。迷宮内で襲われたって、目撃者はいないんだから」
自分が心配しすぎ、考え過ぎなのだろうかと、崩れかけそうになる自分の中の常識をルディアは無理矢理に立て直し、とにかく敵を作りやすいケイスの言動を注意する。
酒場で渡された情報資料を見れば、いくつかの流派や名家は、名誉回復の真っ当な手段として、今期の始まりの宮に挑む若手に、採算度外視の装備や、念入りな鍛錬を施して送り込む腹づもりとの事。
始まりの宮を最も早く踏破することで、管理協会ロウガ支部が与える今期のロウガ支部最優秀初級探索者の称号を得るつもりのようだ。
そんなリベンジにいきり立っている連中を、ケイスが無自覚に何時もの上から目線で煽ればどうなるか……
想像はしたくはないが、安易に思いつけてしまうルディアが、いやな未来予測を無理矢理に捨て去ろうと酒瓶に手を伸ばそうとしていると、ケイスが脱いでいた外套を身に纏い始めた。
外套の下には、いくつものナイフやワイヤーやロープが入っている。
「まさか誰か来たの?」
いきなり戦闘装備に着替え始めたケイスに、ルディアは警戒の色を浮かべて、きょろきょろと辺りに視線を飛ばすが、暗闇の中から聞こえてくるのは水路を流れる水の音だけだ。
「いや敵の気配は無いぞ。30人分では足りないから、狩りにいってくるだけだ。後この10倍くらいは必要であろうからな。異常繁殖中で狩りには事欠かないから丁度よかったな」
「10倍ってあんた、問屋でも開くわけじゃなし、なんでそんな溜め込む気よ」
「言ったでは無いか。始まりの宮で使うかも知れないと。前期が騒ぎで参加辞退が出た分、今期の参加者数も多いそうだ。ガンズ先生の話では250人を越えるかもしれんと言っていたからな。余裕をみて300人分も用意しておけば問題無かろう」
「ケイス……あんた自分が使う分を用意してるんじゃ無いの?」
いつも通りと言えばいつも通りだが、予想外の答えにしばらく頭の中で状況を整理してから、ルディアは再度尋ねる。
「無論、自分でも使うぞ。だが始まりの宮では何が起きるか判らんと聞く。傷薬不足や魔具不足で、他の者が困っていたら、助けてやれるだけの用意をしてやろうと思っただけのことだ。そうで無ければロウガの始まりの宮に挑む”同期全員”で探索者になる事など出来無いからな」
そしてその問いに返ってきたのも何時ものケイス節だ。何を当然の事を聞いてくるときょとんとした表情を浮かべている。
全員、全員と言ったかこの馬鹿は……
「同期全員で探索者になるって簡単に言うけど、記録された限りでも、始まりの宮で犠牲が出なかった期が一度も無いのは……あんたの事だから知ってて言ってるんでしょうけど」
探索者となるための最初の試練【始まりの宮】
大陸中に同時期にいくつも出現し、その難易度は期や場所によってまちまちではあるが、平均踏破率は大体6割から7割となる。
後の世に名を馳せる探索者が参加した始まりの宮で8割を越え、伝説の期と、英雄譚で謳われたりするほど。
それは裏を返せばどれだけ手練れの若者達が揃っていても、2割は未踏破……つまりはそれだけの未帰還者=死亡者が出ているということだ。
「当然であろう。ガンズ先生も気に病んでいる。先生は初心者講習の講師として、迷宮に挑む者を何度も送り出している。もっと詳しく教えていればや、別の対処方を教えていればと悔やむことも多いと、レイネ先生が仰っていた」
腕を組んだケイスは、真剣な顔で深く頷きながらしみじみ語るが、そんな話をレイネが聞かせたのは、だからケイスは、無茶をしないでほしい、悲しませないでほしいという、心配と願い故だ。
しかしこの馬鹿にして、化け物には、そんなレイネの気づかいを、全く別の意味に取ってしまう。
「ならば私が全員を生還させてやれば、探索者としてやれば良かろう。さすがに他の地域の始まりの宮に挑む者までもとはいかんが、ロウガの始まりの宮に挑む同期全員を手助けし、探索者とする。ガンズ先生やレイネ先生には世話になっているからな。ささやかではあるが御礼だ」
堂々と胸を張ったバカは、有史以来誰も成し遂げた事が無い奇跡を、ささやかなお礼だと宣っていた。
あまりの大言壮語に唖然としていた三人が、我に返ったのは、ケイスが再度狩りに出撃してしばらくしてからだった。
「あのさケイの……あれってやっぱり本気?」
