春ももう中程、秋葉原の大通りを大分外れた小道。
ぽかぽかと暖かい日差しの中を、少し季節はずれの薄いセーターにジーンズを履いている黒髪の青年が、何か目新しい商品を探していた。
彼はオタクになりかけの青年で、柊竜斗と言った。
彼は子供の頃は病弱で、自然、外で遊びまわるよりも、暖かい部屋の中で静かに遊んでいる方が好きだった。今日は少し奥の方まで探してみる事にしていて、小さな小道まで入ってきたのだった。
小道に入った途端、静電気のようなものがぱしんっと全身を叩く。
「うおっ」
竜斗が顔を庇う様に腕を上げ、しばらくしてそろそろと降ろした。
そこに、不可思議な雰囲気の店があった。まず、店の名が読めない。
外国の文字だろうか。中国語とローマ字を足して二で割った様な、奇妙な店の名だった。それでも、その店がおもちゃ屋だと言う事は分かった。
店頭にはパズルなど様々な品物があり、何故か竜斗はそれらに強く惹かれた。
その中で、一際目を惹くものがあった。
「冒険の書セット」
それは、4体の人形と本のセットだった。
人形は美男美女だったがほぼ丸裸で、下着のみを着用していた。
「なんだろう、これ……?」
とりあげてみると、店主らしき中年の男が言った。
「おお、それに目をつけたか。初心者セットもつけてやるよ」
不思議な服装の男だった。
妙な文字のようなものの書かれたバンダナと、同じく妙なデザインのエプロン、そして店と同じような不可思議な雰囲気の男。
竜斗はとりあえず其方に行くと、小さな袋をもらった。
「これはTRPGのセットでな。冒険者の気分を味わえるんだ」
「へー…。人形まで使うんですか。興味はあるから調べたことはあるけど、会場が皆、家から遠いんだよなぁ…」
これは部屋の中で皆で遊べるので、竜斗は強い興味を持っていた。
しかし、TRPGが出来るほどの多くの友達を、竜斗は持っていなかった。
新たな友人をそこで作れるかもしれないと期待に胸を膨らませて場所を調べた事もあったが、そのようなTRPGの会場は極端に少なく、とても竜斗の通える距離には無かった。
今日だって、竜斗にとっては大変な遠出だ。
竜斗が難色を示すと、近くの地図を提示された。
「ここへ行ってごらん。楽しめるから」
時間のかかる遊びと聞いたが、今はまだ昼前であり、一回遊ぶ時間くらいはあるだろう。興味が沸いた竜斗はそれを買い取り、指定された場所へ向かっていった。
竜斗が向かった先は、喫茶店に見えた。レンガ造りの喫茶店で、窓は狭く、観葉植物で塞がっていて中は見えない。先ほどの店と同じく、看板は読めなかった。
竜斗は扉を開け、中に入った。中は、観葉植物だらけだった。
竜斗の背後で勝手に扉が閉まるが、竜斗は気づかず、そのまま店を見回す。
「まるで手作りの小さな家みたいだ。お客が入れるのか、これ?」
外側はレンガ造りなのに、内側は木で作られていたのも、不思議だった。
何故わざわざそのような作りにしたのだろう。
竜斗は不審げに辺りを見回した。お店の人はどこだろう。それとも、ここは喫茶店ではなく、開放してある公共の場所なのだろうか。ただ単に留守なのだろうか?
