工学科二類の新宮。一度会えば色んな意味で忘れられない男。脳に深く深く刻み込まれた藤野は気分を落ち込ませるしかなかった。「っていうか、目ぇつけられたぞ、ありゃ」 この追い打ちである。 相手は敗北こそすれど、瀬川と柚に勝負をけしかけたり、小早川と権力争いを繰り広げたりする猛者だ。相手のフィールドに立ち入れば何をされるか分かったものではない。「これじゃあ工学科に、誰かについてきてもらっても行きにくくなったなぁ」 下手をしなくとも巻き込ませる恐れがある以上、良心の呵責が許してくれない。「って言うか、くんな。一般科が、工学科なんかに」「え、でも用事とか出来るかも知れないし」「生徒会を通しての用事ならセンセー使えばいいだろ。言っとくけど、今回の事がなくてもウチは良くねーんだって」 パチンと軽いデコピンがヒットする。痛くはないが衝撃がある程度だ。「アイツが言ってた通り、一類は全部が全部、俺に従ってる訳じゃねーし。第一、俺は俺が過ごしやすくするために色々やってるだけで、あのバカみたいに支配がどーのこーのとか興味ねぇんだよ」 そもそもが違う、と小早川は言う。妙に必死なのは同類に思われたくないからだろう。 ようやく踏切のカンカンという音が消失した。二人はとりあえず踏切を渡る事にする。一分も経たない内にまたカンカンと鳴りだすのは分かっていて、この機を見逃してまた長時間踏切を待つのは嫌だった。 渡り終えた辺りで、小早川は続きを口にした。「だから、一類にも俺をウザいって思ってるヤツはいんだよ。表だってケンカふっかけてこないだけで」「じゃあさ、個人的な用事があった場合どうしたらいいのさ」「バッカ、何のためのケータイだよ」 言いつつ折り畳み式のケータイを取りだす。顎で促されて、藤野もケータイを取り出した。アドレス交換を劇的に簡易化させた赤外線通信を終えると、小早川はいつもの表情に戻っていた。「一応、二類の方にもアンテナたてといてやる。もし何か仕掛けようとして、俺が察知できたら教えてやるから」「あ、それはマジ助かる」「対処できそうになさそうだったら、センセーでも頼っとけ。そっちの方が穏便に、でも厳しく始末できる」 キッチリ俺を頼るなという予防線を張るあたり、知恵がよく回る。 アドバイスを聞き終えた藤野は、今度はこっちの番だと話題を切り出した。可能な限り早く、小早川の協力は欲しい。「いきなり聞くんだけど、小早川ってパズル得意?」 前置き通り唐突な質問に小早川は眉を潜めた。「ホントにいきなりだなお前。別に。苦手じゃねーけど。どっちかって言うと脱出ゲームとか、そっちの方が得意」「マジ? じゃあちょっと協力してくれないかな。結構困ってんだ」 言いつつ取り出したのは学園祭の配置図だ。「これをどうしろっての」「学園祭でフリマやることになってさ、要らないスペースとかかき集めて、効率の良い配置を考えてるんだよ。これも上手く出来てると思うんだけど、何か足りない気がするんだよね。だから何とかならないと思って」「ペンと紙」 どうやら引き受けてくれるらしい。興味を引かせる事ができたか。 藤野はすぐにカバンを開けて、まずバインダーを渡してからペンと紙も渡した。紙は学園祭の配置図の基のようなもので、グラウンドや校舎が既に書き込まれている。また、各部に供給できる電力も記載済みだ。ペンは色分けが簡単なように三色ボールペンとシャーペンが組み合わされたものである。 小早川は紙の上でめまぐるしく目を動かし、ボールペンの頭を押してシャーペンに切り替えた。「これ、考えたの瀬川でしょ」「すごい分かるんだ」「与えられた条件っての? そういう中で、俺以上に完璧だしさ。そんなヤツ、周りじゃ瀬川くらいだし」 さりげなく自画自賛もしつつ、小早川は瀬川を評価する発言をする。