休日だ!
ただの休日ではない。なんと給料もらって初めての休日である!
最初だから、と色をつけてくれたバルサさん達には感謝せねばなるまい。
もらったその日。シオに住まわせてもらっている以上は家賃や生活費を渡そうと思ったがシオはそれを頑なに固辞した。
君は僕が何らかの原因で召喚してしまったのだから例え君が勇者じゃなかろうとその世話くらいはタダで構わない、だそうだ。
妙な所で律義な男だった。
とは言え、こちらとしても引け目があるのでもう一度渡そうとしたが、シオが一カ月に稼ぐクエスト報酬額を聞いて膝をついたのは仕方ないと思う。
そんな事があって給料はそのまま全て俺の懐に収まる形となった。
ので今日は仕事ばかりであまりしていなかった街の散策でもしようとこうしてぶらついていると言うわけである。
因みにシオは自宅で魔法のなんかの研究。
スーちゃんは残念ながら他の友達と遊びに行ったらしくいなかった。
ミリンはクエストに行ってまだ帰ってこない。
そんなわけで特に当てもなくだんだんと見慣れてきた町並みを眺めながらのらりくらりと歩いていると
「こら! いい加減に大人しくしろ!」
「近隣の住民から変質者が出て困っていると連絡があったんだ!」
「む? だから私もその変質者を探すのを協力しようと言っているではないか。変質者などが居れば幼女がおちおち外で遊ぶことも出来ん」
「だから貴様が捕まれば済む話だと言っとるだろ!」
「く、コイツ! どうなっているんだ、全く動かん!」
「と言うか攻撃しても全く効いてる気配がないぞ?」
「待ちたまえ。君達は何か誤解をしてはいないか?」
「「「だまれ変態!」」」
金髪の精悍な顔で神父服を着た男が自警団の人達に囲まれているという見慣れたくない光景が視界に飛び込んできた。
直ぐにその光景を脳内ハードディスクから消し去り散策に戻るとする。
今日は休日なのだ。
突っ込みも変態の相手もしたくないのだ。
「む? そこに居るのは同志サトーではないか? おーい同志サトー、済まないがこの者達の誤解を解いてはくれんか?」
空耳が聞こえたな、今日はのんびり過ごすはずだから変態が俺を呼ぶはずがないもんな
すたすたと後ろから聞こえる良く通る声を無視して足を進める。
「如何したのだ同志サトー?
何故反応しない同志サトー?
まさか私の声が聞こえていないのか同志サトー!
君を立派なロリコンにすると誓った私の声が分からないのか同志サトー!
そんなことで立派なロリコンになれると思っているのか同志サトー!?
同志サトー!? ドゥオウシスゥワトゥオオオオ!?」
「や め ろ!」
往来で同志サトーとか連呼すんなと言ったろうが!
…ああ、反応しちまった。
グッバイ 俺の休日……
せめて勇者として召喚してほしかった10
「いやあ全く済まなかったな。公園で遊ぶ子供達を見て微笑んでいたのだが何故かあの者達が私を取り囲んでな。同志サトーが来なければどうなっていた事か」
子供をじっと見て笑っている見知らぬ大人がいればそれは誰でも警戒するわ。
因みにどうなっていたかで危険なのはコイツではなく囲んでいた自警団の皆さんである。Sランクは伊達ではない。
関わりたくはなかったが取りあえず街の自警団の人達にコイツは変態だがギルドの冒険者だと説明して解放してもらった。
向こうもまさかこんな変態が最高位のSランクだとは思わなかったらしく吃驚というか幻滅していた。
まあそうだろう。Sランクと言うのは街一つ簡単に滅ぼしてしまうような魔獣やドラゴンなどを一人で相手にして勝ってしまうような存在らしい。
それがこんな変態とは思わなかった、先輩達が言っていた変態神父とはコイツの事か、と言われて見送られた。
その時に念のため、と俺の顔と名前をしっかりチェックしていたのは特に他意はないと信じたい。
去っていく時に何かに書きこんでいたのは全部セウユのことであってほしいと切に願う。
「所でセウユ、アンタ長期専用の冒険者って聞いてたけどこの前からずっと街に居んのか?」
「うむ。相違無い。長期のクエストはそれなりに費用も必要になる上に危険度も他とは比べるべくもないが、その分一度行けばしばらくは次へのクエストに向けて英気を養い準備に当てるために休息をとっている。
おお、そうだ! 同志サトー、この後に何か予定はあるか?」
「予定? いや、今日は休みをもらえたからゆっくり散策でも……おーっとシオにおつかい頼まれてたんだった。てことで俺はここで」
「まあ待ちたまえ」
黙っていればハードボイルドな頬笑みを見た瞬間逃げようとしたが、シオと違い運動神経も良いSランクから逃れる術は俺には無かった。
「離せ! なんだ!? 何処に連れていく気だ!?」
「いや何、同志サトーはまだロリコンと言うものの本質を理解しておらんようだから我らがイザートロリコン同盟クローブ支部へ案内しようと思ってな。
同志サトーも初代会長、通称『オリシュ』様のお言葉を知ればきっとその素晴らしさに心打たれるであろう」
オリシュ? …オリ主! やっぱ初代は絶対俺の世界出身じゃねえか!