真ん中のテーブルのくぼみに、冒険の書を入れろと書いてある事に気づいた竜斗は、書いてあるままに冒険の書を嵌めてみる。
更に足跡のような窪みがぴったり4つあったので、4つのフィギュアを立たせた。
ついでに悪戯心で、小さな袋を、担がせて見せる。
それは冒険に出た初心者パーティーに見えた。
竜斗が見回していると、もう一つドアがあるのに気づいた。
何の気なしに開ける。
ジャングルだった。
その瞬間、今まで聞こえていた町の雑踏が消えた。
ジャングルの得体の知れない獣の鳴き声が聞こえてくる。
変な生き物が飛び込んできたが、竜斗に当たる寸前後ろから来た光に弾き飛ばされた。
素早くて竜斗にはよく見えなかったが、鋭そうな針のようなものだけがはっきりと見えた。
竜斗が後ろを振り返ると、冒険の書が光っている。
竜斗は驚いて、とっさに扉を閉めると同時に町に繋がってるほうのドアに飛びついた。
とっさの判断にしてはいい判断だったろう。しかし、その判断には問題があった。最初に来た扉が、どこにもなかった。
「どどど、どうなってるんだこれ!?」
竜斗はそっとドアを開ける。ドアの隙間から虫が入ってこようとするが、ドアを境界線とした光に阻まれて入ってこれないようだ。
こんなへんな事になる心当たり、冒険の書以外ない。
竜斗は慌てて冒険の書に触れた。
『冒険を始めますか?』
竜斗が触れた途端に頭に響いてくる声。
「いやなこった!」
答えると、それきり何も答えない。
冒険の書さえ取り出せば元に戻れるかと思い、冒険の書を取り出した。
光が収まり、バンバンと虫が窓を叩く音がする。
竜斗はとっさにやばいと感じ、冒険の書を戻した。
冒険の書は窪みへとすっぽりと収まり、光を発し始めた。
虫が窓を叩く音が、柔らかな小さな音に変わった。光のバリアに変わったのだ。
――あー、どうなんだこれ。なんなんだこれ。
――始めるって答えたほうがいいんだろうが、とんでもない事になりそうな気がする。
途方にくれた竜斗は、まず家の中の捜索を始めた。
家の外に何かあるか見に行く度胸は竜斗には無かった。
竜斗がまず見るのは台所だった。昼が近づいて腹が減っていた。
部屋を見渡す事のできるキッチンカウンター。
冷蔵庫やレンジ、コンロなどの電化製品は無かったが、食料棚はあった。
ただし竈があって薪を使う式だ。
見慣れない食べ物ばかりだが、贅沢を言っている場合ではない。
次に竜斗が見たのは風呂だった。ある。家がそもそも湧き水というには大規模で、滝というには異様に薄い水の流れの近くにあるようで、風呂の部屋の窓の近くにある木の管を利用すれば、そこから水が汲まずとも流しいれられるようになっていた。
そこにも竃のようなものがあり、ちゃんと暖かな風呂に入れるであろう事は予想できた。
だが、雨が降ると大変な事になるだろう。水場にあまりにも近いから、小さな滝の水が増えただけで窓から入ってきて大変な事になる。一応窓には木の板が嵌められるようになっていたが、心もとなかった。ガラスが無いので、窓を開けずに外を見ることも出来ない。
風呂の近くにトイレがあった。近くの薄い滝で出来た湖の中に落とす式の様だ。
竜斗は湖の水は汲まないようにしよう決心する。
部屋を漁っていると、いくつもの壁の出っ張りに気づいた。
引っ張ると、長いベットが4つ現れた。ベットに引き出しがあり、中に毛布が入っている。
他の出っ張りを引くと、空の戸棚が現れた。
一通り家の探索が済み、彼は窓を開けて外を見渡す。見渡す限りの緑緑緑そして湖。
ふらふらとそれらのチェックを終わらせると、竜斗はなんとかお湯を沸かし、お茶を飲んだ。保存食らしきものをガリガリと齧る。
齧りながら、竜斗は考えた。これは夢なんだ。だから、寝てしまえ。
竜斗はふらふらとベッドに倒れこむと、眠った。
いかにも恐ろしい狼の遠吠えのようなものを聞き、竜斗は目覚めた。
起き上がると、寝ていた時と同じ場所で、ただ暗い。
冒険の書ばかりが、ぼうっと光っていた。
そっと、冒険の書に触れる。それは極々小さな熱を持っているように感じられた。
冒険の書が何か重要な役目を果たす事は明らかだった。
竜斗は冒険の書に触れ、しかし恐ろしくて再度取り出すことも出来ずに、悩みに悩んだ。結果、意図せず、どうすればいいのだという念を冒険の書に送っていた。
『冒険を始めますか?』
「嫌なこった!」
とっさに竜斗は答え、冒険の書から離れていた。
冒険。外の景色。恐ろしい想像しか浮かばない。
帰るにはどうすればいい?
