「ほぉ。威勢のいい若いのと思っていたら、こんな綺麗どころのお嬢ちゃんとはな」
相手の視線、動き、口調、呼吸を把握。
自らの一挙手一投足に対する、反応を記憶。
呼吸を沈め、力を蓄え、髪の毛一本一本まで神経を通し集中の極まで。
覆面を取った自覚はケイスには無い。
斬る。
今のケイスにあるのはその一点のみ。
数多の人外の力を自ら捨て去り、怪我により失いながらも、ただ1つ残ったその高速思考能力が最大の力を発揮する。
喰らうは総て。この場にある万物。
その眼は総てを見通す。
その耳は総てを聞き取る。
五感を研ぎ澄まし一瞬で喰らい尽くし、己の糧とする。
頬に薔薇色がさし、黒檀色の瞳は潤み、僅かに開いた唇からは吐息が漏れる。
幼くとも絶世の美姫となる将来を誰にも予感させる美貌が、まるで恋をするように上気にそまる。
まだ少女だというのに蠱惑的な色気さえ醸しだしかけたケイスの様子に、歴戦の勇士であろう老戦士さえも思わず戦いを忘れ、見とれかけてしまったのか、その饒舌な言葉が一瞬止まった。
ケイスがその表情を見せたのは一瞬。そうほんの一瞬。だがそれで、それだけでいい。
この世の総てをやがて喰らい尽くす化け物にはこれで十分だ。
敬愛すべき老戦士の手管は全て喰らい尽くしていた。
後は斬る道を見つけるだけだ。
「ん。名を教えていただけるか剣戟師殿。さぞ高名であろう貴殿の名を尋ねるのは失礼に当たるかも知れぬが、あいにく私はロウガの剣戟興行に詳しくないのでな」
今まで頑なに沈黙を保っていたケイスは、呼気を抑えながら言葉を発する。
両手で構えたロングソードの切っ先で、地面に線を描くように下構えでかまえる。
声を発すれば隙を生む。その隙を消すためには、相手の意識を反らす、興味を引く会話を繰り出す。
それが老戦士の、いや老剣戟師の話術であり、一種の戦術だとようやく気づいた。
ケイスが無視しようとも一方的に続けていた饒舌で流暢な問いかけは、ただの無駄話でもなければ、ケイスの情報を聞き出すための駆け引きでも無い。
老剣戟師の間合いの取り方であり崩し方だ。
ケイスの攻め気をずらし、削ぎ、じらし、己の望むタイミングで打ち込ませるための戦術。
「世間一般なら名を尋ねるならば己から名乗れと返すのがお約束ってもんだが、演者が名を尋ねられたら答えなきゃならんな。ロウガを拠点に東方地域を巡業している剣戟興行で座長を務めるセドリック・ハグロアだ。以後ご贔屓にお嬢ちゃん」
老剣戟師セドリックが名乗りとともに、その頭上で大きくハルバードを回して見得を切ってみせる。
一瞬その大振りに隙を見つけたような気がし、斬り込みたくなるが、ケイスはその衝動を抑える。
今のは隙では無い。誘いだ。
正確に言えば、今のケイスの力だけでは、どのような状況であろうとも、セドリックの隙に付け入る事が出来無い。
速さが違いすぎる。それは先ほどのかろうじて防いだ一撃で思い知らされている。
隙を見つけ斬り込もうと動いたときには、即時に把握され対処される。
今のままでは相手の掌で踊っているような物だ。
老戦士までの間合いは約10ケーラ。軽量化状態なら3歩。だがこの3歩が遠い。
「しかしお嬢ちゃん。どうして儂が剣戟師だと気づけたのか、ご披露してもらえるとうれしいね。最近は若いのを花形として売り出し中で、チラシにも顔乗せはしていないんでな」
向けられた穂先から逃れるように、ケイスはじりじりとすり足で移動しながら、外套に仕込んだ軽量化魔術の効果を無効化させる。