そんな変態のことなんか知りたくも……まてよ?
「セウユ、そのオリシュの残した本とか日記とかってもしかしてあるか?」
「む? おお、写本でよいなら有るぞ。オリシュ様の遺言で本の開示はされているからな。
ただその本に書かれている文字はどうやら暗号のようになっていて未だかつて誰も読めんのだ。それでも良いなら構わんが」
…どうするか。たぶんその文字は日本語だろう。
別に帰る方法自体はもうシオが(触媒はないが)用意してくれているし探す必要はない。
けれど俺の先輩とも言える人がコッチの世界で何を学んだかは興味がある。
もしかしたら今後の俺の生活に役立つかもしれない。
「…いいぜ。その本を見せてくれるんならついていってもいい」
「おお! オリシュ様の事を知りたいとはいい心がけだな。では早速行くとしよう」
言うや否やスタスタ進むセウユに多少不安になりながらも遅れないようについていった。
クローブの街はシオ曰く辺境にあるがそれなりに大きい街だそうで魔物の襲撃に備えた防壁がぐるりと囲む形となっている。
その中で俺が知っているのはギルドのある中央部からシオの家から来る時に通る西地区のみだ。
セウユが案内してくれたのは東南部の住宅街だった。
所狭しと民家が並ぶなかセウユはさらに細い道を通って路地裏に入っていく。
路地裏というと少し暗いようなイメージがあるかもしれないが予想と違いその辺りは表通りほど整ってはいないものの不思議と怖い印象は抱かなかった。
きょろきょろと視線を移せば井戸端会議をしているおば様達やなんの遊びをしているか分からないがきゃっきゃっと跳ねまわっている子供達がいた。
なお、子供達は全員男の子だったのでセウユは見向きもしなかった。
「ついたぞ同志サトー。ここが我らロリコン同盟クローブ支部だ」
「同志言うな」
案内された場所は木造の一軒家だった。
両側の石造りの家の間にあったスペースに無理やり家を作ったらこんな感じになるといった印象。
はっきり言って小さい。シオの家は元貴族の屋敷らしいからでかいのは当然だがそれにしたってここは小さい。
下手したら俺の住んでたアパート一部屋分しかないんじゃないか?