竜斗は、そろり、そろりと歩いて、そっと指で冒険の書に触れた。
しかし、冒険の書は無反応だった。
「どうしたんだ」
不安になって、冒険の書に手のひらで触れ、問いかける。
『冒険を始めますか?』
竜斗は迷った。迷ってもいたが、焦ってもいた。なんとかしたかった。
「冒険を始める」
彼は意を決して、冒険の書に答える。
『男ですか? 女ですか?』
冒険の書は、矢継ぎ早に質問を開始した。
「男だ」
『髪の色は?』
「黒だ」
『長さは?』
「普通の短髪」
『背の高さは?』
「170」
『目の色は?』
「黒に近い茶色」
『お名前は?』
「竜斗」
『冒険の書1にセーブします』
次の瞬間、竜斗は混乱した。
――俺の視界が二つある!
――しかも目の前にさっきまでの俺!
――もう一つの目の前に下着姿の男!
彼は変態と自分自身から逃げる前に助けを求めた。
「「なあ、あんた!」」
「「俺は竜斗。ここはどこだ?俺の真似してんじゃねぇよ!」」
二つある感触と視界、そういえば片方の自分は下着姿だ。
竜斗は頭がくらくらしてその場で倒れてしまった。
竜斗がしばらくして思いついた解決方法は、片方の人物に目隠しをして、布団でぐるぐる巻きにする事だ。竜斗は下着姿の彼をそうした。
色々調べた結果竜斗にわかったのは、もう一人の自分が筋肉質で美形である事だけだった。サラサラとした漆黒の髪に黒に近い茶色の瞳。身長は俺とぴったり同じで、その体は良く鍛えられている。下着姿でさえなければ見惚れていただろう。
下着がどこかで見た事あるものだと思ったら、あの人形だ。
見てみると、人形が一体無い。それに、よく整った顔の造詣が同じだった。
冒険の書の表紙には、リュートという名とゲームでよく見るパラメーターの欄があった。
無職だった。そこで竜斗は、自分が冒険する必要が無い事を知る。何故なら、たった今冒険者を作ったから。竜斗はあくまでもプレイヤーなのだ。
ほっとすると同時に、ぞくっとする。
TRPG。冒険者になりきって遊ぶゲーム。
竜斗の目の前に、包んだ布団の中に、まさにその冒険者、リュートがいた。
あのような怪しい店、初めから行くべきではなかったのだ。
思えば初めから、怪しいところ満載の店だった。
思い返してみれば、魔女か何かの店としか思えない。そして実際にそうだったのだ。
とにかく、今は出来る事をするしかない。
彼は今度は体を交代してみた。慎重に、布団からリュートを出して動かす体を切り替える。リュートの体は凄く動きやすい。
リュートとなった竜斗は何か変な感覚がして、何かを取り出す動作をしてみた。
白い袋が宙から現れる。
袋の中には、服や粗末な剣が四人分とパンがいくつか入っていた。
店の主人が言っていた、初心者セットの事だろう。
彼はこんな所に連れてきた店の主人を恨むと同時に、心から感謝する。
オーソドックスに考えれば、パンは回復アイテムだ。服と剣も必需品だった。
――店の主人に悪意は見えなかった。きっと重大な間違いを犯したのだ。
――俺は魔物か何かに間違えられたのだろうか。子供の頃、急に病弱な体から健康になった事があった。その時は、両親は神の奇跡だと言っていたが、魔物か何かに憑かれていたのだろうか。
竜斗はいつも自分の看病をしてくれた妹、美鈴を思い出す。
両親は共働きで、頼りになったのはいつも妹だった。
元気になった時は、必ず妹を自分が守ると竜斗は決心していた。
父も母も、なにより妹が、竜斗を心配しているだろう。
どうにかして、帰る方法を見つけ出さなくてはいけない。
リュートは外へ行く決心をした。服のサイズが合うか見てみると、服が体をすっと通り越して、丁度体が服にすっぽり入った辺りで止まった。
次に剣を握ると、手に吸い付くようだった。
装備すると言う感覚を知る。
――持っていても意味が無い。装備しなくては。
よくゲームで聞く言葉だ。冒険の書のパラメーターチェックで装備している事を確認し、リュートは息を吐いた。
次に、恐る恐るバリアの外に出る。
深いジャングルのような場所で、道は無いように思われる。
家の周辺を探索していると、こうもりの様な妙な生き物に襲われた。
必死で剣を振り回すと、妙な生き物に当たって血が出た。
血を見た瞬間、リュートはパニックに陥る。