ケイスの身体が重さを取り戻し、柔らかな土に足が沈む。
これで速度も跳躍可能距離も半減した。しかし速度を捨てなければ、軽量すぎて打ち負ける。
セドリックは軽量化状態のケイスよりも早い。そして力も強い。
身体能力でケイスが勝る部分は1つたりとも無い。
自分よりも強い相手の勝つには、通常の手段では届かない。だから喰らう。勝つためにあらゆる物を。
自らが積み重ねてきた、喰らってきた経験と、育んだ技量を最大効率で組み立て直していく。
「ふむ。知り合いに南方の剣戟師がいる。剣戟師が口上も述べるトランド式とは違い、演者は剣だけを魅せるが、基本は変わらぬであろう。その剣戟師達が言うには、観客の目を意識して、楽しませつつも、見応えがあるように動くのが基本であり真髄と言っていたのを思い出した。観客の目。つまりはそこらを飛び回っている使い魔達だ」
自分達を取り囲むように宙に留まっている水晶や紙でできた小鳥型の使い魔達を視界の隅に捕らえ、ケイスは顎で指ししめす。
あれらは主に偵察用に使われる、簡易で使い捨てのできる使い魔達だ。
ルディア達のいる会場へと、この戦いの様子を届けているのだろう。
「セドリック殿が私に打ち込ませるとき。それはあれらが良い配置にいる時であろう。それで判った。あとは私を弾き飛ばした一撃だ。あれは出始めを私にわざと見せたな。防げたから一見派手な打ち合いになったが、本来ならあれで私は斬られていたはずだ」
セドリックの言葉に合わせながらも、ケイスは微妙に歩幅をずらして、セドリックが望む見栄えのある位置をさけ、己のタイミングで切り込める位置取りを計る。
「しかし斬れるなら斬っとくべきではないかね。とくにお嬢ちゃんのような何をしでかすか判らないのは」
「私が先行して飛びだしたからであろう。他の参加者達がパーティを組むまでの時間稼ぎだな」
「やれやれ。そこまで舞台裏を見抜くかい。音声中継もされているからあまり裏事情を話されるのは困るんだがね」
一方でセドリックはあくまでも受けの体勢で、ケイスの機先を制するのでは無く、その動きに合わせて穂先を動かしている。
「ふん。その程度セドリック殿ほどなら労も無かろう。観客から無茶振りされようとも断らず答えるのが、良い剣戟師というからな」
「ほう。嬢ちゃんは観客の期待を裏切れない剣戟師の苦労をよく知っているな。どうだいうちの一座に入らないかね。顔立ちも良いし、技量もありそうだ。何よりその意思の強い目がいいな。花形になれるだろうよ」
「ふむ……」
もし自分が、運命が違っていれば、どうしていただろう。今ももっとも憧れた剣を振った母が生きていれば、どの道を選んでいただろう。
いつか母のように仮面で顔を隠した剣戟師として、帝都の剣舞台でその剣を魅せていたのだろうか。
一瞬脳裏をよぎった妄想。しかしそれは今目指すべき道をより強く照らし出すための、道しるべにしかならない。
ケイスが目指すべき、進むべき道は1つだけだ。ならば迷いなど無い。
「私が目指すべき道は1つだけだ。だがその誘いは嬉しいな。私がもっとも憧れた剣士は剣戟師だからな」
ケイスは惚れ惚れするような笑顔を見せる。しかしそれは言葉とは違いセドリックの誘いが嬉しかったからでは無い。
ケイスにとって至上の喜びは、強くなる事、斬れない物を斬れるようになる事。それだけだ。
斬るべき道を、常人では至れぬ道を天才たるケイスは見いだす。
先ほど踏み込んだ位置までようやく到達したケイスは足を止め、セドリックを真正面へと見据える。