支部という割にはあまりにも規模が小さすぎないかと首をひねっているとセウユは少し古い扉に一回強く叩いた後に続けて三回ノックをした。
数秒後、中から声がかかる。
「飴は?」
「(幼女の)ご褒美」
「鞭は?」
「(我々の)ご褒美」
「よし入れ」
「うむ」
「ちょっと待て」
空いた扉に進むセウユの肩をむんずとつかんで引きとめる。
「今のはなんだ?」
「む? おお、合言葉だ。我らの存在を妬む輩達にある支部が捕まって以来このように合言葉をおいているのだ。同志サトーも使うであろうからしっかり覚えておくようにな」
誰が使うか。妬むって誰が。あと同志言うな。
しょっぱなから入るのが嫌になったがオリシュの日記は気になる。
…仕方ない、我慢しよう。
扉の内側にいた顔に傷のある強面の男性(この人も言うに及ばずロリコンなんだよな)に会釈をしつつセウユを追うと何故か部屋の方ではなく床板を持ち上げている。
驚いたことに一軒家だと思った場所はただの入り口でしかなく隠し階段の下の地下が本拠地なのだそうだ。
数十段はあった階段を降りると予想以上の広さの廊下が長く続いていた。明かりは太陽苔を使っているらしく蝋燭の明かりよりもはっきりと先まで見える。
廊下の両側にはいくつもの扉が取付けられていてその間を埋めるように非常によく出来た人物画が描かれてあり、まるで高尚な博物館に来たような錯覚を覚えた。
ただ、描かれている人物画は全て幼女だった時点でそんな錯覚は消え去ったが。
これほどの規模となると作るのは相当大変だったはず。
「この地下はどう作ったんだ?」
「うむ。過去、オリシュ様が伝えた技術の一つと言われている」
ある意味予想通りの返答に思わず唸る。
やはりオリ主は俺と違いオリ主らしい力を持っていたようだ。うらやましい。
ただその方向性がロリコンのためというのはどうなんだろう。
「ではここで待っててくれたまえ。初代の写本を取って来るのでな」
そう言って待たされた部屋には椅子が数台あったので取りあえず座っておく。
部屋の造りも良く出来ており地下のため窓は無くその代わりに部屋の四方にまた別の扉がついている。
恐らく上から見れば真ん中に廊下の線がありその両側に升目状の部屋が多く広がってるんだろう。
そんな風に想像しながらもセウユがオリシュの写本を持ってくるのを待つ。
オリシュか…。オリシュというのが転生者なのか憑依なのかはたまたトリップなのかは分からないが日本人である事は間違いないだろう。
しかしそんな人物が如何してこんなロリコン同盟など作ったのかが不思議でしょうがない。
ここまで立派な地下室を造る技術があったんだ。それこそ大金持ちの商人になっててもおかしくないのに何故?
何かロリコンになってしまうきっかけでもあったんだろうか?
一人で悩んでいたがすぐに思考を放棄する。
今考えたところで情報が足りなすぎる。セウユが持ってくる本を読んでから考えるとしよう。
そう結論づけて一息つくと何やら話し声が耳に届く。
なんだ?と思って注意を払うとどうやら隣の部屋に誰かいるようだった。
ここにいる限りはやはりロリコンなのだろうが、そう言えばセウユにこのロリコン同盟が何をしているのかを全く聞いていなかったなと思い至る。
興味本位からそおっと部屋に近づいて少し扉を開けて中を覗きこんでみると
「さて次の議題は『幼女と一緒に遊ぶためにはどうするか』です。皆さんどうぞ自由に意見を出して下さい」
「やはり一緒に遊ぼうと言うのが一番手っ取り早いのでは」
「以前それをやった時は何故か怯えられてしまったぞ?」
「あああの時か。なんで駄目だったんだろう? やはりいきなり話しかけたのがいけなかったのかな?」
「まあ涙目になった幼女もそれはそれで興奮したが」
「二日は眠れなかったな」
「馬鹿だな。俺達が幼女に自分から話しかけたら息が荒くなってまともに話しかけられんにきまっているだろう」
「その通りだ。そんなの興奮して自分を抑えられんに決まっている」
「確かに。そう言えばあの時はちょっと目が血走ってたかもしれん」
「そうか。つまりちゃんと遊ぼうという意図が伝わらなかったのか」
「そもそもこちらから話しかけるのが間違っている。諸君は見知らぬ男性に話しかけられて平然と遊べる幼女を放っておけるか?」
「そんな! もしその男が危険人物だったならどうする!?」
「そうだ。そのような幼女がいるとしたら我々がすぐに保護して危ない人が話しかけてもついていかないように教えて上げねばなるまい」
「うむ。それについては今度の議会で話し合おう」
「だがそれでは私達は永遠に幼女達と遊ぶことは出来ないのでは?」