自分が何かを傷つけた事が信じられなかった。
さらに、こうもりに思い切り噛まれた。パニックは更にヒートアップする。攻撃する、攻撃された、どれも病弱だった竜斗にはゲームや話の中でしか覚えの無い行為だった。
リュートはパニックになってめったざしにすると、家に逃げ帰る。
彼は縋るように冒険の書に触れた。
『レベルアップの要綱を満たしています』
『レベルが2になりました』
『今回の戦利品です』
すると、どこからか力が沸いて来る。
戦利品とはなんだろうとあちこち捜し、袋の中を覗くと、中に服が増えていた。
つまり、遠くに探索に行くにはリュートを操り、ここら辺の魔物を倒し、アイテムを手に入れないといけないらしい。リュートが死ぬとどうなるのか、竜斗は恐れたが、自身が死ぬよりマシに思えた。
食料品もいつまで持つかわからない。
戦うのは怖い。しかし、それ以上に帰りたかった。
竜斗は、流されるままに戦ってとにかく生きる事を決意した。
リュートは慎重に巡回を行う。
相手を倒すごとに、何かアイテムがもらえた。しかし、お金はもらえなかった。
冒険の書にはお金を示すらしきパラメーターがあるが、0のままだ。
食べられるアイテムは少なく、味が良くなかったので、竜斗はリュートに植物採取や料理をさせた。近辺にりんごが生えていたのだ。湖には魚もいる。汚物も捨てている事は忘れる事にした。そして、だんだん、冒険者リュートになりきる事が出来ていた。
この異常な状況では、冒険者リュートになりきらなければ心が耐えられなかった。体がリュート一つのような錯覚を覚える。
すると、リュートの頭の中に言語知識や料理法が浮かんできた。
これは僥倖だった。確実に食べられるものと食べられないものがわかるようになった。
それに、言語知識があるという事はきっと町がある。
リュートで死ぬとどうなるかわからないから、無茶は出来ない。
もう一つの人形、サティアと共に竜斗は必死に育てていった。
残り二つの人形は不安だったのでまだ取ってある。
サティアの設定はリュートと同じにした。これで兄弟で通せる。
サティアはショートカットで、胸の大きな美人となったが欲情することは無かった。
竜斗には、可愛い妹がいた。リュートの妹という設定にしたからには、妹に手を出す事は出来ない。それに、感覚は共有されるのだ。自らに抱かれる感覚は遠慮したかった。
なにより、彼らは既に竜斗自身であり、家族だった。
「グワーッ」
虎のような化け物を倒す。接戦だった。これは経験地が期待できると思い、リュートはすぐに家に戻った。
冒険の書に触れると、頭の中に声が響く。
『レベルアップの要綱を満たしています』
『レベル10になりました』
『転職しますか?戦士、魔法使いに転職できます』
竜斗は悩んだ。大いに悩んだ。
薪割などの力仕事もあるから、力は絶対に必要だ。
しかし、魔法にはかなり興味がある。
竜斗は弱くなるのが怖かった。
悩んで悩んで、竜斗は自分が馬鹿だと気づいた。
主力のリュートではなく、予備のサティアを魔法使いにすればいいのだ。
竜斗はその日からサティアのみを使うようにした。
「グアッ」
「くっ」
犬のような生き物に噛み付かれかけてサティアは呻く。
サティアはやはりリュートに比べ、力が弱い。
その代わり回避は高いのだが……。
「えいっ」
剣を思い切り振り、犬のような生き物を切った。
生き物を切る事には、既に心が慣れてしまっていた。
ここがどんな世界かわからないけど、せめて、人だけは斬らないように心に誓う。
「今日の探索はこれで終わりにしましょうか……」
孤独に狂った竜斗は、サティアの時は女言葉を使うようになっていた。
ご主人様と兄弟という設定で、「サティア」は竜斗に傅く。
歪んでいると分かっている。しかし、それでも他の命を奪うリュートとサティアは自分とは違う人間でなくてはならないのだ。
「さあ、ご主人様が待ってるわ」
家に帰ると、まず冒険の書に触れる。
『レベルアップの要綱を満たしています』
『10レベルになりました』
『転職しますか?戦士、魔法使いに転職できます』
「やりましたご主人様! 魔法使いを!」
サティアは眠った竜斗に向かい、ことさらにはしゃいでみせる。気分は人形劇の役者だった。
『魔法使いに転職します。レベルは1になりました』