「でも、与えられた条件で最大限を尽くすしかできないからな、あのバカ」 同時に落とすことを忘れないあたり、実に彼らしい。藤野は苦笑を浮かべた。 なんだかんだで幼馴染だからかな。よく瀬川のこと分かってるなぁ。 口にすれば確実に機嫌を損ねるだろう感想はひっそりと奥にしまいこんでいると、小早川はシャーペンでせっせと動かし出した。歩きながら、まるで片手間のように。一切の迷いのない動きは、消しゴムの要求を必要としないようだった。 あっという間に埋まっていく配置図を前に、藤野は驚愕するしかなかった。 あれだけ藤野や瀬川を苦しめた電力供給量の制限も、彼にしてみれば枷にならないのか。いつの間にか鼻歌すら交えながら、小早川はペンを止めた。次に赤、青と色を使い分けながら線を引いていく。「こんなもんじゃね?」 簡単だよ、と言わんばかりの様子で手渡され、藤野はポカンと口を開けた。 瀬川でも結構時間かかって作ってたのに、こんな短い時間で完成させてくれちゃいますか。そうですか。 ふと我に返って、渡された紙に目を通す。「あれ、電力供給のトコおかしくない? これじゃ、ここ足りなくなるじゃん」「足りない分はこっちからもらえよ。ここら辺はむしろ余ってんだから」 小早川は赤に塗られた線を指でなぞる。赤の線は他にも幾つかあり、それら全てが電力の足りない箇所へ割り振られていた。「合計の電力は等しくしてるからサ、配線上手くいじれば問題なくない?」 何事もないように言われ、絶句した。盲点を突いていると言えば突いた視点であり、そしてどこにも無駄がないように配置がなされている。電力供給に関しても、供給がスムーズに行くように考えられている。各所による電力供給量という枷を外して手抜きをしている訳ではない。より緻密に、綿密に考えられている。 知恵が回る、という凄さを実感した。小早川の場合、パズルや脱出ゲームが得意という次元ではない。そこから頭一つ飛びぬけている。「言われてみればそうだけど、こんなの良く思いついたもんだよ。ヤバい」「別に。フツーじゃね」「いやいやフツーじゃできないって、やっぱ小早川って頭良いんだね」「違ぇーって。俺の場合は頭良いんじゃなくて回転が早いって言え。柔軟でもいいけど」 どうやら瀬川との差別化を意思表示しているらしい。何となく分かる気がした。比較されたくないのだ。瀬川と。「そっか。分かった。ありがと。マジ助かったよ」「こんぐらい別にいいって、だから。他には何かないの」 あ、何か今やる気になってくれてる? 今がチャンスってヤツ? 藤野は善は急げと言わんばかりに最重要案件を口にした。「実はさ、メインイベントを考えてるんだけど、何がいいかなって思って」「メインイベント? キャンプファイヤー的なアレ?」 さすがに察しが鋭い。藤野は一度大きく頷いてから続きを話す。「うん。生徒主体でやるイベントみたいなの。でも、そんなにお金かけられないのが正直。キャンプファイヤーとかは無理」「去年は全校生徒参加型の巨大ビンゴ大会だったっけ」「それも無理。去年みたいな商品は取り揃えられないし。あのビンゴゲームの紙、既製品じゃなくて受注生産して作ったものでさ、それを全校生徒分用意してるとかで、すんごい金かかってる。去年の学園祭で一番金かけてた」「メインイベントって金かけて当たり前じゃん。そこも削ったら面白くなくね?」 小早川の意見は至極真っ当なものである。藤野も本音では盛大に金を注いでやりたい所だ。懐事情さえまともであれば。「そうなんだけど出来るだけ削りたいんだ」 赤字だけは出したくない。いや、出してはならない。何としても。そのためのリスクはできるだけ少なく、回避すべきだ。「ライブとかなら、そんなにお金かけずに済むと思うんだ。