「逆に考えるんだ。こちらから幼女に遊ぼうと言うのではなく幼女から遊ぼうと言ってもらえばよいのだ」
「「「それだ!」」」
「『おじちゃん一緒にあそぼ?』とボールを持ちながら話しかけてくる幼女…」
「『あそんでよぅお兄ちゃん』と少しさみしげに言い袖を引っ張る幼女…」
「『じいじ何して遊ぶ?』と首を傾げる幼女…」
「良い」
「実に良い」
「う、すまん。そこの布を取ってくれ。鼻血が」
「だが問題はどうやって幼女に話しかけてもらう?」
「すぐ傍で我々だけで遊ぶか?」
「俺達の遊びと言えばやはり幼女カードか」
「幼女ウォッチングは遊びに含まれるのか?」
「落ちつけ。幼女に喜んでもらわなければ意味はない」
「遊ぶ前にまずは幼女と仲良くなるところから始めよう」
「ならばお菓子でもあげるか」
「それは先ほどの議題に戻ってしまうぞ?」
「では地面に一つずつ列のように置いて遊び場へ誘導するか」
「お菓子に目がない幼女が一つ一つ拾っていくようにするのだな」
「そしてたどり着いた最終地点に我々がいるわけだな」
「来てくれたら全員満面の笑みでお出迎えするとしよう」
「そこで幼女達とのふれあいの場を作れば万事解決だ」
「ふれあいと言っても初対面の幼女には指一本手を触れるべきではないな」
「そうだな。その場ではただ楽しんでもらい仲良くなろう」
「より楽しんでもらえるようパーティの準備もしておこう」
「遊び道具も置いておこう」
「可愛い服も用意しておこう」
「猫耳尻尾肉球手袋も用意しよう」
「疲れたらいつでもお昼寝出来るようにベットも用意しておこう」
「すぐに眠れるように絵本も用意しよう」
「ならば私は安らかに眠れるように歌を歌おう」
「寝たらその寝顔を皆で眺めよう」
「記録に残すために絵にも描いておこう」
「しばらくして起きた寝ぼけ眼な幼女におはようカワイコちゃん、と言ってあげよう」
「帰るときには我々の名前と顔の絵が書いてある名簿を渡してあげよう」
「そうして顔を覚えてもらえたら次からは一緒に遊ぼう」
「残った使用済みベットは競りにかけよう」
「手に入れたら幼女のにほいクンカクンカしよう」
「間違っても欲望に任せてそのベットで寝るなよ。幼女のにほいが消えてしまう」
「バカ。んなこと言われなくても皆分かってるよ」
「ふむ。イイ感じでまとまってきたな。ではどんなお菓子を使うか?」
「どうせお菓子を使うなら砂糖菓子にしよう。幼女は甘いものが好きだ」
「僕も好きだ」
「むしろ甘い香りのする幼女が好きだ」
「というか幼女が好きだ」
「俺の方が好きだ」
「いや私の方が」
「こらこら。誰が一番幼女を愛しているかは今度のロリコンナンバーワン大会で決めなさい」
「俺としては手に粉などがついてしまうお菓子がいいと思われる」
「ほう、何故だ?」
「考えてもみろ。手に着いた粉を幼女はどうすると思う? それがベタベタするような粉でしかも甘い味がするとしたら」
「ま、まさか…」
「そう。…………指チュパだ」
「「「ふおおおお!!」」」
「君は天才か?」
「ふん、若造の癖にやるじゃないか」
「う、すまん。ちょっとトイレに」
突っ込みが足りない!!
なに今の? 全員ボケ? ボケなの? 馬鹿なの? 死ぬの?
「待たせたな同志サトー。む? そっちの部屋は今会議中だから邪魔をしてはいかんぞ」
「いやなんだこれ!? 会議って幼女について話してるだけじゃん!」
「…ふむ。会議に興味があるのなら毎日やっているから今度参加してみるといい」
「こんな馬鹿馬鹿しい会議を毎日やってんのか!?」
変態のバイタリティに驚きを隠せなかった異世界人佐藤秀一である。
取りあえず中の奴らの分までセウユに突っ込みをしておいた。
突っ込みが一通り終わって息切れが収まった頃、
「さて、これが初代会長、オリシュ様の書いたと言われる日誌、の写本だ」
そう言って差し出された本は随分と分厚くかなりの重量があった。
表紙には写本故か少し崩れているがそれでもしっかりと日本語で文字が書かれている。
「ちょっと聞きたいんだけどオリシュの容姿はどんなんだったんだ?」
「む? 金髪に切れ長の紅い眼と青い眼の美形だったらしいぞ」
わぉ、オッドアイですか。これでトリップの可能性は消えたな。
「もしこれを読める者がいたらこの本を譲れというのが初代の遺言だったそうだ。
故にこうして読む事も出来ぬ写本を用意し、新たに入会するロリコンに読ませ確認を取っている。
さあ同志サトーも確かめてみるがいい」
何か今の言い方だと俺がまるで入会したような風に聞こえるんだが気の所為だよな?