「本気も本気だろ。ケイスらしいっちゃケイスらしいが。当のガンズの親父さんが今の話を聞いたら、迷宮をなめるなって制裁喰らうぞ」
ウィーが差し出したカップに、酌をしてやりながらウォーギンはお手上げだと手のひらを見せる。
ケイスの事だ。それは無理だと言っても聞きもしないのは、火を見るより明らかだ。
「どうするよルディア。物を揃えないで、物理的に諦めさせるか?」
「そんな事であの馬鹿が諦めるわけ無いでしょ。判ってること聞かないでよ。ウォーギンもケイスの律儀さは、厭になるほど知ってるでしょうが。やるって言ったら、どんだけ無茶してもやるわよあの馬鹿」
ウォーギンから酒瓶を引ったくったルディアは、カップに並々と注いだ酒を一気に飲み干して、次の酒を注ぐ。
せっかく上等な果実蒸留酒なのだから、香りを楽しみながらちびちび飲みたいところだが、今の気持ちでは苛々するだけなので、安酒を流し込むように2杯目も一気に開ける。
「あーでも全員って探索者っていってもさっきルディも言ってたけど、ケイを敵視している人達もいるんでしょ。どうする気なんだろ?」
「そんなの承知の上で、深くまで考えてるわけ無いでしょ。いつも通り力尽くよ。助けさせなかったら斬るとか言いだすに決まってる。あの娘、究極の自己中心主義者よ」
極論を言ってしまえば、ケイスの判断基準には、他人の意思は一切関与しない。
相手が自分を嫌っていようが、殺したいほど憎んでいようが、助けを望んでいなくても、関係ない。
自分がその相手を好きならば、好ましく思っているなら助ける。
他人が、友人であるルディアがいくら心配し、気にしようとも、その事自体には感謝しても、自分の意思にそぐわなければ、一切気にしない。
自分がやりたいこと、やると決めた道を進む。それだけだ。
「いや~今期は荒れそうだね。ボク一人でケイの相手かぁ……辞退して始まりの宮に挑むのは来期にしようかな」
「そうなるとケイスの奴一人でもいくな。基本的に始まりの宮は5人パーティで挑むことになる。組み分けは基本お互いに望めば希望が通るが、人数が足りない場合はロウガ支部で能力を見て振り分けるって仕様だぞ」
頬を掻き、尻尾をゆらゆらと揺らしながら、半分本気交じりな口調でウィーが思案にくれていると、ウォーギンが作業途中の魔具素材を脇に置いて、ルディアに視線を向けた。
「あの性格だ。急遽組んだ奴らが馴染むまで相当の時間がかかるぞ。しかも今は力が落ちているのに、阿呆なこと考えてやがる。いくらケイスでもさすがに無茶が過ぎるんじゃねぇか?」
怪我をする前。闘気を使えた頃のケイスならば、どうにでもなったかもしれない。それほどの化け物だ。
ケイスは頑なに認めようとしないが、ケイスの本気の戦闘はルディアもウォーギンも、カンナビスで目撃している。
だからこそ逆に今との落差が、弱体化したケイスの力が、どうしても不安視させる、してしまう。
ウォーギンの視線はどうすると言外に語っている。そしてその視線の意味に、ルディアは気づいてしまう。
外で心配していても埒が空かず、更新料問題もある。
それに慣れるまで時間が掛かるなら、慣れている者がいれば、多少は、少しはマシな緩衝材くらいはなるだろう。
「ウォーギン。もちろん自分も数に入ってるんでしょうね。あたしだけって言ったら二度と奢らないわよ」
「一応こっちも廃業の危機だからな。ケイスが無事に探索者になってくれれば、なんとでもなるが、まずその前提から問題発生じゃ仕方ねぇだろ。ったく自分用に改造なんて日が来るとは思ってもみなかったんだがな」
ルディアの刺すような視線に、ウォーギンは魔具素材の作業を再開しながら肩をすくめる。
「あたしだって、この間リズンさんにあり得ないって答えたばかりよ……だけどウィーに、ウォーギン、あたしでもまだ3人よ。あと一人どうする気よ?」
「一応それなら当てがある。かなり癖が強い奴だが、逆にそれくらいじゃ無いとケイスにやられるから、丁度いいだろ」
「じゃあ任せる。ウィー。あんたも散々苦労させられる覚悟しときなさいよ。ケイスに関わったのが運の尽きだから」
「りょ~かい。あんまり大変なのは勘弁してほしいけど、ケイ相手じゃしょうが無いか……休めるときに休んでおいた方が良さそうだからボクは一眠りするよ」
諦めを通り越して、達観の域まで入ったルディアの言葉に、ウィーはもはや無駄な抵抗だという事実を悟り、尻尾を揺らし大きくあくびをしてから焚き火の前で丸くなった。