機材も軽音部で揃ってるし、会場は体育館使えばいいし。でも、アーティスト呼ぶ経費がスゴイ。一応でっかいイベントになるけど」 ミュージシャンはもちろん、芸人を呼ぶにしても金は莫大にかかる。理由は単純だ。知名度が低ければギャラは安くすむが、盛り上がりにはかける。となれば、そこそこのレベルを呼ばなければならなくなり、ギャラはウナギ登りに高くなる。生徒主体かどうかは怪しいが、主に生徒を喜ばせる、盛り上げさせるイベントであればギリギリセーフだろう。ダメだったら、生徒参加型のちょっとしたイベントを企画して混ぜてやればいい。 どうしたものかと思わず唸ると、小早川も同じように唸っていた。悩んでいる種類が違うようだが。 注目すると、小早川は「いやさ」と前置きをつけた。「何も有名なアーティストが全員湧きあがらせるって限らないっしょ」「そりゃそうだけど」 有名アーティストの最大の武器は知名度と安定度だ。もちろん実力からその知名度と安定度を得ている訳で、高確率で盛り上がる。 しかし、と小早川は巧妙に仕掛けられた心理トラップを外していく。「実力が高かったらさ、知名度低くても盛り上げるんじゃね? この前お前が体験したライブみたいにサ」 ちょっとしたショックだった。もっとも、確実に盛り上げられるだろう実力者を見出す「目」が必要になる。小早川はともかく、藤野にそんな「目」はない。 でも、ギャラを少なく済むから、効率的という意味では一番か。「でもそんなレアなの、いるかな」「いるだろ」 あっさりと事も無げに小早川は言う。「今、目の前に」 人差し指が向かう先は、地下へと続くライブハウスへの入口だった。何を言わんとしているのか、藤野はしばらく考えてようやく思いついた。小早川と藤野が知っていて、且つ、お互いに知っているという情報を共有しているモノ。 即ち。「もしかして、白光?」「アタリ」「って、どうやって? あの人たちと面識ある訳じゃないし、連絡先知らないんだけど」 彼らの実力は肌で感じている。初見であれだけ盛り上がらせたのだから、相当な実力と見ていい。しかし、連絡先が分からないのでは意味がなかった。調べるにしても方法が思いつかない。すると小早川は含みのある笑いを浮かべた。「今ここにいるんだって」「え、あ、じゃあ今日もライブやるんだ?」「いや、何か手伝いしてるんだって。タダで練習させてもらう代わりに掃除とか色々雑用とか引き受けてるカンジ?」「へー。詳しいじゃん」「まあな。知り合いになったから」 瀬川と比べれば豊かな感情が自慢げであると表していた。意外って言ったら何だけど。「マジ?」「結構通い詰めたからなー。向こうも顔覚えてくれててさ。話しかけられて仲良くなって」 今日も遊びにきなよって言われたから来たんだ。と一息で言ってから、指を一本立てる。「出演交渉っての? お前もこいよ」 一瞬迷った。相手からしてみればほとんど初対面である。その上、藤野に交渉能力なんてあるとは到底思えない。同時に、経費を大きく浮かす千載一遇のチャンスでもある。 やれるだけやってみるか? どうせダメ元だ。当たって砕けろの精神で行くしかないと腹を括り、藤野は頷いた。 戦地に赴く気持ちで階段を一段一段降りていくと、以前とは違う雰囲気が目の前にあった。同じなのは前を歩く背中である。「こんちゃーっす」「あ、いらっしゃい。って君か、早速だね。彼は友達?」「そっす」 扉を開けてすぐの受付にいたのは、藤野も見覚えがある青年だった。小柄でキャップ帽をかぶった、藤野以上に草食系の見た目。女と間違われんばかりの童顔。間違いない。あの強烈なライブで一番光っていたバンド、白光のボーカルだ。 感想を抱いている間にも青年は軽い様子で中へ案内してくれた。 