視線で問うてみるがセウユは早く読んでみろと促すばかりだ。
まあ、当初の目的はこれを読む事だったから気にしないことにしよう。
出来ればさっさとここから立ち去りたいし、読めればこの本がもらえると言うならほぼ確実に俺はこれを読める。
ならじっくり読むのは後にしてまずは最初の方だけ読んでみよう。
そう結論づけて丁寧に作られた表紙をめくって日記の1ページ目に目を通す。
≪火の月 水の第3日
今日から日記をつけようと想う。念のため誰かに日記を見られてもいいように日本語で書く。
さて自分の日記にこんなこと書くのはおかしいかもしれないが忘れては困るので詳細に述べよう。
俺がこの世界に疑問を抱いたのは俺が俺が三つになった時だ。
事故で死んだ俺が神様を名乗る老人に転生させてやると言われてヒャッホウとなったのはいいが問題はこの世界は俺の全く知らない世界だったと言うことだった。
最初の頃は中世風だし魔法とかもあったからゼ○の使い魔とかドラ○エとかかと思ってたけどどうも違うっぽい。
もしかしたら俺の知らない作品なのかもしれないけど魔王もいないんじゃ無双もする意味がない。
けど別にそれはいい。元々俺はそんなことを望んでいた訳じゃない。
…いや、もしそうだったならやってたかもしんないけど今は置いておく。
それよりも俺にはやりたいことがある。元の世界ではついに敵わなかった俺の夢。
友人には馬鹿にされ姉には軽蔑され警察には手配された。だがこの世界なら、この世界ならきっと俺の夢を叶えることが出来る。
そのためにもこの日記に元の世界で俺が手に入れた知識を書き置きしておいて忘れないようにしておく。
全ては俺の夢のため。
そのために俺は人生全てを費やしてもいい。
もしかしたら俺の代では出来ないかもしれない。その次でも駄目かもしれない。
だが俺は諦めない。このチャンスを無駄にはしない。
ロリコンのロリコンによるロリコンのための国を作る。
世間で蔑まれるロリコンが大手を振って歩ける国を。
誰も己の性癖を隠さなくてよい国を。
住民はロリコン関係者と幼女しかいない国を。
そう
ロリコン王に 俺はなる!
取りあえず今日は隣の家のローリエちゃん(4歳)と遊ぶとしよう≫
こいつバッカじゃねえの!?
あまりの馬鹿さ加減に声すら出ず顔に本を埋める形になる。
何かきっかけとか有ったんじゃないかとか思ったりしていたんだが前世からじゃどうしようもない。
よりによって前にいた先輩がこんな奴だったなんて。
いや、でも確かに後の方には俺でも使えそうなことがたくさん書いてある。
このオリ主がどのくらいこの知識を使ったかは知らないけどこれをもらえれば少しはここでの生活も楽になるかもしれない。
先に生きた者の意見も気にはなるし。途中途中に入ってるロリコン云々を抜いても十分役に立ちそうな本だ。
「む、随分しっかりと眺めているな、まさか読めているのか同志サトー?」
長く見続けていたためかセウユが少し驚いたように話しかけてくる。丁度いい。この写本を読めると伝えてさっさともらうとしよう。
「実はそ「オリシュ様は言われた『もしこの本が読める者が現れたらその者は俺と同類だ。譲ってやるといい』と。
これすなわちロリコンを救いへと導く救性主に違いない。まさかお主がそうなのか同志サトー?