「しかし良いのか? 名も知らぬ者を己の一座に誘って」
小首をかしげながらケイスは尋ねる。
ケイスは世間を知らない。それ以前に人の心が良くわからない。
他者が知る、物事の判断基準となる世間の常識、論理感も倫理感をケイスは持ち合わせていない。
ケイスが知るのは、理解が出来るのは剣を交えた思いのみ。故に剣を交え、剣戟師であると知ったセドリックが次に発する言葉を想像……いや確信できていた。
「ならそろそろ名乗ってもらえるかね。剣士殿」
ケイスの誘いにセドリックはにやりと笑い、寸分の狂いも無く望んだ言葉を発する。
立ち止まったケイスが仕掛けて来ることも察し、ゆっくりと身を沈め、迎え撃つ体勢を取った。
「大願を叶えるまで家名は名乗らぬと願をかけているので、真名を正式に名乗れぬ非礼を先に詫びさせてもらう」
両手でかまえていたロングソードを右手だけに持ち替え、空いた左手で腰のベルトへと手を伸ばす。
セドリックは強い。今の自分よりも遥かに。だが勝つ。斬る。
斬る。その概念を前にこの世の総ては、ケイスにとって意味を無くす。
斬る。その為に今の自分よりもさらに強くなる。総てを喰らって強くなる。
「だから代わりに我が流派と共に名を名乗ろう。故に一生の誉れとせよセドリック・ハグロア。私がこの誇りある流派と共に名乗るのはこれが初めてだ。貴殿の剣技は至上の名誉に値するだけの価値を持つと認めてやろう」
心臓が高まる。鼓動に合わせ血が滾る。まだ名乗らぬと決めていた。ふさわしい力を身につけるまではと。
だがケイスが決めた条件を越える条件が1つある。それはケイスが決して届かない相手が目の前にある事。
セドリックは強い。自分よりも遥かに。だからこそ総てを持って超える価値がある。
今はまだ未熟なれど、その未熟さを持ってしても越えるべきふさわしい相手がいる。それが嬉しい。たまらなく歓喜を覚える。
ケイスが腰のベルトから選んだのは頑丈な防御ナイフ。それを逆手に抜き出し、手首の前ねかせるように構え顔の前まで持ってくる。
左手に短剣。右手に長剣。
世にある二刀流でよく見られる基本形。しかしそれはその名を名乗ることで大きく違う意味を持つ。
歴史に名を残す英雄が振るった剣。
隔絶した天才性故に、誰一人として、真の意味で受け継ぐ者がいなかった流派。
過去の伝説であり、繰り返し英雄譚で謳われようとも、その剣の真価を、目にした者はもうほとんど残っていない幻の剣技。
一人の天才によって、再びこの世に現れる剣。
「私は双剣を受け継ぎし者。そして双剣を超える者……ケイスだ!」
自分の名を力強く名乗ると同時に、左の短剣を手首の力だけで投擲。
先行する剣を追ってケイスは駈け出す。先ほどの交えた剣の再現をするかのように同じ軌道を飛翔する。
だが決定的に違うのはその速度だ。遅い。飛翔する短剣も、それを追うケイスも。
手首の力だけで飛ばした短剣は、全身を使った投擲よりも遥かに遅い。
軽量化魔術の恩恵を切ったケイスの身体は、1歩1歩事に土に足が取られ、素人目でも軽く追いかけられる速度しか出ていない。
牽制で放ったはずのナイフとの距離さえ開き、先ほどのほぼ同時攻撃となった一撃とはほど遠い。
届かない剣にやけになって突っ込んだようにしか見えない、無謀で意味の無い攻撃。
だが先ほどの名乗りが、セドリックの判断を鈍らす。
フォールセンを……双剣を継ぎ、ましてや越えるとまで謳う者がただ無意味に剣を振るか?