一瞬後、力が更に弱くなった気がした。
その代わり、何か心が満たされる感じがした。
「がっかりですわ……」
まさかレベル1になるとは思わなかった。
サティアはその後魚を釣り、皿の上に乗せた。
「どうぞ、ご主人様」
テーブルの隣に傅く。
それと同時に竜斗は起きて、食事を食べた。
竜斗とサティアを同時に動かすまで技術は向上していない。
片方動かすなら、片方がじっとしていないと駄目なのだ。
町の探索は、まだうまくいっていない。
竜斗自身も鍛え始めてはいたが、やはり人形達には構わない。
外の昆虫さえ、竜斗には脅威となるだろう。
人目を誤魔化す方法も考えなきゃな。
竜斗はサティアとリュートの頭を撫でた。
こっけいな人形遊び。それでも、この奇妙な人形達だけが竜斗の頼りなのだ。
「うう、やっぱり多勢に無勢ね」
サティアで探索中、囲まれてしまった。
「ファイア!」
覚えた呪文で応戦するが、旗色が悪い。調子に乗りすぎた。
犬共がじりじりとサティアを取り囲む。
「リセットしたい…!」
呟いたその瞬間、サティアの姿が消えていた。
サティアは、冒険の書の前にいた。
戦っていた事など嘘の様に服装が整っている。
『冒険がリセットされました。以前セーブした時の状態に戻りました』
「現在のレベルは!?」
「12レベルです」
それなら今日出かける前のレベルだ。
リセットか、いい呪文を覚えた。
竜斗はさっそくリュートを使ってリセットを試した。
手にいっぱいのリンゴを持つ。
「リセット!」
そこにいたのは、てぶらのリュートだった。
「やっぱり駄目かぁ……。でも、これで遠くまで行ける様になったな」
進歩だった。味気ないレベル上げと探索ばかりで、目新しい発見は嬉しいものだ。
時折、竜斗はこの世界に一人ではないかと思う。行けども行けども緑緑緑。
人恋しかった。だが、諦めるにはまだ早い。限界まで遠くへ行けば、あるいは街が見つかるかもしれない。サティアもリュートもまだ弱い。絶望には早すぎる。竜斗はそう心に言い聞かせた。
しばらく探索を続けると、サティアが15レベルになり、移動呪文が使えるようになった。これで一度行った場所全てに行ける様になる。しかも、リセットした場所にもこの呪文は行ける様になっている様だった。
すぐにリュートも魔法使いに転職させる。
15レベルまで上げて、戦士に転職。幸い、呪文は消えなかった。
これで、どこにだって行ける。竜斗は心底安堵した。
10レベルまでリュートのレベルを上げると、竜斗は本格的に探索を開始した。
トイレの前に座り、食事と飲み物を近くに置き、毛布を巻いて座る。素早く用事が足せるように。竜斗が動いている間、人形は動けないのだから。
竜斗の体力が続くまで、行軍は続く。パンは予め用意して、出来るだけ遠くへリュートを走らせる。どこまでもまっすぐに。時折、高い木へ上り、周囲を見回す。竜斗が力尽きて眠くなったら移動呪文を使った。
そのような生活は十日ほど続いて、諦めて別の方向に向かう。これの繰り返しだった。
「もう駄目かもな」
思わずリュートはそう呟いた。行けども行けども緑の日々。竜斗は絶望していた。
ただ街が見つからないなら希望はある。だが、どこまで行っても緑なのだ。緑だけの世界なのでは、と思ってしまうには十分なほど竜斗は歩いていた。
次の希望は、見つけた大きな川沿いに歩く事だ。
リュートに川辺に行かせ、下流をどこまでもどこまでも進んでいく。
もう走りはしなかった。
竜斗は思う。世界の果てまで行ってしまおう。
リュートが移動呪文で、何度も何度も川と小屋の往復を繰り返す。
もう走りはしない。歩いてのみの行軍だ。せめて景色を楽しみながら行く。それも同じ景色ばかりなのだが。
すると、遠くの方に煙が見えた。
「まさか…まさか…」
リュートはふらふらと走り出していった。遠くに見える、小さな塀のようなもの。
竜斗はついに、街を見つけたのだ。
一次は落選しましたが、前回の「悪役のお仕事」の日本語が出来ていないから、上手くはないけど好感は持てるなど、評価が非常に進歩しました。
これも皆さんのおかげです。ありがとうございます!
引き続き描写力の向上、それに新たに世界観の構築、魅力的なヒロインを目標に掲げて頑張ろうと思います。
本当にありがとうございました!