誰もいないホールは本当に味気がない。セピアのランプが点灯しているおかげで明るく感じるものの、初めて参加した時に味わった閉塞感はさらに強くなっていた。壁も床も無機質なコンクリートで、天井は配管がクモの巣のように走っている。さすがにタバコや酒の匂いはしないが、どこか湿っぽく暗い匂いは残っている。 アスベストとか大丈夫なんだろうか。などと思いながらキョロキョロしていると、唯一明るく照らされたステージに目をやられた。 二本のマイクスタンド。立てかけられたギター。ベース。ドラム。アンプに繋がる黒い配線。「ライブハウスに来るのは初めてなの?」 穏やかな声が耳に入ってくる。振り返ると、青年は穏やかな笑みをたたえていた。「あ、いえ、実は二回目、です。その」「ぷっ。ごめん。そんなに緊張しなくていいよ。僕、ハウスの責任者とかじゃないからさ」「ってか緊張し過ぎたら警戒されんぞ。リラックスしろって」 穏やかな声の後に、からかい口調の小早川の咎めが刺さる。って何でアンタはそんなにフランクなんだ。くそう。 違和感を覚えつつも、どう何を言えば良いか分からなくなり黙っていると、小早川がフォローを入れてくれた。「でも緊張すんのは仕方ないっす。だってコイツ、この前のライブが初めてで、アキラさんの事は覚えてるはずだから」 すると青年は僅かだけ思い返すように眉をひそめ、ああ、と声を出した。「思いだした。いきなり後ろから持ち上げられてメッチャ焦ってた子だ」 げ。そんなの覚えられてたのか。 恥ずかしくなってセピアの灯りの下でも分かるぐらい赤面すると、アキラと呼ばれた青年はまた笑った。「ゴメンゴメン。でも分かってほしいかな。僕たちライブをやる方からすれば、お客に怪我されるのが一番怖いし嫌なんだよ。だから肝を冷やした所とかは良く覚えてる」 自分たちの音楽で音を楽しんで欲しいから。だから嫌な思いはしてほしくない。そんな感情と気遣いがありありと見えて、藤野は彼の器の大きさを知った。「でもさ、僕を前にして緊張してるって事は、それだけ僕らの音楽が良かったって受け取ってもいいのかな」「もちろんです! その、何て言うか、初めてだったんです。音の渦ってか、そういうのに揉みくちゃにされて、気がついたらもう心ぶち破られて、解放! ってか、もう」 ああヤバい今自分でも何言ってるか分かんない。しかもイタイこと連発してる! 気付くと声は尻すぼみに小さくなっていく。「いいよいいよ。十分に分かった。ありがとう。嬉しいね、結構最高の褒め言葉だよ。それ」 真摯の笑顔に、藤野はほっとした。アキラという人物はこちらの感情や伝えたい心情を隈なく拾い上げてくれる。これ以上とないくらい親しみやすい人物だ。 ここまで時間が経過しておいて、藤野はようやく気付く。他のメンバーがいない事に。ドラムやギターがあるのだから、居ても不思議はないはずだ。それすら察知した様子で、アキラは答えてくれた。「他の人らは楽屋の掃除とか、買い出しとか。色々と忙しく立ち回ってくれてる。僕は経理兼受付担当」「あ、じゃあ今がチャンスだったりする? アキラさん代表だしさ」「ん? 何かあるの」 え。いきなり振りますか。そこに振りますか。どうしよう。 微塵の迷いもなく動揺する藤野の隣に小早川は移動すると、脇腹をこっそりつついてくる。言え。と。 それでも逡巡していると、アキラがじっくりと聞く体勢を取ってくれた。ああ、本当に優しい人なんだなぁと感心しつつ、藤野は意を決して開口する。「えっと、僕、藤野って言います。実は、この近くの高校の生徒会長やってまして……」 どぎまぎしながらの説明は非常に分かりにくく、逐一小早川のフォローが必要とするぐらいだった。