あり得ない。それはあり得ない。
戯れ言と笑われる。
はったりだと判断される。
身の程知らずな大言壮語と呆れる。
フォールセン二刀流を受け継ぐという者が現れれば、常人ならば、いや剣に卓越した者であればあるほどこそ、その隔絶した伝説故に疑う。
セドリックも通常ならば一笑しただろう。だが今のセドリックにはそれが出来無い。
警戒させたのはセドリックが先ほど褒めたケイスの目。
その瞳に映るのは恐ろしいほどまでに純粋で、紛れも無い殺気。
斬る。斬ってみせる。百万、一千万、無限に積み重ねた言葉よりも、はっきりと判る無言にして絶対を込めた1つの意思が、総てに勝つ。
万物を屈服させ、喰らう、化け物の目を前にすれば、何者であろうとも、生存本能が最大まで刺激される。
ケイスの瞳が呼び出したのは、純粋にして無垢な命のやり取り。
原初にして、この世のもっとも基本的な法則。
弱き者は喰われ、強き者は糧とする。
【弱肉強食】
この遊戯世界における基幹法則をもっとも体現した龍王が作り出した間合いが、ケイスとセドリック。両者の間をつなぐ。
そこにいるのはもはや剣戟師セドリックではない。セドリック・ハグロアという1つの生命。
最大まで刺激された生存本能に従い、セドリックはほぼ無意識に己が放てる最大にして最速の技を繰り出す。
それはハルバードが長柄という利点を生かした超高速の突き。振りかぶって切り伏せる斧では無く、最短距離で突き進み突き刺す刺突の一撃。
愚直にもただ真っ直ぐ突き進むケイス相手だからこそもっとも有効な一撃を、セドリックは力ある戦士だからこそ無意識に近くとも自然と繰り出していた。
それを化け物は喰らう。相手が力あるからこそ、選ぶであろう一撃をケイスは突っ込んだときに読み取っていた。
セドリックの剣をケイスは捉える事が出来ない。今の実力では速すぎて認識が出来無い。だが認識はできずとも、来ると判っている。来ると信じた。
見た目に違わぬ凄腕の老戦士にして、ケイス相手に自由に打ち込ませる技能を持つ素晴らしき剣戟師であり、ケイスが欲する最高の好物である強者ならば振るうと確信していた。
見えない、目に捕らえない一撃。本来であれば防御不可能な攻撃に対し、ケイスはただ単純に対処するだけだ。
ロングソードを来るであろう瞬間を見計らい、ただそのタイミングに合わせて動かすという、単純明快な答えで。
セドリックが狙ったのは、この空間を作り出すほどの存在感を放つケイスの目。鋭く強すぎる万物を喰らい狂わせる龍の眼を潰そうと迫る穂先を、ケイスが振りあげたロングソードが斜めに受け止める。
セドリックの得意とする、己の望む間合いとタイミングで相手に剣を振らせる技能を喰らったケイスは、思惑通りに振るわせた一撃を防ぐ。
すさまじい速度を込めた一撃にケイスの身体は吹き飛ばされそうになるが、それは力だ。
ケイスが失った強靱神速の力だ。
力を喰らう。打ち込まれた力を喰らい、己の力と変える。それこそがフォールセン二刀流の真髄。
数多の化け物に囲まれ、己よりも遙かに力でしのぐ化け物達を相手に戦い抜き、生き抜いたフォールセンが育んだ剣の真理を、天才たるケイスは察し、体現してみせる。
斜めに受け止めた刺突の衝撃をずらしながら僅かに跳躍。空中で流される身体を、その類い希なるバランス感覚で制御。
前転気味に回転しながら空中で捻って体勢を整え、右足を精一杯にのばす。
ケイスが持つ剣と、セドリックの長柄では間合いに差がありすぎる。間合いの差を埋めるためケイスは己の体を柄とする。
柄となったケイスが求めるのは、やはり刃。刃が無くして剣は完成しない。
そして既に求める刃はそこにある。ケイスの意思に基づき宙を駈ける剣が。
伸ばした右足が先行していた短剣の柄を捉える。目で見ずとも、捉えきれない刹那の間であろうとも剣の動きは位置は判る。
ケイスが望み投擲した剣だからだ。
伸ばした足先が、ナイフの柄を確実に捉える。