ならば今すぐ空いたままのロリコン同盟会長の座につき全てのロリコンのために戦おうではないか!」んな事は残念ながら全くないから悪いな」
そうか、と肩を落としてがっくりきているセウユに本を返しつつ安堵のため息をつく。
あとちょっとタイミングが悪かったらとんでもないことになってた。
あの本は欲しいけどそのために人として大切な何かを捨てるわけにはいかない。
本が手に入らない代わりにまともな生活>本が手に入る代わりにロリコンのリーダーになる、だ。
何度も言うが俺はロリコンではないのだ。
ていうか同類ってそういう意味じゃなくて異世界云々だろう。
…そういう意味だったら嫌だなあ。
「あ、ところでもうひとつだけ聞きたいんだが」
「…まだ救性主は現れんのか…む? 何だ?」
「前半は俺には聞こえてないからな。字が違うとかどうでもいいからな。ロリコンの正式名称ってなんだ?」
「む? 『ローリエコンプレックス』略してロリコンだ。
オリシュ様の幼馴染みでオリシュ様が最初に興奮したロリだ。
幼女をロリ、幼女愛好家をロリコンと呼ぶように定めたのもオリシュ様だ。それまで確固たる呼び方のなかったその時代には画期的だったらしい」
「このオリ主ホント何やってんだよ!?」
「因みにそのローリエだが成人しても見た目は幼女そのもので、その後オリシュ様の妻となったらしい。その時オリシュ様は『合法ロリキター!』と叫んだそうだ」
「それでいいのかこの世界!?」
あと何気に幼馴染と結婚してるってのがむかつく!
変態なのに!
ロリコンなのに!
ある意味シオ以上にリア充爆発しろ、と思った俺は負け組なんだろうか。
「つ、疲れた」
セウユにいつでも来いと言われたが二度と行かない事を決意しつつ帰路に着く。
ここは東南区だから早く西の方までいかないと。
重たい足どりでまずは来た通り中央区を目指す。
それにしても散々な一日だった。
せっかくの休日なのに何か突っ込んでばっかだった気がする。
今日はもう何も突っ込みたくないなぁ。
とぼとぼとだんだん良く知る中央区に戻ってくるとふと道の真ん中に座りこんでいる少女が見える。
アレは…スーちゃんじゃないか!
よし、変態どもで疲れた心をスーちゃんとの交流で癒してもらおう。
我ながらさっきまでの疲れは何処へ行ったのかスーちゃんの傍まであっという間に走ると出来るだけ驚かせないように優しく声をかける。
「やっほ、スーちゃん。こんな所でどうしたの?」
声をかけられた事にちょっと驚いたのか地面に向けていた顔を上げるが、声の主が俺だと分かるとにぱっと花が咲くように笑ってくれた。
その笑顔は先ほどまでの出来事で荒んでいた俺の心にしみわたる。
ああ、これだけで癒される…
「ん!」
元気よく返事をするとスーちゃんは、びっ、と地面を指差した。
何だろ? 蟻でも見てたのかな?
そう微笑ましく思いながら指先をたどると、
そこにはお皿の上に乗った触ると粉が指に付きそうな砂糖菓子が………
「ホントに実行してんじゃねえよ!」
「ん!?」
勢いよく蹴り飛ばす。
見事に決まったシュートにより皿とお菓子は宙を舞う。
突然の俺の奇行に目を丸くするスーちゃんだがそれには答えず辺りを見渡す。
すると良く見るとぽつぽつ、と一定の間隔で置かれたお菓子が何処かへと続いていた。
「ああもう! 行動力高すぎだろ!」
会議してたのついさっきじゃんか!
もう今日は突っ込みはしなくてもいいと思ってたのに最後の最後までボケをかましやがって!
「ん?」
何を言ってるのか理解していないスーちゃんに気にしなくていいからと家に帰るように伝える。
しばし首をかしげていたが「ん!」と手を振りながらててて、と駆けて行った。
自分ルールなのか時々影を踏まないようにぴょんぴょんしている姿は愛らしいが少々不安は残る。
まさかとは思うけどアレ、俺が気づかなかったらスーちゃんお菓子食べてたりしないよね?
……いやいやスーちゃんがそんなことする訳がない。
首を振って思考を破棄する。今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「さてと」
大通りに出た後、辺りを見渡して目的の人物を探す。
幸いその人物はすぐに見つかった。
「すいませーん」
駆け寄ったのは長い棒を携えて歩いていた自警団の人達。
目的?決まってんでしょ。
「変態が集まっている場所があります」
通報しました。
後日、自警団の人達がロリコン同盟の支部に向かったらしいが何故か入り口すら発見出来なかったらしい。
そして虚偽の情報を流すんじゃないと俺が要チェックされた。
おかしい、と俺がもう一度行くとちゃんと発見出来た。
……あれぇ?
あとがき
ローリエというのは月桂樹の葉を乾燥させた香辛料の事です。ベイ・リーフとも言います。
実際のロリとはなんの関係もないのでご安心を