とはいえ、まともに何をどう言うべきか考えていないのだから許して欲しいところだ。 いつもの数倍もの時間をかけて、今年の学園祭は予算が少ない、でも、大きいメインイベントをやりたい。だから、バンドとしての出演依頼をお願いする意向までは伝え終えた。 大体の事情を伝えてから、話しの終わりまで、アキラは難しい顔をしていた。それでも険悪な雰囲気を醸し出さない辺りはさすがと言うべきだろうか。藤野が何とか話し終えても、しばらく考えこむ様子を見せていた顔がようやく動く。「ごめん。事情は分かった。でも、出演するに当たって、僕たちにはどんなメリットがあるのだろう?」 予想だにしなかった質問に、藤野はもちろん、小早川すら面を食らった。 短時間ではあるが、アキラの人柄は確認できた。話しやすく、感情をくみ取ってくれる、とても優しい青年。そんな彼からは出てくるとは思えない鋭い刃に戸惑うしかなかった。何かを裏切られた気分にすらなる。「ごめんね」 空気を呼んだアキラはまず詫びた。裏切られた、と言う感情は勝手であるはずなのに。藤野にしろ小早川にしろ、お互いを理解できる程時間を共有している訳でもない。単純に、音楽という接点で多少繋がりを持っているだけの軽い関係でしかなく、何かを期待し、裏切られたと思わせるだけの何かも共有していない。 だが彼は詫びるのだ。しかし、同時に容赦もしない。オトナでもなければコドモでもない。高校生として、彼らに接しているが故に。「小早川クンも言っていたけど、僕はバンドの代表なんだ」 言葉と声には魔力がある、と誰が言ったか。二人は有無を言わさず引き込まれた。「あらゆる交渉事を僕が担当してる。少しでも負担を減らして、多くのお金を稼ぐために。こうしてボランティアで手伝うって対価を支払って、タダでスタジオ代わりに練習させてもらうようにね。音楽で生きていきたいから」 怖くはない。寒気がするような程の雰囲気を出している訳でも、睨まれている訳でもない。だが、逆らう気は起きなかった。「それでも足りないから、皆それぞれバイトしたり、他のバンドにヘルプで入ったりして稼いで、何とか回してるんだ」 何だろう。誰かに似ている。誰だろう。 不安が頭をかすめる。思い出せそうで思い出せない。いや、思い出させるという作業をさせてもらえない。圧倒的すぎて。「繰り返すけど、僕たちは音楽で生きていきたい。プロになりたい。そのための努力なら惜しまないし、泥水もすする。だから常にバンドにとってどんな利益が出るかって事を最優先しなきゃいけないんだ」 そして言葉は輪廻して帰結する。アキラが始めに放った鋭い言葉へと。どんなメリットがあるのか。バンドにとって。「勘違いして欲しくないけど、音楽で誰かを楽しませたいって事は根底だし、大前提だよ。正直、学園祭のイベントのメインを飾るんならそれなりの人は期待できるだろうし、湧き上がってもらえると思う」 さりげなく自分たちの実力を誇っている発言だが、厭味がないので二人は気付けなかった。「それだけじゃダメなんだ。上へ上へ行くには、ステップを上る度に潤沢な資金が必要になる。必要になっていく。汚い話、ギャラをたくさん貰わなきゃならない。そのためにファンを増やしていかなきゃならない。少なくとも、僕たちの音楽を好きになって、数千円支払ってでも聴きにきてくれるファンが」 ああ。そうだ。校長だ。 藤野はようやく思い至った。目の前にいるアキラは、毒気も威圧感も全くない校長と言えた。脅迫もしてこない、全くクリーンな校長だ。存在感だけで逆らう気力を失わせる力と、しっかりと意見を聞かせる力の持ち主だ。 理解した刹那、アキラの言葉がどこに至るか、何となく察せた。 きっと、これは。 だが、言葉を挟めなかった。ただ、聞くという選択肢しか、藤野にはなかった。