自らを剣士と誇り、剣と共に生きるケイスだからこそ可能な人刃一体を持ってして、絶対的な差があった間合いを制し、絶望的な差があった技量差を埋め、隔絶した力量を上回る。
セドリックの力を喰らって、最大、最速化されたケイスの渾身の蹴りがセドリックの右肩に叩き込まれる。
足先のナイフの刃が重厚な鋼鉄製の肩当てへと食い込み撃ち砕き、肩肉へと食い込み、セドリックからどす黒い血しぶきがあがる。
しかしセドリックも歴戦の戦士。予想外の動きで打ち込まれた予測不可能な一撃に対して、ほぼ反射的に反応して身を沈め、その衝撃を受け止め打ち消そうと動いていた。
その思惑通り、ケイスが打ち込んだ一撃は深手は与えたが、致命傷とまではいかず肩骨に食い込み刃が止まる。
力が入らなくなったのかセドリックの右手からハルバードがこぼれ落ちた。落ちたハルバードを受け止めようとしたのか、その左手が僅かに動くが、折れている左手はセドリックの意思には従えなかった。
だが届かない。未だ届かない。ケイスの剣は斬るまでは、一刀では届いていない。
しかし今のケイスは二刀。二振りの剣を振る二刀流の剣士。
自らの出自を隠す為に封印した、本来の戦闘スタイルを取り戻したケイスはそこでは終わらない。
未だ宙にある己の体の両足を丸め、重心を変化させながら、両手でロングソードを握り直し着地と同時に渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
狙うは自らが食い破った隙。重厚な鎧に空いた破損。ナイフが作り出した斬撃。
息もつかせぬ二連撃がセドリックの右肩に食い込み、さらには鎧を砕きながら一気に左脇腹まで抜け、その身体を逆袈裟に両断する。
本来ならば臓物と血しぶきが舞う無慈悲な一撃。
だが両断すると同時にセドリックが身につけた腕輪が発光し、その身体が光の泡となって宙に消えた。
「ふっぅ……」
どうやら身代わりの腕輪の効果が無事に発揮されたようだと思いながら、ケイスはゆっくりと息を吐く。
ケイスには傷1つ無い。見ようによっては圧勝と見られるかも知れない。だが剣を交えたケイスは薄氷の勝利だと自覚する。
最初の一撃で命を絶てなかった段階で、まだ自分は未熟だと反省する。セドリックの左手が万全ならばハルバードを拾われ反撃されていた。
いやそれ以前に片手の一撃だから受け流せたが、両手で打たれていたら、来るのは判っていても反応しきれたかと問われれば無理だったと認めざる得ない。
強い。斬った後でも強いと素直に賞賛できる。それほどの強者だ。
よく見れば一撃を叩き込んだロングソードは刀身全体にヒビが入り、使い物にならなくなっている。
一撃で武器が壊れるほどの剣を放てたのは久しぶりだ。その爽快感がたまらなく気持ちいい。
「ふむ。よく頑張ってくれたな。お前とセドリック殿に敬意を表して、今の剣技はフォールセン二刀流新技【刃車二式】とでも名付けさせていただこう」
愛剣と、強敵に対する最大の敬意を現すために、自らが放った技に名付けたケイスは、使えなくなってしまったロングソードをその場に突き立てる。
後で回収には来るが、さすがに使えない剣を持って移動するのは体力的に不利だ。それに満足感は覚えているが、戦いはまだ始まったばかり。
それなのにメインウェポンをいきなり1つ失ってしまった。メインが細剣一本でやれないことも無いだろうが、耐久度を気にしながら戦っていくのはストレスが溜まる。
そう考えたケイスは足元に落ちていたセドリックのハルバードをじっくりと見る。
ケイスにはちょっと長いが、刃がついている以上は長柄であろうとも、ケイスには剣だ。
なら使えないわけが無い。
「ふむ。地面に突き刺すのは良いな。しばし借り受けよう」
最後の一人を探り、刺し殺すにはこっちの方が良いと判断したケイスは、新しいオモチャを拾った子供のように無邪気な笑顔で笑い、ハルバードを拾い上げ振り回す。
最初の一撃で返り血を浴びた顔を乱暴にこすった剣鬼は、次に斬るべき標的を求めて動き出した。